GANDALF

  オーストリアのマルチインストゥルメンタリスト「GANDALF」。 本名 Heinz Strobl (ハインツ・ストロブル)。弦楽器、鍵盤を演奏する。 マイク・オールドフィールドの影響下、80 年代のニューエイジ・ブームに乗っかる格好でシンフォニック・ロック・インストゥルメンタルの継承者として活動する。 そして現役。 芸名は、もちろんあの「指輪物語」の「白の魔法使い」から。

 To Another Horizon
 No Image
Gandalf guitars, synthsizers, mellotron, sitar, vocoder, wind chimes, rhythm machine, percussion
Robert Julian Horky flute
Peter Aschenbrenner piano, organ
Egdon Groger drums
Heinz Hummer bass

  83 年発表の第三作「To Another Horizon」。 内容は、シンセサイザーを中心にさまざまなキーボードをフィーチュアした、力強く透明感もあるクラシカル・シンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。 主題部では、明快にしてスリリングなテーマで真っ向勝負、重厚華麗な演出を極める。 力強く翼をはためかせて飛び立ってゆくような躍動感もある。 一部打ち込みドラムスながらも、バンド編成による演奏はなかなかダイナミックである。 そして、緩徐パートでは優美な旋律と透明な音の響きで情感にデリケートに訴えかける。 アコースティックな音を活かしたブリッジでは、トラッド風の「寂び」からワールド・ミュージック調のエキゾチズムまでをも醸し出す。 そして、しっとりと情感ある場面にも厳かな響きが底流にある。 緩急や強弱など音楽の表情付けは自在である。 シンセサイザー・ミュージックといってしまうには、あまりにプログレらしいロックっぽさがあり、エフェクト、アナログ・シンセサイザー・サウンドともに、間違いなくいまだ 70 年代の音である。 全体に、マイク・オールドフィールドと比べると、格段にユーロ・プログレ・ノリは強い。 また、初期の ISILDURS BANE よりはプロっぽく垢抜けていてカッコいいです。 タイトル曲は、シタールをフィーチュアした西アジア風のエキゾティックな作品。
   争乱に明け暮れる現代社会を脱出して別世界の理想郷へと旅立つ、深刻なテーマではあるが、音楽はどこまでもやさしい。
  
  「March Of No Reason(Incl. "The Falling Star")」(7:17)優美にして勇ましく気高い、騎士道精神旺盛なる佳曲。 バンドとしての音の呼吸もいい。
  「Natural Forces Getting Out Of Control(Incl. "Wind, Rain, Thunder And Fire")」(10:16)神秘的な叙景曲。 アコースティックなサウンドにシンセサイザーが自然にとけ込む。 シーケンスが用いられてもメカニカルにならず、どこまでもロマンティックでファンタジーなところが特徴。
  「Requiem For A Planet」(5:14)ピアノとフルート、シンセサイザー・オーケストレーションで綴る鎮魂歌。 慈しむような優しい響きが一貫する。

  「Flight Of The Crystal Ships」(4:32)マイク・オールドフィールド風のギターがリードする躍動感ある作品。タイトルのイメージとおりの音である。
  「To Another Horizon
    「The Divine Message」(2:27)
    「Change Of Consciousness」(5:54)シタールが活躍、後半はパイプが加わる。思い切りインド。
    「Creation Of A New World」(3:29)アナログ・シンセサイザーの妙味。
  「Cosmic Balance」(4:40)ニューエイジ全開だが、アルバム中の位置としてはタイミングがいい。フルートが優しい。愛らしいヴァンゲリス。
  「Peace Without End」(4:58)終わりなき平和をかみしめ、称えるようなピアノとフルート、ギターらのアンサンブル。もの静かで慎ましく、落ちつきがある。
  
(WEA 24.0074-1 / WPCR-1722)

 Magic Theatre
 No Image
Gandalf guitars, synthesizers, mellotron, organ, sitar, vocoder, wind chimes, rhythm machines, bass, gongs, drums, percussion
Robert Julian Horky flute
Peter Aschenbrenner piano, organ, sax
Egdon Groger drums
Heinz Hummer bass

