オランダのプログレッシヴ・ロック・グループ「SOLUTION」。 66 年結成。 R&B からスタートしメンバー・チェンジを経つつ 70 年代を通して活動。 83 年解散。 70 年代前半のサウンドは、管楽器・オルガンをフィーチュアしたポップなジャズロック。 キュートなメロディとソフトな曲調を活かしつつも、思いのほかテクニカルな音楽だ。
Tom Barlage | sax, flute |
Willem Ennes | keyboards |
Hans Waterman | drums |
Guus Willemse | bass, vocals |
96 年発表の「Solution」。
内容は、オルガン、サックス/フルートをフィーチュアしたジャズロック。
インストゥルメンタル主体の大作が主である。
サイケデリック・ロックとジャズの中間にある音であり、ファンキーにしてカンタベリー風の知的なユーモアをも匂わす演奏である。
メローなテーマを中心にゆったりと、時に奇天烈な勢いも見せつつ綴ってゆくスタイルは、ブリティッシュ・ロックを出発点にしたオランダ特有のポップ・センスがよく現れている。
そういう意味では、ギターレスの編成が共通する SOFT MACHINE をよりポップス寄りにして口当たりよくしたような音、といってもいい。
英国ジャズロックに見いだされる尖鋭性を味わうというよりは、デリケートな都会的センスとオーソドックスなエンタテインメントを楽しむスタンスで聴くべきだろう。
さて、メロディアスな面を強調したが、実は、演奏はキャリアに裏付けられた安定した技巧を誇るものである。
主役を張る多彩なオルガン、フロントを努める管楽器とともに、リズム・セクションの充実が顕著だ。
70 年代の良心ともいうべきポップ・チューンがばっちり決まるのも、お国柄のメロディ・センスに加えて、この演奏力のおかげである。
オルガンとサックスのテクニカルなソロ/インタープレイも楽しむことができるし、さらには、サイケデリックで空間的な演奏すら現れる。
このややサイケデリックな音の質感も初期の SOFT MACHINE と共通しており、本グループの意識がうかがえるような気がする。
AOR とイージー・リスニング・フュージョンと変拍子テクニカル・ジャズロックをメロディアスにまとめたユニークな作品。
前衛音楽が趣味でもジャズやラウンジ風の軽音楽も苦にならない方には、お薦めでしょう。
プロデュースはヨープ・フィッセルとジョン・スヒュールスマ。
「Koan」(7:50)オープニングのイタリアン・ロック風の「攻め込む」トゥッティが鮮烈な作品。
変拍子で追い込みながらもアンサンブルはあくまでメロディアスであり、多彩なドラムスのプレイがおもしろい。
後半は、サイケでユルいソロが続く。インストゥルメンタル。
「Preview」(0.51)ピアノによる小さなイントロダクション。
「Phases」(12:19)SOFT MACHINE、PINK FLOYD 風のスペイシーな演奏と FOCUS を思わせるメローなフルートに導かれるソウルフルなヴォーカル・パートとが交錯するダイナミックな傑作。
過激な場面転換がごく自然に進む、おもしろい作品だ。
05:30 および 11:05 辺りからのヴォーカル・パートをいざなうオルガンのリフが FOCUS に酷似。
スリルと叙情性のあざやかな切り返しも FOCUS や GREENSLADE に通じる。
終盤のピアノのリフの上でサックスのパワフルなソロが続くところは、SOFT MACHINE 風。
「Trane Steps」(10:19)サックス、PROCOL HARUM のような教会風のオルガンによるメロディアスなテーマを軸にしたクラシカルかつジャジーな作品。
次々に繰り出される映画音楽風のサスペンスフルでなおかつ哀愁もあるテーマがいい。
サックスとエフェクトされたオルガンのやり取りには、SOFT MACHINE の「3」を思わせるシリアスな知性とジャジーな開放感が同居する。
サックスは、ディーンというよりもジェンキンズか(コルトレーンの作品を連想させるタイトルからするとやはりディーンか)。
フランク・ザッパにも一脈あり。
インストゥルメンタル。
「Circus Circumstances」(7:03)無声映画のおっかけシーンかワーナーのアニメーションのようなユーモラスな演奏から、一気にコルトレーンばりのモダン・ジャズへと突っ込む唖然の展開。
ファズを効かせたオルガンがカッコいい。
インストゥルメンタル。
(CATFISH 5C 054-24377 / ECLEC 2337)
Tom Barlage | sax, flute |
Willem Ennes | keyboards |
