アメリカのプログレッシヴ・ロック・ユニット「GLASS HAMMER」。 92 年結成。 ファンタジー・ノベル風の主題をエマーソン、ウェイクマン直系のヴィンテージ・キーボード・プレイにトラッド・タッチを交えて描く本格派。 クリスチャン・ミュージック的な面もあるそうだ。 YES に酷似する作品とそうでもない作品があるが、前者の受けがいいので止められない模様。 最新作は 2023 年発表の「Arise」。
Fred Schendel | keyboards, guitars, backing vocals | |||
Steve Babb | bass, keyboards, backing vocals | |||
Kamran Alan Shikoh | electric & acoustic & classcal guitars, electric sitar | |||
Aaron Raulston | drums | Carl Groves | lead vocals | |
Jon Davison | lead & backing vocals | Susie Bogdanowicz | lead & backing vocals | |
guest: | ||||
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Walter Moore | vocals | Michelle Young | vocals | |
Randy Jackson | lead guitar & backing vocals on 3 | Rob Reed | piano & mini-moog on 2 | |
Daivd Ragsdale | violin on 3 |
2014 年発表の第十三作「Ode To Echo」。
内容は、ヘヴィなサウンドのオスティナートとトリッキーなリズム・チェンジを盛り込むもアコースティックな清涼感を失わないメロディアス・シンフォニック・ロック。
依拠元として YES のみならず GENTLE GIANT にも幅を広げている。
クラシック調のアンサンブル、クリアーなヴォーカル・ハーモニー、弾き語りフォーク調のメロディ・ライン、ハモンド・オルガンやムーグ・シンセサイザーといったヴィンテージ・キーボード・サウンド、ギターとキーボードの込み入ったインタープレイといった構成要素は変わらず、このグループの音楽の骨格を成している。
一方、これまであまり見られなかったベースやギターやオルガン、ピアノによるヘヴィなオスティナート、アブストラクトな無調のフレーズやキツキツのリズム・チェンジ、ブレイクなど多用されていて、新鮮な緊張感をもたらしている。
テクニカルに迫るところでは SPOCKS BEARD を思わせるダイナミックさも。
それでも曲調が透明感を決して失わないのはハイトーンのヴォーカル・ハーモニーによるところが大きい。
サスティンを生かした個性的なギタープレイも眼を惹く。
全体に水準以上だが、まともにせよ変にせよ飛び抜けたところがないために印象が薄いという弱点も変わらず。
「Garden Of Hedon」(6:37)ヘヴィなサウンドやリズム・チェンジやアトーナルな反復に新境地を感じさせるも基本はメロディアスでフォーキーなアメリカン・ロック。
「Misantrog」(10:00)GG 風の多声コーラスで思わせぶりに幕を開け、切迫感と救済感がせめぎ合う作品。プログレらしさ満点。
ミサントロプなら「人間嫌い」だけど。
「Crowbone」(7:22)フィドルっぽいヴァイオリン・ソロをフィーチュアしたフォーキーかつクラシカルなタッチの作品。この「素朴なファンタジー」味はこのグループのウリ。中盤にヘヴィなブリッジあり。
「I Am I」(8:15)80 年代っぽい女性リード・ヴォーカル(マギー・ライリーか?)をフィーチュアしたインダストリアルなイメージのある作品。ここでもリズム・チェンジで曲調をひねる。
「The Grey Hills」(4:47)
「Porpoise Song」(3:37)60 年代末英国ロック風の佳曲。PROCOL HARUM や ZOMBIES の「Odessey And Oracle」イメージ。ノスタルジックな箸休め。
「Panegyric」(4:11)
「Ozymandias」(8:12)
(SR 3324)
Fred Schendel | vocals, organ, keyboards, acoustic guitar, recorder, drums |
Stephen DeArqe | vocals, synthesizer, bass, trurus pedal, medieval guitar, percussion |
Piper Kirk | vocals |
Michelle Young | vocals |
Basil Clouse | bass on "The Palantir" & "Return Of The King" |
