メキシコのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「CAST」。 78 年結成。 デリケートなメロディをスピード感あふれる演奏で支える、いわばラテン風 GENESIS ともいうべきユニークなスタイルを築き上げた。 2003 年のメンバー・チェンジ以降、音楽性はさらに多彩となる。
Alfonso Vidales | keyboards |
Claudio Cordero | guitars |
Antonio Bringas | drums |
Bobby Vidales | vocals |
Lupita Acuna | vocals |
Flavio Miranda | bass |
Pepe Torres | wind |
guest: | |
---|---|
Michal Jelonek | violin on 9 |
2014 年発表の作品「Arsis」。
内容は、絢爛なプログレ・メタル系シンフォニック・ロック。
華やかなアコースティック・ピアノと轟音テクニカル・ギターとフルートらを中心に、酸味と甘みの両方を矛盾なく強烈に効かせた、情熱的で徹底的にロマンティックな作風である。
GENESIS 風のピアノのオスティナートと HM ギターのザクザク・リフがオーヴァーラップするという珍百景なのだ。
演奏はとにかくスピーディであり、制動をかけてゆったりと歌うところもあるが、すぐさまギアが入って再加速、スリリングなクルージングが続いてゆく。
そして、一気呵成の勢い、落ちないテンション、過呼吸になりそうな忙しなさといった個性も健在。
曲想の脈絡を失いそうなほどに派手な曲芸系ギター・プレイと比べると、キーボードのプレイはアンサンブルの中心にあってさすがに音楽的な係り結びがしっかりとしている。
オルガン、シンセサイザーのフレージングも王道である。
ギターも、その線に倣ってゆくところではいい表現ができていると思う。
クラシカル・タッチが DEEP PURPLE 風になってしまうところもあるが、アコースティックなイメージのサウンドを用いたシーンでは、クラシカルなニュアンスを正しく活かしてメロディアスで美しい演奏を繰り広げている。
たしかに、走り過ぎ、と感じるところもある。
しかし、単調さを感じさせないアレンジの細やかさ、巧みさも間違いなくあると思う。
「La Iliada」(28:13)七部構成の組曲。美しく躍動的なインストゥルメンタル。ほぼ無窮動。終曲の湛えるロマンチシズムに救われる。
「The Old Travel Book」(9:10)ヴォーカルは英語。キーボードの目立つハードロックが、「ヘヴィな GENESIS」へと変容する。
「El Puente」(18:32)三部構成の組曲。変拍子オスティナートによる幻惑的かつ独特の神々しさのあるシンフォニック・チューン。
アンサンブルの優れた一体感に加えて、第二部の女声コーラスとバロック・トランペットに象徴されるように、意外性ある展開、音楽的な広がりという点で出色。
最終曲終盤のギター・ソロでやや凡庸になるのが残念。
(AVCA012)
Dino Carlo Brassea | voice, flute |
Francisco Hernandez | guitar, chorus, voice on 6 |
Alfonso Vidales | keyboards |
Rodolfo Gonzalez | bass |
Enrique Slim | drums, percussion |
Javier Rosales | guitar on 3 |
94 年発表の第一作「Landing In A Serious Mind」。
70 年代終盤から活動を続ける CAST が初めて発表した CD である。
この後ニ作が旧作品も交えたものであるのに対し、本アルバムの作品は 90 年代に入ってからの新作。
アルフォンソ・ヴィダルスのトニー・バンクスをさらにクラシカルにしたようなキーボードとディノ・カルロのデリケートな歌唱が、全編をリードする。
リズム面の不安定さやポンプ典型風のところもあるが、演奏/曲想は最近の作品と遜色ないすばらしいものだ。
「Imaginary Window」や「Legacy」のファンには一聴の価値あり。
ヴォーカルは英語。
最終曲「Chris Col」は MARILLION の「Market Square Hero」と P.F.M の「Celebration」の中間地点。
「Tha Magic Is Gone」(7:56)
「Rest In Your Nest」(6:35)
「I Just Wanna Be」(5:30)
「At Last Alone」(6:02)
「Not Sleeping」(6:21)
「Just Another Way」(10:53)
「Do What You Like」(6:20)
「Athens」(6:43)
「Reunion」(7:13)
「Chris Col」(4:38)
(ALF-001CD)
Francisco Hernandez | voice, guitar on 3,5 |
Alfonso Vidales | keyboards |
Rodolfo Gonzalez | bass, chorus |
Enrique Slim | drums, chorus |
Javier Rosales | guitar, chorus |
Dino Brassea | lead vocals, flute, chorus |
Antonio Bringas | drums |
94 年発表の第二作「Sound Of Imagination」。
80 年代からの楽曲をまとめた作品。
アルバム前半の内容は、総じて「がんばれ MARILLION クローン!」と応援したくなるポンプ・ロック。
抑揚の大きい甘めのヴォーカルとベタベタなギターと華やかなキーボードと勢いのいいリズム・セクションによる典型的なスタイルだ。
パンク張りの勢いで疾走一直線な演奏のグレードを一段アップさせているのは、キーボードのプレイである。
単調になりそうなところを、暖色系の多彩な音でさまざまな方向からバックアップして演奏に表情をつけている。
バッキングのオスティナートやコード弾きなど、伴奏主体のようでいて実は一番の特徴になっている。
PENDRAGON のギターとキーボードの立ち位置が逆転した感じといってもいいだろう。
リズム・ブレイク時の沈んだ調子や短調に転調したときに、それまで陽性で甘めだった表情が妙に凶暴でミステリアスに変貌するところ(人のよさそうな現地人が突如ポン引きか強盗に変貌する感じ??)も特徴的だ。
HM/HR に行かずに GENESIS 側に踏みとどまるところは本家 MARILLION と同じ。
後半の歌ものでは、メロディ・ライン、コーラス、アンサンブルのデリケートなタッチがより分かりやすいアレンジになり、そのおかげで本来の魅力が現れてくる。
ポンプ・ロックの作品によくある、シンプルな表層が隠すメロディやハーモニーの魅力が聴き込むことによって次第に見えてくるという現象がここでもあてはまる。
