オランダのプログレッシヴ・ロック・グループ「TRACE」。 74 年、EKSEPTION を脱退したリック・ファン・デル・リンデンが洗練されたクラシカル・ロックを目指して結成。 作品は三枚。 テクニカルなキーボードをフィーチュアしたバロック/古典音楽調のキーボード・ロック。 荒削りの魅力なら第一作、完成度なら第二作がお薦め。
Rick Van Der Linden | keyboards |
Jaap Van Eik | bass, guitar |
Pierre Van Der Linden | drums |
74 年発表の第一作「Trace」。
内容は、トリオ編成によるオランダ版 THE NICE というべきクラシカルなキーボード・ロック。
キーボードのパフォーマンスは破天荒なスケール感(注、破天荒というのはワイルドさだけではなく曲想の解釈も含めて)ではキース・エマーソンに一歩譲るも大胆なクラシックの吸収と再現では負けていない。
フレーズのコラージュどころかクラシック曲を三分の一くらいそのまんま演ってしまう。
それでいて、接ぎ木のような不自然さがなくごくシームレスに展開するから大した才能だ。
けたたましさも本家に負けない。
ただし、ロックとしての「カッコよさ」とグルーヴという点では今一つかもしれない。
これは主として、リズム表現が一本調子なことと鍵盤演奏に爆発力がないことによる。
真正面にクラシックの技巧をぶつけるばかりが能ではない。
けれんみたっぷりに野暮ったささえも巻き込んでトータルでカッコよく見せるのがホンモノである。
FOCUS と似たアプローチながらそのあたりのセンスが及んでいないと思う。
とはいえ、本作品もクラシックをネタにしたエンタテインメントと開き直れば面白いし、興奮させられるところは多い。
THE NICE のようにいかにもモッズ/サイケ時代のキーボード・ロックらしい荒っぽさを強調した演奏とは異なる、クラシックから卓越した技巧とともに「お行儀の良さ」も拝借している演奏スタイルがユニークだと思う。
全曲インストゥルメンタル。プロデュースはグループ。
1 曲目「Gaillarde」(6:22+2:04+4:36)は、三部構成のバロック音楽ロック作品。
二部にベース・ソロの小曲をはさみ、一部と三部で華麗なるキーボード・ワークが堪能できる。
モチーフは、「ポーランド舞曲」とバッハの「イタリア協奏曲」の第三楽章。
「イタリア協奏曲」は、ヘルムート・ヴァルハも真っ青のオルガン演奏。
快調なシャフル・ビートにのったアドリヴでは明快な音色でロックンロールからジャズまで激しいパッセージを次々叩きつけていて、かなりの迫力あり。
急ブレーキで減速し、金管風のシンセサイザーによるメロディアスにして壮大なスケール感のテーマへと収斂する。
メロトロンも悠然と響いている。
第二部「Gare Le Corbeau」は、ジャジーでアグレッシヴなベース・ソロ。
第三部で再び「Gaillarde」へ回帰。
第一部のエンディングをそのまま引き継いだ哀愁のアンサンブル。
壮大なリタルダンドを経て、ハモンド・オルガンの合図をきっかけに、スリリングかつファンキー、娯楽性の高いオルガン・ロックの幕開けである。
破裂しそうな和音の応酬、ポルタメントも鮮やか。
シャフル・ビートがよく似合う。
第一章の回想である「ポーランド舞曲」のテーマがクラシカルな秩序を整え始め、メロトロン・ストリングスも湧き上がってゆるゆると喜びを表す。
オルガンによる軽快な「イタリア協奏曲」の第三楽章がリプライズ、エンディングはメロトロン・クワイヤとともに感動的に迎える。
管弦楽組曲などのバロック音楽を現代のキーボードで再現し、ロック・ビートを取り入れたクラシカル・オルガン・ロックの力作。
華麗なキーボード・ワークとやたら手数の多いリズム・セクションによる痛快さを窮めた演奏であり、勝因は勢いで押し切ったところである。
