JONESY

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「JONESY」。 72 年ジョン・ジョーンズのバックバンドを母体にロンドンにて結成。 作品は三枚。 初期 KING CRIMSON の影響明らかなヘヴィでアヴァンギャルドな作風である。 典型的なプログレ・サウンドから三作目でジャズロックへと変貌。 DAWN レーベル。2003 年幻の四作目発掘に続き、2011 年ついに新譜「Dark Matter」発表。

 No Alternative
John Jones guitars, VCS3, vocals
Jamie Kaleth mellotron, keyboards, vocals
David Paul bass, vocals
Jim Payne drums, percussion

  72 年発表の第一作「No Alternative」。 サウンドは、ヘヴィなリフを用いた凶暴なロックからメロトロンの鳴り響くバラードまで、初期 KING CRIMSON の影響を強く受けたもの。 変拍子を駆使し、ブレイクや強圧的なユニゾンの多い演奏であり、フリージャズの影響らしき脈絡をぶった切るような逸脱調も特徴だ。 メロトロンはバッキングやオブリガートの要所に的を絞って効果を上げるというのが普通の使い方だと思うが、この作品ではそれがリフやテーマにオルガン並に使われている。
   ジャケットはロンドン、ビルの足元で縮こまる中産階級住宅の裏庭。 生活臭が漂う煙突からの煙がすべてを灰色にしてしまう、陰うつな絵である。 このジャケットを見ていると「No Alternative」とは、ここを逃げ出して別の場所に行こうたってそうはいかない、というような意味にも思える。 プロデュースはジョン・ジョーンズ。ベーシスト、デヴィッド・ポウルは NATIONAL HEAD BAND 出身。

  1 曲目「No Alternative」(8:14) オープニングは、にぎやかな楽隊の演奏がフェード・イン。 そして突如飛び出すのは、ベース、ギター、メロトロンのユニゾンによるたたみかけるようなリフ。 ブレイクをはさんだ 3 連のリフへと変奏すると、ヘヴィにしてどこか歪んだイメージが浮かび上がる。 そして轟くパワー・コードが毛羽立ったヴォーカルを呼び覚ます。 ギターとメロトロンが叩きつけられるワイルドな演奏だ。 ヴォーカルは狂おしい表情である。 再び最初のリフが繰り返される。 一パターンごとに待ち構えるようなブレイクをはさむ奇妙な演奏だ。 ねじを巻くように高まる演奏とともに、テープ逆回転効果を巧みに用いたギター・ソロが始まる。 バックはヴォーカル伴奏と同じパワー・コード。 サイケな演奏はかなりやけくそ気味である。 再び 3 連リフから無伴奏のギター・ソロ。 それも一瞬再びリズム、メロトロンが迸り、ギターが荒れ狂う演奏へと戻る。
  ギター主導のユニゾンによる圧迫感のあるリフで執拗に追い立てるヘヴィ・チューン。 技巧的に注目すべきところはないが、KING CRIMSON をなぞるような、ワイルドにして狂的なリフを真正面から勢いよく叩きつける。 その開き直りの迫力がいい。 凶暴さと滑稽さが紙一重なところも本家に通じる。 迸るメロトロンそしてテープ逆回転の特殊効果によるギター・ソロも強烈だ。 狂おしく回っては突然止まる歯車のような演奏は不気味な世界の描写にはピッタリである。 ジョーンズの作品。

  2 曲目「Heaven」(8:13) VCS3 だろうか不思議なピッチの揺らぐノイズとともにベースが静かにささやくオープニング。 爪弾かれるギターとメロトロンの密やかな調べ。 ヴォーカルもデリケートな表情である。 切なく無常感の漂うバラードだ。 憂鬱な歌メロにピアノが和音を刻みつけ、ややアクセントの強まるサビがコントラストする。 セカンド・ヴァースは、打ち沈むピアノとメロトロンの調べにベースがオブリガートして表情をつけている。 ソロ・ギターも生音で切々と歌い、丹念なベンディングで表情をつけている。 VCS3 の変調音、銃撃のようなノイズには何かを象徴する意図がありそうだ。
  メロトロンをフィーチュアした内省的なバラード。 感傷をかきむしるギターのプレイ、哀愁を湛えたメロディと密やかなヴォーカル表現は、切ないまでにブリテッシュ・ロックのものである。 切なさにあふれ強い哀感があるのだが、曲の進みは重厚でたゆみない。 歌詞でも分かるように、「I Talk To The Wind」や「Letters」の影響はきわめて強い。 ピアノも現れ、アコースティックな音の質感を活かした作品である。 メロトロン・ストリングス鳴りっぱなし。 ジョーンズの作品。

