イギリスの作曲家「Mike Gibbs」。 37 年南アフリカ出身。60 年代のジャズ作品に始まり 70 年代英国ビッグ・バンド・ジャズロックの秀作を手がける。渡米後、教授、フュージョン・シーンのアレンジャーとしても活躍。
John Wibraham | piccolo trumpet | Derek Watkins | trumpet, flugelhorn | Ken Wheeler | trumpet, flugelhorn |
Henry Lowther | trumpet, flugelhorn | Nigel Carter | trumpet, flugelhorn | Ian Hamer | trumpet, flugelhorn |
Maurice Miller | trumpet, flugelhorn | Alan Civil | french horn | Valeire Smith | french horn |
Nicolas Busch | french horn | Jim Buck Jr. | french horn | Cliff Hardie | trombone |
Chris Pyne | trombone | Bobby Lambe | trombone | David Horler | trombone |
Ray Premru | bass trombone | Ken Goldy | bass trombone | Maurice Gee | bass trombone |
John Surman | reeds | Alan Skidmore | reeds | Barbara Thompson | reeds |
Tony Roberts | reeds | Ray Warleigh | reeds | Duncan Lamont | reeds |
Mike Osborne | reeds | Dick Hart | tubas | Martin Fry | tubas |
Phil Lee | electric guitars | Ray Russell | electric guitars, bass | Chris Spedding | acoustic & electric guitars, bass |
Jack Bruce | bass | Brian Odges | bass | Frank Ricotti | percussion |
John Marshall | drums | Tony Oxley | drums | Fred Alexander | cello |
Alan Ford | cello | Mike Pyne | assorted keyboards | Bob Cornford | assorted keyboards |
70 年発表のアルバム「Michael Gibbs」。
内容は、個性的なビッグ・バンド・ジャズ。
特徴は、独特の響きをもつ和声を多用すること、現代音楽的な反復やポリリズミックな展開があること、ギターのフィーチュア度が高いこと、リード(サックス)奏者の強力なソロがあること、など。
基本的には、あまりフリーに過ぎず、キャッチーなテーマを基調に丹念にしかけを施して仕上げる作風である。
典型的なモダン・ジャズもパーツとして独特の文脈で活かされている感じだ。
一風変わったジャズに寄ったジャズロックである。
NUCLEUS のファンは試してみてください。
CD は最終曲の後にアウト・テイクのおまけつき。
「Family Joy, Oh Boy!」(8:50)パワフルなリード・セクション、スペディングのギターらを中心としたイケイケなジャズロック。
バッキングのヴァイブ(リコティ)、エレクトリック・ピアノもカッコいい。
その後、トランペット(ホィーラー)、テナー(スキッドモア)とソロがわたる。
ロックっぽさをビッグバンドで鮮やかに処理する手際に感服。
8 ビートが逞しい。
「Some Echoes, Some Shadows」(9:03)冒頭、チェロの調べがスリリングなジャズロックへと変貌するカッコよさ。
前半は、分厚い管楽器の大波とヘヴィなギター(ラッセル)、轟音ベース(ブルース、スペディング)によるワイルドなジャズロック、後半は、一転してフリューゲル・ホーン(ホィーラー)を主役に爽やかな展開へ。
「Liturgy / Feelings And Things」(8:29)2 曲のオムニバス。冒頭はエレクトリック・ピアノ、ヴァイブ、フルート、管楽器セクションらによるラウンジ風のアンサンブルであり、そのままの雰囲気で、前半は、サックス・アンサンブルを基本(ソプラノのオブリガートが美しい)にした明朗なトロンボーン(パイン)のソロと正統モダン・ジャズ調のギター(リー)のソロ。
そして、2 曲の間をつなぐのは美しいソロ・ピアノのブリッジ。
後半は、小曲ながらも色彩感あふれる、クラシカルな、といってもいいアンサンブル。
