アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「ETHOS」。
72 年 ATLANTIS を母体に結成。
作品は二枚。
2000 年未発表音源が発掘された。
KANSAS や HAPPY THE MAN 、STAR CASTLE らと同じくアメリカン・プログレッシヴ・ロックの草分けのグループの一つ。初期の YES、GENESIS、KING CRIMSON らの影響を受けたブリティッシュ・スタイルの正統プログレ。王道な分だけ悩みも大きかったようです。
Michael Ponczek | chamberlin, organ, moog, effects |
Mark Richards | percussions, effects |
Wil Sharpe | guitar, mandolin, voice |
Brad Stephenson | bass, bass pedals, voice |
L.Duncan Hammond | mellotron, piano, moog, organ, clavinet,voice |
75 年発表の第一作「Ardour」。
アメプロ・ハードとは別の水脈において、ブリティッシュ・プログレを受け継いだ豊かな音楽性を誇る内容のアルバムである。
演奏は、メロトロンの原型たるチェンバリンを駆使し、テクニカルなパーカッションが暴れまわるなかをベースとギターが対等にせめぎあう、きわめて技巧的なものだ。
YES、KING CRIMSON 、GENESIS、JETHRO TULL など、イギリスの本流を明確になぞりつつも、鋭利なリズムとキーボードのカラフルな音を軸とした線の細いアンサンブル、という独自性を打ち出している。
アメリカのグループには珍しく、乾いた土臭さよりもヨーロッパ風の繊細さを醸し出すことに成功しており、イージー・ゴーイングなメロディやワーナーのアニメーションを思わせるルーニーなプレイですらも、中期 GENESIS に通じる独特の味わいとして、ポジティヴにとらえることができる。
アコースティックなパートも盛り込んで曲調の変化に気を遣っており、いわゆるアメリカのテクニカル集団にありがちな、横一直線の全力疾走 70 分といった感じもない。
さすがに、澱み具合は本家にはかなわないものの(これは善し悪しではなく純然と好みの問題)、アメリカンでもオタク度ならイギリスに負けないぞといった感じである。
とはいえ、アルバム後半までテンションを落とさずに突っ走り、お腹いっぱいにさせるところは、さすがアメリカン・ロックなのですが。
また、大手からの作品のせいか、発掘ものに比べると音の作りや録音がさすがに明解である。
4 曲目、YES の「Relayer」を思わせるジャズロック一歩手前のアンサンブルのインパクトも強烈なのですが、個人的には、3 曲目のような初期 KING CRIMSON を思わせるチェンバリンとギターの轟くインストゥルメンタルで、スネアがすたたたとロールすると、ぐっときてしまいます。
また、6 曲目後半のギター・ソロのように、ナチュラルに歌うとかえって目立つという興味深い状況もあり。
ひょっとすると、作曲を手がけるギタリストはかなりノーマルな人で、キーボーディストやドラマーが無理やりプログレへ引きずり込んでいるのかもしれない。
「Intrepid Traveller」(6:19)
「Space Brothers」(6:11)
「Everyman」(5:00)
「Atlanteans」(7:08)傑作。
「The Spirit Of Music」(3:54)
「Long Dancer」(5:21)後半のギター・ソロが新鮮。
「The Dimension Man」(7:57)
「E'Mocean」(4:35)
(CAPITOL ST-11498 / TOCP-7700)
Wil Sharpe | acoustic & electric guitars, voice |
Michael Ponczek | mini-moog, poly-moog, hammand organ, chamberlin, rhodes piano |
Mark Richards | percussions, moog drum, micro moog, voice |
Brad Stephenson | bass, string bass, moog bass pedals, voice |
77 年発表の第二作「Open Up」。
キーボーディストの L.ダンカン・ハモンドが脱退、四人編成となる。
内容は、ほぼ前作と遜色ない、テクニカルな王道プログレッシヴ・ロック。
前作よりも、KING CRIMSON、YES 風の構築性のあるアンサンブルにスインギーなポップ・テイストを加味したアメリカン・ロックらしい作風となっている。
ユーモラスでリズミカルな演奏を基調にして、適宜、思い切り感傷的でメロディアスな場面を盛り込んでいる。
キーボードは、オルガンよりもムーグとチェンバリン(メロトロン)を多用する。
叙情的な場面では、シンセサイザーの主旋律を轟々と鳴り響くチェンバリンが支えている。
プログレ然としたロマンティックな作風とともに、ビート・グループ風のメローなヴォーカル・ハーモニーやライトなファンキーさもあり、その間のギャップが思わぬ面白さを生んでいる。
また、キーボードとベースが英国プログレ典型の表現を見せる(おそらくドラマーもかなりのプログレ好き)一方で、ギターはスティーヴ・ハウをベースに、若干フュージョンに寄った時流に沿うプレイも見せている。
あまりにどこかのバンド風なところやヴォーカルのインパクトのなさなどが気になるが、全体としては、テクニックに裏付けられた強靭なリズムと鋭い場面転換を誇るアメリカン・プログレの佳作である。
ややキチガイじみたところもあるので、プログレ・ポップ好きにはお薦め。
A/B 面それぞれの始まりにメンバーが会話しているような音が入っているが、何でしょう?
