フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「TAI PHONG」。 ベトナム・フランス混血の兄弟を中心に結成、75 年アルバム・デビュー。 80 年解散。作品は三枚。90 年代に再始動し、2000 年に新作発表。最新作は 2013 年の「Return Of The Samurai」。 サウンドはメロディアスかつ幻想的なハードロック/プログレッシヴ・ロック。 完成された音楽性は、優れたミュージシャンが、たまたまプログレ時代とシンクロして化学反応を起した結果なのだろう。
KHANH | vocals, electric & acoustic & slide guitars |
TAI | vocals, bass, acoustic guitars, moog |
J.J.Goldman | vocals, electric & acousitc guitars, violin |
Jean-Alain Gardet | piano, organ, moog & all keyboards |
Stephan Caussarieu | drums,percussions |
75 年発表の第一作「Tai Phong」。
内容は、メロディアス・ハードという様式の出発点たる美麗にしてロマンティックなシンフォニック・ハードロック。
バラードもアップテンポのロックもすべてが泣きのメロディで飾られる。
この芸風でアレンジがシンプルにストレートになってしまうと普通のハードロックになってしまうが、そうはならないところがフレンチ・ロックの歴史に名を残す傑作の所以である。
バッキングやテーマ、オブリガート、間奏、すべてにわたり、アレンジは練りに練られており、卓越した演奏力がその効果をあますところなく実現している。
哀願調のセンチメンタルな表層に、限りない深み、立体感を与える、豊かにシンフォニックな響きがあるのだ。
ロックなパワーとデリケートな審美感のバランスの取れた内容ともいえるだろう。
ハイトーンのヴォーカルは英語。
プロデュースはジャン・マレスカ。
オープニングは、リズミカルなギターのコード・ストロークをバックにハイトーン・ヴォイスが快調にすべり出す「Going Away」(5:44)。
スピーディな 8 分の 6 拍子である。
サスティンを効かせたギターのオブリガート、そしてヴォーカル・ハーモニーがハッシと受けとめると、8 ビートへと変化、ヴォーカルがギターとともにメロディアスに決める。
テンポ・ダウンのように聴こえるが、3 拍子系から 4 拍子系への変化のためだろう。
再びメイン・テーマへ。
同じメロディ・ラインながら、今度は 3 連による 4 拍子である。
したがって、ギターのオブリガート、ハーモニーへの展開のリズムが、自然に聴こえるところが面白い。
ハモンド・オルガンも伴奏に加わって、パーカッシヴな味つけをしている。
ここまで 1 分弱、かなり凝った展開だ。
ギターのコードが荒々しくかき鳴らされると、一転シャープなイメージの演奏へ。
ヴォーカルもハードロック調である。
ここでも、ドラム・ビートなしのギターのストロークとジャジーなエレピ伴奏によるヴォーカル・パートで、メランコリックに変化をつけている。
三度テーマ演奏へ。
再びギターが高鳴り、ヴォーカルが絶叫するシャープな演奏、ジャジーな変奏へと進む。
今度は、ツイン・ギターのコード・ストローク、リフが華やかにリードする演奏へ。
ラウドにしてヒステリックな演奏を受けるのは、ナチュラル・トーンのメランコリックなソロである。
そして、ツイン・ギターによる巧妙なハーモニーが続く。
