PENDRAGON

  イギリスのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「PENDRAGON」。 78 年ニック・バレットを中心に結成。 作品は十枚。 最新作は、 2020 年発表の「Love Over Fear」。
  CAMEL のアンディ・ラティマーをアイドルとするニック・バレットのギターとヴォーカルをフィーチュアしたメロディアス・シンフォニック・ロック・グループ。 独立レーベル TOFF RECORD を設立、自ら演奏したい曲をつくってゆくという力強いスタンスでポンプ・ロック・ムーブメント以後も確たる位置をキープする。

Love Over Fear
 
Jan Vincent Velazco drums, percussion
Peter Gee bass
Clive Nolan keyboards, backing vocals
Nick Barrett guitars, vocals, keyboard programming, mandolin on 4
guest:
Zoe Devenish backing vocals, violin on 4 and 5
Julian Baker sax on 8

  2020 年発表の作品「Love Over Fear」。 内容は、メロディアスで抒情的、オーガニックなブリティッシュ・ネオ・プログレッシヴ・ロック。 二十年少し前くらいの作風にダイレクトにつながっていて往年の(といっても 80 年代終盤位から 90 年代にかけて)メロディアスで溌剌としたネオプログレ・サウンドに馴染んだ人には向きといえる。 そして、一時期身をやつしていた巌のようにごつごつとしたサウンドのヘヴィ・ロックは影を潜めている。 しかし、まったりと昔の作風に収まっているわけではなく、テクニカルな見せ場も随所に盛り込まれているし、そのキレはむしろ良くなっている。 さらに、スペイシーな広がりや癒しっぽい音も適宜交えて 70、80 年代の名残もはっきりと刻み込んでいる。 珍しくジャジーな味わいもスパイスとして加味されている。 個人的にはそういった多彩な切り口のおかげで「入りやすくて」たすかった。(つまりプログレ好きに訴えるということか) 耳を惹きつける力はポジティヴで若々しい一曲目からあるが、3 曲目や 4 曲目、6 曲目辺りでさらにおおっとなるでしょう。 特に 6 曲目はセルフカヴァー的なバレット節全開の佳曲。 4 曲目はリメイクかというくらいのバレット節。バグパイプを思わせるヴァイオリンがいい。「Do you remember do you recall...」と口ずさんでしまった。 露骨な PINK FLOYD っぽさもなくなった。(7 曲目で掠るけれども) 8 曲目序盤のピアノ弾き語りは、AOR っぽいとはいえ新鮮だった。 9 曲目は近作に通じるやや暗めの曲調でアルバム・タイトルの「Love over fear」という言葉が出現する。怒涛のような展開に巻かれるのが楽しい。 ギターはもちろんオルタネート・ヴォーカルといっていいほどに全編を通じてよく歌っている。 ついていきやすい明快なフレージングも変わらない。 キーボードのメロトロン・フルート風の音も印象的。 ディズニー映画のサントラのような甘さは危険だが多すぎなければ大過なし。
  プロデュースはニック・バレットとカール・グルーム。
  
  「Everything」(5:40)
  「Starfish And The Moon」(3:37)
  「Truth And Lie」(8:26)
  「360 Degrees」(5:34)
  「Soul And The Sea」(5:44)
  「Eternal Light」(8:19)
  「Water」(7:57)
  「Whirlwind」(4:59)
  「Who Really Are We ?」(8:41)
  「Afraid Of Everything」(5:08)

(PEND30DS)

The Jewel
 
Nick Barrett guitars, vocals
Nigel Harris drums
Rik Carter keyboards
Pete Gee bass

  85 年のフル・アルバム第一作「The Jewel」。 80 年代ロックらしいシンプルな小気味よさに加えて、メロディアスなテーマの冴えと構成の妙も発揮した好作品。 MARILLION の後を追うような、ややハードなサウンドやシングル・ヒット狙いの作風など、後のメロディ重視のロマンティック路線とはかなり異なるところもある。 いまだ心の眼を醒ますようなきらめきは感じられないが、この時代でこの音を耳にしたならばかなり感動したと思う。 いわゆるポンプ・ロックの水準においては、かなりの力作といえる。 この作品を最後に、キーボーディスト、ドラムスがそれぞれクライヴ・ノーラン、ファッジ・スミスの不動のメンバーへ交代する。(もちろん、本作の二人もかなりの名手である) プロデュースはグループとロビン・プライア。

  「Higher Circles」(3:29)爽やかさとキラキラとした輝きに満ちたチャート向け産業ロック。 跳ねるような軽快さが特徴だ。 リズムのアクセントも、今となっては懐かしいこの時代の音である。 メインのリフは、ちょっと恥ずかしくなるような若々しさである。 ギターもシンセサイザーも、クリアーな音で元気よく前進する。 いかにも 80 年代調であり、明解な音と単純極まる内容である。

  「The Pleasure Of Hope」(3:42) 華麗なシンセサイザーがリードする CAMEL 風の哀愁漂う作品。 派手なオープニングとは裏腹にシンセサイザーのテーマとともにうっすらとした憂いを帯びてくる。 ギターとシンセサイザーのユニゾンによるバッキングが支えるメイン・ヴォーカルも哀願調だ。 装飾音の多い 3 連のオブリガートもシティ・ポップス風に泣いている。 要所のアグレッシヴなドラミングで華やぐも、なめらかなトリルを放つシンセサイザーとギターのハーモニーによる哀愁の調べが全体を支えている。 シンセサイザーのプレイは、装飾音がいやみにならないセンスのよいものだ。 間奏のギターもいいが、ここでの最大の魅力は、ヴォーカルを支えてバッキングをリードするこのシンセサイザーである。 ロマンティックな中に英国らしいメランコリーが満ちた佳曲だ。

  「Leviathan」(6:12) 8 ビートを変拍子風に聴かせるトリッキーな調子のイメージで貫くネオ・プログレらしい作品。 跳ねるような自然な溌剌さとネジを巻くようにメカニカルなプレイのコンビネーションである。 きりきり舞いするような調子を基本に、要所でじっくりと歌い込んだり、シンセサイザーの華麗なプレイを放ったり、はたまたエモーショナルなギターを奏でたり、起伏は多彩である。 忙しなくなる一歩手前のスピード感や波打つようなシンセサイザーのオスティナートなど、中期 GENESIS の影響はありそうだ。 ドラムスも変化をいろいろとつけている。 バレットの個性的な早口ヴォーカルと後半をリードする堅実なギター・プレイに代表されるように演奏全体に若々しさがある。 そして、驚くべきは同時に安定感もある。 変化は大きいが一気に聴かせる曲であり、後に花咲く作風の原型がある。

  「Alaska」(8:38)二部構成の作品。
  「1.At Home With The Earth」 きらきらとファンタジックながら薄い霧のような物憂さが貫くバラード。 丹念なギターのアルペジオと古びた笛かハーモニウムのようなシンセサイザーの調べが、沈んだ表情のヴォーカルを支える。 サビでは伸びやかに歌い上げるが、灰色の悲哀の彩りは変わらない。 悠然とした演奏、冷気と光をともに孕むシンセサイザーの音の広がり。 ベース・ラインやソロのシンセサイザーのプレイなど、ジャズ・フュージョン風の目立たせ方をしているようなところがある。 これはこの時代の傾向なのだろう。 眩しいようなきらめきと重厚さのある幻想曲。
  「2.Snowfall」 スピーディなフュージョン風インストゥルメンタル。 ギターのアルペジオを経て、一気にシンセサイザーが走り出し、ギターも追いかけるようになめらかなプレイで走り出す。 テクニカル・フュージョン風というか、やはり 70 年代末頃の CAMEL のイメージである。 軽やかで刺激的だ。