David Carter | electric guitar on "Morannon Gate" |
Rod Lambert | electric violin on "The Palantir" |
Tony Mac | rhythm programming on "Return Of The King" |
93 年発表の第一作「Journey Of The Dunadan」。
またしても主題は、すでに手垢のついた、トールキンの「指輪物語」である。
もっともストーリーに則っているのではなく、あくまでインスピレーションの源だと注釈されている。
耳触りのいいナレーションに導かれて、精妙なキーボードとヴォーカル、合唱、巧みな SE などの織り成す雄大なパフォーマンスとともに、魔法の世界へと入ってゆく、そんな感じだ。
リック・ウェイクマン往年の諸作にも通じる、クラシカルでトラッドそしてファンタスティックな音楽物語といえるだろう。
本作のピアノ、ハモンド・オルガン、アナログ・シンセサイザーを中心にしたテクニカルなキーボード演奏は、EL&P に代表される 70 年代のキーボード・ロックの生み出した音楽的な特徴、すなわち攻撃性やロマンティックな叙情性、をみごとに再現している。
プレイそのものもエマーソンやウェイクマンとの類似点が多い。
その上で、さらなる特徴としてゲストをフィーチュアした歌ものの魅力がある。
それは、アメリカンでナチュラルな堂々たるポップスであり、アグレッシヴな演奏に鮮やかなアクセントをつけ、全体の流れを整えている。
声質やメロディにはアメリカらしい明るさがあり、プログレという観点では好みを分けそうだが、多彩なメロディがそれを補ってあまりある。
さらに、アコースティック・ギターやリコーダーらによるトラッド風のブリッジも異世界を描く小道具として効果的に使われている。
唯一残念なのは、「邪悪さ」の演出が安易なプロレス/ホラー映画/HM 調へと堕ちこんでしまっており、ストラビンスキーやバルトークほどの品格がないことだろう。
リズムも表情に乏しいが、安定感はあり多彩なキーボード・プレイを支え際立たせるという意味では問題ないだろう。
全体に、小曲が続くため聴き流してしまいがちだが挿絵入りの小説を読むようにじっくりと進めば、ページをめくるに連れ意外なほどいろいろなものが聴こえてくる。
まさに本格的なトータル・コンセプト・アルバムである。
そしてその観点で興味深いのは、CAMEL の「Snow Goose」がインストゥルメンタルという抑制された表現でリスナーの想像力を喚起しテーマを浮かび上がらせたのと対照的に、この作品は映像以外のあらゆる手段・情報を利用して物語を描こうとしている。
抑制とは対極の、使えるものなら何でも使う調の直接的なアプローチが、いかにもアメリカのグループらしいというのはうがちすぎか。
ともあれ、ありあまるキーボード・テクニックと優れたポップ感覚を持ち、音像作家としてのスタートを切ったこのグループに是非注目しよう。
プロデュースはシェンデルとデアルク。
オリジナル盤には残念ながら歌詞が記載されていない。
2000 年の再発盤ではどうだろうか。
「Shadow Of The Past」(3:19)
「Something's Coming」(3:18)
「Song Of The Dunadan」(9:13)
「Fog On The Barrow-Downs」(2:33)
「The Prancing Pony」(1:12)
「The Way To Her Heart」(3:31)
「The Ballad Of Balin Longbear」(3:39)
「Rivendell」(3:30)
「Khazad-Dum」(1:24)
「Nimrodel」(4:58)
「The Palantir」(6:39)
「Pelennor Fields」(4:25)
「Why I Cry(Arwen's Song)」(5:20)
「Anduril」(2:02)
「Morannon Gate」(5:41)
「The Return Of The King」(7:55)
「Why I Cry(Single Edit)」(3:58)ボーナス・トラック。
(ARION 7690-51111-120)
Stephen DeArqe | vocals, keyboards, bass, bass pedal, mellotron, zimmitar, rhythm programming |
Fred Schendel | vocals, keyboards, acoustic & electric guitar, drums, rhythm programming, mellotron |
Walter Moore | vocals, 12 string acoustic guitar, electric guitar |
Michelle Young | vocals, singing |
Milton Hamerick | steel guitar |
Randy Burt | sax |
