フランスのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「Minimum Vital」。 83 年結成、 グループ名は慣用表現で「最低生活費」ということらしい。 2023 年現在作品はデュオ名義、ライブ盤を含めて十一枚。 マイク・オールドフィールド、クラシック、ラテン民俗音楽、ジャズなど多様な音楽性をもつトラッド系ネオ・プログレッシヴ・ロック。 ギター、キーボードともに演奏はピカ一。 2020 年新作「Air Caravan'」発表。
Charly Berna | drums |
Jean-Luc Payssan | guitars, percussion, vocals |
Thierry Payssan | keyboards, percussion, metallophone, vocals |
Eric Rebeyrol | bass, cornet |
guest: | |
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Michael Geyre | accordion |
2020 年発表の作品「Air Caravan'」。
内容は、これまで通りの古楽テイストが特徴的なリズミカルかつメロディアスなトラッド・シンフォニック・ロック。
ただし、本作ではトラッドよりもコンテンポラリーなポピュラー・ミュージックの面が強調され、技巧的にしてソリッドで聴きやすいロックに仕上がっている。
このスタイルは、たとえば女性的な華やぎや繊細な審美感も盛り込まれた JETHRO TULL とでもいえばいいだろう。
トラッド風の旋律やプレイがないわけではないので、主としてこれはアレンジのバランス感覚のなせる技なのだろう。
一つ気づいたのはこれまで管楽器を模することが多かったシンセサイザーがそこにとどまらない独自のサウンド(特にストリングス系やシンセサイザー独自の音色)を多用していること。
また、激しいリズムに操られてアンサンブルが一体となってトランス状態になるような演奏ではなく、テーマとバッキング、ソロとアンサンブル、リフ、パワーコードとビートといった構成が分かりやすく提示されている演奏になっていること。
何にせよロック、ポップスのファンにはきわめて聴きやすいはず。
古楽風の演奏なのに現代ロック特有のノリがあるところは、汗臭さのない抽象的で一種潔癖な美感のあった「La Source」と共通している。
(MUSEA FGBG 5018)
Thierry Payssan | keyboards |
Jean-Luc Payssan | guitars |
Eric Rebeyrol | bass |
Antoine Fillon | batterie on Envol Triangles |
Christophe Godet | batterie on Les Saisons Marines |
Anne Colas | flute on Envol Triangles |
Pascale Jakubowski | vocals on Les Saisons Marines |
guest: | |
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Didier Lamarque | percussion on Envol Triangles |
92 年発表の「Envol Triangles / Les Saisons Marines」。
本 CD は 85 年発表のデビュー・カセット「Envol Triangles」と 87 年の第一作「Les Saisons Marines」のカップリング盤である。
「Envol Triangles」は、メロディアスにして華やかなネオ・プログレッシヴ・ロック。
特徴は、ギターとシンセサイザーがスピーディなインタープレイを繰り広げるフュージョン風のインストゥルメンタルと、トラッドなダンス・ミュージックを思わせるトリッキーかつ調子のいい曲調だ。
作風は、シンセサイザーによる管楽器系のサウンドとギターによる丁寧なアルペジオとメロディアスなソロをフィーチュアし、エキゾチックなテーマを描く明快な作風である。
いわゆるメインストリーム・フュージョンの影響もあるのだろうが、それ以上にラテン/トラッド的なルーツ・ミュージックが素養としてあって、それらを高いレベルで文字通り融合したスタイルという方が正確だろう。
シリアスなテーマや変拍子、込み入ったアンサンブルがあるにもかかわらず、ネオ・プログレといった表現ではくくれない。
それは、あふれ出る華やかで神秘的な音色に加えて、ラテン古楽とポップ・ミュージックを融合する姿勢に、アカデミックな気風を感じてしまうからだ。
真にプログレッシヴなものにネオ・プログレなぞといういかがわしいラベリングは不要、ということだ。
どうしても GENESIS 風に聞こえてしまうプレイも確かにある。
しかし、本来アコースティックであるトラッド・バンドの音を鮮やかに電化/デジタル化した演奏には、本格的な古楽の素養とともに抜群のセンスと個性を感じる。
したがって、何かに似ているというような物言いが失礼に思えてしまうのだ。
アコースティック・ギター・アンサンブルに漂うヨーロッパ古典音楽独特の芳香に気づかずにはいられないはずだ。
ドラムス含めリズム・セクションのキレが今ひとつに感じられるところもあるが、さほど問題にはならない。
軽やかな躍動感とギリシア、ローマ世界からこだまする南欧風のエキゾチズムが魅力の佳作である。
全曲インストゥルメンタル。
「Hydromel」
「Balivernes」
「Envol Triangles」
「Dans Le Doute」
「Ronde」
「Les Saisons Marines」は、よりリズム・セクションが充実し、ギター主導のヘヴィな音も交えた作品。
ヴォーカルも導入し、ダンサブルなグルーヴとキャッチーなメロディを失うことなくテクニカルな演奏を充実させたイメージだ。
特に、メロディアスなテーマを歌い上げ、奔放なソロを見せるギターの活躍が目覚しい。
キーボードはギターと比べるとやや引っ込むが、パイプ/ホィッスル風のデジタル・シンセサイザーに加えてアナログ・シンセサイザーやオルガンの音を活かしたプレイがうれしい。