突っ走りたがるわりにドラムスのリズム・キープが危ういこととヴォーカル含め各楽器の分離が悪い録音さえ気にしなければ、なかなかの力演だ。
キーボードのサウンドなど製作にもう少し手がかかるとさらによかった。
エンディングの 94 年の作品「A Run In The Rain」は、胸に迫る哀愁のヴォーカル・パートと緻密なインストゥルメンタルが見事にとけあった大傑作。
本作品の作風が後の路線を決めていると思う。
ヴォーカルは英語。
前半 7 曲は 85 年の作品。
「Double Show」(4:34)
「Tribute」(5:09)
「Witness」(3:50)
「Dragon's Attack」(7:16)
「Walking In The Air」(4:21)
「The Man」(3:04)
「After All」(6:02)
ここから 5 曲は 94 年の作品。リード・ヴォーカリストはディノ・ブラッセ、ドラマーはアントニオ・ブリンガスに交代。ギタリスト、ハヴィエル・ロサレスは脱退し、フランシスコ・ヘルナンデスがリード・ギターに専念。芸風はほとんど変わらない。(モロにクローンな表現が減っただけ)
「Chance Will Stay」(6:29)
「So United」(4:10)
「French Boyce」(3:12)
「One More To The Goal」(3:46)
「A Run In The Rain」(10:48)
(ALF-002CD)
Francisco Hernandez | voice on 1,2,3,4,6,8, guitar on 5,6,7,8 |
Alfonso Vidales | keyboards |
Rodolfo Gonzalez | bass |
Antonio Bringas | drums |
Dino Brassea | flute, voice on 5 |
94 年発表の第三作「Third Call」。89 年の作品 4 曲と 94 年の新作 4 曲からなるアルバム。
内容は、繊細でセンチメンタルな歌メロをきわめて多彩なキーボードが守り立てるメロディアスなシンフォニック・ロック。
89 年の作品である前半 4 曲はギターレス。
後半の 94 年の作品も、ギターはやや控えめであり、全体にキーボードの存在感が大きい。
忙しいリズム・セクションとシンセサイザーのリフがドライヴする演奏は、中期 GENESIS、初期 MARILLION への思い入れたっぷりのポンプ・スタイルである。
シンセサイザーとピアノを主とするキーボードのプレイは、せわしなく小刻みなオスティナートからつややかなソロまで、演奏を完全に仕切る。
後半のみ入るギターは、アタックを消したハケット風のメロディやアルペジオなど、いいプレイを見せるもののやはり脇役である。
ヴォーカルは、やや巻き舌の英語なるも、デリケートな美声と悩ましげな表情がカヴァーしている。
音数多く弾けるような打撃を連発するドラムス、低音を太くパワフルに叩き込むベースなども、いかにも GENESIS 風である。
繰り返しが多くややせわしなさ過ぎるところもあるが、さまざまな音を矢継ぎ早に繰り出し一気呵成に進むところと、メロディアスでゆったりとしたところの対比がくっきりしており、そのおかげで、痛快さばかりかエモーショナルな盛り上がりまでが深く印象に残るのである。
場面転換のリズム・チェンジもカッコいい。
録音がもっときめ細かければ、さらにイメージが上がるのではないだろうか。
ジャケットは三つ折になっており、広げると全貌が分かる。
「Where The Wind Blows」(7:42)
「Sleeping Fortress」(7:22)
「Time In Space」(7:21)
「Door Of The World」(15:07)緩急の対比がドラマを生む傑作。終盤の演奏が感動的だ。
「Static Dreams」(6:57)新ヴォーカリストをフィーチュア。
歌メロはかなりラテン歌謡調だが、クラシカルなキーボードが寄り添いギターとベースによるヘヴィで沸き立つような演奏が盛り上げフルートがさえずると、やはりシンフォニック・ロックといっていい内容になる。
正確には、日本で耳慣れた歌謡曲なるものが、ラテン・ミュージックを基調の一つとしているのだろう。
終盤のギターがカッコいい。
「I'm Waiting」(7:29)ラテン・フュージョン・ポップス風の健康的で涼しげな余裕を見せる作品。新旧ヴォーカルの共演のようだ。ハイトーンのハーモニーが YES を思わせるところもある。
「Veto Be」(3:56)ロマンティックにして愛らしいシンフォニック・チューン。疾走するリズムとともにギターとキーボードがせめぎあう。インストゥルメンタル。
「House By The Forest」(7:15)メインストリーム・ポップス(昔ならバーブラ・ストライサンド辺り)風のロマン薫るメローなテーマから、エネルギッシュにしてクラシカルなインストゥルメンタルへと展開する傑作。
クラシカルなピアノ、木管・弦楽を思わせるシンセサイザーが美しい。
妖しげな表情を駆使するヴォーカルをはじめ、柔らかくポルタメントするギターやせせらぎのようなピアノなどは、もろに GENESIS だ。
ここでも緩急の変化が効果的。
エンディングはお伽話の幕切れのようなノスタルジックで優しさあふれる語り口である。
(CD ALF-003)
Dino Brassea | vocals on 1,5-3,9 | Francisco Hernandez | vocals on 3,5-1/2,7,8, guitars |
Alfonso Vidales | keyboards | Antonio Bringas Caire | drums |
Rodolfo Gonzalez | bass | Javier Rosales | guitar on 7 |
Enrique Slim | drums on 7 |
95 年発表の第四作「Four Aces」。
内容は、キーボードを中心にした華やかなメロディアス・シンフォニック・ロック。
エレガントでファンタジック、スケール感もある作風である。
エレクトリック・キーボードは管弦楽器のシミュレーションから独特の音色のバッキング、オブリガート、ソロまで、多彩なサウンドを駆使して主従を使い分け、楽曲の枠組みを成している。
特に本作では、ストリングス・サウンドに象徴されるように、クラシカルなタッチが冴えている。
個人的には、煽り立てるようなオスティナートよりも透き通る音色で天駆けるようなフレーズを奏でてくれる方が、つまりギター・ソロのようなプレイの方が好みである。
そして、曲想に合わせてシンセサイザーだけではなくアコースティック・ピアノも動員して優美な世界観の構築の仕上げをしている。
(旧作についてだけは、たまに驚くほどチープな未加工の音が出てくるがしかたないだろう)
ギタリストは巧手というよりはベンディングのサスティンをフルに活かして普通のフレーズを変質させる放つ個性派。
キーボード的な存在感といっていいだろうし、やはり本家ハケット氏に通じる表現方法である。
キーボードのオスティナートをバックにりゅうりゅうと歌う姿には、一つの典型を極めた感がある。
