ハンガリーのプログレッシヴ・ロック・グループ「SOLARIS」。
80 年結成。
ライヴ活動を経て、84 年「Marsbéli Krónikák」でデビュー。
86 年、活動停止するも 90 年に復活。
作品は五枚。
インストゥルメンタル主体のハードなシンフォニック・ロック。
シンセサイザー、フルート、ギターをフィーチュアした硬質な音色による荘厳な作風が特徴。
最新作は 2021 年発表の「Nostradamus 2.0 - Returnity」(99 年作品の続編)。
Casaba Bogdan | guitars | Robert Erdesz | keyboards |
Laszlo Gomor | drums | Attila Kollar | flute, recorder, tambourine, vocals |
Ferenc Raus | drums on 2,4 | Attila Seres | bass |
Vilmos Toth | drums on 1 | ||
guest: | |||
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Szirtes Edina Mokus | violin | ||
Demeter Gyorgy, Gerdesits Ferenc, Ullmann Zsuzsa | vocals |
2019 年発表の作品「Nostradamus 2.0 - Returnity」。
大預言者ノストラダムスを描いた 99 年の作品「NOSTRADAMUS Book Of Prophecies」の続編。
内容は 34 分にわたるタイトル組曲をフィーチュアしたヘヴィ・シンフォニック・ロック。
民俗音楽調フルート、冷徹なシンセサイザー、往年のハードロック・ギター、剛腕リズム・セクションらによる骨太の演奏である。
エレクトリック・サウンドによる交響楽調をベースに、ハードロックの疾走感、フォーキーな世俗のペーソス、管弦楽器とシンセサイザーの雅と宗教色、ジャジーなグルーヴらがヴィヴィッドに呼応し合う。
年降ったベテラングループの作品にありがちなメロディアスな抒情路線には走らず、あくまでクラシカルなアンサンブルとロックで生硬な力強さ(やや古めの HR/HM 風ではあるが)で押すところがいい。
特徴的なタンギングで扇動する中性的なイメージのフルートのプレイ、ベタな泣きのギターもフィーチュアされている。
リズム・セクションはあくまで男性的で直線的。
結果、武骨なまま起伏をつけていてかなりけたたましい。
つまり現代的にサウンドが整理されているだけで芸風はほとんど変わらない。
男声による呪術めいた詠唱、ファンタジックなソプラノなどヴォーカルも取り入れられている。
組曲 1 曲目には 2013 年に逝去したオリジナルドラマーの演奏も加えられているらしい。
曲名になっている年月日は、ノストラダムスが預言した科学上の業績が出現した日を示すようだ。
プロデュースはタマス・エルドレズ。
「Returnity (Return To Eternity) I-VI」(34:00)絶頂期の AFTER CRYING に迫る格調高きオープニングから一気に惹き込まれて SOLARIS 節に酔わされる傑作。
この序章の呼び覚ます興奮は往年のイタリアン・ロックに匹敵。以降もひと時も飽きさせぬカラフルでスリリングな演奏だ。
「Double Helix - 1953. Februar 28.」(3:04)DNA の二重螺旋構造の発見か。
「Deep Blue - 1997. Majus 11.」(3:33)IBM 社のスーパーコンピュータか。
「Radioscope - 1926. Marcius 20.」(3:54)放射線測定器の発明か。
(SMP1901)
Istvan Czigman | electric & acoustic guitar, synthesizer, keyboard efect, percussion |
Robert Erdesz | piano, organ, synthesizer, keyboard efect |
Laszlo Gomor | drums, percussion, synthesizer |
Attila Kollar | flute, recorder, synthesizer, keyboard efect, percussion, vocals |
Tamas Pocs | bass |
guest: | |
---|---|
Casaba Bogdan | guitar |
Gabor Kisszabo | bass |
Ferenc Raus | drums, percussion |
Vilmos Toth | percussion |
83 年発表の第一作「Marsbéli Krónikák(火星年代記)」。