オープニングの 2 曲はキャッチーなテーマと技巧的な演奏がバランスした傑作である。
一方、エキゾチックな女性ヴォーカルを伴う 3 曲目のようなアコースティック・ギターを用いたアンサンブルでは、古楽に対する造詣もしっかりと披露している。
5 曲目は、オルガンとオーボエを思わせるシンセサイザーのデュオと切ないギターによるファンタジックな作品。
変拍子を用いた緻密なアンサンブルで神秘的かつ親しみやすいテーマを奏でる作風は、南欧のマイク・オールドフィールドもしくはペッカ・ポーヨラといった趣もある。
最終曲は、ジャジーにしてラテン風のロマンあふれる名曲。
優美なシンセサイザーがいい。
傑作。
「Pour Le Temps Present」
「Zappata!」
「Lequel De Nous...」
「La Tour Haute」
「Les Saisons Marines」
「A Bien Des Egards」
「Retour Au Domaine」
(MUSEA FGBG 4050.AR)
Thierry Payssan | keyboards |
Eric Rebeyrol | bass |
Christophe "Cocof" Godet | batterie, MIDI drums |
Jean-Luc Payssan | guitars, vocals |
guest: | |
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Antoine Guerber | choir |
90 年発表の第二作「Sarabande」。
内容は、古典舞曲風の旋律をテーマに、輝くシンセサイザーとギターのコンビネーションが描くモダン・シンフォニック・ロック。
クラシカルかつフォーキーな舞曲の味わいを、豪華絢爛な現代の音で甦らせた傑作である。
メカニカルな変拍子ビートが、歴史を旅したメロディに潤されて、いつしか不思議とエキゾチックなダンス・ビートへと変化し、生命感に満ちてゆく。
その変化の妙は感動的である。
また、派手過ぎるほどのサウンドでありながら、明解なメロディとポリフォニックな演奏に重厚な味わいがあり、このどっしりとした感触が、いかにも正統派プログレらしい。
管絃楽器をシミュレートするシンセサイザーのセンスもいい。
ラテン・クラシック調のアコースティックな音も巧みに使っている。
プログレからフュージョン、ハードポップなど 80 年代の音までを動員して、古典音楽をホールからクラブへと取り戻した、途轍もなくユニークな演奏です。
90 年代を代表する音の一つといえるでしょう。
1 曲目「Le Chant Du Monde」(7:34)。
アコースティック・ギターがやわらかく和音をかき鳴らすクラシカルなオープニング。
そして郷愁をかきたてるようにアコーディオンが歌いだす。
幼き日のサーカスの思ひ出。
センチメンタルな序章だ。
ハンド・クラップから一転、ギターがリードする分厚いアンサンブルが走り出す。
ギターのテーマはイントロのアコーディオンのメロディであり、スタイルはマイク・オールドフィールドを思わせる。
華やかに伴奏するシンセサイザー。
ビートが効いた演奏だが 8 分の 6 拍子による 3 拍子系の哀愁も感じられる。
オブリガートのベースが鮮やか。
間奏は、ギターのアルペジオを伴奏にホイッスル系シンセサイザーが切なく歌い上げる。
ストリングス系シンセサイザーが霧を吹き上げるように重なる。
フュージョン調の音ながら、メロディにこもる情感はきわめて欧州的だ。
再び、ギターがメイン・テーマをリード。
クラシカルな舞曲を思わせるテーマである。
ストリングスが分厚く高鳴り、アナログ風のシンセサイザーが軽やかに歌うとややハードなギター・ソロへ。
モダンにしてラテンの歌心を感じさせるソロだ。
ブラス・セクション調のシンセサイザーとギターがテーマを変奏しつつ、高めあい、エンディングは GENESIS を思わせるシンフォニー調の和音が響く。
イントロのアコーディオンによって提示されたクラシカルなテーマを、ギターとシンセサイザー中心のアンサンブルで展開する華麗な舞曲。
いかにもヨーロッパ風の哀愁を漂わすテーマが、華やかな音色のモダンな演奏によって、見たこともない表情を持ち始める。
華やかなシンセサイザーとメロディアスなギターがよく呼応しあう演奏は、フュージョンやネオ・プログレッシヴ・ロック調である。
そこに古典舞曲のリズムと明解なテーマなどクラシカルな要素を持ち込んで音楽的なグレードをあげている。
粘っこいギター・プレイは、マイク・オールドフィールドに酷似。
インストゥルメンタル。
2 曲目「Porte Sur I'Ete」(2:52)
アコースティック・ギター(おそらくピックアップつきのナイロン弦、すなわちオヴェーション・クラシックのような楽器だろう)による古典的かつメランコリックなソロ。
7th の和音がモダンな響きも醸し出す。
中盤からは、デュオ。
ラテン・カステリヤな和音の響き。
演奏は次第に熱を帯び、目のくらむようなスピーディなアルペジオとコード・ストロークを伴奏に、メロディが飛翔する。
マイナーとメジャーの響きを交錯させた、モダンなアコースティック・ギター・アンサンブル。
憂鬱にして典雅、そして神秘的。
セゴヴィアによるトローバ作品のようなニュアンスだ。
3 曲目「Sarabande No.1」(6:22)
ハモンド・オルガンがぶつぶつとつぶやくイントロから、一気に、ヴァイブ系シンセサイザーとホイッスル系シンセサイザーのアンサンブルが華やかに動き出す。
歯切れよいリズムと二つのシンセサイザーがおりなす、8 分の 4+2 拍子によるポリフォニックな遁走曲だ。
深く切り込むギターの第二テーマからは、4 分の 4 拍子。
ギターは、ナチュラル・ディストーションによる奥行きある伸びやかな音で、朗々と歌い上げる。
再び、シンセサイザーが軽やかに切り返し、華麗なるエレアコ・ギター・ソロ。再び 8 分の 4+2 拍子へ。
そして、ホィッスル・シンセサイザーをなぞるように、ささやきヴォーカルの登場だ。
抑えた表情のヴォイスとリズミカルなシンセサイザーの伴奏。
間奏は、ややヘヴィなギターがテクニカルなプレイでアクセントをつける。