やがてリズムを失い、密やかなギターに導かれて、リリカルな演奏へ。
切ないヴォーカルを支え、高鳴るベースと、むせび泣くスライド・ギター。
いつの間にか、ハードロックというよりもシンフォニックな高まりを迎えている。
泣きのギター・ソロ。
続くソロは、ワウを用いたプレイ。
再び、ナチュラル・トーンのギターが受けとめる。
最後のテーマ演奏へ。
過激に動くベース・ラインに注目。
幕切れは、ややあっけない。
目まぐるしく変転しながらもロマンティックな空気が一貫するハードロック。
ぞくぞくするほどスピード感のあるテーマを軸に、さまざまな雰囲気の場面を配し、目まぐるしく、そして切れ味よく展開する。
テーマ演奏そのものも、繰り返しごとに味つけがなされている。
演奏の中心であるギターは、ソロ、オブリガート、ツイン・リード、リズムなど、すべてにおいて小気味よいプレイを決めている。
そしてギター、ヴォーカルのみならず、ベース・ライン、伴奏のオルガン/エレピ、リズム・セクションなど、すべてのパートが存在感あるプレイを見せており、それらのすべてが集約されてドラマになっている。
全編アレンジに凝っており、音色の種類と音数も多い。
古めかしい音作りも、かえって生々しい臨場感を支えていないだろうか。
稀代の名曲。
「Sister Jane」(4:05)。
ピアノをバックに、切々と紡ぎだされる哀愁のメロディ。
深い哀感が、暖かくロマンティックな幻想を生んでゆく。
テーマに厚みをつける伴奏のオルガンや、消え入るようなコーラスなど、幻想的な演出が行き届く。
ドラム・フィルに心揺らされると、「In The Court Of The Crimson King」のロマンティック版なのでは、という気持になってくる。
売りである「泣き」でたたみかけるバラード。
やや大仰なメロディ・ラインは、やはりメロディック・メタルなど現代の HM に通じる気がする。
リズムも大袈裟だとうんざりするところだが、グッと抑えたバッキングのおかげでヴォーカルが映え、いい雰囲気になっている。
タイトルは VELVET UNDERGROUND の名曲「Sister Ray」と「Sweet Jane」のハイブリッドなのかもしれない。(根拠はありませんけど)
バラードの名品であり、シングル・ヒットも生んだ代表曲。
オープニングからチャーチ・オルガンが鳴り響く「Crest」(3:28)。
オルガンにアタックの強いベース・リフの連打が重なり、ギターが口火を切るとアンサンブルは一気に走り出す。
YES を思わせるスリリングなオープニングだ。
激しいタム回しがエネルギーを注ぐ。
ギターは、ロングトーンのテーマと小気味いいコード・ストローク。
スピード感あふれる演奏だ。
そして、勝ち鬨のようにムーグが高鳴る。
一転、柔らかなファルセット・コーラスが受けとめ、カラフルな幻想世界が広がる。
鮮やかなムード・チェンジだ。
メイン・ヴォーカルが伸びやかなテーマを歌い上げ、ギターとムーグの伴奏も広がりを見せる。
再び、チャーチ・オルガンが湧き上がり、ムーグとギターによる勇ましいテーマが再現。
パワフルなタム回しが、爆撃のように駆け巡る。
ギター、ムーグのハーモニーが勇ましくうねり、一瞬ですべてが消える。
オルガン、ムーグらキーボードをフィーチュアしたエキサイティングなシンフォニック・ロック小品。
ソロを長くしてもっと演奏を伸ばせそうだが、コンパクトにテーマ主体でまとめてみました、という感じだ。
ストラトのナチュラル・トーンを活かしたコード・カッティングもいい。
スリリングに疾走するアンサンブルの流れを、ドリーミーなコーラスによってピタッとブレイクする手際の鮮やかなこと!
