アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「MASTERMIND」。 86 年結成。 作品はライヴニ枚を含めて 2000 年現在八枚。 サウンドは HR/HM 色の強いテクニカル・プログレッシヴ・ロック。 演奏は、EL&P や MAHAVISHNU ORCHESTRA からの影響を強く受けており、徹底してけたたましい。 MIDI ギターによるシンセサイザーを用いた EL&P スタイルから、近作では専任キーボードを迎えてジャズロック色も強める。2010 年十年ぶりの新作「Insomnia」を発表。
Bill Berends | guitar, MIDI guitar, synthesizer, vocals, bass |
Rich Berends | drums, timpani, gong, percussion |
Phill Antolino | live bass, MIDI bass pedals |
90 年発表の第一作「Volume One」。
86 年録音、90 年発表のアルバムをリマスターし、96 年に CD 化。
内容は EL&P 直系のけたたましいシンセサイザー・サウンドと手数を誇る HR/HM の融合路線。
MIDI ギターによって生み出されるサウンドは、驚くことに音色のみならずフレージングまで実際のキーボードと同じ。
音質がややチープでヴォーカルがあまりに素人臭いことを除くと、せわしなく攻め立てるキーボード・ロックとしてはなかなかの逸品である。
ボーナス・トラック 2 曲。
よりモダンという観点からすると、EL&P よりも、Emerson Lake & Powell に似ているというべきか。
「Child Of Technology」(5:50) ファンファーレ調シンセサイザーとなめらかなギターがドライヴするライトなロック・シンフォニー。
ややシンセサイザーの音色が軽いものの、曲想自体が軽やかなもののため違和感なし。
けたたましさ、スピード感も十分である。
EL&P プラスヘヴィ・ギターという試みが成功している。
「On The Wings Of Mercury」(3:40)
しなやかなギターを大きくフィーチュアした変拍子爆走ハード・チューン。
リフでドライヴするトゥッティと速弾きソロが交互に現れて、ややジャズロック的な調子で緊迫感を高め盛り上げてゆく。
キーボードは、オルガン系の音を使ってバッキングに回る。
リフは 8 分の 5 拍子 + 8 分の 6 拍子のパターン。
インストゥルメンタル。
「The Enemy Within」(4:14)第一曲同様シンセサイザー・ファンファーレと速弾きギターをフィーチュアしたシンフォニック・ロックンロール。
重厚かつエキゾチックなシンセサイザーによるテーマとスピード感のあるサビが交錯して、興奮の火に油を注ぐ。
ギター・ソロは速過ぎて、何をしているのかよくわからない。
盛り上がるとどんどん加速して体力勝負になるところは、やっぱりアメリカン。
バルトークを思わせるシンセサイザーがなければ、ただの力んだロックンロールになっているところである。
微妙な表情の変化よりも一気の勢いが勝っている。
ボーナス・トラック。
「Tiding Of Battle」(5:20)ヘヴィ・メタル・ギターを中心に重厚かつヘヴィな演奏を次々とつないでゆくインストゥルメンタル・ナンバー。
ソロよりもヘヴィなアンサンブルをオムニバス風につないでおりテンポの変化も激しい。
EL&P を思わせるミステリアスな雰囲気はたっぷり。
そしてドラムス、ベース、キーボードとの超絶ユニゾンとインタープレイがこれでもかと繰り返される。
ドラムスはマーチ風からブラストまで多彩だが基本は音がつながってしまうくらい叩きっぱなし。
要所で入るオルガン系のシンフォニックなキーボードも効果的。
しかしながらやや一本調子なのも事実。
押し引きの「引き」がまったくないのは、やはりアメリカンだから?
