JADIS

  イギリスのメロディアス・ロック・グループ「JADIS」。 82 年結成。 雌伏十年、92 年にアルバム・デビュー。 サウンドはギター、ヴォーカルを中心とした爽快でメリハリのあるメロディアス・ロック。 ポンプ・ロックの進化形の一つともいえる。 2019 年 2 月「Medium Rare II」発表。 グループ名はナルニア国物語の白の魔女より。

 Medium Rare II
 
Gary Chandler guitar, vocals, keyboards
Stephen Christey drums
Martin Orford keyboard, backing vocals
Andy Marlow bass on 1,2,6,7,8,9,10
John Jowitt bass on 3,4,5,11

  2019 年発表の作品「Medium Rare II」。 既発曲のライヴ・ヴァージョン、リミックス、再録音、未発表曲、カヴァー曲などを含む編集盤。 「Photoplay」からの選曲が多いのはバンドもそのアルバムが傑作であると認めているためではないか。 何度も聴いた曲について、新たな面が見つかり、ライヴの呼吸のよさもたっぷり味わえる JADIS ファンは必携の一枚。
  
  「There's A Light」(5:45)2018 年ライヴ・ヴァージョン。「Photoplay」より。 みずみずしいギターのオブリガート。
  「Truth From The Lies」(5:17)未発表曲。
  「No Sacrifice」(6:42)リミックス・編集ヴァージョン。「Across The Water」より。 重厚華麗なパワーチューン。透き通るように消えてゆくエンディングはスタジオ盤がそのまま再現されている。
  「What Kind Of Reason」(5:47)リミックス・編集ヴァージョン。「Fanatic」より。
  「Standing Still」(5:29)リミックス・ヴァージョン。「Photoplay」より。
  「Photoplay」(5:55)再録音ヴァージョン。「Photoplay」より。
  「Hear Us - end section」(3:38)2018 年ライヴ・ヴァージョン。「Somersault」より。
  「Daylight Fades」(5:17)2018 年ライヴ・ヴァージョン。「Across The Water」より。癒しと希望を与える傑作。
  「Animated」(5:44)未発表曲。インストゥルメンタル。
  「Your Own Special Way」(5:54)GENESIS のカヴァー。オブリガートが敢えてピアノ。
  「Comfortably Numb」(6:15)PINK FLOYD のカヴァー。

  (JAD 010)

 More Than Meets The Eye
 
Gary Chandler lead vocals,guitars
Stephen Christey drums, percussion
Martin Orford keyboards, flute, backing vocals
guest:
John Jowitt bass

  92 年発表のデビュー・アルバム「More Than Meets The Eye」。 詩情あふれるサウンドとナチュラルなメロディが涼風のように吹き抜ける、爽やかな傑作である。 そして、ジャズ・フュージョン系でもヘヴィ・メタル系でもない、いわゆる「ロック・ギター」が楽しめる作品でもある。 音の全体的なイメージからネオ・プログレッシヴ・ロックとくくられてもしょうがないが、かの系列の音に散見される脆弱なリズムや未成熟な大作志向はない。 躍動と詩情をストレートに表現した高品位のロックなのだ。 一番の持ち味は、巧みな表現力を持ちながら微塵の暑苦しさもないギターと透明感あふれるシンセサイザーのコンビネーションが生み出す、青空へ突き抜けるような「清涼感」だろう。
   その中でも、まずはギターの多彩なプレイを取り上げるべきだろう。 ソロにおいてはソリッドな音色で爽快かつエネルギッシュなフレーズを自在に操り、キーボードとのアンサンブルやバッキングでは相手を巧みに支えて呼吸のいい対話を行う。 ハードロックのギター・ソロのようなフレーズも多いが、センシティヴな音色のおかげでそういったところにもみずみずしさが生れてフレッシュな印象を与える。 そして、あらゆるメロディに直截的でポジティヴな明るさと英国伝統のメランコリックなリリシズムがほどよくブレンドしている。 この点は、ホガース以降 MARILLION のスティーヴ・ロザリーと共通する。 音色とキャッチーなフレーズに気を配る作風は、もう少しユーモアを加味してキーボードの彩色を豊かにすれば、絶頂期の CAMEL に迫るかもしれない。 また、現代的なサウンドを用いて伝統のメロディアス路線を進むという点では、逆輸入めくが、今をときめく THE FLOWER KINGS に近い音楽観のようにも思う。 一方、ギターとともに魅力の一つであるチャンドラーのヴォーカルには、80 年代のデジタル・ポップを消化したような、したたかなうまさがある。
  1 曲目のオープニングで、水平線いっぱいまでまぶしい太陽に照らされて悠然と広がる海にサァっと涼風が吹きぬけるような感覚が味わえれば、すべてはしっくり心に馴染むだろう。 デジタル・シンセサイザーの音がこんなに魅力的に聴こえたのは、ほとんど初めてかもしれない。(ちょっと ASIAVAN HALEN ですが) やはりこのグループについては、音色がすべてのキーである。 それは、アコースティックな感覚あふれるエレクトリック・サウンドといってもいいかもしれない。 ふと気がついたのですが、時おりリズムがモタりゆらいでいる?