内容は、きわめて「電子音」的ニュアンスのシンセサイザーとヘヴィなギターが走り周る、ハード・シンフォニック・ロック。
テーマは、もちろんレイ・ブラドベリィの古典ファンタジー SF である。(もっとも、本作のサウンドが、この古典 SF のもつ、悲哀を帯びた幻想性と無常感とシュールなタッチが入り交じった不可思議な味わいをよく現せているかは、疑問である)
シンセサイザーは、70 年代という時代を象徴するかのように登場し、未来的ハイ・テクノロジーというイメージを、今なおかきたてる。
本作は、そのシンセサイザーの魅力を大いに利用した冷厳なサウンドと、真正面から突進するようなダイナミックな演奏によって、いかにも SF らしい壮大な作品となっている。
シンセサイザーは、金管オーケストラ風のファンファーレのような演奏からテクノポップ風のビートまで、さまざまな種類の音をカバーしている。
冒頭のシーケンスを用いた演奏は、70 年代初期には決してなかったスタイルだ。
時期的に、80 年代初頭らしいエレ・ポップ的な面も当然ある。
一方、ギターはコテコテの「ハードロックなエレキギター」。
シンセサイザーの提示するイメージと比べて、プレイがやや紋切り型で古臭いが、じつに伸び伸びと前面に出てリードしてゆく。
そして、これらエレクトリック、メタリック極まりない音と、みごとなまでに対比して効果を上げるのが、フルートである。
一方に、フルートに象徴されるアコースティックなサウンドとフォーキーで哀感の強いメロディ・ラインがあり、もう一方に、メロディアスかつヘヴィなギターや管楽器らのアンサンブルによる雄大な規模感があり、これらが同居するところが大きな特徴だろう。
つまり、ややピコピコ気味ながらも濃厚な歌心もある、ということだ。
また、いわゆるクラシカル・テイストに民族風のアクの強さがあるところは、東欧、ハンガリーらしいというべきだろう。
叙情的な場面の演出には、もっぱらフルートやコーラスが効果的に使用され、攻め込む場面では、緊張感のあるリズム・セクションとギター、シンセサイザーが、がっちりとスクラムを組んで突き進む。
特にギターは、ややメタリックな音色を活かして、メロディ・パートからバッキングまで、武骨なまでに力強いプレイを見せる。
そして、アコースティック・ピアノやフルートは、素朴にして美しい調べで「引き」のパートをリードしている。
シンセサイザーやギターとの表情/抑揚の違いによるコントラストの妙は、聴いて納得していただく他はない。
特に、アルバム終曲やボーナス・トラックでは、このフルートがみごとな存在感を示している。
(さらに味わうと、フルートのもつ独特の無機質な音色が、じつはシンセサイザーに通じていることが分かる。こうなると、「対比/対立」という構図が一気に崩れるが、そういう発見こそ鑑賞の醍醐味である)
これらさまざまな複合作用の結果として、アンサンブルはきわめてシンフォニックなものとなっている。
しかし、音色、演奏、展開らをまとめた全体のイメージに、どこか硬質で非人間的な感触がある。
陳腐な例えだが、無表情にギクシャクしながら演奏する、ロボットのオーケストラのようなのだ。
誠実に展開する演奏とやや不器用な印象が表裏一体となっている、ともいえるだろう。
もちろん、それでも、曲の流れは勇壮にしてメリハリのあるものであり、語り口も滔々としている。
プログレッシヴ・ロックの秀作と呼ぶべきであるのは間違いない。
四人のメンバーが操るシンセサイザーは、全体を通してリードにバッキングにフル回転であり、演奏の中心はこのキーボード・オーケストレーションである。
ソロでは、いかにもアナログらしい音色を様々に使い分けており、EL&P を思わせる純正プログレ調のプレイも多い。
ギターとともに疾走し、たたみかける場面におけるハードロック的なニュアンスも、EL&P と共通する。
また、もう一つの特徴である技巧的なフルートは、シンセサイザーに比して(類似性はありながらも)音色に暖かみがあり、トラッド風のメロディ・ラインが微妙な陰影をもっている。
あえて難をいえば、せわしないリズムのためか、単純なシャフル・ビートに頼りすぎているせいか、演奏の切れが悪くやや野暮ったい印象を与えている。
そして、フォーク風のメロディ・ラインの歌わせ方、抑揚がやや雑な気がする。
結論としては、硬質でメタリックな音によるクラシカル・ロックという表現が無難である。
STERN COMBO MEISSEN と比べると、ギターの存在とトラッド・フォーク的なメロディに特徴がある。
全編インストゥルメンタル。
3 曲目は、ドラマチックな大作。ギターが寺内タケシか加山雄三なのが気にならなければ、かなり楽しめる。
4 曲目は、EL&P 風のヘヴィネスと疾走感のあるゴリ押しロック。DEEP PURPLE の影響もあり。
6 曲目は、小曲だが勇壮なシンセサイザーのテーマがすばらしい傑作。
