アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「FIREBALLET」。 71 年結成。 76 年解散。 作品は二枚。 アメリカのグループにもかかわらず、日本人の憧れる「クラシカルなヨーロッパ風味」がある。 これは、数多の英国プログレ・グループの影響を強く受けたためだろう。
Jim Cuomo | lead vocals, drums, timpani, xylophone, vibes, glockenspiel, Chinese bell, treegongs, finger symbals, tubular bells, triangle |
Bryan Howe | Hammond organ, pipe organ, celeste, vocals |
Ryche Chlanda | electric & acoustic guitars, devices, vocals |
Frank Petto | electric & acoustic piano, ARP 2600 synth, Mellotron, electric string, Oberheim DS-2 sequencer, vocals |
Martyn Biglin | bass, 12-string guitar |
guest: | |
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Ian Mcdonald | sax on 1 5, flute on 4,5 |
75 年発表の第一作「Night On Bold Mountain」。
イアン・マクドナルドをプロデュースに迎えた本作は、クラシックの主題の応用やキーボードを軸とした精緻なアンサンブルが、いかにもプログレッシヴ・ロックらしい好作品。
ツイン・キーボードと丹念なギターを活かしたポリフォニックなアンサンブルと多彩な打楽器、アメリカのグループらしからぬ全体的に繊細な音遣いが特徴だ。
英国の著名グループをよく研究したに違いない。
ヴォーカル、ギター・プレイ、走り気味のアンサンブルは、三割 YES、七割 GENESIS といった感じ。
ただし、センスのよいテーマ(まんま引用だったりするが)を提示するシンセサイザー、ギターを中心とするアンサンブルを多彩なパーカッション類(この打楽器奏者がリード・ヴォーカル)でピリっと引き締める演出は、オリジナリティのあるものだ。
YES をやや平板にしたコーラスは、みんなが寄せたがるゲイブリエル風になり過ぎない工夫としては、十分なでき映えだろう。
一方、テクニカルなプレイを詰め込むところや、うわずりきみのメロディ・ラインは、微笑ましき「アメリカのグループらしさ」である。
またクラシックや英国ロックの名曲を積極的に用いて換骨奪胎、なかなかうまく曲に活かしている。
ハイライトは、ムソルグスキーをモチーフにした大作だろう。
全体に強烈にアピールするところはないが、バランスがよく聴きやすい曲が揃った作品といえる。
アメリカのグループにありがちな、あり余るテクニックを演奏だけに注ぎ込み肝心の楽曲が面白くない作品ではなく、思い込みとコンセプトは凄まじいのだが演奏が追いつかない作品でもない、いい位置にいる作品である。
あまりにどこかで聴いたメロディが多く妙な気持ちになることさえ乗り越えられれば、楽しい内容です。
LP はサンスイの STEREO-QUAD による 4 チャネル仕様。
「Le Cathèdrals」(10:16)ナレーションを交え、刻々と場面が変化するオムニバス風の作品。
シンセサイザーが演奏をリードしている。
序盤のシンセサイザーのテーマがジョン・バリーの「007 は二度死ぬ」に似ている。
また、最初のヴォーカル・パートの勇ましいテーマは VdGG の「Theme One」に似る。
中盤には、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」のテーマが現われる。
その後のヴォーカル・パートは、歌唱法がピーター・ゲイブリエルに酷似しており、緩急つけた劇的な演奏スタイルも GENESIS によく似ている。
オムニバス風の曲構成といい、おそらく「Supper's Ready」を狙ったのだろう。
序盤のサックスは、おそらくイアン・マクドナルド。
「Centurion(Tales Of Fireball Kids)」(4:46)
