アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「SPOCK'S BEARD」。
モース兄弟を中心に、93 年 LA にて結成。
同年アルバム・デビュー。
2002 年リーダー格のニール・モース脱退。
アメリカン・オルタナティヴ・ロックらしいサウンドと 70 年代ロックの表現法を、高度な技巧で結びつけたモダン・ロック。
THE FLOWER KINGS と並ぶプログレ集大成であり、新たな可能性も感じさせるノスタルジックにしてフレッシュな音だ。
新旧すべてのロック・ファンへの贈り物。
Neal Morse | lead vocals, piano, all synths, acoustic guitar |
Alan Morse | guitar, cello, vocals |
Dave Meros | bass, vocals |
Ryo Okumoto | hammond organ, mellotron |
Nick D'Virgilio | drums, percussion, vocals |
96 年発表の第二作「Beware Of Darkness」。
キーボーディストのリョウ・オクモトが復帰。
内容は、前作よりもさらにプログレらしさを強調した、目まぐるしい演奏が特徴のモダン・シンフォニック・ロックである。
演奏面では現代的で明快なリズムとアメリカン・ロックらしいテクニカルにして健康的な弾け方を見せながらも、意識やアプローチの姿勢は完全に英国 70 年代に向いている。
ギタリスト、キーボーディスト、リズム・セクションは、フュージョンから HM/HR までのさまざまなスタイルをきっちり消化した、現代のプロフェッショナルらしいオールマイティ・プレイヤーだが、天才ニール・モースの薫陶の下、あえて複雑で大時代な楽曲へと挑んでいるようだ。
YES や GENESIS、GENTLE GIANT はもはや基本中の基本として、その上、武骨なヘヴィさや枯れた滋味を強調するところなど、JETHRO TULL 辺りをもイメージしているのではないだろうか。
GENTLE GIANT そのもののようなマドリガル、イアン・アンダーソンを思わせるヴォーカルの節回し、トリッキーなアンサンブルなど、ダイレクトな翻案とすらいえそうなプレイも散見される。
そして、中世風味たっぷりのアコースティック・ギター、ヘヴィなハモンド・オルガン、古式ゆかしいメロトロン、前面に出るベースなどを散りばめて、力強くも叙情的な筆致で現代にプログレを甦らせている。
確かに、きわめてモダンなドラムスを中心に、すばらしくダイナミックなプレイが、演奏全体に若々しい躍動感を与えている。
それでも、パワーやダイナミズムよりも、凝ったアンサンブルが印象に残る作品である。
文句があるとしても、テーマとなる旋律がややワンパターンなことぐらいである。
タイトル・ナンバーはジョージ・ハリスンの作品より。
「Beware Of Darkness」(5:41)歌メロでかろうじてカヴァーと分かるヘヴィー・チューン。
「Thoughts」(7:10)GENTLE GIANT ばりの多声ハーモニーあり。
「The Doorway」(11:27)めまぐるしく変転する劇的なシンフォニック大作。YES、GENESIS 風のくすぐり多数。イントロのピアノは「Firth Of Fifth」への憧憬が見える。
角張ったハモンド・オルガンのパターンも GENESIS 風。
中盤のアコースティック・ギター・アンサンブルは、GORDON GILTRAP 並みのみごとさ。
メロディアスで突き抜けた明快さのあるテーマが、このグループの特徴である。
「Chatauqua」(2:49)トラッドとジャズの中間くらいのアコースティック・ギター・ソロ。
後半は、セゴヴィアによるポンセ作品風。
フランコ・ムッシーダを思い出す。
「Walking On The Wind」(9:06)
切れのいいアンサンブルにジャジーな余裕を見せる好作品。
強烈なトゥッティを叩きつけるも、テーマはやはり明快でリズミカル。
第二テーマはメロディアスでシンフォニックなアンサンブルであり、いつしかこちらの演奏をメインにぐいぐいと高まってゆく。
中世風のアコースティック 12 弦ギターがアクセントとなっている。
すっと音が沈んだときに、余韻としてたなびくメロトロンの調べは、分かっていてもジンとくる。
「Waste Away」(5:26)アコースティック・ギター弾き語り風に始まるフォーク・タッチのヘヴィ・ロック。
これは、間違いなく JETHRO TULL を意識しているのでしょう。
ここでも軸となる旋律が、シンプルで明快。
「Time Has Come」(16:33)スペイシーなリフレインにハードな決めが重なり、せわしないテーマ・リフが提示される。
一気にテクニシャンぶりを見せつけ、クライマックスへと持ち込む、得意のスタイルである。
火を噴くユニゾンとギター、ピアノの上品なデュオなど音量、スピードで極端なコントラストをつけながら、めまぐるしく突進する。
