アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「ECHOLYN」。
89 年結成、91 年アルバム・デビュー。作品は九枚。
アメリカン・ポップ・ミュージックをプログレ風味の優れたテクニックでまとめあげた、パーカッシヴで元気いっぱい、「カッコいい」プログレです。
ECHOLYN が好きなら、PHISH も聴いてみよう!
2018 年、1993 年発表のアコースティック・ミニ・アルバムの二十五周年リイシュー決定。
Christopher Buzby | keyboards, vocals |
Brett Kull | guitar, vocals |
Thomas Hyatt | bass |
Paul Ramsey | drums, percussion |
Raymond Francis Weston | vocals, guitar |
2015 年発表の作品「I Heard You Listening」。
内容は、ジャジーでメロディアスでほんのりブルージー、なおかつ弾けるように抜けのいいアメリカン・オルタナティヴ・シンフォニック・ロック。
60 分を越える力作である。
楽曲は、ストレートなプレイの連続と複雑なリズムが支える緻密なアンサンブルによってめまぐるしく変化するものが主だが、基調は、情感豊かな、歌心を感じさせる音楽である。
ECHOLYN らしさはまったく変わらず、その音は若々しくどこまでもしなやかだが、決して若者の音ではなく、パンフレットの写真とおりの強面親父の音である。
その潔さ、根性、無理さ加減、すべて含めてカッコいい。
ギターの表現の深み、控えめながらもあるべきところに音を置くオルガン、アメリカ英語の響きの豊かさ、などなど乾燥した大地が育んだみずみずしい果実のように魅力にあふれる作品である。
THE FLOWER KINGS とともにこれからも長くシーンを牽引してほしい。
傑作。
この、70 年代の作品と同等の説得力というか包容力というか、適当に流していても気づけば惹きつけられている魅力は、どこからくるのでしょう。
「Messenger Of All's Right」(6:23)悠然とした調子に、時を経たナチュラルなペーソスと雲間から差す曙光のような高揚が交差するバラード風の作品。大人の表現です。ドラムスの多彩な表現も印象的。
「Warjazz」(5:16)得意中の得意のパーカッシヴな快速チューン。イントロのワクワク感がたまりません。
「Empyrean Views」(9:18)アメリカン・ロックらしさと英国ニューウェーヴっぽさが交錯する傑作。
メロディアスにして融通無碍に展開し、けだるさを越えたマジカルな魅力を放つ。
「Different Days」(7:47)往年の SPOCK'S BEARD と同じテイスト(つまり、アメリカ生まれの YES であり、P.F.M である)のアメリカン・シンフォニック・ロックの快作。
シンセサイザー、ピアノなどキーボードをフィーチュア。リズム隊もみごとな組み立てで骨組みを支える。プログレらしい派手でトンがった感じが強い。
「Carried Home」(5:10)ポスト・ロック風味を効かせたメランコリックなバラード。
「Once I Get Mine」(5:40)アグレッシヴでサスペンスフル、大胆な逸脱もへいちゃらな GENTLE GIANT ばりのテクニカル・ハード・チューン。
オルガンがカッコいい。ダイナミックです。
「Sound Of Bees」(6:57)ヴォーカルの表情が魅力の弾き語り調の作品。過ちを悔やみつつおぼつかなげに揺れるワルツ。
「All This Time We're Given」(7:58)ドライなタッチに苦悩が浮かび上がるへヴィ・チューン。終盤はこのグループらしいアーシーにして救済への祈りのようなバラードへ。「The End Is Beautiful」という旧作タイトルのフレーズがあらわれる。
「Vanishing Sun」(7:34)唸りを上げるベースとクランチなギターとオルガンの雄たけびで迫る、重厚かつ息詰まる緊迫感もある作品。
リズムのアクセントのつけ方が凝っていて、カッコいい。
音にインダストリアルなざらつきがある。
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Christopher Buzby | keyboards, backing vocals | Thomas Hyatt | bass |
Brett Kull | guitar, lead & backing vocals, bass on 3 | Paul Ramsey | drums, percussion, backing vocals |
Raymond Weston | lead & backing vocals, bass on 11 | ||
guest: | |||
