スウェーデンのプログレッシヴ・ロック・プロジェクト「Pär Lindh Project」。 クラシックからジャズまでをカバーするマルチ・キーボード奏者パル・リンダーによるプロジェクト。 94 年アルバム・デビュー。 ユニット名のアクロニムからして EL&P、特に、キース・エマーソンへの思い入れの強さが分かる。 2010 年新作「Time Mirror」発表。
Par Lindh | keyboards, drums, percussion |
Al Lews | vocals, drums, percussion |
William Kopecky | bass |
2010 年発表の作品「Time Mirror」。
内容は、リンダー氏のキーボードをフィーチュアしたキーボード・ロック。
本作でもガンコなまでに EL&P のキース・エマーソン流を窮めており、近年のメタル風味を強める本家系バンドと比べると、格段に本家の元の作風に近い。
小林幸子が美空ひばりの初期レパートリーをひばりそっくりに歌っている、ということである。
さらには、ストリングス系のサウンドを駆使したオーケストラ風の音作りを大幅に盛り込んで、本家以上のクラシカルな重厚さや壮大さ、ロマンチシズムを演出している。
チャーチ・オルガン弾き倒しもある。
そして、クラシカルな部分はもちろん、ジャズ、ラグタイム、ホンキートンクといった「崩し」にも大きく踏み込んでいる。
いやむしろそちらがメインになっている。
ピアノやクラヴィネットによるリズミカルなオールド・ジャズはほんとうに鮮やかだ。
個人的には、ハモンド・オルガンでソウル・ジャズ風とクラシックを融通無碍に行き交うところに一番の魅力を感じている。
また、最終曲の後半には EL&P スタイルというよりは往年の東欧/ロシア・ロック風というべきクラシカルな展開がある。
これはかなり新鮮だ。
残念なのは、ヴォーカル・パートにあまり冴えがないこと。
メロディ・ラインがべったりした「クラシック」路線なこと、ヴォーカリストの歌唱がパワー不足なことが原因だろう。
全体に、楽曲よりもキーボードのプレイにポイントをおいた方が馴染みやすい作品だと思う。
名手必ずしも名作曲家足りえず、などといってもしょうがない、とにかくアレンジャーまたはプロデューサーに名人クラスを配して、リンダー氏のプレイを活かしてほしい。
ヴァイオリン、トランペットにゲストを迎えている。
また、KOPECKY 三兄弟のウイリアム・コペッキー氏とは米国ツアーで知己を得たようだ。
「Time Mirror」(17:09)
「Waltz Street」(4:50)
「With Death Unreconciled」(10:06)
「Sky Door」(9:44)
(CLSCD 111)
Pär Lindh | mellotron, synthesizer, hammond organs | Mattias Olsson | drums, percussion |
Johan Hogberg | bass | Jonas Engdegard | guitar |
Bjorn Johansson | classical guitar, basson, tin flute | Roine Stolt | acoustic guitar |
Hakan Ljung | lute | Lovisa Stenberg | harp |
Anna Holmgren | flute | Mathias Jonsson | lyrics, vocals |
Ralf Glasz | vocals | Camerata Vocals | choir |
Magdalena Hagberg | vocals | Jocke Ramsell | guitar |
94 年発表の第一作「Gothic Impressions」。
内容は、チャーチ・オルガンまで持ち出す大仰なるキーボード・シンフォニック・ロックの力作。
ヴィンテージ・キーボードを用いて繰り広げられる演奏は、本格クラシック、トラッドとモダンな HR/HM を直結したものである。
楽曲の大半は 70 年代に作曲されており、今でこそそのゴシック調の強さから HR/HM との近しさを感じさせるものの、当時はハードロックもプログレもなかったので(雑)、キーボード・ロックの王道といっていいだろう。
ただし、往年のキーボード・ロックにありがちなケレン味よりも、教会音楽やクラシックの厳粛さ、荘厳さを素直に生かしたロックという印象である。