その後の虚脱したような弾き語りも面白い。
明らかに PINK FLOYD 的リアリズム路線である。
中盤、内省的なヴォーカル・ハーモニーで一区切りしつつ、次第に、シンセサイザーを軸にテクニカルで切れのある演奏へと駆け上る。
その後は THE BEATLES を思わせる巧みなヴォーカルと演奏のみごとなブレンドを見せつける。
アルバムのここまでは、やや演奏力に任せた勢い中心の進行だったが、本曲 11 分以降の展開はポップな味わいも入れた充実したものだ。
(METAL BLADE / RADIANT 3984-14180-2)
Neal Morse | lead vocals, piano, all synths, acoustic guitar, bouzouki |
Alan Morse | lead guitar, cello, vocals |
Dave Meros | fuzz & wah & fretless bass |
Ryo Okumoto | hammond organ, mellotron |
Nick D'Virgilio | drums, percussion, vocals |
97 年発表の第三作「The Kindness Of Strangers」。
エモーショナルにして繊細な表現とフレッシュな音感覚が一つになった叙情的な傑作。
70 年代プログレの表現を巧みに応用しつつ、よりナチュラルな語り口の感じられる好作品だ。
テーマとなるメロディと歌唱スタイルは、従来通りアメリカン・ロックらしいシンプルなものであり、情感をストレートに訴えている。
しかしながら、自然でレイド・バックした作風に、アメリカンな土臭さとともに英国ロック育ちの凝り性が顔をのぞかせるところが、いかにもニール・モースらしい。
THE BEATLES 好きがよく伝わってくるし、トリッキーなリフやトゥッティも切れ味がいい。
ブラームス風の弦楽、モーツァルト風のピアノからプログレ・ファン鳥肌もののハモンド・オルガンやメロトロンまで、多彩な音を的確に贅沢に配した作品はどれも穏やかな表情をもち、包容力もある。
ゆったりと静かな場面と激しくせめぎあう場面の切りかえによる劇的な効果の演出も非常に巧みだ。
70 年代プログレの換骨奪胎のうまさは、ロイネ・ストルトといい勝負だろう。
また、リズム・セクションの切れ味やバランスのとれた演奏は今回も完璧であり、幅広い音楽性を活かしたアレンジもみごとである。
そして、それらすべてが、このストレートで小気味のいい曲に捧げられている。
イノセントなオプティミズムが THE FLOWER KINGS に通じるのは、単に、お互いともに YES、GENESIS に似ているところが多いから、というだけではないでしょう。
結局、ポップ化というよりも、元来もっているセンスのいいポップ・フィーリングを活かしているだけなのだ。
音としては、エレクトリック・ピアノやクラヴィネット、そしてギターの存在感のアップが新しいところだろう。
プログレを飛び道具としたアメリカン・オルタナティヴ・ロックの秀作。
プロデュースは、二ール・モースとグループ。
「The Good Don't Last」(10:04)さまざまな音、メロディ、アンサンブルを駆け巡り、幅広い音楽性と変化に富むアレンジを見せつけるアメリカン・ロックの傑作。
弦楽、ハモンド・オルガンのイントロダクションから、GENTLE GIANT ばりのダイナミックで緻密なアンサンブルへと勢いよく雪崩れ込む。
かと思えば、メイン・ヴォーカルはカントリー・フレイヴァーあふれるアメリカン・ロックそのもの。
R.E.M と GENESIS が合体したような感じだ。
カーニバルや酒場を思わせるアコースティックでダンサブルな音から、ノスタルジックな室内楽、そしてヘヴィなハードロック調の音までが、目まぐるしくナチュラルにまとめあげられている。
ECHOLYN と同じく、アメリカ人の心象風景ともいうべき音が見えてくる。
終盤のヴォーカルには、遠く 70 年代ポップスのこだまも聴こえる。
テクニカルでありながらメロディアスで親しみやすいところが気に入ってます。
美しく郷愁を誘う弦楽を使ったアレンジがみごと。
「In The Mouth Of Madness」(4:45)ムーグのリフがリードする、ヘヴィなサウンドを駆使するもリズミカルで軽妙な調子をキープする SUPERTRAMP 風のシンフォニック・ポップ・ロック。
せわしなくもキラキラするようにキッチュなテーマのトゥッティがいい。
荒々しくもしっかり歌いこむヴォーカル、鳴りっぱなしのメロトロン・ストリングス、小気味いいオブリガートを放つムーグ・シンセサイザー。
間奏部では、ギターとムーグのスピーディなかけあいもある。
リズムは、ストリート、ガレージ調を意識したようなパンキッシュなスタイル。
破裂しそうな勢いと悪っぽさが全編を貫き、音の密度もテンションも高い。
ところでサム・ニールの同名映画との関連は?