Tracy Cloud | backing vocals, speaking |
David Carter | 12 string acoustic guitar |
95 年発表の第二作「Perelandra」。
今回は、メンバーとゲストのクレジットの区別はない。
内容は、前作同様シンセサイザー、ハモンド・オルガン、メロトロンとヴィンテージ・キーボードを駆使したテクニカルにしてカラフルなシンフォニック・ロック。
サントラ風の SE やナレーションなども適宜用いている。
演奏の中心となるキーボードのプレイは、70年代のスーパー・プレイヤー達を彷彿させる本格的なものである。
もっとも、エマーソンそのもののような強烈なオルガンやピアノのプレイが散見できるにもかかわらず、メロディアスなヴォーカル・パートや間奏のプレイには堅実さが目立ち、全体としてはエキセントリックな面よりもアメリカン・ロックらしいフランクな感じが強い。
意外な発見は、ラグタイム風のプレイが似ていることである。
楽曲は、西海岸もののようなアコースティックな歌ものやクラシックのアレンジもの、そしてニューエイジ風から HM に近いものまでヴァラエティに富んだ内容になっている。
そして、その楽曲の随所にプログレ・キーボード・プレイが放り込まれているといえばいいだろう。
今回のコンセプトは、特に明記されてはいないので歌詞から想像するしかないが、ペレランドラという女性を巡る人生そのものに関わるような深刻かつ幻想的なもののようだ。
しかし、特にテーマを意識せずとも充分に聴き応えのある楽曲が揃っている。
前作がトータル性、ストーリー描写に優れた作品とするならば、本作はそれぞれの楽曲が明快な特徴をもって充実した作品である。
それでもエンディングに向けて明らかに楽曲は盛り上がりを見せ、11 曲目ではあたかも PINK FLOYD のように迫り、遂に迎える大団円では瑞々しいメロディでヴォーカルがリードしつつ次第にスペイシーでシンフォニックな高揚が訪れる。
そして YES のクライマックスを思わせるコーラスと、若い力の爆発のようなハイ・テンションのキーボード・アンサンブルが劇的に上りつめてゆくのだ。
アメリカらしい乾いた土と太陽の香りのするロックにプログレ・キーボードをちりばめたアルバムである。
何曲かエンディングが唐突であることとドラムスが一部単調であることを除けば、かなりの聴き応えです。
プロデュースはシェンデルとデアルク。
「Now Arriving」(2:01)
「Time Marches On」(10:36)
「Lliusion」(9:07)インスト・パートが強烈に EL&P な作品。ヴォーカル・パートとの落差が大きく展開よりもプレイが重視されている。似てます。
「The Way To Her Heart」(4:47)ヴォーカル・ハーモニーが爽やかなアメリカン・フォーク・ロック。リタ・クーリッジと DOOBIES もしくは EAGLES。
「Felix The Cat」(2:33)メンデルスゾーンのシンフォニーのアレンジ。
リズム・セクションの扱いの難しさを再発見。
「Now Departing」(1:05)
「Perelandra」(8:07)GENSIS 風のキーボードとニューエイジ・テイストとくればこれは HAPPY THE MAN。
「Le Danse Final」(5:19)音響派風のバックとブルーなサックス・ソロ。
80 年代的。異色。
「That Hideous Strength」(3:54)
「Enda The Lion」(0:56)
「Into The Night」(4:46)メロディ・ライン、ヴォーカル・ハーモニー、ギターなど PINK FLOYD を相当意識した作品。
「Heaven」(8:37)
(ARION RECORDS)
Fred Schendel | vocals, keyboards, guitar, sitar, mandolin, flute, drums |
Stephen Babb | vocals, keyboards, bass, percussion |
Walter Moore | vocals, guitar, drums |
David Carter | vocals, guitars |
guest: | |
---|---|
Bob Stabner | percussion on "This Fading Age" |
Tracy Cloud | vocals on "On To Evermore" |
Kristy Sink | vocals on "Twilight On Longview" |
Tony Smith | vocals on "Only Red" |
Tatyana | voice on "The Muse" |
98 年発表の第三作「On To Evermore」。
四人編成になっての作品。
サブ・タイトルに「アリアーナと彫刻家の物語」とある。
そして、スリーヴには、「長」と「彫刻家」の書簡の形式でストーリーが暗示されている。