「Sweet Rain」(6:18)スタン・ゲッツも録音した佳作。やや大仰なモダン・ジャズ風ではあるが、ソプラノ(サーマン)、アルト(ウォーレイ)、テナー(スキッドモア)と続くサックス・ソロがカッコいい。
序盤のソプラノ・サックスとギターのデュオも美しい。
個人的には、スキッドモアのテナーに感動。
「Nowhere」(8:02)ビッグバンドによる即興のような前衛的作品。
ノイズのような奇妙な反復音はギターだろうか、パーカッションだろうか。
3 分過ぎ辺りからは、ドラムス(マーシャル)による即興が続き、それに合わせて管楽器セクションが爆発を繰り返す。
「Throb」(3:56)2 本のチェロとフルートをフィーチュアした小品。
穏やかなようでややユーモラスで幻惑的である。
スペディングはアコースティック・ギターのストロークからエレキギターによるリリカルなソロへと移る。
ゲーリー・バートンが取り上げた作品である。
「And On the Third Day」(10:08)BBC のジャズ番組のテーマ曲にもなった名曲。カラフルでキャッチーなのに、奇妙に捻れたイメージなのは和声のためだろうか。
各楽器の音をパッチワークのように大胆に重ね合わせる技が活きている。
ジャック・ブルースによるベース・ラインもジャズにはあり得ない感じだ。
(DERAM 844 907-2)
71 年発表のアルバム「Tanglewood 63」。
内容は、管弦セクションをフィーチュアしたファンタジックかつ前衛的なビッグ・バンド・ジャズロック。
前作よりもジャンルのクロス・オーヴァーは進展し(前作とは製作ニーズが異なるのだろう)、スウィング・ジャズ、フリー・ジャズ、フォーク、R&B、クラシック・アンサンブルによる印象派風の描写、グルーヴィなファンク調らが楽しげに一つのイージー・リスニング的な世界に収まっている。
ビッグ・バンドらしいブラス・セクションのスリリングなユニゾンもあるが、いわゆる「ジャズのビッグ・バンド」という言葉から連想される音よりもはるかに緩やかで長閑、そしてデリケートな色合いの感じられる作風である。
この貪欲で雑多で、それでもデリケートな世界はまさにプログレ的というべきだろう。
ドラムス含めリズム・セクションは、ジャズというよりはロックっぽいにもかかわらず、鋭さやパワーよりも和やかで閑雅な印象が強い。
一つにはブルージーな響きが抑えられているためだろう。
YELLOW SUBMARINE なジャケットから連想されるようなサイケデリックな毒気もさほどでない。
あたかも、ジャズを出発点にロックやクラシックを見据えて進むうちに結局ジャズからもロックからも遠ざかってしまい、それでも立ち寄る港を元気に、しかしのんびりと探し続けているようだ。
したがって、「キワモノ」ともいえるが、キワモノ独特のギラギラ感もまた潔いほどない。
ジャズ・ファンは「これのどこがいいのだ」といいそうだが、プログレ・ファンの慧眼はここの音がちらちらと発するきらめきを見逃さないと思う。
管楽器の洒脱なソロに加えて、フランク・リコティのヴァイブ、クリス・スペディングのサイケなコード・カッティングと大胆なスライドなどインパクトあるプレイも盛り込まれている。
また、メンバーが重なるためか、暖かな叙情味がヘンリー・ロウザーのソロ第一作と共通する。
このリリシズムはそのまま「The Only Chrome-Waterfall Orchestra」に引き継がれていると思う。
すべてをイージー・リスニングにしてしまうようなずるずるっとしたクロス・オーヴァー感覚は、ギブスの持ち味なのだろう。
ゲイリー・バートンの「Crystal Silence」につながってゆくものも確かにある。
フュージョン前夜の袋小路のような世界かもしれないが、その袋小路では永遠の宴が続いているようだ。
プロデュースはピーター・イーデン。
「Tanglewood 63」()
ファンタジックでハッピーなビッグ・バンド・ジャズの名曲。
フランク・リコティのヴァイヴ、ヘンリー・ローサーのトランペット、クリス・パインのトロンボーン、トニー・ロバーツのテナー・サックスの順でソロをフィーチュア。
「Fanfare」()スタン・サルツマンのソプラノ・サックスをフィーチュア。
「Sojourn」()
フレッド・アレクサンダーのチェロ、ジョン・サーマンのソプラノ・サックス、アラン・スキッドモアのテナー・サックスの順でソロをフィーチュア。ヴァイヴによるドビュッシー的点描。
「Canticle」()
カンタベリー大聖堂より委託された現代音楽作品。残響を念頭に入れて作曲したとのこと。(全編即興というわけではないらしい)
即興パートは、トニー・ロバーツのアルト・フルート、アラン・スキッドモアのアルト・フルートとソプラノ・サックス、ジョン・サーマンのソプラノ・サックス、ゴードン・ベックのエレクトリック・ピアノによる。
「Five For England」()
クリス・スペディングのリズム・ギターとリズム・セクションをフィーチュア。
ワウワウを使いコード・カッティングを主にしたギター・アドリヴが独創的。
ブラス・セクションのパワフルなアクセント、エレクトリック・ピアノのアドリヴもいい。基本はグルーヴィである。
