Jean Pascal Boffo

  フランスのギタリスト「Jean Pascal Boffo」。 MUSEA お抱えミュージシャン第一号。2013 年現在作品は十枚。 ギターのプレイはスティーヴ・ハケット風、作風はマイク・オールドフィールド。

 Jeux De Nains
 
Jean Pascal Boffo guitar, bass, percussion on 1,2,4,6,9
Denis Batis synthesizer
Denis Moog percussion on 1,4,8,9
Francis Serrier conga on 8

  86 年発表の第一作「Jeux De Nains」。 内容は、ギターを主役にした和やかなフュージョン風ニューエイジ・ミュージック。 アコースティック・ギター(エレアコが主)を使用したリズムレスの作品では、静謐な、哀感あるリリシズムをクラシカルな表現で丹念に紡いでいる。 独奏のスタイルはスティーヴ・ハケット同様クラシック・ギターの素養を感じさせる。 ハイポジションでのゆったりとしたヴィブラートが美しい。 一方、エレクトリックな表現では、優雅なエレクトリック・ギターのプレイにとどまらずキーボードでも美しく愛らしい、時に幻想的な表現を見せている。 透明感のある、それでいて暖かみのある音色がいい。 愛らしいはずの妖精がふと見せる牧神としてのコケットで底知れぬ神秘性をうまく表現していると思う。 また、ドラムスは打ち込みのようだ。 ミニマリズムの影響下ではあるが、音色などに工夫をしてパターンの反復に圧迫感をもたせないところがこの作者の技なのだと思う。 タイトル・ナンバーは弾けるようにポジティヴなエネルギーをほのかなユーモアのある優しげな音楽として昇華した佳曲。 世界を見つめる目線がペッカ・ポーヨラと同じだ。 全体に、夕陽とともに沈み込んでも憂鬱の淵には長居せず、澄み渡る夜空の星の瞬きを愛で明くる日の健やかな光の美しさに思いを馳せる、そういうポジティヴなものが根底にある。 80 年代初頭のブームの時期にはとても聴く気になれなかったが、今こうして聴いていると確かに心を落ち着かせ、癒す響きがあることが分かる。 全曲インストゥルメンタル。 CD 版は 96 年にリミックスの上発表。
  
  「Danse」(2:54)
  「Carillon」(3:45)
  「La Grange Aux Bois」(3:22)
  「Jeux De Nains」(4:00)
  「Le Vieux Château」(2:47)
  「Le Vol Du Dragon」(3:31)
  「Rêve D'Enfant」(1:52)
  「Farfeluteries」(3:58)
  「Jeux De Vils Nains」(2:24)MAGMA 風のベースと道化師のような奇妙な笑い声が耳につく奇妙なミニマル・ミュージック。HELDON と同質のフランスらしいサイケデリック感覚を見る。
  「Légende」(6:20)ストリングス・シンセサイザーに彩られたエレクトリック・アコースティック・ギターの独奏。含蓄のある名作。
  「Féérie」(4:49)ドラムレスながらもベースをフィーチュアしたフュージョン風の作品。爽やかで官能的というフュージョン・ミュージックにしか表現できないプロパティを的確に表現している。琴のようなニュアンスのギター、横笛を思わせるシンセサイザーらが仄かな東洋テイストを生む。
  「Naissance」(2:05)
  「Nocturnev」(3:12)

(FGBG 4175 AR)

 Carillons
 
Jean Pascal Boffo guitars, bass on 1,3,4
Denis Batis synthes
Herve Rouyer drums
Carlos Pavicich bass on 2,6,7,9

