MAXOPHONE

  イタリアのシンフォニック・ロック・グループ「MAXOPHONE」。 73 年ミラノにて結成。 作品は一枚。 2008 年再編し、2017 年新作発表。 唯一のアルバムはカラフルで緻密なアンサンブルと 70 年代前半のイタリアン・ロックの荒ぶる魂を兼ね備えた傑作の一つ。

 Maxophone
 
Sergio Lattuada keyboards, vocalsRoberto Giuliani guitars, piano, vocals
Leonardo Schiavone clarinet, sax, fluteMaurizio Bianchini cornet, trombone, vibraphone, percussion, vocals
Sandro Lorenzetti drumsAlbert Ravasini bass, acoustic guitar, lead vocals
guest:
Tiziana Botticini harpEleonora De Rossi violin
Susanna Pedrazzini violinGiovanna Correnti cello
Paolo Rizzi double bass

  75 年発表の「Maxophone」。 通常編成のロック・バンドに、管弦楽器を動員して美しい世界をダイナミックに構築してゆく傑作アルバムだ。 アコースティックでマイルドな音色と心を惹きつけてやまない優美なメロディ、そして繊細なヴォーカル・ハーモニー。 ホーンの音が特に印象的だ。 これらが織り成すファンタジックで妙なるサウンドに、ギター、オルガンが切れ味鋭いプレイでメリハリをつけており、ロックとしての迫力も十分。 クラシカルというよりは、ポップス・オーケストラによるイージー・リスニング系の音と JETHRO TULL ばりのバンド演奏がみごとなまでにブレンドしたポップ・ロックというべきでしょう。 英語盤も発表された。

  1 曲目「C'e'un Paese Al Mondo」(6:39)。 オープニングは幻想的なピアノ・ソロ。 近代印象派を思わせるソロはなめらかなオスティナートから次第にリズミカルに高まり、エマーソンばりの鮮やかな下降フレーズを見せる。 そして飛び込むのはヘヴィなギター。 このギターのリードでアンサンブルが走り出す。 リズムは 8 分の 6。 ギター・リフに合わせてドラムスが激しくビートをたたき出す。 そしてピアノ、エレピとギターのエネルギッシュなかけあいから短いギター・ソロ、すかさずピアノのクラシカルなオブリガートが切返して鮮やかなリタルダンド。 アンサンブルは静かに足早に去ってゆく。
  ゆったりと響き渡るのはクラリネットとトロンボーン。 夜明けを告げるようなイメージだ。 ピアノが美しくさえずり、ヴォーカルが入ってくる。 ゆったりと、しかし凛とした表情をもつヴォーカル。 舞うようなピアノ、管楽器のこだま、そして情熱的なヴォーカルによるみごとなコンビネーション。 ドラムス、ベース、ホーンが入って音の厚みが増し、アンサンブルは次第にシンフォニックに高揚してゆく。 しかし一転して、ユーモラスなラグタイム風のリズムとともにさえずるようなコルネット・ソロへ。 ピアノ、リズムも軽やかなジャズである。
  軽やかなリズムのまま、細かに刻まれるクラリネットのスタッカートを伴奏にトロンボーンと優美なチェロがシンフォニックが響き渡る。
  ブレイク、そしてオルガンのリフレインが飛び込み、ヘヴィなギターが重なると一気に緊張が高まる。
  再び弛緩、ゆったりとしたギターがリードするアンサンブルへ着地し、安定したリズムと悠然たるストリングスに抱かれて演奏は着実に歩み始める。 透き通るようなホーンとストリングス。 ヴォーカルが帰ってくる。 ドラマチックに盛り上げるドラムス。 重なり合うヴォーカル・ハーモニー、しなやかに歌うギター。 寄せては返す波のようにハーモニーが重なり、やがて消えてゆく。
  美しいヴォーカル・ハーモニーを中心に硬軟さまざまな演奏を交え、緩急自在のみごとな流れをみせるファンタジックなロック・シンフォニー。 クラシックとヘヴィ・ロックさらにはジャズまでを動員してロマンティックなテーマを華麗なアレンジで彩ってゆく。 開巻劈頭ぐっと耳を惹きつけるピアノ・ソロ、中間部の楽しげなコルネット・ソロが鮮烈な余韻を残し、対照的にトロンボーンやクラリネットは淡いパステル・カラーで演奏を縁取ってゆく。 聴き終えて最初の印象はまず「多彩」。 オープニング・ナンバーにして最高傑作といえるでしょう。