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Brian Buzby | alto sax on 10 | Jesse Reyes | bass on 4,5,8,9,10 |
Katherine Shenk | violin on 1,11 | Kimberly Shenk | cello on 1,11 |
91 年発表の第一作「Echolyn」。
デリケートなメロディ・ラインと叙情的な曲調、そして過剰なまでに劇的な構成が英国プログレを思わせる傑作。
オープニング、ハリウッド映画(おそらくゲーリー・クーパーの「摩天楼」)のモノローグから始まる凝った序章からバンド演奏への展開が新人のデビュー作とは思えぬ円熟した完成度を象徴する。
伸びやかなヴォーカル、多彩なキーボード、感傷的なまでに切なく歌うギターらによる演奏は、まずきわめて若々しくしなやか、そして緻密である。
アンサンブルを丹念に編み上げて、なおかつ清冽なエモーションを歌い上げられる、稀有のセンスに恵まれているのだ。
特徴は、変拍子を多用したギターとキーボードの緊密なやりとり、そしてマドリガル調の多声のコーラス。
巷でささやかれる通り、90 年代に甦ったアメリカ版 GENTLE GIANT という見方もありでしょう。(いや、アメリカ版 P.F.M というべきか)
ただし、全編を貫くみずみずしさはこのグループ独自のものだ。
そして、メランコリックなナンバーでの抑揚が巧みなのに加えて、4 曲目「Carpe Diem」のような快速ナンバーでの切れとノリもすばらしい。
3 曲目のような叙情的な描写には YES に通じる独自の豊かな宇宙観が感じられる。
ブレット・カルのギターの表現力は、スティーヴ・ハウやフランコ・ムッシーダといい勝負です。
そして、SSW(個人的には Donovan や Don Mclean を思い出す)的な弾き語りにも魅力あり。
5 曲目では、その弾き語り調の叙情性につむじ風のような変拍子アンサンブルを無造作につなげて、溌剌としたエネルギーを発散する。
全体に、清々しさ、幼子の瞳のような純粋さといったイメージのある作品です。
もしアメリカに生まれて少年時代を送っていたらどんなだったのだろう、そんな気持ちにさせられます。
IQ の「Ever」とともに 90 年代のプログレッシヴ・ロック復興を牽引することになる佳作です。
「Fountainhead」(2:57)映画のダイアローグを SE として使った序章。
「The Great Man」(8:31)変拍子なのに爽快でみずみずしい。芸風は確立されている。
「On Any Given Night」(5:02)かんたんには捨てられない感傷や切なさもあるなんてことを思わせる慈愛のバラード。
「Carpe Diem」(5:08)快調にすっ飛ばす。これも ECHOLYN 節。
「Shades」(11:08)ドラマティックにストーリー展開する力作。熱気あふれる演劇調など、初期 MARILLION や IQ に通じる「ネオプログレ」色も。
「Clumps Of Dirt」(4:24)P.F.M か?
「Peace In Time」(6:41)
「Meaning And The Moment」(7:21)
「Breath Of Fresh Air」(3:39)
「Until It Rains」(5:18)
「The Velveteen Rabbit」(7:31)
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Christopher Buzby | keyboards, backing vocals |
Tom Hyatt | bass, MIDI pedals |
Brett Kull | guitar, lead & backing vocals |
Paul Ramsey | drums, percussion |
Raymond Weston | lead vocals |
92 年発表の第二作「Suffocating The Bloom」
は、後半に 30 分近い大作を持つ、「成長=幼年期の喪失」をテーマにしたコンセプト・アルバム。
サウンドは、爽やかで健康的、なおかつ能天気なまでにハイテクのアメリカン・ロックの中核に英国プログレなどさまざまな音楽を叩き込んで、感性を熟成したヴィンテージもの。
クラシックやジャズ・フュージョン、メインストリーム・ロックなどの要素を垣間見せながらも、中核にはダイナミックで若々しい「ロック」が拳を突き上げる、痛快なサウンドだ。
そして何より圧倒的なのは、明確で輪郭のはっきりした演奏である。
ドラムスを中心にしたスピーディにしてパーカッシヴなアンサンブル、キーボードとギターのクリアなフレージングと巧みな呼応/インタープレイ、生命力あふれるヴォーカル、どこを取っても超一流なのだ。
懐かしめの音を巧みにアクセントに使うところもにくい。