まだ赤ん坊のペレランドラを拾い上げて以来、「長」の近辺を不吉な事件の陰がよぎり、遂には愛妻の誘拐へと発展する。
事件を操る「魔術師」の謎めいた存在。
そして、さらに謎を深める「彫刻家」とその妻。
歌詞を斜め読みすると、どうやら前作を引き継ぐファンタジックな活劇のようだ。
内容は、洗練されたサウンドのキーボードを中心とするファンタジックなシンフォニック・ロック。
キーボードを多用しながらも、音楽の基調は、アコースティックな音と夢見るような暖かみのある世界である。
得意のトラッド・フォーク調も随所に盛り込まれており、ポップな聴きやすさは今までで一番だ。
もちろん EL&P ばりのパーカッシヴなハモンド・オルガンやシンセサイザーのプレイは健在であり、重量感と雄大なスケールを感じさせてくれる。
しかし、それ以上に、今回強調したいのは、本作はいわゆる EL&P 系の豪腕キーボード・ロックではなく、高い完成度を持つ妖精譚/伝奇調のファンタジック・ロックであるということだろう。
基本は、クリアなサウンド仕立てによるノスタルジックな田舎風の昔語りであり、素朴ながらも丹念な語り口を楽しむべきである。
物語を綴る重役を担うヴォーカルは、アメリカンな能天気ささえ気にならなければ、個性的なメロディも逞しくなめらかなハーモニーも、かなりいい。
また、声質の異なる複数のヴォーカリストが歌うことで、効果的なストーリー・テリングを行っている。
特筆すべきは、勢いのいいインストゥルメンタル・パートでもアコースティックなシーンでも、シンセサイザーの使い方が抜群にカッコいいこと。
丸みのあるつややかな音で演奏を小粋に華やかに飾って、ざらついたハモンド・オルガンやピアノ、ギターといい対比を成している。
また、力任せの単調な展開がないのも、特徴的だ。
場面ごとにていねいに音を配置しており、メロディアスなヴォーカル・パートでも攻め込むようにヘヴィなインストゥルメンタル・パートでも、誠実にこまめに起伏を付けて豊かに展開してゆく。
前作がややプログレ・クリシェにこだわっていたのに対し、本作は、演奏の充実を上回って物語を綴るうまさがあり、オリジナルなものを感じる。
なににせよ、キーボード・ロックといういいかたが失礼に当たるほど、味わいあるアメリカン・ロック/ポップ・チューンとしての完成度がある。
技巧的なプレイで押すような演奏もあるが、全体の印象としては、メロディを活かしデリケートな表現にこだわった落ちつきのある作品だ。
アメプロ・ハード系でも特に KANSAS のような叙情的で多彩な音楽性をもったグループのファンにお薦め。
プロデュースはスティーヴ・バブ。
「On To Evermore」(7:00)
「The Mayor Of Longview」(5:26)
「The Conflict」(5:45)
「Muse」(1:06)
「Ariana」(16:41)美しいクライマックス。
「Only Red」(5:18)
「This Fading Age」(5:13)
「Juckyard Angel」(8:58)
「Twilight On Longview」(5:47)
「?」(1:24)
(SR1127)
Fred Schendel | Hammond organ, Mellotron, Mini-moog, synths, keyboards, recorders |
acoustic & electric & slide guitar, auto-harp, drums, backing vocals | |
Steve Babb | bass, keyboards, Mellotron, assorted analog symths, backing vocals |
Brad Marler | lead & backing vocals, acoustic guitar |
Walter Moore | drums on 6, electric & acoustic guitar |
Arjen Lucassen | guitar |
Terry Clouse | guitar (SOMNAMBULIST) |
2000 年発表の作品「Chronometree」。
キース・エマーソン、リック・ウェイクマンばりのハモンド・オルガン、アナログ・シンセサイザーのプレイをフィーチュアしたキーボード・ロック。
プログレ・ファンを巡るホロ苦くも奇妙な物語をテーマとするトータル・アルバムのようだ。
パーカッシヴで攻撃的なハモンド・オルガンのソロは、必ずプログレ・ファンに訴えるはず。
また歌ものにおける、アコースティックなフォーク/トラッド・テイストも健在だ。
いかにもアメリカン・ロックらしく、乾いたメロディとストレートな曲調が主であり、ツボを心得たキーボードの音の配置やアコースティック・ギターを用いたリリカルな演出によって、豊かなドラマが生まれている。
中西部の荒野を思わせるギターの弾き語りにメロトロンが静々と重なるところなど、かなりのセンスである。
演奏は、バランス・安定感ともに盤石。
メロディアスなヴォーカル・パートに、息を呑むようなキーボード・ソロを交えながら進んでゆく語り口には、もはや風格すらある。