  3 曲目「Mind Of The Century」(4:09) ミドル・テンポの重苦しいビートが刻まれ、メロトロン、ギターらのユニゾンによるヘヴィなリフが唸り立てる。 メロトロン入りの BLACK SABBATH といった趣。 シンセサイザーの轟音が通り過ぎると、ヘヴィな伴奏とともにイコライザ処理されたヴォーカルがいかにも気だるげに歌い出す。 シンプルなメロディ・ラインに独特の含み、ひねりを感じさせる、いかにも古典的な英国ロック調だ。 サビはヴォーカルと伴奏がユニゾンする。 メロトロンはテープ逆回転処理されているようだ。 次第にすべては催眠術にかかったように茫洋となってくる。 間奏は、メロトロンとギターのロングトーンの金切り声のユニゾンが繰り返される。 唐突なブレイク、そしてヘヴィなリフの上で狂おしいギター・ソロ。 やがてメロトロンが再び切り込み、ユニゾンによるヘヴィなリフが甦る。 そして三度ヴォーカル・パート、サビから間奏へ。 最後に止めを刺すようにヘヴィなリフを叩きつけ、ヴォーカルと演奏がユニゾンしたままフェード・アウト。
  角張ったビートに支えられた東アジアっぽいリフとトリミングされたヴォーカルが不気味に迫るヘヴィ・ロック。 ワイルドでざらついているのに虚脱したような曲調が、「Cold Turley」など初期のジョン・レノンの作品に通じる。 クールな声質のヴォーカルと刺々しいリフの対比も面白い。 一貫したミドル・テンポは爆発を懸命にこらえているようなイメージである。 シンプルな反復だけでここまでもたすのも、音の面白さのおかげだろう。 グループの作品。

  4 曲目「1958」(7:53) ギターとエレピ、ベースが 3 連パターンをリフレインする。クラシカルな変拍子アンサンブルだ。 受けて立つのは迸るメロトロンと咆哮するギターであり、小刻みなリズムをパワフルに刻みシンバルを打ち鳴らすドラムスが緊張感を高めてゆく。 ギターとベースによる咬みつくように凶暴な 3 連パターンを伴奏と対照的にヴォーカルは酔っているようにやや弛緩気味だ。 ただし、だからこそ虚脱した荒々しさはある。 オブリガートのギターは絶叫のよう。 演奏に 8 分の 6 拍子特有の神経質な緊迫感がある一方で、ヴォーカル・ハーモニーには素朴なフォーク・タッチと R&B らしい逞しさがある。 初期の KING CRIMSON と共通する緊迫感なのだが、異なるのは、この「普通のロックっぽさ」と無茶弾きのハードロック・スタイルのギター・アドリヴの二点である。 荒れ狂う演奏を独特のつんのめりそうなアクセントのリズムで支え、ソフトでメロディアスなヴォーカル・ハーモニーと対比させてドラマを構成している。
   8 分の 6 拍子で凶暴にたたみかける調子が初期 KING CRIMSON を思わせる、力業のヘヴィ・シンフォニック・ロック。 絶叫しながら音を叩きつけるギター、凶暴に唸るベース、手数の多いドラムスらが一体となって、神経性的ながらも重量感も独特のスピード感もある演奏を繰り広げる。 ギター・ソロに示されるように一つ一つのプレイはさほど凄くはないが、強引な勢いのある全体の調子が売りのようだ。 本曲も独特のブレイクがドライヴ感を生んでいる。 1 曲目と 3 曲目を合わせたような作風だ。 ジョーンズの作品。