ギター、シンセサイザーによる勇壮なテーマで勢いよく進む EL&P 風クラシカル・シンフォニー。
ハモンド・オルガン、シンセサイザーが軽快なテンポながらもアグレッシヴに進む。
ヴォーカルもうってかわってプログレハード調であり、コーラスは YES 風。
間奏部、細かいドラミング、マリンバとともにアナログ・シンセサイザーが攻めたてる演奏は、完全に EL&P スタイルだが、ギターだけは粘っこいハケット調で異彩を放つ。
頻繁な拍子/テンポの変化とクラシカルなテーマが、いかにもプログレ調で微笑ましい。
エンディングは、ジョン・ウィリアムス調から「聖地エルサレム」へ。
FIREBALL KIDS は元々のグループ名。
「The Fireballet」(5:15)
エレクトリック・キーボードをフィーチュアしたクラシカル・チューン。
ギターのテーマにシンセサイザーが応じるシンフォニックなオープニング。
メイン・パートは再び YES 流のヴォーカル・ハーモニー。
小刻みにロールするドラミングがあおる GENESIS 的な忙しない変拍子アンサンブルとメローなコーラスが交錯するところでは、緩急入り乱れてイタリアン・ロックのフィーリングも現れる。
ハモンド、ギター、ベース、管楽器シンセサイザーらによる遁走曲風の絡みは、完全にバロック管弦楽の再現である。
この電子音のリードによる演奏は、おそらく有名なクラシック作品からの引用なのだろう。
エピローグを導くようなアコースティック・ピアノの演奏がいい。
前曲よりも典雅でロマンティックなクラシカル・ロックである。
「Atmospheres」(3:40)
GENESIS の夢想的で叙情詩的な面を抽出したような小曲。
12 弦をシミュレートしたエフェクト・ギターのアルペジオ、ピアノ、ベースのアンサンブルなど、初期 GENESIS そのもの。
究めつけはマクドナルドがプレイする夢見るようなフルート。
これだけは、ゲイブリエルよりもラティマーよりもうまい。
ジミー・ヘイスティングスに迫るプレイである。
美しく心洗われる小品。
「Night On Bald Mountain」(18:55)
ご存知ムソルグスキーによるスラヴ風味たっぷりの名曲。
幻想的なムードを大事にして、ていねいに綴られた傑作である。
クラシックの翻案としては屈指のでき映えだろう。
「Night On Bald Mountain」主題。
「Night-Tale」「Tarkus」の「Battlefield」に似たテーマをもつヴォーカル・パート。
「The Engulfed Cathedrale」メローなサックスから EL&P 風の邪悪なアンサンブルを経てファンタジックなキーボード・アンサンブルへ。
シンセサイザーによる攻撃的な演奏はプログレらしさ満点。
静寂を経て荘厳なパイプ・オルガンへとドラマチックに進む。
アルバムのハイライトといえるすばらしい作品だ。
「Night-Tale(Reprise)」CRIMSON の「Letters」風のイントロから始まるリプライズ。
「Night On Bald Mountain(Finale)」ゆったりとした幻想的な調子からパイプ・オルガンが鳴り響き、リリカルなシンセサイザー・ソロへと流れ込む終曲。
(PASSPORT PPSD-98010)
Spike Biglin | bass, bass pedal |
Ryche Chlanda | guitars, chimes, zitter, 3 string mandolin |
Jim Cuomo | drums, vibes, xylophone, marimba, gongs, glockenspiel, belltree, temple blocks, cup gongs, triangle, wood blocks, tubular bells |
tympani, tambourine, lead vocals, sleigh bells, hand cymbals, clavinet,Polymoog | |
Bryan Howe | organ, saxes, synthesizer, recorder, Polymoog, RMI Rock-si-chord, vocals, pipe organ (West Orange Continental Cathedral organ) |
