イタリアのプログレッシヴ・ロック・プロジェクト「MANGALA VALLIS」。 98 年発足。 2020 年、新作「Voices」発表。
Gigi Cavalli Cocchi | drums, percussion, chorus |
Mirco Consolini | guitars |
Niki Milazzo | guitars |
Cristiano Roversi | keyboards |
Roberto Firanti | vocals, bass |
2012 年発表の第三作「Microsolco」。
最強のプログレ・トリビュート・バンド久々の作品のその内容は、ヴィンテージ・キーボードとギターのアンサンブルをモダンなリズムがドライヴするメロディアスでクールなシンフォニック・ロック。
現代ロックもしくはポスト・ロックがプログレの延長上にあることは論を待たないが、本作品は過去(プログレ)と現代(ネオプログレ)と未来が輪廻を描いた、一つの完成形を提示している。
メロディ・ラインを軸として有機的な音のつながりで物語を描き、時にヒネリもくわえつつ、意外性とお約束が巧みにかみ合って感動を呼ぶ。
ただし、どちらかといえば、80 年代以降の HR/HM を自然に取り込んだ「ネオプログレ」的な要素がより基調を占めており、出自という観点では FLOWER KINGS よりも MARILLION、IQ、果ては COLLAGE 辺りに近い。
このグループのサウンドに共感したのか、その充実に手を貸すために馳せ参じたか、イタリアきってのクリエイター、クリスティアーノ-MOONGARDEN-ロベルシ氏が参加している。
このキーボーディストの交代は、全体のサウンドに大きく影響していると思う。
一方、ランゼッティ氏は脱退したようだが、今作品のヴォーカリストも、巻き舌が少しに気になるが、魅力的な声の持ち主である。
(どちらかといえば、HM のフロントマンが似合いそうなタイプ。最近ではポーランドのグループにこのタイプが多い)
演奏そのものは、FLOWER KINGS に迫る安定性とスケールを感じさせ、特に、「月影」GENESIS を手本としたようなアンサンブル(ロベルシ氏のシンセサイザー・ワークによるところは大きそう)は、安定感のみらなずみずみずしさも魅力である。
ヴォーカリストにリードされる攻撃的な表現は新しい。
しかしながら、何より今回の「モロ」は、PINK FLOYD です。
ポーランド勢ほどではないが、昨今の流行らしき、引きずるようにメロディアスな展開が主である。
個人的には、前作までに見られたような ECHOLYN にようにリズミカルに跳ね、走るところがもっとあってもよかったと感じる。
ヴォーカルは英語、違和感ゼロ。
冒頭、レコード針を落としたときのささやかなノイズの演出がうれしい。
「Easy Empire」()大人なバラード調が基本。ネオプログレの進化発展形。
「Gods Of The XXI Century」()
「Plastic Paradise」()
「Welcome To The New World」()でも、ホントは「月の裏側」なんてないんだよ。
「Microsolco」(6:01)スタイリッシュでコンテンポラリーなロック。
「211212」()民族音楽調のリフと PORCUPINE TREE に端を発するポーランド・ロック風味がうまく結びついた佳作。重過ぎないところがいいのだと思います。
「Terranova」()
(MRC 029)
Gigi Cavalli Cocchi | drums, percussion | ||
Enzo Cattini | keyboards | ||
Mirco Consolini | guitar, bass | ||
guest: | |||
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Matteo Setti | vocals on 2,3 | Vic Fraja | vocals on 4,5,7 |
Bernardo Lanzetti | vocals on 8 | Stefano Menato | sax on 5 |
Elisa Giordanella | viola on 2,6 | Kimberly Duke | narrator |