  5 曲目「Pollution」(9:40) メロトロンをバックにワウ・ギターがコードを刻むファンキー・ロック風の演奏がフェード・イン、しかしすぐにフェード・アウトする不思議なオープニング。 厳かにメロトロン・ストリングスが湧き上がり、甘めのデリケートな歌唱が始まる。 吹きすさぶ風の音のようなシンセサイザーと遠く湧き立つアルペジオ。 ドラムスの堅実なビートが加わり、ヴォーカルは力を得てメロトロンをバックに高らかに歌いだす。 甘くセンチメンタルな表現だがどこかに何かを恐れ敬うような調子がある。 突如イタリアン・ロック風のけたたましいギターの 3 連アルペジオが飛び込むと、それに応じてベースも激しく暴れ始め、荒々しく表情を変えたドラムスの打撃とともに演奏は高揚する。 YES の作品のようにベース・ラインがアンサンブルを主導している。 イタリアン・ロックを思わせる牧歌調のナチュラルトーン・ギターとエレクトリック・ピアノによるキュートなユニゾンのリフレインが示され、元気いっぱいなベースと手数の多いドラムスと組み合わさってエネルギッシュで愛らしいアンサンブルとなる。 ふたたびテンポはゆったりと落ち、ベースに導かれたギター・ソロはスライドの妙に西海岸調なもので、ソフトなヴォーカルを呼び覚ます。 ベースのリフとメロディアスなヴォーカル・リフレインとともに演奏は力を蓄える。それは飛翔の準備をするイメージだ。 エンディングもベースのリフの先導で堅実な歩みを見せて進み、ノイジーな電子音やメロトロンが次第に復活すると、長い長い上昇の果てに爆音で幕を引く
   一転して YES 影響下らしき可愛らしくも頓狂で高揚したシンフォニック・ロック。 メロディアスな牧歌調のどこかに歪みがあるところが特徴。 全編で目立ち捲くるベース、忙しないアルペジオによるキメ、アコースティックなイメージのギター・プレイ、そしてフォーキーでデリケートなヴォーカル・ハーモニーなどを取り入れている。 エンディングは「Starship Trooper」でしょうか。 ポールの作品。リード・ヴォーカルもポールのようだ。

  6 曲目「Ricochet」(4:59) アシッドなワウ・ギターのコード・カッティングに厳かなメロトロン・ストリングスが重なるオープニング。 一気にリズム・セクションが動き出し、ヘヴィな演奏が始まる。 ヴォーカルはメロディアスにしてワイルドそして R&B 調のしなやかさをもつ。 センスのいい不良というイメージは昔の CHAR と同じ。 サビはハイトーンのコーラスが決まる。 間奏もメロトロン、ワウ・ギターで突っ走るのだ。 8 分の 6 拍子のオブリガートをはさんでアクセントをつけつつグルーヴィに進んでゆく。 メロトロンのテーマがさまざまに変化し、オブリガートを受けてドラムスの短いブレイクビーツ、そしてベースが一気に高まってヴォーカルを支える。 このフックがカッコいい。 ファンキーで熱い 70 年代らしさ。 泣かせるサビから、狂乱のギター・ソロへ。 しかし演奏はフェード・アウト、アルバム・オープニングと同じにぎやかな楽隊の行進が現れて消える。 トータル・アルバムらしいしかけだ。
  ソウルフルなヴォーカルをフィーチュアしたワイルドなのに洗練された R&B チューン。 こういう曲に、ギターとベースによるヘヴィなリフとメロトロンを激しく用いるところが珍しい。 英国ロッカーの意地なのだろう。 リズムも本来ならもっと洗練されているべきところを、あえて武骨に音を叩きつけているようなところがある。 個人的には KING CRIMSONYES のコピーのようなサウンドよりもずっと好み。 ジョーンズの作品。 シングル・カットされている。