  「Circus」(6:32) 陰影に満ちたドラマティックなシンフォニック・ロック。 前々曲と共通するスタイルの作品だが、こちらの方が深みがある。 前半はトリッキーなリズムパターンにのせたクールに抑えた歌唱が印象的なハードボイルド・アダルト・ロック。 間奏部のシンセサイザー・ソロが最初の見せ場である。 バッキングのギターもカッコいい。 続くギター・ソロは、ポルタメントなどかなりスティーヴ・ハケットを意識している。 鋭く食いつくベースにも注目。 美しく幻想的なブリッジ、リズム・レスの気合の入った歌いこみを経て、後半は分厚いパワーコードで迫る 80 年代ロックから、メロディアスなギターとともに切々たるヴォーカルが戻り、スペイシーなキーボードのウォール・オブ・サウンドで幕を引く。 シンフォニックな響きが甘さを中和していい感じだ。

  「On Divineo」(6:49) 情感たっぷりにメロディを紡ぐギターをフィーチュアした変化に富むファンタジック・ロック、やや AOR テイスト。 バラード調のオープニングから、8 分の 6 拍子の緩やかなシャフル・ビートによる序奏を経て、80 年代らしいダンディズムのにじむメイン・ヴォーカル・パートへ。 翳りのある大人の表情が印象的だ。 展開部では跳ねるような 8 分の 7 拍子に切り替わってネオ・プログレらしい若々しさをストレートに打ち出す。 リズムは 8 ビートから 6/7 拍子も交えて曲調の変化を支える。 レガートなギターのテーマに目まぐるしいシンセサイザーがからむ辺りでクライマックスを迎えて、ギターとキーボードがリードするタイトなアンサンブルが悠然とエンディングに向かう。

  「The Black Knight」(9:55) ドラマティックな構成の長編シンフォニック・ロック。 アコースティック・ギターが印象的な無常感ある厳かな序奏。 伸びやかなギターの調べと力強いドラミング、エモーショナルな歌唱で最初の頂点に達する。 そこからは、快調なテンポでパワーコードが弾ける疾走感あふれるパート。 ピアノ伴奏が新鮮だ。 それは、力強いアンサンブルの中で特に生を肯定するオプティミズムの象徴たる響きだろうか。 そして、テンポは行進曲風に変化し、ギターのリードで堂々たる歩みを見せる。 真っ直ぐに前を見据えるようなギターとそのギターを包み込むシンセサイザーの輝き。 胸が一杯になるような、高揚感のある演奏だ。 クライマックスを経るとアンサンブルは静かにギターのアルペジオに主役を譲って去ってゆく。 終章も導入部と同じギターのアルペジオが紡がれて、切々たる歌唱とともに空しさを訴え、天からの導きのようなシンセサイザーの響きが高鳴り、消えてゆく。 感動的な大作だ。 85 年にこのスタイルが通用したことが驚きだが、この路線を邁進して頂点を極めることになる。

  「Fly High Fall Far」(4:55)ボーナス・トラック。メイン・ストリーム風ながらも

  「Victims Of Life」(6:53)ボーナス・トラック。


  典型的なポンプ・ロック。 GENESIS 風のギター・プレイとキーボード・オーケストレーション。 若さによるのか、時代の要請か、極端な「甘み」と「アクセスしやすさ」。 それでも、さまざまな曲を巧みに書き分け、GENESIS クローンにとどまらないギター、ヴォーカルで個性を発揮するバレットの才気には拍手を送りたい。 初めは同じように聴こえる作品も、聴き続けるに連れ、工夫されたアレンジによる深みとプログレらしい曲構成を持っていることに気がつくはずだ。 そうすると、情感の垂流しのように思えたヴォーカルやギター・ソロにも、私小説的な真剣さが感じられるようになる。 いまだ売れ線狙い、ポンプのベールにおおわれているが、個性的なサウンドは確立されている。

(PEND 2 CD)

Kowtow
 
Nick Barrett Vocals guitars
Pete Gee bass
Fudge Smith drums
Clive Nolan keyboards
guest:
Julian Siegal Saxophne

  ライヴ・アルバムを経て、88 年に発表された「Kowtow」。 四作目にしてセカンド・フルアルバムである、新メンバーでのスタジオ第一作でもある。 今回も、ストーリー性ある歌詞を情感たっぷりに歌い上げるヴォーカルと泣きのギターが前面に出ている。 そして、シンプルなリズムによるメインストリーム・ポップ色が強い。 「The Jewel」のようなスピード感やハードネスさは姿をひそめ、ヴォーカル主体のメローなサウンドを目指しているようだ。 ドラムスは、残念ながら、やや実力不足である。 80 年代ロックの特徴である軽薄さを時代の重荷として割り引いたとしても、いまだ過渡的なサウンドである。 よく歌うギターに対してキーボードがうっすらとした背景音に徹しているのも特徴的だ。 全体の音色への配慮を重視する現代的なキーボーディストのようだ。 やはり、バレットのヴォーカル、ギターあってのグループだろう。 プロデュースはグループ。 「Kow Tow」は、日本語の「叩頭」のことらしい。

  「Saved By You」(3:58)前作 1 曲目と酷似する、軽快なリフがドライヴするチャート・ポップス。
  「The Mask」(4:01)シンプルなドラムスとチープなデジタル・シンセサイザーに唖然となるが、鼻っ柱の強さとメランコリーがない交ぜになった英国の若者の表情がよく出ている。"ポンプ" の典型といってもいいだろう。
  「Time For A Change」(3:56)同上。ディスコ風。
  「I Walk The Rope」(4:47)バレットらしいあまやかなバラード。ゲストのサックスをフィーチュア。
  「2 AM」(4:14)本曲でもサックスをフィーチュア。AOR。
  「Total Recall」(7:00)再び AOR 調のバラード。 音に真剣味が感じられないシンセサイザーに比べ、ピアノのプレイは端正なみごとなものだ。 抑制したオープニングからフュージョン風のギターとともに官能的な厚みをつけてゆく。 リズミカルなパートが軽くならず説得力をもつ。 メロディアス・ロックの佳作。
  「The Haunting」(10:40)前曲をさらに大仰に、劇的にしたバラード。 これだけ火を噴くような情念の迸りを見せるにもかかわらず、ドラムスに重みがないため、効果は半減。 後半、ギターとシンセサイザーが煽りあいながら昂揚してゆく。
  「Solid Heart」(4:20)力強いヴォーカル・ナンバー。 初めからクライマックスのようなエネルギーに満ちている。 重厚なシンセサイザー・オーケストレーション。
  「Kowtow」(8:56)軽やかなシンセサイザーのリフで進む終曲。 リフはやや中華風かもしれない。 シンセサイザーの謎めいた表情やビートなど、どこかで聴いた音という印象がぬぐえない。

(PEND 1 CD)

The World
 
Nick Barrett guitars, vocals
Fudge Smith drums
Clive Nolan keyboards
Pete Gee bass

