ベネズエラのプログレッシヴ・ロック・グループ「TEMPANO」。 77 年結成のベテラン・グループ。 80 年代はメンバーも代わってポップ路線で活動し、90 年代末に旧ラインナップで復活、ジャジーでテクニカルな独自のシンフォニック・ロックを窮める。 2002 年作「The Agony And The Ecstasy」は、コンテンポラリーな音をしっかり取り込んだ大傑作。2010 年新作「The Whisper Of The Blade」発表予定。
Pedro Castillo | guitars, violin, mellotron, vocals |
Giuglio Cesare Delle Noce | keyboards |
Miguel Angel Echevarreneta | bass, acoustic guitar |
Gerardo Ubieda | drums, percussions, keyboard on 10 |
2008 年発表の作品「Selective Memory」。
70 年代に作曲された作品を企画盤用に録音、発表したもの(分割してオリジナル形式に戻したと注意書きがある)、未発表新作、ライヴ即興演奏などを交えた作品である。
本アルバムそのものも「Colossus」なるフィンランドの音楽協会との協業なのだそうだ。(フィンランドはプログレ・バンドに政府がお金を出すという超先進国らしい)
KING CRIMSON 系の硬質なアヴァンギャルド・タッチと、クラシカルなロマン、ジャジーでメローな表現や中南米らしいたおやかな叙情味とのみずみずしいブレンドが特徴である。
ネオプログレッシヴ・ロック的な重苦しい情念も感じられるが、基本的には清々しさとアカデミックな輝きが先立つ。
また、バロック音楽に傾倒するバンドやミュージシャンは数多いが、このグループのクラシック趣味はハイドンやモーツァルトに近いと思う。
その流れのせいなのか、スティーヴ・ハケットの作風に通じるところもある。
ギターはロバート・フリップに倣うプレイを要所で放ち、また、キーボードはカラフルで華麗そのものであり、ウェイクマンがきちんと音色に配慮したようなプレイやバンクス系の堅固なプレイを軽やかに披露している。
そして、メロトロンはてんこ盛り。
また、エレクトリック・ヴァイオリンも使用されている。
次はぜひとも完全新作で迫ってほしい。
ヴォーカルは英語。
「Victoria Pirrica」(5:59)新作。重厚で怪しくてドラムンベースっぽいところもあって、なおかつロマンティックな傑作。
「Failing Senses」(7:27)MARILLION を思わせる深く澱んだ粘っこい作品。
「Argos」(2:53)
「Despair, Shout」(8:15)2006 年録音の即興演奏。「The Seven Samurai」より。ロバート・フリップ入ってます。
「A Farewell To Seasons」(9:03)「The Seven Samurai」より。
「Irus」(8:56)
「The Blind Crow」(4:42)「The Seven Samurai」より。
「Path」(3:14)
「Embestida」(6:51)2002 年「The Agony And The Ecstasy」セッションで収録された作品。
「Cristalizado」(3:14)
「Aguas Redondas」(5:56)70 年代からのライヴでの定番曲。2007 年収録。中南米ものらしい優美な歌声がいい。
「El Gran Inquisidor」(9:57)新作。タイトルはドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」第五編「プロとコントラ」第五章「大審問官」より。(さすがインテリ)
(FGBG 4751)
Pedro Castillo | guitars, voice |
Giuglio Cesare Delle Noce | synthesizer, acoutstic piano |
Miguel Angel Echevarreneta | bass, classic guitar |
Gerardo Ubieda | drums, percussions, cuatro |
98 年発表のアルバム「Atabal Yahel」
79 年のデビュー作、および未発曲の再録をまとめた CD。
