アメリカのジャズロック・グループ「DIXIE DREGS」。 75 年結成。グループ名は「南部のクズ」の意。 82 年まで活動。 その後、リーダーのモースのソロ活動を経て、92 年にスティーヴ・モース・バンドにジェリー・グッドマンを加えて復活。 プログレ、ハードロック、フュージョン、サザン・ロックと何でもありのハイテク・ロックであり、陽気でカッコよくセンス抜群という、「理想の彼氏」のようなサウンドだ。
Rod Morgenstein | drums, percussion |
Andy West | bass, fretless bass |
Allen Sloan | electric violin, viola, strings |
Steve Morse | guitar, guitar synthesizer, banjo |
Steve Davidowski | synthesizer, keyboards |
77 年発表のアルバム「Freefall」。
内容は、ヴァイオリンをフィーチュアした流麗なるジャズロック。
フィドル風のプレイによる自然なカントリー・テイストを基調にした作風である。
なにより、まずははち切れそうな勢いのよさ、スリリングなスピード感を楽しむべき作品だろう。
とはいえ、ノリノリの曲調にのせて、エレクトリックなサウンド面やリズム面を洗練し、また、エキゾティックな要素の盛り込むなどさまざまな試みが行われている。
トラディショナルな米国南部風の音楽を現代的なサウンドと音楽手法でリヴァイスしているといういい方もできそうだ。
ギターの名手スティーヴ・モーズもバンジョーを手にしたり、ホンキートンク調のピアノが現れるなど、米国らしさの演出はかなり意識的に行われているようだ。
テクニックももちろんだが、それ以上に、難しいことをあっけらかんとメロディアスで聴きやすい曲に放り込んでしまうセンスに敬服。
何でも取り込む器用さと雑食のタフさはハンパではない。
ジャズとロックの硬直を解きほぐしたクロスオーヴァーをさらに痛快でカッコいい「フュージョン」へと導いた作品の一つだ。
大学の学生バンドがそのままプロ・デビューを飾ってしまうという夢物語を体現したグループでもある。
全曲インストゥルメンタル。
プロデュースは、スチュアート・レヴァイン。メジャー・デビュー作である本アルバムの前に「The Great Spectacular」(75 年)が自主製作されている。
「Free Fall」(4:41)
「Holiday」(4:26)
「Hand Jig」(3:18)LARSEN FEITON BAND を思わせるカリフォルニア・テイスト。
「Moe Down」(3:49)「イナカから出てきまスた」。
「Refried Funky Chicken」(3:17)リズムに注目。
「Sleep」(1:54)
「Cruise Control」(6:15)痛快超絶ソロ廻し。
「Cosmopolitan Traveler」(3:02)
「Dig The Ditch」(3:52)
「Wages Of Weirdness」(3:46)
「Northern Lights」(3:14)ガット・ギターとヴァイオリンによるクラシカルなデュオ。
(POCP 2389)
Steve Morse | guitar |
Andy West | bass, fretless bass |
Rod Morgenstein | drums, vocals on 5 |
Mark Parrish | keyboards |
Allen Sloan | strings |
78 年発表のアルバム「What If」。
文句なく DREGS の最高傑作。
その内容は、フュージョン、ハードロック、カントリー、クラシック、なんでもありのメリケン・プログレッシヴ・ロックである。
MAHAVISHNU ORCHESTRA への挑戦状のようなヴァイオリン入りジャズロックから出発して、ついに、アメリカンな無邪気さと超絶テクニックを活かした無敵のテクニカル・ロックの最高峰を極めた。
驚くべきは、ヴァイオリンとギターのユニゾン/ハーモニーを軸にしたハードロックとフュージョンの華麗なるブレンドに、あたかも P.F.M を思わせる、エレガントな叙情性を持ち込んでいるところである。
スティーヴ・モースのギター・プレイに象徴されるライトでアーシーなアメリカ感覚と、ヨーロピアンなデリカシーが共存する、まさにマジックのような「フュージョン」である。
深刻さとはまず無縁なはずなのに、どこかにほのかな哀感が漂っているところもすごい。
これは、まさにアメリカン・プログレを見直す絶好の機会でしょう。
ちなみに、アメリカで編集したプログレッシヴ・ロック・オムニバスのようなアルバムには、「21世紀の精神異常者」や「シベリアン・カートゥル」と並んで、本作の「Odyssey」や「Ice Cakes」が選ばれるようです。