  「Sleepwalk」(7:45) キレのあるギターがはち切れそうに奔放な展開を支える名曲。 ミステリアスなオープニングに続く洗練されたテーマ、そしてさりげない変拍子とチャート・ポップスの調和。 ギターはどこまでも小気味よく、シンセサイザーはそのギターとしっかり連携して、時に軽やかに時に重厚に、キャンバスに虹を描く。 そして、男性的かつ爽やかなヴォーカル。 魅せられる点は多い。 躍動感あるギターのテーマは、一曲目にもってくるだけあって自信が感じられる。(最終盤で繰り出す変奏もカッコいい) 後半、朗々と歌うギターに続くゆったりとした、ローランド・オーザバルばりのヴォーカル・パートの存在がストーリーに厚みを与えている。

  「Hiding In The Corner」(4:18) 風を切って走るように軽快な作品。 前曲の「はちきれ」感と対照的に、ヴォーカルを生かしたストレートな作風であり、英国伝統である、ポップ・テイストとファンタジーの配合の妙である。 キラキラとしたシンセサイザーのリフが先導し、ギターはワンコーラスおいて飛びこんでくる。 リズムに乗ったソロもいいが、曲をガッチリ引き締めるテーマとパワーコードのバッキングが冴えている。 比較的シンプルなギターに対して、キーボードはリズミカルなバッキング、後期 YES のリック・ウェイクマンを思わせる神秘的な音のソロで存在感を放つ。

  「G.13」(5:43) 限りない飛翔の始まりから穏やかなその終焉までを描いたような、ドラマのある佳作。 伸び伸び高らかなギターがリードするところは 1 曲目と同じ。 イントロでは緩やかなシャフル・ビートと 3 連フレーズで心地よい安定感を作り上げ、用意ができたところで、一気に走り出す。 ギター・リフに機敏に応じてシンセサイザーはスタイリッシュなオブリガートを次々決める。 エネルギーに満ちた前半から、後半はゆったりと受けとめるようなミドル・テンポのバラードに変化する。 全編レガートなロングトーンのギターが冴える。

  「Wonderful World」(8:19) キャッチーながらも英国風のダンディなロマンチシズムが感じられる力作。 前半は気持ちのいい躍動を続けて後半は悠然と歌い上げ、最後にはすべてが合流して、ドラマを結ぶ。 半拍おいて始まるレガートなギターのテーマと、パーカッシヴなシンセサイザーの対比、そしてシンプルな繰り返しがサビであでやかに弾けるヴォーカルの妙。 たたみかけるように歌いこみ、コーラスですっと広がりを持たせる巧みな表現だ。 シンセサイザーはややクラシカルな端正さと大仰さで迫り、ギターはあくまでナチュラルに歌い上げる。 中盤まではリズムを強調した進行だけに、後半からのゆったりしたテンポによるソロが心地よい。 ギターの二つのテーマが耳に残る。

  「More Than Meets The Eye」(4:50) アコースティック・ギターとフルート、厳かなシンセサイザーなどによる幻想的なバラード。 GENESIS ほど屈折していないが、さりげない奇数拍子や丹念なアルペジオを採用して描く同様な世界である。 一方、フルートの使い方は CAMEL 風。 オープニングは、うつむくようなフルートとアコースティック・ギターのアンサンブルが前曲からシームレスにつながる。 ドラムレス。 短い歌詞には、人生の苦悩の翳がさす。

  「The Beginning And The End」(6:10) カラフルなサウンドとややブルージーな表情が微妙な対立でブレンドしたミドルテンポの作品。 ぐっと溜め込んでスコーンと弾けるかと思えば、今回は弾けない。 淡々と意見を述べているようなイメージである。 ギターは「フュージョン風」に伸びやかに歌い、バッキングも美しく愛らしいが、全体にメランコリックである。 これは、主として、ほんのり耽美な翳りも交差するヴォーカルの表情からくるのだろうか。 終盤、ギターが、あたかも元気づけるかのようにさまざまなリフレイン(スタイルはスティーヴ・ハケット?)で語りかける。 この作品で見られるようなふところの深さ(屈折度合い?)が、PENDRAGON よりも大人な音に聴こえる理由だろう。

  「Holding Your Breath」(9:40) 「Pomp」なシンフォニック・インストゥルメンタル大作。 品のなさはブラス風のシンセサイザーのバッキングのみに帰せられるだろう。 こういう作風でも上品に抑えが効くところはさすがだが、やや取ってつけたようなフレーズや繰り返しで嵩を膨らませているところは確かにある。 チャンドラーのギターはゆったりしたフレーズでも速く鋭いヴィヴラートがかかるところが特徴のようだ。 後半のリズムレスのパートでの淡くも妖艶なファンタジー・テイストはさすが。 終盤のギター・ソロも万感胸に迫る。 ハケットのソロ作や CAMEL の大作に通じる作風であり、進むに連れだんだんよくなる(というか「らしく」なる)曲である。 インストゥルメンタル。

  (XRCN-1146)

 Across The Water
 
Gary Chandler lead vocals,guitars
Stephen Christey drums, percussion
John Jowitt bass
Martin Orford keyboards, flute, backing vocals
guest:
Josien Obers cor anglais, oboe, backing vocals
Ken Bundy backing vocals

