スロヴァキアのプログレッシヴ・ロック・グループ「COLLEGIUM MUSICUM」。 60 年代末結成。 作品は十二枚。 82 年解散。97 年再結成。 キース・エマーソンの影響を受けたマリアン・ヴァルガのプレイを中心にしたクラシカルかつジャジーなキーボード・ロック。 クラシックのモチーフをふんだんに用いた THE NICE スタイルである。
Marian Varga | organ |
Fedor Freso | bass |
Pavel Vane | guitar |
Dusan Hajek | drums,percussion |
70 年発表の「Hommage A J.S.Bach」。
二曲入りの SP 盤。
内容は、オルガンを主役としたクラシカルなインストゥルメンタル。EL&P ファンはぜひ。
現在本アルバムの内容は、右側の写真の CD、または次作の単体 CD のボーナス・トラックとして収録されている。
「Hommage A J.S.Bach」(7:17)バッハの鍵盤作品(パルティータハ短調 BWV990 のサラバンド)をジャジーに崩し、ややアグレッシヴな行進曲風にした演奏。
基本的には『かわいらしい』。
オランダの TRACE と同系統の解釈。
「Ulica Plna Plastov Do Dazda」(6:42)ロマンティックなテーマを巡る、無常感と虚脱感のあるバラード。
PROCOL HARUM 調のクラシカル・ロック・テイストに時おり NICE 調も交じり、サイケ/ビートっぽいノリもあり。
ギターはやや拙くもジャジーに歌う。名曲。
(Panton 03 3025 / Opus 91 2413/4-2)
Marian Varga | organ, harpsichord |
Fedor Freso | bass, vocals |
Rasto Vacho | guitar |
Dusan Hajek | drums,percussion |
71 年発表の「Collegium Musicum」。
内容は、オーケストラをしたがえたブリティッシュ・ロックの影響色濃いもの。
スペイシーでサイケなオルガンを中心にした、ブルージーな泣きとブラスによるジャジーなテイストのある演奏である。
ヴォーカルもパンチが効いていて、R&B 風味も申し分ない。
各パートのテクニカルなソロも強調されており、東欧ロックのジャズ、R&B の素養のレベルの高さに驚かされる。
現在本アルバムの内容は、右側の写真の CD に収録されている。また、数年前には単体でも CD 化。
「If You Want To Fall」(13:27)ブラス入りの R&B 作品。モダンジャズ風のサスペンスフルなタッチにオルガンのオブリガートなどクラシカルなアクセントがかわいらしく活かされている。大胆なベース・ソロもあり。
東欧のグループは演奏能力が高いため、この作品のように作曲部分を大幅に上回るソロ、即興パートを入れ込むことが多い。
「Strange Theme」(13:44) LP では二面に分割されていたようだ。前作より腕の立つギタリストとジャジーなオルガンがリードする、英国ロックそのものなセンチメンタル・バラード。TONTON MACOUTE の唯一作を思い出させる。前半最後のチェンバロも味がある。
後半は、キース・エマーソン調のスペイシーなチャーチ・オルガンで序章を飾り、その後は一転して 8 分 の 6 のオルガン・ジャズ・コンボと化す。
ブラスとオルガンのインタープレイがたくましい。
最後は再び憂鬱なバラードへ。
「Concerto In D」(12:40)ハイドンの作品の翻案。管弦楽とオルガンの競演から、荒っぽくも快調なバンド演奏へ。全体にユーモラス。
(Supraphon 1131018 / Opus 91 2413/4-2)
Marian Varga | organ, piano, subharchord, glockenspiel |
Fedor Freso | bass, bass mandolin, vocals |
Frantisek Griglak | guitar, mandolin, vocals |
Dusan Hajek | drums |
Pavol Hammel | vocals |
71 年発表の「Konvergencie」。
前作に関しても述べた通り、曲の長さは必然的に伸張し、ついには LP 二枚組の各面に 1 曲という超大作となった。
内容は、オムニバスというか奇想曲というか、自由な展開をみせる作品ばかりであり、「集中」というタイトルに首を傾げたくなる。
あいかわらず、作曲よりも演奏そのものの瞬間ごとの迫真性を追い求めているらしい内容であり、スタジオ盤で目指す方向に行き詰まりを感じている可能性もある。
実際、本作品のあとはライヴ盤を発表して、新たな展開の方向としてポップ化を模索する。
現在本アルバムの内容は、右側の写真の CD に収録されている。CD ジャケ写ではタバコをくわえています。
「PF 1972」(22:00)
「Suita Po Tisic A Jednej Noci」(22:33)リムスキー・コルサコフ「シェヘラザード」より。ライヴ録音。「火の鳥」も飛び出す。ギターも大きくフィーチュアされたエネルギッシュで余裕たっぷりの演奏だ。
「Piesne Z Kolovratku」(17:53)寸劇をつなげたような作品。
ピアノ登場。ヴォーカルあり。ナチュラルなポップ・テイストがいい。後にしばらくこっち路線になる。
「Eufonia」(20:06)ジャジーで軽快な序盤とは裏腹に、ハモンド・オルガンが轟く毒気あるインプロへと発展?堕落?自壊?
