スペインのプログレッシヴ・ロック・プロジェクト「KOTEBEL」。キーボーディスト、カルロス・プラザを中心に 99 年結成。作品は五枚。「ネオバロック」を標榜する現代プログレの新星。最新作は 2017 年発表の「Cosmology」。2009 年来日。
Carlos Franco Vivas | drums, percussion |
Cesar Garcia Forero | guitars |
Jaime Pascual Summers | bass |
Adriana Plaza Engelke | piano, keyboards |
Carlos Plaza Vegas | keyboards |
guest: | |
---|---|
Omar Acosta | flute |
2017 年発表の第七作「Cosmology」。
内容は、ピアノ、フルートなどクラシック器楽をフィーチュアしたアコースティック・タッチのシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
硬質でモノクロームなサウンド、変拍子を含む反復、ポリリズム、アブストラクトな旋律と和声といった厳しく無機的で攻撃的な現代音楽調アンサンブルであり、邪悪さや凶暴さのほかには肉体性を感じさせるところがない。
HR/HM やパンクのような、暴発気味の運動性に基づく過剰な攻撃性はなく、ミドル・テンポからややアップ・テンポが主であり、アクセントの強すぎないスタイルなどからも、ジャズやクラシックのアンサンブルがベースにあることが分かる。
凶暴でヒステリックな表情を担うのは、主としてエレクトリック・ギターとリズム・セクションである。
音の特徴は端正に整っていること。
ピアノに代表されるようにジャズに振れるところですら生真面目であり、軽快に走る場面でも、トータルな整合感をきっちり維持するような律儀さがある。
一方、エレクトリック・キーボードはクラシカルな演出のみならず、積極的に空間的な音を多用して、サイケデリックな幻想空間を作り上げている。
また、ゲストのフルートが大活躍し、独特のフレージングと音で西洋らしい叙情味から雅楽に通じる抽象的なイメージまでもを呼び覚ましてくれる。
この作風から「Starless」が好きでしょうがないというのははっきり分かるが、そういう一ファンの境地からここまで達するとはまことに天晴れである。
KING CRIMSON はもとより、OSANNA に通じるアナーキーさと奇妙な色気をのぞかせるところがおもしろい。
プロデュースは、カルロス・プラザとナタリー・アンヘルケ。2017 年4月 8/9 日のライヴ録音とのこと。
「Post Ignem」(8:26)ねじくれるエレクトリック・サウンドと端正すぎるピアノの綾なす異形のヘヴィ・シンフォニック・チューン。
フルートが活躍。中間部の 70 年代アニメ風のスペイシーな表現がたまらない。そして、偏執的な変拍子パターンと白目を剥いて泡を吹くギター。
リズムの切れがよく、また、抽象的なイメージが怖さを推し進める。
「Cosmology Suite」
「Geocentric Universe」(7:35)ANGLAGARD 系のアコースティック・アンサンブルで幕を明け、尺八めいたフルート、ピアノ、ギターによるクラシカルにしてジャジーなトリオを経て、ほとばしるメロトロンとともに情感あるメロディアスな表情も見せつつ、最後も、素朴ながらも暗鬱なアンサンブルへと回帰する。なんというか、全編で小気味のいい運動性を見せる。
イージー・リスニング調の音がいい感じで散りばめられる。「天動説宇宙」
「Mechanical Universe」(7:53)タイトル通り、インダストリアルでメカニカルなタッチの作品。
モールス信号のようにノイジーなシーケンスと人力ドラム・マシンのビートを、透き通るようなフルートが切り裂き、ギターのパワー・コードが突き刺さる。
弾けるスネア・ドラムもカッコいい。フランスのバンドにありそうな表現だ。
ギターのロングトーンとメロトロン・クワイアはお約束の展開。
ギター、ピアノの変拍子オスティナートがドライヴする迷宮巡りをパーカッションが波打たせ、不気味な幾何学模様の重ね描きが続く。
硬質な邪悪さを拡大するも、どこか哀愁の深淵がのぞく。確かにギターは泣いている。
常にアコースティックなタッチがあるところも面白い。名曲。「機構宇宙」
「Entangled Universe」(8:47)ピアノとフルートと HM ギターによる、ジャズでもクラシックでもある自由な発想のアンサンブル。
ベースとシンバルのせいで「Starless」に近づくが、器楽は、カンタベリーというかジャジーである。
ギターの奇天烈なフレージングすら、ジャズっぽく聴こえるのはピアノとフルートのせいだろうか。アドリヴを強調しながら発展しているというべきか。
自律のようで無秩序のようで、揺れ動きつつドラマを綴る、まさにタイトルとおり「もつれる宇宙」。
「Oneness」(8:15)無機的な邪悪さ全開でも気品のある傑作。
本グループを象徴する作風であり、ずばりいって KING CRIMSON と EL&P の合体。ピアノも含め波打つ打楽器が独特。
粘り気も哀切も十二分。最終曲としての浄化もみごと。
「Mishima's Dream」(5:29)ロバート・フリップに私淑しているらしきギターがリードする、わりとストレートなヘヴィ・シンフォニック・チューン。
一歩間違えるとアメリカ、オランダあたりの HM/HR バンドにありそうな作風となるが、なんとか大丈夫。
枯れた感じというか、侘び寂感もあり。
表題は、昭和 45 年の英雄 ?日本好き?