これをキース・エマーソンやリック・ウェイクマンほどの卓越した演奏家としてのミクスチャー感覚がないと見るか、いや初期の GENESIS と同じ素朴なセンスによる卓越したクラシカル・ロックあるいはクラシックの叙情性とスケール感を生かした初期 KING CRIMSON 影響下と見るかは、人それぞれである。
メロトロンもためらいなく使っているので、どちらかといえば後者に近い感覚だと思われる。
名前ほどは EL&P ではないのだ。
(名手マティアス・オルセンの太く武骨なドラミングとアンサンブルとの相性が今ひとつに感じられるのは、EL&P の破天荒さと、カール・パーマーのお囃子的な手数の多い鼓笛隊型のドラムスに慣れきってしまった、わたしが悪いのだ)
何にせよ、歌もののメロディ・ラインや英語で歌うヴォーカリストの表情など若干の弱みはあるが、強力な世界観は提示していると思う。
特に、フルート、メロトロン、リュートなどを用いた古楽/トラッド系の演奏は、すばらしいものだ。
全体としては、ヴィンテージ・キーボードを駆使して壮大な楽曲を奏でるスケールの大きいエンターテインメントであり、甦るキーボード・ロックとしてプログレ史上に残る力作といえるだろう。
演奏には、多彩なゲストを迎えている。
ベース担当のヨハン・ホグベルグ、ドラムス担当のマティアス・オルセン、フルート担当のアンナ・ホルムグレンは ANGLAGARD のメンバー。
アコースティック・ギターで参加のロイネ・ストルトは、THE FLOWER KINGS のリーダー。
「Dresedn Lamentation(ドレスデン哀歌)」(2:06)ストリングス、オルガンを模すシンセサイザーによる荘厳なる序章。
厳粛。
鐘の音、管楽器含め、本物のオーケストラと何らかわりはない。
ひたすら美しく哀しい。
「The Iconoclast(偶像破壊者)」(7:05)湧き上がるティンパニとチャーチ・オルガンによる雄大なる幕開け。
力強いリズムとともに、苦悩するオルガンのテーマが迸る。
ヴォーカルは、柔らかな声質の本格派だが、器楽ほどには存在感がない。
リズムもやや単調に聴こえてしまう。
オルガン、シンセサイザーが渦巻き、高鳴る演奏がみごとなだけに残念。
中盤のモノローグとチャーチ・オルガンの重厚な演奏からカデンツァへ。
ここはすばらしい演奏だ。
再び、骨太のドラムスとともに演奏は走り出し、ムーグ・シンセサイザーが軽やかに、しかしダイナミックにリードする。
チャーチ・オルガンのオブリガートは圧巻。
歌メロは、器楽の重厚さに比べるとニ流のハードロックのようで、やや興が醒める。
オルガンとともにリタルダンド、和音が迸り轟々たるエンディング。
そして、エピローグには厳かな混声合唱が湧き上がる。
さらに枯れ果てたフルート調のメロトロンが流れる。
みごとな演出だ。
ここのメロトロンは、それまでの展開を吹っ飛ばすくらい存在感がある。
古い映画音楽を思わせるノスタルジックで心揺さぶる音色だ。
シンプルな展開ながらも、多彩な音楽性と圧倒的な演奏を見せつける作品。
ロックの部分がもっとも決まらないのが問題か。
ドラムスのスタイルに違和感を覚えるのは、おそらく、私が慣れていないだけでしょう。
ヴォーカルは、原語による方が、ゴツゴツした感じが出てかえってよかったような気がする。
タイトルはモロですが。
「Green Meadow Lands(緑の草地)」(7:25)フルートとチェンバロによる哀愁のデュオ。
メロトロンのように枯れたフルートの調べが、胸に迫る。
チェンバロも、典雅だが哀しげであり、全体にバッハのソナタやコンチェルトを思わせるバロック宮廷音楽風のアンサンブルである。
受けてたつは、重厚なストリングスとメロトロン・コーラス。
チェンバロは、レースのように華やかな襞を広げる。
つぶやくように歌いだすヴォーカル。
ドラムスが静々とリズムを刻み、ギターがそっとヴォーカルに寄り添う。
サビはメロトロンが静かに押し上げ、丹念なリズムとアコースティック・ギターが静かにつきしたがう。
たおやかなフルートとシンバルのさざめき。
「宮殿」である。
間奏は、ややトラッド風のフルート・ソロ。
フルートとエレキギターによるリフレインが動きを呼び、再び、ていねいなリズムが始まりオルガンが高らかに歌い上げる。
そしてヴォーカル・パートへ。
ギターの伴奏もロバート・フリップ風だ。
続く間奏は、アコースティック・ギターとメロトロンによるバロック風のデュオ。
夢見るようなヴォーカルが戻り、アコースティック・ギターとメロトロンが静かに伴奏する。
初期 KING CRIMSON を思わせる、重厚にして幻想的なエレジーである。
ほのかな光が見える終盤は、クラシカルである以上に、ブリティッシュ・ロックの伝統を感じる。
