KOPECKY

  アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「KOPECKY」。 96 年結成。ウィスコンシンの「バンド三兄弟」。 作品は、2009 年現在ライヴ盤含め五枚。ベーシストのウィリアム・コペッキーは FAR CORNER でも活躍。 2009 年ドラマーのポール・コペッキー逝去。

 Blood
 
Joe Kopecky guitar
William Kopecky bass
Paul Kopecky drums

  2006 年発表の第五作「Blood」。 内容は、ギターの豊かな表現力を生かしたプログレ・メタル系インストゥルメンタル。 初期はもっと音の薄さが酷薄なイメージにつながっていたと思うが、ここでは機動性はそのままに、轟音スタイルの強調、エキゾチズム、独特の和みテイストなどを盛り込み、より幅の広い表現を試みている。 個人的には、KING CRIMSON、それも 70 年代後期のトリオ KING CRIMSON をそのまま HM 化したように聴こえるところも多い。 さまざまな音質を工夫するベースもさることながら、基本的にはギターのフレーズ、サウンドの面白さを味わうといい作品だと思う。
   FOREVER EINSTEINPHILHARMONIE といった、ギターの表現力を大いに発揮した上で技巧のひけらかしではない個性的な音楽性を示せているグループと同列に並ぶ存在だと思う。
   兄弟バンドだけに「Blood」というタイトルは、「血縁」ということなのでしょう。 個人的に完全インスト、ヴォーカリストの不在のおかげでメタル嫌いのわたしでもアクセスできる音になっていると思っています。

  「Garden Of Immolation」(7:10) HM の攻撃性、暴虐性をとぐろを巻くようにひねくれて押し出した作品。 複雑なリズムの取り方が現代音楽風であり、そのせいで「プログレっぽい」といえるのだろう。 こういった人肌の感じられない金属的、無機的で痛みのある表現が生む効果は美術含め他の芸術ではなかなか味わえない。

  「Infernal Desire Machine」(4:50) 西アジア風のエキゾチズムを放つギターを中心に呼吸のいいアンサンブルを見せる佳作。各パートの主張がうまくまとめられている。

  「Moontown」(7:20)

  「Windowa」(11:21) 本グループらしさを十分に示したサイケデリックでへヴィでヒーリングな逸品である。練習曲風のギター・フレーズを縁取るディレイがいい感じだ。

  「Eden's Flow」(4:58) 東洋風の響きのあるユニークな作品。こういう旋律や和声をアメリカ人はどのように感じるのだろうか。

  「The Red Path」(8:45) マーチ風のシンフォニックなテーマを提示して、ギター HM へと料理してゆく。 ボレロっぽい感じもあり。

  「Opium」(12:56) 物騒なタイトルの本曲では、サウンド・エフェクトも駆使して邪悪でミステリアスな「暗黒面」をじわじわとさらけ出してゆく。

(UNCR 5029)

 Kopecky
 
Joe Kopecky guitar, tambourine, bells, voice
Paul Kopecky acoustic & electric drums
William Kopecky bass, sitar, keyboards

  98 年発表の第二作「Kopecky」。自主制作の第一作に続く作品。 内容は、こういう音の周辺事情に通じていないためはっきりとはいえないが、いわゆるプログレ・メタルと民族音楽を大胆に交差させたもの。 アジアのエキゾティズムを大いに交えた作風である。 演奏は、ザクザクのヘビメタ・ギター、積極的にメロディ・ラインを取るベース、音数を抑えたドラムスのトリオにクラシック調のキーボードが加わっている。 シタールやパーカッションをフィーチュアした完全な民族音楽もあり。 どうにも収まりどころのない味わいなのだが、あえていえば、どんよりした暗さや凶暴なヘヴィさは近年の KING CRIMSON 周辺の音に通じる。 「Discipline」以降にどんどん現れた音の系統の一つだと思う。 ただし、おもしろいことに全体を通してエキゾティックな響きとともに奇妙な「和み」テイストがある。 ワールド・ミュージック系、ニューエイジ系ヘヴィ・メタルと呼ぶのが合いそうだ。 かなりヘヴィな音にもかかわらず、アンサンブルの薄さからか押す力はさほどではない。 そこに紛れるつぶやきのような控えめすぎる主張に耳を傾けたくなる作品である。 全曲インストゥルメンタル。

  1 曲目「Crimson Crime 2-1-3」(4:41) エフェクトでクシャクシャなギターがドラム・ビートとともにメタリックなリフで復活してゆくヘヴィ・メタル・チューン。 しかしリフの重量感はさほどでなく自己主張も弱い。 ジェットマシンで飛ぶところもやや控えめであり、ベースとのかけ合いもワイルドというには程遠い上品さである。 若干歯がゆいような気がする。 タイトルで出自を明らかにしている。

  2 曲目「Sky-Blue Hair」(5:41)なごみのベースと凶暴なギターがブレイクしながら交錯する独特のグルーヴある作品。 「Discipline」そのものなスタッカートもあり。普通のヘヴィ・メタルと思わせて、中盤からシンセサイザーによるスペイシーな音響を貫いてエフェクトされたベ−スが伸びやかに歌う、という意外な展開を見せる。

  3 曲目「Sukha」(3:17)シタールがリードするライトな中近東風ロック。 読経のような民族音楽の世界である。 シタールを追いかけるギターがユニゾンやウラでカッコよくからむ。 こういう作風でもドイツ系とは異なって瞑想的な雰囲気にならずエンタテインメントになる。