「A Call To Arms」(5:10)「庶民のファンファーレ」風のシンセサイザーがオーケストラのように鳴り響き続けるシンフォニック・ロック。
一本調子なのだが問答無用で突き進む。
「Long Distance Love Affair」(2:55)いくら体力があり余っていても休憩は必要である。
80 年代ハード・ポップの典型のような作品。
EL&P がこういう曲をやっていればまだ生きていたに違いない。
「Eye Of The Storm」(4:13)メロディアスなハードロック・チューン。
ありきたりの曲調ながら、シンフォニックなシンセサイザーがきっちりとバックを固めているところがユニークだ。
これもキーボード・ロックの可能性と考えればとても興味深い。
音色がリッチな分、ASIA よりはいいのでは。
「Fanfare」(4:50)タイトル通りシンセサイザーによる勇壮なファンファーレ。
シンフォニックな演奏が、やがてロカビリー調の横揺れリズムで疾走し始めるアイデアはよし。
「Reach For The Sky」(3:58)ごく普通のハードロック。
珍しくややエモーショナルである。
ボーナス・トラック。
「One By One」(3:52) 忙しなくけたたましい HM チューン。
何も無理してシンフォニックにしなくてもいい、ということがよく分かる。
ヴォーカルの表情も本曲が一番だ。
芯のあるしっかりとした演奏であり、短いながらも、コピーに近い音楽性よりははるかに生き生きとしている。
「War Machine」(10:30) EL&P フォロワーの面目躍如たる大作。
局地戦的な高密度、高緊張インストゥルメンタルやシンセサイザー・ソロ、ドラム・ソロは EL&P そのもの。
グレグ・レイクがヴォーカルを取れば完璧である。
それにしても、このキーボードの音をギターから出しているのだから、MIDI というのはすごい技術だ。
ギターではなく管楽器なんかでやる人が出てくるとおもしろいかもしれない。
MIDI クラリネットによる「悪の教典」なんていいかも。
とにもかくにも、好きな人にはまったく長く感じられない 10 分間です。
けたたましくファンファーレのように高鳴るシンセサイザーは正に EL&P そのもの。
正直呆気にとられる音である。
ハードロックやギター中心の作品もあるが、やはりこの EL&P 風キーボードが縦横無尽に駆け巡るアドレナリン出まくりの作品の印象が強烈。
アレンジは全体にシンプル。
とにかく派手な音とスピード感、そしてマンマのプレイで勝負の痛快な演奏なのだ。
トリオながら音数は大編成並み。
リイシュー・トラックに比べると新曲は格段に色が出ており、EL&P ファンには今後も楽しみだ。
個人的には EL&P を出発点に新奇な HM/HR を目指していただきたい。
(PRO396-2)
Bill Berends | guitar, MIDI guitar, synthesizer, vocals, bass |
Rich Berends | drums, timpani, assorted percussion |
92 年発表の第二作「Vol.2 Brainstorm」。
前作よりも速度、密度を上げてデフォルメを強めた作風である。
EL&P 度も高い。
MIDI ギター操作によるアグレッシヴなシンセサイザー・プレイは今回も全開であり、もはやフレージングはキーボードを直接弾いているのと何ら変わりがない。
同時に HM ギターもけたたましくスケール・アップし、雨霰と音を降り注いでいる。
ところでなぜに安物パンク・バンドのようなジャケットなのでしょう。
組曲の一部でヴォーカルが入る以外はインストゥルメンタル。
タイトル・チューンはすべて注ぎ込んだ七部構成の大作「Brainstorm」(21:30)。
「1st Futility」
爆音のような思わせぶりな電子音が駆け巡るイントロダクション。
一気にメタリックなリフ、バスドラ連打による爆発的な演奏がスタートする。
8 分の 5 拍子によるたたみかけるような演奏だ。
MIDI ギターのリフが狂おしく叫ぶと、唸りをあげる演奏とともにギターがいかにも HM らしい派手なソロをぶちかます。
ギターはワイルドなソロから一転してメロディアスなプレイへ。
切りかえが鮮やかだ。
MIDI シンセサイザーで EL&P を意識したようなオブリガートをはさむのも忘れない。
メロディアスなギターをはさみ、速弾きソロから再び激しいリフの応酬となり、快速のキメを連発。
