イギリスのジャズ・ミュージシャン「Neil Ardley」。 60 年代中盤からビッグ・バンド「NEW JAZZ ORCHESTRA」を率いた作品を発表するキーボード・プレイヤー兼アレンジャー兼作曲家。 70 年代の作品はプログレッシヴなジャズロック。 2004 年 2 月逝去。
Neil Ardley | director | Ian Carr | trumpet, flugelhorn |
Don Rendell | tenor & soprano sax, alto flute | B.Thompson | flute, alto & soprano sax |
K.Jenkins | oboe, soprano & baritone sax | M.Gibbs | trombone |
F.Ricotti | vibe, marimba, percussion | J.Clyne | bass |
J.Bruce | bass | N.Whitehead | bass |
B.Smith | tenor & soprano sax | Chris Spedding | guitar |
S.Robinson | tenor sax, flute | T.Tomkins | drums |
J.Marshall | drums | Strings section |
70 年発表のアルバム「Greek Variations」。
ニール・アードレイ、イアン・カー、ドン・レンデルの連名による作品。
基本はリリカルなモダン・ジャズ・アルバムながら、エキゾティックなタイトル大作は、完全にプログレ・ファン向け。
モダン・ジャズに、弦楽セクションを擁したクラシカルなトーンと独特の謎めいたムードを加味しており、ヨーロピアンな音と中近東/アフリカンな音が交差する辺りは、まさにタイトル通りといえるだろう。
異国情趣たっぷりのテーマを巡り、金管による明快にして躍動感あふれるソロが配置され、ストリングスによる緊張感と木管、フルートらによる繊細な歌と打楽器によるグルーヴが、みごとな均衡を見せ、映画音楽的な豊かなイメージを描き出している。
モダン・ジャズらしいスリル、官能性とクラシカルで端正な構築美がひとつにまとまって、新しい世界の扉が開いている。
メンバーは英国ジャズロック陣勢ぞろいというべきもの。
カラフルなアンサンブルに加えて、リコティ、ジェンキンズらによる大胆で個性的なアクセント、カーの密やかな幻想性(NUCLEUS でも使うモチーフがあるような)、ドン・レンデル、バーバラ・トンプソンのつややかなロマンチシズムなど、プレイヤーごとの見せ場も充実している。
プロデュースはデニス・プレストン。
「The Greek Variations」(23:49)
「Santorin」
「Omonia」
「Delphi」
「Kerkyra」
「Meteora」
「Kriti」
「Wine Dark Lullaby 」(5:05)
「Orpheus」(1:54)
「Persephone's Jive」(3:30)
「Farewell Penelope」(2:40)
「Odysseus, King Of Ithaca」(4:17)
「Sirens' Song」(3:59)
「Veil Of Ino」(2:22)
(SCX 6414 / 986 689 9)
Neil Ardley | director, piano, prepared piano | ||||
Chris Laurence | bass | Jeff Clyne | bass | Jack Rothstein | conductor on 1-4 |
Charles Tunnell | cello | Francis Gabarro | cello | Jon Hiseman | drums |
Karl Jenkins | electric piano | Dave Gelly | glockenspiel | Alan Branscombe | harpsichord |
David Snell | harp | Sidonie Goossens | harp | Stan Tracey | piano, celesta |
Barbara Thompson | sax on 1 | Dave Gelly | sax on 3 | Dick Heckstall-Smith | sax on 1,5 |
Don Rendell | sax on 1 | Frank Ricotti | vibraphone on 3 | Derek Wadsworth | trombone on 5 |
Derek Wadsworth | trombone | Ray Premru | trombone | Dick Hart | tuba |
Derek Watkins | trumpet, flugelhorn | Harry Beckett | trumpet, flugelhorn | Henry Lowther | trumpet, flugelhorn |