  コンピレーション・アルバムを経て、91 年に発表された「The World」。 六作目にして、「Kowtow」以来三年ぶりのサード・フルアルバムである。 作品はツアー中に書きためられたらしく、それぞれクレジットに作曲時の滞在していた都市の名前が入っている。 内容は、キーボードが描くゆったり広がる背景を貫いて、ナチュラル・サスティンの効いたギターが歌い上げるスーパー・メロディアス・ロック。 切なく歌うギターは、いつしか世界を熱い思いで満たしてゆく。 繊細でロマンティックな情感にあふれた、新生 PENDRAGON の傑作である。 イギリス人の心象風景ともいえる陰鬱な灰色の雨空が、次第に明るさを増し、光とともに鮮やかな虹がかかってゆく、そんなイメージのサウンドだ。 PINK FLOYD の影響も音に感じられる。
  ポンプ・ロックという表現には、自嘲気味でネガティヴなニュアンスがある。 ただし、本作品の音楽に「華麗なロック」というのは、ズバリいい得て妙ではある。 プロデュースはトニー・タヴァナー。

  「Back In The Spotlight」(7:39) スペイシーなストリングス系シンセサイザーをバックに、クランチなギターとメロディアスなヴォーカルが前面に出る元気いっぱいの作品。 歌メロは上ずり気味ながらもキャッチーであり、ギター・プレイは手作り感覚にあふれ、どこまでも若々しい。 微笑みとともに心を軽くしてくれる演奏だ。 そして、後半のギター・ソロやリフは堂々たるものであり、まさにバレット氏の独壇場。 ドラマチックながらも軽やかでメロディアスなところに好感がもてる。 若々しく生きのいいヴォーカル表現も GOOD。

  「The Voyager」(12:15) メランコリックな音に満ちたシンフォニック・バラード。 竪琴を思わせる丹念なアルペジオに象徴されるように、繊細でソフトなタッチが活かされた演奏である。 スチール、アコースティック、スライド、エレクトリックと多彩なギター・プレイを見せてくれる。 特に、むせび泣くようなエレキギターが印象的だ。 キーボードは、うっすらと降りしきる驟雨のようなバッキングに加えて、きらきらとした音によるオブリガートやソロをタイミングよく入れてくる。 ロマンティックなピアノもいい。 ただし、繰り返しが冗長に感じられることがあるのが難点。 中盤のハーモニカのような音もキーボードなのだろうか。 ともあれ、ギターとキーボードを呼応させつつ、ロマンを綴ってゆく作風である。 サビの歌メロや、沈んだ調子から始まって表情を明るく変化させる進行は、確かにうまい。 甘ったるい語り口に、雨を見つめるような真剣な切なさが浮かび上がってくる。 エンディングは、再び、心地よいコンプレッサの効いたギターが思いの丈を延々と描いてゆく。

  「Shane」(4:25) エモーショナルな泣きのバラード。 おそらく有名なハリウッド西部劇のヒーローのことを歌っているのだろう。 重厚ともいえるキーボード・オーケストレーションから飛び込むメイン・ヴォーカル・パートは、ひたすら切ないメロディがリードする。 バッキングのギターは、意外なほどヘヴィな音でパワー・コードを轟かせている。 メロディアスなテーマとスタッカート気味のリズムの組み合わせが面白い。 オルガンを思わせる空ろなシンセサイザーがおもしろい。 中間部のギター・ソロでは、グリッサンドやベンディングによるなめらかな音程の変化などスティーヴ・ハケット流のプレイが冴える。 力強く言葉を刻む歌唱だが、全体のイメージはソフト・フォーカスの写真か、雨ににじむ風景のようにすべてが柔らかくボンヤリと霞んでいる。

  「Prayer」(5:21) ピアノ伴奏によるおだやかな弾き語りから、ぐんぐんと力強く高まってゆく AOR、もしくはスタンダードのようなバラード。 表情を大きく変化させるヴォーカル、マーチング・スネアなど、PINK FLOYD を思わせる演出もある。 中盤では、メロディアスなギターと朗々たるヴォーカルが真骨頂を発揮する。 キーボードやギターが要所要所で深くヘヴィなアクセントをつけているために、フランク・シナトラになりそうでならない。 メロディ・ラインや歌唱スタイルは、ややポップス・クリシェ風ながらも堂々たるものだ。 シンフォニックなバラードについては天才的な腕前を感じる。

  組曲「Queen Of Hearts」(21:46)中期 GENESIS を思わせる三部構成の大作。 ロマンティックな曲調に巧みな器楽が織り込まれた力作だ。
  「(1)Queen Of Hearts」 優雅なピアノやアコースティック・ギターに導かれて始めるストーリー仕立ての歌もの。 丹念なアルペジオに導かれて物語は幕を開ける。 歌唱を支え、ソロでは歌い上げるギターは、ここでもふんわりとなめらかなハケット調である。 ヴォーカルは、多彩な表情を見せて曲の進行をリードする。 ベタベタと訴えかけるだけではない、落ちついた歌いこみがいい。 なかなか凝ったリズム処理もいいフックになっている。 ヴォーカルを引き継ぐのはまたしてもメロディアスなギター。 後半はひそやかな歌唱から翼を広げるように伸びやかな演奏となり、歌唱とギターが一つになって熱い思いを歌い上げる。

  「(2)...A Man Could Die Out Here」 弾けるリズムでひた走るドライヴ感のある作品。 バラード調の作品が続いたため、味わいは新鮮だ。 序奏でじっくりと力をためて、一気に解き放されて走り出すカタルシス。 組曲のクライマックスである。 パワーコードは鐘のように鳴り響き、コード・カッティングも小気味いい。 場面ごとにシンセサイザーが多彩なプレイを見せる。 うねるようにしなやかな運動性ある演奏にもかかわらず、ヴォーカルは意外にもやや沈み気味だ。 中盤で再び立ち止まり、憂鬱に切なさを埋め込んだヴォーカルをホイッスル・シンセサイザーとハケット・ギターが支えていく。 再び演奏は走り出し、華麗なシンセサイザー・ソロへ。 ヴォーカルにも次第に力が入る。 ストリングス・シンセサイザーの厳かな響きが最終曲を呼び出す。

  「(3)The Last Waltz」 甘美で気恥ずかしいまでに若々しく、リラックスした最終章。 いわゆる「70 年代ニューミュージック」的なタッチであり、郷愁は倍増しでかき立てられる。 サビのリズミカルな「Do you remember, do you recall」のメロディは、作品を締めくくって有無をいわさぬ説得力を持つ。 耳に残るこのメロディは全作品中でも屈指のものだろう。 明るくてちょっぴり涙も誘う、理想的なエンディングである。

  「And We'll Go Hunting Deer」(7:14) 重厚なストリングスとピアノが導く、厳かなる大団円。 おだやかにして陰影に富むテーマと、内を省みてなおかつポジティヴさを失わないヴォーカルがいい。 初めはぐっと抑えているが、どんどんと表情を変えて、やがて、翼をゆっくりと広げるようにシンフォニックに盛り上がる。 そして、その高まりのなかにすら、繊細な翳りを織り込んでいて、なんとも微妙なニュアンスがある。 彼らはメロディのよさを活かす術を心得ているのだ。 英国ロックの伝統を感じさせる名曲。 タイトルは CARAVAN の名曲を思わせますが、偶然でしょうか。