そして技巧の連発の中に、いかにもアメリカンなメロディと雰囲気を活かしてストレートに軽やかに訴えかけてくる感覚が、プログレッシヴ・ロックにとって新しい。
管弦楽や SE がストーリーをドラマチックに彩ってみごとな流れを見せる一方で、あえてそういう完璧さを軽やかに蹴っ飛ばすような逞しき一発録りセッション感覚もある。歌詞に込められたピュアな視線にもわくわくさせられる。
さらに、いわゆるアメリカン・ロックの能天気さとは一線を画す、いわば英国ロック本流というべき、デリケートで翳のある音とオセンチなメロディもあるからすごい。
8 曲目などはブリティッシュ・フォーク・グループの作品に通じるペーソスとロマンがある。
卓越した情報処理能力とジャンクフードで育った雑食性こそが、新世紀のロックを語るキーワードなのかもしれないが、歌の向こうに優しく真っ直ぐな気持ちが見えなくては何にもならんのだ、と改めて思わせる大傑作。
音を一言で語るならば「清潔感」。
リード・ヴォーカルとハーモニーがかなりいいです。
「Winterthru」は少年の日のクリスマスを思い出させる佳曲。
2000 年にリマスター CD が発表された。
1 曲目「21」(5:48)
パーカッシヴなノリのよさと華やかさに青いメランコリックが浮かび上がる佳曲。
2 曲目「Winterthru」(3:45)
流れるような演奏に切ない気持ちが込められたクリスマス・ソング。
子供の声の SE が、はや郷愁を呼び覚ます。
3 曲目「Memoirs From Between」(8:01)
4 曲目「Reaping The Harvest」(1:41)
弦楽奏によるブリッジ。
5 曲目「In Every Garden」(4:39)ヴォーカル・ハーモニー、オルガン/ギターらによる凝ったユニゾン・ライン、陰陽の巧みな反転など新時代の GENTLE GIANT たる前半から、YES や GENESIS による叙情的な場面へと進むプログレ作品。
アコースティック・ギターが美しい。歌詞に「Soffucating the bloom」というキーワードが現れる。
6 曲目「A Little Nonsense」(3:37)
ファンキーにしてジャジーな「リズム」・ロック。
STEELY DAN と ブライアン・ウィルソンと GENTLE GIANT の合体。
超絶的なリズム・セクションに注目。
たった 3 分半にもかかわらずエネルギッシュにめまぐるしく変転し、倍くらいの長さに感じられる。
7 曲目「The Sentimental Chain」(1:40)
フルート、ヴァイオリンとアコースティック・ギターによるロマンティックでクラシカルなアンサンブル小品。
8 曲目「One Voice」(5:20)
英国フォークを思わせるデリケートな作品。
前曲をイントロに、弦楽とアコースティック・ギター、フルートがセンチメンタルなヴォーカルを取り巻く。
後半シンセサイザーとギターのコンビネーションで朗々と歌い上げシンフォニックな広がりも生まれてくる。
バンドによるクラシカルなアンサンブルの妙を味わえる。
9 曲目「Here I Am」(5:21)
再び活きのいい快速チューン。
ヒネったヴォーカルとアコースティック・ギターのストローク、手数を惜しまぬドラミング、多彩なシンセサイザー、キレのあるギター・リフなど、バンド全体が高速で急旋回を繰り返しつつもどこまでもグルーヴィ。
サックスをフィーチュア。
10 曲目「Cactapus」(2:53)
ややフュージョン・タッチのインストゥルメンタル。
ギターをフィーチュア。
11 曲目「A Suite For The Everyman」(28:13)11 パートから成る大作。
内容は、アメリカン・ロックと 70 年代プログレの奇跡的な邂逅というべきモダン・ロック。
ルーツ音楽というよりは、現代アメリカの日常を取り巻くさまざまな音を、何もかも取り入れたようなサウンドだ。
ジャズ、ブルーズ、ゴスペル、フォーク、カントリーそしてポップスとあらゆるものを飲み込んだアメリカン・ロックだが、ことプログレッシヴ・ロックに関しては、アメリカ的なものを活かすよりも、ヨーロッパ的な感覚を取り入れてきたグループが多い。
しかしこのグループは、元来貪欲さをもつアメリカン・ロックをすべてすくいあげることによって前衛的なサウンドを獲得した成功例なのだろう。
SPOCK'S BEARD もほぼ同様なアプローチだと思うが、こちらが一歩先を行っていた。
(余談だが SPOCK'S は THE BEATLES に端を発する英国ロックへの意識の強さが目立つ)
その結果驚くことに、R.E.M や PHISH といったオルタナティヴ・ミュージックに通じる雰囲気すら獲得しているのだ。
このサウンドならば、プログレ・ファンに限らずもっと広い層にも訴えるのではないだろうか。
複雑な展開をごくナチュラルな流れにのせて聴かせるうまさは、たしかに GENTLE GIANT、YES などのテクニカルなプログレ・グループを思わせる。
