ロシアのプログレッシヴ・ロック・グループ「LITTLE TRAGEDIES」。 94 年結成。作品は十枚。キーボードをフィーチュアしたハード・シンフォニック・ロック。 意外に「歌もの」中心の作風です。最新作は 2021 年発表の「Magic Shop」。
Gennady Ilyin | keyboards, vocals |
Yuri Skripkin | drums |
Oleg Babynin | bass |
Alexander Malakhovsky | guitar |
Aleksey Bildin | saxophone, clarinet |
Alexander Mamontov | trumpet |
Anatoly Shpiko | trumpet |
Dmitry Kononov | trombone |
2014 年発表の作品「At Night」。
内容は、キーボードをフィーチュアしたヘヴィ・シンフォニック・ロック。
硬軟の振れ幅の大きく、時にモダンなハードネスを押し出し、時に純クラシカルであり、時に朴訥な民謡風でもある。
いずれにしても音楽的なバリエーションを支える情感はきわめて豊かである。
特にバラードの泣きのメロディ・ライン、歌唱の濃さは特徴的。
演奏面では、ロマンティックなアコースティック・ピアノ、パーカッシヴに地響き立てるオルガン、なめらかに高らかに歌うシンセサイザーらをとりまぜたキーボードのプレイがアンサンブルをリードする。
ハードに攻めるシーンでは往年の EL&P あるいはアメリカのプログレ系 HR/HM の作品のようにオルガンとギターが雄叫びをあげ爆音で並走する。
轟音の濁流にクラシカルなフレーズがきらめき、ファンファーレが高鳴る痛快感も盛り込まれている。
1 曲目、5 曲目、9 曲目に顕著。
特に 9 曲目の勇壮なるシンフォニーは稀に見るいい出来映え。
結論として、路線堅調の上でメリハリのあるなかなかの好アルバムだと思います。
ヴォーカルはロシア語。作曲とプロデュースはゲナディ・イリン。
久しぶりに荒々しくうなりを上げるハモンド・オルガンを堪能できる。
「At Nights」(11:59)
「In The Library」(4:52)
「Forest, Darkness」(3:15)
「Dawn」(4:53)
「Comrade」(9:44)
「Sekhme」(6:27)
「Late Autumn Time」(4:31)
「Spring Chatter」(2:59)
「Walking Stick」(7:56)
「There Are Many Good Things In The World」(4:08)
(FGBG 4937)
Igor Mikhel | guitar |
Gennady Ilyin | keyboards, vocals |
Evgeny Shchukin | sound engineer |
2000 年発表のアルバム「The Sun Of Spirit」。
キーボーディスト、ゲナディ・イリンのソロ・アルバムを、当時プロジェクトであった LITTLE TRAGEDIES 名義で発表した作品。
非常につややかな音色のシンセサイザー、重厚なストリングス、デジタル・パーカッション系、ピアノ、ハモンド・オルガンなどキーボードを駆使したロマン派クラシック風の演奏に、打楽器とヴォーカルを絡めた独自の作風である。
メランコリックなヴォイスは、時に朗々と、時にモノローグ風にたんたんと、時にアジテーション調でエネルギッシュにと、さまざまな表情を操る。特に、アルバム後半は歌が中心となっていて、フォーク風からアンニュイなポップス調まで自由な表現を見せている。
ドラムスはクレジットがないところから考えて、プログラミングなのだろうがあまり違和感はない。
打ち込みっぽさを活かした作品もある。
また、ギターは一部で登場するのみだが、アコースティック・ギターがとてもいいアクセントになっている。
アナログ・キーボードを駆使した 70 年代風を特徴とするグループは多いが、この作品は、必ずしもアナログ的ではない、むしろデジタル・シーケンス調の音もためらいなく盛り込んでいる。
そして、だからといって曲の出来が悪い訳ではまったくなく、むしろ面白い効果を上げている。
どうやら、アナログだから、デジタルだから、という観点は無意味なようだ。
つまり、イリン氏が主張するとおり、象徴詩人の詩にインスパイアされた自分の作品を世に問うことが目的であり、アナログ・キーボードの音もノスタルジーや模倣ではなく、そのために手がかりに過ぎないということなのだろう。