「Cakewalk On Easy Street」(5:01)
幾何学的な文様を成すアンサンブルによるオルタナティヴ・ロック。
ピアノとベース、ギターのコード・ストロークによるポリリズミックなアンサンブルが、再び GENTLE GIANT を思わせる。
ドラムスとワイルドに吼えるギターの和音のせいで、グランジっぽく聴こえる。
ワイルドな演奏から、気品ある弦楽、ピアノへと落差をつける粋な語り口だ。
「いとしのレイラ」を思わせるアメリカ製ブリティッシュ・ロックの名曲。
「June」(5:29)アコースティック・ギター弾き語りによる、CSN&Y あるいはトム・ペティ風バラード。
コーラス・ハーモニーのもつ翳りが独特。
風のように吹き抜けるオルガン。
乾いた空気に、素朴な親密さが潤いをもたらす。
高まる弦楽と爪弾かれるピアノ、そしてギターのセレナーデ。
終盤、ようやくリズム・セクションも加わって、力強くシンフォニックに盛り上がってゆく。
「Strange World」(4:20)
かなりヘヴィな演奏だが、毛羽立つほどにエフェクトされたメロトロン・ストリングスやイコライザを通したヴォーカル、コーラスなど、ELO の影響ありありの佳作。
轟々と鳴り響くメロトロンとピアノの弾き語りで落差をつける手法は、もはや得意技といえる。
ゆったりとメロディアスなヴォーカル・パートはアメリカン・ロックらしくナチュラルだが、ヘヴィなところでは一筋縄ではいかない感じがある。
「Harm's Way」(11:05)
ドラマチックにしてフレッシュな大作。
YES の大作のエキセントリックな面を取り払い、メロディアスにしたような内容だ。
ギターも珍しく鋭いソロをとる。
序盤のリック・ウェイクマンばりのテクニカルなピアノ、終盤の GENESIS のようなオルガンのリードするアンサンブルなど、息を呑むカッコよさ。
湧き立つような速弾きオスティナートは、やはりウェイクマン風だ。
ここでも、一部 ELO 風の音がある。
エンディングはメロトロンが高鳴り、悠々たるテンポで広大な大地へと音を放ってゆく。
「Flow」(15:48)メロディアスなバラード調の主題をもつ大作。
オープニングのメロトロン、シンセサイザー、ギターによるトリッキーなアンサンブルは、中期 GENESIS 風。
いかにもプログレらしい音とキャッチーなテーマの組み合わせのうまさは絶品。
ギターが、ネオ・プログレ然としつつも、メロディアスでエモーショナルなプレイを決め捲くる。
ピアノやリズム・セクションは玄人っぽさがにじみ出ており、特にリズムは、ヒップ・ホップなどストリート感覚あふれる切れ味いいプレイだ。
やや 70 年代プログレ然とし過ぎているが、抗えないタイプの音である。
(METAL BLADE 3984-14165-2)
Neal Morse | lead vocals, piano, all synths, acoustic guitar |
Alan Morse | guitar, mellotron, vocals |
Dave Meros | bass, cello, vocals |
Ryo Okumoto | hammond organ, mellotron |
Nick D'Virgilio | drums, percussion, vocals |
99 年発表の第四作「Day For Night」。
オルタナティヴ・ロック風のワイルドな小気味よさや、メロディアスな AOR 風味を交えたキャッチーな曲調が新鮮な作品。
第一作と比べると、小品集といっていいほどコンパクトなナンバーを揃えている。
しかしながら、このアプローチは、単なるポップ化というよりも、若さの象徴のような性急で力まかせな表現を強めて、ポップなメロディとコントラストさせることにより、ダイナミックなメリハリをつけているというべきだろう。
ゆったりとした優しさで一貫していた前作と比べると、ロックっぽいツッパリと完成されたポップスを揺れ動くイメージがある。
シングルかと思わせる 3 曲目や、4 曲目のようなストレートなバラード、7 曲目のような内省的にしてゴージャスなアレンジの歌ものの完成度は、今までにもポテンシャルこそ感じさせた分けだが、改めて突きつけられるとその水準の高さに舌を巻く。
この内容は、ポップスの有機的なコラージュという第一作で見せたアプローチを、さらに充実させたとも考えられる。
なににせよ、個人的にはうれしい展開だ。
