イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「KING CRIMSON」。
60 年代末に結成、現在も先鋭的なサウンドで活動を続ける。
短 2 度、増 4 度、8 分の 6 拍子、ストラヴィンスキー、バルトークの諸作がすべて KING CRIMSON に聴こえてしまう人も多いはず。
2015 年 12 月来日。KING CRIMSON が好きなら DONOVAN も聴こう。
Robert Fripp | guitars |
Ian McDonald | flute, sax, clarinet, keyboards |
Greg Lake | bass, lead vocals |
Michael Giles | drums, percussion |
Peter Sinfield | words, illumination |
69 年発表のアルバム「In The Court Of The Crimson King」。
あらゆるプログレッシブ・ロックの出発点、アンカー・ポイントといえる作品の一つ。
オープニングの「21st Century Schizoid Man/Mirrors」から終曲「In The Court Of The Crimson King」まで、ジャズの激情/狂気とクラシックの叙情/荘厳さをロックに取り込んだ途轍もない音楽になっている。
荒々しいリフで幕を開ける「21st Century Schizoid Man/Mirrors」は、狂気のフレーズを吐き出すギター、そのギターに絡みついて吠えるサックス、柔らかなタッチの生み出す引き締まったリズム・セクションが、ブルースとジャズの火の粉を飛び散らせて狂乱のインストゥルメンタルを繰り広げるブリティッシュ・ロックの金字塔。
暴力的な決めのユニゾンと受けて立つドラムスが生み出す緊迫感とカタルシスは言葉では表しきれない。
次曲「I Talk To The Wind」はフルートとメロトロンの妙なる響きが生み出すジャズ・フォークのバラード。
魔訶不思議な叙情味と寂寥感を湛えて前曲の熱狂を癒す。
そして A 面を締めくくる「Epitaph」では雄大重厚なシンフォニーにのせて絶望に満ちた物語が詠われる。メロドラマ風の悲壮感に若々しさが加味されて胸を打つ。
これらの楽曲は同時代のブリティッシュ・ロックと比べるとアイデアや完成度の点で飛び抜けている。
B 面の「Moonchild」では、A 面で見せた完成された作曲と対照するようにマイルス・デイヴィスに迫るテンションと神秘的な色彩美あふれるインプロヴィゼーションを展開(同時期のジョン・サーマンにも共通する)。
この即興演奏は後々まで本グループの特徴となる。
そして終曲「In The Court Of The Crimson King」では轟轟たるメロトロンの響きとともに嵐の中に屹立する古城のように壮麗なるシンフォニーを真正面から奏でる。
堂々たる大団円だ。
プロローグのノイズのような音の意味や、どのようなアイデア、モチーフから出発してこのように優れたアルバムが作れたのか、など興味はいまだ尽きない。
個の意識拡大の試みに惨敗を喫し、無常感を燻らせた 60 年代の灰塵の中から現れて、来るべき時代も絶望に満ちるであろうという恐怖の予言を唱え、不気味に微笑みながら新時代の幕を開けた作品であった。
あまりにさまざまに語られたせいか、こういった作品は聴いていないのに聴いたつもりになっている人も多いのかもしれない。
会社、学校、家事育児などは休んで、居住まい正して聴いてみましょう。
邦題は「クリムゾンキングの宮殿」。
「21st Century Schizoid Man including Mirrors」(7:20)
「I Talk To The Wind」(6:05)
「Epitaph including March For No Reason and Tomorrow And Tommorow」(8:47)
「Moonchild including The Dream and The Illusion」(12:11)
「In The Court Of The Crimson King including The Return Of The Fire Witch and The Dance Of The Puppets」(9:22)
(ILPS 9111 / EGCD 1)
Robert Fripp | guitar, mellotron, devices |
Keith Tippett | piano |