躍動するテーマ部と伸びやかなヴォーカル・パートのコントラストも鮮やかだ。
緩急や音色の変化がきめ細かい。
豊かな音色のピアノによる気品あるアルペジオが導く「For Years And Years(Cathy)」(8:32)。
メイン・ヴォーカルはメランコリックなテーマを密かにささやく。
悠然とリズムが入り、最初の間奏はスライド・ギターによる身もだえしそうにセンチメンタルなソロ。
ピアノの和音がゆるやかにビートを刻む感じはアメリカン・ロックのものだ。
ゆったりとささやき続けるヴォーカル、うっすらと寄り添うコーラス。
ブレイク。
一転、クラヴィネットとギターが小刻みなパターンでリードする、忙しないアンサンブルが噴出。
テクニカルかつユーモラスで、どこちなくルーニーな演奏だ。
ハードロック調のギター・ソロがこれまた忙しく応酬する。
素っ頓狂なやりとりは、アコースティック・ギターの憂鬱なアルペジオに受け流されて消えてゆく。
ブレイク。
すべてが夢だったかのように、アコースティック・ギターが静かなコードをかき鳴らす。
空ろに響くエレピ。
ドラム・ビートとともに始まるのはエレキギターの気まぐれな爪弾き。
空ろな視線に悩ましげな表情がにじむ。
きらめくようなハーモニクス、ブルージーにつぶやくギター。
そして、ヴォーカル・ハーモニーが復活し、柔らかく翳りのある歌唱が静かに広がる。
終章へと導く歌唱をハモンド・オルガンが受けとめ、メランコリックながらも R&B 風のたくましさもにじませる演奏が続く。
別位相から切り込むようなキラキラとした音はチェレステかエレピか。
ヴォーカル・ハーモニーを支えて、オルガン、ギター・アルペジオ、チェレステ、さらには ELECTIRC LIGHT ORCHESTRA 風のファンタジックなシンセサイザーも湧き上がる。
穏やかなリタルダンド、そしてフィーネ。
ジャジーなアメリカン・テイストあふれるバラード。
前半は、アコースティック・ピアノやミドル・テンポ、マイナー進行、スライド・ギターなど西海岸風である。
そして、最も野心的な中間部は、GENTLE GIANT ばりのハイテンションのトゥッティだ。
イタリアン・ロックと見紛う強烈な演奏である。
遠慮のないハードロック・ギターには、思わず笑いがこぼれてしまう。
そして後半は、フォークとジャズ・コードを合わせたような、MARK-ALMOND 風の AOR タッチも見せる。
ギターのアドリヴもさることながら、終盤を締めるのは、黒っぽいハモンド・オルガンだろう。
もっとも、チェレステの響きと歌メロのおかげで、完全には AOR にならず、ヨーロッパ的な幻想美が浮かび上がる。
並々ならぬアレンジ・センスを縦横無尽に駆使したドラマチックなプログレッシヴ大作といえるだろう。
「Fields Of Gold」(7:39)
ピアノの爪弾きとともに、ささやくような重唱が始まる。
昔語りのような優しさにあふれる歌であり、70 年代の名曲をいくつも思い出す。
おそらく、当時においてもノスタルジックな響きで、琴線をゆるがせたのではないだろうか。
そういうタイプの歌なのだ。
リタルダンドから、コンプレッサの効きのいいギターに導かれてドラマチックにリズムが加わると、キーボードが悠然と高まり、一気にサビへと広がってゆく。
ヴォーカルは、力を得てゆったりと語る。
ストラト・キャスターのナチュラル・トーンがここでも心地よい。
メイン・ヴォーカル・パートの繰り返しでは、伴奏のピアノがエレピ(チェレステか)に代わっている。
再び、悠然たるサビ。
あの時代の音である。
チェンバロによるクラシカルな演奏に導かれるのは、モノローグとストリングスの幻想的かつ雄大な広がり。
そして、轟音とともに、シンセサイザーが光迸る巨大なオーロラの滝のようにそそり立つ。
淡い輝きに彩られた幻想的な演奏が続いてゆく。
ハイハットの打撃、うねるようなベースが印象的だ。
ストリングスは、次第に重厚さを増し、ギターも鋭く歌いだす。