もちろん、基本はハードでパワフルな音であり、多彩な器楽によるトリッキーなアンサンブルや多声のマドリガルなど GENTLE GIANT 直系のテクニカルな演奏も健在だ。
6 曲目を代表に THE BEATLES、それも後期のジョン・レノンの作風(「I Am The Walrus」や「Happiness Is A Warm Gun」など)を感じさせるところもある。
ほとばしるようなメロトロン、雄々しくも暖かいハモンド・オルガンなど、プログレ・ファンにはたまらない瞬間も多い。
それでも今回は、プログレというよりは、メインストリーム・ロックとしての充実度を歓迎したい。
「Day For Night」(7:34)
「Gibberish」(4:13)
「Skin」(3:58)
「The Distance To The Sun」(5:11)
「Crack The Blue Sky」(9:59)
「The Gypsy」(7:28)
「Can't Get It Wrong」(4:12)
「The Healing Colors Of Sound(Part.1)」(2:22)
「My Shoes」(4:16)
「Mommy Comes Back」(4:50)
「Lay It Down」(3:18)
「The Healing Colors Of Sound」(3:17)
「My Shoes(revisited)」(3:54)どっかと地面に足を据えたパワフルにして劇的な大団円。
(METAL BLADE / RADIANT 3984-14244-2)
Neal Morse | lead vocals, piano, all synths, acoustic guitar |
Alan Morse | guitar, mellotron, vocals |
Dave Meros | bass, cello, vocals |
Ryo Okumoto | hammond organ, mellotron |
Nick D'Virgilio | drums, percussion, vocals |
2000 年発表の作品「Don't Try This At Home」。
「Day For Night」発表後 99 年オランダで録音されたライヴ・アルバム。
内容は、テクニカルにしてメロディアスかつキャッチーというぜいたくなロックであり、スタジオ盤の緻密さを損なわずにノリノリで奔放に走り回るという理想的なパフォーマンスである。
このグループの音楽は YES や GENTLE GIANT や GENESIS のアメリカ流の解釈の最高到達点にある。
オーガニックなオルタナティヴ・ロックのよさを維持したままここまで英国プログレと合体できるというのも間違いなく一つのセンスである。
大幅に拡大された最終曲では、GRATEFUL DEAD 的というべき、ルーズだが小気味のいい脳内麻薬的グルーヴを間断なく生み出すことにも成功している。
「Day For Night」(8:03)第四作より。
「In The Mouth Of Madness」(5:06)第三作より。
「Skin」(3:54)第四作より。
「Gibberish」(4:46)第四作より。
「June」(7:11)第三作より。
「The Healing Colors Of Sound」(20:00)第四作より。
(IOMCD 060)
Neal Morse | lead vocals, piano, all synths, acoustic guitar |
Alan Morse | guitar, cello, vocals, sampler |
Dave Meros | bass, stand-up bass, vocals, French horn |
Ryo Okumoto | hammond organ, mellotron |
Nick D'Virgilio | drums, percussion, vocals |
2000 年発表の第五作「V」。
すでに円熟の境地を感じさせる、豊麗なる大傑作。
メランコリックな管楽器の調べで幕を開ける冒頭の一曲がすべてを語る通り、ポジティヴにして豊かでありスピード、ドライヴ感もあるという怪物的な作品である。
楽曲は、多彩な音楽性を駆け巡りながらも、あくまでなめらかな筆致で描かれており、流れるように自然な展開をもつ。
ここ数作品でアクセスしやすい音を探求した上で、初期のウルトラ・プログレ路線に戻ってきたのかもしれないし、TRANSATLANTIC 参加で刺激を得たのかもしれない。