  4 曲目「The Drowning Waters」(6:12)ミニマルなリフでドライヴする呪文めいたヘヴィ・チューン。 アンサンブルというか全体のバランスと即興のキレで聴かせる作品だ。 ドラムスが初めて表情らしい表情を見せる。 地味だがいいグルーヴがあると思う。 レッチリ風味もある。

  5 曲目「The Rise And Fall Of Stella Morblda」(5:30)神々しいシンセサイザーをフィーチュアしたシンフォニック・チューン。 シンプルで尖ったビートの上で、場違いなほどきらきらしたシンセサイザーが高々と歌う。 ギターはメタリックなリフで果敢に挑むかと思えばナチュラルトーンでシンセサイザーに寄り添っていく。 ミスマッチ感が強く、天国の儀式のように華々しくもどこかチープである。

  6 曲目「Yama」(7:52)シタールをかつぐサイケデリックで粘っこい民族メタル。 序奏はシタールのソロ。 そして一気に脂ぎったギター・リフとうねるフレットレス・ベースが出張る。 ひきずるようなロールも合っている。 このうねうねと謎めいた感じは「呪文」のイメージか。 ワールド・ミュージックのメタル化。 どこか西アジアの方ではこういう音がすでに広まっているのではなかろうか。 フランジャー系のぐるぐる音が懐かしい。

  7 曲目「Birdsong The Color Of Pyramids」(2:19) アンビエントな音像の中をパーカッションとギターが漂い、ポエトリー・リーディングが続くというサイケデリックな世界。 パーカッションも虚ろに鳴り響き、現代版 JADE WARRIOR といった趣。

  8 曲目「Autumn Swirl」(6:23) ほのかにユーモラスな東洋風のテーマを奏でるメタル・ギター、メロディアスなフレットレス・ベースと生音ギターによるヘナヘナ・アンサンブルによるテクニカル民族ロック。 いたずらに展開しないで経過句的なフレーズを反復する演奏には、ロックのスリルとは別種の、民謡や盆踊りに通じる心地よいグルーヴがある。

  9 曲目「Al Aaraaf」(9:02) 西アジア風のエキゾチズム満載のアンビエント・ロック。 管楽器/オルガン系シンセサイザーの奏でるミスティックなテーマにディレイでこだまするギターが重なるスペイシーな演奏である。 打楽器はあえて輪郭を強調しない太目の残響音風の音でアクセントをつけている。 深くエコーする管楽器風の音が新鮮だ。 HM/HR は 0%。


   メタル・ギターは単なる手持ちの音の一つということに過ぎず、この作品で演りたいのは、神秘的で謎めいたワールド・ミュージック・ロックであるらしい。 最後の作品を聴くうちに、これはサイケデリック・ロックの新種なのではという思いも浮かんできた。 力で押し切るプロレス風のバカっぽさは皆無であり、過剰さもあまり感じられない。 どちらかといえば怜悧であり音色への配慮も細かい。 アメリカのミュージシャンの層の厚さを感じる作品だ。
(MELLOW MMP 353)

 Serpentine Kaleidoscope
 
Joe Kopecky guitar, vocals
Paul Kopecky drums, percussion
William Kopecky fretless bass, sitar, keyboards

  2000 年発表の第二作「Serpentine Kaleidoscope」。 内容は、徹底的に HM なギターとミステリアスなキーボードによるスペイシーなプログレ・メタル。 凶暴な HR/HM に、サイケデリックな感覚と西アジア民族音楽を混ぜ込んだ音楽である。 音を分厚く塗りこめるのではなく、トリオの呼吸を活かしつつ、余白も取って各人がダイナミックな筆致で音を刻んでゆく。 すべてのパートがさりげなくエキゾチックな演出を効かせるが、特に目立つのはフレットレス・ベース・プレイとシタールだろう。 ギターもザクザクリフを刻む以外に、アラビア風 KING「Discipline」CRIMSON のようなプレイを見せる。 全体に HR/HM 的な運動性はあまり感じられず、ノイジーな反復で力をみなぎらせたまま停滞しているようなところがあり、サイケデリックなトリップ感覚が強い。 うねるようなノイズのサウンドスケープをぬって、シタールとお経のようなヴォイスが渦を巻き、流れてゆく。 かと思えば、剥き出しの鋼鈑のように荒々しいリフがすべてを蹂躙し、バラバラに叩き切ってゆく。 凶暴なのだがあまり声を荒げるような感じもなく、クールな表情のまま、ギトギトした混沌を切り裂いてゆく。 こういう世界は、あまり今までに経験したことがない。 現代的でスタイリッシュなオルタナティヴ・ロック、といえば聞えはいいが、マニアックな犯罪者の精神状態を反映したような、暴力的でヤバい感じも強い。 基本的に DREAM THEATER など主流のテクニカル・プログレ・メタル系の音だと推測するが、そこにとどまらず、エスニックなものや常軌を逸した危うさといったファクターをクールなアンサンブルにまとめたところがユニークなのだ。 ストリングス系のシンセサイザーが突如高鳴って、ギターとともに飛翔し始める場面もある。

  「Magic Room」(9:54)
  「Smoke Of Her Burning」(4:14)
  「I Was Home And I Wept」(3:57)
  「Scorpion」(6:14)
  「These White Walls」(3:24)
  「Bartholomew's Kite」(8:04)
  「Lugosi: 1931」(6:19)
  「Wings Of Asphyxia」(5:47)
  「Heaven's Black Amnesia」(10:27)

(CYCLOPS 091)


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