イギリスのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「IQ」。 81 年結成。 第二作発表後、フロントマン、ピーター・ニコルズが脱退。 92 年のニコルズ復帰以降は、スケールの大きなサウンドでオリジナリティを発揮する。 最新作は 2019 年発表の「Resistance」。 ポンプ・ロック・ムーヴメントを生き残り、現代のシンフォニック・ロックを支えるグループの一つ。
Paul Cook | drums, percussion |
Neil Durant | keyboards |
Tim Esau | bass, bass pedals |
Mike Holmes | guitars |
Peter Nicholls | lead vocals, backing vocals |
2014 年発表のアルバム「The Road Of Bones」。
内容は、重厚で厳粛なシンフォニック・ロック。
ダークなデジタル・ロック、ポスト・ロック風のスタイルも意識しつつも、悲劇的なテーマにふさわしい管弦楽調の演奏と身を削る寒風のようなヴォーカルによる個性的なロック・シンフォニーという作風は堅持されている。
その音は、ヘヴィはヘヴィだが、スタイルや虚仮威しとしてのヘヴィネスとは無縁であり、むしろヘヴィというよりは重厚なダイナミズムがあるというべきだろう。
この重厚なダイナミズムは、伝えるべきものを朗々と伝えるための原動力である。飾りであるはずがない。
伝えるべきものとはメッセージであり、広い意味での「歌」である。
愚かな人々はともすれば「歌」を忘れるからだ。
「歌」は「思い」を育み、思いだけが愚かな行動を取ることをためらわせることができる。
ニコルズの歌唱は無限の優しさと無限の哀しみを並置する卓越した表現力を持ち、演奏は怒涛のように狂乱するかと思えば、降り注いだ雨を天に返すようなピアノの調べで胸をかきむしるなど、多彩にして当意即妙である。
音そのものは似ていないが、音の生み出すイメージは、往年の PINK FLOYD と共通する。
どこまでも広く深く重く暗い。
そしてその極限を経て、すべてをかなぐり捨てて飛翔する。
新キーボーディストは、マーティン・オーフォードにクラウディオ・シモネッティが憑依したような圧巻のプレイを放っている。
ストリングスはサウンドの基調となる暗いテクスチャを織り成し、パーカッション系のアクセントを散りばめ、ロックなスリルの源泉たるハモンド・オルガンも効果的に使われている。
ドラムスのプレイもいつになくアグレッシヴであり、一気呵成にタムを廻すフィルが非常にカッコいい。
プロデュースはマイク・ホームズ。
ボーナス CD 付きの二枚組。
ベーシストのティム・エソーは 2011 年に再合流、第四作以来のアルバム復帰である。
アグレッシヴなプレイで存在感を示している。
不気味なアルバム・タイトルは、実在するシベリアの道路のニックネームらしい。
「From The Outside In」(7:24)衝撃的なサウンドを大胆に散りばめて、怒涛の攻めを繰り広げる完成度の高いアルバム・オープナー。
邪悪、荘厳、厳粛、勇壮、そして、崇高。
4 分後半あたりからパーカッション・シーケンスがカッコいい。
メロディアスに着地するのもいい。
「The Road Of Bones」(8:33)厳かな弦楽奏に導かれるデジタル挽歌。
PORCUPINE TREE というよりはその影響をかみしめたポーランドのグループに近い。
弦楽奏は初め悲劇的な静寂に包まれた歩みを見せるが、やがて怒りに我を忘れたかのように轟々と吹き荒れる。
「Without Walls」(19:15)浪漫のあるドラマティックな大傑作。
終章の慈愛の響きに魅せられる。
IQ らしさ 150% 。
前曲からの重苦しさを受けた虚脱感に惑う序盤のバラードから、へヴィ・メタリックなサウンドの洗礼を経、神秘の渦に巻き込まれながら次第に解き放たれてゆく。
8:40 からの展開は PINK FLOYD の絶頂期に迫り、10:30 からのハモンド・オルガンとシンセサイザー、メロトロンほとばしるクライマックスへの展開はプログレの正典。
轟々と荒れ狂い、やがて浄化のシンセサイザーに導かれて、「歌」の力を静かに鼓舞しつつ終章へと舵を切る。
個人的にも久々の大ヒット。
「Ocean」(5:55)暗い地平線の向こうに曙光がきらめくような希望とオプティミズムが示される。個人的には重苦しさから逃れて安堵できた。
「Until The End」(12:00)広がる虚無感を越える、穏やかで暖かいアコースティック・ギターの和音の響き。
以下ボーナス・ディスクの内容。
「Knucklehead」()冒頭のドラムンベースの人力ブレイクビーツなど、ワイルドな打楽器がカッコいいバラード。
「1312 Overture」()変拍子のアクセントを切り替える派手目の演出の効いた、アルバム本編に収録されてもよかったであろう佳作。ハモンド・オルガンをフィーチュア。インストゥルメンタル。
「Constellations」()
「Fall And Rise」()
「Ten Million Demons」()
「Hardcore」()
(GEPCD 2046)
Paul Cook | drums |
Mike Holmes | guitars |
Tim Esau | bass |
Peter Nicholls | vocals |
Martin Orford | keyboards |
83 年発表の第一作「Tales From The Lush Attic」。
つるりとしたキーボードとギターのアンサンブル、走り気味のリズム・セクション、そして声色を用いた台詞回し風のヴォーカル・スタイルなど、まさしく GENESIS の再来というべき内容である。
GENESIS のエレクトリックなサウンドによるパートのみを抽出したような演奏スタイルというのが、おそらくもっとも適切な表現だろう。
爆発的な何かではなく、何気ないフレーズに微妙な変化をつけた反復と丹念に組まれたアンサンブルによって次第に耳を惹きつけてゆくという、曲づくりの志向にまで影響が感じられる。
一方、シンセサイザーの寒色形の音色とハード・エッジなギターは、さすがにモダン、つまり 80 年代的。
しかし、たとえ音質の違いがあっても、独創性よりも GENESIS への憧れを正面に出すことによって、方向を見出している作品だと思う。
オリジナリティ云々と文句をつける前に、まずは耳を傾けてみよう。
意外や、オープニングの 20 分にわたる大作の完成度の高さに驚かされる。
みんな誰かに憧れて音楽を始めるのさとうそぶいて、聴き続けてみましょう。
「The Last Human Gateway」(19:57)郷愁を誘う温もりあるテーマを巡って繰り広げられる雄大なドラマ。
テンポや調子の変化による緩急巧みな演奏や起伏に富んだ展開など、デビュー作とは思えぬ見事なでき映えである。
やや走り気味のドラムスがあおりたてる演奏も、フレッシュな若さととれれば十分楽しめる。
多彩なシンセサイザーからハモンド・オルガン、メロトロンまで操るキーボードの活躍が大きい。
おだやかなテーマから広がってゆく分かりやすいファンタジー性は、アニメーションのサウンド・トラック向き。
これ見よがしな変拍子パターンによる繰り返しがしつこくてやや辟易するが、8:10 辺りの静かな場面で救われる。
そして、この場面で気づくのは、意外にも演奏が GENESIS よりも YES 風なこと。
ギター、キーボード、ヴォーカル、それぞれに GENESIS 風だが、組み上げたアンサンブルは YES に近い「凝ったロックンロール」である。
「A Trick Of The Tail」を模そうとしたら技量が足りなかったが「The Lamb Lies Down On Broadway」の縮小版ならなんとかなるかも、と判断したのかもしれない。
しかし 84 年でこの音は奇跡的である。
そして、この作風は現在まで基本的に変わらない。
「Through The Corridors」(2:35)
軽快なスピードの感のあるライト・シンフォニック・ロック。
ハケット考案のタッピングを用いているらしきスピーディなギターがリードする。
キーボードも音色こそ凝っている(シンセサイザーのサウンドには独特の光沢がある)が、リフ中心でシンプルかつストレートな演奏だ。
グラムやパワーポップの流れから成立した英国ロックのスタイルである。
「Awake And Nervous」(7:45)シンセサイザーの変拍子リフがドライヴするロックンロール。
オープニングから 7 拍子のシンセサイザーのリフが火をつける。