(SML 1087 / DERAM 844 906-2)
Harry Beckett | flugelhorn, trumpet | Henry Lowther | flugelhorn, trumpet |
Ken Wheeler | flugelhorn, trumpet | Chris Pyne | trombone |
Malcolm Griffiths | tenor & bass trombone | Geoff Perkins | bass trombone |
Ray Warleigh | alto sax, flute, alto flute | Stan Sulzmann | alto sax, soprano sax, flute, piccolo |
Alan Skidmore | soprano sax, tenor sax, flute, alto flute | Dave MacRae | Fender Rhodes electric piano |
John Taylor | electric piano | Chris Spedding | guitar, electric sitar |
Roy Babbington | bass | John Marshall | drums |
Frank Ricotti | vibe, percussion |
72 年発表のアルバム「Just Ahead」。
THE MIKE GIBBS BAND 名義の作品。
内容は、カラフルなサウンドと深い叙情性が特徴のビッグ・バンド・ジャズロック。
60-70 年代歌謡曲のバック・バンドを思わせるポップな作品からフュージョン・タッチ、前衛ジャズから現代音楽調の神秘的な作品(プログレといっていい)までに通底するのは、親しみやすく気品もあるメロディへのこだわりだ。
トランペットのフィーチュア度の高さからくるのか、常にポジティヴで明るめ(緩めという人もいる)のブラスの響きが心地よいビッグ・バンドであり、キャッチーな上にジャズロック的なグルーヴもたっぷりの好盤だと思う。
管楽器のみならず、ギター(もちろんクリス・スペディング)、エレクトリック・ピアノ(デイヴ・マックレエとジョン・テイラー)も鮮やかな存在感をアピールする。
ギターは相変わらずのブルーズともロカビリーともつかぬ独特の味で「ジャズロック」という呼称の「ロック」の部分を大きく担う。
現代音楽担当カーラ・ブレイ、キース・ジャレット、ゲイリー・バートン(ギブスは後にバートンと共作)/スティーヴ・スワロウの作品あり。
LP 二枚組。 CD も二枚組。
ソロイストたちの冴えたプレイはもちろん、SOFT MACHINE 風味もあちこちに。
タイトル曲は、アグレッシヴなモダン・ジャズ系ジャズロック。スキッドモアが爆発。
プロデュースは、ギブスとアンディ・スティーヴンス。
「Grow Your Own」(8:11)キャッチーなテーマがうれしいイケイケでグルーヴィな好作品。
一歩間違えると品がなくなるところを、ドラマティックなアレンジで巧みにかわしている。
クリス・スペディングのがっちりとしていながら洒脱な妙味もあるギター・プレイをフィーチュア。
テイラーのエレピとリコティのヴァイブのコンビネーションも冴え、親しみやすくも精緻なアンサンブルを成す。
キース・ジャレット作。
「Three」(5:55)サックスとベース、ヴァイヴ、バックグラウンドの管楽器アンサンブルによる静謐でファンタジックなバラード。
最初期 WEATHER REPORT 的でもある。
レイ・ウォーレイ(アルト・サックス)を目一杯フィーチュア。テーマなしでソロのみ。熱っぽくもアブストラクトなプレイは近未来のイメージ。
ギブス作。
「Country Roads」(10:34)ブルーズ・フィーリングたっぷりのモダン・ジャズ調ビッグ・バンド・ジャズロック。
ノスタルジックな安定感とともに R&B テイストもあり、そこがギターの音とよく合っている。
テーマ部には NUCLEUS、RIFF RAFF 辺りのイメージも。
クリス・スペディング、ディヴ・マックレエ(エレクトリック・ピアノ)をフィーチュア。
ゲイリー・バートン/スティーヴ・スワロウ作。
「Mother Of The Dead Man」(8:57)まろやかながらも謎めいたバラード。
序盤は神秘的なパーカッションと余韻によるサイケな幻想パート、そして緩やかな管楽器群が交差し、淡い幻に動きを与える。
ヘンリー・ロウザー(トランペット)、ケニー・ホイーラー(トランペット)をフィーチュア。うっすらとした哀愁と夢想を鮮烈なトランペットが貫く。
決然とした表情に苦悩がにじむ、みごとなトランペット・ソロである。
カーラ・ブレイ作。
「Just A Head」(11:18)
シンプルながら奇妙な力強さのあるテーマで始まるフリージャズ系ジャズロック。
バビングトンの音数多いベース・ランニングとシンバル連打に支えられて、超パワフルなテナー・サックスによるコルトレーン流アドリヴが火を噴く。
冒頭の変わった低音はバス・トロンボーン?