  変拍子と強圧的なリフ、そして手数足数で勝負のヘヴィ・シンフォニック・ロックの秀作。 クラシックやジャズの素養はさほど感じられず、あくまでロックのスタイルの範囲で、当時流行の変拍子やポリリズム、怪奇で強引な曲調を取り入れたイメージである。 基本はハードロックなのだろうが、KING CRIMSON の影響のもと一気に前衛ロックへと進んだようだ。 ブリテッシュ・ロック独特の屈折したカッコよさがあり、さらにそのカッコよさをあえて外して崩すような大胆さもある。 ノイジーな VCS3 がなんとも時代を感じさせるが、KING CRIMSON ファンなら一度は味わいたい音だろう。 なぜなら初期 KING CRIMSON の影響をこういう形で受けているバンドが、かなり珍しいと思うからだ。 また長調のパートでは高鳴るベースとピッキング主体のギター、メロトロンらのおかげで YES にも接近する。 ただし、最終曲を聴いてしまうと、もともとこういうタフな酔いどれ R&B が専門で、流行に合わせてプログレ化したのかなとも思う。

(DNLS 3042 / VICP-61403)

 Keeping Up
John Evan-Jones guitars, vocals
Jamie Kaleth mellotron, keyboards, lead vocals
Alan Bown electric trumpet/flugelhorn, percussion
Gypsy Jones bass, recorders, lead vocals
Plug Thomas drums, percussion, vocals

  73 年発表の第二作「Keeping Up」。 バラの花を縛り首にするというジャケットが印象的だ。 新メンバーとして、ジョン・ジョーンズの兄トレヴァー・"ジプシー"・ジョーンズとプラグ・トーマス、そしてベテラン・トランペット奏者アラン・ボウンを迎えている。 ボウンによるジャジーな管楽器演奏と、前作を越える大胆なメロトロンの使用が、「Lizard」、「Islands」あたりの KING CRIMSON に影響されたサウンドを完成へと進めている。 しかしながら、KING CRIMSON のエピゴーネン然としないのは、ストリングス・アレンジやメランコリックにしてキャッチーなメロディなどが生む英国ロック本流の品のあるポップ・テイストが強いせいだろう。 クローンではなく、あくまで近接する傍系なのである。 静けさに満ちた叙情的な表現では KING CRIMSON 風味が強まるが、動きを見せるところでは、独特の R&B、フォーク・タッチが飛び出し、プログレッシヴというよりは普通のポップス・ノリに近くなる。 ヴォーカル・ハーモニーやワウ・ギターによるコード・カッティングなどが、特にそう思わせる一因だ。 一方 5 曲目では、ギターとポエトリー・リーディング風のヴォーカルをフィーチュアし、「Moon Child」の向こうを張る即興的でアヴァンギャルドな試みも見せている。 プロデュースはジョン・ジョーンズとグループ。

  1 曲目「Masquerade」(6:05) プログレらしい道具立てを用いたキャッチーなハードロック。 大仰なストリングスや間奏、オブリガートのみならず主旋律まで堂々とリードするメロトロンなどのサウンド面や、ぎくしゃくした独特の調子の変化などに耳を奪われるが、軸となっているのはポップな歌メロである。 ボウンのトランペットとメロトロン、シンバルのざわめきとくると確かに CRIMSON 風といわざるを得ないが、それでも歌メロやハーモニーにはビート・ポップ的な面が現れている。 ヴォーカル・メロディ自体はごく普通のロックだが、構成と楽器の音色で聴かせてしまう大作だ。 ガラスを打ち破る音とともに、ストリングス・アンサンブルによる緊張に満ちた演奏をバンド演奏が断ち切るオープニングが強烈。

  2 曲目「Sunset And Evening Star」(3:39) メロトロンによるトラジックなテーマが印象的な哀愁のバラード。 厳かなメロトロン、もの悲しいヴォーカル、マーチング・スネアが作り上げた雰囲気に比べると、ギターのオブリガートがあまりに普通のペンタトニックなので拍子抜けするが、これは CRIMSON が染み付いてしまった私が悪いのだろう。 「Old soldiers die..」と繰り返す歌詞が、いい知れぬ悲しみを湛えている。 ジョーンズの作品。

  3 曲目「Preview」(2:00) アコースティック・ピアノ、トランペット、弦楽奏による小品。 哀しい夢を辿り打ち寄せるピアノの調べ、空ろな遠吠えのようなトランペットの響き、そしてすすり泣くストリングス。 後半はトランペットをストリングスが引き継ぎ、クラシカルなアンサンブルを成す。 無常感に満ちた本作は、次の曲へのイントロと思われる。 ケイレスの作品。