思いつきの与太ではあるが、このグループはギターとキーボードの役割分担をひっくり返し気味にした方が、本作のようにいい結果が出るのではないだろうか。
実際、CAST といえば独特の「走り」と「忙しなさ」が特徴だが、不思議なことに今回はあまりそれらが気にならない。
たとえば 3 曲目では、全盛期の CAMEL のような神秘的な浪漫をゆったりと歌い上げている。
5 曲目の終章でも、余白をたっぷり取った柔らかな演奏で切々と訴えて、クライマックスの盛り上げに成功している。
ディノ・ブラッセのたおやかなヴォーカル表現もこの作風であれば活きる。
こちらが慣れたせいかもしれないが、この作品が特別な可能性も否めない。
ヴォーカルは英語。
「In The Light Of Darkness」(7:57)
「Introverture」(4:49)インストゥルメンタル。
「Last Will」(10:10)
「Galeno」(3:27)90 年録音。
「Echoes」(17:27)三部作第一部。
「So Close But So Far」第二部。
「No Inspiration」第三部。
「SPVM」(2:14)インストゥルメンタル。
「Time To Time」(4:44)85 年録音。ギタリストが異なるせいかややフュージョン・タッチの作品。本作では異色。
「Winter」(6:14)ピアノとヴォーカルのみの作品。序奏がすばらしい。
「Scenery」(5:43)ネオ・プログレらしい泣きの入ったアップテンポの歌もの。
(CD ALF-004)
Francisco Hernandez | voice, guitar |
Alfonso Vidales | keyboards |
Rodolfo Gonzalez | bass, chorus |
Antonio Bringas | drums |
Dino Brassea | vocals, flute, bass on 8 |
95 年発表の第五作「Endless Signs」。
内容は、きらびやかなキーボードと疾走する変拍子アンサンブルが特徴のネオ・プログレッシヴ・ロック。
80 年代のポンプ・ロックをなぞりつつ、ほのかなラテン風味や基本的にはメロディアスなのになぜにそんなに詰め込むか、繰り返すか的な演奏で個性を発揮している。
へヴィなところはいささかもないが、常に走り気味なので軽快という言葉もあまり似つかわしくなく、「華やかで忙しい」としかいいようがない。
タム回しのすさまじいこと。
キーボーディストも波打つようなオスティナートを得意とするようなので、ピアノ系の音(暖かみのある電子ピアノがいい)の方がよりいいプレイになっていると思う。
(ふと思ったが、このキーボーディストの方は、トニー・バンクスだけでなく、WEATHER REPORT なんかも好きなんじゃないだろうか)
そして、これだけ派手な感じでいながら、曲のエンディングなどクラシカルな薬味の利かせ方がデリケートで丁寧である。
なよやかなリード・ヴォーカリストをフィーチュアした 1 曲目のバラードがなかなかいい出来。
このヴォーカリストを活かした優美な曲調に活路の一つはある。
2 曲目以降の「走る」ところでもこのバラード同じくらいの出来を感じさせるともっとよかった。
もっとも、メロディアスで暖かみのあるポップ・テイストは一貫して底流にある(特に後半)ので、それに気づいてからは聴きやすくなると思う。
また、製作面での工夫で大きく感じが変わりそうな作品である。
ヴォーカルは英語。
GENESIS、CAMEL のファンには受けると思います。
「Sign Of Future」(4:56)
「Hidden Poems」(8:33)
「Spirit Of Man」(10:48)
「Endless Signs」(14:20)つかみは意外にもわりとポップス風のアレンジ。
「Power Games」(8:15)傑作。
「Allow Me」(6:27)PENDRAGON に通じる歌ものの佳作。
「Mayday」(5:07)
「Nostradamos」(8:44)総ざらえ的な内容の作品。どれか一曲聴くとすればこれ。
(ALF-005CD)
Dino Carlo Brassea | voice, flute |
Jose Antonio Bringas Caire | drums, percussion |
Alfonso Vidales | keyboards |
Francisco Hernandez | voice, guitar |
Rodolfo Gonzalez Quiroz | bass |
96 年発表の第六作「Beyond Reality」。
フルートも演奏する専任ヴォーカリストによるデリケートな歌唱のおかげで、走りぎみの曲にぐんと表情がついてきた。
充実した布陣によって、アルバムは長大な組曲を中心に構成されている。
インストゥルメンタル・パートは、キーボードとギターが交互にソロを取りながら弾けるようなリズムで飛んでゆくスリル満点の演奏であり、ヴォーカル・パートは、優美に表情かにメロディを綴ってゆく。
この二つのパートを巧みに組み上げ、波瀾万丈の物語が展開する。
たたみかけるようにスピーディな演奏を得意としているが、決してハードに過ぎず、あくまでファンタジックでメローな音色のロックとなっている。
「The Rescue」優美なテーマを用いながらも徹底して走り続けるエネルギッシュなシンフォニック・ロック。
力強さをもったファンタジック・ロックの傑作。
「Introduction」(5:28)白熱する 7 拍子のインストゥルメンタル。
緩急・エレクトリック・アコースティックの音色を巧みに使い分けている。
流れるようなシンセサイザーと麗しきピアノ、そしてロングトーンで泣き叫ぶギターが交錯する。
溌剌とした、それでいてデリケートな曲だ。
「To The 7th House Of Huitzilopochtli」(8:29)スペイシーな広がりをもつヴォーカル・ナンバー。
キーボード中心の伴奏は雄大かつカラフル。
サスティンの効いたメロディアスなギターは、ハケット風。
ティンパニのようなドラムスで驀進する EL&P 風のクラシカル・テイストあふれるアンサンブル。
ピアノとコラール風のシンセサイザーを背景に、ヴォーカルが優美な旋律を謳い上げる。
このシーンは、いかにも CAST らしいたおやかな情感にあふれ、アルバム最初のハイライトといえるだろう。
「The Rescue」(7:27)典雅なピアノとフルートから始まる終章。
やがてオルガン、ストリングス・シンセサイザーも高鳴り、分厚い音の流れができてゆく。
ギターとオルガンのリフへとまとまると一気にスピードは上がり、力強い演奏が続く。
ハードポップ風の音なのに安易さがないのは、あくまでクラシック調のアンサンブルとして各パートが反応しあっているだからだろう。
とにかく、押し捲るのに美しい。
音の奔流の表層へ浮かび上がるギターやフルートのメロディも生命力にあふれている。
そして、天上の音楽のように響き渡る第ニ章のヴォーカル・パートのテーマ。
シンセサイザーによるクライマックスを経て、感動的なエンディングを迎える。
