SERU GIRAN

  アルゼンチンのロック・グループ「SERU GIRAN」。 78 年結成。 82 年の解散までに四枚の作品を残す。 メロディアスなラテン・ロックからテクニカルなジャズロックまで音楽は深く幅広い。

 Seru Giran
 
Charly Garcia vocals, keyboards
David Lebon vocals, guitars
Oscar Moro drums
Pedro Aznar bass, vocals
guest:
Daniel Goldberg orchestra arrange & conduct

  78 年発表の第一作「Seru Giran」。 ソフトなヴォーカルをハイ・テクニックの器楽が支え、ストリングスがゆったりと波打つ、切ないまでに叙情的な傑作。 官能美の化身の如きメロディと、心のひだを震わせるようなヴォーカル、そして、あふれる情感を巧みに支えるアンサンブル。 技巧を誇るミュージシャンが「歌」にすべてを託した、郷愁あふれる作品が並ぶ。 チャーリー・ガルシアによる胸の高まりのようなシンセサイザー、圧倒的な技巧と優美な歌を難なくゆきかうペドロ・アズナールのベースなど、すべてが技術の集積を超えて、甘美な音楽の次元へと高められている。 イタリアン・カンタトゥーレの最も優れた作品に匹敵する歌ものから、草原を吹き抜ける涼風のように軽やかなインストゥルメンタルまで、生命の息吹を安らかに伝える「歌」に満ちている。 ラテン・フュージョン調の軽やかなナンバーですら、柔らかく奥行きのある音が、熱い高揚感を呼び覚ますのだ。
  ラテン・ロックの傑作の一つ。 特に、本能に近いところを刺激し、湧き上がるような感動を呼び起こす歌ものが特徴だろう。 ガルシアの歌は、ロバート・ワイアットに迫るニュアンスをもっている。 ある意味日本の演歌に近いのかもしれない。 本 CD は 1999 年の再発盤。

  「Eiti Leda」(7:01)ストリングスとギター、ピアノの奏でる慈愛に満ちたイントロに続いて歌い出すヴォーカルの何と甘美なことか。 ストリングスがたおやかなコーラスを押し上げるように響き渡る。
  ヴォーカルが静かに吸い込まれるように消えると、ギターの柔らかなストローク、そしてピアノとともにリズムが入り、鮮やかなシンセサイザーの演奏が始まる。 ベースも巧みに動く、ラテン風のジャズロックである。 しかし、演奏をリードするのは甘いヴォーカルだ。 再び、ギターとピアノのストローク、そして目も眩むようなベースのソロから、ギター・ソロへと続いてゆく。 ここでもストリングスが美しい。
  そして、静けさの中、フェードインするのは、オープニングのたおやかなヴォーカルだ。 ブラスやピアノをしたがえたヴォーカルは、リズムも得て、力強く歌い上げる。
  ブレイク。 カウントとともに、シンセサイザー、ブラスが響き渡り、力強いリズムでアンサンブルが再び歩み始める。 ギターのオブリガートとシンセサイザーによるなめらかなメロディ。 鮮やかなリフレインにストリングスも加わって、シンフォニックに最高潮に達し、華麗に終わる。 完璧な構成のシンフォニック・ロックだが、あまりに甘美で官能的な旋律をもつこの作品を、ロックといってしまっていいのかどうか自信が無い。 ラテン・ポップスというべきかもしれないが、それにしては、中盤のジャジーなアンサンブルにある熱いスピリットが伝わらない。 南米固有の、健康的で濃厚な美しさにはちきれそうな作品である。

  「El Mendigo En El Anden」(3:42)ピアノとアコースティック・ギターのソフトなデュオ、そしてベースの響きを伴奏に、ヴォーカルは柔らかく歌い始める。 リズムが入るとすっかり AOR だが、ファルセットのハーモニーやピアノ伴奏には、それだけではない爽やかさが満ちている。 ブレイクを巧みに使った場面展開が、ここでも効果的に使われている。 後半のリズミカルで穏やかなヴォーカル・パートは本当にすてきだ。 シンセサイザー、ギターの巧みなデュオをストリングスが彩り、クライマックスへ達する。 4 分弱の中に、涼風吹き抜ける夢の楽園のよう雰囲気がたっぷりつまっている。 AOR 風に始まって次第にラテン色濃く盛り上がってゆく展開は、ジャンルを越えたスタンダードのような風格である。 名曲。

  「Separata」(1:36) 切なく叫ぶシンセサイザーとピアノの堅実なコード弾きを伴奏に、ヴォーカルが静かに歌い始める。 哀しみ孕んだようなメロディ。 サビでは切ない願いのように歌い上げ、フルートのようなシンセサイザーがオブリガートする。 シンセサイザーがブラス風のリフレインを奏でると、ヴォーカルは最後に力を得て高らかに叫ぶ。 最初のたった数小節でロマンティックな世界が作り上げられる。 ガルシア魔術の独壇場である。