こういったイリン氏の姿勢は、キース・エマーソンが EL&P をやろうと思い立ったときの「自分にしかできないことをやろう」という気持ちと、かなり近いのではないだろうか。
したがって、このスタイルをキーボード・ロックといってしまうと、的を外してしまう気がする。
もっと幅広い、枠にはめられない個人的な音楽ではないだろうか。
あえていえば、歌のスタイルはフォーク・ソングであり、素朴さと情熱が感じられる。
弾き語りの「弾き」が山のようなキーボード群だった、ということなのだろう。
全曲イリン氏のオリジナル作であり、著名なクラシック作品からのテーマの翻案などはあったとしても、これだけの中身を作り上げるとは驚異的である。
4 曲目以降の歌詞は、ロシア象徴詩人のニコライ・グミレフ(Nicloay Gumilev)の作品から。
いろいろ言ってしまった後では口はばったいが、小声でこっそり言うと 5 曲目「Thoughts」はエマーソン風のオルガンが炸裂する興奮を抑えきれない作品です。
「The Parrot」
「The Witch」
「I Saw A Dream」
「Reader Of The Books」
「Thoughts」
「Spring Wood」
「Postman」
「The Sun Of Sprit」
(BOHEME CDBMR 012188)
Gennady Ilyin | keyboards, vocals |
Yuri Skripkin | drums |
Alexander Malakhovsky | guitar |
Oleg Babynin | bass, vocals |
Aleksey Bildin | saxophone |
2003 年発表のアルバム「Return」。
内容は、けたたましくも重厚華麗なクラシカル・シンフォニック・ロック。
主役はキース・エマーソン 直系のオルガン、シンセサイザー、ピアノを操るキーボーディストだが、メタリックな泣きのギターも負けずに活躍するヘヴィなサウンドである。
旋律や和声、アンサンブルは、バロック音楽から近現代までのクラシック音楽を基調にしており、当然ながらロシア風の極端なロマンチシズムが感じられる。
そして、ただでさえ華やかなアンサンブルによるセレナーデ風のテーマ演奏が、音数多いドラムスと重金属ギターによる思いきったデフォルメによって、パワーとスピードで圧倒するような演奏へと変貌してゆく。
このギターのパワーコードと凶悪なドラム・ビートの挑発を、勇壮きわまるシンセサイザーが受け止め、ヴォーカルが朗々と歌い上げる。
ヴォーカル・パートなど主となるメロディ・ラインは、素直にロマンティックでベタベタなものか、トラッド調の素朴でコミカルなものである。
ジャガイモをほおばりながら歌っているようなロシア語独特の歌唱表現には、辺境ファンならずとも惹きつけられる怪しくも切実な響きがある。
うまいのかどうかはまったく分からないが、息苦しくなるような切迫感と存在感は確かにある。
全体に、いわゆるハードロックの「泣き」がロシア・クラシックの「悲愴」とあいまって、東洋人には胸焼けしそうな味わいになっている。
そして、これだけ剛健、濃厚な演奏が土砂降りのように降り注ぐと、ピアノやストリングスを用いた叙情的な場面も引き立つというものだ。
オーボエのような木管楽器調のシンセサイザーとまろやかなサックスがなかなかいい感じだし、ギターも、ゆるやかに歌い上げるところでは、デリケートな表情を巧みに操っている。
7 曲目は、オープニングのオルガンがカッコいい力作。
10 曲目は、グリーグの作品のテーマを繰り出す大作。シンセサイザー、ハモンド・オルガンが縦横無尽に活躍し、ロックの娯楽性を分かりやすく示した EL&P 直系の傑作。MASTER MIND を思い出します。
さて、キーボードのプレイだが、オルガンは、こういうスタイルを創始したキース・エマーソンに倣うのは当然な一方、ピアノのプレイは、エマーソン氏得意の近現代スタイルではなく、今風のポピュラー・ピアノに近い。
古くて恐縮だが、個人的には、ウィンダム・ヒル・レーベルの作品を思い出した。
また、モダンなクラシカル・ロック路線、つまり、本格クラシック+ HM スタイルにもかかわらず、オールド・プログレの素養も、並々ならぬものがあると思う。
端的にいえば、EL&P(というかキルミンなんとかとやっているエマーソン・バンド) 流の継承のみならず、GENESIS を思わせる表現もある。