テクニカルなプレイでひたすら押し捲るアーティストが多いアメリカにおいて、この緩急や強弱などバランス感覚に優れた演奏は、頭一つ抜け出ているといえるだろう。
なぜかアルイエン・ルカッセンのギターが高鳴るところだけ、バスドラがロールする。
アメリカン・ハードロックと R.E.M のようなオルタナティヴ・ロックにプログレ・クリシェを散りばめた音、といってしまうのはあまりに大胆だろうか。
とにかくプログレ・ファンによるプログレ・ファンのための音楽であることに間違いはない。
「All In Good Time - Part One」
「a) Empty Space」(6:45)
「b) Revealer」
70 年代キーボード・ロックの王道たるハモンド・オルガンのプレイとあまりにニューウェーヴなヴォーカルの取り合わせが、かえって奇妙な味わいを生む序曲。
冒頭、ギターを交えたたたみかけるような変拍子アンサンブルでの全力疾走がカッコいい。
キーボードの存在感に比べると、ギターは少し弱い。
「c) An Eldritch Wind」(3:26)いかにもアメリカン・オルタナティヴな弾き語り。
アナログ・シンセサイザーが、控えめながらもいいプレイを続ける。
「d) Revelation」(8:07)
ハモンド・オルガンによるヘヴィな邪悪さの演出、ジャズ・タッチが EL&P 風味を強調する。
ギターは、ここでも存在感が希薄。
「e) Chronometry」
ストリングスが、たゆとうなかを虚脱したような歌が続いてゆく。
ヴォーカルはオルタナティヴ調から、やおら KANSAS を思わせる勇壮な表情へと変化する。
ファンタジックというよりは、ふらつくような曲調である。
「f) Chronotheme」(4:41)
サスティンを効かせたヒステリックなギターと、ウェイクマンばりの華麗なキーボードが交錯する謎めいたインストゥルメンタル。
突き抜けそうで突き抜けない。
ハモンド・オルガンを用いた重厚なミドル・テンポのテーマ部に、さまざまなソロをからめているが、意図して明暗判然とさせないような調子を貫いている。
ソロはアナログ・シンセサイザーがカッコいい。
「A Perfect Carousel」(5:17)
アコースティック・ギターの弾き語り。
乾いた歌声がしみる名作だ。
切ないファルセットを支えるのは、メロトロン・ストリングスの密やかな響き。
「Chronos Deliverer」(5:47)
クラヴィネット、チャーチ・オルガンを重ねスライド・ギターが轟くオープニングと高鳴るコラールが、YES を思わせる劇的シンフォニック・チューン。
ここでもていねいなアナログ・シンセサイザーのプレイがいい。
「All In Good Time - Part Two」
「g) Shapes Of The Morning」(1:55)
バロック・フーガ調のオルガンからジャジーなビートでシンセサイザー・ソロ、と EL&P 的なお約束をコンパクトにまとめた佳作。
メロディアスな速弾きギターもよし。
「h) Chronoverture」(5:59)
クラシカルなピアノ、邪悪極まるハモンド・オルガン、「Peter Gunn」を髣髴させるシャフル・ビートなどマニアにうれしい展開でたたみかける力作。
ピアノの低音部の独特の使い方やアナログ・シンセサイザーの華麗な速弾きなどのしかけもある。
HM なギター、ドラムスも許せてしまう。
オルガンのオスティナートにメロトロンが重なる辺りで、ややテンションが落ちるが、その後も強引に引っ張ってゆく。
まとまりはないが、アクセントとなるプレイを連発して、最後まで保たせる。
「i) The Waiting」(5:38)
メロトロン・ストリングスの枯れ果てた音色が演出する悲劇的な序奏。
鋭いリズムでたたみかけるオルガンのオスティナートとサスペンスフルなギターが重なり高潮する、と一転邪悪なトゥッティにノイズが渦巻く、「悪の経典」風の演奏へ。
そして、ガラリと雰囲気を変えて、オルタナティヴ・ロック調のヴォーカル・パートがスタートする。
重厚なピアノが伴奏するも、演奏はすっかりアメリカンで逞しい調子を取り戻している。
ギターもノー天気だ。
「j) Watching The Sky」(0:59)トラッド調のリコーダー・アンサンブル。
(SR9000)
Steve Babb | lead & backing vocals, 4 & 8 string bass, synthsizer, keyboards, pipe organ, Hammond organ, Mellotron | ||||
Fred Schendel | lead & backing vocals, steel guitar, guitars, Hammond organ, piano, pipe organ, keyboards, synthsizer | ||||
Mellotron, mandolin, recorder, drums, percussion | |||||