  4 曲目「Questions And Answers」(5:13) さまざまなイメージがごった煮のように詰め込まれたジャズロック。 細かく刻み込むようなリズムの上で、ワウ・ギター、トランペットなどが暴れシンプルな歌ものを過激に彩ってゆく。 オープニングのピアノのオスティナートで緊張が走るが、歌メロはまたしても R&B 風の普通っぽいもので、拍子抜けする。 間奏部のピアノの和音や、高まるメロトロンに続くサビの部分は、CRESSIDA や初期の GENESIS のようにプログレっぽいが、中途半端にファンキーなメイン・ヴォーカル・パートがやや浮き上がっている。 後半は、意を決したようにバッキングがファンキー路線で突き進み、フロントではジャジーなギターとトランペットのスカスカなかけあいが続いてゆく。 構成力はあるのに、どこか人を食ったような「外し」を見せるのが特徴なのだろう。 ケイレスの作品。

  5 曲目「Critique」(9:29) アシッドなワウ・ギターと吠えるようなヴォイス・パフォーマンスを経て、強引なフリー・インプロヴィゼーションへと突入する大作。 前半はロバート・フリップ風のサスティンをテープ逆回転で実現したギターや、THE BEATLES のパロディまでご丁寧に散りばめて、不気味な雰囲気のまま進んでゆく。 ボウンのエレクトリック・トランペットが絶叫する辺りから、フリーなジャズ・インプロヴィゼーションへと変化する。 トランペット、ギターが気まぐれなプレイを散りばめ、リズム・セクションは堅実に展開を支えている。 隙間だらけの演奏が珍妙となる一歩手前で踏みとどまっているのは、エレクトリック・マイルスをほうふつさせるボウンの冴えたプレイのおかげだろう。 きれいな音のベースもいいアクセントになっている。 終盤は、ギターが思うさま弾き捲くり演奏をリードする。 ジョン・ジョーンズの独壇場だろう。 ボウンの管楽器はもちろんギターも序盤はジャジーな味わいをもち、それがなかなかいい感じだが、後半のヘヴィなギター・アドリヴが類型的になってしまった。 リズム・セクションも少し単調。 確かに爆発力はあるが、この最後の 2 分間がもう少しカッコいいともっとイメージ・アップしただろう。 ジョーンズの作品。

  6 曲目「Duet」(0:49) 穏やかなギター伴奏でトランペットが静かに歌う。 前曲の雰囲気を断ち切り、静かな調べが次曲へのイントロとなっている。 ジョーンズの作品。

  7 曲目「Song」(3:32) ストリングスを用いた哀愁のバラード。 おそらくリード・ヴォーカルはジェイミー・ケイレスなのだろう。 ケイレスの作品。

  8 曲目「Children」(9:02) トランペット、リコーダーによるクラシカルなアンサンブル、R&B 風のブラス・ロック、メランコリックなフォークロックなどをメロトロン、ストリングスで貫いた一種英国ロックのカタログの如き、野心的シンフォニック・ロック作である。 夕空へと響き渡るような空ろなトランペットと多彩なメロトロンが、みごとな存在感を見せる。 特に、後半メロトロンのリードで走るタイトな演奏がみごと。 ギター抜きの方がシャープになってしまうというところが面白い。 メイン・ヴォーカルの R&B 風味がなんとも懐かしい名作である。 ジョーンズの作品。


  メロトロンを駆使したプログレッシヴ・シンフォニーかと思えば、トランペットによるリリカルな小品や、ブラスとギターで晦渋な展開を見せるフリー・ジャズ風のインプロヴィゼーションなど、きわめて多彩な音楽である。 一つの曲の中でもエアポケットのような空白を巧みに用いた独特の作風をもつ。 リード・メロトロンには驚愕。 ボウンのジャズ・センスを活かし、プログレとしての完成度を一気に高めた名盤でしょう。

(DNLS 3048 / VICP-61404)