  94 年発表の第二作「Across The Water」。 内容は、あたかも生の高まりを伸びやかに歌い上げるような、清涼感あるメロディック・ロック。 オプティミスティックなみずみずしさのある歌メロを軸に、ヘヴィなプレイと透明感ある音色のプレイがバランスよく配された、聴き心地のいいサウンドである。 こういった清涼感は、いわゆるプログレにおいてはきわめて異例ではないだろうか。 もちろん、爽やかなだけではない。 デリカシーを感じさせる物憂げなトーンもあり、さすが英国ロックと唸らされるのだ。 そしてヴォーカルは、男性的で細やかなニュアンスもある理想的なものだ。 エモーショナルであると同時に、ここ 20 年あまりの英国ポップ・シーンを生き抜いてきたしたたかさも感じさせる。 また、ギターのプレイは、親しみやすく小気味のいいフレーズをハキハキと歌い上げるスタイル。 基本はハードロック風の音使いのようだが、オーソドックスなテクニックを自然な流れで紡いで、ていねいにメロディを刻んでゆくところが好感が持てる。 そして、このヴォーカルとギターの二本立てによる活き活きとしたサウンドに、キーボードや管楽器を用いて繊細なニュアンスを付与している。 小気味よいギターのバックでは、優美なシンセサイザーが音に奥行きをつけ、淡く仄かな輝きで演奏を彩り、ソロやインタープレイでは躍動感あるピアノが、華麗な指さばきを見せる。 そしてダイナミックなプレイの谷間では、オーボエ、フルート、コ・アングレズが哀感あふれるメロディを歌うのだ。 リズム・セクション、コーラスも文句なし。 ギター中心ながらギター以外のアクセントが抜群にいいところが、やはり CAMEL を思い出させる。 いや、これはひょっとするとハードロック、プログレ、ハードポップ、フュージョンの養分を吸い取った新世代のロックかもしれない。 PENDRAGON よりも涼しく MARILLION よりもソフト。 80 年代の音に抵抗のない方へは絶対のお薦め。 全曲チャンドラーの作曲。 繊細な感性と理性のバランスがとれた大人のメッセージとしての歌詞もいい。 5 曲目はチャンドラーの朗唱と神秘的なキーボード/管楽器が生み出すプログレ・ファン感涙の傑作。
  個人的には最高傑作。2009 年現在でも年に何度かは手に取るディスクです。

  「Touch」(6:38)一人コール・レスポンス風のキャッチーなテーマとメロディアスなメイン・ヴォーカルによる代表作。 歌唱とギターともに、しっかりした説得力があるにもかかわらず、暑苦しくなくむしろ爽やかだ。 そして軽くなり過ぎないなためにはこのハードなギターの存在が欠かせない。 ASIA 以降のファンには無理なく入ってくる音だ。 キーボードは、堅実なバッキングでしっかりと楽曲を支え、華やかな間奏では、つややかにして透明感あるアクセントとなっている。

  「In Isolation」(6:40) 前曲とあわせて二部作のようでもある。 透明感あふれるキーボードの響きを従えた朗々たる歌唱に、ハードエッジなギターで起伏をつけてゆく。 切なくむせび泣くソロ・ギターも印象的。

  「Daylight Fades」(7:55) ロマンティックで翳りのあるバラード。 タイトル通り、胸に迫る思いに心を乱される幻想的な薄暮の一時といったイメージである。 しっとりとしたサビなど、アコースティックな響きがいい。 華麗なるピアノのブリッジを経て、テンポ・アップ後はクランチなギターをリードに、アンサンブルが朗々と歌い走る。 フレットレス・ベースとの呼応、ピアノのオブリガートも冴える。 メイン・パートへ戻った後、最終部のギターとピアノのジャジーなインタープレイが意外だった。 いい終わり方が思いつかなかった感あり。

  「Everywhere I Turn」(6:16) キャッチーなエレアコ風ギターのリフとアッパーな歌メロが冴えるアップ・テンポ・チューン。 つむじ風のような間奏のシンセサイザーが、いかにもオーフォードらしい。 ドラムレスのニューエイジ・ミュージック調の間奏部が新鮮。 そういった爽やかめの音に対して、リード・ギターはぐいぐいと力強くヒネリを加えてゆく。 後半は、産業ロックギリギリ(コーラスのせいか?)の線をキレのいい演奏で切り抜ける。

  「A Life Is All You Need」(4:30) 夕暮れの空のように広がりとうっすらとした色彩感のあるバラード。 祈りに似た朗唱。 ギターによるロングトーンの調べが色彩のスペクトルをかき鳴らすようにゆったりと満ちてゆく。 後半のコ・アングレズ、オーボエのたおやかな響きに涙する。

  「The World On Your Side」(7:04) 前曲からややポジティヴな明るさを取り戻した変拍子パワー・チューン。、 アコースティック・ギターのアルペジオがさざめき、愛らしいフルートの調べが舞うオープニング。 ヘヴィなコードを 7 拍子のテーマが軽やかに取り巻く。 中間部、一瞬のカッコいいシンセサイザー・ソロを経て、またも産業ロック化するが、テーマがしっかり受け止めて軌道修正。 後半はやや迷いがあるような展開であり、ギターの新しいテーマもあまり冴えない。 むしろ素直に歌い上げる方がいいようだ。

  「No Sacrifice」(7:50) トリッキーなリズムによるヘヴィなアンサンブルの切り返しを多用するパワー・チューン。 最後は 1 曲目のテーマ変奏、再現なども見せつつ、余韻たっぷりのエンディングを迎える。