「Pimp City」(7:26)チェンバリンの響きや超ヘヴィなトウッティなど KING CRIMSON の「Picture Of The City」に曲調が酷似するシンフォニック・チューン。
ヴァースだけジャジーでやや頭悪そうなメリケン・ロッケンロー調なのは意図的か。
ぐわっと湧き起こるメロトロンの響きやアコースティック・ギターとポリ・ムーグによるアンサンブルなど、プログレ的には王道である。
しかし YES 風の「弾けた」プレイがややいき過ぎ、KING CRIMSON 風の怪奇な叙情性を越えて「ひょうきんさ」が強調されてしまっている。
この奇天烈さ、どこかで聴いたぞと記憶をたどれば、イギリスの KING CRIMSON フォロワーである JONESY だ。
哄笑からフェード・インするオープニングも不気味だ。
「Start Anew」(3:22)クリス・スクワイア流のベースとエキセントリックなギター・リフが引っ張るアニメーションのテーマ風のロックンロール。
明るく勢いのいいロックンロールではあるが、忙しなく変則的なアクセントにつまづきそうになり、ノリノリにはなり得ず、そもそもどこか狂的である。
ヴァースだけがなぜかエコーを効かせた甘めのポップス調のハーモニーで決めるところも可笑しい。
ギターとムーグによるコワレ気味の痛快ユニゾンは、じつは DEXIE DREGS 風だったりする。
オブリガートするギターのヴァイオリン奏法があまりにスティーヴ・ハウに似ていて吃驚。
「U.V.Melody」(0:32)チェンバリン・フルートとアコースティック・ギターによる素朴で穏やかなブリッジ。
「Memories」(7:08)
フォーキーなメイン・ヴォーカルを派手なキーボードと尖ったギターと性急なリズムによる鋭角的なアンサンブルが取り巻く YES によく似たシンフォニック・チューン。
高音域でギクシャクせめぎあうアンサンブルとスティーヴ・ハウ風のギター・ソロが特徴的。
ベースまでもが位相系エフェクトを利かせて快調に跳ね回る。
中間部のサイケデリックでスペイシーな演出はやや冗長だが、これがないと雰囲気が出ないから難しいところだ。
緊迫したアンサンブルの生む息詰まるようなテンションをごく普通の調子のメイン・ヴォーカルで巧みに和らげている。
「Yours Is No Disgrace」です。
「The Players(Of The Game)」(5:49)
ヘヴィなトゥッティと乱調気味のソロが特徴的な、エキセントリックなバラード。
行き当たりばったりのような展開に浮かび上がる持ち前のルーニーな感じが、「Lizard」や「Islands」の KING CRIMSON の雰囲気を醸し出している。
このジャジーかつ狂気を秘めた「危ない」感じは、VAN DER GRAAF GENERATOR や GNIDROLOG のような英国ロックとも共通し、このグループの大きな特徴である。
ゴリゴリのベース・ラインによる厳つさ、ジャズ風のギター・ソロのミスマッチ、狂的なシンセサイザー・ソロ。
パーカッション系の音が散りばめられている。
「Marathon II」(5:24)
「くるみ割り人形」がコラージュされる甘く密かなノスタルジーが、YES 風のスピーディかつシンフォニックな演奏へと広がってゆくプログレらしい佳作。
多彩な音色を駆使したキーボード・ソロをフィーチュアし、小刻みなリズムで鋭角に折れ曲がり続けるような演奏を繰り広げる。
リズムを無視するようなギター・プレイもハウ氏流でしょうか。
「Sedona」(4:07)
チェンバリンやスペイシーなポリムーグがざわめくが、ヴァースはメロディアスでジャジーなプログレ・ポップの傑作。
エレピと歌メロは、叙情的というよりも「メロー」というべき m7 系 AOR タッチ。
イントロから現れるスパニッシュなアコースティック・ギターが新鮮だ。