Susie Bogdanowicz | vocals | Walter Moore | vocals | Sarah Lovell | vocals |
Haley McGuire | vocals | Robert Streets | vocals | Carrie Streets | vocals |
David Carter | guitar | Charie Sheltone | guitar | Bjorn Lynne | guitar |
2002 年発表の作品「Lex Rex」。
内容は、多彩な音色を誇るキーボード群と清潔感あるヴォーカル・ハーモニーをフィーチュアし、ノスタルジックな響きを大切にしたシンフォニック・ロック。
YES、EL&P、GENESIS のイディオムを織り交ぜつつ、たまにネオ・クラシカル HM 調ではあるものの、ていねいなタッチでストーリーを綴っている。
そして、おなじみアナログ・シンセサイザー、ハモンド・オルガン、メロトロンは、今回もいい音がどっさり盛り込まれている。
曲名や歌詞から判断して、今回もお伽話仕立てのトータル・アルバムのようだ。
オープニングこそカノンで迫るが、全体としては、複雑なアンサンブルよりも、メロディアスなテーマを中心に各キーボードの特徴的な音を活かしたフレージングをつないでゆくスタイルである。
(ごくたまに、ヤン・ハマーのようなテクニカルなジャズロック調のプレイがはさみこまれるが、こういうのは今までにはなかったと思う)
SPOCK'S BEARD のような図抜けたダイナミズムこそないが、場面ごとに頭をひねって最も効果のある音を選び出す職人的な丹念さがあり、またそれと対照するように、一気呵成のキレのいいプレイによる痛快さがある。
トラッド的な音のセンスのよさはすでに実証済だが、本作品でも、女性ヴォーカルやギターなどデリケートな表現には特に気を配っているようだ。
また、アメリカのグループには珍しく、イージーなロックンロール調に流れてがっかりさせられることや、技巧に凝りまくりで聴いていて疲弊するということもない。
YES 風のハーモニーを支えるメロトロンの使い方や、しっとりとしたアコースティック・ピアノを泣きのギターが追いかけるところなど、卓越した音楽センスと積み重ねたキャリアが感じられる。
ロマンチシズムの品格は、いわば、往年の FOCUS に迫る。
安易な HM 色を払底したので、個人的には安堵している。
ただし、プロダクションは前作の方が良かったように思う。この辺りが自主製作の難しいところだ。
ともあれ、GENESIS みたいな EL&P で、なおかつ歌は YES、というバンドが聴きたい方にはお薦め。
これだけ継ぎ接ぎしてもなんとか聴けてしまうのだから、それはそれですごいことである。
2 曲目「Tales Of The Great Wars」は、プログレらしい音を満載した挨拶代わりの大作。
変拍子のトゥッティやジャジーでテクニカルなソロもあるが、やはり素朴で叙情的な表現がみごと。
分厚い音のアンサンブルの運びもイイ感じだ。遁走曲風のオープニングからワクワクさせる。
3 曲目「One King」は、躍動する YES 調のシンフォニック・ロック。スタイリッシュに決めていてカッコいい。キーボードのアンサンブルもすばらしい。傑作。
4 曲目「Further Up And Further In」は、本作中最大の作品。SPOCK'S BEARD ばりのミドルテンポの堂々とした演奏だ。後半のオルガン・ソロは、「Supper's Ready」のトニー・バンクスへのオマージュでしょう。至福のエンディングもいい。
6 曲目「Music For Four Hands」は、華やかなピアノ連弾の小品。
9 曲目、クライマックスの大作「When We Were Young」は、オールド・ファン直撃のシンフォニック・チューン。
このグループの作風の一番の魅力は、いろいろな意味での「暖かみ」だと思います。
技巧に走りすぎても、世を儚んでブルージーになりすぎても到達できない、人生を穏かにするやんわりとした暖かみ。
そういう感じをこの人達は、知ってか知らずか、音として捉えているような気がします。
音楽ファンでもここまで到達できるということを示して勇気を分けてくれているだけに、これからも元気に活動してほしいグループです。
(SR1123)
Fred Schendel | keyboards, guitar, steel guitar, vocals |
Steve Babb | keyboards, bass, vocals |
Walter Moore | vocals |
Susie Bogdanowicz | vocals |
Matt Mendians | drums |
2005 年発表の作品「The Inconsolable Secret」。
内容は一言で済ませられる。
つまり、YES、GENESIS、EL&P のいいところを完璧なまでに換骨奪胎したシンフォニック・ロックである。
ハモンド・オルガン、アコースティック・ピアノのプレイから伝わるヴァイヴレーションは本物だし、悠然とした管弦楽によるクラシカル・タッチも全編冴え渡る。