Nigel Carter | trumpet, flugelhorn | Ken Essex | viola | Norma Winstone | vocals on 3-5 |
Erich Gruenberg | violin | Jack Rothstein | violin | Kelly Isaacs | violin |
Bunny Gould | bassoon | John Clementson | oboe |
71 年発表のアルバム「Symphony Of Amaranths」。
旧 A 面は、弦楽入りのジャズ・オーケストラ作品。クラシカルで端正なサウンドによるデューク・エリントン流のカラフルで豊麗なイメージの演奏である。
序盤と終局はエネルギッシュなビッグ・バンドがリードするが、中盤はクラシカルでファンタジックな演奏が主である。
アンサンブルは時に重層的なアドリヴによって構成されてスリリングな運動を繰り広げるが、一度弦楽の高雅な響きが交わると、ジャズの熱気やスイング感はその神秘的な響きでクール・ダウンされてゆく。
フリージャズと近代印象派の音がまとめ上げられて、映画音楽的な映像美を生み出すところもある。
ノスタルジックな響きもあるが、そのタッチは、「Harmony Of The Spheres」に直接つながるものだ。
ハープが現われるとドビュッシーの交響詩を思わせるところもあり。
パーカッションの多用など、早すぎたニューエイジ・ミュージックという趣もある。
旧 B 面は、イヴァ・カトラーの朗読、ノーマ・ウィンストンによる歌唱(詩は、イェーツやジョイス、ルイス・キャロルのもの)をフィーチュアした室内楽ジャズ・アンサンブル。
ヴァイブやキーボードを活用したスリリングにして透明感あるサウンドがいい。
プロデュースはデニス・プレストン。デューク・エリントンとギル・エヴァンスへの献辞がある。
「A Symphony Of Amaranths」(25:07)
「Carillon」(5:50)
「Nocturne」(7:19)
「Entracte」(6:06)
「Impromptu」(5:41)
「The Dong With A Luminous Nose」(11:51)
「Three Poems」(11:25)
「After Long Silence」(4:08)
「She Weeps Over Rahoon」(3:21)
「Will You Walk A Little Faster?」(3:44)
「National Anthem & Tango」(1:40)ボーナス・トラック。国歌のアレンジ。
(SLRZ 1028 / DUSKCD 107)
Neil Ardley | director, synthesizer | John Martyn | electric piano on 6,7 |
Ken Shaw | guitar | Bob Bertles | alto & soprano sax, flute |
Paul Buckmaster | electric & acoustic cello | Brian Smith | tenor & soprano sax, flute, alto flute |
Geoff Castle | electric piano, synthesizer | Trevor Tomkins | percussion, vibe |
Roger Sutton | bass | Barbara Thompson | flute, alto & soprano sax |
Tony Coe | tenor sax, bass clarinet | Ian Carr | trumpet, flugelhorn |
Dave Macrae | electric piano, synthesizer | Roger Seller | drums |
Stan Sultzman | flute, alto & soprano sax on 2 |
76 年発表のアルバム「Kaleidoscope Of Rainbows」。
内容は、ジャズ・オーケストラによる ARP シンセサイザーのさえずりも鮮やかなエレクトリック・ジャズロック。(エレクトリックといいつつ、全体的な音の質感はきわめてアコースティック)
七部から構成されるトータル・アルバムであり、各パートでソリストを大きくフィーチュアする。
ファンタジックなシンセサイザー、シュアーで鋭角的なビート、ラウンジ風のリラックスしたテーマ、抽象的なモザイクのようにポリフォニックに重なり合うアンサンブル、ひんやりとした手ざわりのエレクトリック・サウンドなどが特徴だ。
全体に硬質でクールな独特のタッチの音であり、ビッグ・バンド・ジャズの進化系の一つということもできるだろう。
