イギリスのシンガー「Julie Driscoll」。47 年ロンドン出身。ブライアン・オーガーのグループでデビュー。キース・ティペット夫人なので 70 年以降の作品はジュリー・ティペット名義。
Clive 'Toli' Thacker | drums |
David 'Lobs' Ambrose | bass, acoustic guitar, voice |
Brian 'Aug' Auger | organ, piano, electric piano, vocals |
Julie Driscoll | vocals, acoustic guitar |
69 年発表のアルバム「Streetnoise」。
JULIE DRISCOLL, BRIAN AUGER & THE TRINITY 名義の作品。
内容は、オルガンとヴォーカルをフィーチュアしたパノラマのように多彩な R&B 系ジャズロック。
ノスタルジックな音も交えつつ、ドリスコールのニヒルで腰のすわったヴォーカルをリードに、ブルーズ・フィーリングとフォーキーなペーソスとファンクなグルーヴたっぷりの演奏を繰り広げる。
たぎる熱気と知的なクールネスが矛盾せず、木枯らしに吹かれるフォークと汗臭い R&B が一つ空間にしっくりと収まる英国ロックのマジック。
イケイケドンドンななかにあるサイケデリックな酩酊感、逸脱感と呪術的な怪しさもおもしろい。
哀愁のバラード、詠唱、トラディショナルなフォーク・ソングもあり、繊細な表情になったときのヴォーカルがまたいい。
そして忘れてならないのが、オーガーのオルガン・プレイ。
熱をはらむサウンドとソウルフルにしてイージー・ゴーイング、ワイルドで大胆にして常にキャッチーという海千山千的なプレイが、キレのあるリズム・セクションとともに、モッズ・サイケからソウル・ジャズまでにまたがる時代のムードをしっかりと醸成している。
感傷あふれるモノローグやアヴァンギャルドな表現にもためらいなく突っ込んで、ちゃんと格好をつけられる辺りが、この時代のロックである。
カヴァーのアレンジもいちいち冴えている。
LP 二枚組。プロデュースはジョルジオ・ゴメルスキー。
ドラマーのクライヴ・タッカーは後に NUCLEUS に加入する。
オルガン、ジャズロックのファンには絶対のお薦め。
How Good It Would Be To Feel Free....
「Tropic Of Capricorn」(5:30)クールなオルガン・ロック。オーガー作。
「Czechoslovakia」(6:45)プログレッシヴな作品。 VdGG なみにぶっ飛んでます。ドリスコール作。
「Take Me To The Water」(4:00)一転してアメリカン・ルーツ・ミュージック。個性派ジャズ・シンガー、ニーナ・シモンのカヴァー。
「A Word About Colour」(1:35)アコースティック・ギター弾き語り。ドリスコール作。
Kiss Him Quick, He Has To Part....
「Light My Fire」(4:30)もちろん DOORS です。オルガン、カッコよし。
「Indian Rope Man」(3:00)リッチー・ヘヴンスの作品。やんちゃなガレージ・ジャズ。
「When I Was A Young Girl」(8:00)ドリスコールによるトラッドのアレンジ。詠唱。
「Flesh Failures (Let The Sunshine In)」(3:00)SUPREMES のカヴァー。名曲。
Looking In The Eye Of The World....
「Ellis Island」(4:10)オルガン炸裂。インストゥルメンタル。オーガー作。
「In Search Of The Sun」(4:25)ベーシスト、デイヴ・アンブローズの作品。ヴォーカルも担当。60 年代らしい哲学的でマジカルなバラード。
「Finally Found You Out」(4:35)スインギーでソウルフルなオルガン、ピアノをフィーチュア。90 年代にも流行したソウルジャズ・スタイル。オーガー作。
「Looking In The Eye Of The World」(5:05)幻想的なブルースのピアノ弾き語り。オーガー作。ドノヴァンがやりそうなスタイル。
Save The Country....
