オランダが生んだインターナショナルなプログレッシヴ・ロック・グループ「FOCUS」。 69 年結成。 イギリスを皮切りに日本、アメリカでも大ヒットし、海外で成功したヨーロッパ・ロックの先駆けとなる。 77 年解散。 そのサウンドはダイナミックなロック、ジャズにクラシックの素養を浸透させた、王朝風の品格漂うもの。 ギター、キーボードともに猛烈なテクニックを誇りつつ、メロディの美しさ、親しみやすさという点で傑出していた。
Thijis Van Leer | keyboards, flute, vocals |
Jan Akkerman | guitars |
Cyril Havermans | bass |
Pierre Van Der Linden | drums |
71 年発表の第二作「Moving Waves」。
奇天烈さを強調した傑作である 1 曲目を除けば、叙情的なサウンドでいっぱいのロマンティックな内容といえるだろう。
美しく気品のあるメロディとクラシカルな構築性、タイトなジャズ/ロック・スピリッツが奇跡的に結びついた、インストゥルメンタル・ロックの大傑作である。
ギターは、マーシャル直結のナチュラル・ディストーション・トーンが魅力。
アコースティック・ギターのプレイもすばらしい。
キーボーディストは、オルガン、メロトロン、ピアノに加えてアクロバティックなフルートやヨーデルも操る。
本作にて FOCUS の名声は、一気に高まった。
71 年にして本家英国顔負けの音楽的完成度を誇る名盤。
本国では「Focus II」として発表された。
まずは、FOCUS の代名詞ともいえる、ヨーデルとバロック・オルガンをハードロックで煮込んだクレイジーな「Hocus Pocus」(6:24)。
すさまじい熱気をはらむコミック・ソングすれすれの曲調を豪快なテクニックで押し切り、雑多な吸収力をもつロックの性格を誇示する怪作である。
幸か不幸か、FOCUS といえばまずこの曲が浮かぶ。
ハードロックという観点では、DEEP PURPLE からの影響を、RAINBOW 辺りとともにネオ・クラシカルといった HR/HM へと引き継いだものの一つといえるかもしれない。
2 曲目は、急転直下、アコースティック・ギターのクラシカルな響きと透き通るようなメロトロンが、失われしロマンをかきたてる小品「Le Clochard」(2:01)。
竪琴のような和音とセンチメンタルなトレモロが、胸を打つ。
この気品とエレガンスも FOCUS の特徴だ。
3 曲目「Janis」(3:09)では、タイス・ファン・レールの得意技の一つであるフルートがフィーチュアされる。
クラシック、ジャズが微妙にとけあったアンサンブルが絶品。
メロディアス過ぎるフルートの多重録音ハーモニーによる哀愁あるテーマに酔いしれる。
4 曲目は、泡立つ印象派風のピアノとヴォーカルのテーマにほのかなエキゾチズムが薫る「Moving Waves」(2:42)。
ピアノとアコースティック・ギター、ヴォーカルのみの演奏は、古代の記憶を呼び覚ます。
5 曲目「Focus II」(4:03)は、バロック音楽とジャジーなポップスがブレンドされた代表作の一つ。
「青い影」を思わせる哀愁ある、メローなテーマがすばらしい。
音楽の「フュージョン」の傑作であり、ナチュラル・トーンのギターの表現力に驚かされる作品だ。
CAMEL はおそらくこの音を聴いていたのでは。
変拍子のブリッジとメロディアスなテーマのコントラストなど、芸術的な多様性が P.F.M に通じると思う。
アルバム後半の「Eruption」(23:04)は、泣きのギターとオルガンが冴えわたる 20 分超のオムニバス幻想大作。
明快なメロディを巧みな緩急の変化で綴ってゆき、緊密なアンサンブルとワイルドなジャムを見せつける。
センスとしては、EL&P、特にキース・エマーソンに近いものを感じる。
中盤、あまりに印象的な「Tommy」のテーマは、SOLUTION のトム・バルラーヘによるもの。
次作の「Anonymus Two」よりも、明快な娯楽性(ハードロックらしいカッコよさということです)という点では、優れているだろう。
ドラムスは、後に TRACE へ参加するピエール・ファン・ダー・リンデンが担当。
プロデュースはマイク・ヴァーノン。
(X2-13060)
Thijis Van Leer | keyboards, flute, vocals |
