アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「KANSAS」。 70 年結成。 ヴァイオリンをフィーチュアし、アメリカン・スピリットあふれるロックンロールとクラシカルなアレンジががっちり手を組んだ華麗なるサウンドを誇る。 「アメリカン・プログレ・ハード」、80 年代の「ハードポップ」のルーツの一つとなった。 2008 年名ライヴ「Two for the show」の CD 二枚組完全盤が出ています。
Kerry Livgren | guitar, keyboards |
Steve Walsh | keyboards, vocals |
Phil Ehart | drums |
Dave Hope | bass |
Robbie Steinhardt | violin, vocals |
Rich Williams | guitar |
75 年発表の第二作「Song For America」。
シンフォニックな快作であるタイトル・チューンを中心に、メロディアスにしてドライなアメリカン・ロック独特のサウンドが満載。
いわば、「明快なハードロックか思弁的なプログレか、どちらで進むべきかを悩んだので、とりあえず両方やってみました」的内容である。
それでも、成功の階段を駆け上がらんとする活き活きとした瞬間をとらえているのは、間違いない。
タイトル曲は、アメリカンなシンフォニック・ロックという意味でも代表作の一つ。
プロデュースはジェフ・グリックスマンとウォーリー・ゴールド。
邦題は「ソング・フォー・アメリカ」。
「Down The Road」(3:43)
ブルージーでアメリカンなハード・ロックンロール。
ヴァイオリンはフィドルのように華々しく、ギターとのユニゾンなどかなりカントリーっぽい。
ハードな音にもかかわらず軽快さがあるのは、このカントリー・テイストのせいか。
ツイン・ギター、ヴァイオリンのかけ合いは、いかにもサルーンの箱バンというイメージである。
オープニングをかざるキャッチーなハードロック。
アメリカ版の DEEP PURPLE といったイメージ。
「Song For America」(9:59)
クラシカルなシンフォニー調とポップなメロディがブレンドされた、目の醒めるようなイントロダクション。
そのまま、シンセサイザーによるリリカルなインストゥルメンタルへと続き、オルガンとピアノ、ギターによる躍動感あるアンサンブルへと進んでゆく。
流れるような構成のプログレッシヴ・ナンバーだ。
ヴォーカル・ハーモニーは、いかにもアメリカン・ロック風の明るく陽気なもの。
厚みのあるハーモニーと歌メロが、CHICAGO を思わせる。
間奏では、シンセサイザーのテーマからアコースティック・ピアノに、息を呑むほど鮮やかに切りかわる。
終盤は、シンセサイザーがドライヴする 9/16 拍子のリフの上でスピーディなアンサンブルが疾走し、シンセサイザーやヴァイオリン、ピアノらのソロを経て、トレモロ風のギター・リフによるテーマへと劇的に回帰する。
痛快だ。
クラシカルかつアメリカンなロマンティシズムでいっぱいの、KANSAS の真骨頂というべきシンフォニック・ロック。
キャッチーなテーマ、せわしなく変化するアンサンブルを支える堅実なリズム・セクション、そしてトニー・バンクス調の華やかな変拍子キーボード・アンサンブルなど、中期 GENESIS や YES がアメリカンになったようなイメージである。
代表作。
「Lamplight Symphony」(8:11)
雷鳴のようなティンパニ連打から、重厚なアンサンブルは、シンセサイザーによるメイン・テーマにリードされて進む。
一転、メイン・パートは、哀愁あふれるピアノ伴奏によるメランコリックなバラードである。
乾いたオルガンが寄り添い、力強いベースが支えるも、高まるはずのサビですら憂鬱さはぬぐえない。
あれこれと派手に手数を使うドラムスにも注目。
ヴォコーダ風のシンセサイザーとストリングスが、ぐいぐいと間奏へと進めてゆく。
シンセサイザーによるスリリングな反復、そして邪悪なベース・パターンも緊張感を高め、波乱へと突き進む。
加速、加速、そしてクライマックスではヴァイオリンがむせび泣くも、再び疾走へ。
ストリングス、ヴァイオリンが一体となって高まってゆき、ロマンティックな旋律が消えてゆく。
一転、メランコリックなヴァイオリンの調べ、そして寄り添うはエレガントなピアノ。
ほとんど NEW TROLLS である。
再びロマンティックかつエキゾティックなアンサンブルでダメを押し、優美なバラードへと戻ってゆく。
