アルゼンチンのプログレッシヴ・ロック・グループ「LA MAQUINA DE HACER PAJAROS」。 SUI GENERIS 解散後のチャーリー・ガルシアのグループ。 76 年、77 年にそれぞれ作品を残し 77 年解散。 その後ガルシアは SERU GIRAN を結成する。
Oscar Moro | drums, percussion |
Jose Luis Fernandez | bass, double bass, acoustic guitar, vocals |
Gustavo Bazterrica | electric & acoustic guitar, vocals |
Carlos Cutaia | organ, Mellotron, piano, keyboards |
Charly Garcia | piano, synthesizer, Fender piano, keyboards, acoustic guitar, lead vocals |
76 年発表のアルバム「La Maquinas De Hacer Pajaros」。
内容は、しっとりと繊細な情感を湛えるガルシアのヴォーカルをフィーチュアした、ライトなラテン・ロック。
優美なメロディと切れ味のいいテクニカルなインストゥルメンタルが、ごく自然にとけあった傑作である。
R&B をベースとしていると思われるリズム・セクション(特にベースがみごと)から、ギター、キーボードまで、一体感ある演奏がすばらしい。
緻密でスリリングなアンサンブルは、YES に十分匹敵する。
その一方で、ジャジーであまやかなメロディがプログレ的なクセの強さを決して露にしない。
このセンスのよさは並大抵ではない。
はっきりいって、すでにプログレは超えている。
そう、イタリアの IL VOLO に近い音楽観である。
あまりに多彩なキーボードの演奏のうち、特にすばらしいのが、管弦を意識しつつも独特のつややかな音色を誇るムーグのプレイである。
アコースティックなナンバーにも、違和感なくムーグが用いられている。
また、スピーディなソロなど技巧面は当然として、ストリングス・アンサンブルのバッキングなど、アレンジのセンスも卓越している。
そして、エレクトリックなサウンドへ巧みにアクセントをつけるピアノやアコースティック・ギターなど、ナチュラルな音の配分も申し分ない。
要するに、まず愛らしいフォーク・タッチの「歌」が基盤にあり、そこへシンセサイザーなど新しい技術とジャズ的な技巧を適用した作品なのだ。
アルゼンチンという土壌に根差し、ガルシアの内に育まれた歌が、英国プログレッシヴ・ロックやジャズの影響を受けて生まれ出た音ともいえるだろう。
おりしも同時代、繁栄を謳歌するフュージョン・ミュージックは、音楽的な多様性という点ですぐに底を尽き、メイン・ストリームは商業主義と一本調子の技巧偏重へと突っ走っていた。
そういった安手のフュージョンが氾濫したメイン・ストリームからやや離れた場所で、皮肉にもそのメイン・ストリームが憧れ、目指したラテンの魅力を生まれながらに自然に身につけたミュージシャンたちが、こんなにすばらしいフュージョン・ロック・サウンドを作り上げていたのである。
じつに不思議な因果だ。
楽曲は、ライトなポップ・ロック中心に、SERU GIRAN を思わせるシンフォニック・ロックからジャズロック、ハードロックまで多岐にわたり 1 曲の中でも巧みに変化する。
これで録音がよければ何も言うことはなかったでしょう。
おそらくヒットしたのでは。ジャケットは再発 CD のもの。最新版はオリジナル・ジャケットで再発されている模様。
「Bubulina」(5:35)いかにもガルシアらしいスローでゆったりしたフォーク調のシンフォニック・ロック。
すっと高みへ抜けるようなサビが美しい。
「Como Mata El Viento Norte」(2:44)ファンタジックかつ小気味のいいポップス。
ベースやキーボードのプレイがぜいたくだ。
「Boletos. Pases Y Abonos」(6:30)ジャズロックから R&B を経てクラシカルなハードロックへ到達するテクニカル・ロック。
STEELY DAN と Stevie Wonder と DEEP PURPLE と RETURN TO FOREVER がいっしょになったようなもの。
目まぐるしく展開し演奏力を見せつける。
前半のソウルフルな歌メロと終盤の暖かみのあるテーマがいい。
「No Puedo Verme Mas」(4:15)R&B 調ラテン・ロック。
ドラムス、ベースは相当の使い手なのだろう、上ものは泥臭いがリズム・セクションがあまりにシャープなためフュージョンになってしまう。
間奏のシンセサイザーはさすが、一気にジャズロックへ変貌する。
「Rock And Roll」(4:06)オープニングはタイトルとは裏腹にリリカルなピアノ・ソロとファルセット・コーラスがゆるやかに広がるスウィートなバラード。
中盤はもちろんロックンロール。
イージーながらも土臭さはなく、都会的で知的なロックンロールだ。
リズムの切れはここでもみごと。
ギター・ソロもきっちり決めている。
ぜいたくだ。
「Por Probar El Vino Y El Agua Salada」(3:22)アコースティック・ギターと弦楽器風のムーグを用いた軽快なフォーク・ソング。
にぎやかな演奏にもかかわらず、ほんのりビター・スウィートなメロディがいい。
