ドイツのプログレッシヴ・ロック・グループ「STERN COMBO MEISSEN」。64 年結成。90 年解散。96 年再結成。 「マイセン星楽団」という名前からしてマイセン出身なのだろう。現在もライヴ活動を継続中。
Thomas Kurzhals | keyboards | |
Martin Schreier | drums | |
Norbert Jäger | percussion, vocals | |
Reinhard Fisler | lead vocals | |
Lothar Kramer | keyboards, vocals | |
Werther Lohse | drums, lead vocals | |
Bernd Fiedler | bass | |
Sinfonic Orchestra Of The Hochschule Für Musik "Hanns Eisler" |
78 年発表の第二作「Wiesses Gold(錬金術師の物語)」。
マイセンにて白色磁器を発明した十七世紀の錬金術師ヨハン・フレデリック・ベトガーの生涯を描くトータル・アルバム。
インチキ錬金術師(まあ錬金術師は当然インチキなんだが)ベトガーは、欲深いザクセン選帝侯(まあ王様はほとんど欲深いものだが)アウグスト二世に監禁されながら研究を重ね、金の代わりに
白色磁器を生み出した人物であり、おそらく地元のヒーローなのだろう(実際は金ができずに憤死したらしい)。
さて、内容は、メタリックなシンセサイザーとヘヴィなオルガンなど縦横無尽に駆け巡るツイン・キーボードのアンサンブルに管弦楽とナレーションを交えた重厚なシンフォニック・ロックである。
独語によるヴォーカル・パートは、叙情的ながらも骨太な男性コーラスでカバーしており、管絃と重なるナレーションとともに濃密な十八世紀的ロマンを湛えている。
いかにもヨーロッパ・トラディショナルな音といえるだろう。
EELA CRAIG や EDEN とイメージが似るのはドイツ語のファルセットの響きのせいだろうか。
そして、おだやかに気品をもって歌い上げる場面からユニゾンを多用したスリリングな場面まで、演奏はダイナミックな表現力に富んでいる。
おそらく演奏を支えているのは、キーボードにしっかり寄り添う安定したリズム・セクションだろう。
パーカッションからティンパニ、そしてツイン・ドラムスまで用いた音数の多いていねいな演奏がユニークだ。
同時に、ドラムレスの神秘的なパートも巧みに配されており、一体となって突き進む演奏とのコントラストが活きている。
全体に、シンセサイザーのサウンドによる 70 年代後半らしい「新しさ」はあるものの、基本的な演奏のスタンスはメロディをしっかりと歌い上げ丹念なアンサンブルで厚みをつける、クラシカルで正統的なものだ。
いわば、教育 TV でかかっても問題のなさそうな音なのだ。
もちろんそれでも、黒森の彼方にそびえる城郭のような古式ゆかしい幻想美にひたるとともに、リック・ウェイクマン的な弾きまくりのシンセサイザーにプログレ心を沸き立たせることも可能である。
プログレとしての機能性は高い。
そして、生真面目な正攻法の演奏からにじみ出てくる武骨にしてポップな(クラシックだってかつてはポップだったのだ)味わいもいい。
末期 EL&P にがっかりしたファンは、こういう高尚な雰囲気をもったままポップになるというスタイルもあるのかと目の醒める思いでしょう。
もちろん、キーボード・ロック・ファンの頬が緩むシーンは随所にあり。
1 曲目、6 曲目、8 曲目にぐっとくる方は多いはず。
特に厳かにして優美な 6 曲目、大団円であるタイトル曲は感動的。
東欧キーボード・ロックの逸品。
ジャケット写真は、右側が日本盤 LP にも用いられていた美しいエッチングの西ドイツ盤、左が AMIGA の東ドイツ盤。
ベトガーに関する記述は Janett Gleenson. The Arcanum. (ISBN: 0446674842 ) を参考にしました。