オルガンとメロディアスなギターに支えられたヴォーカルは、1 曲目よりも遥かに表情にデフォルメがないが、センチメンタルな表情を貫いており、歌そのものは自然でうまく聴こえる。
テンポはここでもあおり気味だ。
そして、間奏のメロトロンのなんと古式ゆかしいこと。
メロトロンはそのままバッキングに進出する。
終盤の鮮やかなテーマ再現含め、曲が一本調子なのをヴィンテージ・キーボードが救っている。
MARILLION 同様、イージーなロックンロールをプログレ風の音で再構築するというのが目的らしい。
革新性はあまり感じられず、音色に飽きると曲の薄っぺらさが辛い。
メキシコの CAST に酷似。
「My Baby Treats Me Right 'Cos I'm A Hard-Lovin' Man All Night Long」(1:45)
マーティン・オーフォードの技量の一端を示す印象派風ピアノ・ソロ。
リック・ウェイクマンの手癖にも似る。(プログレ・ファンはラフマニノフあたりのピアノがみなリック・ウェイクマンに聴こえてしまうのだ)
軽やかに始まり、湧き立つようなリフレインがやがてシリアスに変化してゆく様子がおもしろい。
「The Enemy Smacks」(13:49)
変拍子マニアらしさを徹底する、ダイナミックかつ劇的に展開する佳作。
チャーチ・オルガン風のキーボードによる忙しなくも重厚なリフレインに、ハードなギター・リフがぶつかって火花を散らすイントロダクション。
珍しくストレートにハードエッジなオープニングである。
ギターがリードするテーマには若干のもたつき感るも、軽やかにチェンジするリズムに支えられて、ヴォーカルはなめらかにスタートを切る。
しなやかに躍動しつつも憂いを含んだメロディ・ラインは、初期 GENESIS の名曲「White Mountain」を思わせる。
ヴォーカルこそ精一杯の表情作りを披露するも、演奏がやや単調。
それに気づいているかのように、シンセサイザーが高鳴り、ドラムフィルが無闇にがんばる。
性急で、立ち止れない若さを象徴するような演奏だ。
そのまま、ギターの提示する変拍子パターンにリードされるアンサンブルへと突っ込み、ドラマの展開は静に鳴り響くオルガンに期待している。
反撃に出るギターをつるつるしたシンセサイザーのリフレインが押さえるも、やはりギターが朗々としたプレイで主導権をつかみ直す。
一瞬のブレイクとともに、メロトロンとオルガンのみの伴奏で童謡のようなヴォーカルがみごとな表情を見せて切々と歌い上げる。
ここのメロトロン独奏はこれまでのすべてを忘れさせる効果あり。
しかし、一転、ギターとベースが炸裂し、唸りを上げるハードな展開へ。
仰々しいハードロックだがやはりリフは変拍子。
テンポ・ダウン、位相系エフェクトでにじむギターとキーボードによる怪しげな変拍子アンサンブルがのたくるように続いてゆく。
安定を拒否する、ミステリアスな演出だ。
ギター・ソロからリズムをリセットし、ブルーズ・フィーリングのあるソロがキーボードのバッキングをしたがえて、堂々と演奏をリードする。
吸い込まれるように消える演奏、そして風の音とともにオルガンの調べが厳かに響き渡ると、深い霧の中からピーター・ニコルズの姿が現れる。
ふり絞るような歌唱と気高く厳粛なオルガンの調べ、吹きすさぶ風。
懺悔か悔恨か。
ドラム・ビートの復活とともにギターが再び現れて、朗々と歌い上げ、力強いキメの連続からメロトロン・クワイア、ギターの轟きで大団円である。
起伏の大きな 1 曲目に比べるとやや強引に流れを変えてゆくが、各パートにパワフルな説得力がある。
なかなかの力作だ。
「Just Changing Hands」(5:12)ボーナス・トラック。
レガートなギターのリードによる軽やかな作品。
ヴォーカル・メロディは非常にキャッチーであり、アンコール・ナンバーかシングル向きだろう。
やはりシンセサイザーのソロが面白い。
せわしないトニー・バンクスのようだ。
曲が終り、数分の沈黙の後にインド風の演奏が始まるが、これは何?
元祖 GENESIS クローン(本家は MARILLION)による 70 年代シンフォニック・ロック・リヴァイバル。
大曲を真っ向勝負の正統プログレ的演奏で乗り切る。
その手腕はかなりのもの。
荒削りながらもフレッシュな演奏には成長する勢いがある。
軸となるのは、多彩な音を操るキーボードときわめて個性的なヴォーカルだろう。
ただし、どの曲もテンポが同じ上にドラム・パターンもそう豊富ではないため、単調なイメージが強い。
偉大なるワンパターンというのもあるが、こちらは発展途上と見るべきだろう。
GENESIS を師と仰ぎつつも、どちらかといえば変態的な部分よりも、スピーディで勢いのある部分に憧れているのかもしれない。
フィル・コリンズのプレイには、スピード感とともに安定感とグルーヴがあるので、そこを目指してがんばってほしい。
また、総合的な雰囲気はかなりいい線へ到達しているが、光るメロディやフレーズがないのも残念。
結局、ロックンロールとしていかにカッコよくあるべきかということよりも、GENESIS になりたいという思いの方が、ここでは強烈だったのだろう。
もちろん、GENESIS リヴァイヴァルとしては、かなりの作品であることに間違いはない。
(MAJ 1001 / GEPCD1010)
Paul Cook | drums, percussion |
Tim Esau | Music Man, Fender Jazz & fretless basses, bass pedals |
Mike Holmes | Gibson Firebird, Fender Stratocaster, Coral sitar guitar, Ibanez acoustic guitar |
Peter Nicholls | vocals, tambourine |
Martin Orford | Emulator II, DX7, Oberheim expander, Memory Moog, CS80 |
Arp Odyssey, Roland VK1, Mellotron, Logan string synth, flute, vocals |
85 年発表の第二作「The Wake」。
内容は、第一作と同じく、個性的なヴォーカルと多彩なキーボードをフィーチュアしたヴィンテージ・シンフォニック・ロック。
70 年代初頭のプログレを再現する音作りはさらに充実し、リズム・セクション含め、演奏は飛躍的に安定した。
アップ・テンポで走り捲くった前作とは対照的に、緩急と明暗のメリハリがつき、彫りが深い。
特に、ゆったりと歌い上げるシーンでのパフォーマンスは堂々たるものだ。
目を惹くような場面は多くはないが、ていねいなアンサンブルと多彩なキーボード・ワークによる翳のある雰囲気作りが巧みである。
決めどころでのギターやティム・エソーのベースのプレイなど、「A Trick Of The Tail」GENESIS への意識がたっぷりとある。
重厚な演奏が正統プログレ路線を強調する一方で、ヴォーカル・パートやテーマ部分では軽やかな 80' ポップ風味がストレートに現れる。
それもいい。
今回は、シタールを用いた THE BEATLES を思わせるエキゾチックな作品など、GENESIS クローンから踏み出した独自色も現れている。
MARILLION と比べるとハードロック色がほとんどなく、デリケートでシンフォニックな音の広がりが特徴的だ。
また、クラシカルなチェンバロ・ソロを大胆に放つなど、息を呑むプレイを見せるマーティン・オーフォードは、まちがいなくリック・ウェイクマンやトニー・バンクスといった名プレイヤーの列に並ぶ逸材である。
プログレ不遇の時代の傑作であり、ファンにはド真ん中な作品といえるだろう。
個人的には、GENESIS は、メロディアスというよりはダークで堅固なアンサンブルというイメージが強いので、ここでの解釈には喝采を送りたい。
最終曲は、現在の芸風がここで確立されたことを示す好例。
やや録音が明瞭さを欠くためにリミックス・リマスターが期待される。
ボーナス・トラック 3 曲もかなりの出来。
本作発表後、ピーター・ニコルズが脱退する。
「Outer Limits」(8:14)
ストリングス系の音が空間的かつ幻想的な世界観を提示するシンフォニック・チューン。
ギターは、どちらかといえば、「A Trick Of The Tail」GENESIS よりもハケットのソロ作に通じる音である。
序盤からのストリングス系や中盤のチェンバロなど、キーボードのセンスは抜群。
若々しくも苦味のあるヴォーカルも存在感あり。
オープニングの巧みな語り口や厳かな雰囲気は、このグループの持ち味であり「Subterranea」まで一貫する。
タイトルはアメリカの TV 番組から?