終章は再び悩み多きヴォーカル・ハーモニー。
勇ましいギターのオブリガートを経て感動のエンディングヘ。
ロマンンティックにして憂鬱なバラードを取り巻く大作。
終盤へ向け、テーマを用いながら繰り広げられるインストゥルメンタルは、メランコリックにしてドライヴ感あふれるみごとなもの。
哀愁の歌とスリリングなインストゥルメンタルの対比が生むドラマに酔いしれる。
前曲とともにアルバムを代表する傑作だ。
「Lonely Street」(5:43)
ヘヴィなブルース・ロック。
シャウトするヴォーカルに、ヘヴィなツイン・ギターがリフで絡む。
ユニゾンはおみごと。
ヴォーカルにスキャットが巻きつく辺りは、正統英国ロック風である。
ツイン・ギターの威力を発揮したヘヴィ・ロック。
意外にも HUMBLE PIE を思わせる英国風のメランコリックな音である。
そう思うとヴォーカルも、ポール・ロジャースに聴こえてくる。
前曲からの流れという点ではやや問題ですが、曲としてはかなりカッコいいです。
「The Devil Game」(5:03)
天翔けるヴァイオリンとギターによるスピーディなイントロダクション。
甦ったヴィヴァルディ。
ギターとオルガンによるリフの上で、エネルギッシュなヴォーカル・ハーモニーがテンポよく始まる。
ツイン・ヴォーカル、ツイン・ギター、オルガン、シンセサイザーが、けたたましく横一線で突っ走る。
詰め込み過ぎのユニゾンも KANSAS の特徴である。
ピアノ/フォルテ、緩急といった観点なく、刻みに刻み決めに決める。
とどめはツイン・リードのユニゾン。
メタリックなリフとツイン・ヴォーカルをフィーチュアした、勢いあまったハードロック。
ヴァイオリンによるイージーリスニング調のクラシック・テイストがおもしろい。
70 年代中盤のヒット・チャートの音でもある。
このテンションで 5 分は日本人には長過ぎる。
「Incomudro-Hymn To The Atman」(12:12)
ストリングス・シンセサイザーが迸り、重厚なドラム打撃が轟く幕開け。
散りばめられたピアノに導かれるのは、エレクトリック・ヴァイオリンによる哀愁の調べ。
伸びやかなヴォーカルによる泣きのバラードである。
オブリガートは、ささやくようなギター。
うっすらと歌を支え響き渡るオルガン、ビートとともにみるみるサビへと駆け上がり、シンセサイザーがたおやかに歌を彩る。
間奏では、まずストリングス・シンセサイザーが高らかに歌い上げ、ぐっと盛り上がる。
続いて、ピアノ伴奏によるリリカルなムーグ・シンセサイザー・ソロ。
悩ましくも静かなアンサンブルだ。
そのまま軽やかにしてブルージーなオルガン・ソロへ。
細かなパッセージで転がるように歌うオルガンに続いて、再びエレクトリック・ヴァイオリンが流れ出す。
ここら辺りは、イタリアン・ロックを思い出しそうな、ヨーロピアンなニュアンスのある演奏である。
一転リズムはスピーディなワルツへ、そのまま加速し、ヴァイオリン、ギターのリードで全体演奏へと帰ってゆく。
ギター・リフとともにテンポ・アップ、レゾナンスを効かせたシンセサイザーによるエレクトリックなソロが始まる。
軽やかな疾走は、さまざまな音色を駆使してクラシカルなニュアンスで迫るシンセサイザーとヴァイオリンがリードする。
銅鑼の一撃。
鋭いドラム・ロールがフェード・イン、ドラム・ソロが始まる。
電子音を飛ばすなど工夫もあるが、やはりライヴの場以外でのドラム・ソロは、演奏者以外にはやや退屈ではないだろうか。
劇的なリタルダンドを、ストリングス・シンセサイザーがゆったりと受け止め、再びヴァリオリンが朗々と歌い出す。
そしてメイン・ヴォーカルへの回帰。
最後は豪快な盛り上がりを見せて一気にエンディングへと飛び込んでゆく。
各パートのソロを大きくフィーチュアした即興風の大作。
メイン・パートは泣きのバラードであり、間奏部分に全員のソロを盛り込んでいる。
演奏力の高さと志向は、P.F.M と共通する。
シンフォニックな 3 つの大作を軸に、ブルージーなナンバーやストレートなロックンロールの小品を散りばめた作品。
最後の大作はソロ回しなので賛否あると思うが、「Song For America」と「Lamplight Symphony」の 2 つは文句なくプログレッシヴ・ロックの名曲だろう。
ヴァイオリンとツイン・ギター、そしてシンセサイザーによる、カラフルかつスピーディなアンサンブルの魅力は永遠だ。
(ZK 33385)
Phil Ehart | drums, moog drums, assorted percussion |