Jan Akkerman | guitars |
Bert Ruiter | bass |
Pierre Van Der Linden | drums |
72 年発表の第三作「Focus 3」。
アナログ二枚組。
CD 化に際して、LP 二枚目の A/B 面にまたがっていた「Anonymus Two」が一つにまとまったのがうれしい。また、初期の CD では、LP 二枚目 B 面のオリジナル・オランダ盤第一作にのみ収録されていた「In The House Of King」が、割愛されている。
(この初期のオランダ盤 CD はノイズがあるため、今なら紙ジャケット仕様の国内盤がいいと思います)
クラシカルにしてジャジーなインストゥルメンタル・ロックの最高峰たる傑作アルバム。
全体に自由なセッション風の作りながらも、レイドバックした感じと鋭敏な音楽的感性がちょうどよくバランスしたのか、心地よいテンションと優美な癒しのトーンを備えた、一貫性ある聴き心地を与える内容になっている。
オルガンとギターのソロ、インタープレイを中心とした奔放な演奏は、常に優雅なメロディ・ラインをアンカーとしてまとまりを見せている。
アルバムは「悪魔の呪文」とやや似た作風の「Round Goes The Gossip」(5:12)で幕を開ける。二匹目のドジョウではなく、あくまでこのグループのもつヴァーサタイルな面をさらりと示したと見るべきだろう。
「Love Remembered」(2:50)は、すすり泣くフルートと星のささやきのようなシンセサイザーによるメランコリックな小品。
クラシカルにしてジャジー、そしてあくまでエレガントであり、英国の CAMEL を思わせる内容だ。
3 曲目は、キュートでポップ、スマッシュ・ヒットとなった「Sylvia」(3:31)。ひょっとしてベートーベンか?と思わせる愛らしきテーマ、エレキギターの極上ナチュラル・トーン、タイトで小気味のいいリズムなどの魅力でいっぱいの代表曲の一つである。
4 曲目は、「Carnival Fugue」(6:09)。アコースティック・ピアノ、アコースティック・ギター、ベースによる正統的な遁走曲は、次第にグルーヴを強め、ついにはカリプソ風のラテン・ロックへ。あり得ないほど大胆なのに許せてしまうのは、無邪気な天才のなせる業ならでは。グルーヴィな演奏の中に再びクラシカルなフレーズをよみがえらせるあたりもニクい。
5 曲目は、ヴァイオリン奏法を用いたメランコリックなテーマが胸をうつ「Focus III」(6:05)。
前作の「Focus II」を継承するエレガントにしてドラマティックな傑作。
この後にポピュラー音楽界の一大潮流となる「ラテン・フュージョン」とは異なり、ロマンティックにして気品のある感性が息づく、真の意味での極上「フュージョン」サウンドといえるだろう。
「Answers? Questions! Questions? Answers!」(13:48)は、ギターとオルガン、フルートがジャジーにおだやかに交歓を繰り広げる大作。
静けさの中に躍動感がある傑作だ。
超大作「Anonymus Two」(26:24)では、トーキング・フルート、オルガン、ベース、ギター、ドラムスとあらゆる楽器がソロを取りあい、最終的にスリリングなジャム・セッションへと進んでゆく。
「Elspeth Of Nottingham」(3:10)は、アッカーマンの奏でるリュートとレールのフルート(リコーダーかもしれない)による典雅なルネッサンス音楽。
ベーシストはベルト・ロイテルに交代。プロデュースはマイク・ヴァーノン。
(CDM 7 48861 2)
Thijis Van Leer | keyboards, flute, vocals |
Jan Akkerman | guitars |
Bert Ruiter | bass |
Pierre Van Der Linden | drums |
73 年発表の四作目はライヴ・アルバム「Focus At The Rainbow」。
十年ぶりくらいに聴いたが、やはりヤン・アッカーマンのギターに絶句。
これだけ弾けるとジャズ・フュージョン系へと向かいそうだが、クラシックの素養もあってかテク見せ一歩手前で踏みとどまっており、しっかり音量勝負も忘れていない。
このバカテク・ハードロック・ギターのスタイルは空前絶後、この人がダントツである。
さしたるエフェクトなしで、これだけ太く力強いトーンで泣きのフレーズを堂々と勝負するとはやはり只者ではないのだ。