Frank Petto | electric piano, accordion, autoharp, synthesizer, Polymoog, backing vocals, Pettotron |
guest: | |
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John Zangrando | woodwinds on 2 |
Brian Cuomo | harpsichord on 2, 3 |
76 年発表の第二作「Two, Too」。
ジャケットでしり込みされること間違いないが、アメリカン・ロックらしいライトな感覚と管弦楽も交えた多彩なサウンドがマッチした佳曲が揃った好アルバムである。
ポップでやや調子ッパズレのファルセット・ハーモニー(とぼけた YES もしくは GENTLE GIANT 風)に華やかなストリングスが彩を添え、レガートに悠々と歌い上げるところと、音を詰め込んだ小気味のいいアンサンブル(パーカッションが目立つ)が弾けるところが、自然な流れの中に配置されている。
したがって、冒頭からあれよあれよという間に、独特の世界へと吸い込まれてしまう。
クラシカルでシンフォニックではあるが悠然と構えるのではなく、リズミカルに刻みまくる演奏スタイルであり、本来ゆったり懐の深い管弦楽ですら、終始目まぐるしい動きでパーカッシヴなバンドの演奏に追従してゆく。
そして、ストリングスが流麗な響きで演奏を彩るにもかかわらず、無調の旋律や強迫的な反復や打楽器の強調などからアブストラクトでアヴァンギャルドなイメージがしみ出ている。
この忙しい楽曲スタイルは、一つには、ドラマーがメイン・コンポーザーということに拠るのだろうし、マドリガル風の多声ハーモニーも合わせて考えれば、GENTLE GIANT の直接的な影響なのだろう。
一部ではスリリングな映画音楽を思わせるとこもある。
YES、GENTLE GIANT 影響下とくると、同時期の同じアメリカに YEZDA URFA がいるわけだが、こちらは王道ポップス寄りで線が細くカントリー風味はまったくない。
かようにオリジナルな雰囲気があるという意味で、プログレ・パッチワークのような第一作よりも、内容は優れていると思う。
STAR CASTLE や KANSAS ほどは洗練されていない(楽曲の難解さの払底にはさほど興味がないのだろう)が、アメリカン・プログレの代表作の一つであるのは間違いない。
本家 YES の不在時だっただけに重宝された作品ではないだろうか。
プロデュースはスティーヴン・ガルファス。
最終曲のストリングス・アレンジは、なんとあのエミウル・デオダード。
「Great Expectations」(4:30)プログレ・ハード、産業ロックの佳作。
タイトルはディケンズの「大いなる遺産」より。
「Chinatown Boulevards」(6:42)GENTLE GIANT 風の小刻みな反復ときりきり舞いするような変転が特徴的な作品。
キーボードを駆使した複雑なアンサンブルがスリリング。
バルトークあたりの中華風味を生かした管弦がいい感じだ。
ジャジーなハーモニーも ELO 風で堂に入っている。
「It's About Time」(6:12)ストリングスを活かして YES に酷似した調子で軽やかに飛翔する佳曲。
最後はベートーベンの交響曲第九番の四楽章のテーマが高鳴る。
「Desiree」(2:45)ポップ・グループ LEFT BANKE の名作のカヴァー。やや埋め草風。
「Flash」(5:11)ロマンティックでジェントルなヴォーカル・パートをコケオドシ風のルーニーな器楽が断ち切る。
「Carrollon」(6:00)巻きすぎたゼンマイが凄まじい勢いで弾けるような、徹底してけたたましくせわしない作品。
いわば、倍密 YES である。
しかし、これだけ突っ走りながらも、どこか吹っ切れない感じも。
「荒野の七人」に似たテーマが現れる。
たしか本家も、初期に「大いなる西部」を取り入れてましたっけ。そこまで寄せるか。
一瞬「Yours Is No Disgrace 」もファンの耳を逃れられないであろう。
エンディングのクラシカルな展開がいい。
「Montage En Filigree」(4:49)ストリングス、ヴォカリーズ、チャーチ・オルガンがゆったりと流れる映画音楽風の美しい終曲。
前曲までとの落差に驚き。
五年早かったニューエイジ・ミュージックという趣も。
(PASSPORT PPSD-98016)