  (GEPCD 1009)

 Somersault
 
Gary Chandler lead vocals, guitars, backing vocals
Stephen Christey drums
Steve Hunt bass
Mike Torr keyboards, backing vocals
guest:
Josien Obers backing vocals

  97 年発表の第三作「Somersault」。 ジョーウィットとオーフォードが IQ の活動に専念するため一時脱退し、新メンバーを迎えた。 サウンドは、前二作の軽快かつ抒情的なものから、重量感あるダイナミックなものへとシフトしている。 ギターも、ハードなエッジのある音色、プレイになった。 ふくよかでイマジナリーな広がりから、よりソリッドで現実的な手応えを求める方向へ進んだ、といってもいいだろう。 リズムもアタックが強くなり、全体にはハードロック色が強くなっている。 また同時に、楽曲に複雑な構築性も現れており、いわゆるプログレ・スタイリッシュなプレイは増えているようだ。 この方向転換が力強いリズムとヘヴィなギターのコンビネーションによるダイナミックで躍動感あるサウンドの希求ということならば、新しいチャレンジであるし黙って見守ることができる。 しかしながら、もはやクリシェと化した変拍子パターンや、GENESIS 風のキーボード・プレイ(そりゃ「Firth Of Fifth」が名曲なのはわかるけどサ)は、いかにもとってつけたようなものに思えてならない。 さらに、これらのプログレ常套句こそ、本作の新趣向であるスピードある展開や突き抜けるようなパワーと相反しないだろうか。 個人的には、もち味であったメロディアスに歌いこむヴォーカルも、メタリックなリフに象徴される今回の器楽との折り合いが、今一つに思えてならない。 再三思うのは、テクニカルな見せ場は音楽的な必然がなければ意味はないということ。 「プログレ・メタル風が受けるから」といったコマーシャルな判断が、元来もっていた特徴をかき消すのでは何にもならない。 総じて前二作のリリシズムを期待すると、やや的を外してしまうだろう。 テクニカルでアグレッシヴなスタイルはなかなか堂に入っているが、どうにも借り物めいているところがあり、そこの部分の瑕疵が全体を損なっている印象がある。 安易なクリシェさえなければ、かなりの力作だったのに、とても残念。 このグループに限っては、自然な歌心をスタイルで飾り立てる必要はないでしょう。

  (MICY-1017)

 Understand
 
Gary Chandler guitar, vocals
Stephen Christey drums
Martin Orford keyboards, backing vocals
John Jowitt bass

  2000 年発表の第四作「Understand」。 ライヴ盤をはさんでオリジナル四作目。 キーボードとベースに IQ コンビが復活。 内容は、再び熱きエモーションを見せながらも清涼感もあるギター・ロック。 前作の経験も踏まえたのか、ヘヴィな音とライトな音がブレンドされて美しいテクスチュアを成しており、もはや JADIS 節というべき朗々たる歌にとけ込んでいる。 それに加えて、今回はメロディアスな面と相反するような幻想的で抽象的な面も見せている。 特にギターは、今までの朗々たるソロだけではなく、エレキギター本来のパワフルな音を意識して強調したプレイになっていると思う。 サウンドのトータル・イメージには 80 年代ロックを引き継いでいることが感じられる。 大きな違いは、かの時代に一世を風靡した人工的なデカダンスの魔力はきっぱり捨て去り、自然な情動の生む明るさと爽快感をもっているところである。 それでも、キャッチーな音のなかに無常感を伴う物憂げな翳りがあり、英国ロックの伝統はしっかり息づいている。 チャンドラーは個性的なヴォーカリストとしても進境著しく、そのヴォーカルがギターと対等、もしくはそれ以上にアルバムのイメージを決めている。 全体に、ヴォーカルの比重こそあがったものの、内容は「Across The Water」をしっかりと受け継ぐものになっている。 逆に、ここまでくるとややワンパターンという意見も出そうだ。 ギターのスタイルのみならず、ドラミングやシンセサイザーの音にも、新しい方向性を取り入れようとする姿勢は感じられる。 個人的には、オーフォードとチャンドラーがもっと音的に刺激しあって、全盛期の CAMEL のような世界を見せてくれるとうれしい。 たとえば 3 曲目のインストゥルメンタル・パートなどは、ギター・ソロに加えてギター、キーボードのインタープレイの格好の見せ場でもあると思うのです。

  「Where In The World」(5:53)メロディアスな歌もの。 爽快にしてロマンティックな JADIS 節。初期の二作品と共通する音楽性であり、南米の作品に通じるところもある。 ただ、初期作品と比べると、透明感よりも歌の力強さ、熱さが印象的。

  「Is This Real」(6:54) 力強いドラミングが堂々とミドル・テンポを刻むも、独特の和声、プログレッションによる幻想の霧がたれこめる作品。 ブリット・ロックに涼感を持ちこんだこれまで作風からの若干のシフトを感じさせる。

  「Alive Inside」(4:51)珍しく攻撃的なギター・ソロが堪能できる。

  「Between Here & There」(2:56)ギターの 3 連フレーズがリードするブリッジ風の小品。 燃え上がるようなオルガンの響きもカッコいい。 どこかの曲の一部のような内容である。