さらに各曲も鑑賞予定。
「The North」
「Northern Place」(7:55)
「All The Way From Nowhere」(5:52)
「The Mirror's House」
「Marcato」(5:46)
「The Mirror's House」(13:17)
「Transparent Symbols」(3:14)
「Another Night」(4:38)ボーナス・トラック。
CAMEL の名曲のカヴァー。
(ALF-006CD)
Francisco Hernandez Reyes | voice, guitar |
Dino Carlo Brassea Eguia | voice, flute |
Rodolfo Gonzalez Quiroz | bass |
Jose Antonio Bringas Caire | drums, percussion |
Luis Alfonso Vidales Moreno | keyboards |
97 年発表の第七作「Angels And Demons」。
内容は、前作の延長上のメロディアスかつスピード感あふれる中期 GENESIS 系シンフォニック・ロック。
カラフルで華やか、最初から最後までクライマックスな、躍動感あるパフォーマンスである。
得意の変拍子オスティナートでスピード感とスリルを演出するのも、大きな波で訪れる緩急の切り替えももはや手慣れたもの。
キーボード中心のクラシカルで大仰なサウンドとギターによるしなやかで力強い進行がみごとにマッチしていて、ポンプ・ロック、ネオプログレの王道、いや一つの到達点といえそうな音である。
(シンセサイザーのプレイや和声展開などには EL&P 的な面もある)
英語のヴォーカルも、近年ポーランドやスウェーデンといった非英語圏でならしているヴォーカリストの原点として、優美にして堂に入った表現を見せている。
メロディ・ラインはあくまで切なく、演奏はあくまでスリリングであり、HR/HM 世代にも受け入れられそうな作風である。
(そういえばドラムスがブラストすることも多い)
キーボード・ロックのファンにもお薦め。やや唐突なフェード・アウトが多いのだけが残念。
「Initiation」(7:53)
「We Don't Belong To Heaven」(3:08)
「Reality Or Misanthropy? (Mix-Up)」(6:31)
「What We See / The Increasing Sorrow Of The Earth」(8:54)
「Angels And Demons」(5:05)
「Revealing Signs Of Love」(13:42)優美でオプティミスティックにして厳かな調子も交えた傑作。ヴォーカルと器楽の呼吸がみごと。
「Fallen Angel」(3:18)
「Loneliness」(10:42)多彩な変化を見せつつも優美さが一環する力作。ピアノによるシャンソン風の展開が新鮮。
「Fire In The Sky, Fire On Earth」(5:25)
「White Lies? / Brief Story Of The Freewill」(9:07)
(ALF-007CD)
Omar Pinera | vocals on 10,11 |
Hector Gutierrez | drums on 1 |
Antonio Bringas | drums on 3,9 |
Enrique Slim | percussion on 9, drums on 5,7 |
Dino Brassea | bass on 1,5,7 |
Alfonso Vidales | keyboards, bass in 3,9 |
Eduardo Ortiz | guitar on 10 |
98 年発表の作品「Clavico」。
CAST のリーダー、アルフォンソ・ヴィダレス氏のソロ作品。(二作目)
内容は、キーボードをフィーチュアした華やかで健やかなシンフォニック・ロック。
バロック、ロマン派クラシック的な作風を中心に、愛らしきエチュード風、民謡風のモチーフやなぜか演歌っぽい哀愁も多く盛り込んでいる。
本格的なアコースティック・ピアノは当然として、弦楽からスリリングかつレガートなソロまで霊妙かつ刺激的な音色で波打つように迫るシンセサイザーのプレイ、小気味よく転がるハモンド・オルガンのプレイなど、キーボード・ファンにはこたえられない演奏が隅々まで詰まっている。
本家同様音数の多いリズム・セクションもしっかりと入っており、ロックらしいダイナミズムもある。
ニューエイジ調の配合もこのバンド・ノリのおかげでうまく生きてくる。
性急で緊迫感ある CAST 調が続く中、6 曲目の管弦楽シミュレーション曲が意外によかった。
10 曲目、11 曲目はスペイン語のリード・ヴォーカルとギターが加わって、情熱的でロマンティックな CAST の作品となっている。
(特に 11 曲目は音質のチープさをものともしない名曲)
()
Antonio Bringas | drums, percussion |
Francisco Hernandez | voice, guitars |
Rodolfo Gonzalez | 5 & 6 string bass |
Dino Brassea | voice, flute, acoustic guitar, bass |
Alfonso Vidales | keyboards |
99 年発表の第九作「Imaginary Window」。
優美なフルートとストリングスの調べに酔わされるファンタジックなシンフォニック・ロックの傑作。
ほんのりポップなテイストも加わって、遂に一段上のステージへと上がったようだ。
キーボード・オーケストレーションを駆使しつつもアコースティックな音を散りばめた楽曲は、マイナーな喩えで恐縮だが、ブラジルの RECORDANDO O VALE DAS MAÇÃS を思わせる爽やかな色彩美と繊細な息遣いでいっぱいである。
緩急の変化もナチュラルな流れにのり、得意の 7 拍子アンサンブルがいっそう効果的。
ピアノの音が象徴するように、情熱的なエネルギーの迸りをやや抑えて音の配置を整理することでメローなタッチが強まったようだ。
それでも根底にあるのは瑞々しい生命感であり、全体としては、甘美なメロディ・ラインを溌剌と歌い上げながらも躍動感に貫かれるメロディアス・ロックといえるだろう。
サスティンの効きのいいギターがフロントで伸びやかにテーマを歌い上げて、シンセサイザーが絢爛たるサウンドでそれを守り立てる。
きらめく音の楼閣を虹色の雲に乗せて運ぶのはパッションあふれるリズム・セクションである。
音楽に色とりどりの花が咲き誇るような華やぎと勢い、そして、豊麗さがある。
ブラッセ氏による女性的なたおやかさのあるデリケートな歌唱表現も魅力的だ。
アンサンブルの音の分離をもう少しよくすれば、さらに聴きやすかっただろう。
五人体制でのパフォーマンスが飛躍的に充実した作品。
音質や演奏は作品毎にどんどんよくなっていて、原色の GENESIS の名に恥じない。
楽曲にヴォリュームがありお買い得感あり。