美しく厳かな演奏が繰り広げられる。
遠吠えのように一声高鳴るのは、ギターだろうか。
波打つストリングスとドラムス。
潮が引くようにリズムが消え、ストリングスは息を呑むようなブレイクから、長調の和音を響かせ大団円である。
繊細な情感とストレートな高揚感、耽美な色彩の深みも感じさせるファンタジック・シンフォニック・ロック。
前半は、ロマンティックなメロディをタイトなアンサンブルでドライヴし、子供の頃の夢をそのまま音にしたようなイノセンスを感じさせる世界である。
後半は、ファンタジックな音使いながらも、力強く重厚なタッチのインストゥルメンタルが続き、やがて神秘的な世界が見えてくる。
叙景的な演奏としては逸品である。
そして、これだけの変転をナチュラルな流れで描くところがすごい。
ギターとシンセサイザー類の効果的な配置の妙もある。
ぐっとシンプルだが、CAMEL の「Snow Goose」にも迫る世界だと思う。
「Out Of The Night」(11:37)雷鳴と暴風を背景にパーカッションが鳴る。
厳かに響きわたるオルガン、そして、祈りに似た哀愁に満ちたメロディが歌われる。
2 コーラス目からはシンバルのきらめきが加わりドラマチックに盛り上がり始める。
オルガン伴奏によるメランコリックだが力強いメロディの歌唱。
刻印を打つようなドラム・ビート、ベースの轟き、敬虔なるオルガンの響き。
シンセサイザーの轟音が一閃、リズムが失われるも、アコースティック・ギターの静かなリフレインとせせらぎのようなピアノが湧き出す。
ツイン・ヴォイスによる穏やかな、無常感ある歌唱、メロディを支えてギターのコードがかき鳴らされる。
丹念なドラム・ビートによる、涙をかみ締めるように抑制の効いた演奏である。
コーラスの後を受けたオルガンの間奏の広がりとともに、演奏は次第にシンフォニックな高まりを見せる。
切ないアコースティック・ギターの爪弾きと高まるノイズ。
クライマックスを過ぎ、リズムが止むと、メロトロン・ストリングスが輝かしき曙光のように辺りに満ちあふれる。
コーラスに導かれて再び曲が動き出す。
ベースのオブリガートやドラムスのフィルは、初期 KING CRIMSON や P.F.M を思わせる感動の起爆剤である。
そして、コーラスは祈りである。
最後は、ソロ・ヴォーカルがヴォカリーズに支えられて、切なく力強く歌い上げる。
受け止めるのは、華麗なる「泣き」でコブシを震わせるギター・ソロ。
ギターの調べとともに、リズムは躍動するシャフル・ビートへと切り替わり、大団円を準備する。
切々と音を紡ぎつつも躍動するギター、一転して切ないピアノ・ソロへ。
伴奏は一貫してオルガンの響き、そして哀しげに舞うピアノ。
やがて驟雨がクロスフェード。
空も泣いてるぜ。
やや一本調子ではあるが、長丁場を静々と盛り上げるシンフォニック・バラードの名品。
今にも噴出しそうな過剰なロマンチシズムを、ぐっと抑えながら、少しづつ歌とアンサンブルへと注ぎ込んでいる。
絶え間なく鳴り響くオルガンには、宗教的な感動をおぼえる。
ロマンの香り芳しい、正調ブリティッシュ・ロック風の作品である。
本曲のようなキーボードの使い方やリズムの取り方をする作品をシンフォニックとして受容してしまう傾向は、やはり PROCOL HARUM や KING CRIMSON の巨大なインパクトが作り上げたのでしょう。
以下は、ボーナス・トラック。
75年のセカンド・シングルの両面。
「(If You're Headed) North For Winter」(3:13)チャーチ・オルガンの祝祭的な響きのなか静かにヴォーカルが歌いだす。
伴奏は柔らかいアコースティック・ギター。
ソフトなヴォーカル・ナンバーだ。
間奏のストリングスが美しい。
2 コーラス目は、ピアノの伴奏で、間奏は再びストリングスである。
ヴォーカルに次第にコーラスが重なってくると、鐘の音がしてフェード・アウト。
ロマンティックかつファンタジックな歌もの。