Peter Giles | bass |
Mel Collins | saxes, flute |
Greg Lake | vocals |
Gorden Haskell | vocals |
Michael Giles | drums |
Peter Sinfield | words |
70 年発表のアルバム「In The Wake Of Poseidon」
は、「Peace」と名づけられた小品がナビゲーションする構成面をほかは、音楽的なヴァリエーションという意味で、概ね前作の延長上にある作品である。
新メンバーとして英国フリー・ジャズ・シーンの気鋭ピアニスト、キース・ティペットが新風を吹き込み、さらに、脱退したイアン・マクドナルドに代わってメル・コリンズがサックス奏者として加入した。
ベーシストとしてピーター・ジャイルズが加入し、レイクはヴォーカリストに専念した。
「21世紀」の変奏とも解釈できる狂った歯車の暴走のようなインストゥルメンタルが強烈な「Picture Of The City」や、レイクの厳かなヴォーカル表現と決然たるメロトロンの調べが感動を巻き起こすシンフォニックなタイトル曲に加えて、ホルストの「火星」をモチーフに轟々たるメロトロンの多重録音が魔術的な展開を繰り広げる大作「Devil's Triangle」など重厚な作品が並ぶ。
「Devil's Triangle」の終盤の渦を巻くような混沌には、そのまま次作につながる感触がある。
デフォルメされたヴォーカルが生む独特のブラック・ユーモアと先鋭的なフリー・ジャズ・ピアノが印象的な「Cat Food」で見せる一種の乱調美は、このグループの新たな一面といえるだろう。
フリップとマイケル・ジャイルスがジャジーなプレイで応戦するのも聴きものだ。
そして、「Cadence And Cascade」では、ヴォーカルにゴードン・ハスケルを招いて、イアン・マクドナルドによる主題を発展させた繊細な夢想美を描いている。
素朴な歌唱は心の奥底の幼年期の記憶を優しくたどってゆくようだ。
前作のなぞり直しという印象が強いものの、ティペットの演奏に代表されるようにジャズの奔放さによる開放感が新しい魅力を生んでいる。
メル・コリンズの嗜好なのか、ファラオ・サンダースの「Karma」に近い世界を見せる場面もある。
おそらく、即興演奏に無類の強みを発する KING CRIMSON の真の姿を垣間見せたスタジオ・アルバムなのだろう。
個人的には、グレグ・レイクが全作品のヴォーカルを取れなかったのが少し残念。
本作を最後にジャイルズ兄弟はグループを脱退し、すでに独立していたマクドナルドとともに McDonald & Giles を結成する。
邦題は、「ポセイドンのめざめ」。
「Peace - A Beginning」(0:49)レイクのアカペラ。
「Pictures Of A City including 42nd At Threadmill」(8:03)中盤からのインプロ・パートのえもいわれぬ謎めいたムードがいい。
「Cadence And Cascade」(4:27)McDonald & Giles の作品「Flight Of The Ibis」は双子の兄弟。
「In The Wake Of Poseidon including Libra's Theme」(7:56)KING CRIMSON 節ともいえる厳かなるメロトロン・バラード。キメのベンディングが独特なフリップのアコースティック・ギターのプレイとジャイルズの表現力豊かな丹念なドラミングを聴くことができる。
「Peace - A Theme」(1:13)淡い色合いのフリップのアコースティック・ギター・ソロ。
「Cat Food」(4:34)フリー・ジャズ風のアヴァン・ポップ。ティペットの独壇場。後半フリップも応戦する。英国らしいジャズとフォークの邂逅がここにもある。
「The Devil's Triangle」(11:39)ノイズ・ミュージック的なアプローチも見せる大胆なボレロ。混沌と荒廃。スネア・ロールが銃撃の音に聴こえる。前作の最終曲のコーラスもコラージュされる。後期 BEATLES 的ともいえる。
「(i) Merday Morn」
「(ii) Hand Of Sceiron」
「(iii) Garden Of Worm」
「Peace - An End」(1:53)レイクの身を削るように物寂しいアカペラが再現されるも、ギターの登場とともに暖かな風が流れ込んで穏やかにアルバムを締めくくる。高音のハーモニーは誰?レイクのファルセット?
