スロヴァキアのジャズロック・グループ「FERMÁTA」。 73 年結成。作品は十一枚。ギタリストとキーボーディストがリードする双頭グループ。 初期のサウンドはロック寄りのクロスオーヴァー。 2009 年リマスター再発。
Frantisek Griglak | guitar |
Tomas Berka | electric piano, synthesizer, organ |
Anton Jaro | bass, percussion |
Peter Szapu | drums, percussion |
75 年発表の第一作「Fermáta」。
内容は、キーボードとギターがせめぎあうハードな変拍子ジャズロック。
太く熱いユニゾンによるテーマから、リフ、ソロ、コール・レスポンスまで、キーボードとギターが対等に渡り合い、弾き捲くりのままどこまでも突き進むスタイルである。
ハードロックの勢いをもったままジャズの技巧的な即興性を備えているという意味で、ジェフ・ベックや MAHAVISHNU ORCHESTRA と同系統の姿である。
演奏は、挑みかかるような高速変拍子のリフで駆動し、テーマやフレーズの随所にはクラシカルな旋律やハーモニーが現れる。
また、熱気迸る攻撃的な一体演奏とディープでスペイシーな即興が強烈にコントラストする。
キーボードは、オルガン、エレピ、シンセサイザーらを使用し、いわゆるクロスオーヴァー/ジャズロック的な技巧を誇る。
ギターはナチュラル・ディストーション・トーンで、サイケデリック・ロックからハードロックまで、幅広い技巧のスペクトル一杯に無茶に暴れる。
ジェフ・ベックとジョン・マクラフリンからの影響は間違いないだろう。
リズム・セクションも強靭であり、特にジャズ寄りかつストロング・スタイルのドラムスによる音数勝負が圧巻である。
強烈なバスドラ連打も得意なようで、ビリー・コブハム直系といえるだろう。
このリズムとともに、多彩な音色のキーボードとワイルドなギターが、変拍子を振りほどくように真っ直ぐに突っ込んでゆく、その痛快さが、本作品の魅力である。
そして、変拍子のリフを軸にどこまで無茶ができるかというアプローチなので、あたかも次の曲を待ちきれないかのように、1 曲の中でどんどん演奏が変化し、雰囲気も容赦なく変転している。
エレクトリックなギミックやサイケがかったエフェクトなど確かにやや古めかしいところはあるが、ハードロックのパワーをそのまま呑み込んだ本格ジャズロック、というユニークなスタイルは提示できている。
全曲インストゥルメンタル。
ギタリストのグリグラクは、COLLEGIUM MUSICUM 出身。
BONTON の 2in1CD では「Perpetuum III」が割愛されていますのでご注意ください。
「Rumunska Rapsodia」(5:52)オルガンとギターのユニゾンによるテーマで押し捲るハードロック・インストゥルメンタル。
テーマはせわしないが、練習曲を思わせるクラシカル・テイストあり。
リフに続く展開も、どこかクラシカル。
けたたましいギミックも用いたテクニカルな演奏は、もうちょっと過激に弾ければ AREA に迫ったろう。
後半は攻めてたてるようなユニゾンが痛快。
最後はアンデスの呼び声?を経て、再びエレクトリックなノイズから、元気いっぱいオープニング・テーマが復活する。
一貫して激しくせわしないが、クラシカルなテーマのおかげでキュートな仕上がりである。
「Perpetuum II」(10:27)
鉛筆削りのような SE (テープ逆回転処理と思われる)で始まるサイケデリックな即興風大作。
全般にダウナー、沈滞気味である。
しかし、沈滞し弛緩した即興からギター・リフ、スティール・ドラムスのようなエレピが抜け出して、連鎖反応的に突進が始まる。
思わず肩に力の入ってしまうドラム・ソロからシンセサイザーがリードする逸脱調のロックンロールへと凄まじい展開を見せる。
EL&P を思わせるところもある。
ワウを用いた扇情的なリフやマクラフリン手癖風の乱調ギター・ソロ、オルガン、アッパーなリズムなど、すっかりサイケなヘヴィ・ロックである。