賛美歌とフォークソングの中間ぐらいである。
ソフトなヴォーカルとピアノ、ヴァイオリン奏法ギター、弦楽など音は非常にぜいたく。
「Let Us Play」(2:34)スピーディなムーグのテーマで幕を開けるアップテンポのインストゥルメンタル。
アコースティック・ギターの伴奏で入るヴォカリーズはクラシック調のメロディ・ラインを快調に歌い上げる。
スピード感あるムーグのテーマから再びリズミカルなヴォカリーズ、そして三度ムーグのテーマに触発されて、ギターも負けじとスピード感あるソロを披露する。
最後もムーグのテーマでフェード・アウト。
ムーグの 3 連テーマがリードするスピードと躍動感にあふれたクラシカル・ロック。
テーマからオブリガートまで、一人かけあい状態で弾き捲くるムーグは、中後期の EL&P 風である。
ただし、ヴォカリーズや密かなアコースティック・ギターがこのグループらしい。
シングルなのでごく短い。この調子ならばロング・ヴァージョンもよさそうだ。
ロマンティックなメロディをタイトなインストゥルメンタルで支える、美麗シンフォニック・ロックの最右翼。
「泣き」のメロディ・ラインを雄大かつ繊細なサウンドに巻き込んで、ドラマチックな楽曲へと仕立てる作風が大成功した、屈指の傑作である。
緩急/音色の変化や多彩なモチーフなど、憎いまでに演奏に配慮がある。
疾走する演奏を一瞬のブレイクでメローな曲調へと変化させる手腕には、諸手をあげて降参だ。
読めているのに感動させられてしまう口惜しさと、それを超越した法悦。
「For Years And Years」のような典型的プログレ・ナンバーから「Fields Of Gold」や「Out Of The Night」のように神秘的でシンフォニックな曲まで、メロディのクサささえ気にならなければ、十分過ぎるほどのクオリティの作品が目白押しである。
オープニング・ナンバーでヴォーカルの声質にちょっとビックリするかもしれないが、アンサンブルの巧みさに気づくと、すばらしくヴァリエーションに富んだ名盤であること分かるはず。
ジャジーな音、ほのかにフュージョン・タッチのプレイも散りばめられている。
また、シングル B 面の「Let Us Play」のようなリズミカルでシャープなクラシカル・キーボード・ロックでは、キーボード奏者のテクニックにも驚かされる。
メロディよし、テクニカルなアンサンブルよし、曲/アレンジも面白いという理想的なアルバムの一つ。
メロディアス・ハードなど HR/HM への進化のミッシングリンク、という見方もできそうだ。
(WMC5-609)
KHANH | vocals, guitars |
TAI | vocals, bass, acoustic guitars, keyboards |
J.J.Goldman | vocals, guitars |
Jean-Alain Gardet | keyboards |
Stephan Caussarieu | percussions, drums |
76 年発表の第二作「Windows」。
前作と同じ雰囲気を維持しつつ、哀切たるロマンティシズムと幻想性を深め、サウンド、楽曲の完成度を高めた。
泣きのギターとヴォーカル、絢爛たるキーボードを用いて、肌理細かいアレンジを活かしたヨーロピアン・プログレ・ハードの完成を経て、さらに高いところへと登ってきたイメージである。
即興を経て音楽の自立性に目覚めたような作風といえばいいだろうか。
なににせよ、単純に語れない、音楽そのもののマジカルな力を発揮した作品なのだ。
アルバム中の作品が、甘めのメロディ・ラインながらも神秘的なシンフォニック・ロックとしての響きをもつのに対し、シングル曲ではストレートにマイナー調のメロディを推しだすユーロ・ポップス路線をキープするというスタンスも特徴的だ。
音響面では現代の作品には一歩譲るものの、手作り風の暖かみあるサウンドとクールにしてセンチメンタルなメロディ・ラインには瞠目すべきものがある。