「The Wake」(4:12)
堂々たるミドル・テンポ、きらびやかで 80 年代風のキッチュで無機的なタッチもあるキーボード、ヘヴィにして伸びやかなギター、そして雄々しい歌唱とすべてそろった名作。
ズシンとくるリフ、力強くもひねりのある歌メロがカッコいい。
クラシカルなキーボードのオブリガートがごく自然にフィットするからすごい。
小品ながら不易と流行を両立させ、英国ロックの真髄を見せる。
「The Magic Roundabout」(8:20)
前曲のエンディングとつながる荘厳なオープニングを経て意表を突くハイ・テンポのアンサンブルが突っ走るも、基本は、スペイシーなキーボード・サウンドに抱かれる悠然としたバラードである。
さまざまなキーボードとなめらかなギターが肌理細かなテクスチュアをなして厳かにそそり立ち、目まぐるしいテンポの変化を経て、メロディアスな歌へと流れ込む。
デジタル・シンセサイザーのパーカッション系の音も今となってはなつかしい。
モダンでクリアなサウンドとメロトロンやレガートなギターなどヴィンテージな音を巧みに交えたバラードである。
クリス・スクワイアの作風に近い。
佳作。
「Corners」(6:20)アフロ・アジアン・エキゾチズムあふれる異色作。
タブラやシタールを用いた、意外な音楽性に驚かされるが、アルバムのいいアクセントになっている。
ただし、歌メロはいかにもなニコルズ節であり、アレンジをワールド・ミュージック風に変えてみただけのような気もする。
「Widow's Peak」(9:12)
邪悪なイメージやヘヴィな音も用いた中期 GENESIS またはスティーヴ・ハケットのソロ作風のシンフォニック・ロック。
7 拍子を刻む陰鬱な導入部から、転調を経て明暗を切りかえ、溌剌とした若々しい姿勢と無常観あるロマンチシズムを交差させながら、みるみるうちに高まってゆく。
シンプルなメロディ・ラインながらもポジティヴさの中に屈折もからめるテーマに、GENESIS のイディオムを応用したギター、キーボード、ドラムスで広がりと厚みをつけ、また、込み入ったアンサンブルで緊張感を演出する。
ヴォーカルと呼応しつつ、切れのあるプレイをたたみかけて、哀愁あるドラマを彫り深く刻み込む。
巧みなポルタメント、ディレイ効果による幻惑効果も操るギター・プレイとパワフルなドラムフィルはこの曲の聴き所だ。
初期 MARILLION の作品「Grendel」や「Layleigh」などとともに、ポンプ・ロックの収穫の一つといえそうな作品だ。
「The Thousand Days」(5:12)
シンプルなドラミングによるアップ・ビートと伸びやかなメロディ・ラインがいかにも 80 th ロックらしいキャッチーな作品。
ストレートな曲にもかかわらずベースが活躍するところは、MARILLION によく似ている。
中盤のフンワリしたギター・ソロ、アルペジオの展開は GENESIS そのもの。
スペイシーなキーボードをフィーチュアするエンディングも意外だ。
中盤までの溌剌としたポジティヴな表現方法は後々まで残る。
シングル候補か。
「Headlong」(7:25)
中期 GENESIS に迫る千変万化のアンサンブルと巧みなヴォーカル表現が冴えわたるオペラ調シンフォニック・ロックの傑作。
密やかで悩ましげなトーンと転調とともに訪れる力強い救済。
キーボードの独特のフレージングがドライヴする力強いアンサンブルは非常にスタイリッシュでカッコいい。
レガートなギターはバラード的な表現をヴォーカルと分けあい、支えあう。
終始ヴォーカルと器楽は呼吸よく反応しあい、ドラマティックに展開する。終盤、エンディングのネジを巻くようなアンサンブルはプログレらしい魅力にあふれる。
フレーズをさりげなく浮かび上がらせて耳に残してゆく技は、本家にも匹敵。
余韻が暖かい感動作。
80 年代 YES は、トレヴァー・ホーンを迎えてこういう方向へいけなかったのだろうか。
「Dans Le Parc Du Chateau Noir」(7:37)ボーナス・トラック。84 年のシングル B 面。ギター全開のシンフォニック・ロックの力作。
「The Thousand Days(demo)」(3:55)ボーナス・トラック。デモ音源。リズムがさらに 80 年代っぽい。
「The Magic Roundabout(demo)」(6:27)ボーナス・トラック。デモ音源。
(SAH 136 / GEPCD1011)
Paul Cook | drums |
Mike Holmes | guitars, keebotronics, greech popo |
John Jowitt | bass, backing vocals, crusty warthog |
Peter Nicholls | vocals,backing vocals, giddy aunt |
Martin Orford | keyboards, flute, backing vocals, chiff chaff |
93 年発表の作品「Ever」。
ピーター・ニコルズ再加入後の第一作。
ベーシストも曲折を経てジョン・ジョーウィットに決定。
ダイナミックかつカラフルなサウンドは、少年のような瑞々しさとともに、80 年代を通過したしたたかな逞しさを感じさせる。
現代人の抽象化した内面を描く歌詞もユニーク。
復活作として、世評は非常に好意的なようだ。
透明感あるきらびやかな音像の向こうに、変わらぬ英国の翳を感じ取れればしめたもの。
僕にとって初めての IQ 体験であり、2012 年現在でも、年に二回くらいはアクセスするディスクの一つ。
「The Darkest Hour」(10:53)息を呑むドラムスの連打と唸りを上げるベース。
シンセサイザーがミステリアスに響く。
飛び込むギターとシンセサイザーのユニゾンは、ややありがちな変拍子パターンながらも、それに続くギターとシンセサイザーのかけあいは、軽やかにしてスリリング。
雪崩落ちるようにスピーディなユニゾンの決めもカッコいい。
目のさめるイントロダクションだ。
華麗なるファンタジーといった趣のまま、ギターのアルペジオがきらめき、ヴォーカル・パートへ。
リズムが力強い。
ヴォーカルはとても変わった声の持ち主だ。
歌メロはやや泣きの入った哀願調。
GS風。
バッキングはロックなパワーを見せつける、リズミカルでポジティヴなもの。
ややひずんだベースが演奏をしっかりドライヴしている。
一方、ドラムスはパワフルだがやや単調。
ミックスのせいかもしれない。
間奏はシンセサイザーの刻むハードポップ風リフレイン。
ややシンコペーション。
ここまでは、透明感のある演奏と湿ったヴォーカルの組み合わせがなかなか新鮮だ。
メイン・ヴァースを繰り返して、再び、シンセサイザーのリフレイン。
印象的なギターの下降パターンから、ヴォーカルはサブ・ヴァースを繰り返す。
間奏は、ギターとシンセサイザーの落ちついたかけあいから始まる。
切なく泣くようなシンセサイザーとトリルが特徴的なギターが交互に現れる。
ハケット風のプレイが冴える。
リズムが消えると、幻想的なシンセサイザーが潮騒のように高まってゆく。
湧き上がるヘヴィなギターとベースのリフ。
リズムは重苦しい 8 分の 5 拍子へ。
ヴォーカルが現れ低くつぶやくように歌う。
一転 4 拍子に切りかわると、ヴォーカルはハードロック風のシャウトを見せる。
一人かけあいのような芸が細かさだ。
今度の間奏は悠然と流れるシンセサイザー。
希望のあるポジティヴな響きである。
そしてギターが朗々と歌いだす。
心情をすなおに歌い上げてゆくようなソロは、ギターの可能性がブルーズ系ハードロックにとどまらないことを改めて示す。
GENESIS 以降引き継がれるメロディアスなプレイである。
やがて、ドラムスは消え、リリカルなピアノの演奏が始まるとエピローグである。
ピアノ伴奏で、ヴォーカルは祈りのように安らかで真摯な表情で歌い続ける。
ギターがきらきらと輝く。
救済のあらんことを。
最も暗い時は過ぎ去ったのだろうか。
厳かなシンセサイザーの余韻。
アップテンポの華麗なるロックが切実なメロディアス・バラードへと変貌してゆく劇的な作品。
ヴォーカルは表現力も個性もある傑物。
ただし、私含め、リスナーによっては、抑制を欠いた感情垂流し風のメロディ・ラインに驚く可能性もある。
切実さすらウィットで捻っていたのがブリティッシュ・ロックだったはずと思うが、そういう考え方はもはや今風ではないのだろうか。
ともあれ、主張のある内容であり、ヴォーカル、ギター、シンセサイザーによる透明感のあるアンサンブルがさまざまに変化の相を見せるところが特徴だろう。
前半と後半、どちらでぐっとくるかで 80 年代の過ごし方が分かるような気もする。
とりあえずインパクトはあるオープニング・ナンバーだ。
「Fading Senses」(6:36) 2 部構成の作品。