「A Bao A Qu」(4:31) ミステリアスな作品。
タイトルはボルヘスによるインドの幻獣。宇宙要塞だ!と喜んでいる人はもう少し本を読もう。
「Dante's Paradise Canto XXVIII」(7:21)リマスター版。オリジナルは、2010 年の COLOSSUS によるダンテの「天国篇」プロジェクト音源より。轟音ベース、メロトロン、アコースティック・ギター・ソロ、KING CRIMSON 直系のヘヴィ・アンサンブル、
「Paradise Lost / Paradiso Perdido」(3:04)神秘的なソロ・ピアノ小品。いい余韻を残す。
(FGBG 4986)
Omar Acosta | flute |
Cesar Garcia Forero | guitars, keyboards, bass, percussion |
Juan Olmos | voices on 5 |
Carlos Plaza | keyboards, bass, drums |
Calrolina Prieto | voices except 5 |
2003 年発表の第二作「Fragments Of Light」。
内容は、妖美な近現代クラシック調シンフォニック・ロック。
EL&P の「Toccata」と KING CRIMSON のジャズ・タッチを交ぜあわせて、今風のエレガンスをパラリと散らしたような作風である。
エキゾチズムや邪悪さは主としてモダン・クラシックの流れから来ており、また、小刻みなリズムでしなやかに走るスタイルはジャズロック的といっていい。
主たる配役は、ピアノ、シンセサイザー、ギター、フルート、ソプラノ、そしてメロトロン。
ピアノのオスティナート、シンセサイザーのプレイは、キース・エマーソンのクラシカルなタッチをやや細身にして鋭く尖らせたようなイメージだ。
ラベル、サティ風のプレイも特徴的だ。
一方ギターは、ヒステリックなロング・トーンでフレーズを紡ぎ、神経をなでてゆくタイプ。
フルートは、トリルを多用した饒舌な狂言回し的存在。
ギターとフルートがユニゾン、ハーモニーで敏捷に動き回る場面も多い。
そして、ソプラノのおかげで、一気にエキゾティックな印象が強まる。
分かりやすい演出といえるだろう。
全体に、緻密な室内楽風アンサンブル+ジャズロック調といった演奏スタイルであり、そこから立ち昇る、ややおとなしめではあるものの、妖美で邪悪な空気が特徴だろう。
選任ドラマー不在だが、この音でツーバス・ロールやあまりにパワフルな打撃技が入ってしまうと、単調なプログレ・メタル化しそうなので、このくらいの音でちょうどよかったと思う。(「小太鼓」としてのスネアの連打が多いところなど、アルゼンチンの MIA を思い出していただけるといい)
5 曲目、ゲスト・ヴォーカリストをフィーチュアした作品がカッコいい。
バンドとしての運動性はそれなりだが、圧倒的なパワーを感じさせることが少ないため、今のロック・ファンには受けが悪いかもしれない。
しかし、クラシカルなモダン・プログレという観点では、一級品である。
作曲の要は、リーダー格のキーボーディストとギタリストであり、この二人の作品の趣味の違いが、アルバムの幅をぐっと広げている。
ボーナス・トラックは 12 分にわたるソロ・ピアノ曲。印象派風の幻想的な佳作です。
(FGBG 4509)
Carlos Plaza | keyboards |
Adriana Plaza | keyboards |
Cesar Garcia Forero | guitars, keyboards, bass |
Jaime Pascual | bass |
Carlos Franco | drums |
Calrolina Prieto | vocals |
Omar Acosta | flute |
2006 年発表のアルバム「Omphalos」。
内容は、管絃、ピアノをたっぷり盛り込んだ、高尚でヘヴィなクラシカル・ロック。