これを聴くと、ネタ的には MASTERMIND は、完全に三番煎じくらいかなと思います。
最終曲はフルートのメロディが哀しい、やや歌謡曲風の佳作。
ロマンティックです。
各曲も鑑賞予定。
なお、本作品以前にも EP を発表しているらしい。
「Marsbéli Krónikák 1.(The Martian Chronicle 1.)」(3:34)
「Marsbéli Krónikák 2-3.(The Martian Chronicle 2-3.)」(6:32)
「Marsbéli Krónikák 4-6.(The Martian Chronicle 4-6.)」(13:15)
「M'ars Poetica」(6:39)
「Ha Felszáll A Köd(If The Fog Ascends)」(3:58)
「Apokalipszis(Apokalypse)」(3:44)シンセサイザーによる勇壮なテーマが印象的。
「E-moll Elöjáték(Prelude In E Minor)」(0:29)
「Legyözhetetlen(Undefeatable)」(2:46)
「Solaris」(4:53)
「Orchideák Bolygöja(The Planet Of Orchids)」(3:17)ボーナス・トラック。
「A Sárga Kör(The Yellow Circle)」(4:54)ボーナス・トラック。
(GONG HCD 17819)
Casaba Bogdan | guitar |
Istvan Czigman | guitar |
Robert Erdesz | keyboards |
Laszlo Gomor | drums, percussion |
Attila Kollar | flute, recorder |
Tamas Pocs | bass |
Gabor Kisszabo | bass |
90 年発表の第二作「1990」。
結成 10 周年記念のアルバムであり、新曲のほかに過去の未発表曲なども交えている。
フルートとへヴィなギターをフィーチュアした、フォルクローレ風味のある武骨なクラシカル・ロックという芸風は一貫している。
独特のせわしなさと不器用な感じが取っ付きを悪くしているが、慣れると実にさまざまなスタイルの演奏が盛り込まれていることが分かってくる。
アコースティック・ギターとフルートのデュオのようなアンサンブルでは典雅にして哀愁あふれる名演を披露するが、それを惜しげもなくヘヴィなギターとドラムスがぶっ潰し、ピコピコしたシンセサイザーが金切り声を上げたりする。
改めて唯一無二の個性派だと感じる。
LP で発表後、ボーナス・トラック付で二枚組 CD で再発された。
ここのジャケットは再発 CD のもの。
「1980」未発表のラジオ用音源。7 曲。(LP では 5 曲だったが、再発 CD では 2 曲のボーナスつき)
フルートとギターによるフォーク風のテーマをもつハードロックに、メタリックなシンセサイザーが勇ましく高鳴り、ハモンド・オルガンが地響きを立てて荒ぶる。
ハチャトゥリアンやリムスキー・コルサコフといった「民族音楽系クラシック」風の展開、ニューエイジ・ミュージック的な場面もあり。
ベースも含めたポリフォニックなアンサンブルを構成しており、フォーキーなテーマを軸にシンセサイザーを駆使したシンフォニック・ハードロックといえる。
演歌的というか DEEP PURPLE 的なセンスは確かに引きずっているが、アリーナ・ロックやピコピコ・エレポップになりそうでならない微妙な一線は守っている。また、ボーナスの 2 曲では芸風をさらにデフォルメするという冒険をしている。
インストゥルメンタル。
「Los Angeles 2026」元々 LP 第二作向けに録音された作品。23 分あまりを一気に駆け抜ける大作。重厚かつシリアスかと思えば妙にメロディアスな泣きが入ったり、ファンタジックになったり純クラシック風(ソロ・ピアノ)になったり HR/HM になるなど変幻自在の SF ロック。プログレらしさは百点。
「Éjszakai tárlat」10 曲から構成される、30 分長の組曲。
「Ünnepi Koncert」「2026 年結成 40 周年記念コンサート」という副題の破天荒な作品。(80 年結成なのに 2026 年が結成 40 年なのは途中に活動停止時期があるからだろう)室内楽アンサンブルとの共演のようだ。全 7 曲。
タイトル曲でもある終曲は、さまざまな著名クラシック作品や映画音楽をコラージュしたおもしろい作品。
(HCD 37310-11)
Robert Erdesz | Waldorf wave, Akai S6000, Moog prodigy, Emu protheus XR-2, Doepfer MS-404, Korg Mi, Yamaha TX 802 | ||
Casaba Bogdan | guitar | Muck Ferenc | sax |