Hans Waterman | drums |
Guus Willemse | bass, vocals |
72 年発表の「Divergence」。
内容は、アーバンでまろやかなタッチのポップス調クロスオーヴァー・ミュージック。
一作目に続いてインストゥルメンタルが充実しているが、ピアノの音に象徴されるように、オルガンとサックスがサイケデリックなトーンももちつつ繰り広げたジャズロックから、より一層メローなポップスとしての位置を固めつつある印象である。
そして、ヴォーカルの占める割合も増加。
ただし、AOR という言葉でくくられるものではなく、ジャジーなオシャレ感とともににサイケデリックなざらつきと誇大妄想もしっかり残した音である。
いわばカンタベリーの傍系だ。
器楽の腕は歌のオブリガートや間奏部分にぐっと集約、というか集約しきれずにはち切れているが、そこが魅力である。
一作目と後の作品との橋渡し的な内容(アルバム・タイトルもそれを示唆している?)であり、中途半端と感じるか折衷的でとっ散らかった世界に惹きつけられるか、意見は分かれそうだ。
2012 年ようやく CD 化。
サンプリングや DJ ネタの宝庫だと思います。
プロデュースはジョン・スヒュールスマ。
「Second Line」(8:48)R&B が基調なのにどことなくヨーロッパ風味も漂わすセンチメンタルなポップス。
ビリー・ジョエルはここからのパクリかも。
というか、エルトン・ジョンなのかな。
ジャジーな間奏の充実し過ぎのせいで、ポップスの枠組みを飛び超えてしまっている。
後半のエレクトリック・サックスらしき音は、なぜか、イタリアン・ロックを思い出させる。
「Divergence」(6:00)ワイルドなオルガンが第一作の一曲目を連想させるジャズロック。
官能的なサックスのテーマは、FOCUS も「Tommy」で取り上げた。(作曲はメンバーのトム・バーラルヘ)
メローなテーマとスリリングなアクセントの対比によるドラマ性など、楽曲そのものもサックス入りの FOCUS のようだ。
インストゥルメンタル。
「Fever」(4:27)フルートをフィーチュアし、出自をチラ見せするブルージーな R&B チューン。
エレピのクラシカルな薬味が効く。
インストゥルメンタル。
「Concentration」(12:31)
序盤はサウンドこそ毛羽立っているがジャジーな演奏で懐深く迫り、中盤からは、SOFT MACHINE をややキャッチーにしたような変拍子アンサンブルが突っ走る。
ヴォーカルの入り方、R&B 的なノリは、70 年代初期の英国ロック・グループを思い出させる。
キース・ティペットかゴードン・ベックかというピアノもカッコいい。
「Theme」(0:43)フルート多重録音による緩徐楽章的小品。
「New Dimension」(6:27)エルトン・ジョン風のピアノとマイク・ラトリッジ風のオルガンに抱かれたロマンティックなポップスの傑作。
メロディアスだがソウルフルな歌声はどこか懐かしい。
クールなフルートもいい。
(EMI HARVEST 5C 056 24541 / ECLEC 2338)
Guus Willemse | bass, guitar, vocals |
Willem Ennes | electric & acoustic piano, organ, Elka Rhapsody |
Hans Waterman | drums |
Tom Barlage | alto & soprano saxes, flute, percussion |
75 年発表の第三作「Cordon Bleu」。
メロディアスなサックスをフィーチュアしたハートウォームなジャズロックに、さらにポップな磨きのかかった好作品である。
全体にインスト重視の作りは変わらず、加えて、ソフトロック/AOR 風のヴォーカルの存在感も大きくなった。
サイケデリック・ロックから少しポジションを変え、エレキギターやエレピを用いるクロスオーヴァー系の音作りも現れている。
スリリングながらも明快であり、夢見るようなふんわり感やテーマのまろやかさとインタープレイの鋭さなどが、絶妙の割合で調合されている。
その作風・パフォーマンスは、本家英国ロックに迫るクオリティである。
いわゆるフュージョンと違うのは、ファンキーな黒っぽさが強めであり、なおかつストリングス・シンセサイザーらによるファンタジック・テイストもあるため。
思い切って「軟派な SOFT MACHINE」といってしまうべきだろう。
よく見れば英国録音であり、アートワークは HIPGNOSIS、プロデュースはガス・ダッジョンなのだ。
とすれば、この出来は当然というべきだろう。