(Opus 9113 0136-0137 / Opus 91 2413/4-2)
Marian Varga | organ |
Fedor Freso | bass |
Dusan Hajek | drums,percussion |
73 年発表の「Live」。
キーボード、ベース、ドラムスのトリオ編成によるライヴ・アルバム。
内容は、音域広く駆け回るベース、手数多くフィル/ロールしまくるドラムス、そして、クラシックのフレーズを次々と繰り出しては、大見得切って暴れまわるオルガンに典型的なオルガン・ロックである。
THE NICE、EL&P の影響はいうまでもない。
強烈なトゥッティによるテーマ演奏から、教会音楽調からジャズ調まで微妙に音色をコントロールするオルガン・ソロへとなだれ込み、テンポ、ヴォリュームの変化によってみごとな抑揚をつけた一体感ある演奏を繰り広げている。
ライヴだけあって、緻密さよりも、大向こう受けするけれん味たっぷりのアドリヴ・プレイが続く。
ベーシストは M-EFEKT のメンバー。
立ち昇る熱気は EL&P の「展覧会の絵」にも匹敵する。
「Burleska」(Burlesque)(11:01)グループの作品。
テーマ部は強烈なトリオ演奏だが、中間のオルガン・ソロ・パートは即興風で比較的静かな演奏だ。
オルガンのアドリヴに「ユーモレスク」やリストの「カプリース」も現れる。
途中ややジャジーな演奏へと変化するも、結局は「Tarkus」を思わせるモダン・クラシック調のオルガン・プレイが続く。
「Si Nemozna」(You Are impossible Part 1)(8:54)ヴァルガの作品。
短いクラシックのモチーフをどんどん繰り出してゆく作品。
ハイテンションでせわしないが、オルガンは荒々しいプレイのようでいて、じつは端正でオーソドックス。
エマーソンよりもクラシック志向であり、ウェイクマンよりも技巧は本格的だ。
ベースもソロがフィーチュアされ、コード・ストロークという荒業も登場する。
終盤のオルガンがすさまじい。
歓声と交錯するエンディングがカッコいい。
「Si Nemozna」(You Are impossible Part 2)(8:01)ヴァルガの作品。
ワーグナーを思わせる、勇壮にしてシンフォニックなテーマから、歪みきった音色の轟々たるアドリヴが炸裂する。
その後も、エレクトリックでノイジーな音によるクラシカルなテーマという独自のアプローチが展開する。
エコーを効かせたオルガンの打楽器に近いニュアンスがおもしろい。
最後はホットなテーマ演奏へ。
「Monumento」(Monument)(14:42)グループの作品。
いきなりディストーション・ベースによるストラヴィンスキーの「火の鳥」のテーマが叩きつけられるオープニング。
テーマはオルガンへと引き継がれ、一気に盛り上がる。
中間にドラム・ソロ。
(Opus 91 2618-2)
Marian Varga | organ, piano |
Dusan Hajek | drums |
Ivan Belak | bass |
Jozef Farkas | guitar |
75 年発表のアルバム「Marian Varga & Collegium Musicum」。
ギタリストを迎え、四人編成でのライヴ・アルバム。
バルトークやプロコフィエフの作品を過激に弾き倒す痛快な内容だ。
ハードロックとクラシック、ジャズが、それぞれに高まりを見せつつ交差する、スリリングな瞬間が何度も現われる代表作である。
全曲インストゥルメンタル。
THE NICE 型 のオルガン・ロックとしては屈指のでき映えといえるだろう。
「Mikrokozmos」(7:23)バルトークの作品。
激しいドラムスの連打から、挑発的なオルガンの 7 拍子リフが炸裂するオープニング。
ストレス解消にはもってこいである。
手数の多いドラムスとオルガン、ギターが攻めたてる典型的なスタイル。
ピアノが見せるジャズ・テイストや、エコーを施した音響など、細かい味付けもよし。
中間部のエキゾチックなピアノのリフレインとギター・ソロが絡む場面など、「攻め」だけではない幅広さを見せている。
「Nech Zije Clovek」(16:29)グループのオリジナル作品。
各自のソロをフィーチュアしたジャム風の演奏。
ジャジーなリズム・セクションとブルージーなギター。
クラシカルなテーマで疾走するアンサンブルがみごと。
トルコ行進曲から、一転、オルガンを揺らしてノイズを巻き上げるヴァルガのパフォーマンスは、EL&P の「展覧会の絵」を髣髴させる。
エンディングの重厚なオルガンが、破天荒な展開を強引にまとめる。
邦題は「ある男の為の三つの歓呼」。
「Preludium C Dur(A Cast Z Baletu Romeo A Julia)」(8:40)プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」より。
残響音を処理したオルガンとチェレステ(?)の組み合わせによる美しいテーマから、転げ落ちるように、オルガンを中心としたアンサンブルが疾走する。
オルガンの音色の変化にも注目。
中間部で繰り広げられる行進曲のハマり具合もみごと。