一瞬で沸騰してそのまま一気に駆け抜ける序章。
眩暈がして鼻血が出そうなほどにハイテンションだが、重みよりもしなやかさが印象的であり独特のスピード感がいい。
EL&P を思い切り HM/HR 方向へデフォルメした出色の作品である。
インストゥルメンタル。
「Light Of Day」
ミドル・テンポに落ち、いかにも歌を迎えるようなオープニング。
メイン・ヴォーカルはハードロックと 80' ハードポップの中間くらいの感じである。
ヘヴィなギター、シンセサイザーが一体となって轟く伴奏。
シンセサイザーがドラムスとともにスタカート気味に高鳴る間奏がいい、というか、まんま EL&P。
不思議なことに単純なギター・リフにシンセサイザーがユニゾンするだけで、プログレ魂に火が点いてしまう。
ギター・ソロはややお約束通りのネオ・クラシカル系速弾きであり、DEEP PURPLE 以来あまり進展のないプレイである。
メロディアスなヴォーカルが前曲の勢いを受け止めて、威風堂々とした姿を印象つける。
HM 化した ASIA ともいえる。
「2nd Futility」
ブレイク、そしてギターによる目まぐるしい 3 連下降音形を経て、無神経な 1 曲目の変拍子トゥッティが再現される。
独特の無機的な調子が「Tarkus」に近いニュアンスがあると気がついた。
迸るようなリフの上でギターが絶叫し、バスドラが細かくロールし続ける。
再びメロディアスに歌い上げるギターを「トッカータ」を思わせるシンセサイザーの和音連打が吹き飛ばすと、ギターも牙を剥いて HM スタイルで応酬する。
主題を確認するようなブリッジ・パート。
シンセサイザーはけたたましく鳴り響く警鐘のようだ。
インストゥルメンタル。
「Breakdown」
ハードロック調のノイジーな 3 連リフに応じる手数の多いパーカッションはカール・パーマーそっくり。
リズムは 8 分の 6 へと変化。
ギターによるレガートな 3 連フレーズが高らかに歌い、狂い乱れるようなトゥッティが続く。
よくもこれだけバスドラをロールし続けられるものだ。
複数のギターがもつれてからむ即興風の演奏だ。
再び輝くようなギターの 3 連テーマ、そして激しい 8 ビートを叩きつけながら減速、ミステリアスなシンセサイザーが高鳴る。
凶暴にして転がるような 3 連 3 拍子系のリフが EL&P を髣髴させるヘヴィ・チューン。
エンディングのシンセサイザーももろ「Toccata」。
インストゥルメンタル。
「From The Ashes」
沈黙。
潮騒か晩鐘を思わせるシンセサイザーの遠い調べ。
前曲からの落差か、静けさが一層しみるオープニングである。
一転無常感漂うスロー・バラードである。
ここまではあまり人間的なものが感じられなかったギター・プレイだが、ここでは遠慮ない速弾きにもほのかに感傷をまとう。
頼りなげな声質が似合う曲調だ。
「Dance Of Demons」
マーチング・スネアの軽快な 8 分の 6 拍子連打、そしてシンセサイザーが一人かけあいのような挑戦的なテーマを示す。
吼えるピッキング・ポルタメント、そしてシンセサイザーのテーマ。
ギターとシンセサイザーによる勇壮なユニゾン。
リズムは重さを強調し、強くアクセントする。
そのままギターのアドリヴへと進むも、角張った厳しい進行をボトムのパターンが支えてゆく。
負けじとギターに挑んでゆくシンセサイザー。(一人なんだけど)
シンセサイザーによる跳ねるようなテーマ演奏から、一気にノイズが爆発し、演奏はより邪悪に、勇壮に高まってゆく。
フェード・アウトが珍しい。
切り刻むようなビートとともにシンセサイザーが突き進む。
邪悪な雰囲気がカッコいい。
インストゥルメンタル。
「Resolution」
爆音をきっかけに、第一曲で提示されたシンセサイザーがリードする 5 拍子リフによる全体演奏。
ピッチをゆらすプレイもおもしろい。
一転リズム・チェンジ、ギターがメロディアスに迫るも、バスドラ連打に引きずられるように加速/加熱してゆく。
再び火を吐く 5 拍子パターン。
ヘヴィなトゥッティは加速、そしてリタルダンド。
電子音が渦巻く中、ファンファーレとともに大見得を切って終わる。
スーパー・ヘヴィにしてクラシカルな雰囲気たっぷりの HM チューンによる終章。
スピーディな変拍子リフを中心に展開するクラシカルな超大作。
もっともクラシカルなところはそのまま EL&P であり、オリジナルなところはごく普通のネオクラシカル HM である。