前曲よりはドラムス(リンダー氏本人の演奏か)は自然(マイケル・ジャイルズ路線)。
ヴォーカルは、やや表情が硬いものの、空ろな感じが曲調に合っている。
「The Cathedral(ザ・カテドラル)」(19:34)
オープニングは、荘厳ながらもロマンティックな響きをもつチャーチ・オルガン・ソロ。
タイトル通りの正統バロック教会音楽である。
メランコリックでロマンティックなタッチは 軽やかな 3 拍子によるのだろう。
オルガンを受け止めて、静々とバンド演奏が動き出す。
モテット、コラールといったイメージたっぷりのノーブルで細身の男声ヴォーカル。
リズム・キープとベース・ラインがやや単調でデリカシーを欠くため、歌とオルガンのつくり上げた緊張を解いてしまうのが残念。
厳かな「起」。
一転、ハモンド・オルガンの叩きつけるようなリフ、シンセサイザーが高まり、HR ギターのトリルや暴れるベース・ラインが口火を切って、モダンな演奏が始まる。
パーカッシヴなオルガンの和音、ベース連打がエネルギーを溜め込んでは、炸裂する。
もっとも、本格的な HM と昔のプログレの中間ぐらいのニュアンスであり、中途半端な感じもあり。
変拍子ユニゾンの重量感溢れるキメが不気味なパワーを放つ。
ディミニッシュの変拍子オスティナートがカッコいい。
シンセサイザーはおとなしめだがギターとのやり取りという点ではバランスはいい。
凶暴なベースとナタを振り下ろすようなドラムスなどリズム・セクションは、完全に ANGLAGARD であり、音は個性的で面白いが、リズムそのものはややもたついているような。
激しい「承」。
一転、哀愁のクラシック・ギター・ソロ。
鮮やかな場面転換だ。
枯れ果てたメロトロン・フルートとメロトロン・ストリングスの響き、そして序章の男声ヴォーカルが復活する。
ホロコーストの果ての限りない浄化のようなアンサンブルに、オルガンも加わり、宗教的で厳かな空気が高まる。
ヴォーカルはもう少し存在感が必要だ。
竪琴のこの世ならぬ美しい響きは、突如噴出したシンセサイザーによる勇壮なマーチに破断される。
柔和なる「転」。
アナログ・シンセサイザーの奏でる軽快なるマーチ。
レゾナンスが効いたシンセサイザーとオルガンとのハーモニー、ユニゾン、オブリガートなど、キーボードのコンビネーションも冴える。
リズムは、軽めながらも、キーボード中心の演奏を堅実に支えている。
キーボードのプレイは、クラシカルなフレーズをややイージーに崩したようなスタイルである。
チャーチ・オルガンやクラヴィネットのような音も加えて突き進み、やがてメロディアスな HM ギターも現れる。
たなびくような伴奏はオルガン。
上品なヴォーカルへと回帰し、ファンタジーへと昇華するも、演奏がとっ散らかっているためにいまひとつ展開に説得力がない。
再び、オルガンのリードで力強いトッカータ風の演奏へと変化。
オルガンのパワーでねじ伏せようとするところが、なかなか奏効している。
キーボードが主導権を握った方がまとまりがあるようだ。
オルガン風のシンセサイザーによるイタリア風のリズミカルで典雅な演奏が続いてゆく。
厳かなチャーチ・オルガン演奏によって、序章へと回帰。
跳躍感あるフーガは、フランス・バロック風というべきか。
このエンディングのオルガン演奏には、中盤を忘れさせてしまうだけの説得力がある。
荘厳な和音のとどろきとともに大団円。
厳粛なる「結」。
四-五部構成の重厚かつ劇的な組曲。
厳かにして激情をほとばしらせ、苦悩と嘆きにおぼれながらも、歩みを止めるなというメッセージが伝わる。
大聖堂での厳粛なるミサ、さまざまな思いが祈りとともによぎる、そんな情景が浮かびます。
オルガン、メロトロン、シンセサイザーなどキーボード器楽を生かした場面構成はすばらしい。
チャーチ・オルガンの存在感と比べると、通常のバンド演奏のパートがややおとなしめで、メリハリがないところが残念。
「Gunnlev's Round(ガンレフズ・ラウンド)」(2:52)
軽やかなフルートをリュートのアルペジオが支え、チェンバロ通奏低音がおだやかに寄り添うアンサンブル。
素朴なテーマによるバロック風のトリオ・ソナタだ。
女性の柔らかなスキャットも加わり、軽やかで華やいだ雰囲気となる。
フルートによるテーマにストリングスが緩やかに高まり、厳かなヴォカリーズと重々しいチェンバロの和音。
オーボエの雅な調べをヴォカリーズとチェンバロが追いかける。
今度はチェンバロとオーボエ・のデュオ、そして典雅なトリルに誘われて、甘やかなヴォカリーズ。
リュートが和音を掻き鳴らす。
