アルゼンチンのプログレッシヴ・ロック・グループ「ANACRUSA」。 72 年結成。作品はアーカイヴ含め八枚。 フォルクローレとクラシック、ラウンジ・ジャズをクロスオーヴァーさせた作風を貫く現役グループ。
Susana Lago | vocals, piano, organ |
Julio Pardo | flute, clarinet |
Ruben Izaurralde | flute, vocals |
Alex Oliva | guitar, bass guitar |
José Luis Castiñeira De Dios | bass, vibraphone, guitar |
Elias Heger | drums |
93 年発表の再発 CD 「Anacrusa」。
73 年発表の第一作「Anacrusa」、74 年発表の第二作「Anacrusa II」のカップリングである。
内容は、ともに、フルート、ギター、ピアノ、女声ヴォーカル、弦楽奏らをフィーチュアしたアコースティックなフォルクローレ。
ただし、フォルクローレのいわゆる「アンデス」な音が一つの素材として際立つほどに、都会的な雰囲気やジャジーなイージー・リスニングまでにわたる多彩極まる雰囲気が詰め込まれている。
整合感のあるクラシカルなアンサンブル、ヴァイブやピアノなどのラウンジ・ジャズ風のソフトな音の処理、安定したリズムなど、フォルクローレと現代ポピュラー音楽のプログレッシヴな融合体といえるだろう。
基本的には、いわゆる地味なフォークロア風のサウンドだが、そこから立ち昇ってくるのは、土臭い素朴さの対極にある都会的なアンニュイさである。
そして、ヴァイブやオルガン、フルートのアンサンブルが奏でるナイト・ミュージックが幻想世界の BGM へと変貌し、ゆっくりと心に沈みこんでくる瞬間がある。
一作目の終曲のフェード・アウトには、まさにそういう力が感じられる。
別のいい方をするならば、素朴な音を紡ぎ合わせて、きわめて現代的なエモーションを映し込むことに成功しているということだ。
かように洗練されたセンスのある演奏の中、唯一スペイン語らしき女声ヴォーカルの表現が、ストレートにローカルで力強い手触りをもっている。
深い夜霧をまとうようなクラリネットやヴァイヴ、朝靄の都会に物憂くさえずるフルートなど、切ない音に満ちています。
そして第二作では、男性ヴォーカルも参加、インストゥルメンタルが拡充し、アンサンブルはクラシカルな方向へとさらに充実する。
瑞々しくもロマンティックな叙情性が加わるとともに、キレのあるリズム・セクションが支えるテクニカルな見せ場までが用意される。
フランス移住前の作品にもかかわらず、なぜかシャンソン風のニュアンスも加わっている。
いやそれとも、タンゴ風なのだろうか?
収録時間の限界のせいか、第一作旧 A 面 6 曲目「Disparada」が割愛されている模様。
「Río Limay 」(2:45)イージー・リスニング風のインストゥルメンタル。
「Pobre Mi Tierra」(3:55)
「Elegia Sobre Un Poema」(3:20)
「El Baile Del Pajarillo」(2:14)ラウンジ・ジャズ風のインストゥルメンタル。
「Zamba De Invierno」(2:20)フルートをフィーチュアしたフォーク・タッチのインストゥルメンタル。
「Lo Que Mas Quiero」(2:57)
「Viento De Yavi」(4:18)リコーダー、フルート、ダブルベースらしきボウイングをフィーチュアしたエキゾティックかつジャジーなフォルクローレ。
「La Rosa Y El Clavel」(1:35)
「Galopa Del Mamboreta」(2:42)フルート、ピアノ、オルガンらによる愛らしいインストゥルメンタル。
「Marula Sanchez」(1:42)
「Piedra Y Madera」(4:00)幻想的なジャズ・フォーク・インストゥルメンタル。
「Rio Manzanares (Canción Venezolana Del Estado De Sucre) 」(3:04)流麗なる相聞歌風のフォーク・ロック。
「Coplas De Cundinamarca (Coplas Colombiana)」(3:10)
「Polo Coriano (Polo Venezolano)」(2:34)素朴なサウンドながら緻密なアンサンブルによるインストゥルメンタル。
「Palmero (Marinera Peruana)」(3:25)前作に近いニュアンスの歌もの。リズムの切れがいい。
「Zamba De La Despedida」(4:43)フルート、オルガン、アコースティック・ギター、ベースのボウイングらによるリリカルなインストゥルメンタル。
「Homenaje (Cueca)」(4:07)ドラマティックに展開する傑作。
「Campo Sur」ピアノを中心にした組曲。
「Saque Mi Corazon De La Tierra Quemada (Estilo)」(5:07)フォーレを思わせる哀しい夢のようなバラード。巧みな転調で物語を綴る。インストゥルメンタル。
「Calfucurá (Piedra Azul)」(7:05)ピアノのビート感を強調したタンゴ風の作品。