  2 曲目「Fase」(7:04)ヘヴィに引きずるブギー調のギター・リフが炸裂するオープニング。 前曲のロマンティックな余韻を一気に覆す。 フルートがユニゾンするも、ドラムスは重たいリズムを刻む。 ベース・ラインのうねりも強烈だ。 粘っこく弾力のあるギターのフレーズを、暖かみのあるエレピのトリルで受け止めるも、アシッドなギターは再び飛び出してゆく。 ギター・リフ主導で刻まれるリズムは GENTLE GIANT のように複雑だ。 再びエレピの幻想的なオブリガートを経て、体勢を立て直すように、トロンボーンとオルガンが柔らかくもまっすぐな音色で雰囲気をファンタジックに変えてゆく。
  それも一瞬、再びややテンポ・アップとともにオルガンのリフレインが細かく刻まれるリズムとともに飛び出す。 3 連符でくるくると巻き上げるように繰り返しを終わると、今度はモダン・ジャズ調のサックス・ソロ。 ベース、リム・ショットが小気味よく響く。 めまぐるしい展開だ。 アコースティック・ギターのリズミカルなストロークもうっすらと聴こえる。 サックスはソロのエンディングをジャジーにカッコよく決める。
  再びリズム/テンポ・チェンジ、ホーン、サックスとギターのユニゾンによる歯切れのいいリフレインが離陸の準備運動のように続く。 オルガンのオブリガートは最後の 2 拍をなめらかに 3 連符で決める。
  一瞬のブレイクを経て、雰囲気は一転。 ベースとオルガンが対位的にからむ謎めいたデュオが静かに始まる。 オルガンのリフレインがフェード・アウトして背後へ去ると、ヴィブラフォンのソロが始まる。 奇妙に表情のないソロだ。
  ヴィブラフォンのフォロースルーを引き継ぐように唐突にリズムが復活し、はねるような全体演奏へ。 ピアノのオスティナートとオルガンのオブリガート。 ここでヘヴィなオープニングのギター・リフが復活。 粘っこく重く引きずるような演奏は、次第にリズムの重みを解き放ち、フランジ系エフェクトとともに、サックスとギターのユニゾンで舞い上がる。 ギター、サックスのレガートなデュオ、遠くにトロンボーンの響き。 序盤はトロンボーンが現れたところで今度はフルート・ソロが軽やかに舞う。 アコースティック・ギターの軽やかな伴奏。
  三度ギター、サックスのレガートなデュオ、最後はアコースティック・ギターのストローク伴奏でジャジーなエレピ・ソロがフェード・アウト。
  めまぐるしいリズム/テンポ・チェンジとジャジーなソロを盛り込んだジャズロック・インストゥルメンタル。 ヘヴィなギターを狂言回しに、さまざまなアンサンブルが次々と現れる。 ジャジーなソロは、サックス、ヴァイブ、そしてフルート。 ドリーミーな淡色タッチのトロンボーンやクラリネットによるクラシカルな響きもいい。 マイルドでなめらかなジャズ・タッチをヘヴィなギターでぐいっと押さえつけ、クラシカルな管楽器で解き放つ。 計算されているようでジャム・セッション風のムードもある魅力的な作品である。 ヘヴィなパートはエレガントに洗練された GENTLE GIANT というイメージ。 また、終盤の軽やかに飛翔するような演奏は、IL VOLO にも匹敵。

  3 曲目「Al Mancato Comleanno Di Unafarfalla」(5:52) オープニングはクラシック・ギターによるメランコリックなスパニッシュ・ソロ。 add2 の和音の響きがアラビアンな哀愁をかきたてる。 フランシスコ・タレガかアンドレス・セゴヴィアか。
   ギターの和音を引き継いで、フルート、アコースティック・ギター、チェンバロによる典雅なバロック・トリオが始まる。 みごとな流れである。 フルートの余韻さめやらぬまま、バロック・トリオの旋律を引継ぎ美しくも悲しいファルセット・ハーモニーによる歌が始まる。 サビはやや力強いソロ・ヴォーカル、そして間奏からはリコーダー、トロンボーンによるバロック風のアンサンブルが加わる。 ギターの丹念なアルペジオは歌につきしたがって流れてゆく。
   フルートの調べにのせて、夢見るようなハーモニーが続いてゆく。 さまざまな音とともに高まってゆくヴォーカル・ハーモニー。
  最高潮に達し、オルガンによる挑発的なリフレインが切れのいいリズムを呼び覚ます。 鋭いビートとともに歌い上げるハーモニー、力強く寄り添うサックス、追いかけるギター。 一気にパンチのあるジャズロックへと変身だ。 ギターとエレピのオブリガートを経て、パーカッションの効いたオルガン・ソロ。 深いエコーのギターとともに全体演奏は次第に静まり返り、消えてゆく。
  バロック・アンサンブルからハードなロックへと華麗に変化するクラシカル・ロック。 一貫するのは美しいエレジー風のヴォーカル・ハーモニーである。 オープニングを飾るスパニッシュなクラシック・ギター・ソロ、端正なバロック・トリオを経て哀愁ある歌へとなめらかに進み、後半はオルガンやギターがエネルギッシュなプレイを繰り広げるハードな演奏となる。 アコースティックな音を活かした気品ある演奏と、ヘヴィでパーカッシヴな演奏の対比が強烈。 ハモンド・オルガンのプレイは痛快。 管楽器も細かく場面毎に使い分けられている。

