アルゼンチンのプログレッシヴ・ロック・グループ「BANANA」。 69 年結成。 84 年解散。 アルバムは一枚のみ。
Cesar Pueyrredon | keyboards, vocals | Juan Gelly | guitar |
Alberto Bengolea | guitar on 5 | Pablo Gullot | guitar on 4 |
Fori Mattaldi | bass on 1,2,3 | Miguel Cervino | bass on 4,5,6 |
Jose Luis Menino | drums on 1,2,3 | Arturo Perona | drums on 4,6 |
"Toro" Martinez | drums on 5 | Jose Torres Zavaleta | sax |
79 年発表のアルバム「Aun Es Tiempo De Soñar」。
叙情的かつ技巧的なアルゼンチン・プログレの佳作。
演奏は、ラテン・フレイヴァーあふれるイノセントなテーマとたおやかで暖かみあるヴォーカル・ハーモニーと、YES からジャズ・フュージョンまでにわたるテクニカルなインストゥルメンタルのコンビネーションである。
ラテン・ポップス調のヴォーカル・パートに魅せられて気づきにくいが、じつはインストゥルメンタル・パートがきわめて長大であり、10 分前後の曲が三つもあるのだ。
そのインストゥルメンタル・パートでは、小刻みなスネアの連打と機敏なベースにドライヴされて、キーボード、ギターが一体となって飛翔し、螺旋を描くように舞う。
シンフォニックな響きとともに、ラテン・南米らしい官能的なファンタジーの味わいもある。
そして、どの作品にもドリーミーでゆったりとした場面と緊張感たっぷりに攻め込む場面が巧みに配されていて、ストーリーに自然な起伏がある。
慎ましやかなようでいて意外なほど凝った展開を入念に披露する、このバロックなセンスが、いかにもプログレなのだ。
演奏の中心となるのは、柔らかい広がりをもつストリングス・シンセサイザーとつややかなムーグ、暖かみあるオルガン、ソフトなエレクトリック・ピアノなど、キーボード群。
優美なハイトーン・ヴォイスもこのキーボーディストが担当しており、このヴォーカル・ハーモニーをキーボードが守り立てる展開が全体の軸となっている。
一方、ギターは決めどころこそ少ないが、ビシッと存在をアピールする。
切ないアルペジオによるバッキングからヴァイオリン奏法も交えたメロディアスなソロまで、プレイはきわめて安定しており、なにより曲想に沿っている。
キーボーディストとの意思疎通はしっかりとできているようだ。
リズム・セクションも、線は細いが音を惜しまない。
全体におとなしめのサウンドながらも、適度にウェットなメロディと細やかで小気味よい演奏がバランスし、聴き心地は爽やかである。
70 年代中後半のフュージョン風のジャジーな音がたくさんつまっているので、その時代のポップスのファンにも訴える音といえるだろう。
最終曲から判断して、元々はジャズ・バンドだったのではないだろうか。
ナチュラルな変拍子やテンポの変化、ファルセットのヴォカリーズやソフトなキーボードなど、78 年ごろの CAMEL や LOCANDA DELLE FATE に通じるところもある。
アルゼンチンものとして、AUCAN や LA MAQUINA DE HACER PAJAROS に並ぶ逸品。
前半 3 曲と後半 3 曲ではギタリスト、リズム・セクション担当が異なり、後半はややシンプルなイメージを与えるが、曲想は大きくは変わらず違和感はない。
ヴォーカルはスペイン語。
録音はやや引っ込み気味。
邦題は「影法師」、原意は「今はまだ夢見るとき」。
「El Escultor La Estatua」(9:23)大傑作。
「Un Hombre En La Noguera」(6:06)メロディアスなバラード。
間奏部のテクニカルな演奏や細かな装飾が特徴的。
「Aun Es Tiempo De Soñar」(5:50)ロマンティックなラヴ・ロック。普通によい出来。
「Vispera」(9:47)テクニカルなアンサンブルの質感は大きくは変わらずも、ピアノとツイン・ギターによる、よりジャジーな演奏をフィーチュア。
「Preguntas Al Cielo」(10:00)スペイシーなシンセサイザー・シーケンスなど 70 年代終盤風の音作り。
「Quien Se Acordara」(2:10)スタン・ゲッツ・グループを思わせるジャジーなバラード。
(MH 10071-2)