BANANA や ESPIRITU、チャーリー・ガルシアの諸作など、南米の名作に通じる雰囲気をもつ作品であり、パストラルで詩的なイメージを引き締まったタッチで描いている。
抜群の演奏力を活かしたダイナミックにしてデリケートな表現は、英欧の影響を露には感じさせないオリジナルなものだ。
ストリングス系のシンセサイザー、ジャジーで丹念なギター、小気味いいドラムス、そして積極的に演奏を引っ張るベースが、せめぎあうというよりはごくナチュラルにリードを取りあい、ファンタジックな場面から緊迫感ある場面までを、なめらかにつないでゆく。
シンフォニック・ロックといっても、分厚い全体演奏のヴォリュームで押し切ったり、複雑怪奇なスコアを息詰るような緊張感とともに再現するというスタイルではなく、リードとサイドを巧みに割り振って優雅に歌い上げつつもパート間の呼吸のよさも見せる、いわば、ジャズの感覚をロックのインストに活かしたスタイルである。
高度な運動性をベースとしながら、豊かな歌心を感じさせるメロディアスなプレイがあるところがいい。
必ずしも即興が多いわけではないと思うが、各プレイヤーとも多彩なフレーズをしっかり持っている。
ハイレベルの演奏力を活かしてオリジナルな作風を確立しているというべきだろう。
特に、AOR 風のソフトなジャズ・タッチの入れ方と、過剰にならない「引き」のうまさにセンスを感じる。
一部ソフトなヴォーカルも入るが、主となるのはインストゥルメンタル。
一方未発表新録作品は、サウンド面の向上はいうまでもなく、抜群の切れを持つ演奏にややシリアスな表現も加えた、強力なインストゥルメンタルである。
リズム・セクションやラテン風の表現では往年の RETURN TO FOREVER に迫り、ヘヴィなギターは KING CRIMSON、オルガンは EL&P という恐るべき演奏だ。
フレットレス・ベースのプレイにも只ならぬものを感じる。
79 年の作品は、盤起しのため音質が今一つなのが残念。
しかし南米ものを聴く方には、こちらもぜひお薦めしたい。
バンド名のロゴが MARILLION スタイルなのがちょっと気になりますが、本家よりも遥かに「70 年代な」音です。
(FGBG 4260)
Pedro Castillo | guitars, voice |
Giuglio Cesare Delle Noce | synthesizer, acoutstic piano |
Miguel Angel Echevarreneta | bass, classic guitar |
Gerardo Ubieda | drums, percussions, cuatro |
German Landaeta | keyboards, sound engineer, sampler |
guest: | |
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Peter Pejtsik(AFTER CRYING) | cello |
99 年発表の作品「Childhood's End / El Fin De La Infancia」。
内容は、ネオ・プログレ風味とジャズ/フュージョン・タッチ、クラシカルな厳格さ/シリアスネスがみごとにバランスした個性的なシンフォニック・ロック。
音質こそモダンなクリアーさがあるが、マインドは完全に 70 年代のままのようであり、普通にしていてもプログレになってしまうようだ。
それでも全体に清潔感と暖かさのあるサウンドであり、ナチュラルなハードさをもつギターとヌケのいいドラムスや透明感あるキーボードがバランスよく配されて、物語をあくまで美しく綴っている。
リズム・セクションは、ワイルドにしてかっちりとした安定感があり、なおかつモダンなプレイも駆使して演奏を支えている。
フレットレス・ベースはかなりのテクニシャンだ。
演奏力は、パット・メセニー・グループにもひけをとらないかもしれない。
そして、ゲストのチェロ(AFTER CRYING のメンバー)を利用したアヴァンギャルドなプレイが、フュージョン風の涼感とメロディ・ラインに流されないための優れたアクセントになっている。
オープニングでは隙間から忍び寄るような不気味な表現で、深刻さを強く印象づけるが、全体としてメロディアスなテーマをスリリングなアンサンブルで運んでゆく華やぎのあるスタイルである。
そして、量こそ少ないが、たおやかなヴォーカルをフィーチュアしたアコースティックな作品(4 曲目)の魅力も絶大。
南米特有の甘く爽やかな後味がいい。