  83 年発表の第五作「Magic Theatre」。 前作「To Another Horizon」に続いて、バンド編成による作品。 内容は、叙情的ながらも、リズム・セクションがきっちりと音を出したダイナミックなシンフォニック・ロックである。 演奏の中心は、エレクトリック、アコースティックの両ギターと、華麗というよりは愛らしくも陽気で、なかなかテクニカルでもあるシンセサイザー。 ギターは、マイク・オールドフィールドとスティーブ・ハケット(Gandlaf はハケット・ファンらしい)をブレンドしたような、粘りのあるトラッド調である。 サックスをフィーチュアする場面など、CAMEL のようなセンスのいいジャズ感覚もあり。 ピアノだけは選任奏者を招いているようだが、これが的を射ており、存在感、説得力が際立っている。 第一曲に代表されるように、溌剌とした開放的なイメージの作品であり、スピリチュアル系に傾き過ぎないタッチがいいです。 全編インストゥルメンタル。ヘッセの「荒野の狼」から着想した作品のようです。

  「Entrance / The Corridor Of The Seven Doors 」(5:47)喜びを歌い上げるような躍動感あふれるシンフォニック・チューン。 独特なトーンのギターが、あたかも不思議な東洋の楽器のように、溌剌と舞い踊る。
  「1st Door / Reflections From Childhood」(4:02)アコースティック・ギター、パイプによるケルト風味ある作品。
  「2nd Door / Castles Of Sand」(13:06)ピアノ、アコースティック・ギター主導でメロドラマティックに展開する大作。 力強いバンド演奏パートに感動する。
  「3rd Door / Loss Of Identity」(3:15)強烈なビートで迫るへヴィ・ロック。サックスもフィーチュア。

  「4th Door / The Magic Mirror」(3:52)
  「5th Door / Beyond The Wall Of Ignorance」(7:35)
  「6th Door / Peace Of Mind」(4:54)メロディアスで甘い語り口ながらもフルート、メロトロン含め多彩なサウンドを散りばめた好作品。個人的にはこれが一番。
  「7th Door / The Foutain Of Real Joy」(5:36)リズムこそデジタルだが、ジャジーで開放的なイメージの作品。ISILDURS BANE や旧ソビエトのフュージョン系の作品のよう。
  「Exit」(3:37)変拍子が特徴的なバラード。オルガンの響きとアコースティック・ギターのエモーショナルなプレイが魅力。
  
(WEA 24.0293-1 / WPCR-1723)

 Tales From A Forgotten Kingdom
 No Image
Gandalf YAMAHA DX-7, Roland IX-3P, Korg Trident poli synth
 minimoog, mellotron, acouctis 6 & 12 strings guitars
 Roland vocoder, guitars, bass, Hammond digital drums
 Korg analogsequencer, grand piano, tampura, gong, cymbals, other percussions

  84 年発表の第六作「Tales From A Forgotten Kingdom」。 巷間賑わすニューエイジ・ミュージックと微妙な接点を保ちつつ、前二作ほどのバンド的なグルーヴはないものの、それでも、わくわくさせるスリルや気まぐれなエネルギーの発露といった、ロックとしてのシンフォニック・ロックの芸術性をきちんと織り込んだ好作品である。 映像喚起的でファンタジックな趣は強まり、いわば躍動感と清潔感が互いに高めあうようなイメージの作風になっている。 本格的なアコースティック・サウンド、初期デジタル・サウンドと 70 年代アナログ・サウンドのブレンドのみごとさはまさに奇跡的。 おかげで、80 年代特有のチープな感じも、堅苦しさに息がつまるようなところもまったくない、悠然として健やかな幻想美の世界になっている。 エキゾティズムのアクセントは嫌味にならないように控えめかつ効果的に配されている。 ここに LE ORME のタリアピエトラのようなたおやかな歌がのるとさらによかった、という勝手な思いがある。 ギターのプレイ・スタイルは、やはり、マイク・オールドフィールドとスティーヴ・ハケットのミックス。 シンセサイザーを中心にした霊妙で神々しいサウンドは散見されるが、そこに溌剌とした人間的な息づかいも交えることができるのがこのプロジェクトの凄みだろう。 YES とニューエイジ、スピリチュアル・ミュージックが近いようで異なるのと同じく、GANDALF はシンセサイザー・ミュージックやヒーリング・ミュージックとは一線画すのである。 邦題は「失われた王国の物語」。
  
  「Forgotten Kingdom Part I」(3:43)
  「Forgotten Kingdom Part II」(3:18)
  「Garden Of Illusions Part I」(3:05)
  「Garden Of Illusions Part I1」(5:55)
  「Garden Of Illusions Part III」(4:28)
  「The Sacred Esoteric Formula」(4:16)
  「The Nawan Path」(8:19)
  「On The Peacock's Wings」(4:06)
  「The River Of Realization Part I」(3:48)
  「The River Of Realization Part II」(2:11)
  「Back Home」(6:49)
  
