イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「METAMORFOSI」。 69 年結成。 作品は二枚。 2004 年再編し、第三作「Paradiso」を発表後、2016 年に第四作「Purgatorio」を発表し、ダンテ「神曲」を完成した。 もちろんスピタレリ健在。
Jimmy Spitaleri | lead vocals |
Enrico Olivieri | keyboards, piano |
Leanardo Gallucci | acoustic guitar, bass |
Fabio Moresco | drums |
2004 年発表の第三作「Paradiso」。
30 年余を経た「神曲 - 天国編」。
リズム・セクションは新メンバーなるも、バリトンのヴォーカリストとキーボーディストはオリジナル・メンバーが健在。
内容は、ロマンティックでアグレッシヴなキーボードがオペラ風のド迫力の歌唱を取り巻く、クラシカルにしてロックな、荘厳にして邪悪な、豪奢にしてチープな書割風の一大ドラマ、すなわち、驚くべきことに前作と完全に同じ世界なのだ。
キース・エマーソン、リック・ウェイクマン、イタリアン・バロック、イタリアン・オペラ、カンタウトゥーレなどをキーワードに、往年のイタリアン・プログレの王道を貫いている。
おそらく楽曲は 70 年代に編み上げられたものであり、それを長い時間をかけて熟成させたに違いない。
したがって、芸術としての存在感という意味で抜きん出た光を放っている。
まあ、四の五の言わずとも、シンセサイザーとアコースティック・ピアノのプレイだけで、すべてのプログレ・ファンの頬は緩むであろう。
そして、大上段に振りかぶるようなコンセプトを掲げながら、アコースティック・ギターを片手にささやくような歌もある、そういうところが、たまらない。
かたや、サウンドが洗練され、展開が整理されたため、混沌としつつも不気味なオーラを放っていた前作の魅力が損なわれている、という見方も可能である。
(余談だが、演奏のキレが増したせいか、前よりも BANCO に聞こえてしまうところあり)
また、作品と基本的なアレンジが 70 年代のものなので、音の幅や密度が生み出す迫力の点では、現代のロックに敵わないかもしれない。
ただし、ここでバンドが訴えたいことや綴りたい物語が、言葉が分からないにもかかわらず、かなりの重みをもって濃密に迫ってくるのも確かである。
音総体として、こういうインパクトを与えられるのは、甦った 70 年代イタリアン・プログレの中では、いや、すべての現代プロプレッシヴ・ロックを見渡しても珍しいのではないだろうか。
(主題が「ダンテ」なんだから説得力があって当然だ、という話もあるが)
SOLARIS、AFTER CRYING といった東欧勢がかなりこの地平を開拓しているが、METAMORFOSI は先駆者として本作で立派な仕事をした思う。
クラシックの翻案やエマーソン、ウェイクマンへの想いもさりげなく楽しげに織り交ぜている。
(GMP 003)
Jimmy Spitaleri | vocals, flute |
Enrico Olivieri | vocals, organ, cembaro, piano, flute, synthesizer |
Roberto Turbitosi | vocals, bass |
Mario Natali | drums, percussion |
Luciano Tamburro | guitars |
72 年発表の第一作「...E Fu IL Sesto Giorno」。
スピタレリの正調カンツォーネを中心にした、プログレ前夜のアート・ロック。
ビートポップもしくはラヴ・ロック風のメロディとコーラスに、オルガン・ピアノ・チェンバロらが悠然とクラシカルな広がりと整合感を与え、手数の多いバタバタ・ドラムスがかき回す世界である。
オルガンやチェンバロの演奏はバロック調の本格派。
リズム・セクションは、録音こそ冴えないが、演奏そのものははなかなか充実している。
特に、ベースは積極的に前に出るプレイで演奏に躍動感を加えている。
また、二つのフルート(音色はリコーダーに似る)を用いたプレイは、たしかにリリカルなアクセントとして効果的だが、クラシカルというよりはアンデス民謡風。
全体として、60 年代英国ビートポップ色の強いアンサンブルを、クラシカルなキーボードによる音の厚みと本格的な声質のヴォーカルでグレードアップしたイメージである。
メロディアスでありながらほんのり神秘的なムードを匂わすところは、まさしくイタリアの THE MOODY BLUES。
そこへ圧倒的声量のカンツォーネが加わったといえばイメージできるだろうか。
後半はポップな雰囲気が強くなる。
3 曲目の大作では、フルート、ギターの見せ場もある。
4 曲目は爆音が暗示的なクラシカル・ロック。
終盤はギター・ソロ。
5 曲目は劇的なヴォーカルが映える勇壮な作品。
6 曲目はロマンティックながらスピード感もある作品。
ギターとフルートがかけあう。
7 曲目は軽快なポップス。
「IL Sesto Giorno」(4:36)
「...E Lui Amava I Fiori」(4:38)
「Crepuscolo」(9:05)
「Hiroshima」(5:23)
「Nuova Luce」(3:55)
「Sogno E Realta」(5:57)