Laszlo Gomor | Sonor drums, Zildjian cymbals | Gabor Kisszabo | Washburn & Fernandes jazz-bass |
Attila Kollar | flute, vocals | Tamas Pocs | Warwick fortress bass, Rickenbacker-4001 |
guest: | |||
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Ullmann Zsuzsa | vocals | Demeter Gyorgy | vocals |
Gerdesits Ferenc Sr. | vocals | Bator Tamas | bass |
Vamos Zsolt | guitar | Varga Janos(EAST) | guitar |
99 年発表の第三作「NOSTRADAMUS Book Of Prophecies」。
大預言者ノストラダムスを主人公に、時間と人間について思いを馳せた、架空の映画のサントラとしてつくられたコンセプト・アルバム。
重厚かつ劇的なサウンドによるクラシカルなシンフォニック・ロックの好作品である。
シンセサイザーとフルートをフィーチュアした重量感あるシンフォニック・ロックというスタイルは変わらず、そのフルートやギターがトラッドな哀切感を加味するという特徴も顕在だ。
サウンドそのものは、80 年代に比べて遥かに深みと写実性を高めており(特にシンセサイザー・サウンドに顕著)、息を呑むような迫力と写実感、広がり、そして鮮烈さがある。
ドキュメンタリー・フィルムの BGM のような高級なサウンドの上を、アナログ・シンセサイザーのファンファーレが流れるように響きわたるさまは、プログレ・ファンに、ああ生きててよかったという感慨のため息をつかせるに違いない。
コラールやヴォカリーズは、あまりに厳粛な美しさをもつために、巷のヒーリング・ミュージックがかって聴こえてしまうほどだ。
第三世界風のエキゾチックな効果音も、ADIEMUS や流行のケルト音楽を思わせる、本格的なものである。
これらだけでは、単なるゴージャスなニュー・エイジ・ミュージックになってしまうが、そこをぐっとロックへたぐり寄せ引き締めるのが、ギターの存在である。
層を成して重なり合うシンセサイザーの壁を貫いてゆくギターは、ハードロック的な激しい音とメロディアスなプレイで、時にド演歌っぽさも見せながら、アンサンブルをひっぱっている。
やや懐かしめの(つまり昔のハードロックのような)泣きのプレイも多い。
また、リズム・セクションも音数を惜しまないプレイで、ギターとともに力強く演奏をドライヴしている。
特に、アルバム中盤では、乱れ吹きフルートとハードなギター、スピーディなロールを繰り返すドラムスが、ややジャジーな音も交えつつ目一杯な演奏を繰り広げている。
シンセサイザー、オルガンとギター、フルートが呼応しつつハードに攻め立てるトゥッティは、やはりプログレ以外の何ものでもない。
4 曲目でハッと目を醒ます方も、いるかもしれない。
また最終章、9 曲 10 曲目では、サックスやピアノ、アコースティック・ギターも現れて、スペインのフォリアにも似たテーマをもつ哀愁のシンフォニーからジャジーなバラードまでを、幅広くゆき渡る演奏を見せる。
そして、これだけサウンドが洗練されても、クラシカルに角張った音色のアンサンブルがもつ、しなやかさとは無縁の、真実味のある「ゴツさ」という個性は貫かれている。
オペラチックなコラールなども交えた、多彩な楽器が絡んでゆく仰々しいサウンドだが、どこか洗練され切らない武骨さがあるのだ。
息抜きやユーモアといったものもあまり感じられず、不器用なまでに音が積み重ねられていて、それがそのまま誠実なイメージにつながっている。
愚直にして真剣なオーケストレーションが魅力の、本格シンフォニック・ロックである。
最初から最後まで緩むことなく一気呵成に突っ走る力作といえる。
各曲も鑑賞予定。
「Book Of Prophecies」(20:35)三部構成。
「The Duel」(7:20)
「The Lion's Empire」(6:40)
「Wings Of The Phoenix」(5:08)
「Ship Of Darkness」(5:46)
「Wargames」(4:28)
「The Moment Of Truth」(6:40)
「Book Of Porphecies-Radio Edit」(3:25)ボーナス・トラック。
(BGCD 025)
Attila Kollar | flute, tambourine, whistle |
Robert Erdesz | keyboards |
Casaba Bogdan | guitars |