(WEA 2292-40544-2)

 The Universal Play
 No Image
Gandalf piano, synthesizer, Prophet sampler, guitars, mellotron, digital drums, percussion

  84 年発表の第八作「The Universal Play」。 シンセサイザー、打楽器、サンプラーなどによる神秘的かつ瞑想的なインストゥルメンタル・ミュージック。 打楽器はバンドというよりはオーケストラに近いニュアンスであり、それも含めて全体として、いわゆるロックやポップスよりもクラシックに近いと思う。 (無論すでにニューエイジ・ミュージックというくくりが確立していて、このような作品すらもポピュラー音楽のその一範疇に入っている) 一部で永続的なビートが入るが、電子ドラムス特有のサウンドなので当然バンドっぽさは少ない。 クレシェンド、デクレシェンドや音量変化が急激ではなく、またテーマとなるメロディがシンプルで優しげなので、全体に内省的で穏やかなイメージの音楽になっている。 同じくミニマルな表現を用いる電子音楽の大家 TAGERINE DREAM やヴァンゲリスらと比べると、ダイナミック・レンジや音色の「濃さ」が違う。 こちらはぐっと薄めで、たおやかである。 それでも、サウンドのテクスチャは極上で、真正性もあり、この手の作品の中ではおそらく音楽の素人(わたし含め)にも受ける内容だと思う。 もっとも、個人的にはこれ以上アンビエントなニューエイジ・ミュージック化すると興味を失ってしまう。 音楽の「癒し」という機能性にあまり興味がないためだ。
  
  「Earthbound」(4:44)
  「World Within」(9:19)
  「Cosmic Circle Dance」(12:06)
  「Gate To Infinity」(7:06)
  「Ocean Of Time」(11:13)
  「Pure Love」(5:42)
  
(CBS 450372 1)

 Gallery Of Dreams
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Gandalf keyboards, guitars, sampler, mandolin, glockenspiel, percussion
guest:
Steve Hackett guitars
Tracy Hicchings vocals
Robert Julian Horky flute
Andrea Krauk oboe

  92 年発表の作品「Gallery Of Dreams」。 内容は、ギターを大きくフィーチュアしたシンフォニックなニューエイジ・ミュージック。 鍵盤楽器に管楽器を交えた優美でスケールの大きなエレクトリック交響楽である。 スティーヴ・ハケットの参加を大きく謳った作品であり、基調であるニューエイジ・ミュージック(92 年にはすでにブームは去っていたが)に骨太で力強い流れ、運動性を持ち込んでロックとしての迫力を出すことに成功している。 この意外なまでのバンド的なグルーヴは、当時のネオ・プログレ隆盛を意識したのだろうか。 ピアノとギターのデュオにおいても、癒し主体の音というよりは、濃密なロマンと躍動する力を感じさせる。 80 年代、音楽を機能性や生活利便のための道具として扱うことが流行したが、そういう扱いに対してようやくロックのリベンジが始まったのだ。 そう思わせる理由の一つは、いうまでもなくハケットの個性的なサウンドとプレイである。 ヴィブラートの効いたロングトーンは鍵盤や管楽器との相性がよく、また、エレクトリック・ギターらしい奔放で野生的なプレイも効果的に散りばめられている。 同じオールドフィールド・ファンながら、ジャン・パスカル・ボフォよりも、宗教的な厳かさ、ドイツ的な彼岸志向のようなものがあるところがこちらの特徴である。
  
  「Face In The Mirror」(4:46)ハケット参加。
  「Willowman - Watcher Of The Waters」(4:46)キーボード・オーケストレーションによる映像的な作品。
  「Alone Again」(1:53)ハケット参加。
  「Between Different Worlds」(5:54)ハケット参加。
  「Another Dream」(3:16)ハケット参加。
  「Song Of The Unicorn」(4:23)ハケット参加。
  「Winged Shadows」(6:35)
  「Choir Of Elves」(2:35)
  「Lady Of The Golden Forest」(6:24)ハケット参加。
  「Hand In Hand」(2:47)
  「Gallery Of Dreams」(6:34)
  「Fields Of Eternal Harmony」(4:19)
  「End Of The Rainbow」(2:31)ハケット参加。
  
(CPK 1276 471064 2)


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