編成はモダン・ジャズ、作曲はクラシックというオーソドキシーながら、サウンドとアレンジだけが 20 年先へ一足飛びに進んでしまったようなイメージがあり、いわば、決して訪れることのないレトロ・フューチャーのような趣がある。
中期 NUCLEUS のメンバーの他、英国ジャズ・ミュージシャンが大挙して参加。
ポール・バックマスターは、プロデュースも手がけている。
バックマスターは「Rainbow Three」で超絶的なソロも披露する。
本作品がイけた方は、マイク・ギブス(Mike Gibbs)のジャズ・オーケストラ作品、特に 75 年の「The Only Chrome-Waterfall Orchestra」辺りはお薦め。
「Prologue / Rainbow One」(10:26)スペイシーなシンセサイザー・サウンドとスクエアなビートによる序章。ヴァイブとシンセサイザーのコンビネーションが絶妙のラウンジ風味を醸し出す。多くの楽器がそれぞれのラインを走りだし、一種のカノンのような形になっている。
ソロでは、イアン・カー、ブライアン・スミスの NUCLEUS コンビをフィーチュア。もっとも、この二管のみがモダン・ジャズの音で、他の音はシンセサイザーを中心にきわめて SF 的である。
「Rainbow Two」(7:34)フルート、チェロ、ソプラノらによる叙情的なアンサンブル。密やかな美感とリリシズムを湛えた名品である。デイヴ・マックレエ、ジェフ・キャッスルのエレクトリック・ピアノ・ソロをフィーチュア。
「Rainbow Three」(3:28)ファンキーなリズムでギターとチェロが跳ねる。エレクトリック・チェロの超絶ソロあり。
「Rainbow Four」(6:15)トランペット、サックスらによる優美で哀しげなアンサンブルに導かれる、バーバラ・トンプソンによる嗚咽のような哀愁あふれるソプラノ・サックス・ソロをフィーチュア。
美しい作品です。
「Rainbow Five」(4:25)ややアフロなビートの上、うっすらとした色合いの管楽器アンサンブルがとうとうと流れる。トニー・コーのあまりに軽やかなクラリネット・ソロをフィーチュア。バッキングもタイトで、非常にカッコいいジャズロックになっている。
「Rainbow Six」(7:39)
「Rainbow Seven / Epilogue」(14:56)
(GULP 1018 / DUSKCD 101)
Neil Ardley | ARP Odyssey, OMNI synthesizer | John Martyn | electric rhythm & lead guitar |
Billy Kristian | bass | Geoff Castle | electric & acoustic piano, Minimoog |
Richard Burgess | drum, percussion | Trevor Tomkins | percussion |
Barbara Thompson | flute, soprano sax | Tony Coe | clarinet, soprano sax |
Ian Carr | trumpet, flugelhorn | Pepi Lemer | voices |
Norma Winstone | voices |
78 年発表のアルバム「Harmony Of The Spheres」。
星々の出す音によるハーモニーで宇宙は満ちているというギリシャ伝説に着想し、太陽系の惑星の公転周期を音程にみたて、架空の「星の音楽」として作曲された作品である。
水星から冥王星までの公転周期を、高音から低音までの音程に変換してわりふると、不思議なことに可聴域にちょうどおさまるという。
そして、この広い音域をカバーするための楽器としてシンセサイザーを採用し、神秘的なサウンドを創り上げた。
本作は、70 年代中盤から盛んになったいわゆる「フュージョン」・サウンドの一型として捉えることもできる。
しかし、透明感ある音色のシンセサイザーを中心に構築されたメロディアスな世界は、タッチが素朴であり、いわゆるフュージョンとはやや趣が異なる。
また、いかにもビッグ・バンド・ジャズ出身らしく、音色と旋律を丁寧に配したアンサンブルには、クラシカルな端正さがある。
後に「ニュー・エイジ」なる名称で盛んになるシンセサイザー・ミュージックとも、演奏の躍動感の生み出すスリルという点で、やはり一線を画す。
これはおそらく、なめらかな肌触りの音にもかかわらず、少年の眼差しのような純粋で誇り高い気持ちが感じられるせいだろう。
または、マイク・オールドフィールド辺りの影響も、あるのかもしれない。
余談だが、本作のように特定の時代のサウンドに強く依拠した内容の作品でも、何年か毎に、繰り返し新奇なものとしてもてはやされる。
常に過去を振り返りつつ堂々巡りをして進む、という音楽産業の特性を物語っているようで、とても興味深い。
さて、アードレイの試みに賛同して集まったゲストも、すばらしい顔ぶれである。
