オランダのプログレッシヴ・ロック・グループ「SUPERSISTER」。 68 年結成。74 年解散。作品は 70 年代に 六枚、再結成後に 二枚。EGG、SOFT MACHINE や CARAVAN に迫るカンタベリー風ジャズロック。ギターレスでキーボードと管楽器をフィーチュアし、ポップなメロディとファズ・サウンド、変拍子が交差する入り組んだアンサンブルが特徴。 73 年には本家のエルトン・ディーンもツアーに参加。2000 年復活。ライヴや新譜発表を行う。
Robert Jan Stips | keyboards, lead vocals, vibes |
Ron Van Eck | bass, fuzz bass |
Marco Vrolijk | drums, percussion, vocals |
Sacha Van Geest | flute, vocals |
70 年発表のアルバム「Present From Nancy」。
内容は、エレガントなメロディのテーマと強圧的な変拍子リフのコンビネーションが独特なジャズロック。
サイケデリックな感覚を生かしたまま、バロック音楽、現代音楽とジャズ、ポップスの際どいところを、ユーモアも見せながら余裕しゃくしゃくで楽しむ、すなわちカンタベリー直系の作風である。
実際、SOFT MACHINE をさらに「ソフト」に、まろやかにしたようなイメージもある。
演奏は、ギターレスでピアノ、オルガン、フルートをフィーチュア。
ミニマルでかっちりした変拍子アンサンブルからサイケデリックなフリー空間まで、本家 EGG、SOFT MACHINE 顔負けの充実したパフォーマンスを繰り広げる。
ただし、本作では、組曲形式ではあるものの融通無碍な流れをもつ大作はなく、地味ながら情報量の多い小品集という感じになっている。
オルガンは、マイク・ラトリッジが EGG 風の演奏をしているといえば、一番ぴったりくるだろう。
リード・ヴォーカルもどことなくリチャード・シンクレアを思わせる、抑制の効いたノーブル・タイプ。
出番はさほど多くないが、存在感はある。
そしてファズ・ベースも、もちろんあり。
カンタベリー本家と若干異なるのは、テーマとなるメロディ・ラインにストレートなイージー・リスニング/ラウンジ風味のあるところ(THE CARPENTERS いや バート・バカラックか、ウィリアムズ&ニコルズか)、そして、そのためか、現代音楽調になっても抽象的な固さが感じられないこと、サックス不在によるフリージャズ的な野性味の少なさ、などだろう。
アコースティック・ピアノによるエレガントなプレイと、意外なほどエネルギッシュなフルートも特徴的だ。
全体に、パズルのように緻密で幾何学的であり、その中から、ほのかなユーモアとロマンチシズムが浮かび上がってくる、そんな演奏だ。
親しみやすさばかりでなく、5 曲目のような高級な神秘性もあり、単なるカンタベリー・フリークとは一線画すこのグループの卓越したセンスを物語っている。
フランク・ザッパの影響も、もちろん少なくないだろう。
RASCAL REPORTERS など北米のカンタベリー影響下のグループと共通するタッチもあり。
プロデュースはハンス・ファン・ウースタハウト。
「Present From Nancy」
「Introductions」(2:56)
「Present From Nancy」(5:13)4/7 拍子のリフで圧迫する SOFT MACHINE 的なインストゥルメンタル作品。
「Memories Are New (Boomchick)」
「Memories Are New」(3:46)変拍子ポップス。
「11/8」(3:15)タイトル通りの変拍子インストゥルメンタル。オルガンのざらついた音がいい。
「Dreaming Wheelwhile」(2:52)深いエコーにたゆとうフルート。インストゥルメンタル。
「Corporation Combo Boys」(1:21)ザッパのパロディか?