  「Racing Sideways」(4:43) 若い世代に負けない芯のあるギター・ロック。 今風のドラミングと小刻みなディレイ・エフェクト、遮二無二かき鳴らすギターが新鮮だ。 ヴォーカルが入るとこぶしが効くせいか格段にベテラン風味が増しますが。

  「Understand」(6:43)フリップ/イーノか音響派を意識したようなアンビエントな演奏が印象的なタイトル曲。 前曲とクロス・フェードする入りがカッコいい。 もちろんサビでは力強くギターが何かに抗うように轟き、詠唱風のヴォーカルながらも底流たるパッションは熱い。 物憂い名曲である。

  「Giraffe Chariot」(5:09) メランコリックながらもなかなかキャッチーな CAMEL 風のバラード。 ヴォーカル・ハーモニーが珍しく、独特の清潔感あり。

  「Counting All The Seconds」(7:00)ポスト・ロック風のドラミングが印象的な作品。 エモーショナルに歌いつつもややミニマルで醒めた表情も見せる。 後半のギター・ソロが圧巻。

  (JAD 004)

 Medium Rare
 
Gary Chandler lead vocals, guitars, backing vocals
Stephen Christey drums
Steve Hunt bass on 4-9,11
Mike Torr keyboards, backing vocals on 4-6,8
Martin Orford keyboards, backing vocals on 1-3,7,9,10,12-14
John Jowitt bass on 1-3
Tony Diaz keyboards on 11

  2001 年発表の作品「Medium Rare」。 デビュー前の作品で構成した 93 年発表の EP「Once Upon A Time」と 96 年発表の EP「Once Or Twice」のカップリングと未発表音源から成る編集盤。 すでに廃盤であった二つの EP をリマスターされた音で聴くことができる、うれしい内容だ。 1-3 曲目は、第一作のイメージそのままの爽やか路線。キャッチーだが誠実で涼感あるリフ、透明感と存在感を兼ね備えたキーボード・サウンド(オルガンも鳴っている)、堂々たる歌唱などすでに完成された姿を見せている。 3 曲目はオーフォードが大活躍。 ベースの音がはっきりと聴こえるのもリマスターの効果だろうか。
  一方、4-7 曲目は、第三作のヘヴィな音と第二作までの爽快なメロディがバランスした、なかなかの内容。 パワー・コードの多用とともに、オーフォードに代わるキーボーディストによるアコースティック・ピアノのプレイによってアダルト・ロック的な印象も生まれる。 トニー・バンクスを数倍テクニカルにしたようなプレイも入れており、陽性のテーマに救われてはいるものの、やや様式がかったシンフォニック・ロックである。 もっとも、個人的には第三作よりもいい。

  「Follow Me To Salzburg」(5:03)70 年代プログレになかったみずみずしさが特徴的なメロディアス・シンフォニック・ロック。 丹念なアルペジオによるミドルテンポ進行が生む落ちつきある、堅実なイメージ、そしてきらびやかにしてデリカシーあるキーボード・サウンド。 ギター・プレイにジャズ、フュージョン・タッチがあるところも興味深い。 水分たっぷりの爽やかな果実のような作風である。 原曲は 89 年の作品「Jadis」より。

  「All In One Day」(6:31)一転して躍動感を強調する"ロック"な作品。 派手なドラミングとギター、キーボードのどこか愛らしいオスティナートで快調に走る。テンポを落としてゆったりとよどむところも美しい。 チャンドラー氏はあるタイミングでペンタトニックのアドリヴをやめてメジャー・コードですなおに歌い上げることを決意したに違いない。 キャッチーなパワーコード・リフも嫌味はない。 終盤、満を持したシンセサイザー・ソロが鮮烈。

  「View From Above」(7:40)削ぎ落とす前はこういう感じ、というのがよく分かる作品。 冗長さもあるが、健やかなサウンドは変わらず光る。 三曲分くらいの素材が盛り込まれている。 終盤のシンセサイザーのソロが秀逸。

  以上「Once Upon A Time」より。

  「This Changing Face」(5:24)泣きの強いハード・バラード。 ややヘヴィなギター・リフ、バッキングと出過ぎないアコースティック・ピアノが特徴。 ストリングス・シンセサイザーもこれまでと音が違う。 ギターのオブリガートの手癖がほほえましい。原曲は 89 年の作品「Jadis」より。

  「In The Dark」(4:01) シンプルなリズムで軽快に走って湿り気を風で乾かそうかという 80 年代英国ロックらしさあふれる作品。 シンセサイザーはうまいのかもしれないがネオ・プログレど真ん中過ぎて。 原曲は 89 年の作品「Jadis」より。

  「Taking Your Time」(4:55) 思わせぶりなアルペジオと薄暗がりに座り込んで歌うような(そんな MV が目に浮かぶ)、メランコリックな作品。 バッキングでは再びアコースティック・ピアノが存在感を出す。 サビの転調があまり救いにならない。ただ、このぼんやりとしたどちらつかずの雰囲気は、大人の憂鬱を現すにはかなり適切に思える。ちょっぴり艶歌っぽさも。 原曲は 89 年の作品「Jadis」より。

  以上「Once Or Twice」より。

  「Hiding In The Corner」(4:33)ライヴ・ヴァージョン。 第一作収録。ギターは当然、シンセサイザーのサウンドが往年の YES を思わせる。 95 年アムステルダム。