「Ah, Te Vi Entre Las Luces」(11:09)。
11 分にわたる幻想シンフォニック大作。
グルーヴィなジャズロック、YES を思わせる緻密なインストゥルメンタル、そしてたおやかなラテン・タッチがブレンドした秀作。
(MICROFON C-53)
Charly Garcia | organ, electric & acoustic piano, synthesizer, clavinet, guitar, lead vocals |
Gustavo Bazterrica | electric & classical & acousitc guitar, bass, chorus |
Carlos Cutaia | piano, organ, string ensemble, synthesizer |
Oscar Moro | drums, percussion |
Jose Luis Fernandez | bass, acoustic & electric guitar, chorus |
Roberto Valencia | congas |
77 年発表のアルバム「Peliculas」。
洗練されたサウンドを推し進めた第二作。
精密にしてジャジーなグルーヴは、STEELY DAN をシンフォニックにしたようなイメージか。
テクニカルかつデリケートなプレイと、あくまでもソフトなヴォーカル・ハーモニーによる、極上のサウンドである。
特に、多彩なシンセサイザーの音がどれも実にいい。
第一印象では、シンフォニック・ロックからややファンキー路線、フュージョン寄りに変化したと感じるが、ヘヴィな決めどころや唸るムーグ、湧き上がるストリングス・シンセサイザー、弦楽などは、やはりプログレ的。
多彩な曲調はそのままに、何もかもを無造作に盛り込んだ前作をすっきり整理して、明解にしたといえばいいだろう。
この内容なら、アルゼンチン・ロックの代表作といえる。
2 曲目の冒頭ストリングスがひそやかに奏でるのは「Over The Rainbow」?
「Obertura 777」(4:50)ファンキーにしてシンフォニックな音の重なりと叙情性もある傑作インストゥルメンタル。
アコースティック・ギターとベースの静かなデュオが、歯切れのよいアンサンブルへと広がってゆく。
テーマを歌うオルガンを中心に、さざめくピアノ、うっすらとうねるストリングス、軽やかなムーグなどキーボードはどれもすばらしい。
「Marilyn, La Cenicienta Y Las Mujeres」(4:24) 1 曲じらされて登場するガルシアのヴォーカルはまさに手折れそうな風情。
その一方、ブギー風のギター・リフとシンセサイザーが大胆に重なるようなハード・タッチの場面もある。
ハードな音からアコースティックな響きまで、ていねいに音を紡いだアンサンブルは、全盛期の YES や GENESIS 的である。
そよ風のようなメロディがプログレ的な小難しさを払底し、聴き心地はあくまで柔らかく夢見るようである。
「No Te Dejes Desanimar」(4:10)
弦楽アンサンブルとピアノをフィーチュアしたロマンティックなヴォーカル・ナンバー。
クラシカルななかで、メロディ・ラインはいかにもラテン調。
堅実にして軽やかなベースの動きがおもしろい。
「Que Se Puede Hacer Salvo Ver Peliculas」(6:15)
STEELY DAN を思わせるややブルージーなジャズロック。
20 年前なら「シティ感覚」といった奴だ。
ギターとピアノのプレイはかなりのもの。
もう少しリズムがうねると、さらによかったはず。
ドラムスは、奇数拍子を織り込むなど技巧的なところは見せるが、ジャズが専門というわけではないようだ。
終盤で一気にシンフォニックかつテクニカルに盛り上がる。
「Hipercandombe」(4:10)アップ・テンポのテクニカル・ラテン・ポップス。
せわしないユニゾンや緻密なハーモニーが次々と現れる。
ギターとムーグが呼吸を合わせた超絶的なプレイを連発。
シンセサイザーなどサウンドはややニューウェーヴ風だが、インスト・パートのアンサンブルはきわめてクラシカルである。
「El Vendedor De Las Chicas De Plastico」(4:52)
ラテン・フュージョン・タッチのリリカルにしてファンキーな佳曲。
ギターやリズム・セクションは、前曲とも合わせて RETURN TO FOREVER ばりの高度な表現を見せる。
それでもヴォーカルの表情はデリケートでひそやか。
間奏の管楽器風のシンセサイザーがいい音だ。
リズム・セクションの跳ね方もいい。
唐突な終わりは、CD の編集ミスでしょう。
「Ruta Perdedora」(5:43)ガルシア節全開の官能的かつドリーミーな傑作。
ピアノ、ムーグが可憐。
そしてオプティミスティックな暖かさをもつサビ。
明るく健康的なラテンの GENESIS といってもいいかもしれない。
後半の変拍子も用いたややストレンジな展開が、いかにもプログレ風である。
「En Las Calles De Costa Rica」(4:10)ケレン味たっぷりのハイテク・ジャズロック・インストゥルメンタル。
8 分の 5 拍子で加速し、リリカルなギターの間奏でしっとりテンポを落とす。
(MICROFON 2-484671)