シンセサイザーによる金管楽器風の音や、本家エマーソンが使わないこういう文脈でのメロトロン・クワイヤ、メロトロン・ストリングスが新鮮。
2 曲目「The Death Of Ace」(5:15)
ご存知グリーグの組曲「ペール・ギュント」より「オーゼの死」がモチーフ。
序盤は、ピアノによる重々しい和音の響きからロマンティックにして沈痛なのテーマへ展開。
繰り返しからは重苦しいドラムスの打撃が轟き、メロトロン・クワイヤが渦巻く。
テーマはレゾナンスを強調したシンセサイザーへと引き継がれる。
このひょうきんなサウンドをなぜに悲痛なテーマ描写に用いたのか真意は定かでない。
オルガンによるテーマ再演をメロトロン・クワイヤが一貫して彩り、支える。
テーマがピアノに回帰すると、ジャジーな崩しが始まる。
レゾナンスの強いサウンドのシンセサイザーのアドリヴへとつながれていく。
ガラスを響かせるようなピアノのシングルトーンは PINK FLOYD の「Echoes」的である。
途方にくれたようなシンセサイザーのつぶやきはピアノとストリングスに支えられる。
そしてオルガンがリードする重厚なテーマへ。
リズムも復帰した骨太のバンド・アンサンブルだ。
エンディング、シンセサイザーのモノローグが慈しむようにテーマを繰り返す。
原曲の悲痛な曲想をストレートに追いかけた作品。
テンポや音量の変化が巧みであり、ストーリー性がある。
ただし、レゾナンスの効いたシンセサイザーのひょうきんな音色が適役なのかどうかはよく分からない。
ドラムスがやや不安定なようだ。
3 曲目「The Escape Of The Piper」(3:13)
序盤から細かなバロック風パッセージ(曲名不明)を弾き飛ばすソロ・ピアノと忙しないドラム・ロールが合体して突進。
バッキングは、透き通るメロトロン・ストリングスとぐにゃぐにゃなムーグ・シンセサイザー。
朝のニュース番組のジングルの三倍速のようなこの演奏を表現するには「弾き飛ばす」という言い方が一番適切だと思う。
一転、マーチング・スネアとともにバグパイプ風のオルガンが軽快なシャフル・ビートで高鳴って一気にスコットランドへ。
ところがあっという間に息せき切るようなピアノ演奏が再現してクラシカルなアンサンブルに回帰。
とにかく忙しない。
次の展開は SOFT MACHINE か EGG のように機械的な 8 分の 5+6 拍子の変拍子リフレインがドライブするカンタベリー風のアンサンブル。
ドラムス、ハモンド・オルガンも折り重なってけたたましい演奏が繰り広げられ、ピアノがテーマを回想しようとするも阻まれてそのままフェード・アウト。
モーツァルト風のパーカッシヴなピアノを主役にした息つく暇もないけたたましい作品。
中間部のムニエラ風のバグパイプ・オルガンと後半の無機的な変拍子アンサンブルがアクセント。
ただただ忙しく濃密な 3 分余である。
4 曲目「Once」(4:13)
オルガンがリードするアップテンポのヴィヴァルディ風アンサンブルでスタート。
舌をかみそうなほど忙しない変拍子の演奏だ。
火を噴くようなジャズ・オルガンのポルタメントをきっかけに R&B 調へと変化。
ハープシコードがオーヴァーラップしてオブリガートを放つのをきっかけに一気に本格的な 4 ビート・ジャズへ。
ランニングベースを巻き込んだ快速オルガン・アドリヴ。
ソウル・ジャズのようでいてオルガンのプレイはあくまで快速クラシック。
吼えるようなファズ・ベースも交えて気持のいい緊張感がキープされる。
シンセサイザーによるペール・ギュントの「山の魔王の宮殿」のユーモラスなインサーションもはさみつつ珍しく爆発力のあるオルガン・コンボが続く。
再びチェンバロとオルガンのデュオによる急旋回そして、エンディングは序盤のバロック変拍子アンサンブルからワイルドな R&B 風の演奏までを回想する。