「Vauxhall To Lambeth Bridge」(6:20)アコースティック・ギター弾き語り。
ジョニ・ミッチェルからユーミンにまでわたる「下手なのに心地よい」ヴォーカルに近いようでいて、じつはシャーリー・コリンズばりの正統的な発声を酒焼けで荒削りにした歌唱だと思う。
ドリスコール作。
「All Blues」(5:40)「Kind Of Blue」収録のマイルス・デイヴィスの作品に歌詞をつけたもの。
「I've Got Life」(4:30)ニーナ・シモンのカヴァー。ゴスペル調。
「Save The Country」(4:00)ローラ・ニーロの作品。FIFTH DIMENSION でヒット。なんというか、救われる感じ。
(608005/6 / DISC 1905 CD)
Julie Driscoll | vocals, acoustic guitar | ||||
Jeff Clyne | bass | Brian Belshaw | bass, voice | Mark Charig | cornet |
Trevor Tompkins | drums | Barry Reeves | drums | Chris Spedding | guitars, bass |
Jim Creegan | guitars | Brian Godding | guitars, voice | Elton Dean | sax |
Stan Slatzman | sax | Nick Evans | trombone | Derek Wadsworth | trombone |
Bud Parks | trumpet | Keith Tippett | piano, celsta | Carl Jenkins | oboe |
Bob Downes | flute |
71 年発表のアルバム「1969」。
内容は、フォーク、ジャズ、ソウルを縦横無尽に駆け巡るダイナミックな歌ものロック。
ソウルフルだがメランコリックでなおかつクール、しかしそのクールネスは都会的な洗練とは異なる醒めた感覚であり、そのセンスとアコースティック・ギターの響きに象徴される内省的で素朴ですらある詩的なセンスが交わったきわめて独特な作風である。
白昼夢的なうつろさと繊細さが一つになり、さらにはパンチもあって意思の強さもうかがえる歌唱の魅力は格別である。
R&B の狂騒的な熱気とトラッド・ミュージックらしい生活を見据えた無常感とを矛盾なく結びつける声だ。
演奏者は、さながらブリティッシュ・ジャズ・メン総動員。
ジャズロックとして的確な音を配して、ソウルフルな歌唱とあわせたトータルな空気感を作り上げている。
彼女はミュージシャンに愛されたパフォーマーだったのでしょう。
ギター弾き語りによるトラッド風のフォークソングの味わいも際立ち、そのソフトな歌唱から浮かび上がるゴスペル的なたくましさには、アレサ・フランクリンが透けて見える。
ドリスコールの歌唱力がさまざま音楽をナチュラルにまとめあげた、歌い手としての理想というべき作品。
プロデュースはジョルジオ・ゴメルスキー。ジョニ・ミッチェルなど女性ジャズ/フォークシンガーのファンにはお薦め。
「A New Awakening」(3:50)スペディングが弾き捲くるアッパーな英国ロック。
「Those That We Love」(4:49)ほのかにエキゾティックな正調英国フォーク。挽歌のような無常感をチェレステの響きが彩る。
「Leaving It All Behind」(4:50)管楽器が支えるジャジーなバラード。本格派の英国ブラス・ロックである。
伸びやかなアルトはスタン・サルツマン、雅なオーボエはカール・ジェンキンズ。
「Break-Out」(5:22)ジム・クリーガンのギターが冴えるブルーズ・ロック。これ以上ハマり得ないヴォーカル。カッコよすぎ。
「The Choice」(6:00)圧巻の歌唱パフォーマンスを披露するスケールの大きなギター弾き語り。ボブ・ダウンズのフルートによるファンタジックな響きが歌を支える。モダン・トラッドというべき名曲。
「Lullaby」(4:23)ゴディングのギターがオブリガートするひそやかな弾き語り。
「Walk Down」(4:16)弾き語りをアレサ・フランクリンばりのソウル・ミュージックへと昇華。サックスはエルトン・ディーン。
「I Nearly Forgot - But I Went Back」(5:10)
(2383 077 / DISC 1966 CD)
Elton Dean | alto sax | Brian Belshaw | bass |
Harry Miller | bass | Mark Charig | cornet, horn |
Louis Moholo | drums | Brian Godding | guitars |
Keith Tippett | piano, harmonium | Nick Evans | trombone |
Julie Tippett | voice, piano, acoustic guitar, drums, tambourine |
75 年発表のアルバム「Sunset Glow」。
内容は、スピリチュアルというべきほどに気高く、なおかつ幻想的な歌ものフリー・ジャズロック。
ヴォーカルは、ソウルをやや抑えてジャズに傾倒。
管楽器、ピアノの集団即興とスキャットは、時に夢見るように、時に激情をほとばしらせて、音楽の神の供宴に捧げられる。
フリージャズからの突破口を、クロスオーヴァー的な表現ではない表現方法で追い求めているようだ。
リズムレスの弾き語りにも、フォークであると同時にミニマリズムやアトーナルな実験のニュアンスもある。
アコースティック・ギターも、弾き語りの伴奏であるとともに、ジャズの即興としての機能をも果たし始める。
ティペット氏も全編で躍動し、テクニカルなプレイも炸裂する。
そして、安易にアカデミズムに寄るような、奇を衒った感じがしないのは、R&B やブルースといった地に足の着いた街場の音が根っこにあるからだろう。
(誰とはいわないが、現代音楽風を気取った女性ミュージシャンと比べると存在感の太さ、たくましさが段違いである)
旧 A 面はフリージャズ・ロック、B 面は従来からの一面であるフォーク的な歌ものにより大胆な和声を盛り込んだ作品になっている。
KING CRIMSON の「Islands」を初めて聴いたときと同じ感動がありました。
歌唱表現は、ジョニ・ミッチェルを意識しているようだ。(この時代ミッチェルを意識しない先鋭的な女性ヴォーカリストはいただろうか)
全体としては、抑制された静けさと厳しさのある作風である。
プロデュースはジョルジオ・ゴメルスキー。
「Mind Of A Child」(5:08)
「Ocean And Sky (And Questions Why?)」(5:16)
「Sunset Glow」(7:51)
「Now If You Remember」(1:55)
「Lillies」(5:43)神秘的な歌もの。
「Shifting Still」(4:21)ギターの変拍子アルペジオとしたたるようなピアノによる美しくも異形のインストゥルメンタル。
カンタベリーのセンスと通じる。
「What Is Living」(2:28)一人二重唱による、やや開放感のある弾き語りオルタナティヴ・ロック。
繰り返されるハーモニーのおかげで 4AD 系のニューウェーヴぽいゴシックなデカダンスもあり。75 年でこれはかなり早い。
「Behind The Eyes」(5:13)ささやくようなピアノ弾き語り。
ロバート・ワイアットに献辞された作品のようだ。
(UTS 601 / DISC 1967 CD)