 Growing
John Evan-Jones guitars, vocals
Jamie Kaleth electric & acoustic pianos, Mellotrons, lead vocals
Alan Bown electric trumpet, electric flugelhorn
Gypsy Jones bass, lead vocals
Plug Thomas drums, percussion
guest:
Bernard Hagley electric saxes
Ken Elliot clavinet, ARP 2600
Maurice Pert percussion

  74 年発表の第三作「Growing」。 アラン・ボウンの存在感が強まるとともに、シンフォニックなサウンドからよりファンキーでジャジーなサウンドへと変化した。 SECOND HANDSEVENTH WAVE のケン・エリオット、後に BRAND X へ加入するモーリス・パートら多彩なゲストに加えて、ストリングス・アレンジメントにはサイモン・ジェフズを迎えており、新たなサウンド作りを試みている。 痺れそうなほどエレクトリックにしてファンキー、切れ味もいい。 そしてメロトロンもしっかり位置をキープしている。 内ジャケットには、タイトル通り全メンバーの「成長」の軌跡が写真で示されている。 プロデュースはルパート・ハイン。

Can You Get That Together」(8:28) 躍動感あふれるハイ・テンションのジャズロック。 エレクトリック・トランペット、ギターのユニゾンによるビッグバンド風のテーマから、ヴォーカル・パートを経て、全パートのソロ回しを経てテーマへ回帰する。 ファンキーで R&B 色が強く、ジャズロックといってもフュージョンではなく、ソウル・ジャズに近い。 ヴォーカル・パートやソロのバックでは、メロトロン・ストリングスがぶわっと吹き上がる。 ソロはギター、エレピ、エレクトリック・トランペット、ベース、ドラムスと続く。 感電しそうなほどジンジンのサウンドがカッコいい。 リズム・セクションも逞しい。 こういう曲でメロトロンを使い捲くるのも珍しい。 リード・ヴォーカルはジプシー・ジョーンズ。 エレクトリック・ピアノやトランペット、ギターのコード・カッティングなど、マイルス・デイヴィスの諸作をほうふつさせるところもある。

Waltz For Yesterday」(4:10) 弦楽アンサンブルをフィーチュアしたブルージーなバラード。 アカペラからスタートし弦楽奏がバックアップする、エレガントな歌ものへ。 繰り返しではトランペットも伴奏に加わる。 後半は、うってかわってピアノ伴奏によるブルージーなギター・ソロ。 ヴォカリーズに続いて次第に弦楽奏の伴奏が高まってゆく。 ワルツというタイトル通り、後半は終始 3 拍子。 メランコリーとブルージーという雰囲気の異なる二つの小編をつないでしまった大胆な作品。 主役は弦楽アンサンブルかもしれない。

Know Who Your Friends Are」(6:11) R&B テイストのアップテンポの歌もの。 いかにも英国ロックらしい音であり、前作までの作風に近い。 軽やかなアコースティック・ギターのコード・ストローク、シャープなベースとオルガンのオブリガート。 中間部ではぐっとテンポを落とし、メローな AOR 調のバラードへ変身。 間奏のギター、エレクトリック・トランペットが切ない。 こういう演奏ができるのに、乱れてしまうところがすごい。 最後は再び快速でメイン・ヴォーカルが走り、ギター、トランペットが激しいインタープレイを見せる。 メロトロンもしっかりサポート。 そしてドラムスも華麗な打撃技を連発。 リード・ヴォーカルはケイレス。

Growing」(5:01) エフェクトににじむギター・リフ、機敏に動くベースなどが立体感を生む、初期 YES 風の軽快なロックンロール。 スタカートで打ち込むベース、オブリガートでサラリと浮かび上がるギター、キラキラときらめくピアノがヴォーカルを取り巻く。 最後のかけあいがカッコいいと思っているうちに、ストリングスがだんだんと盛り上がってくる。 最後はほとんどベースとストリングスのかけあいとなっている。 スピードと切れがありなおかつ親しみやすい。 ベースが存在をアピール。 リード・ヴォーカルはジプシー・ジョーンズ。