リズムアンドブルースやジャズへの展開を見せる即興色の強いキーボード・プログレ。
圧倒的なキーボードのプレイと挑戦的なリズムの急変が特徴。
オルガンはクラシック風のパッセージを崩してジャズや R&B に応用している。
大上段からの大見得が痛快。
チェンバロが展開のきっかけを作っている。
5 曲目「Progression」(12:00)
マンシーニの「ピーター・ガン」を思わせるテーマを刻むグルーヴィーなピアノのストローク。
オブリガートはまたもやレゾナンスの強いムーグ・シンセサイザーだ。
レガートな第二テーマはパワフルなハモンド・オルガン。
打ち鳴らされるシンバルとともにオルガンはジャジーなアドリヴへと突進する。
急激なリタルダンド、そしメロトロン・ストリングスを伴奏にムーグによる愛らしいテーマ(曲名不詳)が朗々と奏でられる。
リズムも落ちついた安定感あるロマンティックなアンサンブルだ。
オランダのグループが顕著だ。
テーマを上書きして走り出すのは再びワイルドなハモンド・オルガン。
ブルージーなフレーズを次々と繰り出して緊張感が高まってゆく。
叩きつけるキメの連発。
轟々と蠢くような低音パート。
オルガンの先導やコラールのインサーションを繰り返しつつ、アグレッシヴなバロック・オルガン・アドリヴ。
チェンバロが加わると一気に明るさを取り戻す。
再びオルガンのリードで動き出すも、今度はシンフォニックな高まりをストレートに打ち出している。
テンポアップ。
気まぐれな展開だ。
跳ねるシンセサイザーと疾走するオルガン、コーラルとオルガンが互いを高めつつ勇壮に進む。
テンポアップ。
オルガンが突き進む。
ブレイク。
クラヴィネットがリードする R&B 調の演奏へ。
オルガンのクラシカルな高まりとクラヴィネットのソウルっぽさが嵐のような勢いで交錯する。
エネルギッシュだが先の展開の読めない演奏だ。
スピーディなムーグ・シンセサイザーのアドリヴにストリングやクラヴィネットがオーヴァーラップする。
荒々しくも密度の高い演奏が延々と繰り広げられて限界に達したように消えてゆく。
序盤のピアノのテーマが回想され、オルガンの不協和音が緊張をもたらす。
リセット、そしてティンパニのように高まるドラム・ロールと悠然たるオルガンの調べ。
息もつかせぬアッチェラレイト、コラールの高まりとテンポアップ、狂乱するオルガン。
シャウトのようなオルガンが一閃して消えてゆく。
オルガン、ピアノ、クラヴィネット、シンセサイザーなど多彩なキーボードをそれぞれフルにフィーチュアしたジャム・セッション風の大作。
即興オンリーではなく構成されたアンサンブルを気まぐれ風に連結していってドラマを成してゆく。
アグレッシヴにしてロマンティックな体質を基調に、豊富なネタと高めのテンションで強引に突っ走る感じだ。
音楽的な密度という点では FOCUS にも匹敵する。
独特のけたたましさは、キーボードのみならず、隙間を埋め尽くすようなドラムスのプレイのせいでもある。
「悪の経典」を思わせる凶暴なエンディングが印象的。
緩急と音量の変化に乏しいために短調に聴こえるところがあるのが弱点。
6 曲目「A Memory」(3:47+3:26+1:40)
不気味なムードのイントロダクションが導くのは哀愁のオルガンのテーマ。
さえずりのような奇妙なノイズは何を意味するのか。
クラシカルなアンサンブルによって一気に高まるテーマ。
バロック音楽ロックである。
風のようなノイズは予定調和へのアクセントか。
中間部「The Lost Part」はまたも奇妙なノイズで導かれるドラムス・ソロ。
電子音ノイズが出現すると「A Memory」がリプライズされる。
イントロと同様なアウトロでフェードアウト。
ハモンド・オルガン、ムーグ、メロトロンを使いドラム・ソロを挟んだ三部構成の PROCOL HARUM 路線の小組曲。
スウェーデン民謡らしき「A Memory」の哀愁溢れるテーマが印象に残る。