謎めいたヴォイスとシンセサイザーによるリズミカルな演奏に、ブラスやフルートを思わせるシンセサイザーがにぎにぎしく加わる。
再びギターのリードで走る。
4+2 拍子を倍の長さにした、巧みなリズム処理だ。
ドラムスは止み、静けさの中をクラリネットを思わせるシンセサイザーがうつむき加減ながらも朗々と流れ、ストリングスが厳かに付き従い、やがて消えてゆく。
管楽器系を中心に多彩な音色を持つシンセサイザーとメロディアスなギターが仰々しく錯綜する、ポリリズミックかつポリフォニックなクラシック風のフュージョン・ミュージック。
巧みな変拍子処理とフーガ的なリフの追いかけあいが特徴的だ。
エンディングは「Sarabannde No.2」につながるという意味だろうか。
華やいだ明るい音色とビートながら、耽美かつ不気味なニュアンスもある。
このグループの作風をよく現した佳曲である。
4 曲目「Cantiga De Santa Maria」(3:48)
生々しく波打ち蠢く電子音に悠然たるストリングスがベールをかぶせるドラマティックなオープニング。
繰り返し「Santa Maria」を唱える声、そして、典雅なストリングスの響きに重々しくギターが轟く。
ヘヴィなギターが押し寄せ、シンセサイザーが高鳴る。厳かな宗教調。
うねるようなストリングスとともに、祈りのような唱和が流れてゆく。
轟くティンパニ、膨れ上がるストリングス、そして厳かに清らかに鳴り響くシンセサイザー・ブラス。
重厚にして華やかなバロック・トランペットのイメージである。
教会音楽とロック・サウンドの融合だ。
再び厳かに沈み込み、ストリングスの調べとともに切々と歌唱が続く。
ヘヴィ・メタリックなギターが轟き、ストリングス・シンセサイザーが破裂し、「Santa Maria」というささやきが重なり合いながら消えてゆく。
教会音楽調のシンフォニック・チューン。
ごく小曲だが、重厚にして厳粛、雅なコラール風である。
バロック期の管弦楽曲をエレクトリック楽器でシミュレートしたような内容だ。
ストリング、金管を模すシンセサイザーが美しい。
ヘヴィなギターのトーンも自然に溶け込んでいる。
5 曲目「Sarabande No.2」(7:02)
美しく妖しく波打つシンセサイザーの響きが膨れ上がり、破裂すると、得意の奇怪な変拍子アンサンブルがスタート。
つまづきそうな変拍子パターンを繰り出すベース、アクセントするオルガン、テーマはギターが担い、木管楽器風のシンセサイザーが切り返す。
ギターのテーマにはややアラビア調のモーダルな響きが。
メカニカルなベース・パターンの上で、木管風のキーボードが祈りのようなソロを奏でる。
強くアクセントするリズム、クラリネット風のキーボード・ソロ、そして王宮楽隊のような打楽器の響きが重なる。
メインのアンサンブルが復活、ギターのリードとキーボードによる受け答え。
ここからが意外な展開である。ギターはおろか演奏全体がやおらメインストリーム・フュージョン調に変化する。
再び無理やりな変拍子アンサンブルが復活、ギターのリードで捻じ曲がりながら飛翔してゆく。
サイレンのように高鳴るシンセサイザー、まとまりながらも転げ落ちるようなアンサンブル。
最後はファズ・ギターでメイン・テーマを再現し、かけ声とともに終わる。
西アジア風のエキゾチックなテーマによる変拍子舞曲。
ベースによる変拍子パターン上で、オーボエのようなシンセサイザーとディストーション・ギターがアンサンブルを成し、強引に進んでゆく。
変拍子の不自然さを意図的に強調しているような演奏だ。
後半、きわめてモダンで洗練された「フュージョン」へと変貌し、唖然。
明快なアンサンブルやテーマなど、おそらく古典的な楽曲の枠組を成しているのだろうが、リズムと旋律そのものはかなり異様である。
サウンドこそ透明感があって美しいが、挑戦的なイメージが強い。
6 曲目「Hymne Et Danse」(8:49)
ジャジーなエリック・サティといった趣のソロ・ピアノによるロマンティックなオープニング。
印象派風のエキゾチックな和音の響きを決め手に、デリケートに雰囲気を紡いでゆく。
得意のホィッスル・シンセサイザーに軽やかに導かれ、オルガン、ベースらによるリズミカルなアンサンブルがスタートする。
ブレイクをはさんだアクセントの強い独特の 8 分の 6 拍子による舞曲である。
フルートを思わせるシンセサイザー、ギターのデュオとオルガンの軽妙なかけあい。
鋭いギターが迸って 4 拍子と 3 拍子が交錯し、緊張が高まるが、リズミカルなアンサンブルが巧みに受け止めて、ややユーモラスなムードを維持してゆく。
軽快なシンセサイザー・ソロ。
粘るギターとフルート・シンセサイザーのデュオをリズミカルなキーボードのリフが受け止める。
再び、鋭く迸るギターとともに 4 拍子と 3 拍子が交錯。
それでも、リズミカルなアンサンブルがメリーゴーランドのように巡る。
続いて、ややひずんだ音色のシンセサイザーによる悩ましげなソロ。
華やかな音色のキーボードも重なり、雅なアンサンブルとなる。
べースが華麗なプレイでボトムをリード、ギターとキーボードが朗々と歌う。
優雅な輪舞は続いてゆく。
低音の木管、エレクトリック・ピアノを思わせる音も散りばめて、やがてギターのリードでなめらかに全体がすべりだす。
フルート風シンセサイザー、ギター、ベース、エレクトリック・ピアノらが、次々とたたみかけるように重なり、何かが起こりそうな予感が強まる。
一転、グレゴリオ聖歌風の男声合唱が始まる。
うっすらとした伴奏はチャーチ・オルガン。
謎めき厳かな朗唱、ハーモニー。
密やかな祈り、彼岸への誘い。
エンディングは重々しくピアノが響く。
再び、ひっかかるような変拍子ながらも、古典的、宗教的ムードあふれるクラシカル・ロック。
厳かな宗教色を強調しつつも、芸風はきわめて多彩である。
前半は、管楽器シンセサイザーを中心に、アクセントの強いリズムでステップを踏むように進んでゆく。
ここでも、なめらかなギターと跳躍気味のシンセサイザーのコンビネーションが使われている。
クロス・リズムもお手のものだ。
プロローグのピアノ、エピローグの聖歌など、大胆にして劇的なアレンジは、パット・メセニー・グループにも匹敵。
最後の聖歌のパートが実に堂に入っているところは、さすがに欧州のグループである。