Engenio Carena | lyrics | Amek | sound engineer |
2001 年発表のアルバム「The Book Of Dreams」。内容は、オプティミスティックな力強さと、夜明けの希望を感じさせる、ハート・ウォーミングなシンフォニック・ロック。
ジュール・ヴェルヌとその著作を主題とした、ストーリー仕立てである。
サウンド的には、典型的なネオ・プログレッシヴ・ロックに、ノスタルジックかつヴィンテージな音を丹念に散りばめたもの。
HM として様式化する前のハードロックを、多様なキーボードと表情豊かなギターで色付けし、70 年代のプログレ・イディオムを盛り込んだ作風、などとまだるっこしいことをいうよりも、ずばり SPOCK'S BEARD、THE FLOWER KINGS (マイナーどころでは ILUVATAR やマーティン・オーフォードのソロなども)の方法論を拝借した音楽である、というべきだろう。
ポイントは、70 年代サウンドへの徹底した志向・追求しながらも、プログレにとどまらず素直なポップ・センスを行き届かせた丁寧な作り込みにある。
「Wind And Wurthering」期以降の GENESIS を思わせる、デリケートな大人向けのサウンドといってもいいだろう。
そして、あえてエキセントリックな個性よりも親しみやすさを打ち出して成功している。
したがってあまりに予定調和な世界だが、プログレ王道であることも間違いはない。
また GENESIS、YES をベースにしながらも現代的なヘヴィネスも強調しており、決してノスタルジー一本槍ではない。
唯一残念なのはメロディ・ラインが完全に「汎用ポップス」のものであり、にわかにはイタリアの作品と分かるようなローカルな味わいがないところだろう。
全体に、ソロやインタープレイよりも、豊かな音色と音量をもつアンサンブルが、表情豊かなヴォーカルとともに鳴り響く展開が多い。
そこへ GENESIS そのもののような演奏や、ナレーションなどをアクセントとして持ち込み、ナチュラルな筆致を損なわずに大作を綴ってゆく。
緩急や明暗などの変化が分かりやすく、極端すぎないというのも特徴だろう。
キーボードはもちろんヴィンテージ・セット。
メロトロン、アナログ・シンセ、ハモンド・オルガンが常に鳴り響き、小面憎いばかりにいいタイミングのソロで切り込んでくる。
スタイルはやはりトニー・バンクスだろう。
変拍子のリフが完全に許せるところがすごい。
ギターは JADIS のゲイリー・チャンドラー、昔のスティーヴ・ロザリーに近い。
過度にブルージーでありながらメタルっぽくはない、メロディアスなオールラウンド・スタイルである。
アコースティック 12 弦ギターの竪琴のような響きも、随所で用いられている。
ヴォーカルは歌詞が英語なので、スタイルが英国有名シンガーのパッチワーク・コピーになるところはいたし方ないのだろう。
おそらく、複数のゲスト・ヴォーカリストを迎えているのは、曲に最も合った唱法・声質を選ぶ以上に、あまりにイメージがワンパターン化するのを回避するためではないだろうか。
またコーラス・ハーモニーも、YES のカヴァーのようなくすぐりから美麗なバラードまで多彩である。
ゲストで目を惹くのは、なんといってもベルナルド・「ゲイブリエル」・ランゼッティ。
独特のヴィブラートと含み声は ACQUA FRAGILE のときとなんら変わらない。
また 2、3 曲目のリード・ヴォーカルをつとめるマテオ・セッティは、アイドル的人気シンガーのようだ。
キムタクが、インディ系のプログレ・バンドのヴォーカルをやってるような感じでしょうか。
70 年代プログレ・オマージュの筆頭たる大傑作。
近年の南米、北欧、イタリアのプログレ隆盛の最後の煌きとなるのか、新たな時代への導き手か。
ヨーロッパから現れた、TRANSATLANTIC のライバルかもしれません。
「Overture」(1:47)
「Is The End The Beginning ?」(9:28)いきなりのクライマックス。圧倒されます。
「The Book Of Dreams」(7:05)GENESIS の芝刈りに似すぎと思うのはわたしだけか。
「The Journey」(12:13)「アコースティックな味わい+メロトロン添え」も披露。もちろん完璧。中盤のノリノリの展開もみごと。
TFK の大作に匹敵する傑作。