Dave Hope | bass |
Kerry Livgren | lead & rhythm & acoustic guitar, piano, clavinet, moog, arp synth |
Robbie Steinhardt | violin, vocals |
Steve Walsh | organ, piano, clavinet, moog, congas, vocals |
Rich Williams | lead & rhythm guitar |
75 年発表の第三作「Masque」。
アメリカン・プログレを強烈に印象つけた前作を継承し、さらにキャッチーな方向へと発展させた作品。
ハーモニーを多用したメロディアスでリズミカルなハードロックは、何より明快であり、前作以上にドラマチック。
シンセサイザーを用いたカラフルな音作りに加えて、しっかりと耳をとらえる曲のよさもある。
勇ましいサビがカッコいい「Icarus」、英国プログレへの意識も感じられるシンフォニックなバラード「All The World」そして後半ではギターがさえる「Child Of Innocence」と、いかにもアメリカらしく、ストレートに情感に訴えかけてくる佳作が並ぶ。
そんな中で、最終曲「The Pinnacle」は、クラシカルかつ叙情的なアレンジによる哀愁の大傑作。
インストゥルメンタルの充実した、一大プログレ巨編である。
現代のメロディアス・メタルへとつながってゆくアメプロ・ハードの原点かもしれない。
何より新鮮なのは、10 分に近い大作においても、正統的なドラマ性とともに、バブルガム・ポップス的なキャッチーさとホットロッド調のカッコよさがあるところ。
一方 A 面初っ端は、典型的なアメリカン・ロックを揃えるというのが、プロデューサーと彼らの妥協点かもしれない。
また、なぜかフェード・アウトする曲が多いのも不思議。
プロデュースはジェフ・グリックスマン。
邦題は「仮面劇」。
日本では本作がデビュー。
「It Takes A Woman's Love」(3:09)ウォルシュ作。
「Two Cents Worth」(3:09)リヴグレン/ウォルシュ作。
「Icarus」(6:02)代表作の一つ。
シンセサイザーとヴァイオリンが密やかに歌うオープニングから、一気にキャッチーなシンフォニック・ロックへと進む快作。
ギター中心のブルージーなハードロックとキーボード、ヴァイオリンによるクラシカルなプレイが手をとり、ワイルドで華やか、ヘヴィでメロディアスな独特のサウンドとなっている。
音の種類も多く、細かく目まぐるしいアレンジが活きている。
泣かせるサビ、能天気な間奏のインタープレイが象徴的。
そしてオペラチックなヴォーカル・ハーモニーは、QUEEN 以来のハードロックの一潮流である。
リヴグレン作。
「All The World」(7:12)ヴァイオリン、オルガン、ピアノをフィーチュアしたロマンティックなバラード。
キーボード、ヴァイオリンのおかげでシンフォニックな盛り上がりもある。
80 年代以降に大ヒットする路線である。
意外にもサビから間奏部分は、プログレ全開な演奏へと突き進む。
中盤では、ムーグがねじれる変拍子トゥッティやヘヴィなギターとヴァイオリンによる爆発的な演奏が続く。
終盤は高まるストリングスとともに、悠然たる歌へと進み、アカペラ・コーラスが幕を引く。
ウォルシュ/スタインハート作。
「Child Of Innocence」(4:34)DEEP PURPLE を思わせるハードロック。
サビのメロディは傑作。
ラウドなギター、ハモンド・オルガンなどヘヴィにして小気味のいいプレイ満載。
特にオルガンは、かなりぶっ飛んだプレイを見せる。
リヴグレン作。
「It's You」(2:33)シャフル・ビートと軽やかな 8 分の 6 拍子のヴァイオリンのリフが印象的な軽快なナンバー。
ヴォーカル・ハーモニーが暑苦しいものの、アメリカ的な土臭さよりも、ほんの少しだけヨーロッパの田舎のイメージへ傾いている。
ジプシー風のフィドルやオルガンのせいだろうか。
ひょっとして P.F.M を意識していたなんてことがあるだろうか。
ウォルシュ作。
「Mysteries And Mayhem」(4:18)クラヴィネットとシンセサイザー、ヴァイオリンらによるスピーディなトゥッティが強烈なスピード・ハードロック。
ヴォーカル・パートは完全にアメリカンなロケンロールながらも、GENTLE GIANT を思わせる超速急展開する全体演奏がすごい。
ウォルシュ/リヴグレン作。