「Metamorphosis」
「Mexico」(4:203)ファズ・オルガン、エレクトリック・ピアノ、シンセサイザーらがリードするアンサンブル。変拍子ジャズロックからクラシックまで自由自在。ヴォーカルとの相性もよく、全体としてチャイルディッシュなイメージ。
「Metamorphosis」(3:26)ギターのごときファズ・ベースとスネア・ドラムスによる倍速行進曲。後半のオルガンは EGG そのもの。
「Eight Miles High」(0:22)
「Dona Nobis Pacem」(8:34)厳かにしてファンタジックなオルガンに導かれる奔放なオルガン奇想曲。インストゥルメンタル。
タイトルは「われらに平和を与えたまえ」の意のラテン語表記であり、ミサ曲のタイトルでもある。
以下 CD ボーナス曲。サイケデリックな 60 年代ブリティッシュ・ロックの影響大な作風。
「She Was Naked」(3:45)シングル A 面。ポップなメイン・パートに比して、それに続くインスト・パートがアグレッシヴ過ぎる。大胆なシングル曲である。
「Spiral Staircase」(3:06)シングル B 面。モノローグ。
「Fancy Nancy」(1:48)シングル A 面。プレスリーのパロディのようなロカビリー・チューン。
「Ganna Take Easy」(2:42)シングル B 面。トイ・ピアノ伴奏によるユーモラスな歌もの。パロディ感覚含め 10CC っぽい。どうやらあまりシングルを売る気はないようだ。
(Polydor 2441 016 / 843231 / ECLEC 2056)
Robert Jan Stips | keyboards, vibes, vocals |
Ron Van Eck | bass, guitar |
Marco Vrolijk | drums, percussion, vocals |
Sacha Van Geest | flute, vocals |
71 年発表のアルバム「To The Highest Bidder」。
内容は、キーボードとフルートをフィーチュアした変拍子ジャズロック。
要するに、「カンタベリー」そのものである。
ただし、本家と共通する乾いたユーモア(よりナンセンスなイメージあり)とともに、一種神秘的なリリシズムと現代音楽のように無機的で厳格な姿勢もある、かなり個性的な作風である。
テーマとなる旋律やヴォーカル表現はきわめてポップで、ダッチ・ロックらしいエレガンスとセンチメンタリズムがあるが、アレンジでそれをこわいくらいに大胆に歪めていく。
かといって、挑戦的に立ち向かってくる感じでは決してなく、さらりとかわして、あらぬ方角へと走り去ってしまう。
まさに、木で鼻をくくるような音楽という表現がふさわしい。
耳元をすっと通り過ぎるくせに、きわめて奇妙な余韻を残す音である。
プロデュースはハンス・ファン・ウースタハウト。
「A Girl Named You」(10:07)エレクトリック・ピアノ、ヴァイブ、フルート、ドラムス、ベースによるスピーディかつ強圧的な変拍子チェンバー・アンサンブル。
サウンドはエレクトリックでリズムもきわめて性急だが、ピアノやフルートのテーマ、アンサンブルは、驚くほどにクラシカルだ。
3 分半辺りから、ベースがランニングに切り換わり、モダン・ジャズ調の演奏に変わる。
目まぐるしく変化しつつも加熱せずクールな姿勢を保つところが特徴的である。
「No Tree Will Grow (on to high a mountain)」(7:38)
英国ロック調(PROCOL HARUM を思い出す)の切ない歌と重厚かつスリリングな音響効果(お経)が平行に距離をおいたまま進む奇妙な作品。終盤ヴァイブも聴こえる。最後は大笑い。
「Energy (out of future) 」(15:01)エレクトリック・ピアノ、オルガン、フルートらによるクラシカルなテーマを 3 拍子系のリズミカルな演奏で支え、軽快に果断に転調とリズム・チェンジを繰り広げる。
軽めのロックンロールといってもいい内容だが、エフェクトされた奇妙な音でいっぱいであり、サイケデリックな世界に放り出されてしまう。
ドラム・ソロ、ファズ・オルガン・ソロあり。
「Higher」(2:46)チェレスタのようなエレクトリック・ピアノが伴奏し、メロディアスなフルートが素敵なポップ・チューン。
やさしげでクール。
シカゴ系のポスト・ロック(THE SEE AND CAKE とか?)作品といっても通りそう。
(Polydor 2925002 / ECLEC 2057)
Robert Jan Stips | keyboards, vocals, vibraphone, mouthorgan on 3 |
Ron Van Eck | bass, guitar on 4, mouthorgan on 1 |