一方、オルガンを弾いているときにフルートが吹けないレールのパフォーマンスは、かつて思ったほどはぶっ飛んでおらず、堅実さが印象的。
何にせよ、本作はライヴ・アルバムとしてロック名盤に必ず入るであろう傑作である。
ベスト・アルバムとしても重宝します。
プロデュースはマイク・ヴァーノン。
「Focus III」のイントロは鳥肌もののオルガンとギターのアンサンブル。
このハモンド・オルガンとギターの音は、70 年代のプログレッシヴ・ロックの中でもトップクラスのいい音だと思う。
シンフォニック・ロックの小品として永遠に残るナンバーだ。
「Answers? Questions? Questions? Answers?」は、アグレッシヴなギター・ハードロックの典型の一つ。
うねるような動きを見せるかと思えば、ビジーなフレーズをたたみかける。
自家薬篭中とはこのことだ。
エモーショナルな泣きのギターとクールなオルガンのからみに、しびれっぱなしだ。
フルート・ソロも、何か起こるのではというスリルを孕んで進む。
静々と流れるアンサンブルに、ギターだけが突出して速弾きを繰り広げる。
「楽曲」、「演奏」という次元を超えた、自由闊達なパフォーマンスのために用意された道場のようなイメージである。
「Focus II」リリカルなオルガンが静かに和音を響かせつつ、次第に柔らかなメロディへと移ってゆく。
柔らかなタッチのギターもメロディを追い、リズムとともにラウドに盛り上がると、一気に演奏はタイトに変化してゆく。
ギターは、オクターヴ奏法で、メロウなテーマを繰り返す。
ドラムスが舞台を用意し、オルガン、ギターがユニゾンやハーモニーでスリリングなパフォーマンスを見せる。
再び沈み込み、ギターがメランコリックに歌う。
陰と陽が入れかわりつつ進むものの、基本的には、メロディアスでソフトなアンサンブルである。
ただし、もう少しドラマティックな展開がほしかった。
MC に続いて「Eruption」も、オルガンとギターによるクラシカルなデュオで幕を開ける。
小さなかけあいから一気にオルガンが走り、ギターとのせわしないユニゾンを決める。
ジャズロック的なスリルあふれる演奏だ。
攻めたてるオルガンとたたみかけるユニゾン。
一旦引いて、ヴァイオリン奏法による静かな演奏から、再び烈しいオルガンを経て、ジャジーでメロディアスなギター・ソロへと進む。
オルガンは柔らかく豊かである。
そして始まるギター・ソロ。
SANTANA 系の情感溢れるメロディ。
バッキングするオルガンもカッコいい。
静かなスキャット。
スリリングなアンサンブルとアッカーマンのギターが存分に味わえる作品。
ソリッドな音色のメロディと速弾き、引きのヴァイオリン奏法など、典型的な 70 年代ロックギター・プレイであり、その頂点の一つである。
多くのギタリストに影響を与えていると思う。
レールのことを忘れそうになったが、彼のオルガンも押し/引きをうまく使っている。
静かなパートにおけるメローな味わいは、彼のプレイによるところが大きいだろう。
なんだかんだいって期待は「Hocus Pocus」である。
懐かしの爆風スランプの「無理だ!」は、この曲に捧げられている(のかもしれない)。
圧巻のヨーデルとトーキング・フルート。
いわゆる「変さ」を超越した新たな世界が見えてくる。
この超越のための起爆剤は、間違いなく狂暴なアッカーマンのギターである。
オープニングのリフへ入るところのギター・カッティングは文句なくカッコいい。
そして一旦走り出したら、何があろうと止まらない。
アドレナリンが枯渇しても止まらない。
メンバー紹介もカッコいい。
当然だが「悪魔の呪文」というのはこのリフのこと。
キワモノ扱いされるが、ロックなんて元来キワモノなんだからいいじゃん、キワモノの究極で。
「Sylvia」は、オルガンとギターの和音によるイントロから美しく親しみやすいテーマが飛び出してくる。
可憐な小品だ。
この愛らしきテーマは、数あるロックの作品中でも屈指、ひょっとするとジャズやクラシックを含めても、これだけキュートで爽やかなメロディはなかなかないかもしれない。
「エリーゼのために」にロックンロール・アレンジがあるように、何かクラシックの作品のアレンジなのではと思わせるくらい、格調もある愛すべき小品。
ちょっとコケるがご愛嬌。