(ILPS 9127 / EGCD 2)
Robert Fripp | guitars, keyboards |
Mel Collins | flute, saxes |
Andy McCulloch | drums |
Gorden Haskell | bass, vocals |
Peter Sinfield | words, pictures |
guest: | |
---|---|
Robin Miller | oboe, cor anglais |
Mark Charig | cornet |
Nick Evans | trombone |
Keith Tippett | piano, electric piano |
Jon Anderson of YES | vocals |
70 年発表のアルバム「Lizard」。
フリップ、シンフィールド以外のオリジナル・メンバーがすべて去り、実質的に KING CRIMSON は解体された。
しかし、音楽そのものは強い影響力をもち、煮えたぎる情熱と混沌を孕んだままミュージシャンたちの中で偉容を保ち続けたようだ。
フリップを中心に多くの英国ジャズ・シーンのサポートを得て制作された本作は、大幅な管楽器セクションの導入によって、モダン・ジャズ、フリー・ジャズ、そしてポスト・フリーの世界をにらんだ、美しくもエキセントリックな英国らしい音楽世界となった。
アルバムは、前二作と同様に衝撃的な作品「Cirkus」で幕を開ける。
荒ぶるアコースティック・ギターをフィーチュアし、ブラスやメロトロン、初期型シンセサイザー、独特の逸脱感を孕むヴォーカルらが、繊細な叙情をにじませつつも気紛れで邪悪なパワーを迸らせどこまでも捻じれていく。
前作のティペットの参加で示唆された新たな前衛ジャズへの志向を明確にした、まさしく異形の音楽である。
狂気が吹き荒れる物語の中で官能的な管楽器とピアノの調べに酔いしれることができる。
アコースティックな音のつややかで繊細なニュアンスを活かしながら、巨城に閉じ込められた霊魂たちの夜毎の饗宴のように不気味で混沌とし、なおかつアヴァンギャルドで無秩序なイメージを暴力的に突きつける。
二番煎じよりも優れた三番煎じ。
名ドラマー、マックローチの前任者を意識したであろう巧みな打撃技、頑是ない幼子のささやきのように繊細で愛らしいコアングレズ、夜露をぬぐうつむじ風のようなトランペットの音色にも注目すべし。
さまざまなフレーズの断片がゆっくりと渦を巻くように眩惑的なインストゥルメンタルを繰り広げる「Indoor Game」でも、新しいジャズ・サウンドへの希求は現れている。
きめ細かく音色を組み合わせたユーモラスなインプロヴィゼーションの応酬や緻密なドラミングが堪能できる。
ギターはアコースティックとエレクトリックを使い分けて、互いに反応しあう表現もある。
間奏部のアドリヴの反応の薄さや緻密なビートの常時供給、サイケデリックな電子ノイズの唐突な挿入など、フリー・ジャズになり切れないところがおもしろい。
ヴォーカリストの評価は分かれるところだが、「Happy Family」のようなブラック・ユーモアのある作品では、ハスケルのネジの外れたヴォーカルが生きていると思う。(フリップ卿はお気に召さぬようだが)
もっとも、本曲の焦点は、ティペットの鮮烈過ぎるピアノのプレイとコリンズのフルート、チャリグ、エヴァンスらによる「耽美的フリー・ジャズ・セッション」のようなバッキングと間奏部にある。アンサンブルは狂おしくも美しい。
ジャズとしてのエネルギーは前曲を上回る。
小品「Lady Of The Dancing Water」は、透明でナイーヴなフルートの調べが印象的な、繊細な美しさを湛えた佳品であり、こういう曲では、たしかにレイクの美声が懐かしくなってしまう。
エチュードを思わせる小さな楽曲は、名付けるまでに至らない幼くデリケートな思いで組上げられた細工物のようである。トロンボーンの響きも暖かい。
組曲「Lizard」は、重厚なメロトロンとブラス、透徹な木管、ボレロのリズムが生み出すカラフルな交響曲とジャズ・アンサンブルが交錯し、夢想的なヴォーカル・パートを経て、緊迫感にあふれた怪奇なアンサンブルへと展開してゆくスリリングな野心作である。
