ドイツのシンフォニック・ロック・グループ「EDEN」。 ディルク・シュマレンバッハとミヒャエル・ディルクスを中心に 70 年代半ばに結成される。 78 年アルバム・デビュー。 三枚のアルバムを残し、82 年解散。 すっきりと明るく輝くようなシンフォニック・サウンドが特徴であり、宗教色の濃い歌詞から、クリスチャン・ミュージックとして取り上げられることもある。 継承グループ YAVANNA は現在も活動中。
Markus Egger | vocals |
Annette Schmalenbach | vocals |
Anne Dierks | vocals |
Mario Schaub | vocals, flute, clarinet, sax, violin, piano, synthesizer |
Dirk Schmalenbach | vocals, sitar, acoustic guitar, percussion |
Hans Fritzsch | guitar |
Michael Dierks | organ, piano, clavinet, strings, vocals |
Michael Claren | bass, vocals |
Hans Müller | drums, percussion |
Michael Wirth | conga |
Johannes Manges | narration |
78 年発表の第一作「Erwartung」。
内容は、管絃、ピアノによる叙情的なアコースティック・サウンドとキーボード、ギターらのタイトなエレクトリック・サウンドが理想的なバランスで結びついた、クラシカルでフォーキー、そしてロマンティックなシンフォニック・ロック。
最大の特徴は、男声ヴォーカリスト(決めどころでは、女声独唱もある)を中心とする混声合唱が、「リード・ヴォーカル」となっているところである。
この賛美歌調の豊かなハーモニーとさまざまな音色を撚り合わせた器楽による分厚いアンサンブルを基調に、トラッド風味の繊細な弾き語りからハードロックまで音楽的に大きな振れ幅を見せながらストーリーを綴ってゆく。
いかにもドイツらしい濃厚なロマンチシズムは透明感のある音でうまく薄められて爽やかな味わいを残している。
また、クラシカルな旋律、和声と小気味よいドラム・ビートが調和した演奏は、愛らしくそして意外なほどにダイナミックである。
クラヴィネットやドラムスが主導権を握る場面の心地よい緊張感は、GENTLE GIANT と共通しないだろうか。
そして、クラシカルで繊細なタッチを基本としつつも、独特のもっさり感やシタールなどによる異国風味が野趣を生んでいる。
ドイツ・ロックらしい音というべきだろう。
上品で清潔感あるアコースティック・サウンドと女性ヴォーカルは、RENAISSANCE にも通じるが、素朴なフォーク調にとどまらない硬軟疎密の多彩な音の組み合わせがあり、むしろ YES のようなけれん味が強い。
フルート、サックス、ギターらによるパンチの効いた演奏に意外なまでにクラシカルな響きが生れてくるところは、最盛期のイタリアン・ロックとも共通するシンフォニック・ロック特有の醍醐味である。
また、これだけ多彩な音がありながらジャズやブルーズの露な影響が感じられないことも特徴として付け加えておこう。
躍動感の源には庶民的な素朴さがあり、宗教的な恭しさやクラシカルな気品もその延長上にあると思う。
市民階級の勃興した中世ヨーロッパを強く印象づける作品である。
ヴォーカルはドイツ語。
1 曲目「Spätregen」(7:13)
さまざまな楽器の音を散りばめた贅沢な演奏が醸し出すファンタジーと賛美歌、巧みな曲調/テンポの変化によるストーリー・テリングが魅力のプログレ大作。
曲調とテンポの変化を大仰につけながらも、弦楽と混声ヴォーカル中心に一本筋の通ったメロディを歌わせている。
ソロとコーラスをうまく使い分けたハーモニーの存在感も特徴だ。
またドイツ語独特の響きのせいか、はたまたテナー・ヴォイスの声質か、男性ヴォーカルが KAIPA のハンス・ルンデンを思わせる。
ヘヴィな場面でのギターやクラヴィネット、オルガンなどいかにも 70 年代後半風であり、ジャズロックやハードロックも消化しているようだ。
スリリングなユニゾンがたたみかけるオープニングの展開で一気に惹きこまれる。
フルートの響きが印象的だ。
2 曲目「Erwartung」(6:47)
フルートをフィーチュアした、フォーク・ロック調のメランコリックなバラード。
哀愁のモノローグによるメイン・パート、そして沈んだ調子のフルート、それに対してやや唐突に能天気なオブリガートが放り込まれる。
合唱によるサビはそのオブリガートもなぞり、あでやかなハーモニーとともに厳かな気分を切り返す。
シタールのささやきが伴奏するメランコリックなフルート・ソロに導かれ、クラウト・ロックらしい素朴なアンサンブルが高まってゆく。
「待望」を意味するタイトルとこの調子、未来について楽観的というよりは生真面目な面持ちで備えているイメージである。