プログレには、あまりに複雑なために一度耳にしたくらいでは到底理解できないというイメージもあるが、本作はプログレ王道にして明快かつ美しいメロディとグルーヴィなノリもあるという、かなり斬新な内容である。
本作のオルガンとギターのアンサンブルは、クラシックとロックンロールの奇跡的な結合というべきものであり、両者のカッコよさがしっかりとアピールされている。
そして、スタジオ盤の精緻で気品ある演奏に、ライヴならではのエネルギッシュな魅力が加わっている。
この選曲内容であればベスト盤としても十分機能するだろう。
考えてみれば、EL&P のようなキーボード・トリオにスーパー・ギタリストが加わったスーパーな編成であるだけに、「Hocus Pocus」にとどまらないもっと凄いインパクトの名曲/名演が、あってもいいはずである。
リズム・セクションの弱さ、またメンバーが安定しなかったことをはとても残念だ。
さて、この親しみやすいメロディを生むという特徴は、同国の SOLUTION や SUPER SISTER というグループにも共通している。
ダッチ・ロックの優れた伝統なのかもしれない。
(CP28-1049)
Thijis Van Leer | organ, piano, harpsichord, electric piano, flute, alto fulte, ARP synth, recorder, mellotron |
vibes, accordion, church organ, handclaps, voices, whistling | |
Jan Akkerman | lute, timpani, handclaps, all guitars |
Bert Ruiter | bass, auto harp, triangles, chinese finger cymbals, handclaps, swiss bells |
Colin Allen | drums, conga, tambourine, castanets, cabasa, woodblock, chinese gong, timpani, handclaps, flexatone, cuica |
74 年発表の第五作「Hamburger Concerto」。
典雅なフルートとリュートの調べで幕を開ける本作は、多彩な曲想をクラシカルな音をメインにまとめあげた佳作。
音の種類や曲調の変化には富むものの、前作ほどは、息を呑むほどロマンティックなメロディも思わずゾッとするほど切れ味のいいギター・プレイも見られない。
そして、クラシカルだが張り詰めたような緊張感よりもリラックスした雰囲気がある。
おそらく、前作までで衒奇な表現を極めた後、ここではキーボード主体のクラシカルなオーソドキシーとロックのやんちゃさを改めてぶつけて初心に帰ったのではないだろうか。
したがって、ギターの役割は擬クラシック・アンサンブルの一員というよりは起爆剤であり、びっくり箱的な存在になっていて、それがこのレイドバック感につながっていると思う。
TRACE に近い音楽性といってもいいが、二流っぽく、野暮ったくならないのは、クラシカルな枠組みにシャンソンやジャズなど小粋なポップ・テイストを散りばめる手際が冴えているためだ。
さて、新しいドラマーは、前任者に比べるとけれん味はないもののスクエアな安定感があり、クラシカルな演奏とは相性がいいようだ。
もっともリンデンの強引で個性的なドラムスが、FOCUS のハイテンションのサウンドには似合っていたような気もする。
聴きものは、やはり B 面を占める表題大作。
英国バロック調をテーマに、エキゾチズムも漂わせて、ゆったりと綴られる奇想曲である。
ヴォーカル・パフォーマンスは、ヨーデルばかりか、リチャード・シンクレアやクラウス・ベラスキスもあり。
終盤のムーグ・シンセサイザー、メロトロンの高まりこそは、まさしくプログレッシヴ・ロックの醍醐味ではないだろうか。
また 快調な 2 曲目は、コロ助ロックの元ネタかもしれない。アッカーマンの弾き飛ばすようなアドリヴが印象的だ。
クラシカル・ロックの名品ではあるが、全体に研ぎ澄まされたような緊張感や構築美は感じられず、おだやかでストレートな印象を与える作品である。ひょっとすると、レールとアッカーマンの力関係にも因るのだろうか。
この頃来日も果たしている。
プロデュースはマイク・ヴァーノン。
「Deliteae Musicae」(1:11)ルネサンス期の歌曲を思わせるインストゥルメンタル。リュート、フルートのデュオ。アッカーマンのオリジナル。