典雅なクラシックと猥雑なジャズを行き交ううちに見たことのない景色が目の前に広がり、サテュロスのいななきのように不気味なパワーでにじり寄るユニゾン・リフ、連鎖反応で遊爆を続けるブラス、湿り気を帯びた古い呪文を吹き上げるメロトロン、無限に崩れ続けるピラミッドのようなドラミングにさらされるうちに、そこが KING CRIMSON という魔術師が築いた異世界であることに気づかされる。
独特のカラフルなエキセントリシティには、ベラ・バルトークの「舞踏組曲」や「中国の不思議な役人」辺りからの影響もあるようだ。
ヴォーカルの課題を解くかの如く、第一楽章では YES のジョン・アンダーソンがゲスト・ヴォーカルとして迎えられ、格調高いピアノのもとに幽玄なバラードを彩る。
リラックスした甘やかなコーラスとの鮮やかな対比、メロトロン・ストリングスとともに悠然と高まる結末もいい。
アンダーソンのヴォーカルにはフォーク風の純朴さや逞しさにとどまらない、神懸り風のいかがわしくもカリスマ風のニュアンスがある。
第二楽章は、コルネットによるファンファーレで幕を開け、朝露を震わすようなコ・アングレス、悩ましきオーボエが描く淡くクラシカル世界が、ピアノと管楽器によるジャズ・コンボへと目覚め、やがて一つにまとまって、ジョー・ザヴィヌルやチック・コリアが夢見た世界に近づく英国ジャズらしい逸品。
第三楽章は、遠い記憶を呼び覚ますようなオーボエの調べに空ろな悲嘆が重なる序章から、メロトロン、ギター轟々と唸って波乱を告げ、KING CRIMSON の代名詞たるヘヴィなリフを巡って歪なインプロヴィゼーションが繰り広げられる。
幾度かの狂気の沈黙と噴出を経て、暗く重苦しい裁断の時を迎え、うねるギターがその呪文が営々と世界に刻み込んでゆく。
そして、ジャズのエネルギーを飲み込んで肥大し、触手を伸ばし続ける異形のアンサンブルが、「Big Top」にてメリーゴーランドのように回りながら無限の彼方へと吸い込まれて消えてゆくと、聴き手は一人忽然と取り残されて悪夢の名残を噛み締めて汗をぬぐうのだ。
ジャケット同様、全体に、中世暗黒時代を連想させる古典的な美感とフリー・ジャズの狂おしく現代的なエネルギーが錬金術のように混ぜあわされ、摩訶不思議な御伽噺のようなイメージを抱かせるアルバムとなっている。
鮮やかに響き渡るコルネットやオーボエがいつまでも耳に残る。
巷では評価の分かれる作品だが、僕は THE BEATLES の傑作の暗黒面をデフォルメしたような絶品だと思います。
この雰囲気には初期の GENESIS に通じるものもあるし、おそらくそれは英国の伝統に根ざしているのだろう。
キライな人は何年か経験つんでから、また聴き直してみてくださいね。
収録時のメンバーが短期間のうちに脱退したため、ライヴ演奏がほとんどされていない楽曲の多い作品でもある。
「Cirkus including Entry Of The Chameleons」(6:28)
「Indoor Games」(5:41)
「Happy Family」(4:16)
「Lady Of The Damcing Water」(2:44)
「Lizard」
「(a) Prince Rupert Awakes」(4:36)
「(b) Bolero - The Peacock's Tale」(6:39)
「(c) The Battle Of Glass Tears including :」(10:58)
「(i) Dawn Song」
「(ii) Last Skirmish」
「(iii) Prince Rupert's Lament」
「(d)Big Top」(1:13)
( / EGCD 4)
Robert Fripp | guitars, mellotron, Peter's pedal, harmonium, sundry implements | ||
Mel Collins | flute, bass flute, saxes, vocals | ||
Boz | bass, lead vocals, choreography | ||
Ian Wallace | drums, percussion, vocals | ||
Peter Sinfield | words, sound, vision | ||
guest: | |||