チェンバロの重厚なアルペジオとティン・ホイッスルの舞。
ティン・ホイッスルが踊り続け、ヴォカリーズが重なると、ゆったりとリタルダンド、チェンバロの重い低音で終る。
バロック・アンサンブルによる美しいトラッド風小品。
チェンバロの重みのある透明な音色が印象的だ。
管楽器はシンセサイザーによるシミュレーションの可能性もあるが、基本はアコースティック楽器に適宜エフェクトを使用した作品だと思われる。
「Night On Bare Mountain (incl.Black Stone)(禿山の一夜)」(13:50)
パワフルでストレートなアレンジが活きた傑作。
ムソルグスキー自身の人生を髣髴させる陰鬱なトーンがいい。
極端な動静のコントラスト、その切りかえの妙、幅広いダイナミック・レンジ。
注目はドラムス。
手数の多さは当然として、雷鳴の効果音や強烈なアクセントなど、打楽器本来としての使い方が活きており、演奏の迫力を支えている。
(これを 4 曲目の様なオリジナル曲でも見せてほしかった)
また、極めて描写力のある映像的な演奏になっているが、これはおそらく原曲のなせる技でもあるだろう。
シンセサイザーのサウンド、爆発的なオルガンのプレイはすばらしい。
キーボードによる管弦楽シミュレーションは THE ENID を思わせる出来。
終盤の叙情的な場面の語り口がすばらしい。
大仰で弩派手な演奏としても、ダイレクトな解釈にしても、同曲のアレンジものとしてピカイチである。
(CLSCD 101)
Pär Lindh | mellotron, synthesizer, hammond organs |
Nisse Bielfeld | drums |
Marcus Jaderholm | bass |
Jocke Ramsell | guitar |
Magdalena Hagberg | vocal on 4 |
95 年発表の 4 曲入りミニ・アルバム「Rondo」。
全体の印象としては、一気にキース・エマーソン化進展す、であるが、作品は EL&P 路線まっしぐらから、意外なエレクトロニック・ミュージックまで濃密にして多彩である。
なににせよ、ハモンド・オルガンさばきは、一聴の価値はあると思う。
ただし、ドラムス、ギターのプレイが完全に HM スタイル。
交友関係に問題があるのではないだろうか。
「Rondo」(7:01)ここまで真似するかいなと大口アングリな、デイヴ・ブルーベックの「Rondo」。
エマーソンに比べるとオルガンの音色があまり尖がっておらず(何か加工の仕方が異なるのだろう)、プレイもどこかクラシック然と整っており、お行儀がいい。
グリッサンドによる叩きつけるような決めのフレーズがないのは、こちらの方が原曲に忠実だということだろうか。
手数が多くうるさいドラムスは誰かを思い出すが、こちらはひたすらシャフル・ビートを刻むだけなので、さらに単調である。
ギターが入ったせいでやや安っぽくなってしまったのも残念。
シャープなスピード感はみごと。
「Allegro Percussivo Flumerioso」(0:58)カール・パーマーのソロ曲のような電気処理したパーカッション・ソロ。
演奏はリンダー氏。氏はドラマーでもある。
「Jazz Eruption」(2:36)キース・エマーソン流ジミー・スミスといった趣。
本格的にジャズになっているところは、なかなか勉強家だ。
タイトルの "Eruption" という単語も思い入れが見えて微笑ましい。
ただし、ジャズメンになり切るにはリズムが重過ぎ、スウィングしないのが難点。
リンダー氏自らがプレイした方がよかったかもしれない。
「Solaris」(11:31)一転して音響実験の如きフリー・ミュージック。ドイツ系。
オルガンやメロトロンをイコライズ/変調した波打つような音が折り重なりながら流れてゆく。
白黒映画の映画音楽をコラージュしたようなメロトロンの響きが切ない。
粒子の飛び交う無機世界に仄かに漂うエモーション。
テーマはスウェーデンのフォークソング。
(CLSCD 102)
Pär Lindh | percussions, mellotron, synthesizer, organ, harpsichord, piano |
Bjorn Johansson | classical guitar, electric & slide guitar, bass, bassoon, programming |
Anna Schmidtz | flute, oboe |
Magdalena Hagberg | vocals |
96 年発表の作品「Bilbo」。