この、コテコテのファンタジーと野太い素朴さの組み合わせは、ドイツ・ロックの特徴であり魅力だが、終盤のサックス(エレクトリック処理されている?)リードのパワフルな演奏や意外に唐突なエンディングなど、イタリアン・ロック的なアヴァンギャルドなセンスも感じる。
カラフルな演奏が特徴の本アルバムだが、アコースティックな音が主の本作品ではモノクロームな翳りも見せる。
3 曲目「Eden, Teil 1」(4:38)
クラシカルなアンサンブルをジャジーでしなやかなビートで波打たせた CURVED AIR 風の作品。
クラシカルな伴奏にジャズ・タッチによるブルージーな色合いがとけ込み、さらに男女混声ハーモニーによる賛美歌がリードする。
ダンサブルなノリによって賛美歌がいわゆるゴスペル調に揺れ動きだす。興味深い曲調だ。
かみつくようなクラヴィネットと細かく刻むドラミングはほとんど GENTLE GIANT である。
ヴァイオリンもこのスィングするグルーヴに合わせてエレガントに踊る。
カーニバルを思わせる優雅なジグをモダンによみがえらせた感じもする。
イントロのアンナ・マグダレナ・バッハ風のアンサンブルが印象的。
4 曲目「Eden, Teil 2」(6:17)
第二部は、物語調のシンフォニック・チューン。
前半は神託を告げるようなダイアローグを中心に初期の KING CRIMSON のような神秘的なムードに覆われ、女性ヴォーカルがリードする中盤から次第に悠然たる演奏へと高まってゆく。
分厚く力強いアンサンブル/合唱と密やかな歌唱を繰り返す後半の盛り上がりは、まさに王道的、正調シンフォニック・ロックのものである。
前半のモノローグに付き従う木管の調べ、終盤のバロック・トランペット風のシンセサイザーが印象的。
5 曲目「Ein anderes Land」(16:36)
クラシカルな演奏を基調に男女のヴォーカルをフィーチュアし、変化に富んだ場面を綴ってゆく大作。
短い曲をつないだような作品であり、はっきりとパートが分かれている。
美しい作品だが後味は濃厚である。
さすがドイツ風ということだろう。
ヴァイオリンやフルート、ストリングスによるクラシカルな場面が主だが、中盤ではリズミカルなクラヴィネットを用いたヘヴィな演奏やジャズロック風のプレイも聴くことができる。
ここでも混声ハーモニーがイイ。
歌唱には祈りを捧げているような恭しく厳かな響きがある。
エンディング、「ハレルヤ」を繰り返す混声合唱とギター、シンセサイザーによる重厚な演奏が、次第に透明感を強めながらクライマックスへと翔け上がってゆく。
音色の贅沢さ、アンサンブルの一体感と流麗さもさることながら、どこまでも明るさと愛らしさ、またはポップな感触を失わないところが凄い。
ファンタジック・シンフォニーの名作と言えるだろう。
(CD 27274-2)
Anne Dierks | vocals |
Annette Schmalenbach | vocals |
Michael Dierks | vocals, polymoog, Rhodes, organ, piano, clavinet |
Dirk Schmalenbach | vocals, synthesizer, Rhodes, piano, strings, sitar, percussion |
Hans Fritzsch | guitar, acoustic guitar |
Michael Claren | bass, 12 strings guitar, alt guitar |
Hans Müller | drums, percussion, conga |
Dieter Neuhauser | flute |
80 年発表の第二作「Perelandra」。
内容は、賛美歌調を基本に、カラフルな音と明快なビート感に包まれた輝かしきシンフォニック・ロック。
若干のメンバー交代を経るも、女声中心の賛美歌ハーモニーと多彩な器楽を活かしたきらめくようなタッチに、大筋で変化はない。
清潔でイノセントなハーモニーを取り巻くのは、ブルージーでメロディアスなギターによるドライヴ感とクラシカルなフレーズを歌いながらも SF 風の演出を施すシンセサイザーである。
一方、フルートやヴァイオリン、ピアノなどアコースティックな音をフィーチュアした作品では、純真で繊細な美を誠実に表現している。
アコースティックな音とエレクトリックな音の組み合わせとバランスもよく考えられている。
厳粛で上品なのに、素朴で親しみやすい。
あたかも、ノヴァリスやホフマンの小説に出てくる少女のように可憐な作風である。
また、テーマとなるメロディには、クラシカルなばかりではなく KAYAK を思わせるポップ・テイストがあり、80 年代の到来を告げるに相応しい爽快感をもっている。
間違ってもストリングス鳴りっ放しの軟弱ロックではない。
ハードに迫る場面もあるし、ギターもキーボード(シンセサイザーがすばらしい)もソロ・パートは前作以上に充実している。
アルバム全体を通して、透明なハーモニー、涼感、彼岸的な癒し、エキゾチズムなど、ニューエイジ/ワールド・ミュージックという面もあるかもしれない。
ヴォーカルはドイツ語。