ヘヴィにしてスピード感にあふれながらも、歌ものでは繊細な表情を見せている。
全体にギター、リズムともに技巧はすさまじく、けたたましさ、大仰さ、分かりやすさという点では満点。
「Firefly」(3:15)
クラシックの翻案だろうか、モーツァルト風のテーマをギターが弾き飛ばし、壮絶なドラムスが火を注ぐ HM インストゥルメンタル。
破天荒なテーマ部分に比べるとギターのアドリヴはイングウェイ辺りの亜流の域を出ていない。
30 年余り前に BEGGAR'S OPERA が開発した作風であり、EL&P でいえば「Hoedown」。
「Nowhere In Sight」(4:05)
明快なリフによる極悪ハードロック。
ベースの見せ場がある。
ZZ TOP とかかな。
あまりに普通なので、かえって呆気にとられる。
「Ride Of The Valkyrie」(4:50)
ディストーションの効いたギターが奏でるテーマがカッコいい。
リズムが単調なのがやや興を殺ぐが、ここのギターはなかなかのもの。
クラシカルなプレイがじつに決まっている。(もっとも 3 分あたりのアドリヴはあまり冴えないが)
後半、ティンパニ風のタムのロールも交えてテーマが復活するとともに、シンセサイザーも高鳴り始める。
終盤ややダレて、エンディングが拍子抜けなのが残念。
原曲はもちろん、ロバート「皆殺し」デュバルのテーマ曲、ワーグナーによる「ワルキューレの騎行」。
甦る EL&P に相応しい内容だ。
インストゥルメンタル。
「Prelude」(3:40)
シンセサイザーによる厳かなテーマが粛々と流れる作品。
ドラムスのフリーなプレイをフィーチュアしている。
前半は音で埋め尽くさんとばかりに叩きまくるため、テーマの悲愴感や重みとつりあわない。
中盤からは TRACE や FOCUS を思わせる品のいい演奏が続く。(バスドラはロールしてしまうのだが)
インストゥルメンタル。
「Triumph Of The Will」(17:54) 4 部から成る組曲。
「Aspiration」
バロック・トランペットを思わせるシンセサイザーによる高らかなファンファーレ。
やや東洋的な響きもあるのだが胸躍る音だ。
ドラムスによる銃撃のように力強いアクセントとの呼応、そして勇壮なアンサンブルへの助走に期待が膨らむ。
ファンファーレを伴奏に勇ましいテーマが朗々と歌われ、湧き出るようなギターのトリルが受けとめ、やがてゆったりとメロディアスな演奏へと移ってゆく。
手癖の速弾きよりも、遥かに優れた表現だと思う。
やや東洋風の旋律による全体演奏をピークに幻想的なキーボードの調べが歌う静かなシーンへと移る。
明快なテーマ、アンサンブルなどクラシック・ロック王道たる序章である。
短いが、自然な流れのあるいい作品だ。
「Hammer Of Fate」
前曲最終部の静けさを突き破る激しいシンセサイザー、ドラムス、ベース音が炸裂。
得意のバスドラ連打とギターらによるメランコリックな序奏が奏でられる。
メイン・パートは、泣きのヴォーカルにシンセサイザーのファンファーレをからめたキャッチーなハードロックである。
クラシカルなアンサンブル、EL&P 調の鋭いキメをアクセントにしている。
ここでもギター・ソロはイングウェイ風。
メロディ・ラインに、このグループらしさが感じられるモダンなハードロック。
レスポールの音とアナログ・シンセサイザーの音のハーモニーがなぜか新鮮。切れ味よし。
ここでも叩きつけるようなシンセサイザーが特徴。
「Tormented Heart」
甘めのトーンを用いたギターが切なく歌うオープニング。
クラシカルなバラードであり、ヴォーカルもそれらしい表情を見せる。
バッキングのギターは轟音を上げるが、メインはヴォーカルと泣きのギターである。
スウィープはモロに誰かみたいです。
TAI PHONG や昔のグループ・サウンズを思わせるところもある。
クラシカルな旋律を用いたバラード。
本作中では異彩を放つ。
「Resurrection」
シンセサイザーの和音の連打、ギターによるハードポップ風のオープニング。
シンセサイザー、ギターのリフもクラシカルかつキャッチー。
明快なハーモニーとビート感はいかにも 80 年代以降のものである。
しかし、上もののシンセサイザー・オーケストレーションはやはり EL&P か。
ギターがちょっと頭ワルイが、その後のクラシカルなアンサンブルは、カッコいいぞ。
これでもかと引っ張って盛り上げてゆき、エンディングは、またも強烈なキメの連発、そしてシンセサイザー、ギターの大団円。