7 曲目「Danza Vital」(7:24)。
イントロダクションは、ブラス・シンセサイザーによる勇ましくも厳かなファンファーレ。
三声によるポリフォニックなアンサンブルとなる。
湧き上がるサイケデリックなロック・ギターに誘われて、一転してリズミカルなアンサンブルがスタート。
キーボードがリフを刻み、リムショットとともにメロディアスなギターとベースがハーモニーを成して走る。
流れるような演奏だ。
ドラムスが元気に加わって、シンセサイザーの和音の上をギターが快調にすべってゆく。
追いかけるシンセサイザーも華やかだ。
キーボードが主役に踊り出るも、再びリードはギターへ。
リムショットが小気味よく響く。
続いて、ややジャジーなギターのリード。
ベースと巧みに呼応しながら、フュージョン・タッチの演奏が続く。
キーボードもすっかり 80th ポップ風に変化し、リズミカルに蓮っ葉に迫る。
キメは、シンプルと 8 ビートとロック・ギター。
元気な演奏はピアノが受け止めて、メロディアスなギターが引っ張るアンサンブルへと戻る。
最後はパワーコードを叩きつけて終わり。
キャッチーにして華やかなサウンドのフュージョン調メロディアス・シンフォニック・チューン。
変拍子は強調せず、シンプルなリズムに徹して、フュージョンとハードポップの中間くらいのニュアンスの演奏を繰り広げる。
リードはメロディアスなオールドフィールド調ギターであり、キーボードはきらめく音でギターを彩る。
開き直ったように明るくストレートな演奏である。
80 年代初頭の CAMEL もこんな感じだったかもしれない。
8 曲目「Le Bal du Diable」(1:32)。
チェンバロと管楽器風シンセサイザーによるクラシカルかつユーモラスなアンサンブル。
オーボエを思わせるシンセサイザーが愛らしい。
エキゾチックで調子の外れたアンサンブルはエリック・サティ風。
のどかなのにどこか歪曲した不思議な曲である。
愛らしくも小面憎い小さなエピローグ。
ペッカ・ポーヨラの作風に近い。
シンセサイザーとギターを思い切りフィーチュアした、ダンサブルなクラシカル・シンフォニック・ロック。
さまざまな音楽性を兼ね備えながらも、単なるミクスチャーと思わせない、オリジナリティと完成度を誇る音である。
デジタルでクリアーな音色からして、モダンなロック、フュージョン、はたまたネオ・プログレ系と見てもよさそうだが、変化に富むクロス・リズムやエキゾチックなメロディ、緻密なアンサンブルは、やはり正統的なプログレッシヴ・ロックである。
そして本作のテーマは、タイトルが示す通り、「古典舞曲」である。
管絃をシミュレートするシンセサイザーに加えて、クラシック・ギターやアコ−スティック・ピアノのソロ、バロック調アンサンブル、さらにはコラールや 5 度進行のエンディングなど、クラシック的なお作法を駆使し、エレクトリックなアンサンブルに明解にして整ったポリフォニーを盛り込んだ、いわば現代舞曲集なのだ。
加えて、オシャレなきらめきとダンサブルなグルーヴもある。
クラシックとロックの融合という手法にまだこんなやり方があったとは、新鮮な驚きである。
(MUSEA FGBG 4014)
Thierry Payssan | organ, synthes, sampler |
Jean-Luc Payssan | guitars, vocals, percussion |
Eric Rebeyrol | bass |
Christophe Godet | batterie, MIDI drums |
guest: | |
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Antoine Guerber | vocals |
Jacki Whitren | vocals |
93 年発表の第三作「La Source」。
ラテン・ミュージックにおける古代舞曲の面影とジャズ・フュージョン面を強調してナチュラルなポップ・テイストを加味した大傑作。
華やかで軽快、エキゾティックなところが特徴だ。
フュージョン・テイストあるシンフォニック・ロックだろうと思っていると、次第にその謎めいた出自に首をひねり出すことになる。
ネオ・プログレやフュージョンに聴こえるのは、このグループの音楽体験の中心に 80 年代のデジタル・エレクトリック・サウンドがあるためだろう。
そして音楽的素養の部分にはクラシック、それも中世古典以前の古代の舞曲や聖歌への造詣と愛情があると思う。
モダンなデジタル・サウンドの楽曲にケルトやギリシャ、ローマといった古代世界を連想させる不可思議な生気と香気があるのだ。
その古代色が、逆輸入のようなラテン・フュージョンやマイク・オールドフィールド風のエレクトリック・サウンド、そして本格的なプログレッシヴ・ロックらと相互作用することにより、いわゆるケルト・ブームものやニューエイジもの、GENESIS クローンとは異なった感触のサウンドを生んでいるような気がする。
本作では、前作で見せた古典舞曲のモダンなフロア・ビートへの開放に加えて、大胆なポップ色も持ち込んでいる。
華やかで瑞々しい音が活きており、大成功といえるだろう。
個人的には HIPHOP に接近しても面白いのではと思います。
ともあれ、つまづきそうな変拍子にのせてダンサブルでグルーヴィな音を送り出すゴージャス・ロックであり、新たな試みといえるでしょう。
今回も、華麗なサウンドを支えるギターやキーボードの凄腕に感激。
ヴォーカルとコーラスは、おそらく、ラテン語と思われる。
ゲスト・ヴォーカルの一人、ジャキ・ウィトレンは 70 年代に EPIC からデビューしたベテラン・フォーク歌手。
1 曲目「Dance Des Voeux」(7:00)。ファンキーな変拍子で軽快に舞うネオ・プログレッシヴ・ロック。
華やかなテーマと透明感あるインストゥルメンタルのコンビネーションによる新しい音楽だ。
特徴はシンセサイザーによるブラスとおなじくシンセサイザーによると思われるパーカッションを活かした華やかなサウンド。
特にブラスはビッグ・バンド風の効果を狙っているようだ。
またエキゾチックなヴォイスの生み出すほんのり妖しい香り。
オールドフィールド/ライリー以外にも COCTEAU TWINS など英国耽美派の影響もありそうだ。