Marco Vrolijk | drums, congas, percussion, vocals on 1 |
Sacha Van Geest | flute, tenor sax, vocals on 1 |
72 年発表のアルバム「Pudding En Gisteren」。
内容は、管楽器とキーボード中心のメロディアスで暖かみのある歌ものジャズロック。
明らかなカンタベリー影響下(歌のある SOFT MACHINE、いや CARAVAN というべきか)であり、ヴォーカルはあまやかでノーブル、インストゥルメンタルはシンプルなフレーズを組み合わせ、重ね合わせ、反復して、ゆったりとしつつも緊密なアンサンブルを構成し、長尺のインストゥルメンタル・パートを乗り切ってゆく。
軽妙でロマンティック、時にそれと相反する強圧的でアブストラクトなタッチが特徴である。
大仰な表現や執拗さといったユーモア・センスは、カンタベリーというよりはその影響元でもあるフランク・ザッパ直系のものである。
ファズ・ベース、フルートなどカンタベリー必須の道具立ても準備され、特に、オルガンは EGG に酷似。
全体として、力みのない、洒脱でこなれた感じが特徴だ。
B 面の大作は前衛バレエの劇伴音楽。音楽による陰影のある巧みな情景、心理描写だが、ヴォーカルがあればもっとよかった。(もちろん実際は舞踊がその役割を果たした)
プロデュースはハンス・ファン・ウースタハウト。
「Radio」(4:01)シングル曲。
「Supersisterretsisrepus」(0:18)
「Psychopath」(3:59)タイトルとは裏腹な(こういうブラック・ユーモアもカンタベリーっぽい)、ピアノ、チェンバロ、ストリングス伴奏のクラシカルで愛らしい歌もの。
「Judy Goes On Holiday」(12:39)ファズ・ベースのリフが導くアグレッシヴなカンタベリー・ジャズロック。
珍しくギターが多用される。LP では 9 分あまりの内容だったが、ESOTERIC の CD ではより長いエディションが収録されている。エンディングのドゥワップはフランク・ザッパ直系。傑作。
「Pudding En Gisteren - Music For Ballet」(21:01)
以下ボーナス・トラック。
「Dead Dog」(2:43)シングル曲。「Radio」の B 面。
「Wow (Live Version)」(12:59)シングル曲のライヴ・ヴァージョン。本ヴァージョンは 72 年のベスト・アルバム「Superstarshine Vol.3」に収録されていた。野卑なるオルガン・ロックであり、ザッパ風の諧謔、滑稽味に富む作品。
(Polydor 2925 007 / ECLEC 2059)
Robert Jan Stips | keyboards, vibe, vocals |
Ron Van Eck | bass |
Herman van Boeyen | drums, percussion |
Charlie Mariano | sax, flute |
guest: | |
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Pierre Moerlen | marimba, percussion on 6 |
Gerard Lemaltre | voice on 6 |
Sacha van Geest | flute on 9 |
73 年発表のアルバム「Iskander」。
アレキサンダー大王を主題としたコンセプト作であり、ジャズロックというスタイルによる近代クラシック風の叙景作品となっている。
ドラマーと管楽器奏者がメンバー交代(脱退した二人は、よりフリージャズ寄りの即興演奏を望んだらしい)し、新たな管楽器奏者にはユーロ・ジャズ界の気鋭チャーリー・マリアーノという驚きの人選。
このメンバー・チェンジに伴い、サウンドは一気にジャズ色とロック色をともに強める。
変拍子好きはそのままに、プレイヤーの力量を活かしたテクニカルなプレイによるソロやアンサンブルを強調した作風になっている。
もっとも、たしかにジャズロックな音が要素として存在するが、主題をイメージさせるための描写的な表現も多く、演奏は多様である。
抑揚も音色もフレーズも的確かつ豊かであり、技巧も申し分ない。
特に、どういった音で何を描くかの判断に並々ならぬセンスを感じる。
元気いっぱいな表現から黄昏た表現まで、幅広く自由闊達に駆け巡っている。
そして、出番を抑えたヴォーカルが逆にピリッとしたアクセントになっている。
ただし、この辺は難しいところだが、インストゥルメンタルのみではなく適宜ヴォーカルを交えたほうが、よりトータル作としては分かりやすくなったと思う。
本作の描画力が弱いというわけではなく、一般にフュージョン系の音はトータルなストーリーをダイレクトに語るのに向いていないからだ。