クラシカルで分かりやすいテーマと明快なアンサンブルによるクラシック調ハードプログレ。
ハードロックとシンフォニックな響きの共存という意味で出色。
近年のプログレ・メタルに不案内だが、こういう路線もありだとしたらうれしい。名曲。
各章の性格のはっきりしたハード・シンフォニック・チューン。
クラシカルな味つけとキャッチーなメロディがバランスした好作品である。
冒頭の大作よりもまとまりがあり聴きやすいのでは。
「William Tell Overture」(3:10)
同名の有名クラシック作品のアレンジ快速版。
どうしても笑ってしまうが、じつはなかなかカッコいい。
BGM 風ではあるが競馬場のジングルや運動会用にしてはちと過激か。
きわめて 70 年代的なアプローチであり、前述の BEGGAR'S OPERA の系統である。
DEEP PURPLE にも近い。
目立つという点ではこれ以上ないだろう。
全体のニュアンスは山下和仁のギター演奏に酷似。
「Wake Up America」(4:04)リイシュー・ボーナス・トラック。
ミステリアスなシンセサイザーが印象的なハードロック。
クラシカルなアクセント、速弾きギター、歌メロなどこのグループの典型的な作品です。
結局「Toccata」が好きなのですな。
「Code Of Honor」(3:55)
チャーチ・オルガンからメロトロン風、そしてアナログ調までさまざまなシンセサイザーをフィーチュアした、クラシカルなキーボード・ロック・インストゥルメンタル。
ボレロ風のリズム、ファンファーレなど本家を伝承する巧みの技の数々。
シンセサイザーのトーン、ピッチ・コントロールも本家風。
終盤の YAMAHA GX-1 風のファンファーレがみごと。
シンセサイザーを使ったストレートな EL&P 風プログレ・ナンバー。
クラシカルなモチーフを用いた HM 調のプレイで押し切るハードなプログレッシヴ・ロック。
基調は間違いなく HM/HR だが、こうまで節操なくクラシックを翻案する辺り、やはりプログレッシヴ・ロックな魂の持ち主なのだろう。
オープニング・ナンバーの聴き方がすべてで、これが HM に聴こえてしまうと、後半の古典的なシンセサイザー・ロックとのギャップにビックリするかもしれない。
あまりこだわらずにコンテンポラリーなハードロックととらえれば、アルバム全体が大作、小品を揃えたバランスよいものに思えるはずだ。
組曲「Triumph Of The Will」は、オリジナリティと古典的なキーボード・ロックのお作法を兼ね備えた秀曲としてひときわ輝く。
唯一欠点はヴォーカルの弱さか。
無論 MIDI ギターでここまで演れること自体凄まじいことであり前人未踏といっていいだろう。
全体的には EL&P サウンドのよさを 90 年代風に解釈したアルバムといえる。
(CYCL 052)
Bill Berends | guitar, MIDI guitar, synthesizer, vocals, bass |
Rich Berends | drums, percussion |
Phill Antolino | live bass |
94 年発表の第三作「Tragic Symphony」。
プレイ至上のゴリゴリの押しの一手型から方向転換し、イメージ/ストーリー展開に重きをおいたスタイルへと変貌を遂げ、新たなステージへと進んだ佳作。
明快な曲想を余裕ある技巧で表現することにより、スリリングにして聴きやすさのあるエンタテインメントとなっている。
ややおとなしくなったという印象は、緻密さと曲展開に必要な抑制を意識しているためだろう。
EL&P 的なシンセサイザーと、メロディアスにしてクラシカルなギターや精緻なリズム・セクションがともに存在することにより、さらにプログレらしさを増しているといえるだろう。
そして、アコースティック・ギターとフルート風のシンセサイザーによる「引き」の情感も効果的。
GLASS HAMMER にも迫る語り口である。
もっとも、ギターが独走状態に入ると HR/HM になるところは相変わらずである。
これは持ち味というべきだろう。
意地悪くいうと、HR/HM としては威圧感、インパクトに欠け、シンフォニック・プログレにしては重厚さというか気品に欠ける、ということになるかもしれない。
そして、EL&P に通じるサウンド的でありながら、本家のように、勢いや破天荒さの源が多彩でディープな音楽性ではなく、既存の HR/HM 的な表現である辺りに、限界が見える気もする。