Laszlo Gomor | drums |
Attila Seres | bass |
Ferenc Raus | drums on 5,7 |
2014 年発表の作品「Marsbéli Krónikák II」。
デビュー作「火星年代記」の続編。
内容は、独特の硬質で無機質なエレクトリック・サウンドとそれと相反するイメージのフォーキーなペーソスをブレンドし、PINK FLOYD 風のブルージーな重厚さを加味したシンフォニック・ロック。
エレクトリックなサウンドによる重量感や猛々しさ、無機性、未来志向といった表現とアコースティックなサウンドによる素朴で情感あふれる表現がいい具合にマッチした、骨太なタッチで物語を悠然と描いている。
リリシズムを一手に引き受けるフルートや古びた原動機のようにメカニカルなシンセサイザー・サウンドはかつてのまま。
80 年代初頭にはどこか安っぽく聴こえて嫌だった低音のシーケンスが妙に懐かしく感じられるから勝手なものです。
ゲストのサックスの圧倒的な存在感(このサックスやソウルフルな女声スキャットはやはり「狂気」からでしょう)、同じくゲストの弦楽奏による優雅さと哀愁、オールドウェーヴ・ロックの権化のようなギター・プレイ、そしてマイク・オールドフィールドも顔を出す。
第一章の続編という意味では理想的な内容といえる。
第二曲の組曲「Voices From The Past」も抑揚の大きい力作。
第三曲「The World Without Us」は CAMEL 直系のロマンティック・ロック。
第五曲「Impossible」はクラシカルなアンサンブルとモダンなデジタル・ロックを衝突させた野心作。
スキャットとモノローグ風のつぶやき以外は全編インストゥルメンタル。
プロデュースはタマス・エルドレズ。
ドラマーのラズロ・ゴモア氏は NOSTRADAMUS からちゃっかり本家に戻っている。
ディスクを抜き出すとケースの内側には火星行きの NASA の宇宙船のチケットが描かれている。
日々におわれてすっかり忘れていたが、僕らの世代にとっては宇宙に飛び出すことが何よりの夢だった。
(SPH 2014/001)
Attila Kollar | flute, recorder, whitsle, tambourine, keyboards | ||
Casaba Bogdan | acoustic & electric guitar | Gabor Naszadi | acoustic guitar |
Zsolt Vamos | guitar | Robert Erdesz | keyboards |
Laszlo Gomor | conga, percussion | Gabor Kisszabo | bass |
Tamas Pocs | bass | Fernc Gerdesits | vocals |
Szilvia Attila | vocals | Zsuzsa Ullmann | vocals |
98 年発表のアルバム「Musical Witchcraft」。
SOLARIS のオリジナル・メンバーの一人であるフルーティスト、コラ・アッティラによる。
民族音楽風のエキゾチックなメロディを奏でるフルート、リコーダーをフィーチュアした、クラシカル・ロック・アルバムである。
心洗われるアコースティック・アンサンブルからヘヴィ・メタリックなギターの入ったハード・シンフォニック・ロックまで、多彩な曲想を楽しめる。
超絶技巧や息を呑むような緻密さ、スケールの大きさはないが、フォーク/民族音楽・タッチのメロディ・ラインに朴とつな暖かみがにじみ出ており、まとまりのあるイメージをもつ佳作である。
アクセントのつもりなのだろうが、エレキギターの表現に画一的な HR/HM スタイルが散見されるのが残念。
一曲目の第四部、バッハへ捧げられた擬バロック作品が、なかなかの力作。
SOLARIS のメンバーも参加。
「Musical Witchcraft Suite」(19:16)4部から成る組曲。
フルートを中心としたクラシカルかつトラッド調の第一部「Wonderers from the 15th century」。
メロディアスなフルートとヘヴィなギターがコントラストする邪悪なヘヴィ・チューンの第二部「The dark middle age」。
アコースティック・ギターとフルートによるリリカルなデュオの第三部「Poseidon」ではクラシック、フォークからシャンソン風まで多彩な表情を見せる。
ギター、シンセサイザーを駆使したバロック音楽のヘヴィ・シンフォ的解釈である第四部「Ba'rock'」のフルートによる泣きのテーマは管弦楽組曲第二番風だ。
「Music From The Spheres」(3:36)スタカートを活かしたフルートがリードしエレクトリックなビートでバウンスするリズミカルな舞曲。