  美しい音色と耳になじむメロディをフル回転させる、メロディアス・ロックの真骨頂。 どこを切っても、耳に優しいメロディとファンタジックなサウンドにあふれかえる。 こういう作品は、いかに雰囲気に酔い、感情移入できるかで、すべてが決まりそうだ。 もしも酔えないとすると、どれもが同じに聴こえるのは必至である。 CAMELGENESISにも、甘美でメロディアスな面があったのは確かだが、ここまで同じような特性の曲ばかりではなかったと思う。 優美な表層に対して、いつ噴き出すかわからない強く不安定なエネルギーも奥底にうごめいていた気がする。 ここのサウンドは、70 年代の音からそういった攻撃性と若気の至りのエネルギーを抜き取って、様式を整えたものなのかもしれない。 もっとも、それは思惑というよりは、ニック・バレットの嗜好がすなおに出た結果というべきだろう。 5 年前の「The Jewel」と比べても、はるかにソフトな音である。 そして、この音こそが、PENDRAGON のものであることを宣言しているのが、本作なのだ。
   この音楽は、バレットの思いの丈をギターとヴォーカルに込めてシンセサイザーでお化粧して送り出す、いわば、演奏者とリスナーの個人的なコミュニケーションをまず確立するタイプのものである。 共感が大きなファクターである。 演奏者間の音楽的なやりとりをまとめあげ、絶妙の呼吸やスリリングな瞬間の火花や、時に荒っぽく突き放すような表現を「(自分にはない)カッコよさ」としてリスナーに体感させるのではなく、「わたし」から「あなた」への「やさしい気持ち」を伝えることを目指した音楽なのだ。 したがって、この音は、メッセージと共感をのせる媒体としての機能性が強調されている。 ある意味、これは、究極のスタイルである。 なぜなら、どんなプレイヤーも、伝えたいことがあってこその音楽であるはずだから。 リスナーを表現の技巧でもって感動させるよりも、まず、自分が感動した結果のヴァイブレーションをリスナーに伝えることによって真のコミュニケーションと感動がある、という話は大筋では正しい。 「カッコいい」が主になって真剣なメッセージ性が希薄になってしまった音楽も確かにあるので、その反動なのかもしれない。 ただし、この音が「粋」でないのも確かである。 愚直であろうとなんであろうと、すなおなメッセージを心を込めて送り出す、というやり方は、それが見え透いているとかえって嫌味である。 大胆なたとえだが、四畳半フォークをすなおに喜べない感覚もあるのではないだろうか。 そして、「カッコいい」を失ったロックというのも、ちょっと悲しいような気がする。


(GRIFFIN 55421-4931-2)

The Very Very Bootleg Live In Lille France 1992
 
Nick Barrett guitars, vocals
Fudge Smith drums
Clive Nolan keyboards
Pete Gee bass

  92 年発表の七作目、ライヴ・アルバム「The Very Very Bootleg Live In Lille France 1992」。 「Kowtow」から 2 曲、「The World」から 2 曲そしてオープニングは「The R(B)est Of PENDRAGON」収録のインスト・ナンバーの計 5 曲で構成される。 フランス、リールでのライヴからのダイレクト・カット。(曲が終わると Thank you ! ではなく、Merci Beaucoup ! といっている) 音質、演奏ともに申し分なく(ベース・パート含め、低音がやや弱いのが唯一難点)、エンディングでのメンバー紹介など、ライヴならではの面白さもある。 歌いながらギターを弾くバレット、複数のキーボードを軽やかに弾きこなすノーランの腕前に、改めて感心。 メロディアスに訴えかけながらもきちんとロックしている、キャリアのあるグループのライヴは一味違います。

  「Excalibur」(6:16)「The R(B)est Of PENDRAGON」収録。 JADIS ばりのギターとシンプルながらキレのいいキーボードの織り成す小気味のいいインストゥルメンタル。

  「Total Recall」(6:37)「Kowtow」収録。当たり前だが、ギターを弾きながらもきちんと歌えるところがみごと。

  「Queen Of Hearts」(21:34)「The World」収録の名曲。コーラスは少しヘロヘロだが、エンディングはやはり感動的。ハーモニカはベーシスト?

  「Ane We'll Go Hunting Deer」(7:36)「The World」収録。

  「Solid Heart」(9:58)「Kowtow」収録。

(MOB1CD)

The Window Of Life
 
Nick Barrett guitars, vocals
Fudge Smith drums
Clive Nolan keyboards
Pete Gee bass

  94 年発表の「The Window Of Life」。 八作目にして四枚目のオリジナル・スタジオ・アルバム。 その内容は、キャッチーなメロディと英国らしいロマンチシズムが理想的な結合を見せた最高のメロディアス・ロック。 ギターはほとばしる感情をそのまま写しとったようにパッショネートであり、キーボードは神秘にあふれるステージを提供し、ヴォーカルは若々しく思いを歌い上げる。 間違いなくこの時点での最高傑作である。 衒いなく歌い上げるギターは、あたかも、グループの進む方向が明らかになった喜びにあふれているかのようだ。 そして、気恥ずかしいくらいセンチメンタルなメロディの奥底には、英国風のユーモアや巧みな陰影がある。 気がつけば口ずさんでしまう魔力も、この深い味わいにあるのだ。 一旦なじんでしまうと、このメロディが実にいい。 すごいのは、すべての曲にこれぞという決めの旋律があるところ。 正にメロディック・ロックの面目躍如である。 そして、そのメロディを際立たせる緩急自在の曲展開が、またみごとだ。 歌い込み、力強く走り、再びじっくりと歌い込み、やがて悠然と広がってゆく。 PINK FLOYDGENESIS に倣いながらも、ズシッと手応えのあるプレイを効果的に配してアクセントをつけている。 決して甘ったるいばかりじゃない、まだまだロックしているぞ。
  雄大なシンセサイザー、切々と語りかけるアコースティック・ピアノ、迸るオルガン、そして夜空に虹を描いてゆくような魔法のギターが彩なすロマンにあふれた作風であり、また、心に残るメロディを巧みに織り交ぜてじっくりと聴かせる語り口も巧みである。 厳粛なオープニングから、次第にロマンティックな世界が拓けてくる「The Wall Of Babylon」でぐっと惹きこまれると、次曲「Ghosts」では、ピアノが彩る甘くせつないバラードがシンフォニックに高まるのに息を呑み、「Breaking The Spell」では、沈痛なギターの涙におぼれ、さらに、14 分余りにわたる「The Last Man On Earth」で、少年の日の思い出のようなエモーショナルなメロディに、我を忘れて酔いしれることができる。 前作の延長でありながら、繊細かつ雄渾な筆致が冴える大傑作。 ポンプ嫌いの方は、思い切りヘコんだときに聴いてみましょう。 きっと癒されるはず。 プロデュースはカール・グルーム、ニック・バレット、ギャビン・グリーンウェイ。

  「The Wall Of Babylon」(10:44)重厚な「Crazy Diamond」風の序章から、ギルモア/ラティマー路線の泣きのギター・ソロ、「Watcher Of The Skies」をきっかけに、重厚にして明朗、着実なるドラマへと進む大傑作。 ヴォーカルが入ってようやく 80 年代を経たことが分かる。 キーボードのリフレインはデジタル・シンセサイザーのトニー・バンクス。 長調と短調の転調のタイミングが絶妙である。 サビはあきれるほどメロディアスでキャッチーだが、展開の流れが自然で丹念なため、気品は保たれている。 分かりやすい PINK FLOYDCAMELGENESIS の合体技である。