トールキンの「ホビットの冒険」(「指輪物語」の前段)から着想したコンセプト・アルバム。
第一作にゲスト参加していた、ビヨルン・ヨハンソンとの共作による 1 時間以上にわたる大作だ。
トラッド調の牧歌的テーマとクラシカルなアンサンブルを用いて、「ボ・ハンソン」的ともいえるファンタジーの世界をインストゥルメンタル主体で描いている。
オーボエ、フルート、アコースティック・ギターのプレイはクラシカルであるとともに、爽やかな愛らしさを演出しており、ていねいなアンサンブルとともに、本作の魅力の基調となっている。
女性ヴォーカルも、うますぎないのがかえって素朴でいい味わいだ。
リンダー氏は安定した技巧で演奏にメリハリをつけるが、ときおり意表をついた過激な爆発があり、冷や汗をかく。
とはいえ、エレクトリックなキーボードとアコースティックな音のバランスは自然であり、キーボーディストとしてリンダー氏がいい腕を見せているのも確かである。
マイク・オールドフィールドそのもののようなギター・プレイも、北欧独特の「歌謡曲」メロディとよく合っている。
9 曲目の大作でのタランテラ風のテーマは秀逸。
全体に、リンダー氏のソロ名義作よりも全体的なバランスがよく、聴きやすい好作品といえるだろう。
()
Pär Lindh | church organ, grand piano, harpsichord, mellotron, synthesizer, hammond organs, percussion, 12 string guitar | |||
Magdalena Hagberg | vocals | Nisse Bielfeld | drums, percussion | |
Marcus Jaderholm | bass | Jocke Ramsell | guitars | |
guest: | ||||
---|---|---|---|---|
Singillatim Choir | Jonas Bengisson | recorder | ||
Inge Thorsson | violin | Michael Axelsson | oboe | |
Aron Lind | trombone |
97 年発表の第二作「Mundus Incompertus」。
内容は、高尚さと卑俗さを併せ呑む懐の深いキーボード・オリエンティッド・シンフォニック・ロック。
26 分にわたる超大作を含む大作三曲で構成されるアルバムである。
芸風の基調は、若干の薬味で変化はつけるものの、クラシカル(バロック)かつヘヴィ・メタリックな EL&P、KING CRIMSON スタイルのキーボード・プログレである。
ハモンド・オルガンのパーカッシヴで攻撃的なプレイ、古式ゆかしい弦楽を模すメロトロン、金管楽器のように轟くアナログ・シンセサイザーなど 70 年代プログレ・ファン直撃のキーボード・サウンドを誇ると同時に、クラシック、バロック音楽に対する抜群の解釈をアレンジに生かした手腕も称えたい。
EL&P のヘヴィ・メタル的な面とリリカルな面の彫りを深くしたレトロ・モダン・キーボード・ロックの大傑作。
天晴れです。
ヴォーカルやコラールは何語なのでしょうね。
「Baroque Impression No:1」(9:10)
バロック音楽をモチーフに、チャーチ・オルガンからハモンド・オルガン、チェンバロまでを駆使し、メタリックなギターと絨毯爆撃的リズム・セクションをしたがえて、怒涛のパフォーマンスを見せる。
スピード感、重量感、様式美は、第一作よりも洗練された形でまとめ上げられており、同時に音楽の輪郭、デフォルメもきつくなったイメージである。
中盤では、ゲストによるヴァイオリンも巻き込んだ正真正銘のバロック・アンサンブルを演っており、この本格クラシック然とした演奏と攻撃的な(HM 的な、といっていい)プレイの壮絶な落差が、それぞれの魅力を倍加して、激しく荒々しくも凛とするという奇跡的な本作品を支えている。
端的にいって、HM/HR とバロック音楽を、エマーソン風ハモンド・オルガンを媒体に加減乗除なしにそのままくっつけてしまった作品である。
また、開き直った容赦のなさは往年のイタリアン・ロックに通じる。
バッハ、ヴィヴァルディからの引用あり。
「The Crimson Shield」(6:38)
教会旋法らしき女性ヴォーカルをフィーチュアしたアコースティックで神秘的な作品。
ギター、フルート伴奏でたおやかな女性ヴォーカルが厳かな歌唱を見せ、チェンバロの響きとあいまって、気品のある詩情を生み出している。