「After All」(2:28)深い反響とともにたゆとうシンセサイザーとアコースティック・ギターのアルペジオによる幽玄にして気品ある伴奏、そして、歌い出すヴォーカルは物憂くも切実である。
ゆったりとしたテンポで、ポンプらしい繊細でセンチメンタルなメロディ・ラインを主に、明暗、悲喜を揺れ動く。
メロディ・ラインが印象に残るという意味で、佳曲といえるだろう。
やはり PENDRAGON の仲間である。
エフェクトされたベースによる控えめなオブリガートも悪くない。
サビでひそやかに重なるコーラス。
幻想的なドラムレス。
鬱で感傷的なバラードである。
「Fading Senses」(4:08)
雄大にしてエキゾチック、そして不安をかきたてるようなシンセサイザーのほの暗いどよめき。
U.K. のように深く青ざめた世界であり、前半に比して、格段にインダストリアル・ミュージック調である。
ドラム・ロールから力強くリズムが刻まれ、ギターによるテーマの提示。
5 度移動を繰り返しつつ、陰鬱にしてしなやかな、そして劇的な展開を期待させる。
いいテーマだ。
ヘヴィなパワー・コードが放たれると一気に緊張は高まる。
テーマを引き継ぐのはシンセサイザー、そして震えるようなオスティナートで展開を促す。
謎めいている、というか泣き出す寸前のような表情にも見える。
これに応えて、ギターがエキゾチックなフレーズをしなやかに歌い上げ、ベースとドラムスが沸き立つ。
再び、決然たるパワー・コードの連発、そして風に舞うようなシンセサイザーによるダークなテーマ演奏。
重苦しいというほどでないが、切なくも妖しい。
リズムが消え失せ、粛々とコラールのようなシンセサイザーが響き、なぜか鳥のさえずりが聴こえる。
英国らしさ全開のセンチメンタルな弾き語りを、無常感あふれるインストゥルメンタルが受け止める、スケールの大きなバラード。
前半は、しっとりと湿り気のある陰鬱なファンタジー。感傷的だが、高貴なイメージがある。
切々とした語り口は、英国メロディアス・ロックの典型だ。
後半は、迫力あるギターとミステリアスなシンセサイザーの織り成すハードなインストゥルメンタル。
神秘的な主題を、ギターとシンセサイザーでかわるがわる繰り返してゆき、タイトル通り、次第に感覚を消してゆくような効果を上げている。
最後の鳥のさえずりは何を示すのだろう。
翳のある作品だ。
「Out Of Nowhere」(5:10)
ギターとリズム・セクションが強烈なアクセントで叩きつける変拍子リフがフェードイン、同時にメロトロンを思わせるストリングスが轟々と高まる。
一瞬のブレイク、ギターがヘヴィなパワー・コードを刻む。
メイン・ヴォーカルは、シンプルなブリット・ポップ然としたもの。
シンセサイザー、ギターのオブリガートは、同じ路線を走ってきた仲間らしく、JADIS とよく似たセンスである。
曲調のせいもあって、ドラムスは活躍しようがなく、きわめて単調。
間奏もみごとに JADIS 風。
セカンド・ヴァースでは、パワー・コードがオーケストラ・ヒット風のシンセサイザーに変わっている。
間奏では、シンセサイザーとギターがファンタジックに広がる。
再びパワー・コードから、ヴォーカル・パートへ。
ヴォーカルは、テクノなイコライズからエコーが次第に消えて、生音に近づく。
流れ星が降るようなシンセサイザーのオブリガート。
分厚いサビ、そしてオープニングの変拍子リフがリプライズする。
JADIS、MARILLION を思わせるブリット・ポップ・ソング。
イントロのヘヴィな変拍子パターンがなかなかのインパクトをもつが、やはり、「Watcher Of The Skies」からの翻案だろうか。
内容は、ハードで切ない正統的なニューウェーヴ英国ロックである。
ギターのパワー・コードや歌メロ・コーラスは、80 年代ロックや HR/HM を通過した世代の常套句であり、取り立てて四の五のいうものではない。
単なる流行である。
シンセサイザーが背景に徹するのに対して、ギターはピリっとさわやかなプレイである。
特にオブリガートがカッコいい。
ただし、こういう曲調の作品においては、もっと正統的な歌唱を見せるヴォーカリストの方がいいと思う。
「Further Away」(14:30)
夢見るようなキーボードのリフレインに、フルートのクラシカルなメロディが浮かび上がるイントロダクション。
キーボードのオスティナートは、フレーズのアクセントと拍をずらしており、切れ目を感じさせない独特のものである。
華美ではあるが、CAMEL、GENESIS 直系の英国の音である。
そして、歌はメランコリックに、静かに始まる。
今までと比べると表情に抑制の効いたバラードである。
フルートが歌のすきまを縫うように、うっすらと流れてゆく。
底から静かに湧き上がる、泡のようなベース。
ベースのオブリガートからヴォーカルが切なく歌い上げ、ハケット・ギターが柔らかく応える。
降りしきる小雨のようなシンセサイザーのリフレイン。
一転、ヘヴィなギター/ベース・リフが轟き、ドラムスが力強い打撃でオーヴァーラップする。
うねるように凶悪な演奏だ。
うっすらとしたシンセサイザーが通りすぎる。
ベースがスピーディなリフ(カッコいい!)を繰り出し、そのリードで演奏は走り出す。
ヴォーカルはアップ・テンポになっても表情は抑え目。
なめらかなギターによるオブリガートのテーマもいい感じだ。
鋭いベースとギターの対比もみごと。
繰り返しから続くヴァースでは、YES のようなヴァイオリン奏法のギターが伴奏し、荒々しい勢いが次第に和らいでゆく。
しかし、再びヘヴィなリフが復活、仕切り直すかのように、ヴォーカルとともにクライマックス目指して駆け上がる。
シンセサイザーは神秘的な響きでヴォーカルを彩っている。
クライマックスを経て、まずは歌うようにメロディアスなギター・ソロ。
大胆な転調が不思議な浮遊感を生む。
そして、ドラムスの乱れ撃ちが呼び出すのは、怒涛のシンセサイザー・ソロ。
ミステリアスながらも、優美に裾を払う仕草を見せるような、みごとなプレイだ。
切れもシンフォニックな余韻もすばらしい。
この、ギター・ソロからシンセサイザー・ソロという火の出るような展開は、IQ の得意技である。
激しいソロはドラマチックな余韻を残して消え去り、チャーチ・オルガンとストリングスが厳かに響いてゆく。
爆音がよぎる。
目を醒ますように始まる、クリスタルのようなシンセサイザーのリフレイン、そしてアコースティック
ギターの調べ。
イントロのテーマだ。
鮮やかにアコースティック・ギターが駆け下りると、ヴォーカルも戻ってくる。
転がる宝石のようなシンセサイザー、そして竪琴のようなアコースティック・ギターの響き。
ロマンティックなムードが強まる。
間奏は、再びハケット風の静かなギターの調べをプロローグに、力強くも思い切りメロディアスに泣くギター・ソロへ。
メロディック・マイナーの HM 調になりそうでならないのは、常に品があるからだろう。
優美なフルート、シンセサイザーのリフレインを経て、最後は、ギターがそのシンコペーションのテーマを引き継ぎ、最後のヴァースへ。
和み調のオプティミスティックな演奏が続く。
チャーチ・オルガンとギターのテーマが流れ、ヴォーカルが最後の一言を高らかに決める。
そして、なめらかなギター・ソロからフェード・アウト。
ポンプ・ロックの完成形たる大傑作。
硬軟ダイナミックに展開しつつもあくまでファンタジックな曲想を貫けるのは、華麗な音色と切なくも抑制の効いたメロディ、手応えのあるヘヴィネスなど、すべてがバランスよく揃って、配置されているからだろう。
求め訴えかけるヴォーカル、歌うようにメロディアスながらも品のあるギター、優美にしてぞっとさせるようなエキセントリシティもあるキーボードらががっちり組んだアンサンブルは、ストーリーを追わせるだけの説得力をもっている。
モダンなキツメのデフォルメが効いた表現ながらも、流れがいいために、自然な聴き心地がある。
やはり大切なのは、曲なのだ。
序章のイントロであるシンセサイザーのリフレインと 二章のオブリガートのギターが、終章ではすべて再現し、クライマックスへ向けて駆け上がる。
ポンプ嫌いの方は、何度が聴くうちに、派手な表層の下の熱く誠実な魂に触れることでしょう。
次作「Subterranea」に直結する内容である。
「Leap Of Faith」(7:22)
ロマンティックなピアノが刻むイントロダクション。
ピアノのテーマをそのまま受けて、ヴォーカルは切なくも朗々と歌い出す。
リズム、ギターの一撃とともに、ヴォーカルは心意気を取り戻し、力強い歌唱へと表情を変化させる。
あたかも対話のようにマイナーの問いかけメロディとシンフォニックに強まる受けのメロディを組み合わせ、センチメンタルながらも、なかなかキャッチーな印象を与えるバラードになっている。