  「Live This Lie」(4:45)リライト・リレコーディング・ヴァージョン。 第三作収録。97 年録音。

  「Giraffe Chariot」(4:55)デモ・ヴァージョン。 第五作収録。98 年録音。

  「The World On Your Side」(7:10)ライヴ・ヴァージョン。 第二作収録。ライヴでの再現が大変な作品とコメントされているが、この演奏はたいへん優れている。 95 年アムステルダム。

  「Acoustic Medley」(3:43)チャンドラー/オーフォードのコンビによるベース、ドラムレスの作品。二人で周ったアコースティック・ツアーの成果の一つ。99 年録音。

  「This Changing Face」(5:04)「Once Or Twice」より、アコースティック・ヴァージョン。97 年録音。

  「Alive Inside」(4:39)デモ・ヴァージョン。 第五作収録。98 年録音。

  「Old & Wise」(4:39)未発表。 ALANPARSONSPROJECTEye In The Sky」収録曲のカヴァー。 コリン・ブランストンに負けない名唱。 98 年録音。

  (JAD 005)

 Fanatic
 
Gary Chandler guitar, vocals
Steve Christey drums
Martin Orford keyboards, backing vocals
John Jowitt bass
guest:
Julia Worsley backing vocals

  2003 年発表の第五作「Fanatic」。 叙情的でファンタジックな広がりにヘヴィな音も交える近年の作風に、ほんのり耽美な色調を加味した傑作。 JADIS 節といっていいメロディアスなヴォーカルはそのままに、ハードながらもヒネリも効いたギターをたっぷり盛り込み、初期の淡い爽快感も含めつつ、より多彩な表現へと踏み込んでいるイメージがある。 キャッチーなメロディを歌いつつも、そこにとどまらず、いくつかの曲折を経る展開がある。 冒頭とエンディングに躍動感ある JADIS らしい作品(グサっと刺さるようなギター・リフを用いても、決して単調にならないところがみごと)を配しているが、中盤は、内省的な視線と空ろな心象風景をイメージさせる内容となっている。 そして、今回も、大きくゆったりと呼吸するようなキーボード・サウンドのテクスチャが、ギターと好対照を成しつつ、絶妙の均衡を保っている。 サイケデリックで自由なプレイと叙情的で繊細な語り口は、現代的な英国ギター・ロックのものであると同時に、シンフォニックなプログレ色の強まりとも受け取ることができる。 また、ドラムスは、前作に続いていろいろと研究熱心だ。 結論としては、初期の涼感とブルージーな哀感、そしてファンタジー性がバランスした傑作でしょう。 基本をしっかりと固めた上でのさまざまなアプローチがあるために、初期のファンと英国ロック・ファンの両方にお薦めできる。 CAMEL のファンにもいけるかもしれません。 ところで、スリーヴがだんだんストーム・トーガソンの PINK FLOYD に近づいているような気がしますが。
   タイトル曲は、美しい慈愛のインストゥルメンタル。 3 曲目も夢うつつの幻想味あふれる佳作。 ボーナス・トラックは ASIA 風のパワー・チューン。

  「the great outside」(6:34)アコースティック・ギターによる導入部の雰囲気に少し驚かされる。メロトロン・ストリングスも聴こえる。明朗なサウンドにもかかわらず澱みがあり、謎めいたムードが特徴。突き抜けきらなさが新鮮。
  「into temptation」(6:38)
  「each & everyday」(6:09)
  「I never noticed」(5:24)
  「fanatic」(4:04)
  「yourself alone」(5:55)
  「take these words」(4:16)
  「what kind of reason」(8:17)
  「who can we be sure of」(4:51)

  「the flame is burning out」(4:08) ボーナス・トラック。

  (INSIDE OUT 6 93723 00352 8)

 Photoplay
 
Gary Chandler guitar, vocals, keyboards
Steve Christey drums
Martin Orford keyboards
John Jowitt bass
guest:
Steve Thorne backing vocals