リンダー氏によると思われる 12 弦ギターのアルペジオが、たまに初期 KING CRIMSON(9th 系)風に聴こえるのは偶然だろうか。(偶然じゃないと思うけど)
けたたましい前曲とのコントラストも際立ち、より味わい深くなっている。
控えめなリコーダーもいい。
「Mundus Incompertus」(26:43)
13 パートに分かれた本曲は、「Singillatim mortales, cunctim perpetui(個は必滅なれど全は不滅なり)」のパート 1、2、3 が、コラール、最終曲がヴォーカル曲である以外は完全なインストゥルメンタル。
1 曲目と同じくひたすら押し捲るキーボードを堪能できる。
チャーチ・オルガン、ハモンド・オルガン、ピアノ、ムーグからメロトロンまでを駆使して、教会音楽、クラシック、ジャズ、ラグタイムなどなどオムニバス風にさまざまな演奏を繰り広げる。
キーボードのプレイは、凄まじくテクニカルなフレーズを次々弾き倒してゆくというよりは、キーボード毎の音色の特性をうまく活かした着実なフレージングを決めつつ、キーボードの切りかえのタイミングのよさで聴かせていることが分かる。
キース・エマーソンほどの無理矢理感がなく、迫力よりも整理された音を重視したプレイに思える。
(同じことを、以前アメリカの CAIRO というグループを聴いたときにも感じた)
一方、手癖のコピーやジャズ・インプロヴィゼーションまでしっかり入っている辺りはさすがである。
9:30 辺りから現れるピアノが、さりげなくウェイクマン、エマーソンのタッチをほのめかせている。
また、ジャズ・フーガはオリジナリティあるケッサク。
とくにすばらしいのは、終盤のヴァイオリン、チャーチ・オルガンによるトラジックなアンサンブルだろう。
ドラムスは全編やたらうるさいが、これがないと感じが出ないのでしょう。
エンディングは確かに痛快だ(まんま EL&P ですが)。
ここ二十年くらいの間にロシア東欧で隆盛するコンセルヴァトワール系キーボード・ハード・シンフォニック・ロックの一歩先を走った、先駆者的位置づけの作品だと思う。
(CLSCD 104)
Bjorn Johansson | guitars, musical saw, flute, bassoon, recorder, keyboards, percussion |
Pär Lindh | piano, organ, mellotron, synthesizer, drums |
Johan Forsman | vocals |
Monika Fors | vocals |
98 年発表の作品「Discus Ursi's」。
マルチプレイヤーぶりを発揮するビヨルン・ヨハンソンのソロ作品。
パル・リンダー氏は、キーボード、ドラムス担当で客演である。
音楽的な内容は「Biblo」を継ぐ。
ただし、かの作品よりもノーブルで落ちつきのあるヴォーカル(英語)を大きくフィーチュアし、プログレ常套句に近い表現が多い。
そして、このヴォーカルのおかげで、クラシカルなプログレ風味の中に GENESIS 風のポップな味わいが浮き出る。
したがって、現代のような細分化されたジャンル分け以前にロックを体験した昔ながらのロックのファンには十分受けそうだ。
リンダー氏は今作でもオルガン、メロトロンなどを駆使して、ドラマを支え彩る的確なプレイを披露する。
またマイク・オールドフィールドに強く影響を受けたらしき粘っこくも誠実なエレクトリック・ギター・プレイも健在。
(アコースティック・ギターはオールドフィールドをはるかに凌ぐ腕である)
攻守を派手にこなす多彩なキーボードと存在感のあるギターによるスリリングなアンサンブルが気品あるヴォーカルを守り立てて素朴なロマンを歌い上げるスタイルは、2 曲目でその成果をしっかりと示している。
クラシカルなシンフォニック・ロックとしては一級品だ。
さらには、3 曲目のように KING CRIMSON のような(もしくは KING CRIMSON 影響下のスティーヴ・ハケットのような)現代音楽的な和声や調子による緊迫感にあふれる演奏もある。
こうなると北欧トラッドの牧歌的な雰囲気から、逸脱(または深化か?)して邪教的、呪術的なムードも現れてくる。
ANGLAGARD の作風に迫るところすらある。
とはいえ、基調は素朴な健やかさ、愛らしさにあり、そのおかげでたとえプログレ・クリシェを連ねても、近年の英国ものやオランダあたりの GENESIS もどきと比べて甘ったるい鬱陶しさや嫌味がない。
これは透き通った表現のみごとさというべきか、はたまた天然脳天気というべきか。