それでも、ヴォーカルがあまりに素人臭いことさえ除けば、古典的なキーボード・シンフォニック・ロックとアメプロ・ハードの間くらいに存するサウンドとして楽しめる。
叙情的な面が拡大しただけにオルガンも使ってほしかった。
それにしても、ジャケット画だけは専門家に任せたほうがいいと思います。
日本デビュー盤。
「Tiger! Tiger!」(3:45)重厚にしてメロディアスな迫り方が EL&P の「Work's Vol.II」を思わせる歌もの。
「The Power & The Passion」(12:45)たたみかけるような調子が EL&P 直結の大作。
ヴォーカルあり。
「All The King's Horses」(4:40)アコースティック・ギター、金管風のシンセサイザーを用いたフォーク風の歌もの。
「Lucky Man」でしょう。
「Tragic Symphony」
「I. Sea Of Tears」(7:18)クラシカルな泣きのギターをフィーチュアした雄々しくも厳かなる第一楽章。
ヴォーカルあり。
「II. Nothing Left To Say」(6:07)アコースティック・ギターを用いたややトラッド・タッチの歌ものをシンセサイザーとギターが輝かしく彩る。
GENESIS を思わせるフォーク・ソング風のアンサンブルがシンセサイザーで一気にシンフォニックに高まる。
「III. Into The Void 」(13:30)
悲劇的な重厚さと桁外れのパワーをアピールする終章。
リズムレスのシンセサイザー・ソロから一気に細かなビートとともにギター、シンセサイザーの邪悪な演奏が盛り上がる。
8 分 40 秒辺りからの猛烈なドラミングとともに高まる攻撃的なアンサンブルがカッコいい。
巨大な管弦楽を思わせる演奏から一気にハードロック・ギターの疾走へと変転し、大見得を切って大団円を迎える。
(XRCN-1194)
Bill Berends | guitar, MIDI guitar, synthesizer, vocals, bass |
Rich Berends | drums, timpani, assorted percussion |
Phill Antolino | live bass, MIDI-pedals |
96 年発表の第四作「Until Eternity」。
おそらくここまでの最高傑作。
余裕と円熟味を増したプレイが、ギター中心のアンサンブルによる MAHAVISHNU ORCHESTRA 的なスリル、ハードロックの突進するパワー、そして EL&P 的なキーボード・ロックの持つ構築性を見事に一体化し、真にオリジナリティあふれるサウンドを生み出した。
より明解なストーリーテリングによって、楽曲のエンタテインメントとしてのクオリティも飛躍的に上がっている。
また、前作で獲得したアコースティック、メロディアスなパートも交えつつも、シンフォニックなクライマックスでは、到底トリオとは思えない音圧がさらにスケール・アップしている。
MIDI ギター・キーボードを中心としたパワー・トリオという作風の一つの到達点を極めたといって間違いない。
アルバム全体を通した悠然たるうねりがあり、HM 的単調さが減退した。
これは、何よりうれしい。
シンプルなロックのカッコよさを体現できているアルバムだと思います。
タイトル・ナンバーの大作は、本アルバムを象徴するドラマチックなインストゥルメンタル。
シンセサイザーにによるシンフォニックな盛り上がりとビジーに駆け巡るギターがエスニックなムードを漂わせつつ繰り広げる、痛快な EL&P 風ナンバーだ。
各曲も鑑賞予定。
「Under The Wheels」(6:45)
「Inferno」(4:00)インストゥルメンタル。主役の泣きのギターをクラシカルなキーボードが取り囲む。
「Dreaming」(3:40)エレアコギター、ストリングス系シンセサイザーをフィーチュアしたスリリングな歌もの。初期の RUSH に近い気もする。
「The Tempest」(9:30)勇壮極まるファンファーレで幕を開けるパノラマ風の作品。
ギター入り EL&P 路線の真骨頂だが、けたたましさだけには終始しない、明快な抑揚がある。
アルバム前半の山場である。
「As It Is In Heaven」(4:30)アコースティック・ギター弾き語りによるバラード。