「Harem Scarem」(5:50)ジャジーなロックンロール・インストゥルメンタル。毎回「Hocus Pocus」路線を求められるのも辛いだろう。展開部のクラシカルな演奏が美しい。シングル・カット。
「La Cathedrale De Strasbourg」(4:58)劇的なピアノの響きが耳に残るバラード。厳かで幻想的。口笛がなんとも 70 年代風。
クラシックとジャズを巧みに行き交う。
「Birth」(7:44)メランコリックなテーマとかっちりとしたビートのアンサンブルによるシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
泣きのギターに加えてチェンバロ、フルートも活躍。
一番 FOCUS らしい作風だ。
「Hamburger Concert」(20:17)ヘンデルを思わせる雅な組曲。六章構成。各章のタイトルはハンバーガーに関するワード。
イタリアン・クラシカル・ロックの雄 P.F.M と共通する THE BEATLES (ジョージ・マーティン?)風味あり。
ちなみに FOCUS と P.F.M の違いは、壮絶なまでのリズム・チェンジがないところと、前者が英独バロック趣味であり、後者が(当然ながら)伊仏バロック趣味なところ。
「Early Birth」(2:55)ボーナス・トラック。シングル B 面。
ボーナス・トラックには珍しく、あたかもコンチェルトのカーテンコールのような位置にあり、きわめて自然に受け取ることができる。
(MP 2385)
Thijis Van Leer | organ, piano, electric piano, harpsichord, mellotron, flute, piccolo |
Jan Akkerman | guitars |
Martijn Dresden | bass |
Hans Cleuver | drums, percussion |
Bert Ruiter | bass |
Colin Allen | drums |
Pierre Van Der Linden | drums |
David Kemper | drums |
76 年発表の第七作「Ship Of Memories」。
ヤン・アッカーマン脱退後の作品であり、ツアーに明け暮れた果ての 73 年チッピング・ノートンでのアルバム・セッションを中心とした未発表曲集である。
不思議なことに寄せ集め特有のアンバランスな感じがなく、アルバムとしてなかなかまとまっている。
それぞれの楽曲の出来もいい。
やけっぱち気味のストラトキャスターの音もいい。
録音含め製作があまりよくないことだけが玉に瑕。
スキャット以外はすべてインストゥルメンタル。
プロデュースはヒューベルト・テルヘゲンとマイク・ヴァーノン。
「P's March」(4:47)フルート各種を使った「らしい」クラシカル・ロック。メローなギターに胸を打たれる。
「Can't Believe My Eyes」(5:21)ブルージーで奔放なギターと好対照を成すミステリアスなメロトロンが印象的。ややセッション風の作品。
「Focus V」(3:01)ほんのりジャジーなギターに酔うロマンティックな小品。
「Out Of Vesuvius」(5:49)ジャズロック・インプロヴィゼーション。
「Glider」(4:39)ピアノ、ギターをフィーチュアしたアコースティックなサウンドによるジャズロック。攻撃性とメローなセンスがいい感じでブレンドしている。ヨーデルを懐古する。
ブリュッセル、モーガン・スタジオでの録音。
「Red Sky At Night」(5:50)シンセサイザーとギターをフィーチュアした都会的な叙情性のある作品。70 年代らしい音だ。
ブリュッセル、モーガン・スタジオでの録音。
「Spoke The Lord Creator」(2:32)70 年録音。最初期メンバーによるカントリー調の薬味の効いたクラシカル・ロック。ギターもオルガンもまさに 70 年代初頭の音。
「Crackers」(2:42)シンセサイザーをフィーチュアした R&B 風味の強いシティ・ポップス。メロトロン、アコースティック・ギターのバッキングが意外。
「Ship Of Memories」(1:47)ピエール・ヴァン・ダー・リンデンの作品。
