イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「BEGGARS OPERA」。 60 年代中盤、グラスゴーにて結成。 作品は六枚。 グループ名は 18 世紀の詩人ジョン・ゲイによる戯曲「乞食オペラ」から。 ヘヴィなギターとオルガンをフィーチュアしたクラシカル・ロック。 二作目以降にハードさとリリシズムの均整の取れた曲が多くなる。
Martin Griffiths | lead vocals |
Alan Park | organ, piano |
Ricky Gardiner | lead guitar, vocals |
Gordon Sellar | bass, acoustic guitar, vocals |
Ray Willson | drums |
70 年発表の第一作「Act One」。
クラシックのテーマを拝借した大胆なアレンジに吃驚仰天のデビュー作。
スッペの序曲をそのまんま弾き倒す曲から、トルコ行進曲、トッカータとフーガ、ウィリアムテル序曲、ペールギュントを快速メドレーする曲まで、クラシックをバンドで演ったらこうなっちゃいましたとアッケラカンとした開き直った、なんとも微笑ましい内容である。
名曲を痛快に弾き飛ばすオルガンとひたすらシャフルでテンポを上げるリズム・セクションとハードロック系のギターが繰り広げる演奏には、たしかに「キワモノ」的なニュアンスもあるのだが、同時に DEEP PURPLE のように堂々とした天下一品の押しの強さもある。
尖り具合こそ THE NICE に一歩譲るも、英国ロックらしいまろやかでロマンティックな翳りでは負けていない。
オルガンのプレイは、アイデアの奇抜さや音楽性の幅広さという点ではキース・エマーソンには敵わないが、安定した技巧のパフォーマンスを提供している。
他のニューロックとの差別化のためにクラシックの名曲を叩き込んだインパクトでリスナーの注意を惹きつけようした作戦はアタリといえそうだ。
しかし真の魅力は、そういうケレン味ではなく、渋味あるハードロック調やソウルフルなヴォーカルといったオーソドックスなファクターにある。
ひょっとするとここまで大袈裟な衣装を纏うアレンジをせずとも勝負できたかもしれない。
何にせよ、クラシックそのまんまをアハハと楽しんでいるうちに、ブリティッシュ・ロックの味わいがじわじわしみてくる佳作である。
そして内容以上に、マーカス・キーフによる「三文オペラ」のモダンな解釈のようなジャケットが強烈な印象を残す。
一部の作品で作曲に携わるヴァージニア・スコットとマーシャル・アースキンは、第二作からメンバーとなる。
結論、GRACIOUS らと同じく典型的な VERTIGO クラシカル・ロック。
「Poet And Peasant」(7:11)スッペの序曲から。
勢いのいい演奏にテーマが映える。
アレンジはグループ。
「Passacaglia」(7:04)スコット/アースキン作。
やはりどこかで聴いたような哀愁のテーマを軸としたクラシカル・ロック。
イコライザを効かせたヴォーカル、深いエコーをもつバロック調のオルガン、ギターとオルガンによるたたみかけるような 3 連フレーズを経て、初期の DEEP PURPLE を思わせるハードロックへと進んでゆく。
中盤はギターをヘヴィなフィーチュア。
オルガンが強引にクラシックヘと引き戻し、哀愁のメイン・ヴォーカルへ。
最後は華麗なるオルガンのカデンツァ。
「Memory」(3:56)スコット/アースキン作。
ヘヴィでパーカッシヴな THE NICE 風の演奏とキャッチーなメロディが交錯する。
CRESSIDA にも同じようなイメージの曲があった。
ハードロック風のギターも派手に登場し、短いわりには中身が濃い。
やはり DEEP PURPLE に追いつき追い越せといったイメージ。
「Raymonds Road」(11:49)グループ作。基本はクラシックのパワフルかつスピード感あるメドレー。ギター・アドリヴもたっぷりフィーチュアされる。ベースのシャフル刻みがきつそう。
「Light Cavalry」(11:55)スッペの序曲から。DEEP PURPLE はここから突き抜けて天下取ったのだなと再確認。
アレンジはグループ。
「Sarabande」ボーナス・トラック。
シングル A 面。
「Think」ボーナス・トラック。
シングル B 面。
(VERTIGO 6360 018 / REP 7041-WP)
