アメリカのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「CAIRO」。 サンフランシスコ出身。 94 年アルバム・デビュー。 2001 年現在作品は三枚。 90 年代 HR 系プログレを支えた MAGNA CARTA レーベルのキラ星の一つ。
Mark Robertson | keyboards |
Jeff Brockman | drums |
Bret Douglas | lead vocals |
guest: | |
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Luis Maldonado | guitars |
Brian Hutchison | guitars |
John Evans | bass |
2001 年発表の第三作「Time Of Legends」。
グループは、キーボーディストを軸としたトリオへと縮小、ギターとベースはゲスト参加である。
内容は、ピアノ、ハモンド・オルガンからシンセサイザーまでのヴィンテージ・キーボードと透明感あるヴォーカルをフィーチュアしたキーボード・ロック。
7 曲中インストゥルメンタルが 3 曲ある。
典型的といい切るには、キーボード・ロックのジャンルがかなり細分化しているため、もう少し説明が要るかもしれない。
おそらく、EL&P をベースに、現代的な刺激の強さは控えめにして、70 年代終盤から 80 年代にかけてのハードポップ路線のテイストでまとめた、アメリカン・ロックらしいストレートで明快なタッチのネオ・プログレといえば通りがよかろう。(長いですね)
RUSH 風のクリアーで明朗な SF ハードロック風味はあるものの、プログレ・メタル的な極端なヘヴィネスや単調さはほとんどない。
キーボードのプレイには、ジャジーなフュージョン・タッチもちらちらと見え隠れする。
そして、STYX や KANSAS のようなカラっと乾いたハイトーン・ヴォイスも特徴である。
ヴォーカリストはメロディをしっかりと前面に出してゆける技量の持ち主であり、楽曲の主役としての存在感は大きい。
全体にモダンなサウンドであり、ポップなセンスも忘れていないという意味では、復古ではない王道継承者というイメージである。
アルバムとしても、楽曲ごとのバリエーション、大作におけるシンプルなようで丹念なアレンジなど、心づくしのある内容だ。
ただし、メンバー間のせめぎあいやケレン味が足りないせいか、三人 U.K. のような緊迫した力強さはない。
また、テンポがミドル・テンポのみで変化が少なく単調に感じるところがある、各人が自分の見せ場を延々並べるために調子が合わないと飽きてしまう、などの問題はある。
さて、かなり弾きまくっているキーボード、型破りな超絶スタイルではなく、エマーソン風のイディオムやヤン・ハマー/チック・コリア辺りのスタイルをきっちり守っている。
もはや、オリジナリティ云々という次元ではないのは確かだ。
要は、それだけの時代を経たということである。
また、昨今、シェリニアンやヨハンソンのように、ハイテクニックなギターへの強烈な意識に加えてジャズロック、フュージョンをも消化した結果の、いわば超絶ソロ重視型とでもいうべきパフォーマンスが流行するが、本グループのキーボード奏者は、技巧だけなら決して負けていないが、そういったスタイルとは一線画している。
この音を往時のサウンドのカヴァー(80 年代の EL&P にこうなってほしかったという気持ちになる)に過ぎないという見方もできようが、この作品にはしっかりと主題/曲想を持つ楽曲があり、そおかげで聴き心地のよさと一過性でない味わいを生んでいることもまた否定できないだろう。
メロディを大切にしたキーボード・シンフォニック・ロックの傑作。
「Underground」(8:06)
「The Prophecy」(10:15)
「Scottish Highland」(2:39)
「You Are The One」(5:44)
「Cosmic Approach」(4:20)
「Comming Home」(7:08)
「The Fuse」(9:02)
(MA-9044-2)
Mark Robertson | keyboards, synthesizers, hammond organ, grand piano |
Jeff Brockman | drums, electronic percussion |
Alec Fuhrman | guitars, vocals |
Bret Douglas | lead vocals |
Rob Fordyce | bass, vocals |
95 年発表の第一作「Cairo」。
バンド名を冠したスタジオで録音された、セルフ・プロデュース作品。
内容は、いわゆる「アメプロ・ハード」にキース・エマーソン流ハモンド・オルガンと 80 年代ハードポップ路線も盛り込んだ娯楽作。
ヴォーカル表現にはニューウェーヴ風のデジタルなクールネスと AOR 的なニュアンスがあり、ハードな割にはメタルっぽさのないギターとともに、どこか懐かしい。(この懐かしさは、おそらく ASIA あたりのイメージに由来するのだろう)