意図的な電子音ノイズの頻繁な挿入はさほど効果を感じない。
7 曲目「Final Trace」(3:52)
哀愁あるオルガンのテーマをチャーチ・オルガンの厳かな和音が支えるおだやかなアンサンブル。
テーマの旋律にはいかにも大陸らしいペーソスとセンチメンタリズムあふれる。
展開部はジャジーなピアノが伴奏するシンセサイザー・ソロ。
クセのある音によるアドリヴだ。
「G 線上のアリア」を思わせるテーマ演奏の再現、ストリングスが背景を彩る。
重厚なるチャーチ・オルガンの響きと小気味のいいベース・ライン。
悠然たるリタルダンドと伽藍を満たす和音の高まり。
PROCOL PARUM の名作と同じ芸風のシンフォニックなクラシカル・ロック作品。
チャーチ・オルガンとのアンサンブルやオルガンのフレーズには FOCUS を思わせる部分もある。
中盤のムーグのソロがいい変化になっている。
この路線は極めつくされたようでいていまだにエピゴーネンが現れるエリアでもある。
8 曲目「Progress」(4:05)ボーナス・トラック。
「Progression」より抜粋。
クラヴィネットのリフとムーグのテーマを取り出している。
8 曲目「Tabu」(4:14)ボーナス・トラック。
シャープで邪悪なテーマは EL&P 風。
サウンド・エフェクト風のムーグ・ソロが面白い。
メロトロン、ハモンド・オルガン、チェンバロ、ピアノと多彩なキーボードを巧みに操るクラシカル・ロック作品。
演奏はクラシックの名フレーズ、パートを大胆に取り入れ、けたたましくたたみかけてゆくた典型的なキーボード・ロック・スタイルである。
リンデンのプレイは、音色の使い分けが巧みであり、フレーズを丹念に積み重ねてゆくところに特徴がある。
クラシックのみならず、ジャズもきっちりと弾ける人のようだ。
オリジナルのフレーズには、どこか人懐こさもある。
全体としては、主旋律の活かされた整然としたアンサンブルといえるだろう。
一方、プレイのワイルドな力強さという点では、エマーソンには一歩譲るかも知れない。
クラシックの換骨奪胎という手法は、既に経年変化の著しいアプローチだが、それでもなお、本作の勢い/小気味よさは魅力だ。
数多の THE NICE、EL&P タイプのキーボード・ロックの中では、徹底した本格クラシックからのアプローチという点でチェコの COLLEGIUM MUSICUM とともに、際立つ出来映えといっていいだろう。
FOCUS とも共通するヨーロッパ大陸風のエレジー趣味は、名曲「A Memory」に顕著。
(PHILIPS 6413 505 / MUSEA FGBG 4144.AR)
Rick Van Der Linden | keyboards |
Jaap Van Eik | bass, guitar, vocals |
Ian Mosley | drums, timpani, gong, tambourine |
guest: | |
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Darry Way | acoustic & electric violin on 4 |
Coen Hoedeman | assorted monkeys on 1 |
75 年発表の第二作「Birds(鳥人王国)」。
ドラムスは、元 WOLF のイアン・モズレイに交代、ダリル・ウェイ本人もゲスト参加している。
クラシックをベースとするキーボード・プレイは、さらなる技巧の冴えと安定感を誇り、特に後半の大作では、縦横無尽の演奏を見せる。
力作。
1 曲目「Bourree」(2:27)目の醒めるような華麗なるクラシカル・ロック。
オルガンを中心にチェンバロやクラヴィネットも使ったスピーディな演奏だ。
バロック音楽の面影を残しつつもスピード・緊張感そしてブルージーなグルーヴももたせる巧みなアレンジである。