  2006 年発表の第六作「Photoplay」。 冒頭のギターを聴いて「戻ってきた」という感慨を抱かざるを得ない快作。 近作でのヴォーカル面の充実度合いはそのままに、このグループらしい涼しげでメロディアスなタッチと迫力あるインストゥルメンタルを取り戻している。 そして、すべての曲にきめ細かく配慮された音楽的なストーリーが織り込まれていて、それを読み解いてゆく楽しみがある。 この「凝りよう」というか「サービス精神」は、現代の音楽産業あっては奇跡に近い。 演奏はもちろんギターが主役。 本作のギターのいいところは、ハードなアタックを効かせてもいわゆる HR/HM 的なプレイにならず、サイケデリックな味わいがあること。 少し泣かせる 80 年代風味(ディレイがね)はもちろんのこと、エフェクトなどはコンテンポラリーなギター・ロック、ポスト・ロック風味もあり。(無論、世のトレンドが 60 年代付近の音を見据えているせいではあるが) 何にせよ、ギター中心の王道的ブリティッシュ・ロックといっていい音である。 ギター中心のベテラン英国勢で、あまり PINK FLOYD っぽくならずに、ハードロックやフュージョンのサウンドとグルーヴを保ち続けているグループは珍しい。 時代や流行といった周りに合わせることよりも、自分の好みの音だけを紡ぎ出す(周りはそれについてこい、ということでしょう)という姿勢が徹底しているのだろう。 頑固なミュージシャンシップに感服である。 要するに徹底的なワンパターンだが、それが気に入ればずっと付き合ってゆけるのだから、何も問題はない。 そしてギターのみならず、今回はオーフォードが、透明感あるシンセサイザーはもちろんのことハードなオルガンで爆発してくれる。 ギターとオルガンのエネルギッシュなやり取りは、きわめて新鮮であると同時に往年の名作たちを想起せずにいられない。 サウンド・メイキングという点でキーボードの音数はやや減ったと思うが、アンサンブルでは出るべきところではしっかりと出てきている。 明朗なメロディとリズミカルなリフによるノリなどは、改めて月影 GENESIS を見直した成果なのかも知れない。
   リズム・パターンこそなかなか凝っているが、明快なメジャー・コード主体でヴォーカルがリードする作品から、英国ロックならではの「奇天烈な独創性」を見出すのは難しいのかもしれないが、こういった独特の涼感、突き抜け感、熱いようでクールな叙情性をもつグループは他に類似を見ない。 それだけで十分プログレッシヴな存在ではないだろうか。 ひょっとすると、「劇映画」という古風なニュアンスのタイトルは、自らの作風になぞらえているのではないだろうか。 今回もそのタイトル曲はインストゥルメンタル。 宇宙をイメージさせるキーボードと太く力強い筆致のギター・プレイのコンビネーションは、まさしく CAMEL の再来である。 バッキング・ヴォーカルはスティーヴ・ソーンがつとめる。

  「There's A Light」キャッチーで手応えもある傑作オープナー。魅力的な、あまりに「らしい」テーマ・リフ。ポスト・ロック風のリズムの取り方、間奏のジャジーなギターが新鮮。
  「What Goes Around」80 年代インダストリアルなリフとアコースティックなヴォーカル・パートのコントラストが刺激的なドラマを為す傑作。ギターのディレイは U2 のエッジみたいだぞ。イコライザでヴォーカルを加工するのも珍しい。
  「Asleep In My Hands」70 年代初期英国ロックがそのまま 30 年スライドしたような勢いのいいハードポップ。キャッチーでへヴィ。 8 ビートと 8 分の 6 拍子を切りかえる。オルガンがカッコいい。
  「Standing Still」ヴァースの今風ドラムループとオルガン、歪んだギターの伴奏がおもしろい。サビ以降は正調 JADIS 節。
  「I Hear Your Voice」シンプルなビートのモダンなギターロックながらも、ギター/ベース・パターンやメロトロン風ストリングスなど GENESIS を狙っているような作品。へヴィな音とピアノのようなクールな音、茫洋とした感じとキャッチーな調子など細かいコントラストをつけてゆく。 ここまで、いろいろとしかけるがサビでグッとタメとコブシの効いた JADIS 節にまとまる感じがカッコいい。
  「Make Me Move」3 拍子と 4 拍子をさまざまに行き交う、美しくサウンドスケープながらも奇妙な味わいの作品。英国ロックらしい作品です。
  「Who I Am」得意の熱くメロディアスなヴォーカル・チューンだが、裏メロのバッキングは、さりげなくも GENTLE GIANT ばりのアクセントずらしや変拍子を使ったものになっている。のびのびしたサビとソロ・ギターが際立つ。アレンジも凝っている。
  「Need To Breathe」幻惑的なヘヴィ・チューン。ちょっと PORCUPINE TREE 入ってますかね。
  「Please Open Your Eyes
  「All You've Ever Known
  「Photoplay」インストゥルメンタル。

  (INSIDE OUT 6 93723 00352 8)

 See Right Through You
 
Gary Chandler guitar, vocals, keyboards
Steve Christey drums
Andy Marlow bass
Arman Vardanyan keyboard solo, piano

  2012 年発表の第七作「See Right Through You」。 ベーシストとキーボード・ソロ担当は新メンバーのようだ。 堂々たるワンパターンであるチャンドラーのギターとヴォーカルを中心にしたメロディアスな作風に大きな変化はないが、あえていえば、ロックンロールの基本たるラウドでヘヴィなサウンドや突き放すようでいてリラックスした表現とともにポスト・ロック風の現代的な無常感が漂うところが、今作品の特徴だろう。 ギターのプレイは自然なエモーションに任せたような融通無碍なものであり、力点は新奇さや技巧を凝らすことにはない。 リズムやリフには放り出すような無邪気さがあり、ソロでは音を感じる脳神経とギターを直結したようにナチュラルに歌う。 ぐっとクローズアップで迫るような表現の代わりに、ごくすなおにギターを抱えて歌うことにエネルギーが注がれている感じだ。 だからといってデリカシーが減退したわけではなく、キーボードのプレイのように GENESIS を思い出せる典雅で手触りのいい音もあれば、キャッチーなフレーズで巧みなストーリーテリングを繰り広げるところもある。(6 曲目のインストゥルメンタルなど) キーボードは、おそらくチャンドラー氏自身によるプレイがほとんどであり、派手なシンセサイザーの見せ場やキレキレのオブリガートはせずに、素朴なサウンドと誠実なフレージングでギターに併走して小気味よく呼応、バックアップしている。 ただ、元々が清涼感こそあれ派手めのサウンドが似合う「濃い」歌唱スタイルなので、もう少し音がキラキラしてもよかったかもしれない。 アメリカンなオルタナティヴ・テイストもあるし、アートロックっぽくオルガンが高鳴ってギターと丁々発止となるところもある。 そして、当然ながら、全編を通じてチャンドラーの汗臭さも涼風に巻くようなヴォーカルがリスナーの導き手となっている。 ギターとヴォーカルの表情のシンクロ、やりとりの呼吸がとてもいいので、リスナーはメロディにしっかりとつかまって乗り心地よく音楽の旅を続けられる。 初期のような桁外れにみずみずしい叙情味の演出は(オーフォードなき今となっては特に)難しいと思うが、それでも、現実と背中合わせに隣接するかのような清涼感あるファンタジーとしては十分な出来映えだろう。
  素人なので録音技術についてはとやかくいえないが、音に立体感が欠けるところがあるようだ。 自営スタジオを確保したチャンドラー氏は製作の勉強中なのかもしれない。
   中央ヨーロッパ辺りを始まりとしたここ 10 年余りの PINK FLOYD 系のじっとりしたサウンドの流行もさすがに一段落か。 多少の湿り気は気にしないので、JADIS にはまた心地よい風を吹かせてもらいたい。 大傑作ではないが、耳にしっくり馴染む感じがあり手放せない。メロディアス・ロックの佳作。 次回はぜひ専任キーボーディストを。