全体としては、単品シンフォニック・ロック作品として 90 年代を代表する一枚といえるだろう。
ギター・プレイを存分に楽しめる。
一部でモーツァルトの引用あり。
最終曲は、本家マイク・オールドフィールド(いや、ボ・ハンソンか?)を十分に意識したトラディショナルでクラシカル、かつエキゾチズムの香り芳しい大作。
ジャケットの「千手熊」は、「ホビットの冒険」の名脇役「ビヨルン」のことでしょう。
そして、この作者のファーストネームも同じようですね。
「Discus Ursi's Prelude」(1:06)
「King Of Gold」(12:26)熱いヴォーカルが物語をリードする GENESIS 風のメロディアスなシンフォニック・ロック。この水準に達したネオプログレ勢は数少ない。
「Time Fracture」(10:01)スリリングなインストゥルメンタル。フルートがリードするジャズっぽい展開やリコーダーが美しいニューエイジ・ミュージック風の展開も交える。
「Pegasus」(14:04)ミュージカル・ドラマ風の作品。変転する場面ごとにギターのリードする情感豊かな音楽が繰り広げられる。往年のブリティッシュ・フォークロックの味わい。バスーンも長閑でいい。
「The Last Minstrel Of Marble」(7:24)ドラマティックなインストゥルメンタル。ベースの効きが GENESIS。リンダー氏の見せ場もアリ。ネオプログレ的でありながら、ブルーズ・フィーリングを強調して独自色を出している。転調の妙。ふつうの HM/HR ギターも上手い。
「Discus Ursi's Rapsody」(20:14)ギター、管楽器がフル回転する GENESIS とマイク・オールドフィールドの好ブレンド。奇想曲と謳うだけあって技巧に凝った多彩なアンサンブルが散りばめられている。それでいて散漫にならず一つのイメージ、素朴で健やかで逞しいファンタジーのイメージを貫いている。ほぼヨハンソン氏の独壇場。インストゥルメンタル。
()
Pär Lindh | keyboards, bass on 6 | Nisse Bielfeld | drums, vocals |
Magdalena Hagberg | vocals, violin | Jonas Reingold | bass |
John Hermansen | guitar | Jocke Ramsell | guitar on 10 |
Marcus Jäderholm | bass on 10 | Niclas Blixt | horn |
Eric Ullman | bassoon | Jens Johansson | flute |
2001 年発表の新作「Veni Vidi Vici」。
ライヴ盤に続くフル・レンス第三作目。
ゴシックなアダージョから幕を開ける本作は、大仰系キーボード・シンフォニック・ロックの第一人者の名に恥じぬ、まさに驚異的作品。
エマーソン直伝ハモンド・オルガン弾き倒し、チャーチ・オルガンのカデンツァ、ショパン・ラフマニノフ系ピアノ、ヨーロッパ映画風ストリングス、メロトロンにツーバス・ロールと美女コラールまで、内容は充実そのもの。
ソロ・パートだけでなく挑戦的なテーマに凝る辺りがさすがである。
音質もすばらしい。
キーボード・プログレ・ファンには孫子の代までの愛聴盤、そしてクラシック・ファンには世界を広げる絶好の機会です。
けったいなタイトルは「来た見た勝った」と戦勝を告げたというローマの故事から。
それにしても、ドラマーがジャズ系のプレイヤーに交代したら、インスト・パートは EL&P の新作といっても通りそうなくらいです。
「Adagio」(0:56)ストリングス・オーケストラ(その名も PLP Sinfonietta!)による厳粛なる序曲。
通奏低音のチェンバロのささやくような響きがいい。
「Veni Vidi Vici」(7:56)
予想通り、前曲の厳かな雰囲気を吹き飛ばすツーバスロール、連打の嵐。
メインのリフからオブリガート、ソロまで、エマーソン風のハモンド・オルガンをフィーチュアする。
抑え目のフレージングがよく似ている。
咬みつくようにアグレッシヴなトゥッティを重厚なチャーチ・オルガンやピアノで受け止めてメリハリをつける。
シンプルな対比を活かした勢い重視のややルーズな構成が、本家よりも METAMORFOSI や L'UOVO DI COLOMBO に通じている。
終盤はジャジーなピアノがリードするコンボで締める。
まとまらなさがいいヘヴィなキーボード・ロック。
「Gradus Ad Parnassum」(13:53)