(REDONDEL CD 45003)
José Luis Castiñeira De Dios | acousitc guitar, bass, musical director | ||
Julio César Pardo | flute | Roger Guiot | flute |
Bruno Pizzamiglio | oboe | Susana Lago | vocals, keyboards, pinkullo(flute) |
Daniel Sbarra(Abuelo Et Nada) | guitars | Juan Enrique Farias Gomez | bombo(drums), percussion |
Juan José Mosalini | bandneon | Jorge Trasante | drums, percussion |
Patrice Mondon | violin | Jean-Louis Chautemps | tenor & alto sax |
Phillipe Pages | synthesizer | Francis Darizcuren | bass |
78 年発表の第四作「El Sacrificio」。
リーダーのカスティネイラ・ディオスは、ディレクター兼アレンジャーとなり、フランスに拠点を移して製作された。(アルゼンチン国内政情不安のためと思われる)
アコースティック中心のサウンドや旋律、和声、リズムは前作と同じくフォルクローレ的であり、素朴かつ深みのある哀愁を強くまとっているが、アンサンブルの緻密さとそれによる緊迫感が一気に強まりダイナミクスもアップ、ジャズロック的な迫力が前面に出る。
エレキギターが存在感を強め(ロバート・フリップばりのヒステリックなロングトーンが印象的)、サックスのブローとともに快調なラテン・ロックとして突っ走るところもある。
もちろん、エキゾティックなヴォイス、ソロ・ピアノ、フルート、オーボエ、バンドネオンらによる哀愁の調べ(ややシャンソン・タッチもあり)は変わらないし、ジャズやクラシックへの「振れ」(アレンジ)も巧みなである。
その結果演奏全体のダイナミクスがぐっと大きくなっている。
端的には、緩急、静動、疎密、陰陽すべてにコントラストが付き、スピード感のあるスリリングな演奏になってきた、といえばいいだろう。
また、弦楽奏とバンドががっちりオーヴァーラップした場面では、NEW TROLLS や OSANNA の著名作品と同等のエレガントな世界が広がる。
本作の音楽性は最終曲の大作、その名も「Tema De Anacrusa」で実を結ぶ。
それは、モダン・ジャズとクラシカルなアンサンブルを融合してみせたチャレンジングなビッグ・バンド・ジャズロックである。
後半のジャジーな演奏が新鮮だ。エンディングもすごい盛り上がりである。
プロデュースは、ジョエル・カルティニ。ギタリストは、ミゲル・アブエロのバンド NADA のギタリスト。
フランス盤 LP はメジャーのフィリップスから発表された。
再発 CD には、6 曲目「Los Capiangos」のオルタネート・テイク(よりリズム・セクションを強調したアレンジ)がボーナス・トラックとして付く。
1 曲目「El Pozo De Los Vientos」(3:09)
2 曲目「El Sacrificio」(3:16)ストリングス、オーボエにロングトーン・ギターが重なる哀愁の歌もの。
3 曲目「Sol De Fuego」(3:29)重量感たっぷりにざわめくピアノがドライヴするジャズロック。テーマはあくまでフォルクローレ。
2 拍子と 3 拍子のポリリズミックなテーマがカッコいい。切ないオーボエ、オブリガートでからむギターもいい。傑作。
4 曲目「Quien Bien Quiere」(2:46)エキゾティック(東洋風?)な管弦楽、呪文のような女性のヴォイスによる史劇映画音楽調と、ギター、サックスらによるジャズロック調を大胆に交差させた痛快な小品。
5 曲目「Homenaje A Waldo」(5:21)ピアノと管弦楽による悲恋物語風のロマンティックな作品。フルートとバンドネオン、サックスをフィーチュアし、哀愁がひたひたと満ちる。終盤はピアソラばりのスリリングなタンゴへと発展。傑作。
6 曲目「Los Capiangos」(5:17)流れるようなテーマが印象的なメロディアス・チューン。オーボエ、フルートがリードする。
ファズ・ギターがアクセントになる。「泣き」もあるが、しなやかな強さも感じられる。
7 曲目「Tema De Anacrusa」(13:06)タイトル通り、集大成的なスペクタクル大作。素朴な味わいのフォルクローレを根っこにしつつも、時に BUBU にも通じる攻撃性も見せるアグレッシヴなビッグバンド・サウンド。キャッチーなテーマのセンスが抜群にいい。
ルーツ・サウンドやモダン・ジャズのみならず、RETURN TO FOREVER や KING CRIMSON といった同じ時代のグループの影響もあるのだろう。
(Philips 9101 177 / RAYUELA 072)
José Luis Castiñeira De Dios | musical director | ||