また、マニアックさが日本のキーボード・プログレ・バンドと通じるようにも思う。
作曲のジェナーディ・イリン氏によると、本作は、人間が遅かれ早かれ人生において遭遇する永遠の課題について言及したトータル・アルバムであるとのこと。そして、「プログレッシヴ」なるレッテルは、特に不要である由。
作詞は、象徴詩人ニコライ・グミレフ(Nicloay Gumilev)の作品より。
ヴォーカルはロシア語。
「Dreams」(5:59)この物語の世界への入り口となる、舞曲風のエレガンスとスぺイシーな神秘性に彩られた序章。
ノイズ、電子音が散りばめられ、波打つうちに、劇的な管弦楽奏が導かれ、愛らしくも苦悩に満ちた歌が始まる。
「After Death」(8:58)つややかなシンセサイザー、パーカッシヴなオルガンが勇ましく高鳴る、キーボード・ロックのお約束のような作品。ヴォーカルもカッコよく決めたがる。ドラムスは HM ではなくカール・パーマーに近いジャジーなプレイも見せる。
「Credo」(12:57)前曲に続きクライマックスの連続。食べてるものが違うと痛感。攻撃的な表現とメローな表現の対比がすさまじい。
「In The Deserted House」(4:33)弦楽、チェレステ、木金管伴奏による哀愁の歌もの。いわゆる「第二楽章」の趣。管弦楽を模するキーボードがみごと。
「Games」(6:23)悲壮感漂うシンフォニック・チューン。
ギターのアルペジオは「Epitaph」。
「Neoromantic Fairlytale」(5:07)ギターとヴォーカルがむせび泣く悲恋物語調の作品。
チェンバロの音が印象的。
「The Clever Demon」(7:12)オルガンとアナログ・シンセサイザーをフィーチュアした痛快なキーボード・シンフォニック・チューン。
オルガンは快速フレーズで暴れまわる。
演劇調のヴォーカルからして内容は御伽噺か何かなのだろう。
「Canzona」(5:38)慈愛に満ちたギターとシンセサイザー、ピアノによるアンサンブル。
「Return」(6:09)シンセサイザーの音を前面に出しながらも正統的なクラシックの風格ある傑作。
宗教的、思弁的、といった言葉が似合う
初期 AFTER CRYING の作風に近い、つまり、安易なロマンチシズムではない KING CRIMSON 的な無常感がある。
「On The Themes Of Grieg」(10:59)わりと古典的な手法によるグリークの主題による変奏曲。
「Dreams II」(4:11)序章と逆方向に、混沌へと音は消えてゆく。
(FGBG 4554)
Gennady Ilyin | keyboards, vocals |
Yuri Skripkin | drums |
Alexander Malakhovsky | guitar |
Oleg Babynin | bass, vocals |
Aleksey Bildin | saxophone |
2006 年発表のアルバム「New Faust」
内容は、アナログ・キーボードを中心に、暴発気味の情熱をふりかざし高尚かつアグレッシヴに走り回るクラシカル・ヘヴィ・ロック。
あまつさえ、「マタイ受難曲」に「罪と罰」の詞をつけるという試みもある、これ以上あり得ないような重厚濃密な世界である。
アナログ・シンセサイザーとオルガンによるリード・プレイは、完全なまでにキース・エマーソンであり、テクニカルなユニゾンでギターが唸りを上げ、ツーバスがロールする。
特に、ドラムス、ギター、キーボードが一体となった演奏は、極端なまでにけたたましく、せわしなく、強引で、リスナーを引きずり回す。
前作よりも、器楽演奏の比重は大きい。
また、クラシックの翻案というアプローチに明確な志向性がある。
つまり、厳かなバロック音楽偏愛、行進曲的なビートによる高揚と勇ましさの希求、邪悪なエキゾチズムの強調、というアプローチである。
奇数拍子による東欧舞曲風の演奏は、近代クラシックからのものなのか、GENESIS 辺りのプログレからの直接的移入かは判然としない。
音楽的な奔放さという点では、クラシック以外のポップ・ミュージックへのボーダーレスななだれ込み(ジャズ、R&B、C&W、ハワイアンなど)がない分で、EL&P に及ばないが、そこはそれ、比べてばかりでもしょうがない。
また、ヴォーカルには、感傷といっていい独特の表情がある。