「Moving Universe」(8:46)躍動感とデリケートな美感、泣かせるメロディのあるインストゥルメンタル。
「Alter Ego」(4:38)繊細な声質のヴォーカルをカラフルなアンサンブルが守り立てるスリリングな作品。
「A Blossom In The Spring」(4:02)GENESIS クローン流牧歌調ファンタジック・バラード。
「Dawn」(5:06)
「Simple Things」(3:55)
「Snail」(2:48)
「Around And Around」(9:07)
「Dessert Rainbow」(2:11)
「Cotton Dreams」(6:32)
「Imaginary Window」(9:15)
「There Is The Light?」(10:31)
(MUSEA FGBG 4295.AR)
Francisco Hernandez | voice, guitars |
Antonio Bringas | drums |
Dino Brassea | voice, flute |
Rodolfo Gonzalez | bass |
Alfonso Vidales | keyboards |
99 年発表の第十作「A Live Experience」。
今までのアルバムを網羅したベスト・ライヴ盤。
ここへきて初めて大きな驚きに我を忘れる。
すべての楽曲はスタジオ盤を凌ぐ勢い、スピード感、リリシズムをもち、ものすごい迫力で押し寄せてくる。
現メンバー以前の古い作品も、おそらくここでの演奏が原曲を凌いでいるに違いない。
CAST とは史上最強のライヴ・グループであったのだ。
ひょっとすると、この一枚ですべてはいい尽くされているのかもしれない。
CD ニ枚組。
()
Antonio Bringas | drums, percussion |
Francisco Hernandez | voice, guitars |
Rodolfo Gonzalez | bass |
Dino Brassea | voice, flute |
Alfonso Vidales | keyboards |
2000 年発表の第十一作「Legacy」。
「Imaginary Window」に続いて、再び映画音楽のような芳しきシンセサイザー・ストリングスの調べで幕を開ける本作は、「Legacy」を巡るトータル・アルバム。
きらびやかにして格調あるキーボード、切なく歌うギター、たおやかなヴォーカルのコンビネーションは盤石、より洗練されたタッチで物語を綴ってゆく。
楽曲は一貫してスピーディなメロディアス・ロックだが、音数を抑えた場面や穏やかな場面も交えて、ストーリー・テリングの機微がぐっと深まっている。
演奏も進境著しく、特に、緩急自在のリズム・セクションには安定感あり。
アルフォンソ・ヴィダルのキーボードを中心としたアンサンブルは、まさに花が咲き乱れるような色とりどりのファンタジーのイメージである。
オルガン、シンセサイザー、アコースティック・ピアノの音が惜しみなく全編を彩っている。
ロマンティックなオプティミズムの香りとともに、華やかにして高雅なクラシカル・テイストも効果的。
ベタつきそうなところを、宗教的な厳かさと気品で整え、救い上げてゆく。
そして、タイトな演奏でメリハリをつけることも忘れていない。
ポンプ・ロック嫌いでも、このでき映えなら納得できるだろう。
もはやクローン云々ではなく CAST の歌がはっきりと聴こえてくる。
キーボードを中心にしたメロディアス・シンフォニック・ロックの大傑作。
「Proemio」(2:21)
「Legacy's Executor」(9:19)
「Key Of Life」(9:30)
「Celestial Garden」(4:03)
「Magic Of Love」(6:58)
「Personal Status」(4:30)
「We Are The Ones」(5:54)
「Take A Look Back」(7:41)
「Beneficiaries」(4:22)
「Living Dreams」(1:26)
「Before Me」(4:04)
「The Will」(4:40)
「Conclusion」(7:41)
()
Francisco Hernandez | voice, guitars | Antonio Bringas | drums |
Dino Brassea | voice, flute, acoustic guitar | Rodolfo Gonzalez | bass |
Alfonso Vidales | keyboards | ||
guest: | |||
---|---|---|---|
Javier Rosales | guitar on 2-8 | ||
Omar Pinera | vocals on 2-5 | ||
Eduardo Ortiz | guitar on 2-11 |
2000 年発表の第十二作「Laguna De Volcanes」。
「Imaginary Window」までの代表曲をスペイン語のヴォーカル(ディノ・ブラッセが歌い直している作品もあるようだ)にて再録音した作品。
初期作品への追加ミックスなども行われているようだ。
いい曲であるにもかかわらず発表時には製作面で十分に手がかけられなかったという忸怩たる思いがあったのかもしれない。
だとすれば、その思いは、すべての曲が彫り深く、ダイナミックに生まれ変わった本作品で払拭されたであろう。
それほどにいい内容である。
何より、スペイン語を使うことで、繊細なニュアンスを表現できている上に、その響きに他では代えられぬ味が出ている。
それは、ラテン音楽の魅力かもしれない。
とにかく、ベタベタにロマンティックなメロディがリードしている演奏にどこか謎めいた響き、異教的な妖しさが浮かび上がってきて、曲の表情を豊かにしている。
おかげで、本来の曲のよさが改めて「入ってくる」のだ。
製作も演奏も優れており、ベスト盤として十分機能する。
CD 二枚組。
カラーでなく白黒のコピーによるジャケットのものは、CD−R なのでご注意を。
「Iniciación」(7:53)「Angels And Demons」より。
「La Casa De Los Espejos」(13:17)「Beyond Reality」より。
「Entre El Bosque Des Tiempo」(7:15)「Third Call」より。
「Cosas Simples」(3:50)「Imaginary Window」より。
「Signos Reveladores De Amor」(13:42)「Angels And Demons」より。
「F.B.」(3:11)
「Signos Infinitos」(14:20)「Endless Signs」より。
「Uno Más A La Meta」(3:46)「Sounds Of Imagination」より。
「Realidad O Misantropia」(6:31)「Angels And Demons」より。
「Ecos」(4:50)「Four Aces」より。