ヴォーカル・パートの終焉とともに、尾を引くようなシンセサイザーの響きとともに、アコースティック・ギターによる丹念なフレーズが刻まれる。
リズムは消え、メロトロン・クワイア風のシンセサイザーがゆるやかに流れる。
幻想的な空間に漂うように、再び、ヴォーカルが密やかに語り始める。
神秘的な効果を生むコード進行だ。
巨大な生き物の鼓動のように低音が蠢いて、空間の広がりが強調される。
神秘の精神世界を漂流する、そんな感じだ。
吸い込むようなシンセサイザーの余韻、そして、一転、鮮やかなシンセサイザーの変拍子(4+3+4+6)リフレインが繰り返され、しなやかなギターとの呼応が始まる。
ギターは、シンセサイザーを受けて、力強くしなやかなソロを放つ。
キーボードとギターは一体となって、主従の関係とリズムを変化させながら、目まぐるしい演奏を繰り広げる。
やがて、ギターとキーボードは互いに主となり、交互に演奏をリードしてゆく。
ギターは 7 拍子のテーマを再現し、湧き上がるクワイアとともに、無限の広がりを示し、やがて夕暮れの光のように薄くなってゆく。
前半は得意の重厚な泣きのバラード、そして後半はリズム・チェンジをたたみかけるインストゥルメンタル・パート。
ピアノ、アコースティック・ギター、シンセサイザーとキーとなるリフレインが序盤から微妙に変形されて引き継がれてゆく。
リズムに凝ってスピーディに変化するあまり、インスト・パートの序盤でやや焦点が定まらない感じもあるが、次第に演奏は熱気を帯び、最高潮に達する。
ここまでの本アルバムのモチーフが、変形されて再現されているようなところもある。
特に、ギターにリードされる終盤は、かなり感動的。
そして、エンディングがそのまま次曲への橋渡しとなってゆく。
しなやかな美しさを持つロック・シンフォニー。
「Came Down」(5:57)
前曲のギターによるシンフォニックなテーマから、そのままフィナーレの本曲へ。
おだやかながらも、きっぱりとした力強さを感じさせるテーマだ。
ヴォーカルは、ギターのメロディをそのまま歌へとおきかえてゆき、ギターは静かにオブリガートする。
シンセサイザーとドラムスによるドラマチックなブリッジ、そのままシンセサイザーのバックアップも受けて、ヴォーカルは情感たっぷりに高らかな歌唱を見せる。
ハーモニーも加わって厳かで清らかなイメージも強まる。
間奏は悠然たるギターだ。
誠実なビート、心暖まるメロディ・ライン、そしてやさしく訴えかけてくるヴォーカル。
再び、メロディアスなギターが朗々と歌を綴ってゆく。
なだらかなデクレシェンド、そしていつまでも余韻を連ねてフェード・アウト。
シンフォニックな高まりを誠実な演奏でエンディングへと導く終曲。
きわめてストレートな展開ながらも、胸が熱くなるのは、あふれる情熱を穏かな語り口へと包み込んだ、大人の表情をもつからだろう。
なだめ諭し、癒し導く、そんなイメージのフィナーレである。
これだけ感傷的なのに、やはりポジティヴなのだ。
華美でダイナミックなサウンドに内省的な表情が浮かび上がる、現代英国ロックの名作。
キャッチーなのに湿り気を帯びたメロディと、ふとうつむいてしまうような曲調にかわらぬ伝統を感じる。
総じて情感たっぷりの、劇的な表情を次々と見せる演奏だが、過剰にベタベタしておらず抑制が効いているところがいい。
特にギターはストイックな姿勢が感じられる。
酔っても乱れぬ美しさである。
またかなりハードな音質にもかかわらず、同時に透明感がある。
この辺はいかにも現代のグループという感じだ。
音質の硬軟のバランスもいい。
シンセサイザーはあまりに自然に背景を染め上げており、空気の如くなっているが、全体の空気感を決めているのは間違いない。
いわば、PINK FLOYD のリック・ライトのような伴奏と GENESIS のトニー・バンクスのようなソロのコンビネーション。
この演奏が、GENESIS のコピーからポップ路線を経て獲得したスタイルだとしたら、何とすばらしい精進だろう。
ブリティッシュ・ロックも IQ と JADIS がいれば大丈夫だ、と思わせる一枚。
ロックなパワーとセンシティヴなまなざしがうれしい大傑作。
(GEPCD1006)
Paul Cook | drums, percussion |
Mike Holmes | guitars, guitar synthesizer |
John Jowitt | bass, bass pedal, backing vocals |
Peter Nicholls | vocals |
Martin Orford | keyboards, backing vocals |
96 年発表のアルバム「Forever Live」。
93 年「Ever」ツアーのドイツ公演でのライヴ録音。
スリーヴを読む限り相当に準備に気合が入った収録であったらしい。
そのおかげで、演奏は非常に充実している。
録音もいい。
冴え渡るマイク・ホームズの個性的なギターを始め、すべての音が生きていて、スタジオ盤を楽々越えるプレゼンスを見せる。
他のアルバムからもまんべんなく選曲されており、ベスト・アルバムとしても機能する。
「The Wake」(5:11)第二作より。タイトル曲。
「The Darkest Hour」(10:28)「Ever」より。徹底してウエットな歌唱でドラマを描く。
「Widow's Peak」(09:33)第二作「The Wake」より。GENESIS を追いかけた正調ネオプログレ路線の力作。
「Out Of Nowhere」(05:16)「Ever」より。ビートの効いた生意気ブリット・ロック。
「Nostalgia / Falling Apart At The Seams」(10:50)「Are You Sitting Comfortably?」より。
インストゥルメンタル。
「The Last Human Gateway (Middle Section) 」(04:06)第一作「Tales From The Lush Attic」より。
「Fading Sensed」(06:55)「Ever」より。
「The Thousand Days」(04:21)第二作「The Wake」より。
「Leap Of Faith」(07:08) 「Ever」より。
「Human Nature」(10:10)「Nomzamo」より。
「The Enemy Smacks」(15:58)第一作「Tales From The Lush Attic」より。
「Headlong」(07:40)第二作「The Wake」より。
「The Last Human Gateway (End Section)」(08:00)第一作「Tales From The Lush Attic」より。
「No Love Lost」(05:51)「Nomzamo」より。
(SPV 089-2446A DCD)
Paul Cook | drums, percussion |
Mike Holmes | guitar, guitar synth |
John Jowitt | bass, vocals |
Peter Nicholls | lead vocals |
Martin Orford | keyboards, vocals |
guest: | |
---|---|
Tony Wright | saxophone |
97 年発表のアルバム「Subterranea」。
四年ぶりの新作は、CD ニ枚組 100 分あまりのトータル・アルバムの超大作。
内容は、抒情に湧きかえる幻想的なシンフォニック・ロック。
キーとなるテーマ(Kaspar Hauser 伝説の翻案)を巡って重厚な音楽ドラマが繰り広げられる、スケールの大きな作風だ。
「The Wake」をグレード・アップしたようなサウンドといってもいい。
ブリット・ポップの伝統を踏まえた湿り気のあるキャッチーなメロディと、ストレートに叩きつけるビートに身を委ねるうちに、GENESIS、YES 的な 70 年代シンフォニック・ロックのイメージを越え、PINK FLOYD 的とすらいえる、雄大かつ思弁的な世界がじわじわとしみてくる。
ヘヴィなギターと透明感あふれるシンセサイザーが支配する空間に、ピアノとヴォーカルが悠然とファンタジーを描いてゆき、いつしか深い物語の世界へと足を踏み入れている。
シンプルといっていいほどスリムになった音は、テーマをくっきりと浮かび上がらせ、同時に消え去ることのないメランコリーの翳りを気づかせる。
抽象的ながら含みのある歌詞も特徴的。
前作のはちきれんばかりの創造性を柔和なメロディにとかしこみ、耳になじみやすい音をつくりあげている。
それでいて深い。
もはや英国ロック・シーンを支えるグループの一つといってもいいだろう。
70 年代以前のロック・ファンの方々は、この音色とシンプルなドラム・ビートに慣れないかもしれませんが、一回で辞めずに繰り返すことをお薦めします。