Ricky Gardiner | lead guitar, vocals, acoustic guitar |
Martin Griffiths | lead vocals, cow bell |
Alan Park | organ, piano |
Gordon Sellar | bass, acoustic guitar, vocals |
Virginia Scott | Mellotron, vocals |
Ray Willson | percussion |
guest: | |
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Marshall Erskine | bass, flute on 5 |
71 年発表の第二作「Waters Of Change」。
内容は、憂いあるトラッド風のメロディ・ラインをメロトロン、オルガンが渋く守り立てる、ブリティッシュ・ロック。
クラシカルなキーボードとブルージーなギターをキャッチーなリフでまとめるスタイルには、PROCOL HARUM や DEEP PURPLE を思わせるところもある。
全体を貫くメランコリックな雰囲気は、この時代の英国ロックに特有のものなのだろう。
もちろん、くすんだ色合いのキャンバスにポップなアクセントをつけるセンスも冴えている。
3 曲目のような、ジャジーで R&B テイストたっぷりの作品の手際もみごとである。
最大の魅力は、シンプルなフレーズを効果的に積み重ねたクラシカルなアンサンブルと、グリフィスのソウルフルかつ品格あるヴォーカル、そして重厚なメロトロンだろう。
地味で古臭い上にぶっ飛んだ技巧も見当たらないが、野暮ったさ寸前のハードロック調と丁寧な語り口のアンサンブルには、えもいわれぬ魅力がある。
ズッシリ手応えあるナンバーを小さなインストゥルメンタルでつないだアルバム構成もよし。
リズム・セクションの弱さが、全体に安っぽさを与えているのだけが残念である。
イタリアン・ロックを聴くくらい守備範囲の広い方にはお薦めです。
いずれにしても、初期 KING CRIMSON に酷似したメロトロンにドキッとさせられる方は多いでしょう。
前作のクラシック・パクリ路線から大きく一歩踏み出した、重厚にして堂々たるブリティッシュ・プログレッシヴ・ロックの傑作といえるだろう。
「Time Machine」(8:06)まるで昔の貴族のような、古式ゆかしい気品と力強さのある作品。
メロディアスにして男性的な雄々しさのあるヴォーカル、意外なまでにキャッチーなテーマ、そして迫力のメロトロン・ストリングス。
終盤にはオルガンも見せ場を作る。
「Lament」(2:24)中世風のオルガン曲。マーチング・スネアが物静かに寄り添う。
「I've No Idea」(7:42)R&B テイストたっぷりのリズミカルでスリリングな作品。
ピアノが刻むリフと鳴り続けるオルガンなど、ポップでカッコいい 70 年代の音。
それでいて何気ない変拍子。
中盤に爆発的なオルガン・アドリヴがあり、頂点でメロトロン・ストリングスがクール・ダウン。。
いつまでも突っ走ってほしいと願いたくなるような作品だ。
「Nimbus」(3:43)アコースティック・ギターの静かなアルペジオをバックにアタックを消したまろやかなギターが流れてゆく幻想小編。
ティンパニのアクセントがクラシカル。
メロトロンもうっすらと響き、やや初期 GENESIS 風。
「Festival」(6:00)シャフル・ビートによるタランテラ風のノリノリ・ソング。
手拍子も入って P.F.M の「Celebration」のよう。(奇しくもタイトルも同じ)
中盤ではアメリカ西海岸風の爽やかさも顔をのぞかせる。
後半はギター、フルート、オルガンが快調にソロを取ってゆく。
フルート入り THE NICE か、オルガン・ヘヴィな JETHRO TULL かといった感じです。
「Silver Peacock(intro)」(1:15)オルガンによるファンファーレ、そして MC によるイントロダクション。
「Silver Peacock」(6:33)第一曲と同じく、力強くも品のあるヴォーカルがリードする、メロディアスにして重厚な作品。
クラシカルなオルガンを大々的にフィーチュアし、オルガンが前面に出るところは前作のイメージに近い。
「Impromptu」(1:08)アコースティック・ギター伴奏によるチェロの調べ。