  87 年発表の第二作「Carillons」。 内容は、ギターを主役にした軽快なジャズロック/フュージョン。 ニューエイジ・ミュージック調の、爽やかでオプティミスティックな作風が貫かれている。 ギターは強めのディストーションを効かせたサウンドでなめらかにフレーズを綴ってゆくが、全体としては、メロディアスというよりもリズムとともに躍動し、駆け巡るスタイルである。 その作風は、マイク・オールドフィールドからアイリッシュ・バクパイプ風味を除いた感じ、または名ギタリスト、セポ・タイニを擁した PEKKA POHJOLA のグループにも近い。 アルバム中盤のベースとギターがせめぎ合う演奏はまさにそんな感じだ。 また、レーベルメイトにして「同志」でもある MINIMUM VITAL のジャン・リュック・ペイサン氏とも共通するスタイルだ。 一方、キーボードは、ミニマルなオスティナートを丹念に連ねてアンサンブルを支えながら、ギターにも機敏に反応し、きらびやかなパイプ、ホィッスル風のサウンドで積極的に渡り合う。 デジタル・シンセサイザーの音も今となっては懐かしい。 交差、応酬、そして調和へと進む展開が得意なようだ。 伸びやかなギター・サウンドとカラフルなキーボード・サウンドのコンビネーションが好みなら、本作品は、ど真ん中でしょう。 サウンドの色付けがややワンパターンではあるが、各曲の性格が明快でフレーズに吸引力があるため、全編インストゥルメンタルにもかかわらず楽しく聴き通すことができる。 個人的には、この手の音にあまり魅力を感じてこなかった(何かに安住しているような楽さが好きになれなかった)が、今更ながら「良さ」に気がついて恥ずかしいやらうれしいやらである。 歳を取ったということかもしれない。 94 年 CD 化の際に、ドラム・パートがリミックスされたそうだ。 全曲インストゥルメンタル。
  
  「Bienvenue Au Pays
  「Joyeuses Paques
  「Carrousel
  「Le Cycle Du Cristal
  「Conte À Rebours
  「L'Jle Aux Lutins
  「Fête Eu Perspective
  「Le Retour Des Nains
  「Horizon
  「A Cordes Imaginaires

(FGBG 4104 AR)

 Rituel
 
Jean Pascal Boffo guitars, bass, programming
Hervé Besler flute on 7Armand Bouquier oboe on 1,2,3
Gérald Kiemes clarinet on 1Françoise Lyre viola on 1,2,3
Denis Membre chorus on 1,2,3Phillippe Vendermin trumpet on 1,2,3
Charles Wegner basson on 1,2,3Ferdinand Bistocchi clarinet on 3
Marie Isabelle Hennequin harp on 1,2,3Bertrand Wirtz drums on 1,2,3,4,6,8
Denis Batis keyboards on 6Carlos Pavicich bass on 6
Frédéric Sold keyboards on 6,9Raphaël Salvemini guitar on 6
Aldo Romano trompet on 9Jean Paul Membre trombone on 9
Caroline Crozat voice on 9,10

  88 年発表の第三作「Rituel」。 神秘的にして透明感と躍動感にあふれる大傑作アルバム。 ニューエイジ的な美感という表層にとどまらない、サイケデリック・ロックや 70 年代ロック、ジャズロックが蓄えたマジカルなパワーと叙情性を時代の音として解き放った作品である。 ボフォは、ギタリストとしてだけではなく、作曲とシンセサイザー・プログラミングも担当。 A 面全部を使った三部構成の表題作は、YAMAHA のポリシンセらしきシンセサイザーと管弦楽器らによるクラシカルなアンサンブルであり、作曲 / アレンジャーとして腕を振るった大傑作である。 リズミカルにして透明感や深みもあり、全編にわくわくさせるような躍動感と神秘にあふれた極上のファンタジーだ。 ドビュッシーと後期 EL&P がくっついた感じ、なぞというと絶対誤解を招くであろう。 一方、B 面の三曲ではギターをプレイ。 5 曲目は、アコースティック・ギターの一人デュオ、特徴的なエレキギターは、ファンタジックでリリカルなフュージョン・チューンの 6 曲目とニューエイジ調の神秘的な 7 曲目で聴ける。 ここでも人工的ながらも深みのあるシンセサイザー・サウンドがすばらしい。 こういう作風でさらにオプティミスティックで開放的になるとパット・メセニーの境地になってしまうが、それほどはジャズのグルーヴに寄っておらず、謎めいたプログレを志向しているところが好み。
   CD には 89 年録音作品一曲と 91 年録音作品二曲のボーナス付き。
  