いったんなじむと、このサウンドが、いわゆる往時の単純な再現やクリシェのつぎはぎでは決してない、優れたプレイヤーによる一流の解釈による音楽であることに気づきます。
最高傑作といっていいでしょう。
「Overture」(4:38)オーケストラのチューニング風景に始まるインストゥルメンタルによる序曲。
クラシカルなポリフォニーとヘヴィなサウンドががっちりと手を組み、深く澱むようなプレイと流れるようなトゥッティが交差する。
さまざまな主題を惜しげなく提示し、神秘と力強さが一つになった名曲だ。
オーフォードのピアノとギターの胸躍る交歓、そして重厚なストリングスのざわめき。
ぐいぐいと曲をドライヴするシャフル・ビート、華やかなピアノとうねるようなギター。
ポリリズミックなアンサンブルも交え、緊張を高めている。
目まぐるしい変化がさほど意識されないくらい自然な流れのある名曲だ。
ネタバレ風で申し訳ないが、以後のすべてのモチーフがここで現れる。
「Provider」(1:36)やがて訪れたほの暗い空間に、ニコルズの朗唱が響き渡る。
ゆったりと漂い渦を巻くシンセサイザー。
そして重々しく鉄の門扉が開かれる。
ここまでドラマティックな序章である。
「Subterranea」(5:53)蠢くエレクトリック・シーケンス。
ベースが牙を剥きスリムなビートが炸裂する。
そして、ブリット・ロックらしいロマンティックなメロディと血気盛んなギター・リフ。
ヴォーカルには若々しくピュアな輝きと、暗く病んだ澱みの二面があるようだ。
泣かせるサビ。
エッジ風のギターのオブリガートがカッコいい。
昔のデジタル・シンセサイザーのようなシーケンス・フレーズも微笑ましい。
ふと立ち止まり、吹きすさぶ風のようなメロトロン(シンセサイザーでしょう)がたゆとう辺りは、さすがに完璧。
エンディングのつややかなサックスが新鮮だ。
THE FLOWER KINGS の影響でしょうか。
英国ロックの王道をゆく出色のタイトル・チューンである。
ポップで明快そして許せるウェットさ。
「Sleepless Incidental」(6:23)
前曲の余韻を受けるメランコリックなアコースティック・ギターのストローク。
哀しきステップで跳ねるようなプレイが、静かな緊迫感を生む。
ヴォーカルも、いつの間にか悩ましげな表情と切実な響きが強まっている。
そして一気にギターが轟くヘヴィな演奏へ。
ワイルドなギターとオルガンの交歓、そして叩きつけるようにポリリズミックな変拍子アンサンブル。
バックではストリングスがシリアスに高鳴り、ヴォーカルは再び不安げな表情を一瞬垣間見せる。
間奏は心の流れを読むかのように、一転して厳かなチャーチ・オルガン独奏。
ムードは次第に謎めいてゆく。
そしてここからがプログレ全開なのだ。
スネアのロールに導かれて、まずはゆったり波打つようにレガートなシンセサイザー・ソロ。
音もプレイも GENESIS を思わせるファン直撃のプレイだ。
そしてクロス・フェード・インするギター・ソロ。
独特の味わいのあるベンディングと消え入るような歌い方は、まさしくハケット。
エンディングはバルトーク調の重苦しいストリングスが蠢く。
歌・演奏ががっちりと曲を作り上げるプログレ傑作。
さまざまな雰囲気を流れるようによどみなく描いてゆく。
終盤のインストは本作でも屈指の名演。
「Failsafe」(8:57)こぶしを突き上げるようにワイルドに高鳴るギターのパワーコード・リフ。
自らレガートなフレーズとヴァイオリン奏法で受けては、再び力強く咆哮する。
なめらかに駆け下りるオルガンのオブリガート、そして力任せのドラムスの打撃。
シーケンス風のシンセサイザーが冷ややかに渦を巻き、狂言回しのモノローグのようなヴォーカルが始まる。
後期の PINK FLOYD を思い浮かべて正解である。
奇抜に誇張されたヴォーカルの表情。
ヴォーカルに影のようにつき従う怪しいハーモニー。
ところが、サビは意外にもキャッチーであり、健康的に盛り上がるのだ。
シンセサイザー、ギターの伴奏もハードポップ調の押しの強さである。
間奏はギターとオルガンが力強く轟いた後に、なめらかなギターが自ら受ける。
陰陽の変化がみごとだ。
ここだけならヒットチャートを駆け上ってもおかしくない。
そして、シーケンス風のシンセサイザーが奏でていたリフレインを、今度は優美なピアノが再現。
ロマンティックな高まり。
「I don't know...」
続いてピアノの刻むビートとともに、正調 THE BEATLES 風のシアトリカルなヴォーカルが待つ。
マッカートニーならイコライザでラジオ・ドラマ風に決めるところである。
シンセサイザーがゆるやかにたゆとうなかを、エモーショナルなキメの朗唱、そしてギターが勇躍立ち上がり、ネジを巻くように激しいトリルによるリフレインが轟々と炸裂する。
ヘヴィなギターとオルガンがドラムスの連打とともに、ボレロを思わせるトゥッティ。
「Watcher Of The Skies」を思い出さずにいられない。
そして大団円は、オルガンとギターの深くラウドな響きに支えられたメロディアスで伸びやかな歌である。
キャッチーな歌は、感動的な広がりとオプティミズムをふりまきつつ、ヘヴィな演奏へと呑み込まれてゆく。
パワフルな演奏をキープしつつ、次々と表情を変化させる展開がみごとな THE POLICE 風のハードポップ大作。
ハードなリフからメロディアスなソロまでギターがキーとなっている。
物語性のある内容にウソっぽさがないのは、ギターによってハードな調子が維持されているからだろう。
歌詞にも含蓄がある。
前曲からここまでの流れが最初のクライマックス。
「Speak My Name」(3:34)慈愛のバラード。
静かに光を揺らすストリングスは天上の調べ。
時を刻むピアノのストローク。
間奏はアコースティック・ギター・ソロ。
ストリングスの柔らかな響きにたゆとう美しいバラード。
水の底から水面を眺めるような明暗の揺らぎ。
「Tunnel Vision」(7:24)
再び激しく和音を叩きつけるギターと高鳴るオルガン。
ヴォーカルもワイルドな調子へと表情を一転させる。
オブリガートのギターが凶暴だ。
完全にハードロックである。
しかし、サビでは、またも哀願調の独特の表情を見せるヴォーカル。
そして、ほの暗く歌を照らし、ゆったり波打つストリングスの調べ。
間奏のギターは、荒々しく歪みながらも泣いている。
サビをなぞるギター、シンセサイザーのデュオ、ヴォーカルもすぐに戻って追いかける。
いつの間にかすっかりメロディアスでシンフォニックなバラードへと変わってしまった。
サビの最後が吸い込まれるように消えてゆくと、シンセサイザーのリフレイン、そしていつの間にか音はオルゴールのように変化する。
そしてゆったりと哀しげに語り始める金管風のシンセサイザー。
オルゴールのようなリフレイン。
演奏とヴォーカルの一体感あふれるシンフォニックなバラード。
ヘヴィな演奏がいつしか翳のある幻想世界へととけ込んでゆく。
「Infernal Chorus」(5:09)
1:48 の悲劇的な重厚さをもつピアノのリフレインは第一曲で提示されたもの。
「King Of Fools」(2:02)
低くざわめく弦楽、モールス信号とともに、オルガンがゆっくりと立ち上がる。
声をひそめるようにヴォーカルが歌いだす。
歌うというよりは、呪詛のつぶやきである。
あえぐような苦しげな息づかい、笑い声、重苦しい弦楽の響き。
点描風のオルガンが消えてゆくと、心臓の鼓動のような音が残る。
ダークなブリッジ風の小品。
理不尽な暴力への静かな怒りをイメージさせる音である。
ヴォーカルのメロディは第一曲でピアノが提示したワンノート連続のテーマ。
「The Sense In Sanity」(4:47)
ヴァイブ風のシンセサイザーによる 7 拍子のリフレイン。
ジャケットのイメージそのままに、うす暗い河のように流れ続けるストリングス。
ヴォーカルは密やかに「Provider」の変奏曲を歌いだす。
厳かなストリングスが支えるサビでは、救済を求めるような調子も現れる。
ドラムレス、ほのかなエキゾチズムも香るニューエイジ風の歌もの。
全体に悲劇的な重厚さがある。
次第に説得力を増してゆくヴォーカルがみごと。
「State Of Mine」(1:59)クロス・フェードで激しく立ち上がるのは、1 曲目の主題変奏のようなダイナミックなインストゥルメンタル。
オルガン系シンセサイザーが朗々と歌い、ギターが切り裂くようなパワーコードを叩きつける。
そして、木管を思わせるシンセサイザーのオブリガートが凛と応戦する。
ふと、ここまで CD#1 の構成がほぼシンメトリックであることに気づき、驚愕。
シンセサイザーをリードにしなやかに疾走し、パワフルなリズムが大見得を切る。
CD#2 へ思わず手が伸びる「To be continued」効果抜群の名作。