「Ouvertüre(オーヴァーチュア)」(8:25)厳かなコーラスとナレーションの導入部、そして、シンセサイザーのリードするシンフォニックな演奏に意外にもエレポップ、ディスコっぽいノリも交えて快調に飛ばす。けれん味あるキーボード・ソロは、たしかにキース・エマーソン系。
「Der Traum(夢)」(2:14)エレクトリック・ピアノの淡く夢見る響きがサイレンの歌声を導く。幻想小曲。
「Des Goldes Bann(破門)」(1:55)オルガンが鳴り響く重厚な歌ものシンフォニック・チューン。
「Der Goldmacher(錬金術師)」(2:31)哀愁のストリングスが悠然とナレーションを支える。チェンバロ、シンセサイザーの厳かなオブリガート。
「Die Flucht(逃走)」(4:10)ノイジーなシンセサイザー、ピアノ、オルガンが唸りをあげる快速クラシカル・チューン。攻め込むストリングス、女性スキャットを受け止めるパーカッシヴなハモンド・オルガン、朗々と高鳴るシンセイサイザー。遁走のイメージ通り。
「Zweifel(疑惑)」(9:08)チャーチ・オルガンがバックアップする男性ナレーション、混声コーラスに代わると讃美歌化。
中盤からオルガンはそのままに重苦しく邪悪な空気、これこそ疑惑だろうか、が高まってゆく。合唱はメロトロンか、ストリングスも加わって力強いクライマックスに達する。
「Die Erkenntnis(洞察)」(5:54)雄々しくもロマンティックなクラシカル・キーボード・ロック。傑作。
「Weisses Gold(白金)」(3:33)管弦楽も巻き込み、前曲のまま勇ましく、重厚に迎えるエンディング。キレのいいハモンド・オルガンのプレイに興奮する。
「Der Frühling」(12:18)CD ボーナス・トラック。
次作の 5 曲目に収録されているヴィヴァルディの「四季」より「春」のシンセサイザー版。
(AMIGA 8 55 636 / 4012831 80 123)
Martin Schreier | drums |
Thomas Kurzhals | keyboards |
Norbert Jäger | percussion, vocals |
Reinhard Fißler | vocals |
Lothar Kramer | keyboards |
Bernd Fiedler | bass |
Michael Behm | drums, vocals |
79 年発表の第三作「Der Weite Weg」。
メロディ・ラインやキーボード・アレンジにややポップなタッチが増した、過渡的とも思える作品。
シンプルでリズミカルな曲調は、まさに 70 年代終盤の AOR 調であり、あまりに手際よく流行路線でまとまっているため、聴き初めに湧き上がるであろう反動的プログレ乖離への怒りも、気がつけば忘れてしまう。
とはいえ、さすがにアコースティック・ギターの軽やかなストロークやシンセサイザー・ビートと男臭いコーラスの取り合わせは、あまりぞっとしない。
それでも、プログレな血が騒ぐのか何なのか、ヴィヴァルディの「四季」より「春」をキーボード・アレンジしてしまうところが微笑ましい。
特に、ホーンティッド・マンション的の第二楽章は秀逸。
また、タイトル・ナンバーのような、AOR 風でありながらなぜかトライバルなビート感(土人の太鼓ですな)が強い作品は、いかにもドイツ・ロックらしいところである。
ゲルマン・アーリアの方々は、こういうビートが好きなのでしょうか。
「Die Sage」(7:50)
「Gib Mir, Was Du Geben Kannst」(5:30)
「Was Bleibt」(4:47)
「Der Motor」(4:40)
「Der Frühling」
「Allegro」(5:08)
「Largo」(2:33)
「Allegro Danca」(4:36)
「Der Weite Weg」(6:23)
(4012831 80 103)
Martin Schreier | vocals |