しかし乾いた眩い音の質感は、これらのグループにはなかったものだ。
このサウンドは、特定のグループのあからさまな影響というレベルをはるかに越えて進んだオリジナルなものというべきだろう。
とにかく抜群のリズム感と、一瞬に賭けるハイ・テンションのアンサンブルの鋭さにはすばらしいものがある。
それでいて豊かな歌心と活き活きとした生命力も感じさせるのだ。
耳をそばだてつついっしょに頭を働かせても、体を動かしても楽しめるという意味で稀有の音楽である。
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Christopher Buzby | keyboards, backing vocals |
Tom Hyatt | bass, MIDI pedals |
Brett Kull | guitar, lead & backing vocals |
Paul Ramsey | drums, percussion |
Raymond Weston | lead vocals |
95 年発表の「As The World」。
アコースティック・アルバムをはさみ、大手レーベルからの第四作。
優美な弦楽の調べで幕を開ける本作、プロデュースのおかげか、二作目よりも 70 年代プログレ+アメリカン・ロックという姿が分かりやすい形で示された内容になっている。
特にメロディアスな場面において、メイン・ストリームのビッグネームと遜色ない垢抜け方を見せている。
情感たっぷりに歌い上げても、気品と清潔感、ナイーブなまでの透明感がある。
そこがいい。
さすが、メジャー進出しただけはある。
もちろんロックという音楽形態の最先端をゆくような、ダイナミックでスリム、なおかつ緊密なアンサンブルも健在。
あれよあれよという間にとてつもないプレイが積み重なって一つになるかと思えば、クライマックスでは鮮やかなコーラスへとまとまるなど、演奏はつむじ風のように小気味よく吹き抜ける。
意外な転調とリズム・チェンジ、怒涛の攻めとロマンティック過ぎる引きのみごとな切りかえは、まさに現代に甦った GENTLE GIANT である。
プログレッシヴ・ロックの醍醐味をたっぷりと伝えてくれる。
ただし、全体としてはデリケートなリリシズムを明快に強調した作りとなっている。
上にも書いたように、この「分かりやすさ」が、本来的にいくつもの音楽性を取り込んだビザールな複雑さが魅力のプログレとして、賛否を分ける鍵のような気がする。
モダン・クラシック、ジャズを鮮やかにこなすアコースティック・ピアノと流麗なシンセサイザー、饒舌にして引きも心得たギターが、演奏をリードする。
そして、器楽全体のしなやかな動きを支えるのはラムゼイのドラミング。
このリズム隊は巧者揃いのプログレ界隈でも相当な実力といえるだろう。
ヴォーカルも、あっけらかんと逞しい表情にしっかりとウェットな情感を埋め込んでおり、若々しくも真剣なまなざしが感じられる。
清潔感の源泉はこのヴォーカル・ハーモニーにあるといってもいいだろう。
もちろん、GENTLE GIANT ばりのマドリガルも健在だ。
アコースティック、エレクトリック、バラード、シンフォニック・ロック、ジャズと何もかもフィルタリングして抽出した独特のロックが、アルバムの隅々にまでゆき渡っており、聴き流していた耳が気がつけば釘付けである。
さて、一つ気づくのは今回の曲のタイトルが、前作の思弁的なものと比べるとあまりに即物的であること。
これは何を意味するのだろうか。
また、本作でも後半に巨大な組曲が用意されている。
リリカルなプレイと跳ね回るようなプレイが交差しながら迎える終盤は、かなり感動的だ。
高い運動性を誇る挑戦的な楽曲が並ぶなかで、時おり現れるストリングスやピアノの響きが郷愁の泉のようにナイーヴな姿を浮かび上がらせる。
乾いた大地に力強く根差すアメリカン・ニュー・プログレッシヴ・ロックの傑作。
プロデュースはグレン・ローゼンシュタインとグループ。
唯一気になるとすれば、切なく爽やかなハーモニーとなめらかな運動性に頼りきりなため、楽曲がワンパターンに聴こえてしまう点。
右側のジャケット写真は、バンドのレーベルから出ている DVD 付バージョン。
「All Ways The Same」(0:36)芳しき弦の調べ。
「As The World」(4:52)トリッキーにして痛快な快速チューン。二+三拍の変拍子での急旋回、雅なマドリガル、そして、小気味よくパンチの効いたプレイを連発。1:30 からの間奏を筆頭に器楽は GENTLE GIANT そのもの。
弾けて飛んでいってしまいそうなドラミング、やんちゃで変てこなギター、アブストラクトすぎるシンセサイザー・ソロ、などなどぶっ飛んでいるが、基本はジャジーで「爽やか」。
「Uncle」(6:54)小気味いいビート感はそのままに(変拍子リフもカッコいい)、内省的、神秘的な表情をも加味した佳作。
緩急、静動のはばとドラマ性に富み、ビートではなく音のうねりで調子を作ってゆく独特の作風であり、大作の趣も。