アラン・スキッドモア(サックス)をフィーチュア。ギブス作。
「Fanfare」(4:06)
タイトル通り高揚感にあふれるジャズ・オーケストラ小品。
イントロから繰り返しティンパニが轟き、ドラムスは大活躍。
アルト・サックスとソプラノ・サックスのデュオも高音域で走り回り、テンション上げ上げである。
レイ・ウォーレイ、スタン・サルツマン(サックス)をフィーチュア。ギブス作。
「Nowhere」(9:30)ジョン・マーシャル(ドラムス)をフィーチュア。神秘的な序章を経てドラムス・ソロへ。大胆な作品です。ギブス作。
「Sing Me Softly The Blues」(14:00)フランク・リコティ(ヴァイブ)、スタン・サルツマンをフィーチュア。カーラ・ブレイ作。
「So Long Gone」(21:17)クリス・パイン(トロンボーン)、ディヴ・マックレエ(エレクトリック・ピアノ)をフィーチュア。ギブス作。
(POLYDOR 2384-042/043 / BGOCD679)
Charie Mariano | alto & soprano sax, flute, nadhaswaram |
Philip Catherine | guitars |
Steve Swallow | bass, electric piano |
Bob Moses | drums, percussion |
Jumma Santos | percussion |
Mike Gibbs | keyboards |
Strings section | |
Horn section |
75 年発表のアルバム「The Only Chrome-Waterfall Orchestra」。
内容は、弦楽、ホーン・セクション、通常のバンドをまとめあげたビッグ・バンド風のジャズロックである。
スティーヴ・スワロウ、フィリップ・カテリン、チャーリー・マリアーノなどヨーロッパを代表する名プレイヤーをフィーチャーして、メロディアスにして格調高く、神秘的にしてなおかつ未来的でクールなイメージを喚起する傑作となっている。
一部エキゾティックな第三世界風の音もある。
基本的な作風は、ややシリアスな変形リフの上でロマンティックなアンサンブルとソロ(管楽器、ギター)を決めてゆくスタイルである。
現代音楽の素養もあるらしく、大胆な和声などジョージ・ラッセルやギル・エヴァンスといった先鋭的な作家と共通するところもある。
独特のポリリズミックにオーヴァーラップする反復パターンなど、アレンジ面では現代のテクノに近いセンスもあるようだ。
ニール・アードレイの諸作の SF っぽい雰囲気が気に入ったらぜひ。
プロデュースは、ジェリー・ブロン。
BGO の現行版 CD は盤起こしのような気がします。
「To Lady Mac: In Retrospect」(5:38)
ギターとキーボードによるスピード感ある泡立つようなリフがおもしろい。
ソロは、マリアーノのアルト・サックスとカテリンのギター。中盤グルーヴィな展開に入ってからは、マリアーノのプレイはかなりベタで濃い目。エルトン・ディーンを思い出すのは正しいのだろうか。
カテリンのロングトーンはほとんどロバート・フリップ。
「Nairam」(5:25)ギターを主とする非常に美しい作品。
スワロウによるベース・ソロ含め、「5 年早いニューエイジ・ミュージック」といった趣である。
「Blackgang」(4:44)一転して込み入ったリフが SOFT MACHINE を彷彿させる作品。整然としてポリリズミック、抽象画のようなイメージの演奏は、瞬く間にヒートアップし、管楽器の絶叫とともに重たくもファンキーな世界となる。
一種危ない感じが魅力。
「Antique」(3:39)スローな管絃の響きが古の映画音楽を思わせるビッグバンド・ジャズ。
トニー・コーのテナーが主役。あいまいなドローンが続く様子は、モダン・ジャズと現代音楽の邂逅といった趣である。
「Undergrowth」(7:24)パワフルなエスニック・ジャズロック。
序盤、低音ドローン、ベース、ギター、パーカッションによる変拍子リフがカッコいい。
中盤は、カテリンのアコースティック・ギター、マリアーノの民族管楽器、コリン・ウォーカーのエレクトリック・チェロがリズムレスでエキゾティック(西アジアまたは北アフリカ風?)な絡みを見せる。
ギターの音色は官能的。
終盤は、マリンバ、コンガなど各種パーカッション主役のアンサンブル。いわゆる「ワールドミュージック」の先駆けである。
「Tunnel Of Love」(6:10)クリス・パインのトロンボーンをフィーチュアした
緩やかなピアノとホーン、ストリングスのアンサンブル。
重量感あるピアノ、モーダルなホーンのテーマ、トロンボーンとのハーモニー。
薄墨色ながらドラマがある。後半は、叙情的なトロンボーンとシリアスな弦楽が絶妙の味わいを成す。
「Unfinished Sympathy」(6:18) ELEVENTH HOUSE、MAHAVISHNU ORCHESTRA のような緊迫感ある作品。
カテリンが爆発的なソロを放つ。
(BRONZE ILPS9353 / BGOCD273)