フォーク界の重鎮ジョン・マーティンから、イアン・カー、トレヴァー・トムキンス、トニー・コー、ノーマ・ウィンストンまで、ブリティッシュ・ジャズロックの重要ミュージシャンが顔を揃えている。ジャケットの九つの輝きは、水星から冥王星までの惑星を表しているのだろう。
「Upstarts All」(3:37)星の泣き声のようなアタックのない電子音がたゆとう。
パーカッションに導かれたシンセサイザーの柔らかなささやきが、管楽器アンサンブルへと鮮やかに変化してゆく。
スペイシーなシンセサイザーとともに層を成す、管楽器の響き。
ストレートな管楽器のテーマとふわふわと舞うシンセサイザーが、いい感じで絡み合う。
続いてベースとギターが登場。
しなやかなギター・ソロとワイルドにうねるベースのデュオが、続いてゆく。
ギターのコード・カッティングも聴こえる。
フェード・アウト。
夢見るようなふわーっとした音が、ヘヴィな流れへとまとまってゆくオープニング・チューン。
「Leap In The Dark」(6:00)
シャープなベース・リフが生み出すビートに乗ってフルートとシンセサイザーが流れるオープニング。
和音が聴こえるのは、モノ・シンセサイザーを重ねて録音したのだろうか。
ベースの強烈な響きが、繊細なうわものを運んでゆく。
ベースによる派手なリフから、ソプラノ・サックスのゆったりしたデュエットへと展開する。
ここでもベースが唸りを上げている。
シンセサイザーが、粒子が広がってゆくようなスペイシーな音色で、アクセントをつけている。
続いて二つのシンセサイザーのメロディが絡み合うアンサンブルへ。
サックス・デュオの音色だけが変化したようでおもしろい。
ベースは少しエフェクトされた音で跳ね回る。
せわしないリフレインと優美でしなやかなメロディ。
一貫してベースが高音でリフを刻む、スペイシーな広がりの中にライトなファンク感覚が感じられるジャズロック。
サックスとシンセサイザーの音比べ。
「Glittering Circles」(6:28)
深宇宙をイメージさせるシンセサイザーの電子音が幾重にもこだまし、ベースが空隙に孔を穿つように轟く。
ハイハットが静かに刻まれシンバルがざわめき、ベースの鼓動が続く。
気まぐれなフルートのようなシンセサイザーの断片の舞いが、メロディ・ラインにまとまってゆく。
規則的なリズムも動き出し、ベースは硬い音色でオブリガート風のリフを刻む。
しなやかに歌い始めるファズ・ギターにさまざまな音がまとわりついてゆき、その交錯がアンサンブルになってゆく。
いつのまにかシンセサイザー・リフとベースが呼応し始め、ユニゾンへ発展し、演奏は力強く訴えかけるように前進する。
舞うようなフルート・シンセサイザーとベースの華麗な高音プレイを経て、ギターが出現。
ベース、ギター、シンセサイザーの旋律が交錯し、リタルダンド、終り。
ミニマルでサイケデリックなインストゥルメンタル。
ベースのビートに支えられた、幻惑的なポリフォニック・アンサンブルである。
「Fair Mirage」(7:26)
シンセサイザーの電子音によるモチーフが呼び合うファンタジックなイントロダクション。
堅調なリズムとともにベースが高音でテーマを提示、それにエレピとフルートが応じるというパターンができ上がる。
オブリガートには、ソプラノ・サックスの柔らかな音や、密やかなギターのささやきもある。
透き通るようなシンセサイザーのバック・グラウンドに、星の脈動のようにアンサンブルが進み続ける。
堅調なアンサンブルに女性スキャットが加わると浮き上がって漂ってゆくような効果も生まれる。
タイトなリズムとシンプルながらも劇的なテーマで宇宙幻想のイメージを描くインストゥルメンタル。
スキャットは RETURN TO FOREVER を思わせるが、こちらはジャズらしい官能的なグルーヴよりも、反復と明快なテーマによって構築された世界の整合感の生む美感を求めている。
ロマンティックなテーマが印象的なクロスオーヴァーの名曲だ。
「Soft Stillness And The Night」(7:27)多重録音されたシンセサイザーが描く宇宙の神秘。
トランス系のサウンドとはやや趣を異にし、クラシカルで端正なキーボード・オーケストレーションが、融通無碍な自由さの中にも秩序を感じさせる。
アードレイがすべての演奏を行っている。キーボードのみのインストゥルメンタル。
「Headstrong, Headlong」(7:11)
軽快なドラム・ビートとピアノによるグルーヴ、そしてフルートによるソフトなテーマ演奏。
ベースはここでも高音を強調してタメの効いたスラップで目立ちたがる。それに対してリズム・ギターは控えめながらも堅実に刻む。
フルートとソプラノ・サックスによるアグレッシヴなアドリヴ、そしてメロディアスなテーマの再現。
次は、イアン・カーのトランペットだろうか。ミュートしながら偏屈なソロを打ち出すと、神経質なギターが応じてゆく。
そのままギター・ソロへ。一閃するピアノ、ギターもまた内向的である。