ひたぶるにうら哀し。
「The Fox」(6:52)シンコペーションでなめらかな疾走感を演出する快速チューン。
ブレイクを使ってオルガンと奇妙なやりとりを見せる。
ほんのりクラシカルだが、全体の雰囲気は奇妙にゆがんでおり、一筋縄ではいかない内容である。
後半はヴォカリーズとギター、メロトロンで叙情的な世界をじっくりと描き、終盤はソウルフルに盛り上がる。
いくつもの雰囲気をごちゃごちゃに混ぜ込んだ作風は、いかにもこの時代のプログレッシヴなアプローチといえるだろう。
(VERTIGO 6360 054 / LICD 9.00724 O)
Martin Griffiths | lead vocals |
Alan Park | keyboards |
Ricky Gardiner | lead guitar, vocals |
Gordon Sellar | bass, acoustic guitar, vocals |
Ray Willson | drums |
72 年発表の第三作「Pathfinder」。
内容は、コーラスを活かすなど、前作をさらに歌もの寄りにして洗練したブリティッシュ・ロック。
メロトロンの専任メンバーが脱退したようだが、全体の雰囲気に大きな変化はない。
トラッド風の陰影のあるヴォーカルをハモンド・オルガンとブルーズ・テイストあるギターで支えるスタイルを基本に、さまざまな曲調へ挑戦している。
DEEP PURPLE に近いようでいて、ハードロックとはスピード、重量感、タメの効いたノリが若干異なり、やはりクラシカルなブリティッシュ・ロックというのが正しいようだ。
キーボードはメロトロンからピアノ、オルガンまで種類も多く、アンサンブルの中心的な位置を占めている。
単なるフレーズの流用にとどまらないクラシック素材の扱いが重厚さを演出しており、詩的で品のある空気を生んでいる。
それは名曲「MacArthur Park」のアレンジに顕著だ。
また、アコースティック・ギターのストロークの生み出すドライヴ感も、いかにもブリティッシュ・ロックらしい味わいだ。
前作と特に異なるのは、各パートのメリハリがつき、全体の音のバランスがよくなったことである。
もっともドラムスだけは、ティンパニ風、
ただ、いまだにドタドタした感じが抜けない。
そして、やや押し捲り感が強かったギター、オルガンがアンサンブルを活かしたプレイへと切りかえることによって、曲の性格がはっきりと分るようになっている。
チェンバロ、ピアノの音も新鮮であり、ヴォーカルも微妙な表情を使い分けている。
PROCOL HARUM のようなオーセンティックな雰囲気が感じられる作品だ。
「Hobo」(4:24)ブリティッシュ・ロックらしいセンチメンタルな佳曲。
ピアノとドラムスによる力強いビート感が印象的。
終盤の巻き舌で見得を切るようなオルガンもカッコいい。
hobo はアメリカの渡り鳥の労働者のこと。映画ファンはリー・マービンとアーネスト・ボーグナインを思い出すだろう。
「MacArthur Park」(8:19)チェンバロを用いたイントロからオルガンでたたみかけて、悠然たるメイン・パートへと雪崩れ込むカッコよさ。
メロディアスなヴォーカルによる雄々しさ、悠然たる風格とキーボードを活かしたスリリングなインストの対比がみごと。
歌唱力を見せつけるための格好の作品であり、リチャード・ハリス、ドナ・サマーら多くのアーティストが取り上げた。
「The Witch」(6:02)野太いビートとクランチなオルガンによるリフに支えられてヴォーカル・ハーモニーが伸びやかに歌う。
派手なギター・ソロもフィーチュアされており、キャッチーなハードロックといって抵抗のない内容だ。
「Pathfinder」(3:42)メランコリックな歌をベタベタのシャフル・ビートとラウドなワウ・ギターが支える。
ここでもヴォーカル・ハーモニーが爽やかだ。
「From Shark To Haggies」(6:40)フィドルを思わせるギターをフィーチュアしたカントリー&ウェスタン調のナンバー。
「Stretcher」(4:48)ピアノ、スライド・ギターのハーモニーをフィーチュアしたインストゥルメンタル。
雄大な広がりがある。
「Madame Doubtfire」(4:21)ウェスタン調の勇ましい作品。
ツイン・ヴォーカルを活かした芝居ッ気たっぷりの作品である。
最後にサイケデリックな爆発もあり。
(VERTIGO 6360 073 / IMS 7028)