「Universo En Mivimiento」(7:31)「Imaginary Window」より。
「Botón De Primavera」(3:59)「Imaginary Window」より。
「Sueños Estáticos」(6:53)「Third Call」より。
「Diazepan 50 mg」(8:05)リーダーであるアルフォンソ・ヴィダルのソロ作「Clavico」より。
「Solo Una Forma Más」(10:57)「Landing In A Serious Mind」より。
「Alter Ego (En Manos De Los Bandidos De Cuello Blanco)」(4:35)「Imaginary Window」より。
「Solo Quiero Estar」(5:28)「Landing In A Serious Mind」より。
「Juegos De Poder」(8:15)「Endless Signs」より。
「La Espera」(7:29)「Third Call」より。
「El Fin」(5:01)アルフォンソ・ヴィダルのソロ作「Clavico」より。
()
Francisco Hernandez | vocals, chorus, percussion | Carlos Humaran | guitars, vocals |
Kiko King | drums, percussion | Flavio Jimenez | bass |
Alfonso Vidales | keyboards | ||
guest: | |||
---|---|---|---|
Pepe Torres | sax, flute, clarinet, kena | ||
Jose Luis Algaba | bass | ||
Lupita Vidales | voice |
2003 年発表の作品「Al-Bandaluz」。
理由は不明だが、リーダーのアルフォンソ・ヴィダレス、ギタリストのフランシスコ・フェルナデス以外のメンバーが交代、フェルナンデスはヴォーカリストに専念し、新ギタリストを迎えている。
得意の奇数拍子でキーボードがさざめくシンフォニックな作風はそのままに、リズム・セクション、ギターの演奏含め表現のバリエーションが広まった印象を与える内容となっている。
クラシカルでロマンティックな面は維持しながら、ハードロック風のワイルドさや現代音楽風の険しさも取り入れ、音楽にメリハリがある。
確かに初めはディノ・カルロのデリケートな歌唱やフルートが懐かしくなるが、新ギタリストによるきわめて現代的なプレイに刺激されているうちに、気がつくと作品世界に惹きこまれている。
冒頭 1 曲目の 5 拍子の怪しげなピアノのオスティナートから、今まで以上力が入っているのは明らかだ。
そして、製作面にも力が入ったせいか、今までなかなか出し切ることのできなかった積み上がった音の魅力が、ちゃんと伝わるようになっている。
このグループの音楽の中心である華やかにしてスピード感もあるキーボードのプレイも、ようやくその本当の実力を開陳できたというべきだろう。
2 曲目のように IQ も凌ぐほどに冴えた作品のよさも、今回の明快な製作あってのものだろう。
新しいギタリストはさまざまなプレイ・スタイルをごく自然に操る逸材である。
テクニカルになった分、匂いたつようになよやかな叙情性が後退したことは否めないが、全体として、新生面を見せつつも CAST らしさも打ち出した傑作といえるだろう。
CD 二枚組。
一枚目は、上に述べたとおり今までの作風を継承、格調、グレードアップした力強い作品が集まり、二枚目では素朴にして雅な表現や音を削ぎ落とした表現、ややジャジーな表現など、新しい方向性も示している。
二枚目の中心となる 2 曲目の超大作後半に現れるスキャットなんて、初期の CAMEL のようであり、ベテランとは思えぬほどに若々しくナイーヴである。(元々 CAST は CAMEL のカヴァーもやっていたのではあるが)
ヴォーカルはスペイン語。ただし、バランスとしてはインストゥルメンタルが主の作品である。
(FGBG 4512.AR)
Carlos Humaran | guitars | Kiko King | drums, percussion |
Flavio Jimenez | bass | Alfonso Vidales | keyboards |
Francisco Hernandez | vocals, guitars | Jose Torres | wind |
guest: | |||
---|---|---|---|
Guadalupe Acuna | vocals, chorus |
2004 年発表の作品「Nimbus」。
新メンバーによる二作目。
演奏がシャープになり録音が若干クリアーになったおかげで引き締まった印象の作品となる。
ただし、基本的な作風に変化はない。
あいかわらず、息せき切るように走り続けながらロマンティックに歌うという、繊細なようできわめてスタミナあふれる作風である。(4+3 拍子好き、道化師好きも変わらないし)
音が以前より明確になったおかげで、各場面や展開が分かりやすくなり、音楽の深みを感じ取れるようになった。
元々クラシカルな演奏はお得意だったが、それに加えて、ジャジーな音も自然に取り込まれていている。
このジャジーな音の導入は、実は大きな変化といえるだろう。
独特の忙しなさや音数の多さに慣れれば、芳醇なロマンティシズムに酔うことは可能である。
管楽器の説得力ある音色も印象的。
邪悪な表情を見せてグイグイとたたみかけるアンサンブルが、サックスと重なって初期の KING CRIMSON に迫るところや、ラテン色露な HM/HR 調は新機軸だろう。
第三部までがアルバムにちりばめられた「Ladrona De Suenos」(「夢盗人」でしょうか)の第一曲は、インパクトのあるへヴィ・シンフォニック・チューン。
どちらかといえば KING CRIMSON より EL&P な感じがするのは、オルガンとピアノががんばっているからでしょう。
最初の組曲「911」はジャジーな音と CAST らしいエモーションがともに現れた作品。エネルギッシュな演奏と厳かな、ときに無常感すらある表現がすばらしい。
二つ目の組曲「Sucio Nino Bein」は、ギターもがんばるオールド・ロック調の名曲。往年のプログレらしさもある。
8 曲目「Dias De Sol Y Luz」は BACAMARTE を思わせるゲストのコントラルトをフィーチュアし、ピアノ、フルートが伴奏する相聞歌風の作品。ファズ・ギター、まろやかなシンセサイザー。
結成 30 年余りだそうだが、ここまで来ても GENESIS のメロディアスなところはしっかりと受け継いでいる。
後半の組曲「Un Siglo De Invierno」は、HM/HR 色を強めた作品。へヴィなサウンドはキーボードのテイストとあまり合っていないような気がするのだが。
「Hojarasca」は、アコースティック・ギターのさざめきといいエレキギターの歌い方といい、木管風の音といいスティーヴ・ハケットそのもののような佳品。タイトルは謙遜か?