「Close Your Eyes」(5:45)
最終曲は、荒れ狂うギターとチェンバリンが再び KING CRIMSON を思わせるも、ムーグや細かく刻むボレロ風のリズムは、なぜか GENESIS なヘヴィ・シンフォニック・ロック。
この宇宙志向のセンスはプログレに欠かせない。
ギターは今度はフリップ卿風。
(CAPITOL ST-11616)
Wil Sharpe | lead & backing vocals, all guitars |
Michael Ponczek | hammand organ, mellotron, mini-moog, ARP-string machine, orchestron, clavinet, chamberloin |
Mark Richards | all drums, percussion instruments |
Steve Marra | lead & backing vocals, ARP 2600 synth, bass, flute |
Dan Owen | lead vocals, bass on 9, 10 |
2000 年発表のアルバム「Relics」。
デビュー・アルバム以前のライヴ、デモ、リハーサルなどの発掘音源をまとめた編集盤である。
内容は、YES や KING CRIMSON など英国ロックの影響をダイレクトに受けてアメリカンな開放感の下に再構築したテクニカルなプログレッシヴ・ロック。
「Intrepid Traveller」(第一作より、インスト・ヴァージョン)、「Pimp City」(第二作より)の二曲をのぞき未発表曲。
ヴォーカル処理など録音品質には若干問題があるが、原石の妖しき魅力は十分に伝わる。
3 曲目「Placebo」は力作。
メロトロン系の音は大量。
ウィル・シャープのコメントによると「『KING CRIMSON に対するアメリカからの返答』になりたかったが、誰も『返答』を望んでいなかった」とのこと。
奇妙な CD ジャケット画は、「バーバーヤーガの小屋」でしょうか。
「Nightingale」(6:24)初期 YES 風のトリッキーなロックンロールに初期 KING CRIMSON 風のメロトロン・バラードを連結した作品。
「Elephant Man」(2:48)ノイジーなシンセサイザーが特徴的なシンフォニック小品。サイズのわりには中身が濃い。
「Placebo」(9:00)音質は悪いが、ジャジーにこなれた器楽とフォーキーなヴォーカルが合わさったテクニカル・ロックの逸品。
「Identity」(4:02)ライヴ録音。
「Experimental War」(5:39)ファズ・ギター、アコースティック・ギターとメロトロン・ストリングス、VCS3 風のトーン・ジェネレータという取り合わせは初期 KING CRIMSON と同じだが、そこから発されるムードは異なる。
後半は、初期 YES を連想させる牧歌調のアコースティック・チューンへ。
フルートはメロトロンか本物か、難しいところだ。
インストゥルメンタル。
「Troilus And Cressida」(3:29)幻想的なフォーク・ソング。
タイトルはシェークスピアのマイナーな戯曲より。
「Intrepid Traveler」(4:45)第一作より。インストゥルメンタル。
「Doing Your Duty」(2:10)
「Perceptions」(6:44)
「Pimp City」(7:33)第二作より。意外や、KING CRIMSON との近接点は、音そのものよりも(もちろんメロトロンは失念できないが)、怪奇で狂的なユーモアや逸脱感にあり、と感じた。「Happy Family」 や「The Letters」の世界である。
「Dream」(9:05)ライヴ録音。隠しトラック。
(BMP1003)