Hard Road」(3:55) 管楽器、弦楽アンサンブルをぜいたくに配したジャズ・タッチのブリット・ポップ。 ポール・マッカートニーや ELO を思わせるリッチなサウンドである。 ホルン、ピアノによるオープニングは、ほとんど CHICAGO。 後半は、ややラテン風のにぎやかな演奏から、エレクトリック・トランペットとギターのジャジーなかけあいへと発展する。 ファンクなトランペットはまるでマイルス・デイヴィス。 ヴォーカルはケイレス。 小曲だが存在感あり。

Jonesy」(11:40) 即興風の大作。 オープニングこそ美しいストリングスの調べが響きわたるが、以後はギター、ホーンらも交えた混沌としたインプロヴィゼーションが続く。 ワウ、ディレイなどエフェクトや編集・効果を駆使。 7 分辺りからは、世界が歪んだような不気味な定位を用いる。 ホーンはやはりマイルス風。 ギターは、一貫して無茶弾き風の早業。 ストリングス、メロトロンも即興演奏の一員である。 ゲストのエレクトリック・サックスが、CRIMSON にも迫るイメージを与える。 エンディング、ダメを押すように美しいストリングスが高まり去ってゆくと、一体何を聴いていたのか、すべては幻覚だったのでは、と自分の記憶に自信がなくなる。


  ファンキーなジャズロック作品と片付けるには、あまりに破天荒でサイケな内容の佳作。 極端に電気化したホーン、うるさいハードロック・ギター、豪快なリズム・セクションそして場違い過ぎてあっけにとられる弦楽、メロトロン。 枝葉を除けばかなりポップであろう楽曲を、ゴテゴテした電飾で徹底的に飾りつけながらも、悪趣味を越えた迫力を生み出している。 KING CRIMSON に迫ろうとした勢いあまり、電化マイルスへと突っ込んでしまったのかもしれない。 それでも英国情趣をしっかりと漂わせているから凄い。 弦楽奏は限りなく美しいのだ。 なにより、迷いがなく逞しい演奏が魅力の名作でしょう。 英国ロックの雑食性に惹かれる方にはお薦め。

(DNLS 3055 / SRMC 1032)

 Sudden Prayers Make God Jump
John Evan-Jones guitars, keyboards, vocals
Bernard Hagley electric saxes
Gypsy Jones bass, vocals, keyboards, violin
David Potts drums, percussion
Ken Elliot keyboards

  2003 年発表の「Sudden Prayers Make God Jump」。 1974 年に録音するもお蔵入りになりマスターテープも消失した幻の第四作を、ジョン・ジョーンズ所有のカセットテープからサルベージした作品である。 音質は正規盤のレベルにないが、第二作の作風に近いハイテンションでエキセントリックなプログレ・サウンドの魅力は十分に味わえる。 キャッチーなブリティッシュ・ロックを、エレクトリック・サックスとギターのユニゾンによるパンチのあるリフ、尖ったエレクトリック・キーボード・サウンド(名手ケン・エリオット!)、木枯らしのようなメロトロンで過激に歪ませている。 野卑なイメージのサウンドの中にあって電気処理されたリード・ヴォーカルが全体の狂気にさらなる拍車をかける。 そして、唐突過ぎる弾き語りパートでは底なしの哀愁をかきたてる。 とにかく強引さがいい。 エリオットのシンセサイザー・サウンドには 70 年代後半を意識したような新しさもある。 心を病んだ主人公の軌跡を描いた、いかにもこのバンドらしいトータル・アルバムになっている。 感電しそうなジンジンの A 面に対し、魂を救うかのように優しい B 面のポップ・ソングには、THE MOODY BLUES から初期 YES のような英国ロックの良心とウィットが満ちている。 2011 年現在、ジャケット違いで流通しているようだ。 タイトルは「いきなり祈っても神様がビックリするだけだ」という意味でしょうか。 何にせよ、オクラ入りはあんまりな傑作。

Dark Room」(8:20)
Running」(4:31)
Bad Dreams」(5:54)
The Lights Have Changed」(6:01)
Old Gentleman's Relief」(6:09)このセンス、すごいです。
Anthem」(4:39)

(NWRCD 01)


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