メロディアスなアンサンブルは、英国風エクレティズムとは異なるアッケラカンとしたアメリカ流を貫いている。
そして、これが悪くない。
コーラスや節回しなどに感じられるじつに率直で自然なコマーシャル狙いが、往年の EL&P などスーパーグループを思わせて微笑ましいし、なにより、ポップな明るさというのが、このフィールドでは得難い個性である。
などと回りくどいことをいっているよりも、まず言及すべきは、中盤から現れる圧倒的存在感を誇るハモンド・オルガンの演奏だろう。
さほど強い個性のないアメプロ・ハードを、一気に「ド・プログレ」色で染め上げているのが、この「エマーソナイズド(possessed-by-Emerson)」したオルガンである。
デジタルな質感のシンセサイザーの音がやや薄めであるだけに(擁護するわけではないが、プレイそのものは華麗である)、よけいにオルガンが際立つのかもしれない。
10 分から 20 分あまりの作品を聴かせるだけの確たる力量もある。
ただ、どうしてもハモンド・オルガンのプレイに耳が奪われてしまい、全体の流れはどうでもよくなってしまう。
そして、ふと気がつくと、ピアノもエスニックな音階と和声を多用した「エマーソン」型である。
全体にやや冗長であり、リズムも平板(これはもちろん本家も偉そうなことはいえないのだが)であるにもかかわらずなんとかなっているのは、このエマーソン直系のキーボード・プレイのおかげである。
おそらくこの鍵盤奏者は、HR/HM 畑で腕を磨いた逸材なのだろう。
最後の大作も、終盤の「悪の教典」風のリフで失いかけていた意識が戻る。
メロディアスにしてハードなエッジも効かせたギター、多彩なキーボードがリードするアメリカン・プログレ・ハード現在形。
プログレ・メタルではないし、ポンプよりはずっと演奏がしっかりしている。
ただし、刺激を求めるとやや薄味で物足りないかも。
「Conception」(2:10)ギター、キーボード・オーケストレーションによる華麗なる序章。
いきなりベタなアラビアン・テイストを持ち込む。
THE FLOWER KINGS 風のゴージャスなオープニングである。
「Season Of The Heart」(10:13)キャッチーな歌とカラフルにして安定した演奏が、チャート・インしても不思議ではないと思わせる、完成された大作。
強すぎないドラムス、ベースのミックス、荒々しすぎないギター・プレイ、華やかなでシンプルな 80 年代風デジタル・シンセサイザーなど、ポップス的なおさえがしっかりしている。
YES と EL&P の合体技でしょうか。
ヴォーカルは、薄味ながらも美声ハイトーンのテクニシャンであり、気張るとジョン・アンダーソンかローランド・オーザバルかといった歌唱を見せる。
クラシカルなキーボード・アレンジもこういう文脈だとさらに活きる。
「Silent Winter」(8:25)前曲とは趣を変え、ストリングスが緊張感を高めるメランコリックなハードポップ作品。
ヴォーカルもややミステリアスな表情を見せる。
もっとも、サビや展開部では得意の高音へぬける爽やかな歌唱を披露している。
中盤はギターとキーボードががっちりと組んだインストゥルメンタル。
デジタルかつクラシカルなシンセサイザー・ソロ、オブリガートは、華やぎという点でエマーソンよりもウェイクマンか。
チェンバロが用いられているが、目立たないのが残念。
曲そのものは終盤まで雰囲気が決まらずやや中途半端。
ここまでは、キーボードよりもギターのトリッキーなプレイが楽曲をリードしています。
「Between The Lines」(9:25)ハモンド・オルガンなどキーボード・プレイが炸裂するハード・チューン。
一直線のスピード感とドライヴ感のあるハードロックである。
みごとなハイトーンのシャウト、伸びやかなギターなど、いわゆる HR/HM 系の最近のグループらしい演奏だが、メロドラマティックなメロディ・ラインなどどことなく気品があるところが特徴。
ワイルドな爆発は、オルガンが一手に引き受けている。
シンセサイザーに切りかわっても、ソロは圧倒的なまま君臨。
ドラムス、ベースもかなり本気です。
最後まで音量を落とさないまま突き進む。
本曲で一気にキーボード・ロック化。
エマーソンという印象は、本作と最後の大作のプレイによると思われる。
「World Divided」(10:16)メロディアスなギターがフィーチュアされた夢想的で AOR タッチのバラード。
キーボードはストリングス系とピアノで下支え。
ギターはホールズワース(というよりその精神的弟子のヴァン・ヘイレンか)を意識したようなプレイを見せる。
ハーモニーもあり。
英国風のメランコリーとアメリカン・ロックのパワフルな演奏力が一体となったような、いわば TEARS FOR FEARS と TOTO が交じったような作品だ。
「Ruins At Avalon's Gate」(22:35)
キース・エマーソン流のキーボードを縦横無尽にフィーチュアした超大作。
冒頭の地獄の釜が煮えるようなプレイをはじめ、ハモンド・オルガン、ピアノはまさしく本家直流。
不思議なことにシンセサイザーだけはあまり似て聴こえない。(フレージングは似ているがサウンドが似ていないから?)