Tony Bonfits | bass | Narciso Omar Espinosa | acoustic guitars |
Jacky Tricore | guitars | Andre Arpino | drums |
Raymond Guilot | flute | Claude Maisonneuve | oboe |
Alain Huteau | percussion | Ruben Sanchez Retta | percussion |
Pierre Gossez | sax | Gustavo Moretto | trumpet (ALAS) |
Patrice Mondon | violin | Susana Lago | vocals, keyboards |
82 年発表の第五作「Fuerza」。
フランスでは 79 年に発表された。
内容は、哀愁のメロディを管弦コーラスとリズム・セクションで彩るフォーキーかつ交響楽的重厚さを持つものであり、作風は基本的に前作の延長上にある。
全体に都会的に洗練されたなめらかさが顕著になっており、フォルクローレ調の素朴さもきっちりと面取りされた音楽の中での一つのテイストとして存在している。
たとえばバンドの演奏でも凶暴で個性的だったギターのスタイルがよりオーソドックスなサウンド、プレイに変化しており、リズム・セクションの強調やエレクトリック・キーボードなどには明確なメインストリーム・フュージョン志向も散見される。
こういった変化が音楽全体のグレードアップに奏功しているのは間違いないが、フォルクローレを軸にさまざまな音楽をぎこちない手つきでごった煮にしたバロックな魅力は前作ほどではないと思う。
このまとまりのよさは、フランス人ミュージシャンの起用が増えているのもその一因ではないだろうか。
ただし、あまり心配する必要はなく、7 曲目の大作では前作と共通するアレンジの魅力を大いに発揮している。
技巧、サウンドの両面で明快さを増したバンド演奏は、緩やかに波打つ管弦楽とみごとに調和、対比している。
冒頭、逞しいベースに導かれるバンドが管弦楽につながってゆく展開がすばらしい。
息を呑む間もなく湧き立つピアノの調べにフルートが絡み、鋭いリズムと緩やかな管絃の波に巻かれながら音が飛翔してゆく。
70 年代終盤らしい「洗練されたロック」ではあるがその底流にはやはり日本人の胸に大いに響く「ペーソス」がある。
管弦楽では管楽器やハープなど今まで以上にさまざまな音を使っている。
エキゾティックな女声にリードされる演奏はメロディアスかつ重厚、徹底して劇的であり、物寂しいささやきが一気に巨大な音の波に巻き込まれてゆくようなスケールの広がりもある。
映画のサウンド・トラックといってもよさそうだ。
弦楽にはエンリケ・バカロフの流麗華美調に近いニュアンスもある。
それでも基調にあるのは、アコースティック・ギター、ピアノ、フルートによる弾き語りのエレジーであり、その哀愁の旋律をアレンジの魔法があたかもふいごで熱い空気を送り込むように大きく深く膨らませている。
音は、侘しく密やかなせせらぎ、爽やかで力強い奔流、悠然たる大河の間を何ら矛盾することなくごく自然に変化しながら流れつづける。
ギター、サックス、ベース、ドラムスが、随所で短いながらも鋭いジャズ、ハードロック調のプレイで切り込んでくるスリル(ラテン・ジャズロックのカッコよすぎる 6 曲目など)や心温まるクラシカルな小アンサンブルも健在。
管弦楽ロックの傑作。プロデュースは、ジョエル・カルティニ。フランス盤 LP はメジャーのフィリップスから発表された。ALAS の グスタフォ・モレットがトランペット奏者として参加している。
本作品で一度解散する。復活は 1990 年代に入ってから。
「Fuerza」(4:15)ピアノ、管弦が支える哀愁のオペラから立ち昇る逞しき民族音楽の息吹。冒頭エレクトリック・ベースの主張が当時の新しい音楽を感じさせる。
「Vidala De La Tierra」(4:35)感傷的なムードのバラード。アコースティック・ギター、オーボエが寄り添う。サックスが盛り上がると弩演歌に。
「Calfucara」(7:45)アッパーでドラマティックな傑作。バンドとオーケストラの華麗でスリリングな共演。モリコーネ風。ソロをフィーチュア。
「En Paz」(2:21)フルート、アコースティック・ギターが寄り添うルネサンス歌曲の南米風アレンジ。雅なる管弦楽。
「Presion」(4:30)哀愁ロマンの快作。ギターとヴァイオリンがカッコイイ。
「Monserrat」(3:40)パーカッション、ヴォーカルの醸し出す異国情趣を巧みに織り込んだラテン・フュージョン風の作品。フルートはアイアート・モレイラか。トランペットはテルマサ・ヒノか。傑作。スムースでジャジーな文脈での木管が新鮮。
「Voz Del Agua」(8:15)前作の大作同様、フォルクローレと交響楽、ビッグバンド・ジャズのみごとな融合を見せる傑作。イージー・リスニング調ながらも独特のバロックな魅力がたっぷり。演歌のバックのオーケストラからスパイ映画のサントラからモーリス・ラベルまで表情は多彩。
「Chaya」(4:45)冒険心に富むキレのいいリズムでドライヴする妖艶なジャズロック。ガーシュイン流のクラシックとジャズのセンスのいいブレンド。
(Philips 9101 264 / RAYUELA 069)