  「Rituel I」(7:08)
  「Rituel II」(5:43)
  「Rituel III」(9:40)
  「La Ronde Des Elfes」(6:12)ドラムスとシンセサイザー・プログラミングによるニューエイジ風シンフォニック・ミュージック。
  「Duo」(3:40)
  「Tournoi」(6:19)メロディアスなギターが冴えるフュージョン。弦楽風のシンセサイザーがおもしろい。
  「Retour Aux Sources」(5:01)神秘的なストリングス・シンセサイザーが取り巻くロマンティックなギターの調べ。ギターが歌っているような、コンプレッサの効かせてサスティンする独特のトーンがいい。フルートもフィーチュア。

  以下 CD 版ボーナス・トラック。
  「Laïyna」(4:32)89 年 4 月収録。デジタル・フュージョン風でファンタジックというペッカの共通する作風。ガットギターの説得力はパット・メセニー以上。
  「Andhowandë」(4:48)91 年 6 月収録。女性スキャット、凶暴なベースなど完全に MAGMA 風の作品。スタジオ・ミュージシャンとしての多芸振りをアピール?
  「Sacrifice」(5:05)91 年 6 月収録。パーカッション、女性スキャット、ギターによる謎めいたエキゾティックな作品。ベースも強調されていて前曲とともに MAGMA 風かと思ったが、ギターが暴れ始めると攻撃的になったときのスティーヴ・ハケットの芸風に近いことに気づいた。

(FGBG 4045 AR)

 Parfum D'Étoiles
 
Jean Pascal Boffo guitars
Franco Pesce bass on 4Régis Lamore bass on 12
Vincent Nolot bassNoëlle Weidmann cello
Éric Goubert clarinetJean-Francois Gion hurdy gurdy
Fréderic Sold keyboards on 12Emmanuel Teusch oboe
Hervé Rouyer percussion, drumsMurat Ozturk piano, synthesizer
Dominique Gatto tenor saxCécile Kubic violin
Estelle Magar violinFrançois Michaud violin, viola
Marion Roesch violin, violaCaroline Crozat vocals

  2000 年発表の第七作「Parfum D'Étoiles」。 内容は、エレアコ・ギターをフィーチュアしたフォーキーでなおかつ爽快感あるニューエイジ・ミュージック。 管弦によるクラシカルかつエキゾティックなアレンジを施したキャッチーで透明感のある音である。 作者の本質的な嗜好らしく 80 年代初頭に流行した音をそのまま引き継いでいる。 軸となるのは、ファンタジックで清潔感のあるアコースティック・ギター・アンサンブル。 そこに弦楽や管楽器が薫風のように華を添え、地の鼓動のようなリズムが支えて、生を息吹をイメージさせるオプティミスティックな躍動感を生み出している。 フュージョンといってもよさそうな音質だが、違いは、官能的なリラックス感よりもイノセントなファンタジーの趣きがあることだ。 マイク・オールドフィールドの音楽をフュージョンといわないのと同じである。 女性ヴォーカルによる西アジア風の歌ものを要所に配置している。 ヴォーカルは英語とフランス語。最後にオマケつき。
  
  「Parfum D'Étoiles
  「Innocence」インストゥルメンタル。
  「Clownerie 」インストゥルメンタル。
  「Prie Fort
  「Le Magicien」 インストゥルメンタル。
  「Love Is
  「Secret Ways
  「Endless Love」インストゥルメンタル。
  「Regarde Les Adultes」インストゥルメンタル。
  「Célébration」 インストゥルメンタル。スキャットあり。
  「One」インストゥルメンタル。
  「Invizible」インストゥルメンタル。

(AMP2000/05)


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