他のグループの影響というのがあらわには見られない、きわめてオリジナルな音楽性をもつ作品だ。
ロマンティックかつクールなパフォーマンス、ポップ・センスの冴えという点で、孤高のイタリアン・ロックである IL VOLO にも迫ると思う。
「When It's The Season」(8:12)
ストリングス・シンセサイザーの響きが、朝焼けの光のように湧き上がる。
一気にラテン調のエネルギッシュなドラムスがリズムを放ち、ギターがクラシカルなテーマをもがくように性急に打ち出す。
テーマを受け止めるのは、ずしっと重量感のある情熱的なアコースティック・ギター・デュオ。
一人かけあい風のエレキギターに、さらにかけあうようなアコースティック・ギターを重ねたカッコいいオープニングだ。
リード・ヴォーカルはハイトーンの一人コーラス。
ふと沈み込むギター、そして高鳴るストリングスとアコースティック・ギターの思わせぶりな呼応が続く。
ギターはテーマを繰り返し、リタルダンド、そして消えてゆく。
リズムが止み、朗々と教会風のオルガンが響きわたる。
渦を巻くように流れるギター・エフェクト。
悠然としたリズムの復活とともに、スライド・ギターが切なく歌い始める。
そして現れるのは哀愁のギター・ソロ。
ギターにオーヴァーラップする幻想的なヴォカリーズ。
鮮やかな雰囲気のチェンジである。
再び耐え切れないように鋭いリズム、ギターが復活、シンセサイザーのリフレインが湧きあがり消えてゆく。
代わって浮かび上がってくるのは、アコースティック・ギターをかき鳴らす音。
そして、哀しげなピアノとともに始まるバラード。
はかない思いの果ての諦念を浮かび上がらせる歌。
途切れてしまいそうなヴォーカル、ピアノ。
静かに消えてゆく。
きわめてメロドラマティックなハードロック。
ギターによる小刻みでスピーディなテーマを軸に次々と劇的な場面展開を繰り広げる。
テーマでは、エレキギターとアコースティック・ギターのデュオがラテン調の大仰な応酬を見せてスリルを生む。
せわしなくたたみかけて迫り、息詰るような緊張感を高めるスタイルは、前作 1 曲目と同じ。
華麗なソロで盛り上がるかと思えば、一転してメランコリックな幻想シーンや哀切のバラードへと耽溺するなど、展開は絶妙である。
そして、これだけ緻密な構成をもちながらも、演奏/サウンドはあくまで華麗なイメージだ。
あたかも、本当のドラマのように、曲が表情を大きく変えてゆく。
終盤は、無常感とともに説得力をもつ。
品のあるロマンの香りは、FOCUS にも通じないだろうか。
「Games」(4:07)潮騒。
まろやかにしてクールなピアノの爪弾きを受け、あまりに切なく言葉を紡ぐヴォーカル。
自然なヴィブラートがいい感じだ。
ドラムスの打撃が重厚なアクセントとなる。
響き渡るオルガン。
ヴォーカルはあくまでドラマチックに歌い上げ、切なさを募らせる。
サビはヴォーカルと美しいコーラスが追いかけあい、アコーディオンが愛らしいトリルで彩る。
シンセサイザーの憂鬱なヴェールが垂れ込め、オルガンがむせび泣く。
そして決然たるピアノの響き。
切なく高らかに歌い上げるヴォーカルを包み込むヴォカリーズ。
霧にかすむように薄れてゆく声。
丹念に鼓動を刻むドラミング。
潮騒が聴こえる。
前作の「Sister Jane」を思わせる哀愁のバラード。
「泣き」のヴォーカルとコーラスをフィーチュアした、ひたすらロマンティックな作品だ。
伴奏はキーボード主体で、ギターはないようだ。
こういう曲でのファルセットによるシャウト・スタイルは、間違いなくハードロックから HM へとつながってゆく。
訴えかける表情が、大昔の GS 歌謡を思わせるところも。
オープニングが、前曲の終わりと連携し、雰囲気を引き継いでいるようだ。
「St.John's Avenue」(7:47)
エレクトリックにトリミングされたドラムス・ピック・アップ。