機材の限界だろうか。
メロディアスなギターも参戦するトリッキーなユニゾンが、いかにもプログレらしい。
PAH LINDH PROJECT や AFTER CRYING 同様、熱心な研究成果と思われる。
第一曲に似たメイン・ヴォーカル・パートによる一貫したドラマ/曲想ではなく、オムニバス風にとらえ、個々のプレイを楽しむべきだろう。
10 分前後のピアノがみごと。
(MA-1081-2)
Mark Robertson | synthesizers, hammond organ, grand piano, vocals |
Jeff Brockman | drums |
Alec Fuhrman | guitars, vocals |
Bret Douglas | lead vocals |
Jamie Browne | bass |
98 年発表の第二作「Conflict And Dreams」。
ベーシストが交代するも、サウンドには大きな変化はない。
全体に前作に比して、演奏にスピードと切れ味が増したようだ。
オルガンのプレイなど、あからさまなエマーソン趣味もある。しかし、あくまで主役は楽曲である。
HR もしくはハードなシンフォニック・ロックとしてグレード・アップした感がある。
アメリカン・ロックらしいノリのよさに加えて、メロディアスかつシンフォニックという明快な曲想が貫かれているのだ。
さて演奏を見てみよう。
今回のキーボードは、多彩な音色のシンセサイザーを主としており、テクニックで押し捲るような強烈なスタイルを誇示している。
ギターは、前作同様 HR/HM 特有の単調なリフや神経症的速弾きとは無縁であり、オーソドキシーを極めた沈着な音楽性を誇っている。
個人的には大好きなタイプだ。
リズムは、前作と同じく軽めのミックスのせいもあって、やや地味である。
最近の音になれた耳には、スネア中心のドラミングが重みを欠くように聴こえる可能性もある。
ただし、「ビートよりもお囃子」という EL&P 的な効果を計画的に狙ったのだとすれば、大したものである。
ベースも、音量的には地味な扱いだが、かなりの技巧派だ。
キーボードばかりが目立っていた(そういうつもりはなかったんだろうが、結果的にオルガンの音色ばかりが強烈な印象を与えた)前作と比べると、演奏こそひたすら押し捲るスタイルながら、楽曲がよく練られており、スリルをかきたてる効果の配置や山あり谷ありのストーリー・テリングなどの語り口がみごとである。
大作主義も変わらないが、聴きやすさ、ノリやすさのおかげでお腹いっぱい楽しめる。
個人的には、エマーソン風の演奏がやや減った(それでも最終曲にはハモンド・オルガンの見せ場あり)のは残念だが、音楽の良さには確かに手ごたえを感じる。
もう少し抑えてゆったり歌う場面があると、さらにドラマチックになるのではとも思う。
しかしながら、このひたすら突き進んでしまう HR/HM のメンタリティも、アメプロ・ハードに欠くべからざる伝統のなせる技なのだろう。
アメプロ・ハード・キーボードロックの大傑作。
「Angels And Rage」(10:23)一直線に突き進むスピード感あふれるシンフォニックな HR。
シンプルなビート感にテクニカルな切れ味のある、痛快にして爽やかな作品だ。
ヴォーカルがややワイルドな表情を見せるところが興味深い。
新たなスタイルへのチャレンジだろうか。
RUSH 辺りの影響もありそうだ。
厳粛にして勇ましい弦楽奏を思わせるシンセサイザー、機敏なオブリガートが冴えるハモンド・オルガンなど、キーボードはきわめて明快なプレイで存在をアピールする。
ギターはやや HR/HM 化(イングウェイばりのスウィープやアーミングとかさ)するも下品ではない。
「Corridors」(11:56)明るく元気なテーマが印象的な EL&P 風ハードポップ。
序盤から一貫してめまぐるしいハモンド・オルガン・ソロ、華やかな変拍子シンセサイザー・ソロが炸裂する。
90 年代初頭のプログレ・リヴァイヴァルの際に、イタリアから大挙して現れたあのタイプである。
メロディアスに歌い込むヴォーカルは、前曲と比べると格段に活き活きとしている。
80 年代英国調ではある。
前作のスタイルを踏襲し、キャッチーにまとめた感じだ。
余談だがステレオ・タイプ HR/HM 化する原因の一つに、勢い任せのスタッカートがあると思う。
「Western Desert」(17:08)力作としかいいようのない傑作。
「Image」(1:25)前曲の疲れを癒すようなピアノ・ソロ小品。(これまたエマーソンに似ているが)
「Then Youe Were Gone」(8:25)HR からのジャジーな展開が意表を突く力作。後半のオルガンとドラムスは本家が憑依したとしか思えない。(バスドラが一つ多いが)
「Valley Of The Shadow」(15:52)エマーソン節爆発のキーボード・ロック。
(MA-9012-2)