  4 曲目「Elzeviro」(6:47) チャーチ・オルガンの重厚な伴奏に支えられて熱くドラマチックな朗唱が続くオープニング。 気高く力強いヴォーカル。 ヴォーカルとオルガンの余韻を受けドラムスが入り、ベースのリフとともにギターとサックスが走り出す。 5 拍子だが実に軽やかだ。 そして 4 拍子に変ってサックスとギターのかけあいとハモり。 そしてユニゾン。 再び 5 拍子でオルガンのリフレイン、そして全体に明るいトーンに変化するとテンポも上ってくる。 そしてハモンドの伴奏でヴォーカル・コーラスがリズミカルに歌い始める。 オルガンのリフレインとシンセサイザーの尾を引くような響き。 オルガンのリフレインが再びマイナーになって消えてゆくと、ピアノをバックのシャープなギター・ソロだ。 ファルセットが美しいヴォーカル・コーラスが入る。 オブリガートはブラス、そして滴る水滴のようなギターの響き。 リズムが消えクラリネットとトロンボーンが夜明けを告げるように豊かに響く。 そして再びオープニングの情熱的なヴォーカル・ソロだ。 オルガンがヴォーカルのバックに入るとドラムスが戻ってくる。 最後はクラリネットとトロンボーンのデュオにギターが絡みつつファンタジックな余韻のままにフェード・アウト。
  劇的な展開を見せる力作。 クラシカルで宗教的なムードのヴォーカル・パートと変拍子で走るジャズロック・パートの見事なコントラスト、インスト・パートで見せるホーン、ギター、オルガンの巧みな絡みとソロ、さらには中間部以降のヴォーカル/コーラスのイタリアンでリリカルな空気と見せ場の連続である。 ホーンの暖かみのある音が印象的だが、ギターもエフェクトをうまく使って表情を変えている。 クラシカルで厳かなムードが次第にイタリアらしい柔らかなメロディの演奏へと変化してゆく感動的な曲。 ハモンド・オルガンもいい音だ。 傑作。

  5 曲目「Mercanti Di Pazzie」(5:21)アコースティック・ギターとピアノの低音そして竪琴が奏でる優美で幻想的なイントロダクション。 GENESIS の「Trespass」を思わせる世界だ。 そして始まるヴォーカルも密やかである。 水晶のようなファルセットのコーラスとギター。 ユニゾン。 そしてフルートとベースが決めるフレーズとヴィブラフォンがかけあいを繰り返しユニゾンする。 そしてドラムスが入りベース、ヴァイブ、ギターの静かなアンサンブル。 リズムは 8 分の 6。 再びヴォーカルとコーラスだ。 ヴォーカルが深い淵に飛び込んで消えると再びアコースティック・ギターと竪琴の演奏が始まる。 今度はヴァイブも一緒だ。 そしてヴォーカル/コーラス。 ヴォーカルが消えるとフェイザーのかかったギターのアルペジオが静かに流れる。 シンセサイザーだろうか湧き上がる泉のような音が通り過ぎる。 シンバルが美しく震えリズムが入ってくる。 ギターとストリングス・アンサンブルの幻想的な演奏が続く。 フェード・アウト。
  ファンタジックな響きを最後まで持ち続ける作品。 イントロから美しい響きに魅せられて、気がつくと、エンディングである。 甘く切ない情感と永遠の夢想のような彼岸美を演出するのは、竪琴、アコースティック・ギターとヴァイブ。 中間部のベースがよく聴こえるアンサンブルは、やはり少しジャズ風だ。 細かく音に配慮するスタイルは、初期の GENESIS を思わせる。 エンディング近くのエレキギターによるおだやかなアルペジオもいい。 エンディングのギターとストリングスの演奏も、ポップス調である。