一瞬といっていいほど短いですが痺れるほどにスリリングでカッコいい演奏です。
「Laid Low」(1:29)
ロマンティックなソロ・ピアノが、CD#1 最終曲の主題を変奏していることに気がつくのに、さほど時間は要らないだろう。
ギターもむせび泣く、エモーショナルなデュオである。憂鬱さと夢見心地。
「Breathtaker」(6:04)
勇壮で仰々しいシンセサイザーのテーマは、CD#1 の序曲の冒頭に提示されたものである。
決意を叩きつけるかと思えば、揺らぐようにデリケートな表情を見せるヴォーカルを、ギターの咆哮とメタリックにして幻想的なシンセサイザーが取り巻く。
インダストリアルというかエキゾチックというか、冷ややかなパーカッションも空ろに鳴り響く。
英国ハードロックの遺伝子がある。
「Capricorn」(5:16)
サックスをフィーチュアした 80 年代テイストのバラード。
声質や歌唱法のせいもあるのか、センチメンタルなイメージが強い。
入魂のギター・ソロ。
「The Other Side」(2:22)
デジタル・シンセサイザーのパーカッシヴなサウンドを活かしたファンタジックなインストゥルメンタル。
「Unsolid Ground」(5:04)
ポジティヴで明朗な突き抜け感あふれる、アップテンポの作品。
ただし、ヴォーカルはしっかりと歌い込んでいる。
卓越した水準のネオ・プログレ・チューン。
「Somewhere In Time」(7:11)
この曲くらいでディスクのどの辺りを聴いていたのか、道に迷う可能性がある。
メロディ・ラインがややワンパターンであること、提示されたいくつかのテーマを繰り返し使っていること、一つの曲の中でそれらのテーマを駆使して目まぐるしく展開することなどが理由だろう。
この曲だけ取れば、多彩な表情、多面的な表現を独特の耽美なタッチで一貫した力作であり、本アルバムの代表曲といってもいい。
「High Waters」(2:43)
ピアノ伴奏のバラードから前曲のリプライズへ。すでに曲ごとに切ることはあまり展開に関係がない。怒涛の終章への一段落である。
「The Narrow Margin」(20:00)
往年の YES を継承し、THE FLOWER KINGS が参考にしたに違いない傑作。
力みを一度抜いてから、重苦しさを払拭するように慈愛とエネルギーに満ちた最高潮へと駆け上がる演出がにくい。
(GEPCD1021)
Paul Cook | drums, percussion |
Mike Holmes | guitars, bass pedal, keyboards |
John Jowitt | bass, backing vocals |
Peter Nicholls | lead vocals, backing vocals |
Martin Orford | keyboards, bass pedal, backing vocals |
Tim Esau | bass, backing vocals |
Paul Menel | lead vocals |
99 年発表のアルバム「The Lost Attic」。
未発表曲やファン・クラブ向けシングルなどをまとめた編集盤。
既発表曲ではさまざまな遊びを見せつつも充実した演奏力を示し、未発の作品でも芸風は安定しており、完成度は高い。
珠玉のブリティッシュ・ロック・アルバムである。
「The Universal Scam」(5:05)97 年録音。「Subterranea」のアウト・テイク。未発表曲。
「Wintertell」(3:01)83 年録音。アコースティック・ギター伴奏の 初期 GENESIS 風リリカル・バラード。未発表曲。
「The Last Human Gateway (Middle Section) 」(4:01)92 年録音。ファン・クラブ配布用シングル。第一作の楽曲からの抜粋。
「Hollow Afternoon (1999 Recording)」(4:41)99 年録音。ライヴでの配布用シングル曲。オリジナル録音は 12 曲目にあり。未発表曲。
「Apathetic And Here, I...」(7:26)94 年録音。ジェフ・マン作。マンの楽曲のカヴァー盤への提供曲。後半のニコルズの歌唱は似せている?
「N.T.O.C. (Resistance)」(4:49)92 年録音。ドイツで発表された編集盤への提供曲。
「Eyes Of The Blind」(3:14)97 年録音。「Subterranea」のアウト・テイク。未発表曲。慈しみある音。
「Barbell Is In (12" Lizard Mix)」(6:29)84 年録音。シングル。珍しくレゲエ。
「The Bold Grenadier」(3:38)87 年録音。ファン・クラブ配布用シングル。ヴォーカリストはポール・メネル。トラッドのアレンジ。
「My Legs」(2:16)83 年録音。未発表曲。というか声色を使った冗談寸劇。
「Fascination」(5:53)87 年録音。ファン・クラブ配布用シングル。ヴォーカリストはポール・メネル。軽い変拍子ニューウェーヴ。
「Hollow Afternoon」(4:51)84 年録音のライヴでの配布用シングル曲。
「Awake And Nervous (Radio Session)」(7:10)84 年録音。BBC 番組用。未発表曲。
「Just Changing Hands (Radio Session)」(5:17)84 年録音。BBC 番組用。未発表曲。
「Widow's Peak (Radio Session)」(8:52)84 年録音。BBC 番組用。未発表曲。
(GEPCD1024)
Paul Cook | drums, percussion |
Mike Holmes | guitars, guitar synthsizer, keyboards |
John Jowitt | bass, backing vocals |
Peter Nicholls | lead vocals, backing vocals |
Martin Orford | keyboards, backing vocals |
2000 年発表のアルバム「The Seventh House」。
作風は変わらず。
耽美にして俊敏、陰陽のバランスも取れたブリティッシュ・シンフォニック・ロックの王道を誠実に行く。
ロックっぽさのあるニコルズの歌唱と多彩なキーボードは、若さをキープしたまま円熟へと向かう。
今回はギタリストの活躍も目覚しい。(マーティン・オフォードがフル参加できなかった分を、作曲、演奏面で補っているそうだ)
他のポンプ系のグループがメタルがかるかメロドラマ路線に走っているのときわめて対照的に、ポジティヴでオプティミスティックな力強さと大人の落ちつきを兼ね備えた、悠然としたプレゼンスで構えている。
正直にいって、メロディ・ラインはややワン・パターンかもしれないが、それはもはや持ち味としてとらえれば、THE FLOWER KINGS、SPOCK'S BEARD とともに現代シンフォニック・ロックの牽引車の一つといっていい。
また、MARILLION とともに、ブリティッシュ・ロックの伝統の正統後継者でもある。
スペイシーにして幽玄な広がりをもつファンタジーとしても一級品。
タイトルは「黄道第七宮」の意味だと思いますが、何か含みがあるのでしょうか。
プロデュースは、ギタリストのマイケル・ホルムズ。
「The Wrong Side Of Weird」(12:24)
ウェットなメロディを弾むようなリズムで包んだ、はつらつとした傑作。
飛び跳ねるばかりではなく、後半には虚無の翳りへと沈んで空ろに歌い込み、再び、吹っ切れたように、躍動の高みを目指すなどみごとな表情の変化を見せる。
オブリガート、間奏やバッキングなどギター・プレイはきわめて的確。
また、シンセサイザーは序盤より深宇宙を舞うオーロラのように神秘的で華麗なプレイを放ち続ける。
前々作「Ever」の雰囲気に近い、出色のオープニング・チューン。
「Erosion」(5:44)
おそらく前作のテーマの続編と思われるダーク・チューン。
オープニングのストリングス・キーボード、ヴォーカルを支えるメロトロンに直撃されないリスナーはいないはず。
「The Seventh House」(14:27)
凝ったリズム処理が特徴的なドラマティック大作。
アコースティック・ギターのさざめくようなアルペジオが支える感傷的な序盤を経て、ヘヴィなギターとともに力強く立ち上がってゆく。
前曲はキーボードをフィーチュアしていたが、ここではピアノ、ハモンド・オルガンをアクセントにしながらもギターが中心となっている。
8 分の 6 拍子に切り替わった後のギターからヴォーカルへの展開のカッコいいこと!
