アルゼンチンのプログレッシヴ・ロック・グループ「AUCAN」。 72 年結成。 作品は二枚。 パストラルなアルゼンチン・シンフォニック・ロックの代表作の一つ。
Eugenio J. Perez | vocals, keyboards, acoustic guitar, charango | Diego J. Perez | drums, percussion |
Guillermo Franchetti | vocals, guitar | Pablo C. Perez | vocals, bass, keyboards, cello |
guest: | |||
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Charley Garcia | mini-moog on 7 | Leon Gieco | harmonica on 1, |
Migel Perez | baroque flute on 5,6 | Dino Saluzz | bandneon on 3,7 |
Tucuta Gordillo | sikus on 4 | Leon Mames | oboe on 2, English horn on 2 |
80 年発表の第二作「Brotes Del Alba」。
内容は、女性的でデリケートなヴォーカル・ハーモニーをフィーチュアした哀愁あるシンフォニック・ロック。
素朴な優しさのあるアンサンブルから想像するに、アコースティックなフォーク・ミュージックを素地に、ギターとストリングス・シンセサイザーらのエレクトリックな音と切れのあるリズム・セクションを加えて、ロック化したと考えられる。
要するに、基本はフォークなのだ。
ギターは、ときにオーヴァー・ダビングされて、伴奏にも加わっている。
鋭くジャジーなプレイもあるが、主となるのは、たおやかなヴォーカルを取り巻いてシンセサイザーとギター、ベースがゆったりとしたテーマを決める、クラシカルな演奏だろう。
そして、エレクトリックな音以上に、アコースティック・ギター、ピアノ、オーボエ、チェロ、バンドネオンらのひなびた音に存在感があり、これらの音が全体を薄霞のかかったような郷愁に満ちた世界に染め上げている。
チャーリー・ガルシアがゲスト参加し、最終曲にムーグでプログレらしいインタープレイを披露している。
同系統の BANANA と比べると、こちらは格段にアコースティックであり、ジャズっぽさもほとんどありません。
「Llegando A Casa」(3:35)ラテン調の繊細なヴォーカル・ハーモニーが印象的な小品。
伴奏はアコースティック・ギターのアルペジオ。
サビでは伴奏にシンセサイザーも加わる。
最後のヴァースにはハーモニカも加わる。
新しい朝を迎えたような爽やかな気分になれる作品だ。
「Primavera De Una Esquina」(6:45)
波打つ電子音にファンファーレ風のシンセサイザーが重なるイントロダクションから、一転して、ピアノ伴奏でたおやかなヴォーカルが歌い上げるアコースティックなメイン・パートへ。
オーボエはオブリガートで現れ、チェロとのハーモニーで柔らかくヴォーカルを支える。
轟くティンパニとともになだれ込むサビでは、ストリングス・シンセサイザーとギターのハーモニーが高らかに歌い、優美な盛り上がりを見せる。
エレクトリック・ピアノに導かれて二度目のメイン・パートへ。
今度は、チェロ、オーボエ、ギターがヴォーカルを支える。
二度目のサビもギターとシンセサイザーのハーモニーによる。
力強さよりは、ていねいな歌いこみが印象的な演奏だ。
アウトロでもシンセサイザーの電子音が渦を巻く。
ミドル・テンポによるメロディアスなシンフォニック・ロック。
さまざまな音をぜいたくに配するも、アコースティック、エレクトリックの音質の違いを場面ごとに使い分けているようだ。
「Cancion De Mi Padre」(3:40)
アコースティック・ギター、チェロの伴奏によるフォーク・ソング。
間奏は、郷愁をさそうバンドネオンの響き。
後半は、したたるようなエレクトリック・ピアノの音も聴こえる。
ヴォーカルは繊細な声色だが情熱的。
イタリアン・ロックに通じる切なく美しい弾き語りである。
「Hacia El Destierro」(5:10)
エレクトリック・ギター、ストリングス・シンセサイザー、ベース、ドラムスによるいわゆるシンフォニック・ロックらしい演奏。
ただし、シンフォニックなテーマ演奏以上に、シクス(木管縦笛だろうか)による物寂しげな間奏が印象的。
エレクトリック・ギターもかなりがんばるが、やや力不足。
「Tres De Octubre」(6:40)
ギター、エレピ、シンセサイザーらによるジャジーな序盤から、シンプルなテーマをフィーチュアするメイン・パートへ。
ギターとシンセサイザーが熱いインタープレイを見せ、クライマックスではスキャットによるハーモニーも現れる。
ところが中盤は、やおら即興風のピアノ独奏。
ジャズというよりはクラシック調である。
透き通るようなシンセサイザーが美しい。
中間部の後半は、ピアノとバロック・フルートの哀愁のアンサンブル。
情熱的なピアノのリフレインをきっかけにバンド演奏が復活し、テーマの演奏へ。
ドラムス、ベースも熱のこもった演奏を見せる。
ジャジーで機敏な演奏から幻想的な即興演奏までを変転する、充実のインストゥルメンタル。
YES 風のスキャット・ハーモニーやフリー・フォームのピアノなど、本作中では異色の前衛的な展開を見せる。
中盤のピアノ・ソロが美しい。
「Mi Amor Y Yo Contra Todos Los Que Rayen」(3:15)
アコースティック・ギターの弾き語りを中心としたライトなラテン・フォーク・ロック。
バロック・フルートが愛らしい。
散りばめられたエレピとギターが、フォーク・ソングをなめらかなポップスに仕上ている。
第二ヴァースのマイナー転調が美しい。
「Misterio Azul」(6:45)
珍しくやや攻撃的なテーマと硬質なリズムをもつ作品。
ムーグ・シンセサイザーによるエレクトリックでアグレッシヴなプレイや、ギターのせわしない速弾きが目立つ。
最後はメロディアスなヴォーカルを受けてギター、ストリングスが優雅なエンディングを迎える。
(MH 10.024-2)