それにしても、70 年代後半にすでに 90 年代を見越したようなテクニカル・フュージョンを創造していたとは、恐れ入る。
キーボーディストも、おそらくかなりプログレ好きの人であり、ハモンド・オルガン、ムーグの変拍子リフをバンバン使ってくる。
また、モースのクラシック・ギターは、本職である SKY のジョン・ウィリアムスを除けば、この界隈ではダントツ。
ハードロックとフュージョンにカントリー・フレイヴァーをまぶしたサウンドでハイテク・アンサンブルが縦横無尽に駆け巡る、痛快そのもののジャズロックである。
緊密なインタープレイと超絶ソロに重点のあった従来のジャズロックを、ハードロック特有のコミック・ブック的ユーモア感覚でもってブレークスルーした、といってもいいだろう。
もしくは、HR/HM から MAHAVISHNU ORCHESTRA や RETURN TO FOREVER までカヴァーする究極の器用貧乏ロック。
プロデュースは、もちろんケン・スコット。
「Take It Off The Top」(4:07)
ノリノリの無駄にうまいハードロック。この曲で止めてはいけません。インストゥルメンタル。
「Odyssey」(7:34)ヴァイオリンをフィーチュアし、変拍子を駆使しながら、キレのいい演奏とリリカルな演奏をせわしなく変転する、テクニック誇示型シンフォニック・ハード・ジャズロック。
エレガントなヴァイオリンと典型的なテクニカル・フュージョンの合体はおろか、BANCO、GENTLE GIANT 調の超速ギクシャク・アンサンブルもあり。
KANSAS を数倍ハイテクにしたイメージもある。
本作品をもって第一線に踊り出られなかったのは、カテゴリ分けが不能であったこと以上に、「あまりに弁舌巧みな人には誠実さが感じられない」という深遠な問題をはらんでいたせいだろう。
NATHAN MAHL によく似ている。
「What If」(5:03) ARTI+MESTIERI を思わせる豊麗な作品。
ただし、ギターの存在感は別格的。ヴェネゴーニもかなりの達人だか、モーズはその上をいっている。
ヴァイオリンを中心とした叙情的な歌い回しがいい。こういう感じの音、懐かしいですね。
「Travel Tunes」(4:36)
ユーモラスで素朴な中に、やや民族がかった味わいも現れる舞曲調ジャズロック。
脳天気だがアメリカンというよりは、ヨーロッパの味わいがある。
8+7 拍子に目が回る。
後半のロケンローは、1 曲目と同じで無駄に贅沢。
ライト・ディストーション・トーンのギターの和音がなんとも美しい。
こういうコード・カッティングは憧れである。
リズムの重たさは独特だ。
「Ice cakes」(4:38)
本作の水準の中で見ると、わりと普通のフュージョン。
ただし、シンコペーションを駆使するノリとキレのあるリズムは圧巻。
ヴァイオリンを適用して生まれるしなやかさとミュートしたギター・プレイのスタカートがいい感じで混ざり合い、ファンキーかつ優美という、フュージョン本来の魅力を素直に伝えている。
ベースのスラップがきれいだ。
「Little Kids」(2:03)こういうみごとなクラシックのセンスが P.F.M を思わせる所以か。
ヴァイオリンとアコースティック・ギターによる典雅なデュオ。
スカルラッティ、ヘンデル辺りでしょうか。
「Gina Lola Breakdown」(4:00)
カントリー・フレイヴァーあふれる C&W チューン。
バンジョーにフィドルというベタベタな展開が微笑ましい。
お母さんの世代(いつごろですかね)は、新宿の歌声喫茶や日劇が懐かしくなるはず。
「Night Meets Light」(8:00)ややカマトト風の大作。ピースフル。
優しげな風情は、リズムを強調し過ぎないためだろう。
もちろん多彩な変拍子。
(CAPRICORN 314 536 359-2)
Steve Morse | guitars |
Andy West | bass |
Allen Sloan | strings |
Mark Parrish | keyboards |
Rod Morgenstein | percussion |
79 年発表のアルバム「Night Of The Living Dregs」。
LP A 面はスタジオ録音、B 面は、1978 年モントルー・ジャズ・フェスティバルでのライヴ録音という構成。
メンバーは変わらず、内容的にも前作の踏襲。
鼻血が出るほど技巧的でありながら(2 曲目のようなリズムの鮮やかなキメは只事ではない)、ヘルシーで溌剌とした躍動感が全身鳥肌もののスリルを上回るというインストゥルメンタル・ロックである。
安定感といってしまうと若さがないようなイメージを生んでしまうが、そんなことはない。
若々しいまま抜群のバランスを保った演奏なのだ。