5 曲目「Grillos」は、BRAND X が奏でるシンフォニック・プログレとでもいったらいいような、多面的な魅力のある傑作。
タイトル曲である 6 曲目は、あたかも未知の世界の物語絵巻のようにアヴァンギャルドな展開を見せる一大スペクタクル。
室内楽からヘヴィ・ロック、果ては映画音楽まで、伝奇的なムードとポップ感覚が交わったオムニバス風の作品である。
ゲストのチェロも活きている。
ラベルやストラヴィンスキーを思い出して正解の巨大なシンフォニック・チューンである。
大作の余韻か、7 曲目では思い切ってコワれている。
ジャジーに迫る終曲もみごと。
個人的にはモダン・シンフォニック・ロック屈指の作品と考えている。
これだけ多面的でアヴァンギャルドな上にポップで聴きやすいアルバムはきわめて稀である。
全体に楽曲のよさが際立つ傑作といえるだろう。
(FGBG 4324.AR)
Pedro Castillo | guitars, synth, loop, mellotron, voice |
Giuglio Cesare Delle Noce | keyboards, ambients, atmosphere |
Miguel Angel Echevarreneta | bass, classic guitar |
Gerardo Ubieda | drums, world percussions, keyboard programming |
German Landaeta | keyboards, percussion, protool |
guest: | |
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Huascar Barradas | flute |
Marcella Mosca | italian voice, laughs |
2002 年発表の作品「The Agony And The Ecstasy」。
70 年代 KING CRIMSON を隠し味に、クラシカル・テイストはもちろん、ラテン、ジャズ、フュージョン、R&B、ポスト・ロック風味も織り込んだモダン・シンフォニック・ロックの大傑作。
厳粛にして抜群の運動性を持ち、緻密にして荒々しく、大時代で高尚なロマンティシズムとともに、Sting や Jamiroquai のようなノスタルジックな R&B/ポップ調、おまけにワールド・ミュージックなノリもある。
現代音楽調のアブストラクトな演出も決まっているし、エキゾチズムの演出は全盛期の BANCO に匹敵する。
複雑なアンサンブルによるインストゥルメンタルにこれだけ歌心とメッセージがあるというのは、はっきりいって驚異である。
一方、ヴォーカル・パートの表現は、上に述べたノスタルジックな表情を基本にしたクールでメロディアスなものであり、ポップスとして完成されている。
とにもかくにも、このバックグラウンドの広さをしなやかに活かした、大胆で流れるような展開が魅力だ。
ベテランなので当然なのでしょうが、間違いなく P.F.M、LE ORME や THE FLOWER KINGS らとともに現代プログレを代表するグループによる大傑作といえるでしょう。
徹底して多彩であることがプログレの魅力の一つであることを再認識できます。
今回は、曲名、歌詞、ヴォーカルがほぼ英語。
(FGBG 4433.AR)
Pedro Castillo |
2002 年発表の作品「Moving Futures」。
TEMPANO のキーボーディスト、ペドロ・カスティロのソロ・プロジェクト ASHWAVE による。
内容は、往年のブライアン・イーノ、最近ならスティーヴ・ウィルソンのソロ・プロジェクトにも通じるエレクトリック・オーガニック・ミュージックと現代的な音響系ロックの中間に位置する。
ループ、シーケンサやサンプラーが主ではあるが、そういうアーティフィシャルなサウンドを超えた「作風」が感じられ、そしてその作風がプログレなので、なんら問題は無い。
そして、メローなタッチが現れても決して AOR 調にならず、ストイシズムを貫くセンスのよさがある。
得意の KING CRIMSON (FRIPP & ENO か?)はもとより、PINK FLOYD にダイレクトに通じるところもあり。
2002 年カラカスにおける政府軍発砲事件の犠牲者に捧げられた作品である。
したがって、最終曲は「Tiburon」は厳かなる鎮魂歌である。
(DR 8424.AR)