  「Autos, Jets, Aviones, Barcos」(4:12)エネルギッシュなリズム・セクションをフィーチュアしたテクニカル・フュージョン風ナンバー。 敏捷なベースと多彩な音色を誇るシンセサイザーに注目。 ラテン、サンバ風の濃厚なノリと、ストリングスを中心とした爽やかな音色の器楽の融合。 典型的なフュージョンと歌もののブレンドは 70 年代後半の歌謡曲のアレンジに酷似すると気づいたが、もちろん、こちらがオリジナルである。 IL VOLO 辺りと近いセンスだ。

  「Seru Giran」(7:35) 優美なオーケストラに導かれる、ファンタジックかつロマンティックな作品。 ピアノが放つクラシカルな重量感とみごとにコントラストするソフトなファルセット・ヴォイス。 時おりヴォーカルは、讃美歌のような表情すら見せる。 バンドとオーケストラが呼び合い、対比しつつ力強い高まりを生み出してゆき、やがて穏やかなメロディを求めてとけあってゆく。 かすかにトラジックなニュアンスも散りばめながら、バンドとオーケストラが進んでゆく クラシック、ロック、ジャズにアルゼンチンの涼風が吹き抜けて、厳かなまでの感動を呼ぶ。 本アルバムのクライマックスであり、プログレの王道というべき作品である。

  「Seminare」(3:30) 軽やかなピアノ伴奏による切ないバラード。 ポップス風だが甘さに流されず、ヴォーカルが強い説得力をもつ。 逞しい音楽吸収力を感じる。 後半のシンセサイザー・ソロがカッコいい。

  「Voy A Mil」(3:07) ギターがリードするラテン・ロック。 ラテン風 FACES といったノリである。 エエカゲンながらも腰の入ったギター・リフとヴォーカル。 アズナールは、パストリアスばりのすさまじい手数のベース・プレイを披露する。 オブリガートが強烈だ。 ソフト・タッチのヴォーカル、ストリングスに豹変してぐっと迫って、最後は超絶ベースとギターによるファンキーなジャズロックで華麗に締める。

  「Cosmigonon」(1:31)ストリングス・シンセサイザーが高鳴る中、ギターのプリング・オフによる 3 連のフレーズが仰々しく続いてゆく。 不安をかきたてる、ミステリアスな予兆のような終曲である。


絶頂期のイタリアン・ロックと同じ優美さ、官能、テクニックに満ち、民族音楽を経たラテン・ミュージックのエッセンスとクラシックやジャズ、ロックを魔術のように組み上げた傑作。 ソウル・ミュージックに通じるファルセット・ヴォーカルやテクニカルなラテン・フュージョンなど、70 年代を席巻した音楽もしっかりと織り込まれている。 何より、素朴で心暖まる歌が、すみずみまでゆき渡っているところが、魅力だろう。 もちろんポップスとして聴いても一級品。 アズナールのベースは、ジャコ・パストゥリアス並みといって間違いないです。
(CDL-16017)

 Grasa De Las Capitales
 
Charly Garcia vocals, keyboards on 8, acoustic guitar, Moog Taurus
David Lebon vocals, guitars
Oscar Moro percussion
Pedro Aznar vocals, bass on 5, keyboards, acoustic guitar, campanas tubulares, mini Moog

  79 年発表の第ニ作「Grasa De Las Capitales」。 もはやプログレとは、的外れかつ失礼だが、利便のためにここで解説。 エキサイティングなラテン・フュージョンからドリーミーなバラードまで、最高の音色とグルーヴにあふれる歌ものロックの傑作である。 すごいのは、惜しげもなく超絶技巧を放り込むところ。 売れ線メロディのポップ・ロックが、あれよあれよという間に唖然としてしまうようなハイ・テンションのパフォーマンスへと高まってゆくのだ。 簡単にいえば 「第七銀河」RETURN TO FOREVER が、そのままポップスを手がけたようなイメージである。 そして、当時のメイン・ストリームのサウンドでありながら、あくまでトラディショナルな素朴さを醸し出すメロディ・ラインと熱い歌心があり、また、それでいて、涼風のように爽やかで、ほんのり官能的。 ここは、テクニックなぞとうに問題ではなくなっている世界、音楽の理想郷である。 アズナールのベースは 5 曲目のみのクレジットだが、6 曲目にも入っているような気がする。 ムーグの音がいい。 70 年代を通したポップスの変遷を盛り込み、70 年代終盤のサウンドをしっかりと刻み込んだ逸品だ。 IL VOLO にラテンの息吹を吹きかけたような傑作。

  「La Grasa De Las Capitales」(4:27)キレのいい歌ものジャズロック。胸いっぱいのドラマあり。
  「San Francisco Y El Lobo」(2:20)ロマンティックなアコースティック・ギター弾き語り。
  「Perro Andaluz」(4:56)テクニカル過ぎる演奏によるメロディアスな AOR。
  「Frecuencia Modulada」(3:17)
  「Paranoia Y Soledad」(6:42)
  「Noche De Perros」(6:30)
  「Viernes 3 AM」(4:25)
  「Los Sobrevivientes」(4:48)
  「Cancion De Hollywood」(4:50)

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