「Perelandra」は、C.S.ルイス の「別世界物語」の第二部の表題である。
さらに鑑賞予定。
「Abgesang(下句)」(4:26) ビッグ・バンド風の迫力満点のオープニングから一気に女声コーラスが高まる高揚感あふれる作品。
「Er wird sein(顕現)」(6:39)スペイシーなシンセサイザーと泣きのツイン・ギターでメランコリックにブルージーに迫るバラード。
アコースティック・ギターのオブリガートやエレクトリック・ピアノには大人の響きがあり、必ずしも世間知らずの教会篭りではないようだ。
後半、フルートも切々と湧き出てくる。
「Lichtlied(光の歌)」(5:16)幻想的な序章、そして雅歌のような女性ヴォーカルとハードなギター・リフがユニークなコントラストをなす。
星を吹くようにスペイシーなキーボードも強烈な存在感あり。
「Zwischenspiel(間奏曲)」(1:35)キーボード・オーケストレーションによるタイトル通りの美しい間奏曲。インストゥルメンタル。
「Dem Verborgenen zuwider(秘めたる反逆)」(4:25) あまりに瑞々しいフォーク・ソング。
ハープのようなアコースティック・ギターの調べが刻まれる。男性ヴォーカルも純朴。
「Perelandra(ペレランドラ(金星))」(7:17) 最初のクライマックス。
PELL MELL を思い出す弦楽の調べによる素朴にして純クラシカルなオープニングから、キーボードに導かれてあたかも花咲く宇宙へと飛び出したかのようなヘヴンリーで爽快感あふれる展開へ。ギターもさえずるように歌う。
中間部にはリリカルなヴァイオリン・ソロも。シンセサイザーも弦楽を意識したようななめらかな調べを奏でる。後半のシンセサイザーは特に美しい。ヴォーカルとコーラスは寄せては返す金色の波のよう。
19 世紀の SF 小説を思わせる最高のファンタジック・チューンです。
「Im Bragdon-Wald(ブラクドンの森にて)」(6:41)ピアノ、ヴァイオリン、ギターなどアコースティックな音を活かし、ほのかなメランコリーを風にまぎらすような哀愁の傑作。インストゥルメンタル。朗々とロマンを紡ぐヴァイオリン、晩鐘のようなピアノ。
後半、エレキギターとストリングス・シンセサイザーとフルートも参加し、哀切の歌を刻んでゆく。
前曲と陰陽対を成すような見事な構成です。インストゥルメンタル。
「Bilder einer Welt(世界の光景)」(5:43)シタールによるオープニングが印象的。ノーブルな男性ヴォーカルと典雅なソプラノに導かれるも、背景にはさまざまな音が湧き立ち、珍しく急激に曲調も転々と変化する。プログレらしい緊張感のある作品だ。
キーボード・ソロもリック・ウェイクマン張りにスリリング。パノラマ風に世界を次々と見て回るイメージなのだろうか。
「Ausklang(終結)」(1:53)弦楽アンサンブルとオルゴールが導き、コーラス、ギター、キーボードとともに無限に旅立つ終曲。
(CD 27253-2)
Anne Dierks | vocals |
Annette Schmalenbach | vocals |
Michael Dierks | vocals, polymoog, Rhodes, organ, piano, clavinet |
Dirk Schmalenbach | vocals, synthesizer, Rhodes, piano, strings, sitar, percussion |
Hans Fritzsch | guitar, acoustic guitar |
Michael Claren | bass, 12 strings guitar, alt guitar |
Hans Müller | drums, percussion, conga |
Dieter Neuhauser | flute |
80 年発表の第三作「Heimkehr」。
第一作以前(74 年〜76 年)の作品を集めた未発表曲集。
内容は、哀愁あふれるメロディアス・ロック。
ヴァイオリンやキーボードの音(クラヴィネットが特徴的)はカラフルではあるが、スロー・テンポの作品はスペイシーというよりは演歌っぽく聴こえる。
どちらかといえば、リズムレスのパートの表情が自然で似合っている。
叙情的な文脈でもへヴィなファズ・ギターとともにハードロックに振れてしまうところなど、独特の垢抜けなさが EELA CRAIG にも似る。
ヴォーカルはドイツ語。
「Intro」(2:00)ナレーションによるイントロダクション。
「Die Klagelieder Des Jeremia」(10:00)演奏と朗読。
「Psalm 137」(5:10)スペイシーでファンタジックなこのグループらしい作品。 賛美歌。
「Psalm 126」(5:45)賛美歌。
「Heimkehr」(10:11)ベースとエレクトリック・ピアノのせいで賛美歌が少しだけジャズっぽく感じられる。
「Herr, Ich Bin Nicht Würdig」(5:45)バリー・マニロウか? ポップな佳作。
「Neues Land Im Licht」(7:00)
(CD 27275-2)