この感傷的な表現が、本作がネオプログレ以降の音であることを語っている。
ともあれ、リーダー格のキーボード・プレイヤーが、胎教から「Tarkus」や「Trilogy」らにどっぷり漬かってきたのは、間違いなさそうです。
最終曲終盤のような叙情的な表現も、やや古めかしくはあるが、かなりいい線である。
7 拍子のオスティナートにメタルなパワー・コードが重なる、といったクリシェは聴こえないことにすれば、Par Lindh 氏が刻んだ道を歩み、わき道から追い越して、みごとに頂上へと達した内容といえるだろう。
ヴォーカルは、往年の東欧ロックを思い出させる。
再現具合という点では、全盛期の MASTER MIND と同程度である。
CD 二枚組。
(FGBG 4656)
Alexander Malakhovsky | guitar |
Yuri Skripkin | drums |
Gennady Ilyin | keyboards, vocals |
Aleksey Bildin | saxophone |
Oleg Babynin | bass |
guest: | |
---|---|
Alexander Mamontov | trumpet on 1, 2 |
2006 年発表のアルバム「The Sixth Sense」。
内容は、ヘヴィなギターとキーボードをフィーチュアした歌ものシンフォニック・ロック。
ギターがザクザクとしたパワーコードを轟かすのみならず、バスドラも遠慮なくロールを繰り返すので、HM/HR にキース・エマーソンが加わってロシアン・シンフォニーを演じている感じというのが第一印象である。
また、アグレッシヴな演奏だけでなく、歌ものを中心に手折れんばかりにロマンティックな表現を重ねるところも特徴的だ。
こういう作品では、キーボードの演奏もエマーソンからトニー「Firth Of Fifth」バンクスに交代する。
さて、キーボードでクラシックのシンフォニーの表現をなぞる手法は、これまでにもさまざまに試みられているが、この作品で耳を惹くのは、交響曲的な勇ましさとギターを主役にした HM の重量感が非常にうまくマッチしているところだ。
ザクザクギターによるビートとキーボードによる重厚なメロディ演奏、または、ギターのしなやかなメロディとピアノの和音によるリズムといったように、役割をうまく切り換えて演じながら、全体としてロシア・クラシックらしい濃厚かつ哀感ある高級なロマンチシズムを生み出している。
さらに、歌パートではギターもなだらかなアルペジオに変化し、素朴な歌声とともに民俗音楽(フォーク)っぽい味わいを演出する。
このような幅広い表現は、ギター・プレイの多彩さに負うところが大きい。
キーボーディストは、ハモンド・オルガンでアグレッシヴに音を叩きつけて勇壮なテーマを歌い上げ、また、アナログ・モノ・シンセサイザーできらびやかなオブリガートを飾り、時にトニー・バンクス風のなめらかなフレーズを放つかと思えば、エレガントなピアノで華やぎを添えるのも怠りない。
叙情的な場面でのストリングス(エマーソンにはなかった)や哀愁あるピアノ伴奏もそつなくこなし、さらには武骨ながらも味のあるヴォーカルも担当している。作曲は、すべてこのキーボーディストによる。
中盤以降は、かなりヴォーカルの比重が高くなり、演奏も歌を支える内省的な表現やメロディアスなものが増えてくる。ヴォーカルには誠実さとともに巧まざる垢抜けなさ、厳つさがあり、ピアノの弾き語りでは抜群の存在感を示す。
メロディアスになるとともに意外なほどネオ・プログレ風の作風も見せるが、独特の重さと武骨さのおかげで安っぽくはならない。
傑作である 4 曲目「Prodigal Son」では、GENESIS に近い丹念なアンサンブルの妙味がクラシカルな響きへと昇華するみごとな瞬間がある。
こういう曲でもネオ・プログレ然としないところに、演奏者のレベルの高さがはっきりと出ている。
(質を落とさない自信があるのか、8 曲目「Jurkey」ではいきなりネオ・プログレど真ん中に飛び込んでいる)
10 曲目「Pre-Memory」のようにスティーヴ・ハケットの作風に近い優美な演奏もある。
「キーボード・シンフォニック・ロック」という言葉はかなり使い古された感があるが、まずはそのレッテルを貼られるに違いないこの作品には、ギターと相乗りしたハードロックのアクセントによるシンフォニーのデフォルメのうまさや、弾き語りにおける演劇的な表現といった新鮮な個性がある。
