イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「CITTA FRONTALE」。 74 年、OSANNA 分裂時にマッシモ・グアリノとリノ・ヴァイレッティの二人を中心に結成。 一枚のアルバムを残し、OSANNA 再編へ合流。
Enzo Avitabile | flute, recorder, sax, vocals |
Massimo Guarino | drums, percussion, xylophone, vibraphone, tamborine, maracas, vocals |
Gianni Guarracino | electric, acoustic & classical guitar, moog, vocals |
Paolo Raffone | piano, Fender Rhodes, harpsichord, organ, mellotron, glockenspiel |
Lino Vairetti | vocals, guitar, 12 string guitar, mellotron, harmonica |
Rino Zurzolo | bass |
75 年発表の唯一のアルバム「El Tor」。
内容は、伸びやかなヴォーカルとギター、管楽器を中心としたパストラルなフォーク調プログレッシヴ・ロック、ややジャズロック寄り。
陳腐で申し訳ないが、「牧歌的な OSANNA」といってしまっていいだろう。
たくさんの楽器がクレジットされているだけあって、アコースティック・ギター伴奏でフルートがさえずるフォークロックからギターのリード、エレピ伴奏でサックスがジャジーなプレイを決めるアップテンポのジャズロックまで、曲想はきわめて多彩である。
器楽では、シャープなギター・プレイを特筆すべきだろう。
メロトロンやピアノも効果的に使われるが、まずは、ギターのカッコよさを堪能したい。
ヴォーカルは、さすがに一流グループのリード・シンガーだけあって、声量、表情ともに申し分なく、非常にしなやかな歌唱を見せている。
これだけのヴォーカリスト、ドラマーを擁するのだから、OSANNA というグループがいかに桁はずれかよく分かる。
モノトーンなのによく見れば無茶苦茶サイケなデザインのジャケットもよし。
ヴォーカルはイタリア語。
プロデュースはグアリノとヴェイレッティ。
「Alba Di Una Citta」
鈴の音から始まって、次第に楽器が増えてゆき、最後にドリーミーな合奏へと発展するすてきなインストゥルメンタル。
ギターとフルートのユニゾンがヴァイオリンのように優美なレガートを生む。
こういう、優しくて何もかもを許してしまうような抱擁力のある音楽は、最近あまり耳にしないですね。
「Solo Unti...」
スピードと躍動感にあふれた歌ものジャズロック。
小刻みなリズム・セクションを中心としたテクニカルで忙しないインストの展開が面白い。
ここではサックスとギターのユニゾンがつややかでいい。
舌を噛みそうな早口にもかかわらず、ヴォーカルとコーラスがしっかりとハモっているのもみごと。
変拍子処理も鮮やか。
「El Tor」
健やかな優しさに満ちたジャジーでポップなフォーク・ソング。
アコースティック・ギターに導かれる弾き語りは、エレクトリック・ピアノの暖かなバッキングを得て、スキャットとともに次第にしなやかな勢いを得てゆく。
間奏部ではサックスやギターも加わるが、熱し過ぎず、柔らかなタッチを守る演奏になっている。
エピローグ風のフルート・ソロは、クールな落ちつきと翳りを演出している。
優美さとの対比がすばらしい。
ほのかなジャズ・テイストもある。
歌心と優しさいっぱいの、いかにもイタリア風の作品だ。
「Duro Lavoro」
憂鬱で夢想的、ドラマチックな大作。
OSANNA 風といっていい。
ハーモニーを生かした幻想的なフォーク・タッチのメイン・パートでは微妙な表情の起伏を見せ、間奏部で一気にインストゥルメンタルが盛り上がる。
サックス、ギター、フルート、メロトロンらによる演奏は、華やかにしてシャープ、陰影がある。
陽性の KING CRIMSON によるシンフォニーのようでいて、唐突にジャジーな変化をつけるところが特徴的だ。