あまりに陳腐な表現ですが、中期 GENESIS に加えて PINK FLOYD の「狂気」と YES のいいところどりです。
やはり、シンプルなメロディ・ラインを有効に使った、きめ細かにして意表を突くことを楽しむようなアレンジの勝利でしょうか。
THE FLOWER KINGS ファンにももちろんお薦め。
最終大曲もすばらしい。
個人的には最高傑作ですし、サウンド面でも、こういうヘヴィさには十分対応できるという指標になる作品として貴重です。
叙情的なメロディにアメリカン・ロックらしいアーシーな広がり、逞しさが響くところがうれしい。
英国の JADIS にも度合いこそ違えおなじようなセンスを感じます。
プログレとして間違っていない、という感じです。
「At The End Of The Day」(16:30)集大成というべき大傑作。
目まぐるしい変転を意識させないナチュラルなタッチには唖然。
印象的なテーマを巡り、ハードロックからブラス・ロック、ラテン、クラシック、プログレまであらゆるカッコよさがてんこもりである。
そして、ウェットになり切れないアメリカン・ロックの肌合いがここでは非常にうまく活かされている。
15 分以上あるにもかかわらず、その長さをまったく感じさせない作品というのは、70 年代の大御所の作品以外ではじつはきわめて珍しい。
ロイネ・ストルトからのいい影響は間違いないでしょう。
シンプルなテーマを繰り返すという分かりやすさの勝利かもしれないが、そのテーマに味わいがあるからこそ、これだけ感動的なのだろう。
「Revelation」(6:04)ややノスタルジックなニュアンスのあるヘヴィ・バラード。
凶暴な表情とジャジーなポップ・フィーリングという相反しそうな要素を、みごとにまとめている。
英国ロックの素養がうかがえます。
「Thoughts(Part II)」(4:41)第二作第二曲の続編。GENTLE GIANT 風のマドリガル・ハードロック。リズミカルな演奏とくっきりコントラストする弦楽奏の処理がみごと。
「All On A Sunday」(4:12)
「Goodbye Yesterday」(4:40)
「The Great Nothing」(27:18)悩ましげなアコースティック・ギターの調べから始まる超大作。
さまざまに姿を変えるテーマや YES そのもののような洒落たプレイをはさみながら、アメリカンなルーラル・テイストたっぷりのバラードがじっくりと歌い込まれる。
そして、GENTLE GIANT を思わせる太く切れのいいアンサンブルと各パートのソロがたっぷりとフィーチュアされて、たくましく奔放な演奏力を十分に見せつけてゆく。
演奏力のみならず、キャッチーなメロディで耳を惹きつけたり、FLOYD ばりの SE など、アレンジの妙もあり。
ヘヴィな全体演奏は、次の作品につながるような気がする。
次々と現れる場面を楽しんで聴いてゆく、という姿勢で正しいと思う。
(METAL BLADE / RADIANT 3984-14335-2)
Neal Morse | lead vocals, piano, synths, acoustic guitar |
Alan Morse | guitar, vocals, cello |
Dave Meros | bass, vocals, French horn |
Ryo Okumoto | hammond organ, mellotron, jupitor 8, mini moog, vocoder |
Nick D'Virgilio | drums, percussion, lead vocals |
guest: | |
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Neil Rosengarden | flugelhorn, trumpet |
Jim Hoke | saxophone, clarinet, autoharp |
Chris Carmichael | violin, viola, cello |
Molly Pasutti | backing vocals on 9 |
2002 年発表の第六作「Snow」。
アルビノの主人公を巡る物語を描く約二時間にわたるトータル・アルバム。
暖かい包容力とポジティヴな躍動感にあふれる作風に大きな変化はない。