ヴォーカルは英語とスペイン語。
(MYLOCD 020)
Carlos Humaran | guitars on 1-3,6,7,9-11 | Kiko King | drums, percussion on 1,3,4,9-11 |
Pepe Torres | flute, sax, clarinet, kena | Flavio Miranda | bass, double bass, cello on 1-7, 9-12 |
Lupita Acuna | vocals on 3,5,7 | Francisco Hernandez | vocals on 2,6 |
Dino Brassea | vocals on 3,10,11 | Julio Camacho | percussion, effects on 2,5,7 |
Rodolfo Gonzalez | bass on 14 | Betto Vidales | vocals on 7 |
Antonio Bringas | drums, percussion on 2,7,12,14 | Javier Rosales | guitars on 14 |
Ernesto Bringas | guitars on 14 | Enriques Slim | percussion on 6,8,14 |
Roben Fernandez | vocals on 5 | Alfonso Vidales | piano, keyboards |
2006 年発表の作品「Mosaïque」。
メロディアスなシンフォニック・チューンを基本に、バロックからオペラまで幅広いクラシカル・テイスト、近年の特徴であるプログレ・メタル的アクセント、大胆なジャズ/フュージョン風アレンジ、ニューエイジ/ワールド・ミュージック風味までも交えた多彩きわまる内容のアルバムである。
甘美にしてしたたるほどにロマンティックであり、知性と官能のせめぎ合いが素朴さと独特の性急さとともに後者に傾きがちだった作風が、ふとわが身を振り返る視点に気づいて内なる嬌声を外に向けて美しく整えて歌い直したように落ちつきを得た、いわば一皮向けた作品である。
もともとカラフルな音が魅力のバンドだったが、その色遣いの豊かさと機微に一段と冴えを見せたといってもよかろう。
キーボーディスとの率いるバンドらしく、ピアノ、オルガン、アナログ・シンセサイザーのいい音が随所で耳にできるのもうれしい。
ヘンデルやテレマンのように優美にして純朴なるクラシック調と、変拍子にしてリズミカルでメロディアスなポップ・テイストのブレンドは、往年の CAMEL と同じ水準にある。(CAST は CAMEL のカヴァーも得意であった)
そして、民族楽派や印象派など近現代クラシックに源のあるらしき神秘、邪悪テイストも KING CRIMSON や EL&P 経由ではあろうが、取り入れられていて、甘ったるさを引き締めている。
また、管楽器奏者の存在感はジャズ、クラシック両方の文脈において本作でも際立っている。
品のある美観、音楽的な幅広さという点では「Legacy」以来の群を抜いた秀作だと思う。
80 年代の音を懐かしめる世代にもお薦めだと思う。
新旧メンバーのクレジットが入り混じっており、どうやら、初期に作曲されたものや過去のアルバム・セッションで収録されながらも発表されなかった作品のサルベージも含まれているようだ。
(たとえば、2 曲目「Signs Of Love」は「Endless Signs」製作時の作品という説明書きがある)
この状況を表したアルバム・タイトルというのは深読みしすぎだろうか。
ヴォーカルは英語とスペイン語。CD 二枚組。インストゥルメンタル曲とヴォーカル入り曲の割合は半々くらい。
CAST らしからぬといったら大失礼だが、それも大袈裟ではない傑作。意外なほどにアコースティックなサウンドが生かされています。
「Azteca Imperial」(8:49)インストゥルメンタル。
「Signs Of Love」(11:03)95 年の作品。
「Sueños Colectivos」(10:02)
「Júpiter」(7:49)インストゥルメンタル。
「Cruces En El Mar」(3:32)
「Hay Un Lugar」(7:15)
「Princesa Celestial」(3:55)90 年の作品。
「Flaupepe」(0:18)インストゥルメンタル。
「Zona De Ilusiones」(13:05)インストゥルメンタル。本アルバムの作風を代表する力作。
「Niño De Cristal」(5:18)
「Niño De Cristal II」(4:23)
「Cuerda Floja」(8:23)
「Flapepo」(3:00)インストゥルメンタル。
「Adapted For Your Eyes」(5:48)94 年の作品。
「Nueva Luz」(8:39)インストゥルメンタル。
「Ara Imp」(1:13)インストゥルメンタル。
(FGBG 4647.AR)
Alfonso Vidales | Hammond, piano, mellotron, sinthesizers, voice | ||
Claudio Cordero | guitars | Pepe Torres | sax, clarinett, flute, bagpipe |
Dino Brassea | flute, voice | Lupita Acuris | voice, percussion |
Flavio Miranda | bass | Antonio Bringas | drums |
guest: | |||
---|---|---|---|
Gabriel Preciado | drums on 9 | Antonio Romero | Galician bagpipe |
Jose David Guillen Monje | trumpet, flugelhorn |
2007 年発表の作品「com.union」。
ヴォーカリストとドラマーに旧メンバーが復帰。
前々作からのへヴィでテクニカルなギター・サウンドの導入は継続中で、従来からのキーボードの変拍子オスティナートを軸に音を詰め込んで忙しなく息せき切って走り続ける演奏も変わらない。
ただし、プログレ・メタルというほど HM/HR 色は強くなく(ガシガシとリフを刻み、隙をついてツーバスはロールするが)、クラシカルでシンフォニックなハードロックを現代のギター・サウンドでやっているというのが正しい見方だと思う。
そして、本作品の新機軸は、管楽器をフィーチュアした大胆なジャズ、フュージョン色の導入とストレートなエスニック色を打ち出したところである。
通常運転時の忙しなさと比べてあまりの落差にビックリするが、フルートなどアコースティックな音を使ったソフトで叙情的な場面(ジャズっぽさとフォーク色のブレンドがおもしろい)の演出は格段にうまくなっていると思う。
興味深いことに、アグレッシヴな勢いと優美なたゆといが両立する瞬間があるのだ。
また、FOCUS や CAMEL からの直接的な影響(パクリ)を隠さないところは、旺盛なるアマチュアリズムの称揚ということか。
そして、復帰したディノのたおやかなファルセット・ヴォイスは、相変わらずの忙し過ぎる演奏のグレード・アップに一役も二役も買っていると思う。
アルバム後半に向けて、多彩な音楽的タッチでさまざまな表情を打ち出してくるところも新しい。
ギタリストはアコースティックでも超絶技巧を放つ。
雑談。
おもしろいことに、プログレ・バンドはなぜかヴィンテージ・キーボードにはこだわるが、ヴィンテージなギターの音色やプレイにこだわることはほとんどない。
(本グループは、キーボーディストがリーダーのグループなのでしょうがないとは思うが)
ギターにあまりこだわらないということは、やはり、ロックらしさを一部放棄しているということになるのだろう。
もっとも、ギターに限らずヴィンテージものにこだわるという姿勢そのものが、ロックとしてはいかがなものか。
男女のヴォーカルはスペイン語。
後半の暴れっぷりが痛快な傑作アルバムである。CAST ってあれでしょ的な評価が覆ること請け合い。
ジャケットは宮崎駿を何とかしようとしたが何ともならなかったのだろう。
「Orogus」(4:03)メタルな GENESIS?
「Al Bello」(3:15)ヴォコーダーのパートは FOCUS ?
「Fantasmas Y Demonios」(6:09)こういうプログレ・メタル系シンフォニック・ロックはなかなか新鮮。つむじ風のように目まぐるしく吹き狂うアンサンブルをツーバス・ロールと跳躍スウィープ・アルペジオが貫く。アラビア風味もあり。
「Elfonia」(11:16)ヘヴィで稠密なサウンドをクラシカルかつトラッドなテーマとその変奏に注ぎ込んだ力作。
アコースティックな懐の深さでは一番か。(アコースティック・ギターは何気なく超絶)
そしてなんだかんだでやはり GENESIS や CAMEL っぽいから驚く。
無窮動。
この忙しなさは慣れるとクセになる。最後に二分は感動的。
「Sensación Árabe」(7:46)西アジア風のエキゾチズムを強調したマイク・オールドフィールド風の歌もの。
女性ヴォーカルはスペイン語ではないような気がする。控えめなオルガンがメインの異国風管楽器群を支えていい仕事をする。
「Damajuana II」(4:48)サックスがリードする 70 年代終盤風のジャズ、フュージョンど真ん中の作品。
インストゥルメンタル。
80 年代ネオ・プログレ系にこういう「中途半端」な音がよくありましたっけ。
「Donde Se Visten Las Serpientes」(7:28)コブシをまわす演歌ヴォーカルを超絶テクニカルなバックが支え、管楽器群によるジャズ風味も交えつつ、奇妙な捻れのままにさまざまなシーンが描かれる傑作。
ある種 KING CRIMSON 的なニュアンスあり。(南米の BUBU の作風と共通する)
ミステリアスであり終盤まで展開が読めないがカッコいい、すなわちプログレ王道。
「El Cojin Verde」(5:40)哀愁ある正統派シンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
メロディアスにしてメリハリのある演奏、トラッドかつクラシカルなタッチは P.F.M にも通じる。
ひたすら疾走するよりは、本作品のようにテンポや調子に起伏があるスタイルの方がいいと思うが?