ハードロック含め典型的なプログレのスタイルを継承して、クラシカルなサウンドでまとめた作品であり、女性的なたおやかさと知的センス、邪悪な表情もたっぷり盛り込んだ佳作である。
透明感ある上品な、そしてエキゾティックなメゾソプラノ、クラシカルなピアノ、素朴なタッチのフルート、分厚いストリングスらが緩やかで美しい波を作り上げ、ヘヴィなギターとオルガン、リズム・セクションによる力強いダイナミズムとアクセントを加味して、ドラマを描く。
ゴゴゴと不気味な音を立てて突き進むトゥッティの迫力は相当なものだ。
クラシカル・テイストは、キャッチフレーズ通り、バロック音楽と近現代が主。
アコースティック・ギターが入っても土臭くならず、典雅なバロック調が貫かれる。
アンサンブルは、まったりメロディアスなだけではなく、ギターやピアノ、フルートを中心とした現代音楽的な切れと重みがある。
ギターのヘヴィなパワーコードも、HR/HM というよりは、現代音楽的なアレンジの中でしっかり処理されており、単調さや勢い任せなところはさほどでもない。
ただし、クラシカルで高尚なグループに必ずといっていいほど見受けられる「カッコいいロックへの理解の浅さ」は、残念ながらここでも感じられる。
別に思い切り「なんとか」風なメロトロンやギター・プレイが悪いわけではなく、アレンジのセンスの問題なのだろう。
その辺はわたしもプロではないので、よくわからない。
積み重ねるのは得意だが、思い切って刈り取ってしまうのがヘタ、または、基本的なユーモアやリスナーを面白がらせようというサービス精神に欠けるのかもしれない。
特徴的なのは、ツイン・キーボードによるカラフルなサウンド・スケープ、脂っこいながらも技巧派ギター、フルート、ソプラノだろうか。
フルートは、メロディアスな場面だけではなく、ギターやオルガンとともに技巧的なアンサンブルでも存在感を示す。
ゆったり歌ったり、飛び跳ねたりとなかなか忙しい。
ところどころで、リコーダーに近い素朴なニュアンスが感じられるのも興味深い。
さて、かように楽曲、サウンドともに高度な水準にあるが、可笑しいのは、きわめてモダンでトリッキー、オリジナリティあふれるアンサンブルと、コピー丸出しのプレイが平然と並んでしまうところである。
弦楽奏を完全に再現できる機材とソフトウェアがあるのに、どうしても CRIMSON のようなメロトロンの音を出したくなってしまう、ということなのだろう。
また、音楽的なヴァラエティに富みながらも、ポップス風なところだけは決して見せないあたりも興味深い。
いわば、あまりに真面目なのでちょっとちょっかいを出したくなるけれど、決してヤナやつではない、そんな内容である。
1 曲目では、エマーソンなオルガンを印象つけ、古典的なテクニカル・ハード・プログレ路線を突っ走る。
そして、持ち味であるクラシカルでメロディアスな表情もしっかりとアピールする。
シンセサイザーやベースのプレイもカッコいい。
2 曲目はヘヴィなギターが主役だが、変拍子のアンサンブルが明快に作り込まれていて聴きやすい。
ドラムスは、かなりジャジーなプレイをしている。
3 曲目の伝奇ロマン風超大作は、エキゾティックな風味が印象的。
GENESIS 的な抒情味あふれる展開あり。
10 曲目では、プログレの醍醐味たるミクスチャー感覚を披露する。
リーダーは、かなりキース・エマーソンに近いセンスを持つのでは。
全体として、個人的には、SOLARIS、EZRA WINSTON 、CAFEINE などを思い出した。
ドラムスの弱さ、ギター・プレイに胸焼けさえしなければ、かなり聴き応えがあります。
「Ra」(13:10)カルロス・プラザ作。キーボードのリードで強引に攻めたてるトゥッティがカッコいい。
「Excellent Meat」(8:51)チェーザレ・ガルシア作。
「Pentacle's Suite」(30:11)6 部から構成される超大作。カルロス・プラザ作。
「MetroMnemo」(4:13)チェーザレ・ガルシア作。