エンディングのユニゾンが強烈だ。
「Postavim Si Vodu Na Caj」(4:20)
小気味のいいリズムとともにギターがジェフ・ベック調で扇動するも、エレピはあたかも異次元空間に漂う竪琴のように無関心にさえずり続ける。
ジャジーなギター・アドリヴも加わって、エレピとギターによるファンタジックな演奏が続く。
ドラムスが小気味のいいビートを刻むと、ギター・ソロへ。
やっぱりベックですね。
ようやく最後のトゥッティでシンセサイザーとオルガン、そしてギターとエレピが反応しつつ疾走し、カッコいいユニゾンを決める。
深いリヴァーヴとコンプレスによる幻想的な演出を加えた、シャープながらもリラックスしたギター・ジャズロック作品。
キーボードは終始ハープのような音をたてている。ファンキーになりそうでなり切らないところがいい。
「Valcik Pre Krstnu Mamu」(7:03)
教会風のオルガン独奏による神秘的なオープニングから、一転して歯切れのいいファンキー・ワウ・ギターが飛び込む。
「Led Boots」や「Blue Wind」を思わせる内容だ。
珍妙な音でかけあうアナログ・シンセサイザーがユーモラスだ。
ギターは変拍子リフでつっかかり、ワイルドなギター・ソロ、再びヘヴィなリフからソロと独壇場である。
中盤、リズムレスでエレピが舞うシーンがあるが、一瞬にしてギター、オルガンのデュオが軽やかなラテン風のグルーヴを生み出してゆく。
ザヴィヌル、ヴィトウスと同じく、東欧には独特の「南」への憧れがあるのかもしれない。
このオルガンとギターのコンビネーションは、リズム・セクションこそ重いが、かなりラウンジ風である。
やがてギター、オルガンはヘヴィな調子を取り戻し、ファンキーに跳ねながらも噛みつくようにワイルドな調子のユニゾンで攻めてたる。
饒舌にして凶暴な演奏だ。
ギクシャクとした変拍子リフを逆手に取ってグルーヴィに走るジャズロック。ファンタジックなキーボードがアンサンブルを巧みに変転させて多彩な雰囲気を盛り込んでいる。
「Perpetuum III」(11:43)
波の音とオーヴァーラップしながら、ギターとキーボードによるスペイシーなアドリヴが渦を巻く。
シャープなリズムが走り出し、シンセサイザーの調べを位相系エフェクトで揺らぐギターのアルペジオが支える。
いつしか波の音は去り、深くエコーするシンセサイザーとギターによる逞しいユニゾンになる。
前半は、16 分の 11+13 拍子。
一転、ジャジーな演奏に変化、ギターとエレピの洒脱なデュオが続く。
このパートは 16 分の 8+7 拍子。
今度は、ギターがハードロック調に変化、一気に盛り上がる。
シンセサイザーも加わり、16 分の 11+13 拍子でアッパーなノリでひた走る。
すさまじい変拍子パターンをハイテンションで貫く痛快なジャズロックである。
(BONTON 71 0623-2, OPUS 91 2808-2)
Frantisek Griglak | guitar, Fender electric piano, synthesizer on 5, vocals |
Tomas Berka | Fender electric piano, synthesizer, percussion |
Anton Jaro | bass |
Cyril Zelenak | drums, percussion |
Milan Tedla | viola |
76 年発表の作品「Piesen Z Hol」。
RETURN TO FOREVER、BRAND X、MAHAVISHNU ORCHESTRA 化はさらに進展し、スピード/威圧感ともにたっぷりのヘヴィなジャズロックとなる。
ドラムスのメンバー交代も、さほどサウンドに影響は及ぼしていない。
また、ベースのプレイが前作よりも明確であり、存在感が強まっていることにも注目しよう。
がっちりしたベースのリフにドライヴされて、ギターとエレピ、シンセサイザーがシャープなプレイを連発する第一曲は 70’クロスオーヴァー/ジャズロックの典型といえる名品。