リズムは 8 分の 17 拍子と 8 分の 15 拍子が交錯するけっつまづきそうな変拍子である。
間奏や中盤のインスト・パートではオルガンやギターがメロディアスながらもきわめてプログレ的なスリルのあるインタープレイ、アンサンブルを見せる。
アコースティック・ギターのプレイも全編にわたり演奏にとけ込んでいい味を出している。
特に中間部のソロ・パートではキーボードとともにパット・メセニーを模すような演奏を見せている。
多面的な魅力を押し込んだ密度の高い曲だ。
2 曲目「La Villa Emo」(5:26)
ストレートで快調なテンポのフュージョン風ハードポップ。
前曲と同じくブラス・セクション風のシンセサイザーを活かした派手なサウンドにシンセサイザーとギターのソロを配したリズミカルな内容である。
ヴァイブ風シンセサイザーとギターのアルペジオからブラスのテーマ、ストリングス・シンセサイザーを背負ったギターのテーマとギターとシンセサイザーが巧みな連携を見せながら進んでゆく。決めどころではオルガンとヘヴィなディストーション・ギターも用いてアクセントをつけている。ソロではシンセサイザー、ギターともによく歌いながらも品がある。
いかにも 80 年代風のシンプルなパターンながら安定したテクニックを感じさせるドラムス、俊敏な動きを渋く見せるベース(イントロがカッコいい)などリズム・セクションも一流。
一部淡いスキャット風のヴォーカル・ハーモニーが入るがほぼインストゥルメンタル。
ギター、シンセサイザーの抜群の呼吸によるアンサンブルをシンプルな曲想へと贅沢に用いた作品といえるだろう。
3 曲目「Les Mondes De Miranda」(7:48)
70 年代後半の CAMEL や GENESIS に通じる、フュージョン・タッチもある華やかな変拍子シンフォニック・チューン。
ストリングス、アコーディオン、金管までさまざまなニュアンスをもつシンセサイザーを中心に終始リズミカルに走り、ゴージャスなイメージを強調する。
メロディもきわめてキャッチーだ。
ポンプ・ロックというにはメロディ・ラインに南欧風のエキゾチズムが強く、キーボードのフレーズもクラシカルだ。
エキゾチックにして軽やかなキーボード・ソロやギターとの連携はここでも抜群。
ピアノによるコード・ストロークやベース・ラインもいい感じだ。
名曲。
4 曲目「Ann Dey Flon」(6:57)。
エレジー調のクラシカルなピアノが導くエキゾチックなワルツ。
オープニングのピアノと弦楽奏による重厚な演奏は、メイン・パートへ入るとエキゾチックなメロディをシンセサイザーとソリッドなギターが支えるメランコリックな円舞曲へと転じてゆく。
ゲート・リヴァーヴ風ドラムスからローマ史劇風の轟音ティンパニまで打楽器もうまく使っている。
交互にソロを取るシンセサイザーとギターの音色の対比も面白い。
神秘がマーブルのように渦を巻く謎めいた異国の音絵巻。
マイク・オールドフィールドが南仏に住んでいたらこういう音になったかもしれない。
5 曲目「Tabou」(9:10)。
マリンバ風シンセサイザーによるコケットなテーマを軸に展開する「リズミカルな変拍子」お洒落フュージョン。
大作ではあるが、アイデアのままにソロをつないで流していくジャズ的な作品である。
ギターは、音色・スタイルを変えながらピアノ、シンセサイザーと絡み、フュージョン風、ネオ・プログレ風とさまざまなスタイルを行き交いながら魅力的なフレーズを紡ぎ出す。
一方、キーボードは華麗なシンセサイザーで毎度おなじみのゴージャス・イメージを印象つけ、ジャカタク風のジャジーなピアノから始まって、オルガン・ソロでは一筋縄ではいかないヒネリも見せる。
リズムは 7 拍子を基本に 8 ビートへのヴァリエーションをつけており、テンポも巧みに変化する。
後半、呪文のようなヴォーカル・ハーモニーが現れ、謎めいた雰囲気を導くと一区切り。
後半はストリングスがゆったりと広がり、ナイト・ミュージック風のメローな展開になるかと思えば、再び挑戦的なリズム、リフとともにたくましい演奏となる。
なににせよ、カラフルなフュージョン・タッチ、つまり華やかなフレーズと軽快なノリを支えるのは、シャープな演奏力である。
6 曲目「Ce Qui Souscienc」(2:27)
厳粛な教会音楽と現代的なサウンドをマージしたプログレッシヴな小品。
グレゴリアン・シャントからシームレスにシンセサイザーとギターの伴奏をつけてゆき、やがてチャーチ・オルガンとシンセサイザーのインストによるヴァリエーションへと変化してゆく。
コーラスは実演とすればなかなかのものである。
ところで、兄弟、コーラス、技巧派演奏とくれば自ずと GENTLE GIANT が思い浮かぶが、こちらは多声マドリガルではなくユニゾン・グレゴリオ聖歌なので、ニュアンスが異なる。
7 曲目「Mystical West」(7:03)
8 ビートのロックンロールに神秘性を付与したテンポのいいシンフォニック・チューン。
このキャッチーでストレートなグルーヴにミステリアスなタッチを加えられるのがすごい。
その一つは、ささやくようでいて機敏な男女のヴォーカル・ハーモニー。
妖美でファンタジックな効果は抜群だ。
そしてもう一つは、ケルト風味たっぷりの流麗なるギター・プレイ。
パーカッシヴなシンセサイザーのスピーディなオブリガート、オルガンのバッキングもカッコいい。
中盤、フルートを思わせるシンセサイザーがささやいて悩ましい風情に漂い起伏をつける。
きわめてネオ・プログレ風のサウンド・曲調ながら、クラシカルで正統的な強弱や表情の付け方と鋭い演奏のおかげで大きくグレード・アップしている。
8 曲目「La Source - Final」(1:35)
厳粛な響きをもった終曲。
昔ならメロトロンを使うところかもしれない。
オプティミステックな気持から重々しい哀しみまでを同時に呼びさますストリングスの不思議さ。
シンセサイザーを軸にオルガン、ピアノと全開のキーボードと、メロディアスな弾きまくりギターによるフュージョン風ネオ・プログレッシヴ・ロック。
プログレによくあるコンセプト先行ストーリー重視型とは 180 度異なる、クラシカルな舞曲としての格式とフィジカルな娯楽性を重視する音楽である。
ヨーロッパ古今の舞踏音楽を見渡しつつ、ジャズやワールド・ミュージック風のサウンド、クラシックなど多種多様な音楽の影響が随所に現れる。