  「Ghosts」(7:58) ピアノをフィーチュアした弾き語り風バラードを躍動感ある演奏で波打たせたメロディアス・ロック。 ピアノによる典雅なイントロダクションを経て、エモーショナルなヴォーカル登場。 このヴォーカルの先導が本グループの特徴的な進み方である。 あまりにアイドル・ポップ調の展開部に驚くが、語り口の陰陽の切り換えが巧みなため、さほど違和感を覚えずに流れに乗ってゆける。 伸びやかなヴォーカルを支え、補って、全編にわたりギターが語り続ける。 スローに歌いこむパートではピアノが寄り添う。 「A Trick Of The Tail」な助走を経て、終盤は一気に高潮し、JADIS を思わせる熱い展開へ。

  「Breaking The Spell」(9:12) うつむいた祈りのようなヴォーカルとブルージーなギターが支えあう泣きのバラード。 無常感や憂鬱をギターが突き破る演出など、芸風が IQ と共通していることが分かる。 ギター・プレイのスタイルは、ギルモア、ラティマー直系のブルージーかつ暖かみのあるもの。 後半は、重々しいシャフル・ビートを得た PINK FLOYD 風のインストゥルメンタル。 ソロ・ギターのリードでやや重苦しくも力強い前進を見せる。 重厚さの中にちらちらとひらめく甘さ(やはり転調による効果である)がいい。

  「The Last Man On Earth」(14:40) センチメンタルきわまるメロディの応酬で綴る二部構成の大傑作。
  第一部「Skylight」。 とにかく最初から最後まで、ありとあらゆるところに、胸にしみいるメロディがあふれている。 歌唱は当然として、ギターのオブリガート、シンセサイザーのフレーズ、すべてが口ずさめて、噛み締めると味わいのあるメロディである。 透きとおるヴェールでおおうようなストリングス系のキーボード・プレイもいい。 前半、ギター・ソロは高らかに天駆ける。 オーボエのようなシンセサイザーのブリッジを経て、弾き語りと PINK「The Wall」FLOYD に倣うスキャットとハーモニーで幻想味を強めてゆく。
  第二部「Paradise Road」。 激情を叩きつけるビートとともに一気呵成に走り出す。 第一部の旋律も、回想のように、形を変えて散りばめられる。 間奏部、ハーモニカやバンジョーなどカントリー風の演出がおもしろい。 ヴォーカルを中心としたストレートな演奏だが、さまざまに小技を効かせているので退屈しない。 厳かな呼びかけ、そして第一部の主題をじっくりとふりかえる。

  「Nostradamus(Stargazing)」(6:19)またもオープニングは朗々たるギター、そして背景を彩る穏やかな響き。 じっくりと歌い込むヴォーカルを応援するが如き、ギターの力強いコード・ストローク。 これがカッコいい。 メロディの落とし処にあいかわらずの冴えを見せ、シンプルな繰り返しの展開にアクセントを効かすポップなアリーナ系ロック。

  「Am I Really Losing You ?」(4:47)タイトルとおりの感傷と憂愁に溺れそうなバラード。 ヴォーカルはそれでも表情を抑えるが、その代わりに、間奏では、堰を切ったかのように、切なさに身悶えるギター・リフレインがほとばしる。

  「The Third World In U.K.」(7:15)ボーナス・トラック。

  「Sister Bluebird」(7:47)ボーナス・トラック。曲名は YES の「Starship Trooper」の歌詞の冒頭。

(PCCY-00653)

Utrecht ...... The Final Frontier
 
Nick Barrett guitars, vocals
Fudge Smith drums, percussion
Clive Nolan keyboards, backing vocals
Pete Gee bass, bass pedal, keyboards, guitar, backing vocals

  95 年発表の「Utrecht ...... The Final Frontier」。 94 年 4 月と 5 月に行われた「The Window Of Life」欧州ツアーを収録したライヴ・アルバム。 オランダ、ユトレヒトは、PENDRAGON が 85 年に MARILLION のサポート・アクトとして欧州大陸で初めてライヴを行った場所であり、今回のツアーではその記念すべき場所へ最高のパフォーマンスをひっさげて凱旋できた旨が、興奮気味のコメントで綴られている。 改めて「The Window Of Life」に盛り込まれた楽曲の良さに気づかせてくれるライヴ作品である。 スタジオ盤と比べるとクライヴ・ノーラン氏のキーボードが活躍していることがよりはっきりと分かる。

  「Kowtow」同名アルバムより。
  「Breaking The Spell」「The Window Of Life」より。
  「The Mask」「Kowtow」より。ロンドン・ポンプ本道らしい佳曲。
  「The Last Man On Earth」「The Window Of Life」より。
  「Am I Really Losing You ?」「The Window Of Life」より。
  「The Voyager」「The World」より。冒頭のエレキ・ギターはピート、アコースティック・ギターとヴォーカルがバレットでしょうか。
  「Nostradamus」「The Window Of Life」より。

(MOB3CD)

The Masquerade Overture
 
Nick Barrett guitars, vocals
Fudge Smith drums
Clive Nolan keyboards
Pete Gee bass
guest:
Tracy Hitchings  backing vocals
Tina Riley  backing vocals
Anthony Plowman  backing vocals
Gwen Ross  backing vocals
Simon Clew  backing vocals

  96 年発表の「The Masquerade Overture」。 九作目にして五枚目のオリジナル・スタジオ・アルバム。 今回は、象徴的な仮面舞踏会をテーマに、ファンタジックなサウンドによるメロディアス・ロックを繰り広げる。 物語は、荘厳なシンセサイザーと混声合唱による幻想的な舞台に、スリリングかつエモーショナルに描き出される。 前作でのメロディアスな親しみやすさから一歩前進し、劇的なアレンジによって、クラシカルな重厚さとオーケストラルな広がりが感じられる作風になった。 それでも、心の襞に分け入るような優美な旋律に出会えるところは、さすがというべきだろう。 大人の重い口を開かせ、ふと気づけば少年のように歌を口ずさませるメロディ・ラインは、もはや魔術的である。 この上、ほのかなユーモアや健康的なシニシズムが感じられる瞬間があれば、まさに英国ロックとして免許皆伝だ。 ジャケットにある仮面の男と音楽家の対峙は、おそらく、悪の象徴と美と歓喜の象徴の衝突なのだろう。 しかし、よく見れば、仮面の下の顔は音楽家のものではないだろうか。 これは、「影との戦い」?  それとも、本当のファンタジーは自らの中に善悪それぞれを見出し、ユーモアと希望でもって人生を乗り切ってゆく瞬間に初めて生まれるのだ、という暗喩だろうか。 多彩なキーボード・オーケストレーションも、これまでで最高のできばえだろう。 プロデュースはカール・グルーム、ニック・バレット。

  「The Masquerade Overture」(3:02) ストリングス系キーボード群、混声コーラスらによる荘重なオープニング。

  「As Good As Gold」(7:15) 泣きのメロディと躍動する演奏が一体となった名作。 天駆けるギターと多彩なシンセサイザーが変拍子のアンサンブルをドライヴする、ネオ・プログレ定番というべき内容である。 後半、脚韻を踏むサビからのリズミカルでオプティミスティックなノリは、「The World」以降確定した、正統 PENDRAGON 路線である。 ぐっと引いてピアノがささやきオーボエが朗々と歌うなど、緩急自在で涙腺を刺激する。