「Jubilee」(4:00)インストゥルメンタル。ハードロック・ギターと「庶民のファンファーレ」シンセサイザーが快調に並走する。ドラムス・ソロあり。
「Too Much To Ask For」(6:30)日本盤ボーナス・トラック。異教的なフレーズも交えたダークな雰囲気のハードロック。
「Before The End」(6:00)クラシカルな歌もの。ポジティヴな響きがあり、ギターもさえずるような調子を見せる。後半 HM なビートにもなるが、「聖地エルサレム」なシンセサイザーが救う。
「Until Eternity」(13:30)インストゥルメンタル。重厚かつ悲劇的な幕開け、金属的重量感で迫り、加速とともにけたたましさを増す序盤、クラシカルなアンサンブルにヘヴィにして謎めいた調子を孕んだ前半、
爆発的なパワーで疾走する EL&P な後半、重厚なヘヴィ・ロックから悲壮感あふれるチェロの調べへと回帰する終章。傑作です。
(BELLE 96224)
Bill Berends | guitar, MIDI guitar, synthesizer, bass |
Rich Berends | drums, timpani, percussion |
Jens Johansson | keyboard, synthesizer |
guest | |
---|---|
Bob Eckman | 5 string bass |
Mike Mironov | tabla, percussion |
98 年発表の第五作「Excelsior!」。
新境地への打開策は、新メンバーに名キーボーディスト、イェンス・ヨハンソンを迎えることであった。
ベレンズのギターとヨハンソンのキーボードによる白熱したインタープレイを中心とした演奏は、飛躍的にスリリングになった。
全体に、HR 色はやや減退し、リズムの強化のためにパーカッショニストが動員されるなど、相対的にジャズロック色が強まる。
つまり、EL&P 的なキーボード・ハードロックから、MAHAVISHNU ORCHESTRA あるいはジェフ・ベック 的なジャズロック+テクニカル・メタルへの転身である。
スピーディでヘヴィなシーンとメロディアスなシーンが見事にコントラストし、楽曲のドラマはさらに深まる。
まさに現代のプログレッシヴ・サウンドであり、前作を凌駕して最高傑作といえる。
全曲インストゥルメンタル。
白眉は 8 曲目 13 分にわたる「When The Walls Fell」か。
個人的にも一番好みの作品。
「On The Road By Noon」(6:15)勢いある変拍子リフとつややかにして凶暴なソロ、コール・レスポンスで攻め立てるヘヴィ・ジャズロック。
イメージは MAHAVISHNU ORCHESTRA による「Tarkus」または「倍密 Blue Wind」。
管楽器に近いニュアンスのシンセサイザーが印象的。
「The Approaching Storm」(7:15)8 分の 5 拍子のリフをボトムにメロディアスなギター、キーボードが歌い上げる泣きのヘヴィ・クラシカル・チューン。
しかし、ドラムスがブラストしないおかげで HR/HM 的な単調さはない。
ギターは適宜 MIDI でムーグ風の音も出しているようだ。
「Tokyo Rain」(6:36)タイトル通りのメランコリックな、やや演歌調のバラード。(「雨の身堂筋」? 東京じゃないけど)
ヤン・ハマーばりの、コンプレッサを効かせたギター風シンセサイザー・ソロ
ギターとシンセサイザーのユニゾンによるメロディアスな表現など、今までにはなかった作風です。
この音色を好きになれるかどうかで道は分かれると思う。
「The Red Hour」(1:36)MIDI シンセサイザーが高鳴る EL&P 風の邪悪小品。
「Decide For Yourself」(5:23)得意のクラシカル・チューンだが、ギター・プレイは HM 的な表現から一線画してモダナイズされている。
抽象的なイメージは、やはりジェフベックだろうか。
ギターとシンセサイザーのスリリングなインタープレイが聴きもの。
「Sudden Impulse」(4:59)シンセイサイザーをフィーチュアしたスピーディなテクニカル・チューン。上品なヤン・ハマー。
「Sky Dancer」(5:53)やや「Tarkus」なアフロ・シンセサイザー・シーケンスにローマ史劇の劇伴のように勇壮なシンセサイザーが高鳴る。ドラムス・ソロあり。
「When The Walls Fell」(13:26)リリカルなイントロは GENESIS か?