そして、それらをフュージョン風の軽やかな演奏へとけ込ませて、オリジナルな音楽として再構築している。
英国ネオ・プログレッシヴ・ロックの影響もかすかにあるようだが、全体としては他に類のないオリジナルなサウンドになっている。
演奏そのものも、切れ味と楽器の歌わせ方を心得たみごとなものだ。
特に、流れるように歌うかと思えばエッジも効かせるギター(ときおりややポンプ風のプレイも見せる)と、メタリックにして柔らかな音色と管楽器・打楽器などあらゆる楽器を厭味なく模したシンセサイザーのコンビネーションがみごと。
全編を通じて中心にいるのは、このコンビネーションである。
また、ヴォーカルはラテン語と思われる不思議な響きの言語であり、輝くような明るさと躍動感にあふれたサウンドへ神秘的な妖しさをもたらしている。
フュージョン、ネオ・プログレどちらともとれそうなユニークな音だ。
(MUSEA FGBG 4075.AR)
Sonia Nedelec | lead vocals |
Jean-Luc Payssan | guitars, vocals |
Thierry Payssan | piano, synthesizer, hammond organ, vocals |
Charly Berna | drums |
Eric Rebeyrol | bass |
J.B.Ferracci | lead vocals |
guest: |
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Peter Acock | sax | Richard Ducros | sax |
Joel Versavaud | sax | Freddy Buson | trumpet |
David Raymond | trumpet | Jean-Marc Pabœuf | trumpet |
97 年発表の第四作「esprit d'amor」。
女性リード・ヴォーカルを迎えて、明快な豪華絢爛モダン古楽路線に磨きがかかった作品である。
前作をさらにポップでなめらかにし、なおかつクラシカル、トラッドな音も詰め込んだ作風といえるだろう。
いってみれば「フュージョン・トラッド」である。
タイトル・ナンバーに代表されるように、よりダンサブルな「ノリ」重視のアプローチが強まっているのは明らかだ。
3 拍子系のリズムが主体であり、それ以外はほとんど 5 または 7 拍子といった奇数拍リズムである。
そして演奏は、ヴォーカル・ハーモニー、多彩なシンセサイザーと小気味いいハモンド・オルガン、そして饒舌でメロディアスなギター・サウンドで魅了する華やかなものだ。
インストゥルメンタル・パートにおいてもいわゆるネオ・プログレッシヴ色は消え、トラッド、クラシックな和声を大胆にメインストリーム・フュージョン風に奏でるスタイルになっている。
また、女性ヴォーカルとアコースティック・ギターのアンサンブルにはギリシャ・ラテン風のエキゾチズムと健康的なエロチシズムがある。
アコーディオンを思わせるシンセサイザーのプレイがおもしろい。
各曲も鑑賞予定。
「Esprit D'amor」(5:35)
「Brazilian Light」(6:43)
「Modern Trad'」(8:04)タイトル通りの華やかなトラッド・チューン。ギターは改めてマイク・オールドフィールドの影響下と感じる。名曲。
「L'Invitation」(6:55)
「Les Voyages De Costey」(3:56)
「Song A Cinq」(6:37)
「Danse Pour La Nouvelle Alliance」(6:04)
「Prelude Aux Oiseaux Tristes」(1:23)アコースティック・ギターとオーボエのデュオによる短調ながらもリズミカルな作品。次作のイントロの役割を果たしている。
「Au Cercle De Pierre, J'ai Danse...」(8:02)
(MUSEA FGBG 4209.AR)
Jean-Luc Payssan | guitars, mandolin, citter, drums, percussion, vocals |
Thierry Payssan | keyboards, percussion, vocals |
2002 年発表の「VITAL DUO」名義の作品「Ex Tempore」。
その名の通りペイサン兄弟によるエレクトリック・キーボード、ギターをフィーチュアした古楽調ロック。
内容は、マイク・オールドフィールドの音楽にキーボードを大幅に導入して、さらに本格古楽(GRYPHON か?)化したようなイメージ、といえば分かりやすい。
華やかな気品と健やかな官能性、そして厳かなエキゾチズムをも備えたサウンドで、溌剌とした演奏を繰り広げている。
いわゆるワールド・ミュージック的なエキゾチックな味わい以上に、バンドらしいノリのよさと躍動感が印象的であり、エレクトリック・サウンドによるモダンな光沢とヘヴィさも目立つ。
元来中世/バロック音楽には、現代のバンドに共通する素朴なグルーヴとペーソスがあったはずだ。
ここでは、そこに管弦のニュアンスを巧みに演じるキーボードによる美麗な音とシンフォニックなふくらみが加わっている。
もちろん、ギターとピアノのアンサンブルなどデュオの特性を活かしたシンプルな音による繊細な感情表現もみごとである。
そのしみじみと心に訴える味わいは音楽の核心ともいうべきものである。
トラッド・ファン、シンフォニック・ファンの両方に喝采されそうな内容だ。
ホイッスル系のシンセサイザー、オールドフィールドがさらにうまくなったようなギターは、(当然ながら) MINIMUM VITAL と変わらない。
6 曲目の「究極」YES リック・ウェイクマンばりのパイプ・オルガンの乱れ弾きは圧巻。
傑作。
「La Tour Haute」(7:04)アコースティック・ギターとパイプ(シンセサイザー)による変拍子デュオを序章に、ストリングスによる奥行きの深まりがダイナミックなバンドを呼び覚ます。終章は序章を回顧しつつも、バンドから得たエネルギーで進化するさまを表現している。
素朴の美に無限の深みを付与するフォーク系シンフォニック・ロック。