BRAND X の第一作の「Nuclear Burn」がさらに強力になったといえば分かるでしょう。
活きのよさでは前作だが、ジャズロック的なグルーヴでは本作だろう。
キース・エマーソン調のムーグのプレイもあり。
CD は第一作、第二作の 2in1。
「Piesen Z Hol」(11:07)
「Svadba Na Medvedej Luke」(4:15)
「Posledny Jarmok V Radvani」(4:31)
「Priadky」(7:37)
「Dolu Vahom」(2:20)
「Vo Zvolene Zvony Zvonia」(10:10)
(BONTON 71 0623-2, OPUS 91 2808-2)
Tomas Berka | piano, electric piano, synth, strings ensemble |
Frantisek Griglak | guitar, piano, synth, strings ensemble |
Ladislav Lucenic | bass |
Karol Olah | drums, percussion |
Peter Olah | vocals |
Dezider Pito | cello |
77 年発表の傑作「Huascaran」。
アンデス山脈最高峰「Huascaran」にチャレンジするチェコ登山隊の悲劇と再生を描いたトータル作らしい。
内容は、ダイナミックなリズム・セクションとメカニカルなシンセサイザーをフィーチュアした技巧的なジャズロック。
コラール以外は全編インストゥルメンタルだが、重厚な主題を充実した演奏で描いており、アドリヴやインタープレイにもストーリーの存在を感じる。
曲のエンディングが次の曲のイントロになるなど構成もきめ細かい。
全体に、ソロよりもアンサンブル指向でありシンフォニックな味わいは強い。
また、ピアノやチェロといったアコースティックな楽器も効果的に使っており、正統クラシックの重厚荘厳な雰囲気も醸し出されている。
リズム表現こそ弾力に富むが、いわゆる「ファンキーな」ジャズロックとはニュアンスの異なる音楽だ。
アナログ・シンセサイザー含め、多彩なキーボードの音も本作品の特徴だろう。
「Huascaran I」(13:42)
ジャズロックの表現手法で雄渾なロマンあるストーリーを描いた作品。
テクニカルな疾走とリリカルな歌を巧みに配し、全編にドラマチックな流れがある。
おおまかな構成は、シンセサイザーによるファンタジックな導入部、ギター・リフがシンセサイザー・ソロをドライヴするファンキーかつスペイシーな第二部(ここまで、シンセサイザーのサウンドがニール・アードレイ(Neil Ardley)の諸作によく似ている)、
ピアノとチェロのデュオによる厳かな第三部、哀愁のヴォカリーズがメロディアスなテーマを提示する第四部、躍動感あふれる RETURN TO FOREVER 風の演奏の最終部、の五部である。
何より、アナログ・シンセサイザー中心の演奏やアコースティック・アンサンブルにおけるほの暗く透徹なサウンドがいい。
そして、エネルギッシュに跳ねるリズムを強調したパートとしなやかにサステインするメロディを歌い上げるパートを巧みに対比させ、やがては一つの流れに収めてゆくというアレンジの妙がある。
スタイルこそ当時の流行であるジャズロック/フュージョンではあるが、そういう音に期待される「熱気」や「グルーヴ」はここでは一部に過ぎず、どちらかといえばフォークの弾き語りを出発点にした内省的でスピリチュアルなものや悲劇の果ての無常感を感じる。
そして、シンセサイザーを中心にしたオーケストラルなアレンジがジャズロックとシンフォニックなプログレッシヴ・ロックの間をうまく橋渡ししている。
特に印象的なのは、透き通るようなシンセサイザーの響きが支える哀愁のヴォカリーズとむせび泣くギターの調べ。
本曲だけでアルバムの全体の評価を決定づける、美しくスリリングなシンフォニック・ジャズロックの傑作である。
グリグラクの作品。
「80000」(7:30)