これだけ弾けるならもっと大曲(音楽的に込み入った曲という意味)にチャレンジしてもいいのでは、という意見もあるやもしれないが、エンタテインメントとしてはこれでいいんじゃないのぉ?という笑顔にヤられちゃうでしょう。
若さに任せたヒネクレやシニシズム、挑戦的なスタンスがまったくないロックなんてものがあるはずがない、と思っていたがここにあった。
これだけ軽やかに弾けて脳天気馬鹿フュージョンにしないセンスを見習うべきバンドは多い。
アメリカン・ルーツを趣味のいいカントリー・フレイヴァー、ブルーグラス調でみごとにまとめるのみならず、アコースティック、クラシカルな味わいも散りばめられている。
アメリカの P.F.M というイメージがさらに強まっていると思う。
アルバム・タイトルは、もちろん有名なゾンビ映画から。アメリカ人だなあ。
全曲インストゥルメンタル。
プロデュースは、ケン・スコット。
「Punk Sandwitch」(3:18)得意技中の得意技、爽やかさ満載の痛快ジャズロケンロー。
ギターのコードの音がたいへんいい。脳天突き抜けるギターのテーマとキレキレのソロ廻し。表と裏を一人で弾き倒すモースがとても楽しそうだ。軽やかでクランチなステップのようなシンセサイザー・ソロ、オルガンの音もいい。
「Country House Shuffle」(4:13)カール・パーマーが突然腕を上げたようなドラミングに導かれるスーパー・テクニカル・ロカビリー。
ゴージャスでグルーヴィなフュージョンだが、演奏のキレとアタックが強力過ぎてそう聴こえない。
テーマはヴァイオリンがリード。はち切れそうなユニゾンに失禁しそう。
オブリガートなどシンセサイザーが多彩。
「The Riff Raff」(3:17)ヴァイオリン、アコースティック・ギターによるクラシカルなデュオ。
ふと GENTLE GIANT の「Isn't It Quiet And Cold」を思い出した。
楽器が呼吸するとテンポの揺れがこんなにナチュラルになる。
「Long Slow Distance」(6:45)タイトルの頭文字はナンだが、アコースティックな豊かさのあるアーバン・メロー・チューン。
「Night Of The Living Dregs」(4:21)フュージョンではまったくないテクニカル高級ロック。華やかにしてスリリング、精緻にして脳天気。これでライヴですからね。
「The Bash」(4:28)ショーマンシップあふれる超絶カントリー。
「Leprechaun Promenade」(3:46)口直し風のファンタジックでエレガントなヴァイオリン・フュージョン。後半少しダークな面持ちも見せる。というかプログレだ、これ。
「Patchwork」(4:53)タイトルからして即興、ジャムだろうか。伸び伸びと開放的なカントリー・変拍子ジャズロック。
(CAPRICORN 314 536 359-2)
Steve Morse | guitar |
Jerry Goodman | violin |
Rod Morgenstein | drums, percussion |
T Lavitz | keyboards |
Dave Larue | electric bass |
94 年発表のアルバム「Full Circle」。
ヴァイオリンに MAHAVISHNU ORCHESTRA のオリジナル・メンバーであるジェリー・グッドマンを迎えた、新生 DREGS の作品である。
その内容は、想像とおり、ハードロックとフュージョンをいっしょにしたゴキゲンなインスト・ロック。
モースのギターとグッドマンのヴァイオリンをフィーチュアした技巧的なアンサンブルにもかかわらず、現われてくる音楽に小難しい感じは一切なし。
痛快なリフを中心に全員で繰り広げる伸び伸びとした演奏には、音楽を心底エンジョイするようなリラックスした雰囲気が、そこかしこにある。
その余裕あるスタンスが、本作の特徴だろう。
スリリングなジャズロックとラウドで豪快なヘヴィ・メタルの中間をいくようなサウンドは、きわめて現代的であり、なおかつアメリカン・ミュージックの伝統を感じさせるところもある。
この音を、ほぼ 20 年前に予見していたのだから、驚きである。
また、ハモンド・オルガンからシンセサイザーまで多彩な音で、主役のギターをサポートするキーボーディストのセンスもいい。
70 年代の作品と比べて、軽やかさを失わないまま音がさらに豊かになっているように感じるのは、録音技術の進歩だけではなく、キャリアのなせる技だろう。
とにもかくにも、時代を超えて楽しめる好作品だ。
プロデュースはスティーヴ・モース。
「Aftershock」(3:42)
スティーヴ・モーズらしい上品なハードロック・フュージョンの名品。
あまりにシンプルなリズムと明快なバッキングはいかにも今様フュージョン。