バッハのイギリス組曲第二番より抜粋。
2 曲目「Snuff」(2:28)ベース、ドラムスなどリズム・パートをフィーチュアしたと思われるハードな快速ナンバー。
シャフル・ビートで攻め立てるような調子である。
リリカルなピアノ、激しいクライヴネットや速弾きオルガンとともにベース、ドラムスがジャジーにして迫力ある演奏を見せる。
ロカビリー風の横揺れリズムが強烈。
フェード・アウトはもったいない。
3 曲目「Janny」(1:15)ジャズ・ピアノ・ソロ。
華のある音色と柔らかなタッチによるジャジーな演奏。
ややホンキートンク風の崩しも見せる。
洒脱だが丹念な演奏だ。
4 曲目「Opus 1065」(7:46)キーボード、ヴァイオリンをフィーチュアしたオムニバス風の華やかな好作品。
ポップス風の爽やかなテーマ・ピアノからムーグ、エレクトリック・ヴァイオリン、アコースティック・ヴァイオリンとチェンバロによるバロック・アンサンブル(ヴィヴァルディ風)、そのままアコースティック・ヴァイオリンのカデンツァ(バッハのヴァイオリン・ソナタ風)、さらに、チェンバロを経てオルガンと次々とソロ/アンサンブルが続いてゆく。
テンポ・リズムの変化がないためややだれるが、一つ一つのプレイは聴き応えあり。
特に、ヴァイオリンは二声を弾き分け、自在のテンポ・ルパートでエモーショナルなソロを見せる。
ベースも加わったトリオ・ソナタも圧巻。
続くオルガン・ソロは、R&B、ブルーズ・フィーリングあふれるもの。
最初と最後に現れるピアノによるテーマは、何か原典があるのかもしれないが、みごとなポップ・センスをもっている。
この作品では、可愛らしい曲想と丁寧な演奏がマッチして、すばらしい効果を上げている。(原典はバッハの「4 台のチェンバロのための協奏曲イ短調」だそうです)
5 曲目「Penny」(2:53)ヨーロッパ・ジャズ調の幻想的なピアノ・トリオ。
メランコリックにしてあくまでロマンティックなピアノのリードするメローなジャズである。
中盤からは、4 ビートの本格的なモダン・ジャズ・トリオと化す。
ピアノのメロディ・ラインに、微妙にクラシカルな響きが見て取れる。
ドラムスはブラシ。
エマーソンのオスカー・ピーターソン路線と比べると、若干ではあるが上品。
6 曲目「Trixie-Dixie」(0:38)カーニバルのバンド演奏がテープの早回しのようにスピードアップすると、爆発音。
SP 盤のようなモノラル。
これは何なんでしょう。
そして「King-Bird(組曲 鳥人王国)」(22:01)鐘の音を経て厳粛なチャーチ・オルガンが響き渡るオープニング。
SE も聴こえて、映画を思わせる胸躍るオープニングだ。
こういう曲でいつも思うのは、リズムが単調になりがちということ。
とりあえず 8 ビートをキープしギター/キーボードで主題を奏でるという形が一般的だが、平板な曲調がイージー・リスニング風に聴こえることが多い。
ここでもチャーチ・オルガンに続くリズム入りのテーマ演奏は、やや野暮ったく聴こえる。
つくづく FOCUS というグループのセンスのよさを感じる。
オルガンのおだやかなテーマから、輝くようなチェンバロのオブリガートを経てテーマをリードするのは、しなやかなギターである。
エリック・クラプトンの名曲を思わせる、いい表情をもつテーマだ。
オルガンはゆったりと伴奏で流れてゆく。
鋭いシンバルと低音をしっかりリードするベース。
要所で力強く決めてアクセントをつける演奏。
続いて、軽やかなワウ・ギターとチェンバロによる華麗なユニゾンを経てオルガン・ソロへ。
キース・エマーソンを思わせるブルージーなソロだ。
ワウ・ギターとストリングスが分厚く伴奏する。
再び調子はゆったりと元に戻り、シンセサイザーによって、メロディアスなギターのテーマが呼び覚まされる。
ギターを受け力強くアクセントする演奏。