「Cosas Simples」(5:48)エレガントなピアノが湧き立ち、メローなサックスとエレアコ・ギターが寄り添うジャジーな歌もの。
リズムの表情豊かな変化やさりげなくもピシッとしたオブリガートでメリハリをつけ、普通のオシャレなラヴ・ソングにとどまらない。
フルートによるほのかなエキゾチズムのアクセントも効果的。
「Hogar Dulce Hogar」(3:55)モノラル SP 盤風にイコライズされたピアノが導くオールド・ジャズ風イージー・リスニング。
曲名はメキシコの人気 TV 番組のタイトルのようなので、番組のテーマ曲なのかもしれません。
「Lobos」(4:27)JETHRO TULL にオマージュを捧げるイタリアン・ロック・バンド(DELIRIUM か)の作品のような怪傑作。
吹き荒れるフルートと濃厚な演歌ヴォイス、そしてほとばしるオルガンとギトギトしたファズ・ギターの絶叫が傾いだアンサンブルでひた走る。
ブリティッシュ・プログレはもちろん往年のイタリアン・ロック・テイストにもあふれており、演奏が楽しそうだ。
「Io」(5:27)エルメート・パスコアル的な世界。
その世界はレゴでできていて、音の呪文一発でバラバラと崩れて奈落へと消えてゆく。
(FGBG 4716.AR)
Alfonso Vidales | keyboards |
Antonio Bringas | drums |
Claudio Cordero | guitars |
Bobby Vidales | vocals |
Flavio Miranda | bass |
Pepe Torres | wind |
2011 年発表の作品「Art」。
内容は、神秘的な物語を空高く飛翔し続けるようなスピード感と爽快感にあふれるサウンドで描くシンフォニック・ロック。
神秘性を帯びつつも明快なリフでドライヴして多彩な音色と旋律をちりばめ、けたたましい祝祭的なオプティミズムを基調に、妖美な翳りも適宜交えつつ、真っ直ぐに進む。
そして、力強く伸びやかにうたうハモンド・オルガン、麗しのアコースティック・ピアノ(今回は特によし)、吼えながらもうねるようなヴィヴラートでテーマを奏でるギター("弾きたがり"だが許せる範囲である)、さらにはフルート、サックスらが目まぐるしくもロマンティックで有機的な連携を見せ、そのアンサンブルが自在のテンポと抑揚で迫る。
(アルフォンソ・ヴィダル氏は、エマーソン、ウェイクマン、バンクスらの技は一通り体得しているようだ)
変拍子の織り込みも自然であり、往年の BANCO を思わせる邪悪な荒ぶりや怪しさへと表情を切りかえるのも巧みである。
とにかく、豊かな色彩と溌剌とした動きにあふれ、陰影も施した、安定したパフォーマンスなのだ。
リーダーの親族らしきヴォーカリストは、若干の若気のメタルと粘り気はあるものの、ディノ・ブラッセに十分匹敵するほど英語の歌唱がいい。
また、本作でも木管とサックスの音がメロディをリードし、補完するなめらかな音の質感で際立っている。
開き直ったように 70 年代プログレ〜ネオ・プログレ路線をキープし、ハイテンションをキープし続けて 3 分が 7 分くらいに感じられる独特の作風もそのままに、音やアレンジなどすべてをグレードアップした作品である。
近年の東欧圏、イタリア、北欧などの新興勢にも目を怠りなく配っているのかもしれない。
とにかく、 EL&P や GENESIS、CAMEL からそのままここに来ても大丈夫、と太鼓判が押せる。
この活き活きとした作風で個人的に思い出したのは、同様にネオ・プログレを突き抜けたイタリアの MANGALA VALLIS である。
余談。個人的に HM の音というのは酸性かつ苛性で激辛、鋭利かつざらざらとした暴力性が基本にあると思っていたが、ここでの HM 的な音には徹底して甘味があると感じている。
「Duction From The Intro」(8:05)序盤からのリフがいかにもこのグループらしい甘美かつダイナミックなイントロダクション。インストゥルメンタル。
「Between The Face And The Mask」ややプログレ・メタル系のステレオ・タイプな作品。
「A Night Of Candles / Our Many Hands」(6:50)
「Handing A Challenge」(4:00)
「Equal Strokes」(3:50)
「Between The Face And The Mask / Reprise」(10:09)
「Return To Same」(5:19)エマーソン風ピアノ・ソロが導きフルート、木管が寄り添うフォーキーな弾き語りバラード。つまり昔の GENESIS。アコースティック・ギターはスパニッシュなプレイで魅せる。
「Ojales」(2:39)瞬間沸騰するラテン・プログレ。KING CRIMSON、EL&P 風味あり。
「Selajo」(3:21)瞬間沸騰するラテン・プログレ#2。せわしなくもメロディアスなオスティナートで攻め立てる得意の作風。
「The Rescue」
「Intrada」(3:50)変拍子リフでたたみかけ、リリカルに哀愁で落とす序章。うるさいが堅調な演奏である。インストゥルメンタル。
「Less Complicated / The Rescue」(9:18)前半は EL&P を思わせる民族音楽調の抑揚がほのかに感じられるヘヴィ・シンフォニック・チューン。ヴォーカルが入ると普通のヘビメタバンド化するので、インストゥルメンタル・パートのほうがいい。後半は、ヴォーカルもかつての CAST を思わせる甘美で繊細な表情となり、ぐっとメロディアスでポジティヴな高揚感ある「らしい」作風である。
「More Complicated」(4:29)アコースティックな響きの舞曲調のテーマが耳に残るも、基本はハード産業ロック。もう少しギターとベースとドラムスがおとなしいほうが曲のよさが出るはず。
「In Front Of My Eyes」(4:01)感動の終曲。シンセサイザーのぶっこみはもはや関西ノリ。
「Pyro-Lamb」(3:09)エピローグでもう一度プログレ・メタルをブッこんできます。
(AVCA011)