管楽器群、シンセサイザー?のユニゾン、ハーモニーによるテーマの再現から、再びギターを大きくフィーチュア。
今度はワウワウを軽くかけたなかなかアグレッシヴなソロだ。
ライトなファンク感覚と上品なラウンジ・ジャズをあわせたジャズロック。
リズムとワウを使ったリードの両方に活躍するマーティンのギター、リズムを刻むキャスルのピアノがすばらしい。
豪奢でユーモアを感じさせる古典的内容であり、カンタベリー派にも通じる作風である。
「Towards Tranquility」(8:45)
フェード・インするリズミカルなシンセサイザー、マリンバ、ギターらのリフレインをバックに、スキャットとトランペットによる幻想的でミステリアスなテーマが悠然と奏でられる。
小刻みなドラミングはさざ波であり、エフェクトではち切れそうなフレットレス・ベースはゆったりと揺らぐ大波である。
干渉しあう波は軽やかなビートと進行感を生み、緩やかなテーマを溌剌とさせるエネルギーを注ぎ込む。
瞑想から覚醒へ、しかしそのまなざしはやさしげでデリケートである。
ベースのパターンがパワーアップするとともに、ワウギターによるジャジーなソロが始まる。
初期の WEATHER REPORT をさらに女性的に繊細にしたようなイメージだ。
ドラムスも果敢に攻め込む。
ストリングス系シンセサイザーの透明なハーモニーが湧き上がり、エネルギッシュなリズム・セクションと好コントラストをなす。
この上品で幼子の夢のように純粋な世界観はきわめて独特だ。
減衰せずに無限にサステインするシンセサイザーの透明感ある音色には、ホーンに通じるニュアンスもある。
最後は、再び、ギターによる小気味のいいプレイが繰り返され、ベースも挑戦的に応じてゆく。
この辺りは、フランスのジャン・ピエール・アラルサンの作品を思わせる展開だ。
そして、序章のシンセサイザーの反復を再現し、静かに消えてゆく。
透き通るような幻想世界から、タイトに躍動する演奏へとナチュラルな流れで進む傑作だ。
メカニカルなビート感とスペイシーなシンセサイザー・サウンドによる、アブストラクトな美しさのあるジャズロック。
管楽器やギターはこの抽象画へのヒューリスティックなアクセントとして機能する。ざらつく電子の音の角を落とす役割だ。
ドラマティックな変転もあり、本作品を象徴する内容である。
満天の星の中を突っ切って飛ぶような、神秘的な躍動感のある作品。
ベースを強調した独特のリズム・セクションが創る浮遊感あるビートは、新星の脈動かはたまた生命の象徴か、サイケデリック・ロックの再来か。
シンセサイザーとブラスの生み出すカラフルな冷ややかさは、宇宙の深淵にこだまする星たちのささやきが集まってできた不思議なサウンドの手ざわりに違いない。
素朴でファンタジックであり、ジャズロックともフュージョンともくくれない、ユニークな美しさと神秘がある。
そして、ここで感じられるクールネスと格調こそは、ジャズやクラシックを基盤にロックのもつサイケデリックな感覚から生まれたものであり、ニュー・エイジ・ミュージックの瞑想的世界への橋渡しになったのではないだろうか。
アナログ・シンセサイザーのファンにはお薦め。
レトロ・フューチャーな未来世界のラウンジ・ミュージックですね。
(POCJ-2838)
Neil Ardley | keyboards, Zyklus MPS |
Ian Carr | trumpet, flugelhorn |
James L Walters | keyboards, Zyklus MPS |
Warren Greveson | guitar, drum pad, Zyklus MPS |
91 年発表のアルバム「Virtual Realities」。
ジョン・L・ウォルターズ、イアン・カーらとのユニット、ZYKLUS 名義の作品である。
管楽器と一部ギター、打楽器を除いて「Zyklus MPS」なる MIDI パフォーマンス・システムを大幅に取り入れた音作りが特徴である。
全体の音の感触は、ジャジーなアコースティックなアンサンブルのニュアンスにあふれるエレクトロ・ミュージック。
シーケンスではなく人力のプレイのニュアンスを合成音で表現している(これは MIDI の理想的な使用例だ)こと、イアン・カーの管楽器のポジションが絶妙であることなどから、いわゆるシンセサイザー・ミュージックではない、未来風ジャズ・オーケストラになっている。
名アレンジャーであれば、要素としての音が電子的に発せられたものであっても、それらをまとめて印象的なオーケストラを作り上げられるのだろう。
アードレイは、Kaleidoscope Of Rainbows のメイン・テーマに本システムを適用した作品を提供している。
モダン・ジャズのスタンダードのアレンジもあるので、本手法の適用可能性を探る実験的な作品というとらえ方が正しいだろう。
他に例のない、無機的なようで温かみもある不思議なイージー・リスニングである。
(AMPCD-017)