チャーチ・オルガンが滔々と流れる。
まさしくクラシカル・ロックである。
最後のリタルダンドからドラム・ロールが呼び出され、チェンバロとオルガンがクラシカルな和音をうっすらと響かせるエンディング。
星を吹くストリングス・シンセサイザー。
(4:08)
ピアノとチェンバロによるロマンティックなデュオ。
バックはストリングスが守り立て、クラシカルな雰囲気になる。
今度はリズミカルなピアノとチェンバロによるイージー・リスニング風のアンサンブル。
バウンスするリズムによる軽やかな演奏だ。
オルガン、3 連リズムをはさみ、緊張感を高め、一気にカデンツァ風のチェンバロ、ピアノによるスピーディなリフレインへ。
華麗にして劇的。
再びリズミカルなテーマからオルガン、3 連リズムそしてチェンバロとピアノが走る。
溌剌としたチェンバロが美しい。
今度は金管を思わせるシンセサイザーが高らかに流れる。
(6:15)
スピーディなリフレインにピアノがブレーキをかけると、スウィートなヴォイスが歌いだす(Preacher-Bird)。
このヴォーカル・パートでは、SOLUTION 辺りを思わせるメローなポップ・センスが光る。
ピアノ、チェンバロが的確なバッキングを施す。
間奏は PROCOL PARUM = ヘンデルを思わせる、やわらかく暖かいバロック・オルガン・ソロ。
ピアノとともに演奏をリードするバスドラ連打や、メロディアスなベースもいい感じだ。
ピアノのリフレインとともにドラムスの連打からテンポはアップ。
ストリングス・シンセサイザーがうねり始める。
激しいスネア・ドラムの連打が湧きあがる。
挑戦的なベースのリフへシンセサイザーとクラヴィネットによるビジーな演奏が重なる。
再びオルガンによる R&B 風の軽快な演奏。
続いてブルージーなピアノが加わる。
華麗なピアノとヘヴィなオルガンの応酬。
メロトロンも流れ続ける。
再びオルガンによる軽快なテーマ。
(9:50)
今度はオルガンとチェンバロのユニゾンによるクラシカルなアンサンブル。
激しいオルガン、ピアノのオブリガートが応える。
ブレイク。
クラヴィネットが奇妙なフレーズをひとくさり、そしてメロトロンがざわめく。
インタールード。
再びベースによる挑戦的なリフが重なり、一気にヘヴィな調子を取り戻し、オルガンのテーマが復活する。
目まぐるしい展開だ。
(10:42)
今度はキース・エマーソンを思わせるヘヴィなピアノ・ソロ。
激しいドラムスが受けて立つ。
低音を強調したピアノは、大きく見得を切るようにリタルダンド。
ベートーベンを思わせる重厚悲痛な演奏が続く。
湧きあがるメロトロン・コーラス。
チェンバロも、分散和音でつきしたがっている。
ベースによるアルペジオの速弾きに導かれるように、ピアノ、メロトロンが応え、重厚なアンサンブルが甦る。
強いアクセントで重々しく進む演奏。
金管風のムーグ・シンセサイザーが華やかに歌い上げる。
チェンバロとピアノが支える。
長短微妙な転調の繰り返し。
ピアノとチェンバロによるアンサンブルは、やはりやや哀しげな表情だ。
再び高らかに歌い上げるムーグ・シンセサイザー。
ハードなピアノ・ソロへと流れ込む。
ムーグの軽快なソロ。
バックにはストリングスが迸る。
テンポも軽快だ。
再び重いピアノのオスティナート。
重厚な演奏がたたみかけるように続く。
リタルダンド。
そして、リズミカルなピアノ、チェンバロのアンサンブルが復活。
3 連も交えながらハイ・テンションの演奏が続く。さりげなくもバスドラもロールする。
(Scolptor-Bird - Second Avenue)(17:50)
再び、ヴォーカル・パートへと着地。
ピアノ伴奏のブルーなタッチで御伽噺が囁かれる。
(Preacher-Bird)
ヴォーカルの最後から演奏の勢いは高まり、そして頂点を経て、ピアノに導かれるように、ほのかにブルージーで穏やかなギターのテーマへと帰ってゆく。