フォーク・タッチのテーマを小気味よく歌うフルートに対しギターはメロディアス。
シンセサイザーがニューエイジっぽい。
「Boleriade」(4:57)ボレロだろうか行進曲風のスネア・ドラムの上で朗々とフルートが歌う。
テレマン、ヘンデル風のシンセサイザー、ややオリエンタルな表情も見せるアンサンブル。
ギターのパワー・コードはやや違和感あり。
「Morning Dance In The Garden Of Chenonceau Castle」(2:03)ストリングス系シンセサイザー、アコースティック・ギター、フルートによるアンサンブル。
ピチカートの音もシンセサイザーだろう。
快活で愛らしい演奏です。
「Silent Man's Prayer」(7:22)パーカッション系のシンセサイザーを活かした宅録ニューエイジ風から、ハードロックへと変貌する不思議な作品。
前半フルートはリードを取り、中盤はギターと丁々発止渡り合う。
泣きのギター・ソロから奇妙な呪文をバックにした哀愁のフルート・デュオが続く。
「Rocks And Waves From Saint-Malo」(3:44)泣き叫ぶギターとスタカートを強調するフルートによるアンサンブル、そしてギター主導のハードロックへ。
後半もフルートが勇ましい。
「Alchemy」(4:32)混声ヴォカリーズ、フルートらによるトラジックなテーマをもつトラッド・シンフォニック・チューン。
ワイルドなギターが吼える。
(BGCD 016)
Attila Kollar | flute, recorder, tambourine | ||
Gyorgy Bokor | bassoon | Laszlo Gomor | drums |
Ferenc Kornis | percussion | Gabor Naszadi | acoustic guitar |
Tamas Pocs | bass | Peter Sarik | piano, organ, synthesizer |
Edina Szirtes | violin, vocals | Zsolt Vamos | electric & acoustic guitar |
Laszlo Vermes | drums |
2002 年発表のコラ・アッティラのソロ第二作「Musical Witchcraft II Utopia」。
内容は、トラッド色を強めたリズミカルなアコースティック・アンサンブルとエレクトリック・ギターによるヘヴィな演奏をブレンドしたクラシック・ロック。
キーボード、ヴォーカルは抑えられ、フルートを中心に管絃楽器を活かした演奏が主になっている。
特に、フルートとヴァイオリン、アコースティック・ギターによるメランコリックな哀愁あるアンサンブルが魅力。
フォルクローレ風のテーマに、バスーンの音もいいアクセントとなっている。
もう一つの側面である、トラッド・アンサンブルと対を成すヘヴィ・シンフォニック調の中心的存在は、ギターである。
HM っぽいサウンドとやや決まりきった表現に、SOLARIS らしさとともに、クラシック畑のプレイヤーのロックの解釈の限界を見る。
とはいえ、聴き慣れると、躍動するフルートとギターのやりとりがなかなか呼吸がいいことが分かって楽しい
。
4 曲目では、HM とリズミカルなトラッドの融合路線に成功している。
70 年代プログレの影響/クリシェはなく、トラッド・フォーク、クラシックとロックを、ごく素直に自由に行き交う演奏であるといえるだろう。
そして、ジャジーなプレイも大胆に取り込まれている。
ちなみに、フルートを多用するトラッド調の音ながらも、JETHRO TULL とはニュアンスが異なる。
強烈なヴォーカリストの不在はいうまでもなく、それ以上に、こちらには、ブルーズ・ロックにセンスあふれるヒネリを加えた TULL のような、ロックの核心に対してダイナミックに切り込む姿勢がない。
こちらは、あくまでクラシック、トラッドからのロックへの接近/ミクスチャであり、芸術性では決してひけをとらないが、しなやかで強引な存在の主張の迫真性では敵わないのだ。
なぞと余計なことはいったが、トラッド調のアコースティック、クラシカル・ロックのもつ叙情性は、アルゼンチンの名バンド ANACRUSA の諸作にも匹敵する味わいであり、その叙情性をモダンなサウンドを使ってきっちりと表現できている。
フルートを主にアコースティックな音を散りばめたシンフォニック・ロックとしては、格別の内容といえるだろう。
まあ、どちらかといえば、年寄り向け。
「Utopia szvit(Suite Utopia)」(19:53)四章からなる大作。
「Kastelyok Rejteken(In The Hiding Place Of Castle)」(2:51)
「Morus Titkai(Secrets Of Morus)」(3:52)