「The Pinnacle」(9:34)代表作。
哀愁のテーマを巡るストーリー仕立てのシンフォニック大作。
クラシカルなキーボードと存在感あるベース、リリカルなヴァイオリンが次々と交差してドラマを生んでゆく。
そして雄々しくも悲劇の色濃いヴォーカル・ハーモニーの重み。
決めのフレーズは、メロディアスながらトリッキーなインストゥルメンタルを惜しげなくつぎ込む。
遠く YES、GENESIS が見えてくるアンサンブルである。
後半のオルガン・ソロは、当時のアメリカン・ロックには珍しい EL&P 直系のエキサイティングなプレイ。
終盤は、圧倒的なパワーでたたみかけるような演奏が続き、ジョン・ウィリアムスの劇伴のような大団円を迎える。
ギタリストながらギターを抑えた場面も描ききるリヴグレンは、やはり優れた作曲家である。
(もっとも最後で我慢できなくなっているが)
リヴグレン作。
「Child Of Innocence」(5:14)ボーナス・トラック。
デモ・ヴァージョン。
録音はかなり悪い。
「It's You」(2:43)ボーナス・トラック。
デモ・ヴァージョン。
(EK 85654)
Phil Ehart | drums, percussion |
Dave Hope | bass |
Kerry Livgren | guitars, keyboards |
Robbie Steinhardt | violin, vocals |
Steve Walsh | keyboards,vocals |
Rich Williams | guitars |
76 年発表の第四作「Leftoverture」。
キャッチーなメロディと華やかなコーラス、ロック・スピリットにあふれた痛快な演奏に、クラシカルなアレンジがロマンを注ぐ傑作。
AEROSMITH や QUEEN によるドラマティックにしてキャッチーなハードロックを推し進めた路線ともいえるだろう。
全体に、前作よりもさらに明快さとノリのよさを増しており、ついには、伸びやかなコーラスとクランチなギター・リフをもつ「Carry On Wayward Son」のヒットでビッグ・ネームへの足固めをした。
80 年代中盤までの大量消費型アリーナ・ロックのサウンドがすでにここに現れている、といっても過言ではないだろう。
うわずりっ放しで能天気とすらいえそうなアメリカンな楽曲に、憂いと幻想的なリリシズムを与えているのは、多彩なキーボードとヴァイオリン。
キーボードは英国プログレの良心を堅持し、ヴァイオリンはしっかりとヴォーカルに寄り添っている。
最終曲は、多彩な器楽が楽しめるミステリアスにしてダイナミックなプログレ大作。
プロデュースはジェフ・グリックスマン。
邦題は「永遠の序曲」。
「Carry On Wayward Son」(5:23)ドラマチックな展開が QUEEN の強い影響を感じさせる名作。
「The Wall」(4:48)メロディアスなギターとチェンバロ風、オルガン風のキーボードが冴える叙情的なバラード。
歌メロの巧みな転調が印象的だ。
間奏におけるキーボード中心の演奏に、GENESIS などの英国プログレの繊細さが見られ興味深い。
後半はエレクトリック・ヴァイオリンがしっかりヴォーカルを支える。
ETHOS にも似た感じの曲があった。
「What's On My Mind」(3:28)一転ギター中心のキャッチーなロックンロール。
ライトなブルーズ・フィーリングのある切れのいい演奏であり、BAD COMPANY や最初期の FOREIGNER を思わせる内容だ。
さりげなくリズムや調性に変化をつけている。
「Miracles Out Of Nowhere」(6:27)
マイナー調の土臭いバラードに多彩なサウンドによる精緻なアレンジを施し、めまぐるしい変化で綴るスケールの大きな名曲。
全体に泣きのロマンと抜けるようにポジティヴな開放感を劇的に対比させている。
突き抜けるサビの説得力は屈指の出来だろう。
インスト・パートでもオルガン、ヴァイオリン、アコースティック・ギターを用い、メロディアスに歌う演奏とバロック調アンサンブルのモザイクを巧みに組み合わせている。
シンセサイザーやオルガンのアンサンブルによるクラシカルな味わい、さりげなく交える変拍子パターンは、やはりプログレならではのもの。
クールなスタインハートと熱いウォルシュ、それぞれのヴォーカルが巧みなダイローグとハーモニー、アカペラにみごとに活かされている。
終盤の疾走も痛快。
P.F.M を思わせる瞬間も。
アメリカの土臭さとヨーロッパ的な感性の理想的なブレンドである。傑作。