5 曲目は、明るく軽快な SOFT MACHINE か 音数のやや少なめなフランク・ザッパである。
8 曲目も、フリーキーなソロを重ねたアヴァンギャルドな演奏ながらも、初期と同じく EGG を思わせる小気味のよさが失われていない。
マリアーノは、フリー・ジャザーとして当然な存在感に加えて、カンタベリーな文脈でもジミー・ヘイスティングスに十分匹敵する存在感を放つ。
とはいえ、そのプレイがモダン・ジャズ・スタイルとして突出しすぎるところもあって音楽的なバランスという意味では悩ましい。
ジャズロック系プログレ名盤の一つ。
プロデュースはジョルジオ・ゴメルスキ。
英国録音。
「Introduction」(0:41)マリアーノ得意のバンブー・フルートによるエキゾティックなソロ。
「Dareios The Emperor」(4:50)荒ぶるシンセサイザーとしなやかなサックスと重量感あるピアノで迫るアグレッシヴなジャズロック。
崩壊寸算の勢いが AREA などイタリアン・ロック的。
「Alexander」(7:02)軽妙さとヘヴィな音が交差するきわめて正統カンタベリー的な音。序破急ある卓越した音のタペストリで複雑なる大王の心境、果断なる行動を描いている。プログレの傑作。
「Confrontation Of The Armies」(2:47)ブルージーなフルート・ソロに導かれて軽やかに攻め込む EGG 系カンタベリー・ジャズロック。爽やかな管楽器セクションが印象的。密度の高い傑作。
「The Battle」(7:58)タイトルとおり勇ましいドラムス・ソロで幕を開けるスペイシーなジャズロック。
クラシカルなタッチや PINK FLOYD ばりのサイケデリック・テイストを交えつつ、艶やかでキツキツのジャズロックへと収束する。終盤のオルガン、サックスのせめぎあう白熱した演奏はカンタベリーそのもの。
「Bagaos」(2:53)グラム・ロック、モダーン・ポップ寄りの軽妙かつスタイリッシュな歌もの、というか GONG である。
ピエール・モエルランがマリンバを叩いている。
フルートのテーマが本編といい対比をなす。
「Roxane」(3:21)ピアノ、フルートのクラシカルなデュオ。グリーグあたりに通じるロマンティシズム。
「Babylon」(7:57)しなやかで洒脱にしてテクニカルな変拍子ジャズロック。
エレピ、ベースのイントロだけで痺れる。
THE BEATLES と SOFT MACHINE の合体。
エレピとサックスがバトる後半はほぼ SOFT MACHINE、または NUCLEUS。
「Looking Back」(4:30)フルートが寄り添うおだやかな白昼夢系バラード。エンディングのバンブー・フルートは鎮魂歌だろうか。
以下、ECLEC CD のボーナス・トラック。
「Wow」(3:35)73 年のシングルより。GONG 風のユーモラスで野卑な歌もの。フルートのアコースティックなタッチとキーボードのギトギト感のミスマッチ。
「Drs.D」(2:50)73 年のシングルより。奇妙な味わいの変拍子ジャズロック・インストゥルメンタル。
「Bangaos」(2:44)73 年のシングルより。パーカッションを除き、ベースとキーボードを強調したよりエレクトリックなイメージのアレンジ。
「Memories Are New」(6:07)73 年のシングルより。メローなジャズロック・インストゥルメンタル。
(Polydor 2485134 / ECLEC 2058)
Robert Jan Stips | keyboards, vibe, vocals |
Ron Van Eck | bass |
Jan Hollestelle | bass |
Mien van den Heuvel | mandolin |
Sacha van Geest | flute, vocals |
Hans Alegres | steeldrum |
Inge & Jose van Iersel | backing vocals |
Herman van Boeyen | drums, percussion |
74 年発表のアルバム「Spiral Staircase」。
脱退したサーヒャ・ファン・ヒーストが復帰。
本作は、正確には サーヒャのソロ作を SWEET OKAY SUPERSISTER なるユニットで演じているという位置付けになるらしい。
内容は、変拍子リフ+テーマ+頓狂な効果音による、軟派な初期 SOFT MACHINE というイメージのジャズロックであり、サイケデリックな SE やユーモラスな点など、前作よりはそれ以前の作風に近い。
ウッドベースやスティールドラムス、バグパイプなど特徴的な音も活かされている。
カリプソまであり、そういえばワールド・ミュージック的な面も確かにある。
プロデュースはハンス・ファン・ウースタハウト。
(Polydor 2441048)