音を惜しまないドラムスがみごと。
このドラムスあっての ECHOLYN である。次曲がクロス・フェードするエンディングは YES のよう。
「How Long I Have Waited」(4:44)裏拍アクセントが変拍子に聴こえる奔放なドラミングとジャジーなポップ・タッチが奇妙な均衡で結びつき、クールなタッチながらも息遣いも感じられる多面的な作品。
フュージョンの文脈でよく現れるホィッスル・シンセサイザーからピアノまで、キーボードのプレイはさりげなく多彩。
モールス信号のように無表情なワン・コードのギターのコード・カッティングが活きる。
ベースがカッコいい。
「Best Regards」(4:11)奔放なリズム・チェンジが軽やかなグルーヴを生むアメリカン・オルタナティヴ風の作品。
バッキングでさりげなく湧き立つハモンド・オルガン、立体感あふれるバロック音楽風のピアノがいい。
ポリフォニックなプレイがハーモニーに反応するように挿入される。
THE BEACH BOYS が GENTLE GIANT をやっているような感じである。
傑作。
「The Cheese Stands Alone」(4:48)
「タイトなハードロックっぽいけれど、ものすごく変わっている」といわれそうな個性的な作品。
へヴィなギターとあまりに多彩なキーボードの目まぐるしいやり取り。(現代音楽調のピアノがここでも目立つ)
昔のプログレの密度と速度とねじくれ度をアップしたといえばいいのか。
タイトルは変だが前曲とともにコンパクトな中にメ一杯の内容(GENTLE GIANT、GENESIS、YES、STEELY DAN、etc)を詰め込んだ傑作。
「Letters」美しい弦楽をフィーチュアした郷愁と抒情風味の組曲。凝った器楽が特徴。
「Prose」(1:46)素朴なピアノとアコースティック・ギターによる序曲。
「A Short Essay」(4:35)変拍子ながらもオーガニックで伸びやかな歌もの。名曲。隠し味でメロトロンも。
「My Dear Wormwood」(3:35)性急で忙しなく場面展開するも、強靭な弾力と躍動感のあるテクニカル・チューン。
「Entry 11/19/93」(5:34)ストリングスが導く憂愁のバラード。3 拍子が基本。ELO っぽい。
「One For The Show」(4:31)
「The Wiblet」(0:47)組曲の余韻を断ち切るトリッキーなアンサンブルによるブリッジ。
「Audio Verite」(4:28)前曲を前奏に、尖がった序奏を見せるも、ヴォーカルが入ると独特の暖かみが。
「Settled Land」(5:42)メロディアスでオーセンティックなポップ・テイスト(STEELY DAN や 10CC は絶対ある)を基調に、突如キレたようなテクニカル・アンサンブルが切り込む。
「A Habit Worth Forming」(4:30)
「Never The Same」(7:59)本作の魅力を押し込めた終曲。リコーダーがうれしい。
(EPIC SONY ECSA 6175)
Brett Kull | electric & acoustic guitar, lap steel, 12 string, indian banjo, tremolo "wah" guitar, ebo, mandolin, jaymar, lead & backing vocals |
Christopher Buzby | Hammond organ, Rhodes, Wurlitzer, synth, table organ, talk box, clavinet, soprano & alto sax, auto harp, cajon, harpsichord, accordion, tenor & soprano recorder |
hammered dulcimer, melodion, ocarina, "wow" earth bell, backing vox | |
Jordan Perlson | conga, cowbell, rainstick, drums, saw blade, snow disc, shaker, tanbourine, riqsleigh bells, tabla, timbale, snare, ashiko, brushes |
Paul Ramsey | drums, bell tree, claves, congas, crash cymbal, quinto, shaker, timbalewatering pail, drum loop, sleigh bells, vibraslap, tambourine, wind chimes, guiro, tabla |
Ray Weston | bass, lead & backing vocals, spoken words |