もちろん、テーマの明快さ、民族色、サウンド・スケープの自然な美しさ、アンサンブルのバランスのよさといったベーシックな音楽的強みもある。豪快に弾き倒すわりにはテクニック・オンリーというイメージにならないのは、こういった基本がしっかりしている上に、作曲をよく練っているからだろう。
まさに、ロシアン・クラシックの 21 世紀的解釈である。
ヴォーカルはロシア語。
メロディアスなサックスをフィーチュアするなど、PINK FLOYD の影響も明らかだ。
東欧、特にポーランドのグループに顕著な「濃さ」や「くどさ」はあるが、聴き進むうちに次第にデリケートな美しさとして感じられるようになると思う。
AFTER CRYING や KOTEBEL との違いは、素地に「KING CRIMSON」がないこと。
SOLARIS との違いは、ワールド・ミュージック、ニューエイジ・ミュージックっぽさがまったくないこと。
(MALS 162)
Gennady Ilyin | keyboards, vocals |
Yuri Skripkin | drums |
Oleg Babynin | bass |
Alexander Malakhovsky | guitar |
Aleksey Bildin | saxophone, clarinet |
2008 年発表の作品「Cross」。
内容は、オルガン、シンセサイザーとギターが唸りを上げて走り回るへヴィ・クラシカル・ロック。
バロック音楽やロマン派クラシックをベースにしたハードロックであり、並外れた「剛」とセンシティヴな「柔」を使い分けた、ダイナミクス・レンジの大きな作風である。
HR/HM とクラシカルなプログレの合体をごく自然に成し遂げたのは EL&P であったが、その新世紀ヴァージョンである。
(独特の垢抜けなさは、EL&P よりも THE NICE だろう、という気もするが...)
そして、重量感や哀愁で迫るだけではなく軽快なアンサンブルも得意なようだ。
この軽やかなタッチも EL&P 譲りなのかどうかは分からないが、演奏のメリハリという点では大きな強みである。
ただし、キーボードばかりが目立つわけではなく、バンド全体でハードかつクラシカルなサウンドを生み出すスタイルである。
そして、ロマンティックな表現については、メロディック・マイナー HR/HM をロックの基本として難なく習得している世代にふさわしく、本家を大いに上回る熟練度を見せる。
実際、アコースティック・ギター弾き語りのような歌ものの渋い味わいは、このグループの大きな特徴である。
典雅なバロック調とコテコテのド演歌風の泣きが、矛盾なく一つの曲に詰め込まれて激流に押し流されてゆく、そこが醍醐味といえるだろう。
今回は、クラリネットの音が新鮮だった。
充実のへヴィ・シンフォニック・ロック作品。7 曲目の傑作超大作「The Voice Of Silence」は MUSEA の企画盤「The Spaghetti Epic 3」にも収録された。
ヴォーカルはロシア語。
タイトル、曲名、歌詞などについて英語表記とロシア語表記の二つの版があるようだ。
本作も、歌詞は詩人ニコライ・グミレフ(Nicloay Gumilev)の作品から採られている。
(MALS289)
Gennady Ilyin | keyboards |
Yuri Skripkin | drums |
Oleg Babynin | bass |
2009 年発表の作品「The Paris Symphony」。
1996 年から 97 年にかけて録音された作品の発掘発表盤。
内容は、EL&P、TRACE 直系の重厚華麗なクラシック志向キーボード・ロック。
典型的なスタイルを、重厚なアレンジと的確なサウンド配置の生む本格クラシック色でグレードアップしている。
キーボードは管弦楽を意識したシンセサイザーとピアノが主。
情熱のままに性急でけたたましく、厳格にして凝り性で潔癖で、どこまでもピュアな作風である。
近作が歌もの重視になっているので、キーボード・ロック・ファンにはうれしい内容だ。
全曲インストゥルメンタル。
ジャケットからして主題はナポレオン戦争かと思ったが、わりとベタな曲名からはパリを巡るエッセイといった趣向のようだ。
パル・リンダー氏との違いは HR/HM にならないこと。
「Notre Dame De Paris」(7:37)タイトルは、ユーゴーの有名な「ノートルダムの鐘(せむし男)」。
厳かなチャーチ・オルガンの序章を経て、キーボード・ロックの代名詞足りえる、忙しなくパーカッシヴなアンサンブルへ。