最後は、ストリングス、メロトロン・コーラス、チャーチ・オルガンが膨れ上がり、ドラム・ロールとともに唸りを上げる大団円。
無声部を経て、エピローグは、ピアノ伴奏によるオルガンのテーマ演奏が物語を回顧する。
明快なテーマをもつ複数部構成の超大作。
ヴォーカル・パートも含む 20 分あまりの作品である。
基本的には、オルガン、ピアノ、チェンバロ、ムーグ・シンセサイザーなどキーボードのオンパレード。
このキーボードを軸にしたクラシカルなアンサンブルが、目まぐるしく展開してゆく。
また、ビジーなフレーズを叩きつけるキーボードとともにアンサンブルの熱気を強めているのは、手数の多いドラムスである。
メロディをしっかりつかみ演奏をリードするギターも存在感がある。
EL&P のような無闇な勢いある破壊的再構築ではなく、クラシックのアンサンブルの枠組みを活かしながらリズム・セクションとエレクトリックなヴォリューム変化を縦横に駆使した作風といえるだろう。
クラシカルでトラジックな響きとブルージーなロックの響きをうまくブレンドしたほのかな哀感がいい。
力作です。
「Birds」(3:41)ボーナス・トラック。
シングル B 面。
「Tabu」(4:14)ボーナス・トラック。
シングル B 面。
前作のボーナス・トラックと同曲だが別テイク。
バロック調のキーボードをフィーチュアした傑作。
前半は軽やかな小品、後半を大作組曲でまとめる、逆「Tarkus」構成である。
前半のバッハのアレンジものは、正確な技巧とヴァイオリンの参加のおかげで、かなりの成功を見せている。
リズムの工夫が今ひとつなため、原曲を聴いた後ではやや陳腐に響くのは、しかたないところだ。
原曲に忠実な表情のキーボードのプレイと、ロック的なワイルドさ、ある意味ルーズでアウトな感覚を代表するリズム・セクションをどう融合させるかは、かなりチャレンジングな課題なのだろう。
後半の組曲は、巧みなキーボード・プレイを綿密な構成にわりふった好作品。
前作同様音色やアンサンブルに品のよさがあり、エキサイトしてもリズムを乱すようなことはない。
ハモンド・オルガンのプレイやたたみかけるユニゾンなどワイルドな面もあるが、破天荒というよりは、全体の構成の中でしっかり計画されたプレイとして映る。
バランスのとれた好作品と見るか、パワーや意外性はさほどでもない凡作と見るかは、純粋に好みの問題だろう。
リンデンは EKSEPTION よりもソフィスティケートされた演奏を求めていたようなので、このでき映えは納得するものだったに違いない。
モズレイのシャープなドラムスも冴え渡る一作目を凌ぐキーボード・ロックの名作。
(PHILIPS 6413 080 / MUSEA FGBG 4176.AR)
Rick Van Der Linden | keyboards |
Cor Dekker | bass |
Peter de Leeuwe | drums |
Dick Remelink | saxes, flute |
Hans Jacobse | additional keyboards |
Hetty Smit | vocals |
Harry Schafer | narrator |
Job Maarse | conductor of The Benny BEHR Strings |
77 年発表の第三作「The White Ladies」。
「White Ladies」という不気味な妖精譚風の訓話を題材にしたトータル・アルバムである。
前作から二年を経た本作は、モズレーとエイクの脱退後、旧 EKSEPTION のメンバーと弦楽アンサンブルの参加を得て製作された。
グループ名のクレジットも「TRACE」ではなく、「Rick van der Linden & TRACE」となっており、グループからプロジェクトへと形を代えたことが分かる。