2000 年発表の「Cowboy Poems Free」。
遂に再結成、自主制作に戻って発表された新作。
丹念に研ぎ澄まされた音を、パーカッションを活かしてスムースに無造作に心地よくカッ飛ばす、痛快なロック・アルバムである。
がっしりした骨格のサウンドは、アメリカン・ロックらしいライトなカッコよさと乾いたリリシズムにあふれるばかりか、STEELY DAN 風の精密なアレンジとジャジーなグルーヴをも矛盾なく備える。
そして、キーボードを中心としたプログレらしい音や懐かしめの表現も、無邪気なくらいにあちこちに散りばめてある。
さらに、そういう音がまったく古臭くなく、現実の質量と固さをもって突き当たってくるのだからこれはもう興奮せざるを得ない。
ヴォーカル・メロディは少年の瞳のようにキラキラと輝き、あくまでキャッチー、そして独特のフックをもっている。
この「ひっかかり感」がひねくれもののロック・ファンには絶対訴えると思う。
パーカッションを効かせた、ときにエキゾティックですらあるアレンジとノスタルジックなイメージを喚起する音を巧みに使った、新しいミクスチャー・プログレである。
Brian Wilson か Arthur Lyman か、クールなタッチも心地よい。
改めて、「アメリカン・ロックなのにプログレ」という境地をみごとに拓いたグループだと感じる。
「Cowboy Poem」が文字通りの意味ならば、曲間を補う小品の存在からして、おそらく本作は一種のトータル・アルバムなのだろう。
ジャケット通りの「んなモン売れねえよ」的自嘲気味のユーモアにも余裕が感じられていい。
基本的にロックとメジャーに大した関係はない。
我々にいえるのは「Welcome back, Echolyn...」の一言である。
個人的には一押しの作品。
全体のノリで聴くべき内容だが、特にあげるならば「High As Pride」。
THE BEATLES すら思い浮かべてしまう音である。
ECHOLYN のガツーンとくるロックっぽいカッコよさを感じたい向きには、本作が一番のお薦め。
「Texas Dust」(5:16) 鋭く弾けながらも、郊外へピクニックに出たドナルド・フェイゲンのような大人のリリシズムをたたえる名作。
パーカッションが冴え渡る。
「Poem #1」(1:33)
「Human Lottrey」(5:32)
キャッチーなフレーズにノスタルジックな音を散りばめた、本作の軸の一つとなるロックンロール力作。
小気味よさとなめらかなメロディの流れが絶妙のブレンドを見せる。
ギター・リフ、サビに象徴されるノリのよさは SPOCK'S BEARD を凌ぎ、目まぐるしい展開を 5 分半に収めるセンスは YES に迫る。スライド・ギターも印象的。
「Gray Flannel Suites」(4:47)
70 年代後半から 80 年代前半英国風のジャジーなポップ・チューン。
スタイリッシュなのにいいメロディです。
終盤の余韻を引きずらせるひねりもいい。
「Poem #2」(0:59)
「High As Pride」(6:45) ロマンティックでやや哀しげなバラード。
ポストロック風のエコー、トレモロとリムショット。
間奏では、スライド・ギターとシンセサイザーがうれし涙にくれるように切なく歌う。
終盤のイコライジングされたヴォイスは、まるで照れ隠しのようで、それがまたいい。
「American Vacation Tune」(5:18)
切れ味いい生音っぽいギターのストロークがカッコいいオルタナ風ギター・ロック。
変拍子リフの挿入でリズムに変化をつけたり、得意のハーモニーもあって、完全に ECHOLYN 節。
「Swinin' The Aix」(3:15)
ハードロック風のパワー・ギターとエレクトリック・ピアノ、オルガンで迫るサイケデリック・チューン。
「1729 Broadway」(6:01)
悩ましげな、しかし現実というよりは夢の中にいるようなバラード。
「Poem #3」(1:50)サックスをフィーチュア。
「67 Degrees」(5:21)再び、幻想に漂うような作品。
怒りを込めつつも、静かにプログレ。
トレモロをかけたエレピは得意技。
「Brittany」(6:34)
スリムでパンチの効いたオリジナリティあるモダン・プログレッシヴ・ロック。
奇天烈ながらもドラマティックな作品である。
各場面が自信に満ち溢れた表現であるため、目まぐるしいはずの展開があまりそのように感じられない。
エキゾティックなスパイスも効いている。
PORCUPINE TREE 的な語り口もあるが、あくまでアメリカン・ロックである。
「Poem #4」(1:30)
「Too Lake For Everything」(4:33)
アコースティックな音がやさしい、穏かなバラード風の作品。
何をするにも手遅れなんてことは決してないよ、安心おし。
(VR2006-2)
Christopher Buzby | keyboards, vocals |
Brett Kull | guitar, vocals |