  6 曲目「Antiche Conclusioni Nerge」(8:54) ブラス全開のリズミカルで活気あるオープニング。 ピアノとベースのせわしないアンサンブルから、オルガンとギターのかけあい、そしてユニゾンのメロディ。 ギターがイントロのブラスをなぞる。 派手なドラミング。 ブラス、ギターとオルガンのかけあい。 リズムが退いて、トロンボーンが響く。 落ちついたピアノ演奏から静かにヴォーカルが入る。 ヴォーカルは次第に熱く歌いピアノとブラスが支える。 せわしないシンセサイザーの旋律とゆったりとしたヴォーカルが交互に現れる。 ピアノ/オルガンの和音をバックにサックスが鮮やかに高らかに歌い上げる。 ヴァイオリンとブラスも高らかに歌い上げる。 ベースが引っ張ってギター・ソロへ。 再びイントロの派手なフレーズへ突入して歓声が上がるが爆音とともにすべて消える。 静寂の中チャーチ・オルガンが響き渡り聖歌のようなコーラスが流れる。
  管楽器主導のダイナミックなユニゾンがカッコいい、リズミカルな作品。 緩急の対比は鮮やかだが、緩やかになっても、ドライブ感は保ち続ける。 一旦終ったと思わせて、最後のコラールに持ち込む展開には、脱帽。 このコラールも、旋律そのものはかなりポップである。

  ここからの 2 曲は、MELLOW Records からの再発盤のみに収録されたボーナス・トラック。 77 年発表のシングル両面である。 7 曲目「Il Fischio Del Vapore」(4:52) のどかでやさしい曲調が次第にシンフォニックな響きをもってゆく、いかにもプログレッシヴな小品である。 アコースティック・ギターのコード・ストロークとフルートによるイントロから哀愁を帯びたヴォーカルが入る。 ヴァイオリンの伴奏も加わると、リズムとともにサックスがヴォーカルの旋律をなぞり始める。 管楽器による分厚い伴奏に支えられて、ヴォーカルは続く。 シンセサイザーも加わって軽妙なフレーズを演奏するうちにフェード・アウト。

  8 曲目「Cono Di Gelato」(4:40) アコースティック・ギターのロマンティックな演奏とあまいヴォーカルによる都会派 AOR 風のバラード。 バックのブラスは CHICAGO 風でしょうか。 おしゃれなピアノ伴奏と官能的なサックス。 ギターも洒落た口説き文句のようなフレージングを見せる。 次第にテンポ・アップするところはさすがイタリア、情熱過多である。 どこか懐かしい 70 年代調のバラードだ。


  まずは、管弦楽器によるクラシカルなアコースティック・アンサンブルが生み出す色彩感豊かなサウンドを、じっくり味わいたい。 管楽器をシミュレートするシンセサイザーの味わいは、確かに捨てがたい。 しかし、こういう演奏を耳にすると、アコースティック楽器の味わいに勝るものはない、という思いにどうしてもとらわれる。 本作の、大胆かつ精密な演奏が生み出す音楽は、夢想的な情感と身の引き締まるスリルという相反する性格がせめぎあった、スケールの大きなものである。 アレンジにストリングスをちょっと使ってみました、というソフト・ロックとは分けが違う。 ゲストの管楽器、ヴァイオリンは、テクニック云々というレベルではなく、クラシックのバックグラウンドを活かしつつ新たな音楽の構築に立ち向かっている。 そこに熱い心意気が感じられる。 したがって音楽には、厚味がある。 小手先の技や順列組み合わせでは、決してない。 楽曲は、まず緻密なクラシックが編み出す静謐な美を湛え、さらに、ジャズやロックの駆動力による刺激を受けて、活き活きとした生命感に満ちあふれる。 そして、巧みなヴォーカル・ハーモニーが、音楽にストレートな情熱を吹き込んでいる。 すべてがつややかに膨らんでゆく。 P.F.M との比較がお約束らしいが、めまぐるしく動くにもかかわらず流れを失わない変幻自在の曲調は、P.F.M に肉迫し、管楽器のふくよかにして幻想的な響きでは、完全に凌駕している。
  クラシカルで端正な美を誇るサウンドに、ジャズ・ロック系のギター、サックス、オルガン、パーカッションが巧みにブレンドされて、瑞々しくシンフォニックな響きを生みだしている希有の作品。 哀愁を秘めたヴォーカル・パートは、カンタゥトーレのファンにも訴えるだろう。
(MMP 308)



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