EZRA WINSTON

  イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「EZRA WINSTON」。 79 年結成。 作品は二枚。 90 年代シンフォニック・ロック・リヴァイヴァルを代表するグループの一つ。

 Myth Of The Chrysavides
 
Mauro Di Donato synthesizers, vocals, bass, solo samples
Mario Bianchi synthesizers, piano, organ, rhythm samples
Daniele Iacono drums, percussion, vibes
Paolo Lucini flute, piccolo
Fabio Palmieri electric & classical guitars

  88 年発表の第一作「Myth Of The Chrysavides 」。 内容はクラシカルで優美、デリケートな表情に滴るような叙情を湛えたメロディアス・シンフォニック・ロック。 英国ポンプ・ロックの完成形であり、90 年代メロディアス・ロックを導いた佳作である。 薄絹の女神のように美しく、神秘的であり、気高さと清潔感にえもいわれぬあでやかさをも盛り込んでいる。 軽快に走るドラミングやフルートの調べ、音数多くアタックするベース、粘りつくようなサスティンのエレクトリック・ギターと竪琴のようなアコースティック・ギターのプレイ、そして気まぐれのようでいて丹念なアンサンブルなど、初期中期 GENESIS フォロワーであることは間違いないが、キーボードのリードする透明感のあるサウンドはアナログをデジタルで洗練したようなイメージの、きわめて現代的なものだ。 元ネタが分かるような展開はそこここにあるものの、それがきわめて自然で、思わずうっとりとさせるような流れとなっているところがいい。 おまけに、単なる GENESIS 好きで終わっていない証拠に、GENTLE GIANT ばりの多声コーラスもある。 とにかく、手折れそうに繊細な美感とクラシカルな整合性、ロックな弾力、ビート感や小気味よさをもののみごとにまとめているのだ。 やや奇声気味のヴォーカル表現にさえ慣れられれば(90 年代初めはこういう歌い手が多かった)、ほかはほぼいうことなしの好作品です。 ヴォーカルは英語。

  「The Birth And The First Flight」(4:25)
  「The Journey In The World Above」(16:06)
  「The Journey In The World Below」(18:34)奇想天外な展開を繰り広げるまさしくカプリチオ。
  「The Waiting And The Knowledge」(5:43)
  
(EW 001)

 Ancient Afternoon
   
Mauro Di Donato synths, sampler, electric piano, bass, contra bass, acoustic guitars, vocals
Fabio Palmieri electric & acoustic & classical & 12 strings guitars
Paolo Lucini flute, piccolo, tenor & soprano sax
Daniele Iacono drums, percussion
guest:
Aldo Tagliapietra bass & vocals on 3

  90 年発表の第二作「Ancient Afternoon」。 内容は、バッハの管弦楽組曲からヘンデルの合奏協奏曲までを連想させる、馥郁たるヨーロピアン・ロマンチシズムに満ちた叙情派クラシカル・ロック。 GENESIS の最上の部分を思わせる、メロディアスかつエレガントなバンド演奏に、管楽器を含めたオーケストラによるクラシカル・テイストと、まろやかでジャジーなセンスを持ち込んだ、きわめてぜいたくなロックである。 おおざっぱにいえば、P.F.MMAXOPHONE を耳にしたときと同じ感動のある音といってよく、さらにそこへ、モダンなサウンドによる洗練度合いを加味した内容である。
   演奏をリードするギターのプレイには、繊細かつ多彩な表現とともに流れを作り出してゆく力があり、丹念なリズム・セクションと相まって、澱みなくストーリーをドライヴしてゆく。 また、アコースティック・ギター、フルート、ソプラノ・サックス(オーボエの可能性もあり)を主に、アコースティックな音の使い方も心憎いばかりである。 エレクトリック・キーボードによる奥深い音の層にくっきりと浮かび上がってさえずる管楽器の調べや、竪琴を思わせる生ギターのアルペジオには、何ものにも代えがたい味わいがある。 全体として、クラシカルな構築性/サウンドとダイナミズムが、絶妙の均衡で配合されているのだ。 (オランダの LETHE の作品と雰囲気が似る)
  ヴォーカル・ハーモニーを加えた全体のイメージは、GENESIS よりも、アンソニー・フィリップスの初期ソロ作、または P.F.M に近いかもしれない。 たおやかで、優美で、儚いのだ。 しかし、そういうサウンドながらも、ニューエイジ/ヒーリング・ミュージック風のステレオ・タイプ然としないのは、基本的な演奏力と丁寧なアレンジのおかげだろう。 泡沫の夢の如く、透けてしまいそうなほど繊細で夢見るような雰囲気の中に、かげろうが舞うような優雅な運動性と、物語に欠かせぬしなやかな流れがある。 たとえば、長大なタイトル組曲の、気まぐれ風にしてとどまることを知らない展開には、往年の一流グループに勝るとも劣らない趣がある。
  90 年代プログレ・リバイバルの口火を切った作品の一つであるとともに、最高峰の一つでもあり、後続でこの地平にたどりついているグループは、ほとんどない。 まさに、孤高のネオ・プログレッシヴ・ロックの傑作である。 これ以上にハマる選択はあり得ないというゲストとして、LE ORME のアルド・タリアピエトラが参加。 ヴォーカルは英語。 ジャケット写真は、左がオリジナル LP、右が再発 CD。

  「The Painter And The King」(10:05)
  「Verge Of Suicide」(9:04)
  「Night-Storm」(6:07)
  「Ancient Afternoon Of An Unknown Town」(26:05)キーボードも活躍する超大作。
  「Shades Of Grey」(4:15)再発 CD ボーナス・トラック。
  
(MF 005 / RSLN 053)


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