CAMEL、CARAVAN、ELO、10CC、PILOT などブリティッシュ・ロック・ファンとカンタベリー、ジャズ・ファンなど、みんなにお薦め。
オマケな 4 曲目が実は絶品。
CD のジャケットは、文字の位置などが LP とは微妙に異なる。
「Chappaqua」(10:33)ポップなシンフォニック・ジャズロックの絶品。
ロックへの WEATHER REPORT の取り入れ方が CAMEL と同じ。
メロディアスで R&B フィーリングにあふれたサックス、70 年代初頭英国ロック流の芳しきオルガンらによる、暖かくも小気味よすぎるアンサンブル。
テンポやリズムを切り替えつつ変拍子も交えて自由闊達な演奏を繰り広げる。
これだけ甘めでもイージーリスニング化しないのは、変拍子、反復、アドリヴなどメロディアスなテーマに寄りかかり過ぎないスタイルのおかげ。インストゥルメンタル。
「Third Line Part.1」(1:39)中期 SOFT MACHINE 風のアブストラクトかつまろやかなフュージョン。
「Third Line Part.2」(5:45)一転、オルガン伴奏でジェントルなピアノがオブリガートするメローな歌ものへ。
中間部は、R&B 味たっぷりのサックス・ソロ。
タイトだが色気にあふれる演奏から、再び軽やかなポップ・ロックへ。メロディアスなテーマを支えるドラムンベース的なバッキングに痺れます。
「A Song For You」(3:53)ダッチロックの伝統芸というべきスイートでファンタジックなポップ・チューン。
星を掃くストリングス・シンセサイザー、さえずるフルート、波打つピアノ。傑作。
「Whirligig」(9:01)
「Last Detail Part.1」(2:48)
「Last Detail Part.2」(2:42)
「Black Pearl Part.1」(1:14)
「Black Pearl Part.2」(5:01)
(CD CBS 32227)
Guus Willemse | bass, vocals |
Willem Ennes | electric & acoustic piano, synthesizer, organ, strings emsemble |
Hans Waterman | drums |
Tom Barlage | alto & soprano saxes, flute, strings emsemble, percussion |
77 年発表の第四作「Fully Interlocking」。
内容は、エレクトリック・ピアノ、フルート、サックスらをフィーチュアしたエレガントなアーバン・ポップス風ジャズロック。
もちろんフュージョンといってもいいが、上品なファンキー・テイストとメローにして芯のあるテーマからすると、きわめて高品位のポップスという方が適切になるだろう。
たとえインスト主体であっても、演奏よりも音楽そのものが大事にされているところが、いわゆるフュージョンとの違いだろう。
歌以上に歌らしいシンセサイザーやサックスが、控えめに優しげに音を綴っている。
「あれ、FOCUS ってこんなにメローだったっけ」と思ってしまう瞬間もある。
一方では、4 曲目では、ドイツの PASSPORT のような、プログレなシンセサイザーをフィーチュアした R&B タッチのフュージョンも鮮やかに決めている。
全体に、軽やかさや爽やかさを損なわずに丹念に作りこまれた極上のポップアルバムといえます。
そして、ずばり 70 年代終盤の音であり、個人的には懐かし過ぎて冷静ではいられない。
ハンス・ウォテルマン氏の鼓笛隊風のスネア・ロールも特徴的。
プロデュースはガス・ダッジョン。
「Give Some More」ポップでジャジーな歌もの。
「Carousel」キーボードをフィーチュアしたインストゥルメンタル。
傑作。
「Sonic Sea」甘美で幻想的なインストゥルメンタル。アナログ・シンセサイザーによるピート・バーデンスばりの自信あふれるシングル・ノートのフレーズがいい。ソプラノ・サックスとシンセサイザーのユニゾンも美しい。CAMEL の「Moonmadness」を思い出します。
「Free Inside」テーマは YAMAHA のポリ・シンセサイザーか。ソウルフルなフュージョン。インストゥルメンタル。大傑作。
「French Melodie」哀愁バラード調のロマンティックなインストゥルメンタル。情熱的。ピアノとハープシコードなどアコースティックな鍵盤楽器がうまく使われている。
「Empty Faces」KAYAK ばりのメロディアスでスウィートな歌もの。
どうしてオランダのグループはこんなにメロディのセンスがいいのでしょう。
(CD CBS 4610512)