コンプレッサを効かせたツイン・ギターのハーモニーがメロディアスなテーマを打ち出す。
ゆるやかに満ち渡る教会風のオルガン、そして追いかけあうようなギター。
メイン・ヴォーカルはアコースティック・ギターの静かなアルペジオ伴奏で、物寂しげに、ややカマトト風に歌いだす。
哀愁ある、しかし抑制も効いた歌唱である。
ゆるやかにメロディアスなサビを経て、間奏の鋭いギター、ベースのストロークがいいアクセントになっている。
オルガンの調べに包まれてアカペラ調のヴォーカルが切々と迫る。
小刻みなロールが再びリズムを呼び覚ます。
ミュートしたギターのオブリガートがささやきのようにヴォーカルを支えて、アクセントになっている。
琴のような響きはキーボードだろうか。
イントロのギターのハーモニーが復活し、再びメイン・ヴォーカル・パートへ。
最後はファルセットのヴォーカリーズが繰り返され、大団円の予兆となる。
そして泣きのギター・ソロ。
ドラムスがエネルギッシュなプレイでギターを支える。
キーボード、ヴァイオリン奏法らによる雄大な景色を連想させるエンディングがいい。
ギターをフィーチュアした、哀愁とファンタジックな幻想にあふれる名バラード。
ヴォーカルをメインに、ギターとともにナイーヴさを素直に前面に出した「泣き」の作風である。
歌を支えるアンサンブルは、1 曲目のように派手なしかけこそないが、デリケートで美しい。
甘さに押し流されないのは、要所でリズム隊がキレのいいプレイを入れるためだろう。
終盤のインストでも、ロマンティックなギターをドラムスがみごとな演奏で支えている。
テクニカルでタイトなアンサンブルをさりげなく示しつつも、シンプルなポップス調の味わいも生かした名曲といえるだろう。
ストラトキャスターの音色を活かしたギター・ソロがみごと。
「Circle」(5:30)
厳かな響きを放つオルガンと気まぐれにたゆとうエレピによるデュオ。
輪郭の曖昧なオルガンのロングトーンと機敏に動き回るエレピの組み合わせがおもしろい。
いかにも 70 年代後半らしい、ジャジーでロマンティックなオープニングである。
文句があるとすれば、AOR というには、オルガンがいい音過ぎること。(文句ではないな)
ベースがオーヴァーラップし、動きを予感させるリフを提示する。
シンバルのざわめきと華麗なタム回し、バスドラのアクセント。
ギターが美しい和音を奏で、軽やかなコード・ストロークがオブリガートする。
ギターのダブル・ノートのハーモニーが美しい。
ドラムスのリズム・キープとともに、二つのギターがモザイクのような華麗なリフレインを提示する。
背景では、ストリングスが一気に膨れ上がる。
重なりあうギターのメロディたち。
雰囲気を一転するのは、メカニカルなシンセサイザーのリフとドラムスの応酬、リズムを失うとともにギターのリフレインが弾ける泡のように漂いだし、ストリングスがおだやかに流れてゆく。
YES の叙情シーンを思わせる。
そして飛び出すのは、トニー・バンクス直系の端正極まるピアノのオスティナート。
弾けるピアノ・ビート、スクエアなリズムとベース・ランニング。
やがて、ピアノはクラシカルなカデンンツァ風を決めて急激にリタルダンド。
そして、ギターによる悠然たるテーマが満を持して現れる。
ギターにつき従うのは、華やぐ夢のようなストリングス・シンセサイザー。
泣きのギターとキーボードのコンビネーションがみごと。
静かにリズムは止み、イントロと同じオルガンがゆったりと流れ出す。
オルガンに支えられて、精霊のささやきのようにデリケートなヴォーカルが、木霊の繰り返しのように歌いだす。
即興風のベースによるオブリガート。
これは、ジャジーな賛美歌だ。
厳かなオルガンとベースのアドリヴが消えてゆく。
白昼夢のように幻想的なシーンが連なる中に、鮮烈なアクセントを配したファンタジック・ロックの傑作。
ギターを抑えてキーボード主導にすると、途端に、シンフォニックなプログレらしくなるところが興味深い。