グランド・ピアノをメインにメロディアスな女性ヴォーカルやバロック・アンサンブルも交えた得意のオムニバス・スタイルで奔放に展開する力作。
途中のイタリア風奇想曲な展開がおもしろい。
主役のピアノがややロマン派風になっているが、基本的には、前作の大作を思わせるスペクタクル。
重厚な場面では受難曲の雰囲気もあり。
リズム・セクションがもう少し場面に合わせたプレイになるともっと荘厳になったかもしれないが、この「クラシックなのに場末ヴォードヴィル調」なところが持ち味かもしれない。
シネマティックなクラシカル・ロック。
「Tower Of Thoughts」(5:00)ネオ・クラシカル HM をモティーフ、ピアノ伴奏、チャーチ・オルガンなどでクラシカル・ロック側に無理やり引き寄せて危うい均衡を図る怪作。
このアンディ・フレイザー風の小うるさいベースは間違いなくあの方。
「River Of Tales」(3:09)ピアノ伴奏による物悲しいバラード。
「Juxtapoint」(4:14)ギターもフィーチュアした快速 HM チューン。
メロトロン、ムーグだけが哀しげに漂う。
キーボードはツマ。
「Le Grand Chambardement」(2:14)無伴奏混声コラール。
「Adagio Con Flauto Et Clavicembalo」(0:55)1 曲目のアダージョのテーマがリプライズ。フルートは聴こえないのですが。
「Hymn」(4:56)再び無伴奏混声コラール、そしてチャーチ・オルガン伴奏によるバロック歌曲。
「The Premonition」(7:32)キャッチーなヴォーカルを活かした正統派キーボード・ロック。
ワイルドなハモンド・オルガンを中心に珍しく普通のシンセサイザー・ソロも交えている。
ヴァイオリンもいいアクセントだ。
邪悪、ミステリアスなムードを取り入れながらも、荘厳な雰囲気を貫き、プレイが HM に傾きすぎないのが好感。
終盤の管弦楽を巻き込んだ盛り上がりがすごい。
(CLS CD 106)
Par Lindh | keyboards, drums, percussion | Bjorn Johansson | guitars, bass, synthesizer, percussion |
guest: | |||
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Magdarena Berg | vocals | Roine Stolt | bass on 3 |
Niclas Blixt | trumpet, French horn | Nisse Mannerfeldt | euphonium, tenor & bass trombone |
Ensemble Macogall | chorus | Erik Hellerstedt | chorus director |
2004 年発表の作品「Dreamsongs」。
魔王サウロンの眷属「黒の乗り手」を描いたジャケット通り(余談、このイラストは 70 年代末に物語の一部だけをアニメーション映画化したものに出てきた乗り手にイメージが似ている気がする)、「Bilbo」に続くビヨルン・ヨハンソンとの共作によるトールキン・シリーズの第二作である。
アルバムは、Dream One から Dream Ten までの十部から構成されている。
その内容は、トラッド調のメロディを中心に、キース・エマーソンばりの勢いのオルガンとピアノとシンセサイザー、マイク・オールドフィールド直系のギター・プレイで編み上げ、管楽器のアクセントを配したシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
親しみやすい旋律を中心にした演奏であり、自然で素朴な味わい、輝くような溌剌さ、心地よくこじんまりとまとまった感じがうまく均衡し、非常に聴きやすい。
トラッド・ミュージック色を散りばめた、厚過ぎない音、押し過ぎない演奏に親しみがもてる。
金管、フルートによるクラシカルで黄昏た味つけもいい。
そして、ドラムスが雷鳴のように轟き、緊張感がグッと高まる場面やシンセサイザーの流れるような筆致とともに走る痛快な場面も用意されている。
つまり、メリハリのつけ方も完璧であり、素朴なファンタジーのイメージを伝える音楽としては出色の出来映えだ。
もちろん、エマーソン風のソウルフルなオルガン(驚いたことに、キーボードがエマーソン化するとベースもレイク化している)などオールド・プログレ・テイストは満載。
(CLSCD 108)