神秘的な広がりと深みを感じさせる、初期 RETURN TO FOREVER 風の序盤から、へヴィでダイナミックな演奏へと変貌を遂げるハード・タッチのジャズロック。
ここでも、エレクトリック・ピアノが現われると一気にスタイリッシュなジャズロックになることが分かる。
へヴィなロックギター(ハムバッカー特有の太く深い音である)によるワイルドなプレイとジャジーなエレクトリック・ピアノ、シンセサイザーという二つの楽器が、せめぎあってはリフとソロに収束し、役割を交代してはソロの応酬で挑発し合うといった、つかず離れずのスポラディックな対話を繰り広げる。
この辺りは、ジャズのインプロヴィゼーションの表現法だろう。
スコアというよりはその場での呼吸でいかようにもなるに違いない。
ワウ・ギターが理屈抜きにカッコいい。
メカニカルな変拍子パターンを交えて変化をつけるところもおもしろい。
イメージとしては、NEW TROLLS や P.F.M といったテクニカルなイタリアン・ロック・グループのジャズロック時代の作風に非常に近い。
6:00 あたりからは典型的なフュージョン・スタイルの痛快な演奏が始まる。
ベルカの作品。
「Solidarity」(6:35)
8 分の 6 拍子特有の前のめりなリズムがドライヴする軽快なジャズロック作品。
ミニマルな展開とアブストラクトなテーマが特徴である。
執拗なパターン反復は中後期、「Seven」あたりの SOFT MACHINE を思わせる。
このパターンの上で、ユニゾンによるカントリー風のテーマ提示を経て、ギターはジャジーなオクターヴ奏法でアドリヴを決め、シンセサイザーは管楽器を模したプレイを放ち、やがてギターとシンセサイザーのソロが交錯したまま、アドホックで気まぐれ調ながらも飛翔を続けてゆく。
ギター、キーボードともにオーヴァーダブされてバッキングとソロを幾重にも折り重ねており、あたかも迷宮のような立体感を生み出している。
エンディングでは突如暗転し、アコースティック・ピアノ独奏によるテーマの変奏から雄大なシンセサイザーの調べへと進む。
ベルカの作品。
「Huascaran II」(11:11)
強靭なグルーヴを打ち出して華やかなエンディングを飾るハード・ジャズロック。
ハービー・ハンコック流のファンキーさをハードロックの大仰さでデフォルメしたような演奏である。
ストーリー的には、登頂の成功を祝うお祭りムードを表現しているのだろう。
序盤はベースの轟音リフとともにギターが提示するシャープなテーマにしたがったタイトな演奏である。
アクセントの配置が独特なため変拍子に聴こえる。
GENTLE GIANT がよくやるスタイルだ。
見せ場は、ファンキーに刻み跳ねるクラヴィネットのバッキングに支えられた、伸びやかなギター・プレイとスペイシーなシンセサイザーのソロ。
特にシンセサイザーのプレイは、空間の広がりを活かした流麗なフレーズとテクニカルな速弾きパッセージを交えた最高のパフォーマンスである。
中間に穏やかでやや神秘的なブリッジをはさむ演出もいい。
テーマを回想し、真のエピローグは永遠に続く鳥のさえずりと鼓動である。
「生存」と「安寧」の象徴だろうか。
グリグラクの作品。
グリグラクの作品。
以下、ボーナス・トラック。
後のアルバムの作品のように、ストレートにファンキーな曲調が顕になっている。
「"15"」(4:00)
「Valparaiso」(6:06)
「Perpetuum 1.」(2:17)
シンフォニックなジャズロックという点では、1 曲目が演奏、アレンジの面で抜きんでている。
多彩な表現で曲の色彩を決定するシンセサイザーを駆使したジャズロックであり、メインストリームのスタイルに依拠しつつも、いわゆるフュージョンとは音楽性が異なる。
ギターのプレイは技巧的ながらもストレートな表現を見せ、一方キーボードは緻密な音色構成とプレイで目を見張る存在感を放っている。
このグループの最大の特徴は、このギターとキーボードの双頭体制である。
クールなストリングス、メタリックな ARP シンセサイザーは、キャッチーさとノリ一辺倒になりがちなジャズロック系の演奏に冷静で精緻、知的なイメージを加えている。