シンセサイザーは夜空を焼き切る探索灯であり、行進する軍靴の地響きであり、喝采する群集の頭上へと降り注ぐ炸薬の轟きである。
EL&P ファン納得の一曲。
「Montmartre」(5:57)パッショネートなハモンド・オルガンが登場し、迸るシンセサイザーの奔流と一騎打ちを繰り広げる。
そして、ジャジーな変化も加えつつ独走態勢へ。
ドラムスの連打にも力が入る。
終盤になぜか ROLLING STONES が飛び出す。「モンマルトルの丘」。
「Hôtel Des Invalides」(10:28)ピアノを含め打楽器系の音をフィーチュアしたクラシックの狂想曲風の大作。
打撃音が多い割には終盤まであまりロックっぽさはない。「廃兵院」。
「Napoléon」(9:21)「ナポレオン」というタイトル通り、奇天烈にして勇壮極まるシンセサイザー・ロック。芸術は乱調にあり。今だとゲームの音楽ですかね。本家の「展覧会の絵」(古城〜ブルース・ヴァリエーション辺り)を思い出していただければ正解だと思います。6:20 辺りからの展開は、まさに死してなお立ち上がる勇者の趣。
大傑作。
「Jardin Du Luxembourg」(3:56)前曲とは対照的に正統的なロマン派クラシック・ロック掌編。ほのかなエキゾチズムの薬味がいい。「リュクサンブール公園」。
「Arc De Triomphe」(6:14)再び前々曲の躍動するノリを復活させた情熱暴走型シンセサイザー・ロック。冒頭で抑えるだけにそこからの暴発がショッキング。基本的には行進曲である。いわゆる「エトワール凱旋門」。
以下ボーナス・トラック。もちろん全部 EL&P。
「Moonlight People」(2:38)
「Romantic Walz」(4:07)
「Relayer」(5:51)
(FGBG 4784)
Gennady Ilyin | keyboards, vocals |
Yuri Skripkin | drums |
Oleg Babynin | bass |
Alexander Malakhovsky | guitar |
Aleksey Bildin | saxophone, clarinet |
Alexander Mamontov | trumpet |
2011 年発表の作品「Obsessed」。
内容は、へヴィな「泣き」のクラシカル・ロック。
ギターを中心とした安定感あるアンサンブルによる「ハードロック調クラシック」であり、プログレ正統流派の一つであるクラシック翻案の王道である。
テーマとなる旋律は完全にクラシック。
キーボードの使い方は、アナログ・シンセサイザーが金切り声を上げハモンド・オルガンが炸裂するシーンよりも、オーケストラ的な表現やチャーチ・オルガンによるクラシカルな効果を出すことに主眼があるようであり、全体としては無理にキーボード・ロックという呼称をしなくてもいいと思う。(2 曲目のように TRACE のようなニュアンスもあるにはある)
本作品の AFTER CRYING と共通する感じは、単にトランペットの導入からだけではなく、ともに後期 "Works" EL&P にテイストが似ていることからもきていると思う。
したがって、EL&P 特有のオーバーヒート気味の高揚感を味わいたい向きには、とりあえずお薦めできると思う。
もっとも、こちらはバスドラのロールやギターのパワーコードやリフなど表現上の HM/HR 色がかなり濃く、また、たまに高尚さから遊離してイージー・リスニング、ムード・ミュージック調になることがある。
ただし、ドカドカっと HM 調で暴れることも多い分、弦楽奏による悲劇風の演出がまた活きてくる。
メロディアスかつ重厚壮麗な部分は、まさに往年のプログレの正当継承だ。
時おり見せるコンテンポラリーな表現も流れの中でうまく活かされている。
歌詞にはニコライ・グミレフを始め、いろいろな詩人の詩を採用しているようだ。
本作もまた、基調はチャイコフスキー的な濃いロマンチシズムである。
宗教色も幾分ある模様。
ヴォーカルはロシア語。
「The Way」(8:09)
「Hallelujah」(4:03)
「The Winter Of Life」(4:33)
「Old Conquistador」(9:00)
「Obsessed」(8:50)
「Christ」(5:04)
「Poet's House」(4:30)
「Too Late」(12:23)
(FGBG 4888)