特徴をあげるなら、アメリカン・ルーツ・ミュージック的な音が印象的に散りばめられていること、そしてヴォーカルの表現に細やかな神経が行き届いている感じがすること、だろう。
後者は、長編を演奏の起伏とともに安定して綴るためには欠かせない。
と同時に、ハードでエッジのある音の配分がやや高くなっていて、攻撃的な演奏の切れ味が際立っている。
ヴィンテージ・シンセサイザーの存在感ある太い音色も特筆すべきだろう。
また、ゲストのサックスが要所で演奏に厚みとパワフルで官能的な感触を加えている。
これらの要素が複合して骨太でドラマティックなパフォーマンスが繰り広げられる。
ズッシリとした聴き応えの作品である。
長くても数分程度の作品が連なって CD 二枚にわたって物語を綴る。
へヴィな音もアグレッシヴな表現もあるが、HM/HR のようにレディ・メイドっぽい、ステレオタイプな表現はなく、抜群の運動性でダイナミックにストレートに訴えかけてくる。
メロディアスな演奏や歌い込みが続いてややノリが緩やかになってくると、やおら ECHOLYN ばりの小気味のいいカミソリ・アンサンブルが立ち上がって一気に溜飲を下げてくれる。
ボブ・ディランばりのアコースティックな音による表現も堂に入っている。
そして、すべての場所で、テーマとなるメロディやリードするリフがしっかりとした位置を占め、真っ直ぐに、高らかに奏でられる。
この堂々とたくましい頼りがいのある音楽的姿勢が本作品の大きな魅力である。
演奏は、いってみれば、歌詞内容をしっかりと支えて終局まで運ぶ逞しい『うねり』である。
歌詞、コンセプトを読み取っていないので確かではないが、情景や心象の描写にあたって効果音的なものに頼っておらず、あくまで「演奏と歌」でキャンバスをうめている。
力強い演奏はおそらく力強い決意や意思を歌い上げ、美しい演奏は夢や回想や愛を彩り、無常感あふれる演奏の響きは人生の情景を見通したときの心そのものを描いているに違いない。
そういう意味では PINK FLOYD 的ではなく YES 的である。
本作発表後リーダー格のニール・モースが脱退し、自己探求の旅路という主題とともにまさしく「The Lamb Lies Down On Broadway」のような位置の作品となってしまった。
ニール・モースのクリスチャン・ミュージックへの傾倒という話も耳にし、モースのヴォーカルに強く惹きつけられていた自分としては、どうしていいのか、十年経ってしまった今でもとまどっています。
ところで、映画「Powder」との内容の類似については何かコメントはあるのでしょうか。
CD 三枚組スペシャル・エディションあり。ボーナス・ディスクには YES の「南の空」の秀逸なるカヴァーが。
「Made Alive / Overture」(5:32)
「Stranger In A Strange Land」(4:29)
「Long Time Suffering」(6:03)
「Welcome To NYC」(3:32)
「Love Beyond Words」(3:24)
「The 39th Street Blues (I'm Sick)」(4:05)
「Devil's Got My Throat」(7:17)
「Open Wide The Flood Gates」(6:14)
「Open The Gates Part 2」(3:02)
「Solitary Soul」(7:33)
「Wind At My Back」(5:12)
「Second Overture」(3:47)
「4th Of July」(3:11)
「I'm The Guy」(4:48)
「Reflection」(2:49)
「Carie」(3:06)
「Looking For Answers」(5:17)
「Freak Boy」(2:12)
「All Is Vanity」(4:35)
「I'm Dying」(5:09)
「Freak Boy Part 2」(3:01)
「Devil's Got My Throat Revisited」(1:55)
「Snow's Night Out」(2:04)
「Ladies And Gentlemen, Mister Ryo Okumoto On The Keyboards」(2:40)
「I Will Go」(5:08)
「Made Alive Again / Wind At My Back」(8:27)
(INSIDEOUT 6 93723 00142 5)