「Lové Son Nom!」(3:35)
アコースティック・ギター、オルガン系キーボードらによるリズミカルなフォークソング。
前曲よりもビートのアクセントが強く、さらにトラディショナルな舞踏調である。
ヴォーカル・ハーモニーとオルガンは教会音楽風ではあるが。
「Chanson De Trouvère」(8:43)クルムホルン風の音とチャーチ・オルガンが導き、賛美歌風のヴォーカルとギターがリードする典礼音楽風ロック。
基調は祈祷の音楽である。ただし、ギターだけはマイク・オールドフィールド。
中盤でビートを失い、中世風に現代的なブルーズ感覚を持ち込んだギター・ソロをフィーチュア。
ハードロックとルネッサンス音楽がシームレスにつながる、この独特のブレンドの感覚がおもしろい。
「Les Saisons Marines」(6:20)チェロ、チター、パイプ系シンセサイザーによる打ち沈んだ内省的なアンサンブル。ミニマル・ミュージック的な面が強調され、現代的なイメージの演奏である。ギターのテーマで一気に高まるが、挽歌風の響きは一貫する。
「Tel Rit Au Main」(2:32)オルガンのオスティナートに支えられたエレジー調のギター、チャーチ・オルガンによる応答。哀感の強い小品。
「Ce Me Dame...」(7:56)勇ましく調子のいい変拍子テーマが導くも、神秘的なムードの横溢する作品。
後半に得意の伝承音楽調をフィーチュアするも、サウンド的には IQ など優れたネオ・プログレの作品に通じるシンフォニック・ロックの傑作。
オルガンがカッコいいです。
「Deux Chemins d'Enfance」(3:35/4:36)密やかなソロ・ピアノとギターの交歓、後半は再びオールドフィールド風のギターが登場し、ピアノの刻むビートとともに躍動感が生まれる。
プライヴェートで密やかなイメージが次第に膨らみと広がりをもってゆく。その変化の相にプログレ心を感じます。エンディングのピアノの余韻がいい。
「Nostre Dame: Une Messe」先ごろ焼け落ちたノートルダムでの祭儀を描いたと思われるエレクトリック・ミサ器楽曲。
「Kirie」(2:05)荘厳なるオルガンとギターによる序章、主への呼びかけ。
「Credo」(2:05)リズミカルなオルガンとギターの重奏。ギターを強調し、信仰を宣言する。
「X File」(2:16)現代的なヒネリの章か。アッパーなビートとチャーチ・オルガンのミスマッチ。チューブラー・ベルも鳴り響く。
「Exutoire」(2:48)重厚なオルガンとトライバルなドラム・ビートがオーヴァーラップする EL&P 系のダイナミックな作品。
第三章と本章は「Incarnations」辺りのオールドフィールドの作風からの影響も強そう。
「En Castille」(5:48)スパニッシュな響きの強い伝承音楽アンサンブル。オルガン、アコースティック・ギター、トレモロ・マンドリン、打楽器。素朴さよりも異郷的なニュアンスがより感じられる。後半にはカスタネット、パルマも登場する。濃厚な歌心。
「Meditation」(2:04)ガット・ギターによる憂愁のソロ。
(MUSEA FGBG 4322 AR)
Jean-Baptiste Ferracci | lead vocals |
Sonia Nedelec | lead vocals |
Didier Ottaviani | drums, percussion |
Jean-Luc Payssan | electric & acoustic guitars, mandolin, percussion, vocals |
Thierry Payssan | organ, synthesizer, percussion, vocals |
Eric Rebeyrol | bass |
2003 年発表の作品「Atlas」。
グループ名義のスタジオ盤としては六年ぶりの作品だが、ドラムス担当メンバーの交代以外に大きな変化はない。
作風も、前作をほぼそのまま引き継ぐリズミカルかつエキゾチックな古楽ロック。
古典舞曲へのこだわりとモダンなポップスが自然にブレンドした味わいは健在だ。
もっとも、濃密なエキゾチズムと官能性は若干後退し、すなおに吹っ切れたような「爽やかポップ、ややワールドミュージック寄り」というべき内容である。
特徴の一つは男女混声のスキャットによるハーモニー。
小粋にしてマジカルな独特の効果を上げている。
メジャーっぽくてオシャレなようでいて、今回も変拍子やキーボードの使い方にプログレらしさが思い切り出ている。
現代のポピュラー・ミュージックの基準からすると、全体に音そのものとその加工は抑え目であり、あくまでバンドとしての卓越した演奏力を活かして、明快に小気味よく迫ってくる。
したがって、ライヴはかなり楽しいでしょう。
アコースティックなギターの音、パイプ風のシンセサイザーが今回も気持ちいい。
「Saltarello」(3:49)
「Volubilis」(7:01)
「Louez Son Nom !」(7:35)
「Voyage I」(7:31)名曲。
「Deux Amis」(6:55)
「La Ribote」(3:15)
「Atlas」(6:41) Y.M.O ?、80 年代ノスタルジー ? な怪作。
「Icarus」(6:04)
(MUSEA FGBG 4533 AR)
Jean-Luc Payssan | guitars, percussion, vocals |
Thierry Payssan | keyboards, zither, glockenspiel, vocals |
Sonia Nedelec | lead vocals on 2,5,7,8 |
Eric Rebeyrol | bass, claps |
guest: | |
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Laure Mitou | harp on 3 |
Gilles Pialat | MIDI percussion on 9 |
2009 年発表の作品「Capitaines」。
ひさびさの新作にもかかわらず作風は変わらず。
エレクトリックな音を駆使しながらも、欧州古代文明のイメージを保つ不思議のトラッド・ロックである。