  「You Wonder Why」(7:36)
  「Try My Behaviour」(6:55)エキセントリックなことも英国ロックの道。スタイリッシュなプログレ。ギターで締めくくるのも得意技。
  「What If I could Be There」(7:10)喜怒哀楽が真っ直ぐな正調 JADIS
  「More Than Ever」(5:50)後期の GENESIS をイメージさせる腰の座ったポップロック作品。 影響元をダイレクトに感じさせるのは珍しい気がする。佳曲。
  「All Is Not Equal」(5:38)初期の JADIS 節を現代的な作風でひねる。
  「Nowhere Near The Truth」(6:05)うっすらとケルティックな風味もあるリズミカルなインストゥルメンタル。IQ といっても通りそう。
  「Learning Curve」(6:20)バラード。エンディングに向かうにしたがって舞い上がるような調子になってゆく、その感じが懐かしい。
  「See Right Through You」(8:14)「レイドバック」感を盛り込んだ。

  (JAD 007)

 No Fear Of Looking Down
 
Gary Chandler guitar, vocals, BVs, keyboards
Stephen Christey drums, percussion
Andy Marlow bass
Martin Orford keyboard solo, piano, flute, hurdy gurdy, BVs

  2016 年発表の第八作「No Fear Of Looking Down」。 一番のニュースはマーティン・オーフォードのレコーディング・メンバーへの復帰だろう。 オーフォードらしいプレイが現われるたびに思わず笑みがこぼれてしまう。 内容は、メロディアスなヴォーカルを中心にしつつもどこか夢想的で翳りがありなおかつエッジのたったギター・ロックである。 透明感のあるキーボード・サウンドが広がってヴォーカルが天駆けるところでも、ギターには何かに抗うようにささくれ立った調子があり、メロディアスで清涼なプレイにすらも一抹の苦味がある。 とはいえ、たとえ冒頭からメロトロン・ストリングスが高鳴っても、流行のポスト・ロックのような回顧調ではなく、また、RADIOHEAD のようなアヴァンギャルド志向でもない。 いってみればガレージ・ロックやパンクのエネルギーとデカダンス、ゴシックな歪みが一つになったような、いわば、80 年代初頭から中盤のグラマラスでキッチュで混沌とした時代を思わせる音である。 とはいえ、確かにエコーの深まりとともに薄暗く無機的なトーンが支配的になるが、ポジティヴな調子で歌い上げるときのナチュラルで若々しい表情には、まだまだその暗さを一気に反転させる力がある。 荒々しいリフがいつの間にか切々とした調べへと吸い込まれることもあるのだ。 一方、ナイーヴなまでにアコースティックなパートでは、これまた英国音楽王道というべきアンソニー・フィリップスばりのクラシカルな田園幻想を演出する。 この辺りはオーフォードのセンスなしには作り上げられない世界観だろう。 そして、この矛盾する空気をひとつの色合いにまとめているのは、偉大なるワンパターンであるチャンドラーのヴォーカルである。
   このグループの作風のひとつであった、爽やかな突き抜け感、躍動感こそ相対的に抑えられているように感じられるものの、劇的な英国ロックらしさは満点。 びっしりと敷き詰められた雲海から、いくつかの光の筋が闇を貫いて天空高く伸びてゆくようなイメージである。 やや地味目の異色作かもしれないが、雰囲気のあるギター・ロックとしては出色。 タイトル曲は、得意の変拍子チューンだが伸びやかさとねじれが同居した独特の作品である。

  「Listen To Me」(5:34)
  「Where Am I」(5:23)
  「Just Let It Happen」(7:09)
  「A Thousand Staring Eyes」(4:52)
  「Charge Of The Season」(5:08)
  「Seeds Of Doubt」(4:33)
  「Abandoned」(6:07)この曲のギター・ソロはチャンドラー節が全開。
  「No Fear Of Looking Down」(6:38)

  (JAD 008)


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