内容は、チェンバロ、ハモンド・オルガン、メロトロン、シンセサイザーなどリンデンのキーボードを中心にしたクラシカルかつジャジーなキーボード・ロック。
今回はムーグ・シンセサイザーの多用が特徴だろう。
間奏曲をはさみつつ、ほぼ切れ目なしに楽曲が続いて物語を成している。
得意のクラシックのアレンジに加えて、モダン・ジャズや R&B への発展など、EL&P が築いたキーボード・ロックらしい大胆な展開を繰り広げる。
いかにも EKSEPTION らしいパワフルな管楽器を用いたジャズ・タッチも盛り込んでいるのは、メロディアスな演奏に変化をつけて、イージー・リスニング化してしまうのを避けるためだろう。
しかしながら、基本にはクラシックがあり、自然に備わった端正さ、優美さがロックビートととけあうところに魅力がある。
プロデュースはリンデン、ピーター・ニーベル、ヨープ・マールセ。
1 曲目「Legend(Part 1)」(3:29)ナレーションによるストーリーのイントロダクション。
2 曲目「Interlude I」(0:20)
3 曲目「Confrontation」(4:11)チェンバロとコントラルトの女性ヴォーカルをフィーチュアしたキャッチーなクラシカル・ロック。
音数の多いドラムスとチェンバロの小刻みなフレーズが、よくマッチしている。
ピアニカのようなキーボードが愛らしい。
4 曲目「Interlude II」(0:49)
5 曲目「Dance Of The White Ladies」(1:34)サックス、ムーグによるジャジーでコミカルな作品。
6 曲目「Doubts」(3:28)オルガン、ストリングスをフィーチュアした PROCOL HARUM 調の哀愁ある作品。
展開部はピアノ、木管、ピアニカ、チェンバロらによる、お昼の料理番組のジングルのようにキュートなアンサンブル。
ロマンティックです。
7 曲目「Trace I」(0:16)
8 曲目「Witche's Dance」(2:36)ムーグ、ピアノ、クラヴィネットをフィーチュアしたソウル・ジャズロック。
キース・エマーソン系。
ファンキーかつタイト。
オブリガートの管楽器セクションがカッコいい。
9 曲目「Surrender」(2:13)オルガン、サックス、ピアノらによるロマンティックなクラシック・ロック作品。
エンディングのオルガン、ベースによる対位的なアンサンブルもいい。
FOCUS、SOLUTION を思わせる世界である。
10 曲目「Interlude III」(0:30)
11 曲目「Parthétique」(2:26)ベートーベンの「悲愴」第二楽章のアレンジ。
ピアノ、オルガン、チェンバロ、サックスらによる端正な演奏。
後半に生ストリングスもあり。
12 曲目「Legend(Part 2)」(2:20)ナレーションによるストーリー・イントロダクション。
13 曲目「Interlude IV」(0:10)
14 曲目「The Rescue」(3:48)ムーグ、ピアノを駆使した、ベートーベンの「救出」のアレンジ。ムーグのリードするけたたましく忙しないアンサンブルは EL&P 直系。
15 曲目「Trace II」(0:25)
16 曲目「Back Home」(3:18)チェンバロ、オルガン、管楽器によるメロディアスなロック・チューン。
中間部ではサックス主導のジャズ・コンボに展開する。
17 曲目「Meditation」(3:58)メロトロン・ストリングスとアコースティック・ギターが導く FOCUS 風のクラシカル・ロック。
18 曲目「Flash Back」(0:33)
19 曲目「Conclusion」(3:34)チャーチ・オルガンのリードによる終曲。やはりイメージは PROCOL HARUM。
(VERTIGO 6360 855 / MUSEA FGBG 4189.AR)