グループ名義の前作「Atlas」のノリのよさのままに、モダンなポップ・テイストは少し抑えて、旧作の古典舞曲路線に立ち戻っている。
マイク・オールドフィールド直系の粘っこく歌うギタリストとアナログ機器も駆使するキーボーディストの呼吸は本作でも抜群だ。
とりわけシンセサイザーのサウンドが作法を守りつつも華やかに多彩を極めていてうれしい。
優美にして凛とした存在感があり、プログレらしさを演出してしっかりと作風に押し出している。
専任ドラマー不在だが、多くのトラッド・グループと同様に、さまざまなパーカッションを含めギターやキーボードによるアンサンブルは驚くほどにリズミカルであり、躍動感にあふれている。
さりげない変拍子も散りばめられている。
にぎにぎしい反復に耳が慣れてくると、一気にハマります。
ワンパターンと言えばそうなのですが。
トラッドの新解釈という意味でも、GWENDAL や FLAIRCK といったグループと並べて引けは取らないのでは。
「She Moves Through The Fair」(4:12)アイルランド民謡の翻案。ハーディガーディを思わせる旋律をシンセサイザーとギターが華麗に彩る擬古典ダンス・ミュージック。なぜか朝の都会の喧騒のイメージが。
「Avec Uppsala」(6:43)ダイナミックなトラッド・シンフォニック・チューン。アフリカンな味付けもあり。アルバムの目玉。
「Mauresque」(5:48)リズミックでアコースティックなトラッド・ロック。ハープをフィーチュア。
「En Terre Étrangère」(4:28)プログレらしいスリリングな傑作。EL&P ばりのアナログ・シンセサイザーがカッコいい。
「La Croix De Bourghi Bandô」(3:30)得意のリズミカルなフォーク・ダンス・ミュージック調にオルガンとシンセサイザーを放り込んでプログレ化。三分半と思えぬ密度。
「Le Chant De Gauthier」(7:21)12 世紀の作曲家ゴティエ・ド・コワンシの作品からインスパイアされた。華やかなアンサンブルと厳かな聖歌の合体技。
「En Sùperbô」(5:24)ポリシンセ風のキーボードとフラットなリズムがクールな作品。要所で放り込まれるピアノやアナログシンセっぽい音が HAPPY THE MAN や CAMEL を連想させる。
「Capitaines」(6:53)逞しいトラッドロックにコンテンポラリーなタッチを加味した洒脱な傑作。
「La Route」(7:08)アコースティック・ギターとチャーチ・オルガンをフィーチュアしたミニマルだが哀愁の強い佳作。
(MUSEA FGBG 4817 AR)
Jean-Luc Payssan | guitars, oud, saz, percussion, vocals |
Thierry Payssan | keyboards, percussion, vocals |
Eric Rebeyrol | bass, saz, horn |
guest: | |
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Gilles Pialat | MIDI drums |
Chfab | vocals |
Laure Mitou | vocals |
2015 年発表の作品「Pavanes」。
トリオにスリム化した編成による従来と変わらないリズミカルなトラッド・ロック。
数年ぶりの作品なので楽曲のストックが多かったらしく CD 二枚組である。
若干の変化は、よりアコースティックな音への傾倒と根源的なフォーク・ダンス・ミュージックの希求。
そもそもがダンサブルな音楽なのだからロックなパンチやノリは十分である。
エレクトリック・キーボードは未知の金管楽器のようにキラキラと輝くシンセサイザー・サウンドや重厚なオルガンなど多用されているが、アコースティックな音のシミュレータとしての使用が多い。
また、ギター含め撥弦楽器は民族楽器を応用するなどそもそも素朴な生音志向が強い。
特に CD 二枚目にその傾向が強い。
音楽的には原点(往時は 80 年代だったのでデジタル・シンセサイザーの軽めの音が多かったが)に立ち返った内容といってもいい。
時を経てサウンドの選択肢が広まったおかげで、もともとやりたかったことをより意図したとおりの形でやれるようになったのかもしれない。
華やぎの質が、奔放でぴちぴとした若々しさの発散から、よりコクのある大人の陰影のあるものへと変化したようにも思う。
B 面のトランペットを中心に、丸みのあるホーンの音がいいアクセントになっている。
また、得意であったシンセサイザーのパイプ、ホイッスル系の音の一部がメロトロン・フルートに置き換わっている。
独特の粘っこいマイク・オールドフィールド風味(特にファズを強めにしたエレクトリック・ギターのプレイ、これはケルト風味というべきなのだろうか)、デリケートながらも呪術風のヴォーカリゼーションも健在。
まあ基本的にほとんど変わらぬフューチャー・トラッド・ミュージックの秀作ということです。
PAVANES I
「Javary & Montago」小気味いいリフで迫る小気味いいトラッド風味あるアリーナ・ロック。ヒットしそう。中間部の見せ場はしっかりアコースティックなソロ。ドラムスは人工かな。
「La Basse Danse」ここからは「電子楽器によるアコースティック・ロック」路線。打楽器はパーカッションがメイン。古楽器のトレモロと金管風のシンセサイザーが華やかに歌う。
「Valadon」
「La Pavane」
「Rodeo」
「Le Prisonnier Hollandais (trad)」
「Maria Flies」
「Suite en Poussiere de Lune」
「Folkish」
「Villages」
PAVANES II
「Saladin」
「Yassim」
「Sur Tes Pas」切迫感あるギター演奏を受け止めるトランペットがいい。
「L'Enfance des Sages」
「Le Tourdion」
「Chanter Toujours」
「Ende Limbo」
「Soleil Den」
「Suite Iberique」
(MUSEA FGBG 4945)