SHYLOCK

  フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「SHYLOCK」。 74 年結成。 70 年代終盤に二作品を残す。 ロバート・フリップに強く影響されたギターとシンフォニックなキーボードから成るヘヴィ・プログレッシヴ・ロック・インストゥルメンタル。 ギタリストのレペは、後にフリップのギター・クラスにも参加し、PHILHARMONIE を結成。

 Gialorgues
 
Didier Lustig keyboards on 1-3, piano on 4-8, synthesizer on 6-8, organ on 6-8
Frédéric L'épée guitar, bass on 1-8
André Fisichella drums, percussion on 1-3

  77 年発表の第一作「Gialorgues」。 当初自主レーベルからの発表であったが、翌年 CBS から再発された。 MUSEA 版 CD では 5 曲のボーナス・トラック付き。 内容は、KING CRIMSON や初期 GENESIS に影響されたと思われる、シンフォニックかつメタリックなインストゥルメンタル・アルバム。 メロトロンに代わりシンセサイザーを用いているものの、うねるようなロングトーン・ギターと特徴的なリズムは、正に CRIMSON フォロワーというべきである。 特に、ギターのプレイでは、フリップ風のトーンと dim/aug を用いた無機的な反復を巧みに模しており、いわゆるブルーズ・スケールによるロック・ギターではない。 もっとも、フリップほど凝った和声を用いるのではなく、よりメロディアスであり、スティーヴ・ハケットを思わせるプレイも多い。 全体を見渡すと、高度なインプロヴィゼーションや緊迫感にあふれた緻密なアンサンブルよりも、キーボードを用いて緩斜面を静々と登りつめてゆくようなシンフォニックな展開の方が多いようだ。 ピアノやシンセサイザーの演奏には、あまやかなファンタジーを感じさせる瞬間すらある。 即興風の場面もコミカルな効果音を使っており、CRIMSON とは感触が異なる。 また、一定のフレーズを執拗に繰り返す演奏は、現代音楽の一つの手法であり、CRIMSON のフォローというよりは、逆に「Discipline」期の先取りというべきかもしれない。 ただし、メロディを活かすタイプの演奏ではない上に衝撃的なプレイや目の醒めるような展開もないため、やや中だるみしてしまうところがある。 リズムについては、技術が思いに追いついていない感じだが、このせわしなくフィルをたたみ込むドラムスがないと緊張感が出ないのもまた確かだろう。 おそらく CRIMSON 不在のシーンにあっては、熱心なファンの耳目を集めたに違いない。 3 曲目の中盤では、「太陽と戦慄」を思わせるヘヴィなリフがクライマックスめがけて翔け上がってゆく場面もある。 全曲インストゥルメンタル。 CRIMSON クローンという視点以外がない私もよくないな。 緊張感のあるシンフォニック・ロックです。 音量のバランスや録音の質は今ひとつ。

  「Le Quatrième」(13:05)叙情的なギターのテーマを軸としたヘヴィ・シンフォニック・ロック。
  「Le Sixième」(3:50)
  「Le Cinquième」(18:54)8 分くらいの頂点過ぎの安らかな演奏が印象的。 劇的なモダン・クラシック風ロックの傑作。
  「Pendule」(3:02)ボーナス・トラック。
  「Sous Une Arche De Pierre」(6:26)ボーナス・トラック。
  「Prélude À L'éclipse」(2:11)ボーナス・トラック。
  「La Robe Et Le Chant」(1:48)ボーナス・トラック。
  「Pour Le Bal Des Pauvres」(1:45)ボーナス・トラック。

(FGBG 4105.AR)

 Ile De Fièvre
 
André Fisichella drums, percussion
Frédéric L'épée guitar
Didier Lustig Elka Rhapsody 610, Hammond B3, mini-Moog, Mellotron
 Yamaha electric grand piano, Hohner clavinet D6
Serge Summa bass

