フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「PHILHARMONIE」。 87 年、元 SHYLOCK のフレデリック・レペーが結成。 作品は五枚。 97 年解散。 レペー氏はソロ活動を経て、新グループ YANG で活動中。 80 年代 KING CRIMSON の影響下、それをさらにセンスよく深めたギター・インストゥルメンタル。
Frederic L'epee | guitars, synth, chorus |
Laurent James | guitars, chorus |
Nico Gomez | bass, chorus |
Volodia Brice | drums, chorus |
guest: | |
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Ayse Cansu Tanrikulu | vocals on 1,5,6,9,12 |
2022 年発表の作品「Designed For Disaster」。
YANG の第四作。
内容は、80 年代 KING CRIMSON へのリスペクトを基本にさまざまな音楽嗜好(MAGMA 風やマイク・オールドフィールド風もあり)を披露するライトでスペイシーなギター・ジャズロック。
アコースティック・ギターのニュアンスもある、デリケートでまろやかな輝きのあるエレクトリック・ギター・サウンド。
そういう音なので必然的にサーフ・ロックっぽいところも。
変拍子のリフやポリリズミックにモアレを成すツイン・ギターはまさしくエイドリアン・ブリューのいた頃の KING CRIMSON である。
女性ヴォーカリストをフィーチュアしたカンタベリー・テイストが新機軸。
メロトロン風の音も躊躇いなく使う。
「Descendance」(5:27)カンタベリーへのオマージュ?
「Collision Course」(7:24)80th KING CRIMSON の発掘曲?
「Disentropy」(6:07)
「Interlude - Golem」(1:38)
「Words」(4:29)
「Flower You」(4:48)
「Unisson」(5:18)
「Interlude - Echo」(1:32)メラコリックなサーフ・ロック。
「Migrations」(10:40)80th KING CRIMSON とカンタベリーの合体。
「La Voie Du Mensonge」(6:20)
「Interlude - Décombres」(2:17)
「Despite Origins」(5:59)
(RUNE 494)
Frederic L'epee | guitars, fretless guitar |
Lurent Chalef | guitars |
Bernard Ros | Chapman Stick |
Jean-Lous Boutin | drums |
94 年発表の第三作「Nord」。
二つのエレクトリック・ギターのハーモニーが精緻な紋様を成してゆくギター・インストゥルメンタル作品。
ロバート・フリップのアカデミズムの影響下らしい正確で丁寧なプレイとナチュラル・トーンを活かし、明快かつ爽やかなテーマを透明感あるサウンドで描いてゆく。
そのテーマの反復と時間軸での交錯が得意技だ。
変拍子やポリリズムも多用しているが、耳触りのいいクリアなサウンドのおかげで、そういうことをあまり意識せずにすむ。
したがって、その音楽からの連想は、いわゆるプログレよりも、フュージョン・ミュージックから THE VENTURES や PENGUIN CAFE ORCHESTRA といったところへ広がる。
また、ニューエイジ・ミュージック風のライトなエキゾチズムや神秘性も感じられる。
もっとも、アンサンブルが自然にシンフォニックな高揚を迎える瞬間もあるし、そもそもリズムのキレがいいために、まったりし過ぎないという何にも増してロック的に重要なポイントがクリアされている。
それでも、テクニカルなプレイに伴いがちな強圧的な姿勢は感じられず、メロディがポップにこなれているために、さざめくようにミニマルな流れの聴き心地がいい。
技巧的にして「控えめ」であることが、作風とぴったり合っている。
したがって、BGM としても十分に機能する。
二本のギターによる幻惑的なハーモニーに加えて、フレットレス・ギターによるポルタメントの効果やチャップマン・スティックのあまりに多彩なバッキングなど、ポイントを絞って聴いてもおもしろい。
全編インストゥルメンタル。
(RUNE 64)
Frederic L'epee | guitars, fretless guitar & other strings |
Lurent Chalef | guitars, glockenspiel, percussions |