そして、それがそのままプログレッシヴ・ロックらしさにつながっている。
(BONTON 71 0317-2)
Tomas Berka | synthesizer, keyboards, vocals |
Frantisek Griglak | guitar, keyboards, synthesizer, vocals |
Fedor Freso | bass, vocals |
Karol Olah | drums, percussion |
80 年発表の作品「Dunajská Legenda」。
ベーシストが COLLEGIUM MUSICUM、M-EFEKT のフェド・フレソに交代、前作ではゲストのようだったメンバーも抜けて、四人編成となった。
内容は、シンセサイザーを多用したテクニカルなジャズロック。
スペーシーでまろやかなタッチのサウンドにもかかわらず徹底して性急なシンセサイザーと、これまた攻め捲くるギターによるえげつないバトルが繰り広げられるところが特徴である。
前作までのシンフォニックなトーンにファンク的なノリも加え、ややメローなフュージョン・タッチも現れている。
キーボードはサウンド面でもプレイ面でも今回も冴えており、ギターとの応酬からクラシカルな演出まで幅広くカバーする。
やはりこのキーボード・サウンドが、作風の要といえるだろう。
また、ファンキーな曲調においてすら、ずしっとドスを効かせているリズム・セクションもすばらしい。
凝ったアクセントをもつ変拍子リフやねじふせるようなアンサンブルは、いかにも硬派のイメージである。
テナー・ヴォイスによるヴォカリーズも、なかなかいい感じだ。
ファンキーさと冷ややかな翳りのある超絶技巧が共存する(やはり初中期の RETURN TO FOREVER のラテン色を抑えたイメージだろう)ため、シンフォニック・ロック・ファンでも十分対応可能と思われる。
変拍子のリフをボトムに、テーマではテクニカルなユニゾンを駆使してソロをつないでゆく。
そういう典型的なジャズロック・スタイルながらも、アコースティック・アンサンブルや「引き」の空間的な音響、厳かなストリングスなど、クラシカルな感覚を感じさせる。
シンセサイザーを用いたシンフォニックな雰囲気作りも巧みである。
前作に比べるとトータル性という制約がないせいか、リラックスした純ジャズ的な奔放さが前面に出ているようだ。
それでも、変則的なリズムへの執着など、リラックスしたグルーヴに頼りっぱなしのメインストリーム・フュージョンとは一味違う芯がある。
オープニング曲のリフがサウンドの方向性の変化を象徴するが、2 曲目の叙情的、劇的な展開で一安心できる。
タイトルは「ドナウの伝説」か?
「Wlkina」(4:04)ファンキーでアッパーなリフ、ユニゾンで迫るグルーヴィなジャズロック。
ギターとシンセサイザーのハードなやり取りが特徴的。
ファンキーだが軽くない。
「Chotermir」(6:08)アコースティック・ギターに導かれるブルージーなシンフォニック・チューン。
弦楽奏もフィーチュアし、ギターとシンセサイザーはトラジックなテーマを歌い上げる。
しかし 4:30 辺りからは、もろに RETURN TO FOREVER なテクニカル・ジャズロックと化す。
「Witemir」(3:12)アコースティック・ギターとスキャットをフィーチュアしたメローでスタイリッシュなバラード。
この手の作品は、さりげないオブリガートが決まるかどうかが勝負の分かれ目だが、みごとに決まっていて痛快。
エンディングのエレクトリック・ピアノが美しい。
MARK-ALMOND はもとより、SHOGUN や CREATION のファンも唸りそう。
「Unzat」(5:43)ドスの効いたベース・リフ主導による BRAND X ばりの変拍子ハード・チューン。
ハードなリフを軽くいなして切り返すアンサンブル、ギターのようなサスティンで迫るシンセサイザー、猛烈なロールで油を注ぐドラムス。
ここでもアナログ・シンセサイザーの音色がいい。
「Trebiz」(6:09)個性的な風格のあるキーボード・ロック。