「Hudba K Vodometu C.1」(10:38)ヴァルガの作品。
邦題は「泉に捧ぐ No.1」。
変調されたオルガンが鳥のさえずりのような効果を見せるオープニングから、一転してブルージーなロックへと変化する。
ギターが活躍。
中盤でも変調させたノイジーなオルガンを多用している。
ゆらゆらと揺れ動く奇想曲的な雰囲気は、やはりジャム・セッション風というべきだろう。
終盤はヘヴィなリフで攻めたてる。
「Nesmierny Smutok Hotelovej Izby」(2:37)ヴァルガの作品。
邦題は「ホテルでの素敵な朝」。
印象派とジャズを行き交うようなファンタジックなピアノ・ソロ。
突如、バルトーク風の強打が現れてビックリ。
最後は、電話が鳴って赤ん坊の泣き声が消えてゆく。
(Opus 9356 0446)
Marian Varga | piano, Rhodes, Horner D-6, Roland Jupiter-4, Minimoog, ARP-2600organ, Wersi Helios organ, Roland vocoder | ||
Fedor Freso | bass on A1-3 | Cyril Zelenak | drums, percussion on A1-3, B1-5 |
Lubos Andrst | guitar on A1-3, B1-5 | Pavol Hammel | vocals on A3,5,9, B6,9,10 |
Anastasis Engonidis | bass on A4-14, B6-11 | Peter Peteraj | guitar, guitar synth(Arp Avator)on A4-14, B6-11 |
Katarina Rybkova | vocals on A10,12 | Pavol Kozma | drums, percussion on A4-14, B6,7,9,10 |
Detsky zbor Cs. | on A7,10,12 | Vojtek Magyar | keyboards on B1,5 |
Synfonicky Orchestra Cs. | on B1-5 | Karol Morvay | drums, percussion on B10,11 |
Jan Lehotsky | vocals on B7,8,11 | Slacikove kvarteto | on A4-14, B7 |
81 年発表のアルバム「Divergence」。
アナログ二枚組の各面毎に趣向を凝らした大作。
FERMATA を思わせるテクニカルにしてダークなジャズロックから、現代音楽的なピアノ曲や歌もの、そして、合唱や管弦楽を伴うクラシカルな作品まで、ヴォリュームたっぷりの内容である。
THE NICE、EL&P 的な世界を超えた幅広くトータルな音楽の面白さでは白眉。
ジャズ・フュージョン・タッチが新鮮だ。
かつて「Konvergencie」(集中)という大作アルバムを発表したグループが、今度は芸域の広さを表すかのような「Divergence」という表題のアルバムを発表したところが興味深い。
ジャケット写真は再発 CD のもの。
「Refreny」クラシカルなアレンジをたっぷり施したジャズロック。
緊張感あふれる MAHAVISHNU ORCHESTRA 風のアンサンブルから、デメオラばりのアコースティック・ギターなど RETURN TO FOREVER を思わせるプレイも飛び出す。
第一曲は、シンセサイザーによるなめらかなテーマをクランチなギターと刻み捲くるリズム・セクションが支えるシャープなジャズロック。
クラシカルなブリッジは独特な音色のピアノ(古楽器だろうか)・ソロ。
第二曲は、アコースティック・ピアノ、超絶的なアコースティック・ギターのデュオによる現代音楽風の傑作。ECM 的。テリエ・リプダル、エグベルト・ジスモンチ系。終盤にはメカニカルなシンセサイザーも出現。
第三曲は、ジャジーにしてブルーズ・フィーリングあふれる M-EFEKT 風の作品。ギターがカッコいいです。
「P.F.(1982.1983...)」キーボードをフィーチュアした近現代クラシック調の歌もの。
全十一曲から構成される。
チャーチ・オルガン、シンセサイザーらが効果的に使われる。
リズミカルなポップ・チューンもあるが、全体としては愛らしくも清らかな賛美歌調である。
LE ORME を思わせるところも。
「Musica Concertante」バンドと管弦楽によるシリアスな近現代クラシック。
重厚にしてラヴェルのような華麗さ、富田勲のようなキュートさもある。
パーカッション系のシンセサイザーが躍動感たっぷりにリードする。
後期 EL&P に近しく、よりヨーロッパ的。
「Sadza Do Obalky」クラシカルなキーボードが伴奏する歌もの。
ジャズ、ポップス、バラードなどスタイルはさまざまに揺れるが基本はクラシック。
キーボードは伴奏というよりもヴォーカルとのデュエットのような呼吸である。
元 AFTER CRYING のヴェドレス・サバの芸風に通じる。
原語の素朴な響きが印象的。
(BONTON 497636 2)