「Hocus Pocus」(3:24)CD ボーナス・トラック。U.S.シングル・ヴァージョン。
(050.25610 / VICP-70055)
Thijis Van Leer | keyboards, flute, vocals |
Bert Ruiter | bass |
Philip Catherine | electric & acoustic guitars |
Eef Albers | guitars |
Steve Smith | drums |
P.J.Proby | vocals |
77 年発表のラスト・アルバム「Focus Con Proby」。
ヤン・アッカーマン脱退後、新たなメンバーで録音されたグループ最後の作品。
ジャズ・ギタリストのフィリップ・カテリンとイーフ・アルバース、JOURNEY 加入直前のスティーヴ・スミスを迎え、さらに初めて専任のヴォーカリスト、アメリカ人のベテラン・シンガーの P.J.プロビーを加えて心機一転を図った。
内容は、ギター・オリエンテッドなジャズロックから R&B テイストのポップ・バラード、ユーモラスなひねりのある歌もの(「Tokyo Rose」は「Hocus Pocus」や「Round Goes The Gossip」と同列になる作品だと思う)、得意のクラシカルなナンバーまで、バラエティに富む。
その中で最も目(耳か)を惹くのは、やはりギターが主役を張るロマンティックかつスリリングなジャズロックだろう。
フュージョン・タッチの歌ものアルバムといってしまうとそれまでだが、今までの作風もこの洒落たサウンドの中に息づいている。
ブラームスの弦楽六重奏のロマンティックなテーマを用いた作品では、クラシックとジャズ、ロックが巧みにブレンドされ、全盛期を思わせる仕上がりを見せている。
名手によるギターはもちろん技巧的にしてメロディもよく歌わせているのだが(ややジャズ寄り)、そればかりか、ギターとピアノ、シンセサイザーのコンビネーションも全盛期と同じである。
そして、郷愁を誘うあのメロディ・ラインも健在だ。
大幅なメンバー交代を経たことを考えれば、この出来映えはかなりのものでしょう。
B 面のインスト大作「Maximum」がもう少し弾けていれば名盤の評価があったかもしれない。
プロデュースはイ・デ・ヨング。
「Wingless」(5:35)ギタリストがものすごく弾けることをアピールしているような R&B 調の歌もの。ギターはアルバース。レール作。
「Orion」(4:08)前曲よりも抑えたらアッカーマン路線も巧みにこなせることが分かるメロー・フュージョン。名曲。アルバース作。
ギターはアルバース。
「Night Flight」(3:40)疾走感あるジャズロック。ギターはアルバース。アルバース作。
「Eddy」(5:54)ギターはアルバース。レール作。
「Sneezing Bull」(4:27)ギターはカテリン。カテリン作。
「Brother」(5:19)レール作。
「Tokyo Rose」(5:08)ギターはアルバース。ロザリン・レール作。
「Maximum」(8:40)ギターはカテリン。レール/ロイター作。
「How Long」(5:16)ギターはカテリン。レール作。
(5C 064-25713 / CDM 7 48339 2)
Thijis Van Leer | organ, piano, electric piano, harpsichord, vibraphone |
Jan Akkerman | guitars |
Martijn Dresden | bass, vocals |
Hans Cleuver | drums, percussion, vocals |
70 年発表の第一作「In And Out Of Focus」。
本国では最初は「Focus Plays Focus」の題名で発表された。
ここのジャケットは英国盤。
内容は、サイケデリックなニューロック色を強く残したクラシカル・ロック。
同時代の英国ロックに通じる作風だが、豊かなオルガンの響きに代表される鍵盤/フルート奏者の卓越した音楽センスと、ジャズを超えてフュージョンの出現を予言しているような繊細かつ多彩なギター・プレイで頭ひとつ抜きん出ている感じである。
アッカーマンの流麗なポルタメントやオクターヴ奏法、ヴォリューム奏法はすでにお手本の域。
素朴な田園風味からヨーロッパらしい小洒落た調子まで、歌のメロディもいい。
ただし歌唱が弱いのが難点。