目のさめるようなピアノのリフレイン、そして重厚なシンセサイザーが迫るインパクトあるオープニング。
変拍子の反復を基調に、多彩なキーボードが舞い踊る。
フュージョン・タッチのシンセサイザーによるシンフォニック・プログレといえばいいだろう。
軽妙なようでいて、どこかクラシカルなところが、デイヴィッド・サンシャンスとの違いである。
「Zilic」(3:26)スキャットをフィーチュアしたクールでリズミカルな作品。
シンコペーションした裏のアクセントのせいで独特の蹴つまづくようなノリである。
ファンクの解釈の一つ。
後半のゴリゴリなギター、シンセサイザーのテーマ変奏がすごい。
「Zuemin」(4:47)ギターが主役に回ったファンキー・チューン。
しかし、キーボードのテーマは再びシンコペーションによる変則リズムであり、イージーなノリや開放感はない。
ミドル・テンポで、抑制されながらもバネの効いた演奏を繰り広げる。最後はサムい。
「Kocel」(5:19)丹念なドラミングとともに、ギターとシンセサイザーが自在に螺旋を描き、それでも全体としてはまっすぐ着実に進んでゆくパワー・チューン。
深宇宙的なサウンドでグルーヴィなプレイを打ち出してゆく、このグループらしいフュージョンである。
息詰まるユニゾンと開放、降りしきるストリングス、感動的なエンディングだ。
高度な演奏技術に裏打ちされたシンフォニック・フュージョン・インストゥルメンタル。
ARTI E MESTIERI ですら顔色が悪くなるようなハイ・センスである。
スピード感こそさほどでないが、キメのユニゾンや変拍子を刻みつつも独特のグルーヴを生み出してしまうところがすごい。
そして、スティヴィー・ワンダー並みのキャッチーなテーマという点では、並のフュージョン・グループをとっくに追い越している。
シンセサイザーを積極的かつ効果的に盛り込んだジャズロックという点でもユニークだ。
シンフォニックな高揚感と同時に悠然としたおちつきがあるのもこのキーボード・ワークに負うところが大きい。
奇数拍子は元来中央東ヨーロッパのダンスでは普通というから、素地が違うということなのかもしれない。
メインストリーム・フュージョンにシンフォニックな趣を加えた佳作である。
(OPEN MUSIC OP0048 2 311)
Frantisek Griglak | guitars |
Tomas Berka | keyboards |
Fedor Freso | bass, mandolin |
Karol Olah | drums, percussion |
80 年発表の作品「Biela Planeta」。
内容は、ほぼ前作路線を踏襲した重量感あるジャズロック。
リフを軸とする跳ねるようなうねりのある演奏だが、いわゆるファンク風、「ファンキー」という感じがあまりしない。
一つには執拗な変拍子のせいであり、もう一つは異様な力強さによるのだろう。
スペイシーなアナログ・シンセサイザーとハードロック調のパワフルなギターのコンビネーションを主役にした演奏は、豪快にして濃厚で、極太のナタを叩きつけるような威力と迫力がある。
ロックンロールにしても、独特の重量感がある。
このパフォーマンスの強面は、練達のジャズの素養に 70 年代初頭のブルーズ・ロックやハードロックを重ねて生まれたジャズロックだけが持ちうるものだ。
フュージョンの開放感や清涼感とはまったく趣向を異にする音である。
また、重量級ファンクのうねりの上でアナログ・シンセサイザーがシンフォニックに高まる場面も多い。
ギタリストはシングルトーンがパワーコードに聴こえるハムバッカーらしい音で豪快に弾き捲くっている。
エキゾチックなアコースティック・ギターもいい。
曲名はこの惑星を旅して地図の空白を埋めた伝説の探検家達の名前になっている。
「Cook」(4:29)雄々しきハードロックなギターとピアノをフィーチュアしたヘヴィ・ファンキー・チューン。ノリノリだが重すぎる。
ギターとシンセサイザーのユニゾンがカッコいい。グリグラクの作品。