Bernard Ros | Chapman Stick, percussions |
Jean-Lous Boutin | drums |
96 年発表の第四作「Rage」。
内容は、エレクトリック・ギターのナチュラル・トーンを生かし、80 年代 KING CRIMSON から能天気なヴォーカルを取り除いた、インテリジェントなギター・インストゥルメンタル。
リーダーのフレデリク・レペは、ロバート・フリップに私淑し、「GUITAR CRAFT」のレッスンにも馳せ参じている。
演奏、曲調も、きわめてフリップのそれに近い。
人力シーケンサとアンサンブルの実験のような楽曲が主であり、緊張を強いるようなところはなく、全体に音が軽やかで聴きやすい。
今となっては、ギター・シンセサイザー以前の純エレクトリック・ギター的な技巧がかえって新鮮だ。
Fender 系のアンプから出てくると思われるリヴァーヴの効いたナチュラル・トーンが、ミザルーのようなサーフ・ミュージックや THE VENTURES に聴こえてしまう瞬間すらある。
本家と違い、「太陽」や「Fracture」への呪縛がない分、過剰なヘヴィネスやエキセントリシティは追い求めていない。
むしろ、クールな美感に支えられた叙情性が先に立つ。
反復を基本とするにもかかわらず、不思議と眠くはならず、心地よく音に身を委ねられる。
5 曲目が傑作。全曲インストゥルメンタル。
「Le Dernier Heraut(The Ultimate Herald)」(6:42)
独特のエフェクトで加工したギター・トーンを活かした、やや柔らかめの「Discipline」CRIMSON。
ミニマル、ロングトーン、拍子ずらしパターンはあるが、ストラト・キャスターのナチュラル・トーンの響きとコードによるテーマが潔いため、サーフ・ミュージックやフュージョンに聴こえなくもない。
8 分の 6 拍子をきちっと刻むドラムスも好み。
次第に落ちついた調子へと変わってゆく。
「Hexacorde - La Ferme(Shut Up)」(0:37 + 7:12)マンドリンを思わせるアコースティック・ギターによる序奏を経て、一気に飛び出すハイテンションの快速ツイン・ギター。
エコーがなんだか懐かしい感じだ。
オーヴァードライヴとイコライザでアタックを消した、フリップそのもののようなトーンで、みごとなソロを綴ってゆく。
ここでもシンプルにして切れのいいリズムが効果的。
ミュートした人力シーケンス、アルペジオ、的確なベース音、ナチュラルトーンによるジャジーなプレイなど、多彩な演奏をめまぐるしく繰り広げてゆく。
自由闊達に、はじけるような演奏が特徴だ。
「Thesis」(5:42)点描風のツイン・ギターが精緻な模様を編み出してゆくミニマル風の作品。
暖かみが特徴的。
「Sur Un Fil(On A Wire)」(6:07)ややワールド・ミュージック風味のある緊迫感のない CRIMSON。
「Ouigaa」(4:30)シャフル・ビートと轟々たるギターによる力強い作品。
民族風のドラムス、攻撃的なプレイ、得意のディレイと「変拍子パターンずらし」も交えて堂々と突き進む。
ハード・ギター・シンフォニック・ロック。
SHYLOCK というよりは HELDON か。
「Manadrin Mecanique(Clockwork Mandrin)」(6:43)曲名の通りやや中華風味のある作品。
メインのギターがオリエンタルなアルペジオ・フレーズを次々と繰り出して、サブのギターが裏拍パターンやヴァイオリン奏法などさまざまに応じてゆく。
バルトークの「中国の不思議な役人」への言及もあるような。
「Bourree Tropicale(Tropical Bourree)」(7:22)ややニューエイジ風の即興によるオープニングから、「独特の」爽やかさをもつ演奏へ。
背景の轟音と前景のフュージョン・タッチが、眩暈のするようなコントラストをなす。
いわば、ノイローゼ気味の VENTURES である。中盤から一気に 「Discipline」CRIMSON。
ドラムス、ベースもしっかり見せ場を作り「Sailor's Tale」ばりの轟音ストロークから大団円へ。
過激な変転が特徴だろう。
(RUNE 84)
Frederic L'epee | guitars, fretless guitar & other strings |
Bernard Ros | Warr guitar |
Volodia Brice | drums |
97 年発表の最終作「The Last Word」。
編成はトリオへと縮退し、グループとしての最終作となった。
レペーの変則チューニング・ギター、フレットレス・ギターとロスの WARR ギターの特性を活かした、静かなる音の迷宮である。