「Inno Di Gloria」(3:29)
(VPA 8168 / VM 003)
Davide "Jimmy" Spitaleri | lead vocals, flute |
Enrico Olivieri | keyboards, vocals |
Roberto Turbitosi | guitar, bass, vocals |
Gianluca Herygers | drums, percussion |
72 年発表の第二作「Inferno」。
オーソドックスなプレイをしていたギタリストが脱退し、ドラマーもメンバー交代。
作風は、邪悪な妄想が膨張するキーボード・ロック路線に切り換えられた。
テーマは、ダンテの「神曲-地獄篇」。
冒頭から銅鑼が鳴り響き、チャーチ・オルガンが厳かに轟き、気品あるピアノとチェンバロが導くのはノーブルなバリトン・ヴォイスである。
そして、バタバタとうるさいリズム・セクションが立ち上がるとともに、演奏の主役はけたたましいムーグ・シンセサイザーへ。
ロマンティックなピアノ、唸るオルガンらによって近代クラシック調の挑戦的な曲調も高まり、まさしく正統派キーボード・ロックといえる内容になってくる。
ピアノの演奏には格調高さや技巧を吹き飛ばす独特の荒っぽさがある。
安っぽいのではなく、チンピラ風のドライな危うさである。
荘厳なチャーチ・オルガンやノイジーなシンセサイザーなど、多彩なキーボードをフィーチュアした小曲が切れ目なく続いてゆくが、全体の印象は、ドラムスとキーボードがせめぎあい忙しなく変転しつつ坂道を転がり落ちてゆく、という感じである。
荘厳なイメージとチープな感触が表裏一体を成す独特の作風といえるだろう。
正調クラシックが皮肉にも却って光の差さない裏世界を意識させ、美しいはずのメロディも、油が漏れているような音色のシンセサイザーの多用によって、耽美を通り越して猥雑で凶悪な響きを抱き始める。
けたたましいキーボードに巻き込まれたり、また煽ったりする音数多いリズム・セクションは、いつまでも回転し続ける狂気の轆轤のようだ。
ベースも負けずにファズを使ってヘヴィに迫ってくる。
アナログ・シンセサイザー特有の金管楽器的な音が重なり合って聴覚に襲いかかる感じもあり、EL&P に慣れた耳にもかなり刺激が強い。
また、曲調が目まぐるしく変化するために一つのメロディやテーマを軸にした鑑賞は前半に関してはかなり辛い。
しかし、こういった、ややもするとキワモノっぽく聴こえてしまう内容をなんとか引き締めるのが、ダヴィデ・スピタレリのバリトン・ヴォイスの存在である。
伸びのある低音によるメロディアスな歌唱は、単に気品と哀愁を漂わすだけではなく、無機的で発散的な演奏(これは表現力によるというよりも、サウンドの質そのものから来る生硬さだと思う)に音楽の血肉を通わせている。
また、スピタレリはフルートも奏でて叙情的な演出に役立てている。
IL BALLETTO DI BRONZO と比べると、和声や調子に現代音楽的なアプローチはあまり見られず、技巧も及ばない。
こちらは、英国風のオルガン・ロックに荒っぽくも技巧的なピアノ、シンセサイザーをとにかく積み重ねたイメージである。
実際、後半になると普通にメロディアスでジャジーな表現も多く、前作に通じるビートっぽさ(英国っぽさ)をすなおに見せたりする。
アヴァンギャルドな音響や挑戦的なコンセプトとは対照的なグルーヴや優しげなメロディに 60 年代末からのアートロックの流れを感じる場面もある。
クラシカルな要素(怪しげな流用含め)をいろいろと盛り込みながらも、いわゆるプログレらしい、「エレクトリック・サウンドで奏でるモダン・クラシック」ではなく、あくまで「ポップス」であり、そのポップスをクラシカルかつジャジーなエレクトリック・キーボード群とバリトン・ヴォイスト音響処理でデフォルメしてみた、というニュアンスなのだ。
したがって、音楽性云々よりもまず実験的エンタテインメントであり、ジャンルの軋みと若々しく挑戦的な姿勢が生む熱気が一番の魅力である。
その点は、EL&P だって同じだ。
ある意味、このキワモノっぽさこそがプログレの本質の一つだったりもするし。
また、こういうコンセプトだと、現代なら間違いなくエクストリームな HR/HM になってしまい、勢い表現も単純化しそうなだけに、かの時代に生み出されたことを喜びたい。
70 年代イタリアン・キーボード・ロックを代表する一枚。
欲をいえば、熱気と多彩さという魅力を活かしつつもう少し音響的に洗練されれば、よりこの作風が輝いたと思う。
拙い伊語で曲名等を解釈するに、ドラッグ・ディーラーや吝嗇者や政治家といった地獄向きの人々が実際に地獄にいってどんな扱いを受けているかを描いているようだ。
「Introduzione / Selva Oscura」(7:50)
「Porta Dell'Inferno」(1:20)
「Caronte」(1:19)
「Spacciatore DI Droga / Terremoto / Limbo」(6:22)
「Lussuriosi」(3:15)
「Avari」(1:32)
「Violenti」(3:45)
「Malebolge」(1:32)
「Sfruttatori」(5:41)
「Razzisti / Fossa Dei Giganti」(3:25)
「Lucifero (Politicanti)」(2:32)
「Conclusione」(1:37)
(VPA 8162 / VM 002)