「Magellan」(5:20)シンセサイザーのソロをフィーチュアし、変拍子のテーマ/リフでドライヴするアブストラクトな作品。WEATHER REPORT にもありそうな作風だが、こちらの方がプログレっぽい。べルカの作品。
「Amundsen」(7:05)序盤と終盤のレゾナンスを効かせたシンセサイザー・サウンドが印象的なファンキー・チューン。テーマはギターとシンセサイザーの一糸乱れぬユニゾン。シンセサイザー・ソロではピッチ・ベンドを駆使してギターのアドリヴのニュアンスを出している。後半はブギー調でギターも伸び伸びと歌い、開放感がある。グリグラクの作品。
「Polo」(3:36)リズミカルな快速チューン。ギターとエレクトリック・ピアノが軽快なリズムを刻み、アナログ・シンセサイザー特有の濃い音色でいかにもフュージョンらしいテーマを奏でる。
ギターは遮二無二攻め立てる。
メロトロン風のシンセサイザーの低音が存在感アリ。べルカの作品。
「Da Gama」(4:25)攻撃的なハード・ジャズロック。
ジェフ・ベックの作品を思わせる強烈なベース、ギターのリフ。しなやかで凶暴だ。スリリングなキメのユニゾンもカッコいい。一推し。べルカの作品。
「Humboldt」(5:23)シンセサイザーがリードするスペイシーかつややエキゾチックな作品。
中期 GONG の雰囲気も。
呪文のような変拍子のテーマを繰り返すが、ギターのオブリガートに代表されるように若干リラックスした表情もある。グリグラクの作品。
「Kolumbus」(3:54)アコースティック・ギターとマンドリンによるメランコリックなバラード。
日本人の趣味に合う哀愁である。グリグラクの作品。
「Livingstone」(5:56)ミステリアスな変拍子テーマがドライヴするアブストラクトな曲調をギターとシンセサイザーのユニゾンが遮二無二突き破ろうとしているかのような作品。
未来的なサスペンス。アルバムの締めとしては謎めきすぎている気がします。べルカの作品。
(OPEN MUSIC OP 0046 2 311)
Frantisek Griglak | guitars |
Juraj Bartovic | keyboards |
Tomas Berka | keyboards |
Dalibor Jenis | bass, mandolin |
Karol Olah | drums, percussion |
Fero Griglak | vocals on 4,6 |
Juraj Bartovic | vocals on 1,2,4,5,6,7,9 |
84 年発表の作品「Ad Libitum」。
アリーナ・ロック全盛時代と同期を取って、ハードで緻密なインストゥルメンタルを残しつつもヴォーカルを中心にしたプログレ・ハード系の作風となった。
深く冷たい空間を意識させるサウンドおよび骨太でヘヴィ、なおかつ精緻でファンキーという相反する要素を一つにしたインストゥルメンタルはそのまま変わらず。
楽曲だけがコンパクトになっている。
キーボーディストとベーシストが新加入。
シャウトを決めるヴォーカルとともにギターのプレイがハードロック風のリフを前面に押し出すところが新鮮だ。
東欧ロックらしい重厚で黒光りするようなシンセサイザーのサウンドも健在。
8 曲目、10 曲目(ソロありのドラムンベースをイントロにした硬派ジャズロック・チューン)はインストゥルメンタル。
抜群の演奏力はこの二曲のインストゥルメンタルで爆発的に解き放っている。
9 曲目はポール・マッカートニーのバラードを思わせる作品。
「World On The Boards」(4:17)
「How Do You Do」(8:20)
「S. O. S.」(1:42)
「Forget Me」(5:16)
「Get In The Right Train」(3:08)
「First Downfall」(4:38)
「I Don't Know Why」(4:47)
「Post Scriptum」(3:04)
「Don't Turn Around」(3:19)
「Ad Libitum」(7:09)
(OPUS 9113 1580)