しかし、シンプルな分、サスティンを効かせたレガートなプレイに余裕と安定感が際立つ。
このグループの音は、本当に TOTO 以降のハイテク・ロックのものですね。
「Perpetual Reality」(5:31)
ややハードポップ寄りのゴージャスなハード・フュージョン。
アコースティック・ピアノによるロマンティックなブリッジが印象的。
ギターのパワーコード・リフ(これがなければパット・メセニーに聴こえなくもない)の後ろで控えるさりげないヴァイオリンのテーマ、キーボードのバッキング、オブリガートもいい。
「Calcutta」(5:26)
メロディアスな中にさまざまなしかけを盛り込んだプログレ・フュージョン・チューン。
リズムを強調したメカニカルで挑戦的な序盤を経て、3 拍子系の舞曲調を活かしたギター(最初のフォーク風のテーマは右手奏法ですかね)、キーボード、ヴァイオリンらのスリリングなユニゾンが、つややかでなめらかなようでいて引っかかりのあるアンサンブルを成す。
表拍と裏拍のアクセント切り替え、2 拍子と 3 拍子の交錯を巧みに利用した緊張とエレガントな弛緩のコントラストがみごと。
クラシカルなテーマ、中盤のベースとホィッスル系シンセサイザーなど、さりげなくも技巧的なプレイが散りばめられ見所は多い。
技巧的にしてお洒落な DREGS の面目躍如たる名曲でしょう。プログレです。
「Goin' To Town」(3:37)
アップテンポのスウィンギーなロカビリー・チューン。
クラヴィネット、ギターらがリズミカルに走り、遊び心あふれるフィドル、ピアノが追いかける。
「Pompous Circumstances」(3:21)
流れるようにメロディアスなヴァイオリン、チェンバロらによるクラシック・テイストあふれるポップ・アンサンブル。
アクセントは「熊蜂」のように爆発的な速弾きギター。
ジャジーでクラシカルなポップ・チューンということで思い当たるのは、P.F.M。よく似てます。
「Shapes Of Things」(3:46)
THE YARDBIRDS、JEFF BECK GROUP の名曲のカヴァー。
伸び伸びとした明朗な演奏。
「Sleeveless In Seattle」(4:05)
華麗にして神秘的な作品。ほんのりオリエンタル。タイトルは変だが内容はプログレ。
「Good Intentions」(3:58)
テクニカルなプレイ満載のジャズロック。
ミドル・テンポに微妙な揺らぎをつけつつ、刺激的なソロをつないでゆく。
ここまでで一番シンセサイザーのプレイが目立つ。
「Yeolde」(2:17)フランコ「Jetlag」ムッシーダばりの地中海なエレアコ・ギター・ソロ。
「Ionized」(4:00)ヴァイオリンとギターのユニゾン、ソロが冴えるグルーヴィなジャズロックンロール。
個人的にはこういう曲のバッキングがオルガンなのがうれしい。
(2-42021)
Steve Morse | guitar, synthesizer |
Rod Morgenstein | drums, synthesizer |
Jerry Peek | bass |
guest: | |
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T Lavitz | piano on 7 |
Albert Lee | guitar on 2 |
84 年発表のファースト・ソロ・アルバム「The Introduction」。
THE DREGS 解散を経て制作された作品。
ストレートでラウドなギターがハードロックにジャズにブルースにと縦横無尽に駆け巡る。
かと思えばアコースティックな歌心も感じさせる。
快作だろう。
ユニークなギター・プレイは全開であり、ヘヴィなサウンドにもかかわらず、フュージョン的なしなやかさと爽快感をもたらしている。
そして旧友モーゲンシュタインが安定したハードロック・ドラムスをプレイし、新人ベーシストのジェリー・ピークもすばらしいテクニックを見せる。
三人の披露する音楽は、ヘヴィ・メタルとジャズそして奔放なロックンロールを融合したアメリカ的なサウンドの集大成といえる。
冴えたプレイをコンパクトにまとめるスタイルもいい。
大音量で、できれば車でぶっ飛ばしながら聴くと最高ではないでしょうか。
このソロ活動は、後年の DIXIE DREGS 再編へのメンバー集めとも解釈できる。
プロデュースはスティ−ヴ・モース。
「Cruise Missle」(5:32)
「General Lee」(3:19)
「The Introduction」(2:50)
「V.H.F」(4:21)
「On The Pipe」(4:46)
「The Whistle」(2:13)
「Mountain Waltz」(4:24)
「Huron River Blues」(6:18)
(960369-2)