そして、フルートやチェンバロによるバロック風のアレンジ、一転してラウンジ風のジャズ・タッチ、むせび泣くギターなど、後に確立する FOCUS のイメージのファクターはあちこちにあるが、まだそれらが一つのまとまりを成していない。
プロデュースはヒューベルト・テルヘゲン。ロンドン録音。
「Focus...(Vocal)」(2:43)
「Black Beauty」(3:09)トランペットあり。すてきな小品。
「Sugar Island」(3:05)ブリット・ポップ調の作品。
「Anonymous」(6:43)後の作品に続く名作の第一弾。トーキング・フルートをフィーチュア。ジャズロックといっていい。
「House Of The King」(2:51)フルートをフィーチュアしたバロック・アンサンブル。
「Happy Nightmare (Mescaline)」(3:59)ジャズ・ギターが冴える。チェロの音も。
「Why Dream」(3:54)
「Focus (Instrumental)」(9:39)後の作品に続く名作の第一弾。切々と歌うギターと緩やかなオルガンの響きによる王朝浪漫とパワフルなジャム。
(Polydor 2344 003 / RB 66.187)
Thijis Van Leer | Hammond organ, electric piano, flute, vocals |
Jan Akkerman | guitars |
Bert Ruiter | bass |
Pierre Van Der Linden | drums |
2013 年発表の作品「FOCUS In Concert 1973」。
トラック 1-7 はロンドン、パリスシアターでの 73 年 1 月のライヴ録音、トラック 8-10 は 72 年 12 月のロンドン、TV スタジオ録音。
音質はほぼ問題なし、というかバンドの凄まじい演奏力を眼前に突きつけられる思いである。
ギターはやっつけ気味にもなるが、創造性のオーヴァーフローである。
本 CD はスリーヴにほとんど情報がないことから考えておそらくブートレッグ。
「Anonymous II」(24:06)セッティングを試すうちにガチの演奏に突っ込んでしまう痛快ジャム。手癖即興ソロがたっぷり。一応テーマに戻ってくる。
「Focus I」(4:00)ギターが酔わせるロマンティックな名曲。
「Focus III」(3:21)熱い思いを秘めたまま星空へと旅立つような、ロマンあふれる名曲。
「Answers? Questions! Questions? Answers!」(12:04)アグレッシヴにたたみかけるハードなジャズロックともクラシカルなプログレともいえる名品。
ナチュラル・トーンのギターがすばらしい。フルート・ソロも長い。
「Focus II」(5:00)メローなのにまったく安っぽくなく、心の底から暖まる超名曲。自然すぎるオムニバス形式。風に吹かれて気分が移ろうような、笑顔なのにどこか寂しげな風情がたまりません。
「Hocus Pocus」(7:46)
「Sylvia (Live Outtake) 」(3:40)ギターが少々けたたましいが、そのアグレッシヴな調子がないとただの甘ったるい曲になってしまいそう。
いつまでも愛すべきクラシカル・ロック小品、またはロック版パッヘルベルのカノン(音楽がというより立ち位置が)。惜しむらくはなかなかライヴの決定版がないこと。
「Eruption」(10:26)
「Hocus Pocus」(3:05)
「Sylvia / Hocus Pocus - Reprise」(6:13)
(AIR 5)
うれしナツかし「Focus」だ。 「Sylvia」は、恥ずかしながら僕も練習しました。 今回日本盤のライナーノーツ読んでいて、気づいたことがある。 僕は、Thijis Van Leer のファースト・ネームを「タイス」だと思っていたが、ライナーノーツには「ティッジス」と書いてある。 記憶が正しければ昔のライナーには「タイス・ヴァン・レアー」とあったぞと思いつつ、ライナーを最後まで読んで見ると、ちゃんと注意書きがある。 以前はそう呼んでいたが、今回より原語の発音に忠実な表記の「ティッジス・ファン・レール」にしたそうだ。 これではほぼ別人である。 ともあれ、ハードロックなのかプログレなのかよく分からないまま「Hocus Pocus」でぶっ飛ばされていた頃が、とても懐かしい。