メロトロンをフィーチュアしただけのコピー・バンドっぽい無理無駄ムラすべて消え、込み入った変化を自然に流す技が冴えて往年の名作とほぼ同等の地平を極めている。
おそらくこのグループの作風においての最高傑作であり、これだけ究めてしまうと次の展開がたいへんそうだ、などと余計な心配もしたくなる。
テンポ/音量の変化や攻め受けの呼吸があまりに自然でバランスが取れているので、地味に聴こえてしまう可能性すらある。
実際、過激な場面展開は少なく、手持ちのフレーズやアンサンブルを変化をつけつつも手堅く重ねてゆく作風であり、度胆を抜かれるようなところはほとんどない。
心地よくのせられてゆったりと最後まで運んでくれる作風である。
アクのなさが特徴ではあるが、ヴォーカリストだけでも濃い目のキャラクターを迎えるともっと面白かっただろう。(今回のヴォーカリストのデリケートな表現もみごとではあるが)
現代のロックの水準からするとダイナミズム不足でありマッタリし過ぎているかもしれない。
しかしながら、翻案的なアプローチをサウンド面の充実を軸にここまでの出来の音楽に引き上げた、その周到で執拗な姿勢は天晴れだ。
あと少しだけ繰り返しの回数を刈り取るともっといいと思う。
持ち味であるトラッド風味は健在。
あえていえば、ドラムスの表現力が若干弱い。
キーボード・シンフォニック・ロックのファンには大のお薦め。
ジャケットのイラストはもちろんロジャー・ディーン。
CD 二枚組。
両 CD とも、エレガントなピアノ独奏で幕を開ける。
一枚目には楽曲のほかにディーンのイラストやセッション風景のヴィデオが収録されている。2013 年三枚組の決定盤発表。
「The Knights」
「A Maker Of Crowns」(15:21)「Lamb」なピアノとウェイクマンばりのハモンド・オルガンでつかみは完璧、そのままピアノとギターであたかもエンディングのようなクライマックスに達してしまう。
中盤ではエマーソンなオルガン、ピアノの応酬も。
エンディングは経典のエピローグと同じ。
オプティミスティックなシンフォニック・プログレとややクリスチャン・ミュージック風の哀願調を交え、メロディアスなアメプロ・ハード風味をほんのり薬味にした逸品である。
「The Knight Of The North」(24:39)前曲よりもさらにいろいろとヒネリを効かせ、王道シンフォニック・ロックを模した怪作。
悠然たるストリングスで幕を開け、SPOCKS BEARD ばりのコーラス・ワークで迫る。(そういえば全体に、SPOCKS を意識したような展開である)
キース・エマーソンばりのピアノ、オルガン、シンセサイザーのプレイを適宜インサートしながら、GENESIS や YES にオマージュする北米バンドらしい「乾いたウェットさ」を素直に前面に出してゆく。
基本は歌ものであり、音を詰め込み過ぎずに際立たせた、メロディアスで叙情的な場面が主。
混声ヴォーカルによる変拍子ジャズや邪悪でヘヴィな、つまり "Tarkus" な演出など紆余曲折を経たエンディングも、堂々たるシンフォニーである。
「The Lady」CD 二枚目はどちらかといえば GENESIS 風の正統ネオ・プログレッシヴ・ロックであり、メロディアスで優雅な味わいである。
「Long Long Ago」(10:23)
「The Morning She Woke」(5:36)
「Lirazel」(4:30)
「The High Place」(3:33)
「Morrigan's Song」(2:23)
「Walking Toward Doom」(2:06)
「Mog Ruith」(2:03)
「Through A Glass Darkly」(6:55)
「The Lady Waits」(5:46)
「The Mirror Cracks」(2:12)
「Having Caught A Glimpse」(13:23)
(SR1320)
Fred Schendel | keyboards, steel guitar, mandolin, backing vocals |
Steve Babb | bass, keyboards, backing vocals |
Jon Davison | lead vocals |
Alan Shikoh | guitars |
Randall Williams | drums |
2010 年発表の第十一作「If」。
内容は YES 風のリード・ヴォーカルと器楽によるフォーク系シンフォニック・ロック、ややフュージョン味入り。
エレクトリック・キーボードによるプログレ・クリシェ(もちろんメロトロンあり)、メロディアスなギター、トラッド・フォーク調の透明感ある歌唱とマンドリンの調べ、これらが呼応しながら穏やかな表情で物語を綴っている。
堅実なドラミングを躍動感あるアクセントで補い、ギターやキーボードとともにヴォーカルを線で支えるベースのプレイは、YES に類似するというよりは、もはやシンフォニックなプログレの常套句の一つといっていいだろう。