Paul Ramsey | drums, percussion |
Raymond Weston | bass, vocals |
2002 年発表の復活第二作「Mei」。
内容は 50 分にわたる熱気と詩情あふれる大作一曲。
胸を打つ弦楽奏からたぎるようなハモンド・オルガン、そして乾いたヴォーカルが、優美にしなやかに物語を綴る大傑作である。
コンテンポラリーな音への思いとヴィンテージ・プログレへの思いを、こんなにも正々堂々とロマンあふれる形で結びつけてしまうとは、やはりこの人たちはただものではない。
モダン・ミュージックの文脈で語られる「プログレ」という言葉の響きにどうにもガマンならないオールド・ファンも、この音なら納得できる。
ジャズ、アメリカン・ロック、ポスト・ロック、ジャム・バンド、トム・ペティから TORTOISE、スタントン・ムーアまでのファンにも自信をもってお薦めできます。
また、前作に比べるといわゆるプログレ度はかなりアップし、ワイルドなオルガンやエレクトリック・ピアノ、目の醒めるようなムーグのプレイ、ギターとの巧みなインタープレイも充実。
小管弦楽セクションとの相性や、若々しいレイ・ウエストンのリード・ヴォーカルと器楽とのバランスもいい。
30 分過ぎの迸るようなクライマックスを経た後のジャジーでパワフルなジャムは圧巻、そして優れた映画を思わせるエンド・シーンと余韻。
個人的には、こんなにおセンチでこんなにカッコいいと、もうどうしていいか分かりません状態です。
ふと心和ませるジャジーな音使いがうれしい。
プログレ・バンドとしての ECHOLYN を思い切り味わいたいときは、1 時間のヒマを見つけて、用事を済ませてから、本作品を聴くことをお勧めします。
(VR2009)
2003 年発表の編集盤「A Little Nonsense」。
初期作品、および未発表テイクを集めたコンピレーション。
特に、第一作「Echolyn」、第三作(ミニ・アルバム)「And Every Blossom...」、第五作「When The Sweet Turns Sour」が全曲収録されているのがうれしい。
CD 三枚組。
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Christopher Buzby | keyboards, vocals | Brett Kull | guitar, vocals |
Paul Ramsey | drums, percussion | Raymond Weston | vocals, guitar |
Tom Hyatt | bass | ||
guest: | |||
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Mark Gallagher | alto sax, baritone sax | Eric Apelt | trumpet |
Phil Kaufman | trombone |
2005 年発表の作品「The End Is Beautiful」。
余裕シャクシャクでラフにかっ飛ばす、カッコよさのカタマリのような傑作。
キレのいい変拍子リフと管楽器もたっぷりフィーチュアした内容は、ジャジーでルーラルでヘヴィで超コンテンポラリー、そして、もちろんプログレな ECHOLYN 節。
いってみれば「Cowboy」と「Mei」の中間くらいの感じ。
ストリートっぽく苛立つような表現を強調しているが、独特のおセンチ・テイストも健在である。
ただし、全体に容赦がないというか、凶暴で緊迫したハイ・テンションの表現が主であり、抜くところでも安易なノリを許さない。
厳しいイメージである。
まず耳を惹くのは、トリッキーなリズムとダイナミックなソロで迫る痛快なる 1 曲目、ワイルドにしてクールな 2 曲目、
バラードの傑作である 3 曲目。ポスト・ロック風のイコライジング、怒れる歌唱、モダン・ジャズへの憧憬のような管楽器、きらめくような転調、ノスタルジーが希望へと力強く昇華する。
タイトル曲は、ストラヴィンスキー風(というかそのもの)のテーマと 7 拍子のせいかもしれないが、不良の YES のような感じ。
同時代の音を含めて、さまざまな音を自由自在に取り込んで、メッセージを突きつけるばかりか、エンターテインメントとしても内容を整える。
第一線のミュージシャンでも、なかなかできることではないと思うが、本作では、それが大筋でできている。
ただし、突き抜けるような表現(たとえば、多用しているブラスを鮮やかに際立たせるようなアレンジ)よりも、鋭い一体感をもちながらもグネグネとした表現が主なため、地味な印象もある。
往年の GENTLE GIANT と共通しながらも、アブストラクト過ぎるところや大胆奇抜なポップ志向がないといってもいい。
これを、哲学的、感傷的、叙情的といってしまうとあまりに雑な気がする。