クラシック、ジャズを直接的に参照するスタイルは、このグループでは珍しい。
ふわりとしたなかに鋭く飛び出すアクセント的なプレイが、カッコいい。
また、ドラムスのプレイに工夫を凝らし、ドラマティックな流れをつくっている。
ほぼインストゥルメンタル。
GENESIS や YES の作風に共通する、いわゆるプログレらしい曲といえるだろう。
「Last Chance」(3:45)
アコースティック・ギター弾き語りによるブリティッシュ・フォーク調の作品。
繊細で密やかな表情を見せるヴォーカル。
エレクトリック・ピアノが暖かな音色と余韻で伴奏する。
サビではコーラスも加わり、美しいハーモニーを成す。
子供の頃になかよしの友達と交わした約束のように、甘く密やかな空気がいい。
優しさあふれるメロディと穏やかなギターの響きがすてきなフォーク・ソング。
このグループの作風としては意外だが、みごとな出来映えだ。
アレンジは、素朴な歌をジャジーで暖かなエレピ伴奏で支えるポップス風のものであり、並々ならぬセンスを感じる。
ヴォーカル・コーラスの表情の巧みさにも注目。
個人的には Donovan の作品を思い出す。
「The Gulf Of Knowledge」(9:57)
銅鑼が打ち鳴らされ、パーカッション、マリンバがユーモラスに踊る中華風のオープニング。
クロスフェードでハミングとともにオルガンがうっすらと湧きあがり、おそらくギターのヴァイオリン奏法によるメロディを、クラシカルなオルガンのリフレンが支える。
スピネットのような音色で、切ないメロディが綴られてゆく。
アコースティック・ギターによる、ほんのりスパニッシュで鮮やかなオブリガート。
轟々と沸き起こるティンパニ。
オルガンのリフレインの上で、スピネットの調べとギターが行き交う。
悠然とした響きが導くのは、マンドリンのトレモロ。
ドラムスがビートを刻む、静かながらもきっぱりとした表情のある演奏へ。
スピネットとマンドリンのトレモロにキーボードも重なって、切ない調べが響きわたる。
突如旋律は止み、ストリングスの淡い響きとフェイズシフタ風のまろやかにねじれるような音が現れては、消えてゆく。
おだやかなギターのアルペジオ、そして、ヴァイオリン奏法による柔らかな調べ。
ドラムスのフリーな打撃が、穏やかな演奏に不思議と違和感なくとけこむ。
いつの間にか、アコースティック・ギターによるデュオが演奏をリードしている。
そして、現れたときと同じようにすべては去ってゆく。
ストリングス、ギターによるまろやかなサウンドスケープを横切るのは、意外や甘いヴォーカルである。
軽やかなギターのストローク、むせび泣くようなヴァイオリン奏法ギターそしてスライド・ギターによる切ないメロディ。
エレピがソフトな和音で彩る。
スキャットとギターがロマンティックな呼応を続ける。
そして、銅鑼が鳴り響く。
ギターが静かに消えてゆく。
きわめてファンタジックで瞑想的な大作。
リズム、リード、メロディというくくりにこだわらず、音の響きと息遣いを活かした作品である。
ふわふわとしたまま、自然の力で演奏はあちらこちらへと揺れ動き、それでいておだやかな秩序も感じられる。
完全即興のセッションをまとめていったのか、譜面が先にあるのか興味深い。
東洋の神秘風のエキゾチックな味つけすらも、全体の抽象的なイメージのなかへと埋没してしまうような気がする。
YES の「Close To The Edge」のイントロ/アウトロが延々続くといってもいいだろう。
本曲の終了後、鳥のさえずりとざわめき、そしてメンバーのものらしい明るい笑い声で、アルバムは終わる。
以下はボーナス・トラック。
77 年発表のシングル B 面と 78 年発表のシングル両面である。
特に、78 年のシングルは、ベースのタイとキーボードのギャルデ脱退後、新メンバーで録音された作品。
「Dance」(4:28)
「Back Again」(4:16)
「Cherry」(4:24)
(WPCR-1717)