ミドル・テンポの展開が多いため単調に聴こえることもあるが、全体としては、なだらかに連なる丘陵地帯を旅するような穏やかにして心弾ませる作風である。
弾けすぎて危なっかしいくらいの勢いやもう少しケレン味があると THE FLOWER KINGS に迫ったと思うが(たとえば、ドラムスのプレイはもっとヤンチャさがあってもいい)、あえてそうしないところが特徴なのかなと思う。
どうやら若干の紆余曲折を経て、初期の作風に戻りつつあるようだ。
調和の取れたアンサンブルで、ポジティヴに和やかに大切なものに捧げる讃歌を歌い上げている。
また、宇宙っぽいのになぜか山に萌える緑を揺らす風やせせらぎが聴こえてきそうな感じの音、そういう YES の流儀もみごとに再現しています。
また、フォーク風というと朴訥なイメージを与えるかもしれないが、あくまでテーマとなる旋律や表情に関してであり、サウンドや演奏はモダンなフュージョンのようにアクセスしやすく洗練された手触りである。
ヴォーカリストは 2012 年の YES のツアーに新リード・ヴォーカリストの代役(やはり John じゃなくて Jon なのね)として抜擢された。
(トレヴァー・ホーンの作品がメインのツアーなので、いってみれば、「代役の代役の代役」である)
「Beyond, Within」(11:44)ミドル、スローテンポで一貫するも丹念な音色の選択とヴォーカリストの力量で往年の YES に迫る景色を描き出す佳作。
「Behold, The Ziddle」(9:11)ダークな面も見せる。
「Grace The Skies」(4:39)ヴォーカリストの表現力に感嘆。佳曲。
「At Last We Are」(6:46)
「If The Stars」(10:25)ほのかなオリエンタル調と憂いのある表情が印象的な叙情派シンフォニック大作。
「If The Sun」(24:02)中途半端にテクニカルなところが SPOCK'S BEARD の作風と共通する残念作。リフってむずかしいですね。
(SR 1924)
Jon Davison | lead vocals, acoustic guitar |
Steve Babb | bass, keyboards, backing vocals |
Fred Schendel | keyboards, steel & acoustic guitar, backing vocals |
Alan Shikoh | guitars, electric sitar |
guest: | |
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Randall Williams | drums |
Jeffrey Sick | violin on 4 |
Ed Davis | viola on 4 |
2011 年発表の第十二作「Cor Cordium」。
内容は、これまでの透明感ある立体的なアンサンブル、牧歌調でメロディアスな美しさが一つになった YES 的作風に、若干の冒険も取り入れたファンタジー系シンフォニック・ロック。
一、二曲目では KING CRIMSON や EL&P 風のヘヴィな音をチラ見せしながらも従来の作風でまとめて充実した出来映えを見せるが、以降では、アーシーなアメリカン・オルタナティヴ風味(昔の SPOCK'S BEARD のよう)や、メローなジャズ・タッチといった大胆なルーツ・ミュージック系で意表を突いてくる。
CSN&Y に触発された YES のフォーク・テイストよりもはるかに土臭いアメリカン・タッチだが(米国のバンドなのだから当たり前だ)、それがまた悪くない。
また、ワンポイント・アクセントのレベルではあるが、現代音楽的(というか KING CRIMSON 的)な険しさや無機的質感なども盛り込まれているし、ジャズ、フュージョン調は「Relayer」期 YES を越えて、RETURN TO FOREVER に迫っている。
いろいろと試みてもピンボケにならないのは、ヴォーカリストの存在感を含めた YES クローンとしての核の部分の強靭さによるのだろう。
若手のギタリストが今風のプレイに走らずにガマンしているのもポイントだ。
あえて YES クローン路線を逸脱するも、新鮮さと完成度にそれなりの手ごたえがある。
王道シンフォニック・ロックの力作だと思う。
リード・ヴォーカリストだけは、弾き語りや異国情趣趣味含めどんどんジョン・アンダーソンに寄せてきていますが。
「Nothing Box」(10:53)
「One Heart」(6:20)YES の新作といっても通りそう。面目躍如。
「Salvation Station」(5:08)アコースティックなトラッド風味とジャジーな運動性がうまく一つになった佳作。
「Dear Daddy」(10:30)
「To Someone」(18:15)融通無碍な展開が魅力の傑作。「Suppers Ready」との共通性を感じる。
「She, A Lonely Tower」(10:52)
(SR 2921)