「Days Of Light」(9:05)英国風のバラード。サックスをフィーチュア。
「Under The Sea」(3:34)轟々と鳴り響くへヴィ・チューン。ギター、オルガン系の荒々しいリフ、アナログ・シンセの丸っこい音とレガートなギターなど典型的なサウンドを凝縮したインストゥルメンタル。
「Asha(Coming Back Home)」(8:20)"レイドバック"したミドル・テンポの作品。終曲の導き手として出色。
「A New Century」(10:22)再び、そして永遠のファンタジーを紡ぐ 12 弦アコースティック・ギターの響き。
序盤は ACQUA FRAGILE の新曲にしか聴こえない。
(TAVR 012001)
Gigi Cavalli Cocchi | drums, percussion, chorus |
Enzo Cattini | keyboards |
Mirco Consolini | guitars |
Riccardo Sgavetti | bass |
Bernardo Lanzetti | lead vocals |
2005 年発表の第二作「Lycanthrope」。
冒頭からいきなり GENESIS なメロトロンが吹きすさび、ハモンド・オルガンが眼前で炸裂する正調 70’シンフォニック・プログレ・リヴァイヴァル。
叙情的な場面も力強くこぶしを突き上げる場面も、超一流の堂々たる表現で真っ向勝負の痛快な内容である。
典型的なネオ・プログレのスタイルに依拠しながらも、サウンド面、演奏面での充実が安易な揶揄を寄せつけない。
特に、メロトロン、ギター、オルガンを代表に、すべてが力強い音で堂々と存在をアピールすることに驚かされる。
回顧主義極まれりとか SPOCK'S BEARD の二番煎じだといった文句は気にしないで、パフォーマンスの魅力にあっさり降参してハマってしまおう。
もっとも、本作には、この手の音楽にありがちな不健康なマニアックさは微塵もない。(思い切り GENESIS、どう聴いても YES、これ EL&P じゃん、というところはいっぱいあるけどサ)
イディオムやパーツを採用しながらも、あくまで独自のロマンチシズムを貫いた、オプティミスティックで心揺さぶるドラマを描いている。
素直な憧憬の念と卓越した音楽センスが結びついた、ある意味奇跡的な音楽というべきだろう。
2 曲目のエンディングをつややかに彩る長尺のソロ・ピアノなんて、そうやすやすと出てくるアレンジではない。
SPOCK'S BEARD に匹敵するのは、スタイル云々ではなく、プログレ以前の基本的なポップ・センスの「冴え」である。
英国ネオ・プログレの路線上にありながらも、3 曲目のメロトロンほとばしるアコースティック・ギター弾き語りのように、イタリアン・ロックらしい味わいを放つところも多い。
前作でゲストであったベルナルド-「ゲイブリエル」-ランゼッティが、ACQUA FRAGILE で示唆したイタリアン GENESIS の完成形を目指すためか、ついにリード・ヴォーカリストとして君臨。
円熟した表現で感動のグレードを何段もアップさせている。
VdGG のデヴィッド・ジャクソンもゲストで参加。
タイトルは「狼憑き」の意。
全世界のプログレ・ファンにお薦め。
7 曲目のオルガンのリフで体が動かなかったら、少し耳を鍛え直しましょう。ヴォーカルは英語。わたしを含め、「Watcher Of The Skies」好きは多いんだなあ。
「Echo Absolute」(1:45)
「Werewolf Suite」
「Cosmotraffic Jam」(9:49)
「Call Me Alias」(7:14)
「Lycanthroparty」(5:24)
「Ham/Animal Long」(2:54)
「The Boy That Owls At The Moon」(13:36)中盤に大興奮の EL&P 風ムーグ・シンセサイザー、ハモンド・オルガンを放り込みながらも、基調は PINK FLOYD か CAMEL かといった叙情作。
「The Mask」(11:43)テクニカルなキレ、軽快なグルーヴ、ナイーヴな表情が現代のグループであることをアピールする傑作。
しかし、気がつくと GENESIS の長編からの流れが。
7 拍子系の曲として出色の作品である。
「The Transparent And The Obscure」(9:57)
(TAVR 022005)