後半は多彩な器楽で祝祭的に盛り上がるも、再び憂鬱な幻想夢の世界へと引きずられてゆき、それを振りほどくかのように、ジャジーでパワフルな演奏が繰り広げられる。
一流のバラード歌唱と逞しい器楽を組み合わせた、きわめてぜいたくなポップスともいえる。
「Mutazione」
ファンキーにしてしっとりとおちつきもある、ジャズロック・インストゥルメンタル。
メロディアスなテーマを中心に、さまざまな音を使って堂々と進んでゆく。
さえずるようなエレピのバッキングや、オクターヴを巧みに使うギター、憂鬱なサックスなど、いかにもジャズ風のプレイが散りばめられている。
手数の多いドラミングもカッコいい。
テンポアップした後の決めのユニゾンも余裕たっぷり。
エネルギッシュな動きを見せるところでも、どこか楽しげである。
全パートに見せ場あり。
70 年代中盤の音です。
「La Casa Del Mercante "Sun"」
リズミカルな歌ものフォークロック。
のどかで若々しい空気とコズミックな味つけのミスマッチがおもしろい。
跳ねるようなピアノ。
酔っ払っているようでいて、決して荒れず、どこまでもユーモラスで暖かい。
お囃子風のフルート、ソプラノ・サックスのキュートなリフレインもいい。
「宇宙エコー」はあんまりですが。
お百姓さんが畑で収穫を祝って催す宴会のようなイメージです。
「Milioni Di Persone」
やさしく伸びやかな歌唱とアコースティック・ギター、ピアノの切ない響きがしみるフォークソング。
誰もが泣きたくなるような気持ちをこっそりと持っているということを教えてくれる、忘れている人にはそれを思い出させてくれる、そんな歌です。
陽気な声とボブ・ディランのようなハーモニカで優しく元気づけてくれます。
なんとなく同時期のエリック・クラプトンを思わせるところも。
パーカッションがアクセント。
「Equilibrio Divino?」
山あり谷ありの変化に富むフォークロック。
たおやかな「静」と躍動感ある「動」を使い分けてダイナミックに進み、終盤では目まぐるしい展開を見せる。
アンサンブルが明解であり一貫してメロディアスなために聴きやすい。
演奏は村祭りのダンス・バンド風ながらも緻密な構成力が感じさせる。
ベース、ドラムスのプレイはかなりもの。
アコースティックでのどかな曲とドラマチックな大作、そしてソフトなジャズロックと多彩な内容のアルバム。
全体に、アンサンブル指向のていねいな演奏だ。
濃厚な情熱とアヴァンギャルドを誇るイタリアン・ロックのなかにあっては、オーソドックスなスタイルとハート・ウォーミングにして押しつけがましさのない歌心は、異色といえるかもしれない。
ここには、あからさまなプログレ指向がない代わりに、高い完成度と聴きやすさがある。
のびのびと歌われるフォーク・ロックのバッキングやインスト・パートで見せる演奏のキレは、相当なものである。
ジャズロック調のスピーディでめまぐるしい展開でも、技巧に余裕があり、全体をしっかりと歌わせることができている。
ジャズロックといってもリスナーに緊張感を押し付けてくるタイプではない。
サックスとフルートは OSANNA が「陰」とすると完全に「陽」。
華やかで楽しげな雰囲気は、この管楽器とヴォーカル・ハーモニーによるところが大きい。
メランコリックになっても、切なさを陽気に吹き飛ばそうとする姿勢があり、暗鬱には決してならない。
ヴォーカル・ハーモニーのみごとさは、NEW TROLLS に迫るといっていいだろう。
全体に、シンプルなメロディの作品でも音色がとてもリッチに感じられる。
その理由は、必要なところで一番フィットする楽器を使うという職人肌の作りこみにあるようだ。
さりげないところでも必ずある楽器が鳴っており、とても贅沢なサウンドといえる。
この凝り方から見て、旧 OSANNA 組以外はスタジオ・ミュージシャンと見たがどうだろう。(ギタリストは、SAINT JUST のファーストにクレジットがある)
フュージョン・タッチのジャジーな音とフォーク風のメロディ・歌の合体というのは、なかなか珍しいのではないだろうか。
OSANNA の豊かな音楽性は、エリオ・ダーナとルスティチ兄弟だけではなく、グアリノとヴェイレッティの力も大きかったのだと実感できる。
個人的には大好きなアルバムです。
(CDM 2028)