  78 年発表の第二作「Ile De Fièvre」。 冒頭のシンセサイザーとクラヴィネットによる華麗な演奏に意表を突かれるが、ギターとドラムスが飛び込んでくると一安心、KING CRIMSONGENESIS 的な叙情性と攻撃性が特徴的なへヴィ・プログレ・サウンドへと帰ってくる。 あいかわらずドラムスがやかましいものの、オルガン、クラヴィネットらのクラシカルな音も新鮮だ。 大胆なシンセサイザーとハードなベースを用いた鋭角的なアンサンブルなど、プログレ的な面白さは前作を凌ぐのではないだろうか。 クラヴィネットのリードするリズミカルで軽妙なアンサンブルや、ギターのアルペジオが生む波紋のような幻惑的な演奏など、ヴァリエーションは明らかに前作を凌いでいる。 フリップ的なギター以上に、キーボーディストの存在がこのサウンドに大きく貢献しているといえるだろう。 CRIMSON フォロワーという点で HELDON と比べると、技巧や音質の甘さという点では分が悪いが、足元の覚束ないふらつき感が一種の魅力である。 HR/HM 的な直線的なモーメンタムへ乗っかってしまうと楽なのだろうが、あえてそうしていないような気がする。 本家のインプロにも野暮ったさスレスレをなぞってゆくスリルがあるが、こちらは野暮ったさ側によろけ込んでしまった上で、なおも踏みとどまらんとする根性が感じられる。 ユーモアと緊張の狭間にかけられた Catwalk を隘路をたどり、なんとか目的地へ到達しようとしている。 そこから生れる滑稽さすらもエキセントリシティとして音とともに発せられている。 ゴッホの習作から立ち上るのと同種の芸術家の執念を感じてしまう。
  2 曲目はなんと「Fracture」的世界へと挑戦。 4 曲目では、専任ベーシストが活躍するジャズロック調のファンキーな演奏も聴くことができる。 ここでもクラヴィネットが活躍。 6 曲目のまんまなギターにも鬼気迫るものあり。 今更ながら、このグループは CRIMSON の音楽的イディオムを用いながらも、どこか「軽妙」であるというところがすごいのかもしれないと思う。 さまざまなアプローチによるインプロヴィゼーションの拡充とシンフォニックなサウンドが拮抗する傑作。 スタジオ貸与に対するパトリック・モラーツへの謝辞あり。

  「Ile De Fievre」(12:59)オムニバス風の作品。キーボードによるけたたましいパターン反復が新鮮。 コミカルな味わいあり。ギタリストの丹念にフレーズを紡ぐ誠実なる演奏がいい。
  「Le Sang Des Capucines」(5:37)「Fracture」をコミカルにしたような作品。
  「Choral」(1:52)メロトロン・クワイア、シンセサイザーなどによる厳かなコラール。埋め草風ですが、アルバムの雰囲気を整えるいいポジションにあります。
  「Himogene」(5:15)エレクトリック・キーボード、ギター、ヴァイブなどメタリックな音を使ったファンキー・チューン。独特のけたたましさある音作りと R&B 風ジャズロックという組み合わせが珍しい。クラヴィネットが登場してからはギターのプレイ含め比較的オーソドックスなジャズロックとなる。それでもギターのアドリヴはやや無理をしている感あり。
  「Lierre D'aujourd'hui」(2:19)アドホックな即興風の小品。
  「Laocksetal」(10:27)「キレてしまった『太陽と戦慄』」というべき暴力的なインパクトのある傑作。 パンクっぽい凶悪さとテクノ風の軽妙さを混ぜ合わせた怪作である。
  「Le Dernier」(9:12)ボーナス・トラック。 録音状態は芳しくないが、プランス・プログレらしい耽美で内省的な佳作。レペのギター・プレイを味わえる。この作品含め 5 曲のバンド末期、79 年録音作品があるという。他の四作品が日の目を見ることはあるのだろうか。

(FGBG 4177.AR)


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