Thomas Kurzhals | keyboards |
Reinhard Fißler | vocals |
Lothar Kramer | keyboards |
Peter Rasym | bass |
Michael Behm | drums, vocals |
80 年発表の第四作「Reise Zum Mittelpunkt Des Menschen」。
ドラムスの脱退に伴いグループ名を短縮したのか、なぜか「STERN MEISSEN」名義の作品。
「人の中心(内面)への旅」というタイトルとおり、おそらくはトータル・アルバムだろう。
内容は、縦横無尽に活躍するツイン・キーボードを重量感たっぷりのリズム・セクションが支えるヘヴィなシンフォニック・ロック。
今回は、キーボードを中心とするアンサンブルによるクラシカル・テイストとともに、メタリックな音色、そして唸りを上げる硬質なベースによるハードな曲調が特徴である。
キーボード主体ながらも、いわゆる EL&P 調と異なるのは、リズム・セクションに非常に緻密さと安定感があること。
このリズムセクションのせいで、全体が、ヘヴィながらも荒々しさの感じられない、端正なイメージになっている。
演奏をリードするのは、作曲も手がけるキーボーディストらだが、新加入のベーシストのテクニックも、このヘヴィにして精密なサウンドを生み出すにあたって、刺激となったにちがいない。
一方、ヴォーカル・パートは、伸びやかな美声型のリード・ヴォーカリストによる品のある歌唱とともに、ていねいなハーモニーもあり、なかなかポップな聴きごこちがある。
歌から湧き上がる純朴で暖かみのあるロマンティシズムは、いかにもドイツのシンフォニック・ロックものらしい。
このメロディアスなヴォーカル・パートが、インストゥルメンタル・パートのヘヴィで精緻な演奏とのバランスをうまくとっている。
同じキーボード主体のサウンドながら、二作目の正統ロマン派叙情路線とやや雰囲気を異にするのは、「エレクトリックなクラシック」から「クラシカルなロック」へと、音楽のとらえ方が変わってきたせいかもしれない。
ともあれ、一気にハードなキーボード・プログレというイメージに接近している。
比重としては、全体にインストゥルメンタルが中心。
2 曲目に代表されるような、オルガンとシンセサイザーを併用し、丹念に押し迫るような演奏が続くなか、3 曲目のドラムレス、キーボードのみの実験的な演奏が、いわゆるクラウト・ロックらしい酩酊感やニューエイジ、ヒーリング・ミュージック的な面も強く感じさせて、おもしろい。
メロトロンも盛りだくさん。
そして続く 4 曲目は、モダン・クラシック風の緊迫したピアノ・ソロから、唸りを上げるシンセサイザー/オルガン・アンサンブルへと突っ込む緊迫感ある作品。
小刻みなリズムで走る、ハードなシンフォニック・ロックとジャズロックをブレンドしたような曲調は、かなりユニークだ。
ベーシストがテクニシャンぶりを発揮する。
「引き」のパートのセンスは、70 年代後半のものだろう。
ヴォーカリストは、ジョン・ウェットンを相当に意識。
5 曲目は、テクニカルな流れを引き継いで、叙情的な流れへと誘い、重厚な大団円へと導く。4 曲目、5 曲目の展開には、U.K. の影響もありそうだ。
雑談。
THE NICE、EL&P をハシリとする 70 年代のキーボード・ロックにあって、現在失われているテイストの一つに、当時の流行であったソウル/ファンクがある。
クラシックの構築性とジャズの奔放な運動性に加えて、このソウル/ファンク色が軽妙かつダンサブルなグルーヴを担って、楽曲に生き生きとした躍動感を生んでいたと思う。
個人的には、ヘヴィ・メタル、テクニカル・フュージョンを極めたミュージシャン周辺から、ファンキーなキーボード・ロックへの回帰があるような予感はあるが。
「Allein」(3:44)
「Hinwendung」(13:29)
「Romanze」(8:37)
「Innenwelt」(6:50)
「Menschenzeit」(6:14)
(DSB 3224-2)