このアルバムでは、この作品でほぼ初めて従来の HR/HM 的な作風を押し出している。他と芸風が異なるので「目立つ」。
エスニックなアクセントが面白い。ジェフ・ベックへの意識は間違いないだろう。シンセサイザーの速弾きは息苦しくなるほど。
「Excelsior!」(4:53)後期 EL&P に凄腕ギタリストが入ったような勇壮極まる作品。
つまり、近年のキース・エマーソン・バンドですね。弾き捲くり。
(MICY 1073)
Bill Berends | guitar, MIDI guitar, bass, vocals |
Rich Berends | drums, timpani, percussion |
Lisa Bouchelle | mezzo-soprano vocals |
Jens Johansson | keyboards |
guest | |
---|---|
Bob Eckman | 5 string bass on 1,7 |
Hollis Brown | electric violin on 2,5 |
John Paoline | voice of the beast on 1,8 |
2000 年発表の第六作「Angels Of The Apocalypse」。
女性ヴォーカルが新加入、インストゥルメンタル・パートの随所に EL&P テイストを示しながらも、全体としては様式的なヘヴィ・メタル色が強まっている。
安定した演奏と楽曲の水準はさすがベテランであり、パワフルなユニゾンと 3 連バスドラで押し捲りながらも、常にメロディアスにエモーショナルに迫っている。
ヘヴィメタルに不案内なためにはっきりとは申し上げられないが、スタイルは HR/HM としてごくオーソドックスであり、その正道をハイテクでがっちり貫いているのではないだろうか。
ステレオタイプなフォーマットにこれだけみごとに適合できると一種快感があるようにも思う。
水を得た魚のようにジャズロック、ヘヴィ・メタルと多彩なスタイルを巧みにゆき交うビル・ベレンズのギター・プレイを中心に、ヨハンソンのきらめくようなピアノやトラッド・タッチのヴォーカルなどで変化をつけて、ストレートにファンを喜ばせようとするエンタテイナーとしてのスタンスは、天晴れだ。
そして、EL&P のもっていたヘヴィ・メタル的側面をクローズアップし、ネオ・クラシカル、テクニカル・メタルなどのメタル・サウンドそのもの進化形とシンクロさせるというアイデアには、やはり唸らされる。
年寄りには、ボーナス・トラックの EL&P のカヴァー「The Endless Enigma」が衝撃的。
オルガンをシンセサイザーに置き換えてはいるものの、ファンファーレは高鳴るわ、経典は紐解くわ、エディは用意できてるわ、大変なことになっている。
女性ヴォーカルがこれだけハマるという点に、レイクのヴォーカルの超人的表現力を再発見できる。
各曲も鑑賞予定。
「The End Of The World」(10:35)
「Perchance To Dream」(6:19)
「2000 Years」(6:16)
「This Lover's Heart」(6:00)
「The Queen Of Shiba」(6:26)
「With Dignity And Grace」(3:35)
「A Million Miles Away」(6:30)
「The Beast Of Babylon」(5:30)
「The Endless Enigma」(12:18)ボーナス・トラック。
「Only In My Dreams」(6:03)ボーナス・トラック。
(IOMACD 2010)