「Opus Insert」(4:27)
星を掃くストリングス・シンセサイザーとクラシカルなオルガンというプログレ常套句を用いるも、シンセサイザー・シーケンスとキャッチーなメロディの存在感がそれを上回り、ハードポップの原点となったポップ・チューン。
80 年代を予期したかのようなアレンジである。
メロディアスでキャッチーなメイン・ヴォーカルとハーモニー、そして甘めのピアノは、王道的なアメリカン・ロック。
しかし、間奏部の行進曲風の凝ったアレンジは、どちらかといえば、THE BEATLES 的、というか英国的である。
逞しい現実肯定型の行動力と淡いファタジーの面影とが合体した、不思議な後味が残る作品である。
「Questions Of My Childhood」(3:36)
リズミカルなピアノ、カントリー風のフィドルが彩るアメリカン・ロック。
オープニングでは華やかなシンセサイザー・ソロとクラシカルなオルガンも味わえるが、YAMAHA のエレクトリック・ピアノの軽快なコードで伴奏するヴォーカル・パートはほとんどビリー・ジョエルなため、プログレかどうかという点では難しいところである。
「Cheyenne Anthem」(6:52)ディズニー・ランド風のファンタジー・タッチで描いた「シャイアン族讃歌」。
ニール・ヤングを思わせるアーシーな弾き語りバラードを前後に配し、中間部はシャイアン族の栄枯盛衰を描いたパノラマのような演奏が続く。
「Magnum Opus」(8:27)キャッチーなメロディを上回る抽象的かつ技巧的な器楽演奏がフィーチュアされた神秘的大作。
ハモンド・オルガン、シンセサイザー、ヴァイオリンによるスリリングな演奏が目玉であり、まちがいなくプログレ・バンドであることを立証する内容である。
ダイナミックにして緊密なアンサンブルもみごと。
大傑作。
(ZK 34224)
Phil Ehart | drums, percussion |
Dave Hope | bass |
Kerry Livgren | guitars, keyboards |
Robbie Steinhardt | violin, vocals |
Steve Walsh | keyboards, vocals |
Rich Williams | guitars |
77 年発表の第五作「Point Of Know Return」。
キャッチーな名曲「Point Of Know Return」、バラードの傑作「Dust In The Wind」があまりに有名だが、他の作品も、キーボードを中心とした思い切りプログレなサウンドと、カラっと明るいポップ・タッチを驚くべきナチュラルさでブレンドした名曲揃い。
フィドルのリードでダイナミックに疾走するアンサンブルと華麗なキーボード・ソロに胸が躍る。
リズム・セクションのキレも最高潮だ。
そして、ヴァイオリン、キーボードが光の尾を引きながら駆け抜けてゆくかと思えば、センチメンタルなハーモニーに風に巻かれるタンブリング・ウィードが目に浮かぶシーンもある。
音楽の幅を広げ、前作をさらにポップにスケール・アップしたイメージだ。
充実した楽曲の生み出すアルバム全体の勢いという点では前作に若干譲るも、テクニカルなシンフォニック・プログレ度という点ではダントツであり、アメリカン・プログレの代表作の一つでしょう。
プロデュースはジェフ・グリックスマン。
邦題は「暗黒への曳航」。
70 年代前半、アメリカには英国プログレの影響を大きく受けた優れたミュージシャンが、プロアマ問わず、大勢いたことは、その後の発掘ですでに明らかになっている。
しかし、メジャーからアルバムを発表できた ETHOS や START CASTLE、FIRE BALLET、HAPPY THE MAN ですら、オーバーグラウンドでの大成功を納めたわけではない。
いわんや、他の無名ミュージシャンは優れた作品をもちながらも機材すらままならなかったのだろう。
ケリー・リヴグレンという人は、そういった無数のミュージシャンの無念を一人成り代わって晴らした男といえる。
発掘ものに高価なプロデュースを施した感のある「Hopelessly Human」を聴くたびに、そういう思いにとらわれます。
「Point Of Know Return」(3:11)ウォルシュの歌唱が映える名曲。オルガンとヴァイオリンのユニゾンに興奮。GODAIGO の元ネタ。
「Paradox」(3:49)EL&P と MAHAVISHNU ORCHESTRA を合わせて AOR テイストをふりかけた快速チューン。