  「Paintbox」(8:36) もはや PENDRAGON 節というべき愛らしくも泣かせる歌メロが冴えるシンフォニックなバラード。 後半でハモりを見せる B メロこそが、真骨頂である。 コンプレッサを効かせたメランコリックなオブリガートやブルーズ・フィーリングでいっぱいのソロなど、ギターは CAMEL の近作に通じる入魂のプレイ。 これだけ衒いなくアルペジオで迫られると観念せざるを得ない。

  「The Pursuit Of Excellence」(2:36)バレットの希望に満ちた朗唱が冴え渡る小品。

  「Gardian Of My Soul」(12:39) 風を切って疾走するギター、キーボードに胸が熱くなるシンフォニック・ロック大作。 エモーショナルなメロディに力強さが加わった、終盤の盛り上がりがカッコいい。 ヴォーカルのリードを支えて、出るところでは出るキーボードが、本作の主役のようだ。 リズムもいつになく派手である。 ベースの存在がもう少し活かされると、さらにプログレっぽいカッコよさが高まったかもしれない。

  「The Shadow」(9:54) エモーショナルなバラード。 メロディに流される分やや AOR 風になってしまうような気がする。

  「Masters Of Illusion」(12:50) PENDRAGON の作風の集大成のようなオムニバス風の大作。 愛らしく躍動する歌唱からシリアスな表情の演出まで、ヴォーカリストとしての華も感じさせる。 終盤、ヴォカリーズとともに突き進むギターは、ほとんど長調のデイヴ・ギルモアである。

以下 3 曲は日本盤のボーナス・トラック。
  「Schizo」(6:59)
  「King Of The Castle(The Shadow Part.2)」(4:45)
  「A Million Miles Away」(3:17)

(PCCY-00903)

Live in Krakow 1996
 
Nick Barrett guitars, vocals
Clive Nolan keyboards, backing vocals
Pete Gee bass, keyboards, backing vocals
Fudge Smith drums

  97 年発表の「Live in Krakow 1996」。 96 年に行われた「The Masquerade Overture」ツアー中、ポーランド、クラクフで収録したアルバム。 ツアーの様子を伝えるたくさんの写真がインナーにあるが、作品自体は、クレジットによれば、スタジオ・ライヴのようだ。 聴衆はその場にはいないようだが、TV で中継された可能性はある。 演奏そのものはライヴな躍動感に満ち、なおかつ安定感もある理想的なものである。 改めて、ワンパターンだが馴染みやすく味もある、ライトでポップな PINK FLOYD というこのグループの路線は、ニッチではあるが、いいポジションにあると思う。(元々は CAMEL フォロワーではあるが、ジャズ色が一切ないため、あまりそう聴こえない)

  「As Good As Gold」(7:37)「The Masquerade Overture」より。
  「Paintbox」(7:53)「The Masquerade Overture」より。
  「Gardian Of My Soul」(13:16)「The Masquerade Overture」より。
  「Back In The Spotlight」(6:38)「The World」より。
  「The Shadow」(9:48)「The Masquerade Overture」より。
  「Leviathan」(7:00)「The Jewel」より。
  「Masters Of Illusion」(13:27)「The Masquerade Overture」より。
  「The Last Waltz」(4:35)「The World」より。

(MOB5CD)

Not Of This World
 
Nick Barrett guitars, vocals
Clive Nolan keyboards
Peter Gee bass
Fudge Smith drums

  2001 年発表、第十作にして六枚目のオリジナル・スタジオ・アルバム「Not Of This World」。 五年ぶりの作品は、ハードさとストレートな展開が却って内省的で繊細な世界を描き出す、奥深い傑作。 ギターやドラムス、ヴォーカルの音響処理がやや金属的ながらも、全体としては、重厚かつ荘厳なシンフォニック・サウンドである。 もちろん、今回もロマンティックかつトラジックなメロディ・ラインは、ヴォーカルにギターに全開である。 華美なサウンドにもかかわらず、悲劇性と無常感が、全体を透明なヴェールでおおっているようなイメージだ。 そして、あまりに豊麗なる哀しみに息苦しくなるのと同時に、荒々しいギターの音に、再び立ち上がり勇躍飛翔しようとする意気込みが感じられて胸が熱くなる。 切実ながらもよどみない音の流れと、うつむいた姿勢から真っ直ぐ未来を見すえるようにポジティヴに顔をもたげてゆく演奏は、今回もすばらしい。 そして、お涙頂戴風のメロディにばかり頼らない、より直截的に力強く訴えかける語り口にも凄みがある。 スキャットによるバッキング・ヴォーカルのせいで PINK FLOYD に聴こえてしまうが、それに気がつく前に、ロックとしてのパワーと熱いリリシズムに驚かされる。 3、4、5 曲目は、素直なプログレ好きも顔を出し、典型的ともいえるブリティッシュ・ロックを突きつけてくれる。 これには、リスナーは破顔せざるをえない。 3 曲目は、ポンプ・ロック・モード全開の作品。それでも、鮮やかなギター・プレイにはドキドキさせられる。 反面キーボードは、あまりにプログレ・クリシェにこだわりすぎかもしれない。 ストリングス系の音でバックを固めるのはうまいだけに残念だ。 THE FLOWER KINGS の名曲と通じるところも。 4 曲目の終盤のインストゥルメンタルなど、メロディアスながらも、今までにはなかった硬派なドライヴ感をもつと思う。 また、演奏面では、風格のあるギターはいうに及ばず、ドラムスが進境著しい。 その一方、ライトなフュージョン風のベースやアコースティック・ギターのプレイは、やや典型にまとまりすぎかもしれない。 また、キーボードのプレイには 1 曲目のピアノのような息を呑むような瞬間とともに、少しマンネリ気味に感じられるところもある。 それでも、オーソドックスを貫くという意味では、なかなかの健闘だ。
  総体としては IQMARILLION とともに英国ロックの王道をゆく気風がある。 ファンは全く裏切られず、そして、新たなファンも生まれそうな内容だ。 メロディアスにして、大人の、深みのある情趣を描き出せている傑作といえるでしょう。 SAS のバラードみたいなところも多いんですけどね。
  ところで JADISIQ もそうなのですが、私には、本作の一部も TEARS FOR FEARS に聴こえてしまいます。 おそらく 80 年代の英国ロックの音に対する耳の精度が異常に悪いのでしょう。

  「If I Were The Wind(And You Were The Rain)」(9:24)
  「The Dance Of The Seven Veils」(11:39)
  「Not Of This World」(16:23)
  「A Man Of Nomadic Angel」(11:43)
  「World's End」(17:59)
  「Paint Box」(3:25)ボーナス・トラック。アコースティック・ヴァージョン。
  「King Of The Castle」(4:45)ボーナス・トラック。アコースティック・ヴァージョン。
  「The New World」(2:23)ボーナス・トラック。

(PCCY-01502)

Believe
 
Nick Barrett guitars, vocals
Clive Nolan keyboards, vocal tinkering
Peter Gee bass
Fudge Smith drums