「Cowboy」のような、カーンと勢いよく悩みなく飛び出すスタイルもとても似合うだけに、あんまり深刻にならないでほしい。
もっとも、四の五のいっても、1 曲目冒頭のドラムスが耳に飛び込んできた瞬間に、一気に沸騰してしまうんですけどね。
傑作です。
「Georgia Pine」
「Heavy Blues Miles」
「Lovesick Morning」
「Make Me Sway」
「The End Is Beautiful」
「So Ready」
「Arc Of Descent」
「Misery, Not Memory 」
(VR 2010)
Christopher Buzby | keyboards, vocals | Brett Kull | guitar, vocals |
Paul Ramsey | drums, percussion | Raymond Weston | vocals, guitar |
Tom Hyatt | bass | ||
guest: | |||
---|---|---|---|
Nina Beate | violin 1 | Kaveh Saidi | violin 2 |
Lori Saidi | viola | Lraiji Bicolli | cello |
Mark Gallagher | baritone sax | Jacque Varsalona | backing vocals |
2012 年発表の作品「Echolyn」。
ロック・インストゥルメンタルとしての孤高の境地を極める、いつも通り豊かで味わい深い傑作。
変拍子も交えたテクニカルでデリケートなアンサンブルを生音っぽいタフなバンド演奏でこなす、ある意味高級なロック・ミュージックである。
アメリカらしいホコリっぽさもよく似合う。
リズミカルでキャッチーなリフ、その上を軽やかにすべってゆくフックのあるメロディ、若々しいハーモニー、コントラストのある場面転換の巧みさ、などなど申し分ないが、特にエモーショナルなパートでの切ない響きがかけ声のように呼吸のいい器楽のやり取りとともにタイトなバンド演奏へと変化してゆく、その転換の鮮やかさに胸を打たれる。
ギターの表現の豊かさとその立ち位置はスティーヴ・ハウやフランコ・ムッシーダ、ロイネ・ストルトと同格。
ミュートしたアルペジオやコード・ワーク、ワウをかけたリフなどなど、とにかく小気味よく毅然としていてカッコいい。
弦楽のサポートも活かされているが、クリス・バツビーの抜群のバッキング・センスも見逃せない。
背景というか大筋というか、リズム以外の音楽の流れの基調はキーボードが固めている。
光沢あるシンセサイザーのリフやクランチなオルガンとともに、振り回すようなアンサンブルのモーメントをさりげなく受け止めるピアノのプレイが光る。
ノーブルにして少年のように若々しいリード・ヴォーカル、ハーモニーも健在だ。
また、こういう言い方は誤解を招くし大げさなのであまりしないできたつもりだが、CD 二枚目の途中で THE BEATLES の「Abbey Road」を聴いているのと同じ気持ちになりました。
(さらに誤解を恐れずにいうなら、アコースティックなサウンドの質感と元気なのにどこか物寂しい表情が、WINGS の 「Band On the Run」と似ている)
厳粛にして慈愛の響きのある「(Speaking In) Lampblack」はエヴァーグリーン足り得る名曲。
バンドと弦楽奏とのマッチングが絶妙。
これで終わるともう解散しそうで切なくなってくるが、奇妙な生硬さのある最終曲の To be continued 風の終わり方でとりあえず安心できる。
運動神経の良さをそのままぶつけてきた 90 年代のアルバムと比べると、全体にゆったりめで大人な内容のアルバムです。
ちょうど LP 二枚組の分量の CD 二枚組。
「Island」(16:38)ハード・ドライヴィンな感じと透明なリリシズムが一つになった名曲。
リズミカルで尖がった変拍子パターンやギザギザしたエレクトリック・サウンドによるプログレ・テイスト、オルタナティヴ・ミュージック的な骨太さとラフなタッチ、私小説風のセンチメンタリズムといったさまざまな要素をしなやかにまとめあげている。
ディランやバエズのようなフォークの素地もありそうだ。
「Headlight」(3:00)
「Locust To Bethlehem」(5:11)THE BEATLES を思わせるマジカルなアレンジの名曲。
ミドルテンポの歌ものがいろいろな顔を見せる。
「Some Memorial」(11:54)
「Past Gravity」(7:11)弦楽とともに奏でる珠玉のバラード。
「When Sunday Spills」(8:48)
「(Speaking In) Lampblack」(10:45)
「The Cardinal And I」(7:20)
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