作風は初期と比べると厳かで険しいものになっている。
全編を超絶的な技巧のぶつかり合いから飛び散る火花のような緊張感が貫く。
ただし、サウンドそのものにはエレキギターらしいまろやかな温かみがあるため、厳しい印象はない。
ポリリズミックな反復アンサンブルが生む脳髄を麻痺させるような幻想美があるが、その底流には暗くうつむき張詰めた表情がある。
レペーのプレイは、フレットレスによるポルタメントを用いた独特のフレージングよりも、ロバート・フリップ直系の凶暴にうねるロングトーンや驚異的に精緻な幾何学文様を描く細かく挑発的なパッセージが主である。
ノイジーでインダストリアルな音になるところもあるし、バーンと突っぱねるようにパンキッシュな表現も見せる。
このヘヴィなタッチ、ある意味、洗練され研ぎ澄まされた SHYLOCK とはいえないだろうか。
冒頭 1 曲目「Rondo Argentin」は、きわめてドラマティックな大傑作。
80' KING CRIMSON が奏でるラテン・ミュージック。
5 曲目のタイトル曲「Le Dernier Mot(The Last Word)」は、スリリングなヘヴィ・ロック。変拍子でたたみかけるアンサンブルがカッコいい。
「Rondo Argentin」(6:22)
「Métamorphose」(6:20)
「Sans Réponse」(5:30)
「Bruine」(6:31)
「Le Dernier Mot」(8:00)
「Hannibal  Capoue」(9:30)
「Campanile」(5:28)
(RUNE 124)
Frederic L'epee | guitar |
Julien Vecchie | guitar |
Stephane Bertrand | bass |
Volodia Brice | drums |
2004 年発表の作品「A Complex Nature」。
PHILHARMONIE 解散後ソロ活動を続けていたレペー氏の新ユニット YANG(2002 年結成)による初アルバム。
前グループ最終作に参加したドラムスの他は新メンバーである。
二つのギターのフレーズがポリリズミックな文様を成すギター・ジャズロックの作風に大きな変化はないが、へヴィな音を盛り込み攻撃的な表現を強めたところが新しい。
(80' CRIMSON から 70' CRIMSON 側に揺り戻したのか、とも思う)
したがって、4 ピース・バンドらしいガッツリした重みとキレのよさが際立つ。
80' CRIMSON から出発したグループは多かったと思うが、その中で TUNNELS やスコット・マッギルのようなへヴィ・ジャズロックに迫る瞬間をもつに至ったグループはほとんどないだろう。
もちろん、前グループの作風そのままなソフトなサウンドによる丹念なギター・アンサンブルもあるし、思い切りジャジーなプレイもある。
やや東洋風の音の取り込みも行われている。
バンドっぽいノリを強めながらも、丹念なフレージングから繊細な叙情性がふわっと浮き上がるところがいい。
いわゆる「エレキ」っぽい音が懐かしくも新鮮だ。
エフェクトではなくアンプとギターで音を作っているに違いない。
きわめて多彩な表情を見せるインスト・ギター・ロックであり、魅力的なヴォーカリストが入ったらどうなるのかにも興味があります。
「Les Deux Mondes」(8:16)アグレシッヴなギターが際立つ 80 年代 CRIMSON 風ジャズロック。
軽やかなタッチとへヴィに攻める展開を鮮やかに切り換える。ぐっとジャジーな KING CRIMSON である。
「Souterrain」(6:35)変則/複合リズムによるモールス信号のような「ひっかかり」が特徴の快調ジャズロック。
「Seducteur Innocent」(5:46)ややリラックスしたフュージョン・タッチも取り入れた好作品。キャッチーなテーマで耳を惹きつける。こういう「軽いノリ」もレペー氏の特徴である。
「Compassion」(4:26)なんというか、70 年代英国ロック的なロマンを感じさせる佳作。胸キュンのセンチメンタリズム。アルペジオに酔う。佳作。
「Manchild」(4:41)PHILHARMONIE 的な要素をファンタジーにまとめた傑作。
控えめなアーミングがうまい。快速タッピングなのにどこかひなびた感じが RAGNAROK を思わせる。プログレッシヴな奇想曲。
「Impatience」(7:03)ファンキーで軽やかな VENTURES 風味に北欧っぽい黄昏感、パンチあるアクセントも交えた佳作。理想的なイージー・リスニング。
「Le Masque Rouge」(5:27)ファズ・ギターがリードするロマンティックなポップ・ロック。
「Orgueil」(5:54)ミステリアスでサスペンスフルな変拍子チューン。
タランティーノに使ってもらえそう。
(RUNE 197)