  2005 年発表の作品「Believe」。 切実で濃密、ロマンティックな作風を徹底して洗い直したような、厳粛かつアーシーな空気感の作品となる。 ニック・バレットらしいメロディやフレーズが現れると、ストリングスのざわめきとともに一気に感傷が沸騰しそうになるが、本作では、そう簡単にはいつもの係り結びに落ちつかない。 アメリカのオルタナティヴ・ロック・バンド風の南部的な埃っぽさやエキゾチズム、ジャケットの男のからだを覆うスティグマというべきタトゥーに象徴される土着の呪術性にぞくっとさせられたり、あまりに厳かな響きに言葉を失ってしまうところがある。 無常という言葉を思い出す頃には、埃っぽい風に巻かれてすっかり口も心も乾ききっている。 その一方で、多少の摩擦があってもためらわず豪快に突っ込んでゆく、開き直ったようなパワーも感じられる。 全体にゴツい音だが、ステレオタイプなプログレ・メタルのようなヘヴィさはない。 まず常に歌があるし、その上、エキゾチックな意匠が非常に印象的に散りばめられていて、手作り感がある。 そして、曲の決めどころでは、バレット節というべき明快なメロディが主役となって風を切るように走ってゆく。 やはりこの歌、メロディが、少しひねくれながらも現れて、そこを核にして演奏が高まってゆくところに一番自然なエモーションを感じ取ることができる。
   むせび泣くエレクトリック・ギターの表現もみごとだが、曲をリードしているのは、あらゆるところでかき鳴らされるアコースティック・ギターである。 このアコースティック・ギターを使う歌ものの表現は、どうしても PINK FLOYD をイメージさせるが、まあもはやそういうこともどうでもいいことなんだろう。 これだけの年月を経てしまえば、すでにこのグループの味ということになる。 朗々と歌い上げるのは元々得意技だが、ギターをかき鳴らしてつぶやく歌にも風格と、なんというか、出来の悪い大人特有の無闇な迫力がある。 そうだ、ここにある歌は、尾羽打ち枯らしてもなお立ち上がろうとする不器用な親父の歌なのだ。 今までのような泣きのメロドラマティック・ロックを堪能するなら他のアルバムを薦めるが、本作は、バレットがロックのカッコよさをちゃんと分かっていることが確認できる名盤である。 デヴィッド・ボウイやルー・リードのような孤高のアーティストと同じ雰囲気を感じます。
  プロデュースは、ニック・バレットとカール・グルーム。本作品は 2005 年 7 月 7 日のロンドン同時爆破テロの犠牲者とその遺族に捧げられている。

  「Believe」謎めいたコントラルトに導かれるエキゾティックなインストゥルメンタル。

  「No Place For The Innocent」酒焼けか? だみ声で唸るバレットのヴォーカルに驚かされる力強くアーシーなギターロック。アクセントは配するも展開の核は従来通りのものであり、じつはなかなかキャッチー。

  「Wisdom Of Solomon」時に軽妙なまでに流れるような語り口で感傷的な「らしさ」を随所に見せつつも、PORCUPINE TREE の向こうを張る奇妙な捻じれも感じられる、ダイナミックな力作。 薬味は埃っぽい西ヨーロッパ、アフリカ風のエキゾティズム。 全編エレクトリック・アコースティック・ギターをフィーチュア。 冒頭のブルーズ・フィーリングに満ちたギターの芸風はアンディ・ラティマーそのもの。 エンディングを駆け抜ける敏捷なギター・プレイもカッコいい。

  「The Wishing Well」祈りと哀しみを描く四部作。 第一部は厳かなストリングスと神秘的なヴォカリーズに包まれた沈痛な独唱、あるいはモノローグ、あるいはポエトリー・リーディング。 第二部は悲哀に冷えた心を健気に暖め直すようなメロディアス・ロック。素朴なアルペジオで、ソロでギターも歌う。メロトロン・フルート風の調べも。 第三部は切迫感を前面に出した、アグレッシヴである意味若々しいともいえる快速チューン。 第四部は別離と希望を描く弾き語りロック。道の向こうに灯火が見えるようなイメージ。泣き叫ぶギター、雷鳴のようなドラミングなど何かを振り払うようにヘヴィなタッチもいい。そして浄化の安らぎ。

  「Learning Curve」冒頭、尺八を思わせるロングトーンが散りばめられギターが妖艶にからみつく。エキゾティックなイメージの内から湧き出す退廃感や浮遊感がポジティヴな浪漫へと昇華する、いかにも英国ロックらしい作品。 短いフレーズに言葉を押し込むような得意の歌唱スタイルも冴える。 アコースティック・ギターに導かれるスパニッシュ・テイストも新鮮だ。 個人的には一推し。 終盤はギター・ソロによって懐かしのポンプ・ロック調が甦る。

  「The Edge Of The World」センチメンタルだが悲劇らしい重厚さも兼ね備えたバラード。 またもアコースティック・ギターの丹念なアルペジオで幕を開け、ギターがヴォーカル以上に切々と歌い上げてストリングスとともに後期 PINK FLOYD そのもののようなインダストリアルで重みある表現へと進む。

(PEND13CD)

Pure
 
Nick Barrett guitars, vocals, keyboard programming
Peter Gee bass
Clive Nolan keyboards, backing vocals
Scott Higham drums, backing vocals

  2009 年発表の作品「Pure」。 内容は、ラウドなギター・ロック風味を利かせた内省的なメロディアス・ロック。 吹きすさぶ雪風、冬の荒瀬のような険しくごつごつとしたサウンド・イメージながらも、リフはキャッチーだし、ギターは豊かなブルーズ・フィーリングに裏打ちれた歌を歌っている。 そして、メロトロン・ストリングスもそれこそ膨れ上がる波頭のように高まっては轟々と打ちかかる。 低音では怪しげな表情を作るヴォーカルも、気がつけば驚くほど若々しく甘い伸びのあるトーンで歌い上げている。 その上で、サイケデリックでラウドなサウンド、デリケートなメロディ・ライン(これについては元々老舗である)、ポスト・ロック風味といった現代ギター・ロックにかかせぬポイントもしっかりと抑えている。 たとえば、3 曲目の組曲では強靭なリズム・セクションとともに幻想的な新境地を自信を持って提示している。 ANEKDOTENPOCRUPINE TREE ばりの展開を見せたりもするが、ついつい饒舌になったり、突っ込むであろうところ黙りこくる辺りがバック・グラウンドの違いというか、ジェネレーション・ギャップというか、おもしろいところだ。 枯れているようで、なかなかの野心作だと思う。 ネオ・プログレ本山の一つとして決してポーランド勢に負けていない。 個人的には、キーボードが初めて音色も含めてしっかりと存在感を放っている気がします。 オルガン系の音が目立つせいかもしれない。 また、しなやかなサイド・ヴォーカルは新ドラマーだろうか。 この新ドラマーがポイント、ポイントで入れてくる HM 風のハードな打撃も新機軸である。
  プロデュースは、ニック・バレットとカール・グルーム。 ごく個人的なことだが、「Eraserhead」や「The Fleak Show」(デヴィッド・ボウイの名前も出てくる初期 MARILLION ばりのノイローゼ小品)といったタイトルがデヴィッド・リンチの映像作品を連想させる。 また、種明かしはルール違反ではあるが、作風の変化にとまどうファンにこっそり伝えたい。 最終曲の後半では PENDARGON が切ないまでに変わらぬ姿を見せてくれる、と。

  「Indigo」(13:42)強面ながらも、よく聴くと「ピュアな甘さ」がにじみ出ていて、それがバレット氏の自然な表情なのだと分かり、それはそれで安心できる。ギター・ソロはアコースティック風のアタック強く刻むようなフレーズから得意の伸びのある泣きのレガートまでいろいろと取り揃えている。
  「Eraserhead」(9:04)現代的なデジタル・ロック。跳躍するような奇数拍子の処理のみごとなこと。新人のようです。
  「Comatose
  「The Fleak Show
  「It's Only Me