そして、クラシカルなピアノに 8 ビートが重なってゆき、ギターのリフとシンセサイザーがポリリズミックな演奏を繰り広げる。
渦を巻くようなトリッキーな演出がみごとだ。
終盤は、シュアーな 4+3 拍子で、重厚かつ感動一直線な盛り上がりを見せる。
これでアルバムが終わってもおかしくないほどのクライマックスです。
初めて気がついたが、ポジティヴに歌い上げるときのニコルズの声、表情は、YES のジョン・アンダーソンによく似ている。
「Zero Hour」(7:11)
70 年代のプログレにはなかった音を用いた、円熟のネオ・プログレ。
シンフォニックというよりは現代のブリティッシュ・ロックというべきか。
サックスが新鮮だ。
終盤、フィードバックを織り込んだギター・ソロがみごと。
裏 JADIS でしょうか。
「Shooting Angels」(7:22)
ジャジーなギターとシンセサイザーによる幻想的な序章に導かれ、メイン・パートはヴォーカルとともにシンプルなビート感で迫るギター・ロック。
ヴォーカルがリードする耽美なメロディを、歯切れいいドラムス、ヘヴィなギターが守り立ててまっすぐ進んでゆく。
間奏から、序章を回顧する神秘的なパートを交えるも、切ないギターとともにロックらしさにこだわるような演奏を見せる。
サックスや「Angel」ヴォーカル・ハーモニーには、POLICE や U2 のような 80 年代英国メジャー・シーンを思わせるものがある。
「Guiding Light」(9:59)
ピアノが美しいタッチで描くロマンティックな前半から、しなやかなギターに導かれて、ケレン味たっぷりのクライマックスへと進む大傑作。
もはや特許といえる水墨画のようなシンセサイザーに浮かび上がるニコルズの哀愁ヴォイス。
その歌唱もみごとだが、衝撃的な破断点を経て 2+3 拍子に突っ込んだ後のシンセサイザーとギターのインタープレイこそが、本作最大の見せ場だろう。
前作の「Sleepless Incidental」をクラシカルにしたようなスリリングな演奏だ。
プログレど真ん中でありながら、どこまでもロマンティックなところが涙を絞る。
もっともっと余韻を引っ張っていただきたかった。
(GEPCD1028)
Paul Cook | drums, percussion |
Mike Holmes | guitars |
John Jowitt | bass, backing vocals |
Peter Nicholls | lead vocals, backing vocals |
Martin Orford | keyboards, backing vocals |
2004 年発表のアルバム「Dark Matter」。
YES、GENESIS らの衣鉢を継ぐ、ダークでキャッチーな英国メロディアス/シンフォニック・ロックの王道的作品。
前作が「Subterranea」の続編的なイメージがあったのに対して、本作ではより多面的な表情で IQ の魅力を出し切っている。
映画音楽を思わせる奥深いストリングスの調べが、いつしかハモンド・オルガンの挑戦的なリフへと吸い込まれてゆくオープニングから重厚なエンディングまで、めくるめくロックの旅路をしなやかに力強く走り抜けてゆく。
叙情的な場面の表現にはデリカシーと清潔感、ストイシズムがあり、さまざまな矛盾を抱えつつも、決して永遠の青年としての純粋な視線を失わないような決意が感じられる。
全体に、サウンドは翳りを持ちながらも透明感があり、クリアー。
メロトロンやハモンド・オルガンのようなヴィンテージな音とモダンな音をしっかりブレンドした上で、デジタル技術で仕上げた印象である。
アコースティックなサウンドも活かした、透明度の高い海の底をのぞくような薄暗く広がりのある音は、スティーヴ・ハケットの近作にも通じないだろうか。
今回はハモンド・オルガンが大きくフィーチュアされているため、初期の SPOCK'S BEARD と同じくナチュラルな 70 年代テイストがある。
全体に、自分の作風をよく知って明快な作りを心がけたようなイメージである。
最終曲は 20 分を越える「Suppers Ready」ばりの力作。
華やかさは前作に一歩譲るも、重厚なロマンをたたえる作品といえる。
個人的には、間違いなく 2004 年ベスト 5 に入ります。
THE FLOWER KINGS や SPOCK'S BEARD から 復活 LE ORME、果ては AFTER CRYING や TEMPANO などの辺境勢力に押され気味だった英国が、ひさびさに放ったシンフォニック・ロックの大傑作。
すさまじくカッコいい 7 拍子パターンのみならず、彼らはすでにプログレの極意をほとんど会得しているような気がします。
キーボーディスト、マーティン・オーフォードが参加した最後の作品となった。
「Sacred Sound」(11:40) 安定した悠然とした語り口でリスナーの心に忍び込み、しっかりと根をはってゆく熟練の作風。
ほの暗くもしなやかな流線型のアンサンブルが自在のステアリング捌きのクルージングを見せる。
「Ever」から変わらぬ IQ 節である。
冒頭からの伝家の宝刀「7 拍子のオルガン・シーケンス」のみごとなキレは、追いすがるイタリア勢や米国勢を一気に突き放す。
「Red Dust Shadow」(5:53) 空ろな響きの内省的なバラード。メロトロンの使用文脈が最近のポストロック勢によるものよりも適切なような。(要はプログレということですね)
「You Never Will」 (4:54)キャッチーなメロディが耳に残る佳作。激しく湧き立つメッセージと音の中で、ふと我に帰るような瞬間がある。
エキゾティックな音階によるシンセサイザー・ソロ。 ギターの演奏が、中後期の CAMEL を思わせる。
「Born Brilliant」 (5:20)本アルバムに共通するストリングス、コラール系の薄暗い音像。アカペラ風の存在感あふれるヴォイス。鋼のように硬質で弾力に富むリズム・セクション。ディレイを効かせたギターがカッコいい。
「Harvest Of Souls」 (24:29)
びっくりするほど至福感あふれるアルペジオで幕を開ける超大作。
6:40 辺りからの攻撃的なアンサンブルは全盛期の YES に迫るカッコよさ。
THE FLOWER KINGS の新作タイトル曲同様、「America」がキーワードとなる。
2001/9/11 への鎮魂歌、いや黙示録? そしてもちろん「Suppers Ready」へのオマージュ。
(GEPCD1034)
Andy Edwards | drums, percussion |
Mike Holmes | guitars, keyboards |
John Jowitt | bass |
Peter Nicholls | lead vocals, backing vocals |
Mark Westworth | keyboards |
2009 年発表のアルバム「Frequency」。
2005 年にポール・クックが脱退、2007 年にはマーティン・オーフォードが脱退し、それぞれ新メンバーに代わっている(ただし、本作のツアーではオリジナル・ドラマーのポール・クックが復帰しているようだ)。
内容は、ストレートでダイナミックにして翳りのあるシンフォニック・ロック。
今回の特徴的なのは、年降るに連れ深まる無常感や感傷の果ての叙情味とともに、弾力的で力強い音が目立つところ。
メロディ・ラインにしても演奏スタイルにしてもすでに独自の色をもっているので、他作品との区別は歌詞にも通じないと難しい。
いえるのは、今回はリズムのキレのよさとともにアンサンブルにがっしりとした骨格が感じられる、ことだ。
重厚という語には寡黙で動きが少ないイメージがあるが、この作品は、重厚なのに巨大な運動のエネルギーも放射している。
この変化、一つにはフロントのヴォーカルをある時は音数で追い立て、ある時は阿吽の呼吸で絡み、多彩な打撃を見せるドラムスによると思う。(アンディ・エドワーズはロバート・プラントのグループのドラマーをつとめた腕達者)
ドラマーの交代による演奏面の変化というのは、なかなか大きいようだ。
ジョーウィットも負けじと大胆にフレットを攻めている。
新キーボーディストは、サンプリング・メロトロン/ストリングスによるバッキング、さらりと決めるアコースティック・ピアノ、オルガンや豊かな音色のシンセサイザーによるオブリガートなど、演奏は卒なくこなしているし、SE やノイズによるムードつくりでヴォーカルを支えるのも巧みである。
個性、持ち味を出しきるのはこれからだろうが、静かながらも確実な存在感を示しているといっていい。
また、ホルムズのギターとギター・シンセサイザーは本作でもみごとな冴えを見せる。
難しいことをやらなくてもスリリングでカッコいいフレーズを作れるのが、この人のすごいところだ。
そして、ニコルズの歌唱には、いささかの衰えもない。
声質は驚くほど若々しく、独特の苦味もあり、「Ever」の頃とさほど変わらない。
冒険も忘れていない。
今や、完全にこの人の声あってのグループである、と再認識した。
総合的に見て、サウンドと楽曲のムードがぴったりと合った傑作アルバムといえるだろう。
こういう比較にあまり意味はないとは思うが、MARILLION や PENDORAGON と比べると、音の感触が格段に『若い』。
こういう気恥ずかしくなるほどの若さを長年もち続けることは驚異である。
CD 一枚の通常盤と CD+DVD の二枚組スペシャル盤がある。
ここの画像は、スペシャル盤のもの。DVD は 2007 年のオランダ公演のもの。新メンバーを迎えたすばらしいパフォーマンスを堪能できる。
「Frequency」完璧なる IQ 節。
少年の憂鬱と焦燥を一身に背負ったヴォーカルを卓越した器楽が支え、翳りを抱きつつも緊迫感に満ち、熱い思いを迸らせる。
決意表明を叫ぶかと思えば、謎めいた呪文の如き深みを見せるギター・プレイ、さりげなくも密度の濃いオルガンの響きなどプログレ・ファン直撃の音がある。
「Life Support」秘めやかなバラードは、苦悩の果てに不安定に傾いだ、インダストリアルな刺々しさ、冷たさのあるインストゥルメンタルへと吸い込まれてゆく。
「Stronger Than Friction」中盤の邪悪でへヴィなタッチと往年のポリシンセ風の透明なキーボード・サウンドが新鮮。70 年代の発掘もののような作品です。
「One Fatal Mistake」慈愛と浄福のバラード。
3 曲目からここまでの展開は非常にドラマティック。SPOCK'S BEARD 的な「力」を感じる。
「Ryker Skies」やや屈折した印象の作品。電気処理されたモノローグや駄々をこねるようなギターなど危うさを強調したイメージ。
終盤に向けて、暗いながらもしなやかにメッセージを刻む。
「The Province」これまでにない激情の迸り。ANEKDOTEN 的な猛烈さである。
もしくは、猛ったときのスティーヴ・ハケット。
終盤の独特のレガートなシンセサイザー・ソロは、オーフォードの芸風に近い名演である。幕を引くホルムズのギターもいい。
「Closer」
(SPV 28040 CD+DVD)