「Lakoma A Lovagi Tornain(Feast On The Tornament)」(2:23)
「Inkvizicio(Inquisition)」(4:44)ヴァイオリン、ギターをフィーチュアした、ややジャズロック調でアップテンポのなめらかな作品。
「A Toronyszoba kodbe vesz...(The Tower's Room Lost In The Fog...)」(4:57)フルート、ピアノによるエレジーから、リズムとともにジャジーな AOR タッチ(ラテンポップ調のバラードというべきか)へと変化する異色作。
うっすらと女声のヴォカリーズも聴こえる。
「Nagyvarosi Utopia(Utopia From The City)」(5:07)南米風の爽やかな作品。イントロのアコースティック・ギター、コード進行が BACAMARTE の唯一作の作品にそっくり。
「Tundermese A Loire Menten(Fairy Tale Along The Loire)」(3:32)フルート、ヴァイオリン、アコースティック・ギター、女声ヴォカリーズによる安らぎの終曲。
パーカッションがおだやかに波うち、その上をゆったりと旋律が流れてゆく。
(BGCD 116)
Valeria Barcsik | composer, keyboards |
Peter Foldesi | flute |
Andras Kaptalan | guitar |
Laszlo Gomor | drums, percussion |
Tamas Pocs | bass |
guest: | |
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Peter Nagi | guitar, bass |
2008 年発表の作品「Testament」。
キーボーディストのヴァレリア・フォルデシ嬢を中心に SOLARIS のリズム・セクションが参加したグループ「NOSTRADAMUS」による第一作である。
(元々は SOLARIS FUSION なるグループ名でかなりメタル寄りのサウンドを奏でていたが、バンド名変更に伴いオリジナル SOLARIS に近い作風になったようだ)
トラッド風の哀愁あるメロディ・ラインやフルートを大きくフィーチュアするなど基本的な芸風は SOLARIS と同じだが、ギターやリズムにより現代的なメリハリを効かせてへヴィなサウンドに仕上げている。
リズム・セクションの二人がリードしているためか、音楽的なノリやグルーヴは SOLARIS よりもダイナミックで強いと思う。
荘厳さとけたたましさの均衡も、みごとに図られている。
それを支えるのが、重厚華麗なストリングスとメタリックなシンセサイザーからリリカルなアコースティック・ピアノまで、多彩にして充実したキーボード・サウンドである。
「Wall Of "Keyboard" Sound」とでもいったらいいような東欧圏特有の分厚く鈍い光沢のあるサウンドが、時空を超える勢いで天上から一気に降り注ぎ、隆々と聳え立つ。
フルート奏者もアッティラ・コラーを十分意識した激しいプレイを見せている。
へヴィなモダン・シンフォニック・サウンドに絡みつく独特の伝奇調、クラシカルな厳粛さ、フォーキーで深い哀愁など、音楽的な内容はロシアの雄、LITTLE TRAGEDIES にまったく引けを取らない。
ワールド・ミュージック的な表現も効果的であり、なんというか、「大物」感が随所に漂う。
民族調の哀愁と古典音楽の典雅さからくる深い情趣のおかげか、メタルなパワー・コードと地鳴りのようなツーバス・ロールも気にならない。
SOLARIS のファン、そしてクラシカルなシンフォニック・ロックのファンにお薦め。
元からのファンは一曲目でぶっ飛ばされると思います。
それにしてもこの独特の演歌っぽさ(ポーランドのグループにも共通する)はどこから来るのだろう。不思議です。
「Solarissimo」(4:03)
「Troy」(3:32)
「Shadow In The Rain」(4:50)
「Divine Comedy」(4:15)
「This Is Not The Day Of Your Death」(5:03)
「Children's Kingdom」(4:04)
「Run Of The World」(4:13)
「Testament」(14:00)深い哀愁と原始の野蛮さが渾然となった力作。コンテンポラリーな表現も。
「African Cotton Typesetters In Ireland」(1:39)唐突なアフリカン・ミュージック。「アイルランドにいるアフリカ人の植字工」って何でしょう? 宮澤賢治的な?
「Emotion」(5:42)
「Mystica」(4:11)
「Secret In Hand」(3:13)
「My Emotion」(5:42)ボーナス・トラック。
(BGCD 187)