(PEND17CD)

Passion
 
Peter Gee bass
Scott Higham drums, backing vocals
Clive Nolan keyboards, backing vocals
Nick Barrett lead vocals, guitars, backing vocals, keyboards, keyboard programming

  2011 年発表の作品「Passion」。 内容は、凶暴、荘厳、そして大胆な展開にこのグループらしい切ない表情が光るへヴィ・シンフォニック・ロック。 半端にデジタル・ロック風の音をまとうのでも(少しは気にしているが)、昨今巷間にぎわす PINK FLOYD - PORCUPINE TREE 流にならうのでもなく(こっちはもっと昔から意識しているだけ)、刺々しく苛ついた表情にもこのグループ独自の味がしみ出ており、なおかつメリハリの効いたラウドなギター・ロック、つまり英国ハードロックの王道にも乗っている。 ガレージ風のワイルドさで歯軋りするような敵意を放射しているし、イコライザをかけまくったポスト・ロック風の無機質な味つけもあるが、基本は「The Masquerade Overture」辺りを思い出させるメロディック・ロックの自己リヴァイヴァルである。 ギザギザとエッジの立ったヴァースからコーラスへ抜けるときの、あたかもひと時嵐が止んだような開放感がいい。 閉塞した状況と重く澱んだ空気感が辛くなってくると、メロディやギターが救いの手を差し伸べてくる。 卓越したヴォーカル表現(決して大御所っぽく渋くなるのではなく、これだけベテランになっても若々しい甘みがある)、クランチなギター・サウンド(もちろん味つけは多少は今風、カッコ書きがちょっとしつこいですね)、重厚な弦楽奏、勢いのあるアンサンブル、すべてが充実している。 10 分を越える二つの大作がキーポイント。特に二つ目の大作は本アルバムの軸である。 荒ぶる心のままの激しさと勢いは欠かせないが、ゴシックな重みやオオゲサさといったスタイリッシュな構えがロックのリアルを損なってしまうことをよく分かっていて、その真正なエネルギーを得るために、自分の持ち味である魅力的なメロディ・ラインに自信を持って傾倒している。 そして、黒人音楽が構築されたものを放擲して本能のままにストリートに戻ってしまう愚行を繰り返しているのに対して、表現法こそ倣いながらも、この英国ロックは少しづつスパイラルを描いてどこかに向かっている。 サウンド面では、今風の音作りをのぞけば、オーケストラ風の音作りやヴォーカルに寄り添うデリケートなピアノの使い方が新しい。 古めかしいメロトロンやエコーマシンやイコライジングを使うのが今風の流行ならば、おじさんたちの方に一日の長があるんだぞ。
   通常盤と、CD/DVD 二枚組盤あり。本作品はポーランド・ロックの功労者トミー・ジウビンスキに捧げられている。 プロデュースは、ニック・バレットとカール・グルーム。 激しさとキャッチーさを両立させ、メインストリームでも十分勝負できる英国ロックらしい傑作。 個人的には久々の大推薦です。 「Passion」という言葉が歌詞のあちこちに現れる。

  「Passion」(5:28)まずはガツンとぶちかますヘヴィ・チューン。 電子の嵐が削り取って傷だらけになった表層は砂埃にまみれ、血がにじむ。 終盤のヒネリも余裕あり。

  「Empathy」(11:21)英国ロックの伝統たる大胆な展開を見せる傑作。1 曲目を早くもリプライズする。 KING CRIMSON もある前半、でもサビは PINK FLOYD。 デヴィッド・ボウイやポール・ウェラーがやってもよさそう。 終盤のピアノが胸に刺さる。

  「Feeding Frenzy」(5:47)デジタル呪術なブギー/ハードロック。ギターが吼える。変転の妙。

  「The Green And Pleasant Land」(13:14)真骨頂というべき泣きの PENDRAGON 節。 ロングトーンで歌うギターもまろやかなシンセサイザーの調べも、ここまで抑えてきたので余計にしみる。 暁に向けて飛び立つようなダイナミックな展開もよし。 アーシーなオルタナ風味など音楽的な自由度は高く、シンフォニックな高揚感もある傑作。

  「It's Just A Matter Of Not Getting Caught」(4:41) インダストリアルなヘヴィネスとメロディアスなタッチが一つになったバラード。名曲。

  「Skara Brae」(7:32)変拍子リフを交えたヘヴィ・ロック。 アコースティックなバラードのパートも。終盤はアンディ・ラティマーを思わせるギターがよく歌う。

  「Your Black Heart」(6:46)ギター、ピアノが付き随う厳かなるバラード。 思い切り PINK FLOYD だが、それがどうした。

(SMACD971)

Men Who Climb Mountains
 
Nick Barrett guitars, vocals, keyboards, keyboards programming, backing vocals
Peter Gee bass, backing vocals
Clive Nolan keyboards
Jan Vincent Velazco drums

  2014 年発表の作品「Men Who Climb Mountains」。 内容はメロディアスだがダークなトーンが主となるギター・ロック。 90 年代末辺りからの英国ロックの音だ。 メロディの泣きはもちろんバンド演奏の運動性をも強調した内容といえる。 新ドラマーからの刺激があったのだろうか。 無論だからといって HM 化しているわけではない。 感傷やニヒリズムを生のままぶつけた音にしているからそういう様式には嵌らない。 そしてあらゆるものを衝動的に性急に弾き返すのではなく、いったんずっしりと受け止めてから大人の表現として送り戻してくる。 その受け止めと弾き返しが機敏なところが現役バンドのすごみだ。 大人な感情の発露なので当然ながら重い。 メロディ・ラインに顕著なようにストレートなようでいて屈折している。 時おり、まだ燃え盛る青春の炎をアコースティックな弦の響きに載せて静々と控えめに送り出してもくる。 そして、サビの抜群の安定感。 それは目を覚まさせる力強い抱擁や宙に浮いた心をつなぎとめるアンカーのようだ。 ギターの表現力は卓越していて、歌があるとともに表情もあり、懐が深い。 何かに依拠せずにあらゆる影響のバランスを取って独自色を出せている佳作だと思う。 轟轟と唸るメロトロン・ストリングス、朗々と響き渡るクワイヤが印象的。 初めて聴いてもカッコいいんじゃないかな。
   CD は 2019 年発表の結成 40 周年記念リミックス盤で二枚組。二枚目は 2013 年のアコースティック・ハウス・ライヴ音源。

  「Belle Âme」序曲として機能するあまやかなる弾き語り。
  「Beautiful Soul」ヘヴィにしてセンチメンタル、しかし飛翔感ある佳曲。
  「Come Home Jack」アジテーション風のサビが印象的な佳曲。
  「In Bardo
  「Faces Of Light
  「Faces Of Darkness」ドラマティックな佳曲。変拍子のリフでグイグイ突き進む。
  「For When The Zombies Come
  「Explorers Of The Infinite
  「Netherworld

  以下ボーナス CD の収録曲。
  「The Voyager
  「A Man Of Nomadic Traits
  「This Green And Pleasant Land
  「Nostradamus
  「Paintbox
  「King Of The Castle
  「Indigo
  「The Freakshow
  「Masters Of Illusion
  「Space Cadet
  「The Edge Of The World
  「It’s Only Me

(PEND32CD)


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