「Joropo」(4:53)カルロス・プラザ作。
「Omphalos」(6:57)カルロス・プラザ作。
(FGBG 4652)
Carlos Franco Vivas | drums, percussion |
Cesar Garcia Forero | guitars, keyboards, bass |
Jaime Pascual Summers | bass |
Adriana Plaza Engelke | keyboards |
Carlos Plaza Vegas | keyboards |
guest: | |
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Calrolina Prieto | vocals on 7 |
2009 年発表の第五作「Ouroboros」。
内容は、無機質で抽象的、ササクレだったタッチのシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
アコースティックな音質を活かした、稠密だが結晶格子のような空隙もある独特のアンサンブルであり、モノクロームの反復の果てに、荒涼とした凶暴なドラマが牙を剥く。
和声とパターンはあるが、いわゆるメロディはない。
それでいて、決してアブストラクトな音の羅列ではなく、徹底的にドラマティック。
邪悪系へヴィ・シンフォニック・ロックとしては指折りとなる内容だろう。
強力な存在感を放つのは、ロングトーンで絶叫するギターとアコースティック・ピアノ。
ギターとキーボードのくんずほぐれつのスリリングな交錯度合いは今まで一番高いような気がする。
身もふたもない感じの即興演奏は後期 KING CRIMSON に近いと思うが、CRIMSON と一線画すのはピアノの存在だろう。
このピアノは、クラシカルなロマンチシズムの演出に大きく寄与している。
ギターやリズム・セクションの攻撃的なオスティナートを受けとめて鮮やかに反応する役割も果たしている。
したがって、アンサンブルの印象には、CRIMSON 本家よりも、AFTER CRYING と共通するものがある。
現代音楽調とコンテンポラリーなジャズ、メタルのタッチが交錯する辺りはいかにも現代的なプログレの作風である。
また、メタルな、オルタナな、パンキッシュな KING CRIMSON という表現手法は、北欧からフランスやアメリカのグループなどがここ 10 数年の間に極めたが、ここでの純クラシカル・タッチのまま原始の血を沸騰させるという手法は、本家が 75 年以降も存続していたらならば採用したかもしれない。
3 曲目のギター・プレイ(このギタリスト、最終曲ではジャジーなタッチやプログレ・クリシェをさり気なく繰り出してメロドラマティックな演奏をしている。なかなかの傑物だ)では HR/HM と CRIMSON の相違が明快になっておもしろい。
(AFTER CRYING はまさにこの手法で CRIMSON を承継した)
ウロボロスは自らの尾を呑み込むドラゴンの姿であり、究極の自己再帰の象徴。
ハインラインの奇作「輪廻の蛇」を思い出す。
全体にもう少し展開を切り詰めてもいいような気がする。
最終曲は、ライヴ収録のボーナス・トラック。このトラックのみヴォーカル入り。
「Amphisbaena」(7:23)カルロス・プラザ作。
「Ouroboros」(16:03)カルロス・プラザ作。
「Satyrs」(7:14)チェザレ・ガルシア作。
「Simurgh」(13:04)カルロス・プラザ作。
「Behemoth」(7:36)カルロス・プラザ作。
「Legal Identity V 1.5」(3:50)カルロス・プラザ作。超へヴィ・チューン。
以下ボーナス・トラック。
「Mysticae Visiones」(16:22)カルロス・プラザ作。2007 年ライヴ録音。ジャズ・メタルな芸風が顕著。
(FGBG 4798)