「The Spider」(2:08)変拍子 EL&P なインストゥルメンタル。
「Portrait(He knew)」(4:32)FOREIGNER をより華やかにした感じの好作品。
「Closet Chronicles」(6:30) 名曲。
「Lightning Hand」(4:21)
「Dust In The Wind」(3:26)アコースティック・ギター弾き語りのバラードとして屈指の作品。
「Sparks Of The Tempest」(4:15)
「Nobody's Home」(4:37)
「Hopelessly Human」(7:10)
「Sparks Of The Tempest」ライヴ・ヴァージョン。
「Portrait(He knew)」 リミックス・ヴァージョン。
(EK 85387)
Phil Ehart | drums, percussion |
Dave Hope | bass |
Kerry Livgren | guitars, keyboards |
Robbie Steinhardt | violin, vocals |
Steve Walsh | keyboards, vocals |
Rich Williams | guitars |
78 年発表のアルバム「Two For The Show」。
77 年から 78 年にわたる三つのツアーから収録したライヴ作品である。
アナログ LP では二枚組、2008 年の三十周年記念盤では CD も二枚組になった。
(従来の CD では割愛されていた「Closet Chronicles」が三十周年記念盤では収録されたが、CD 2 の中盤に配置されている)
それまでのヒット曲を満載しており、痛快にしてドラマティックな展開も満載の理想的なベスト・アルバムともいえる。
全編、ロックらしいライヴの熱さとプログレらしい緻密さの両方を兼ね備えた、スタジオ盤を上回るすばらしい演奏になっており、ストレートに興奮させてくれる。
そして、改めて、ロック・バンドにおけるヴァイオリンの存在感に唸らされる。
当時高校生だった私も、熱気に満ちた演奏が繰り広げられる中くっきりと浮かび上がる「Dust In The Wind」を聴いて惚れ惚れしたものである。
個人的には、本作は二枚組アルバムのベストテンに、CHICAGO の諸作や SANTANA とともに必ず入る。
(わたし、スティーヴ・ウォルシュの暑苦しい歌唱が好きなのです)
スリーヴに描かれた、コンサートの終わった会場でパンフレットを読み耽る二人の掃除婦の絵は、ノーマン・ロックウェルのパロディだろうか。
アーティストの交代のサイクルが早い現代では、二枚組ベスト・ライヴを出すまでにキャリアを積むなんてことは相当難しそうだ。
イハートの手数を多いドラミングに 70 年代ロックの良心を感じる。技巧派ドラマーではないかもしれないが、バンドを支えるドラミングとしては一流。
各曲も鑑賞予定。
邦題は「偉大なる聴衆へ」。ファンの悲劇を悼むコメントが胸を打つ。
「Song For America」(7:31)
「Point Of Know Return」(3:07)ゴダイゴはここから(笑)
「Paradox」(4:09)
「Icarus - Borne On The Wings Of Steel」(5:56)
「Portrait(He knew)」(5:20)
「Carry On Wayward Son」(4:36)
「Journey From Mariabronn」(8:55)
「Dust In The Wind(acoustic guitar solo)」(6:18)
「(piano solo)Lonely wind」(4:29)
「Mysteries And Mayhem」(4:00)
「Excerpt From Lamplight Symphony」(2:39)
「The Wall」(4:53)
「Magnum Opus」(11:17)
「Hopelessly Human」(8:44)
「Child Of Innocence」(7:47)
「Belexes」(4:34)
「Cheyenne Anthem」(6:55)
「Lonely Street」(8:20)
「Miracles Out Of Nowhere」(7:59)
「The Spider」(7:41)
「Closet Chronicles」(6:55)
「Down The Road」(3:44)
「Sparks Of The Tempest」(5:19)
「Bringing It Back」(7:07)
(88697 30836 2)