---|---|---|---|
Keith Tippett | piano | Paulina Lucas | soprano |
Robin Miller | oboe | Mark Charig | cornet |
Harry Miller | string bass |
71 年発表のアルバム「Islands」。
では、前作に続いてジャズ・ミュージシャンがゲスト参加。
前作まで比べると、アコースティック・アンサンブルの繊細な美しさに力点が置かれた結果、パワフルなフリー・ジャズ色よりも静謐なサウンドの印象が強い内容となっている。
RETURN TO FOREVER が翌年開花させる音楽性に、いち早く到達していた感すらある本作は、マイルス・デイヴィスに始まるポスト・フリーの流れが、英国でもイアン・カー、SOFT MACHINE、キース・ティペットらによってしっかりと受け止められていたことを示す一例だろう。
また、ロバート・フリップがプロデュースしたティペットのジャズ・オーケストラの音楽との相互作用もあったのかもしれない。
オープニング「Formentera Lady」は、まさに最初期 RETURN TO FOREVER を思わせるジャズ・アンサンブルによるアコースティック・インプロヴィゼーションの謎めいた、東洋的ともいえそうな響きの美しさに魅せられる名作。
ティペットの奔放にして瑞々しいピアノ、気まぐれなフルート、アルコも駆使するハリー・ミラーによる神秘的なダブル・ベース(バール・フィリップスを思わせるところもある)、ポリーナ・ルーカスの呪術的なソプラノ・ヴォイス、などなどすべての音が、妖しく緩やかに結びついて、幻影のような nowhere の風景が描かれている。
また、KING CRIMSON 節ともいえる邪悪で神経症的な 8 分の 6 拍子にドライヴされてギターが火を吐く次曲「Sailor's Tale」は、アコースティックな叙情性が基調の本アルバムではそのエレクトリックな攻撃性で際立った存在感を放つ。
サックスとギターのロング・トーンによる付かず離れずのユニゾンは、荒々しい即興のぶつかり合いへと発展し、ヒステリックにかき鳴らされるギターとメロトロン・ストリングスは、星々の海を
煮えたぎらせて新しい星雲を生み出す。
ここに「太陽と戦慄」の原型を見ることも可能ではないだろうか。
このオープニングの二作品が鮮やかな好対照を成し、さらには、耽美な一曲目のラストで、煮えたぎる次曲のテーマがすでに静かに奏でられている。
おそらく、両者は互いに変奏曲であり、ヤヌスのようにこのバンドの二面性を現している。
ほかにも、ピーター・ハミルにも通じる悲哀と怪奇趣味が混ざった歌詞と暴力的なダイナミクスの演奏が特徴的な「The Letters」や、"悪魔の BEATLES" と謳われた「Ladies Of The Road」におけるポップ・ソングを歪曲させたパロディなど、エキセントリックなイメージの中にある美を抉り出すような作品が並ぶ。
前者は、フリージャズの破天荒さや無秩序さをバラードに封じ込めるという珍しい荒業が成功している例だと思う。
後者は、前作「Lizard」の世界に近い、ユーモアとアイロニーとペーソスと凶暴、怪奇が交差した英国気質丸出しの作品である。
管弦楽の演奏によるクラシック作品「Prelude: Song Of The Gulls」を経て、なんといっても白眉は、ボズ・バレルの美しいヴォーカルをフィーチュアし、静けさと気品に満ちたタイトル曲「Islands」だろう。
バス・フルートやコルネット、オーボエ、ピアノ等、アコースティックな響きをフィーチュアしたサウンドは、繊細なヴォーカルとあいまって、シンフォニーというにはあまりにたおやかであり、黄昏の淡い光とやがて訪れる深い闇の予感をイメージさせる作品になっている。
ジョン・ダンの「誰がために鐘は鳴る」を思わせる歌詞のなんと美しいことか。
この、KING CRIMSON のアルバムに一貫して現れた彼岸的かつシンフォニックな作風は、再結成後にはバンドのサウンドの特徴の一つとしてジョン・ウェットンの手で引き継がれてゆき、「Starless」に結実することになる。
また、本作はピート・シンフィールドにとって最後の参加作品となったが、作詞の才能はここでもいかんなく発揮されている。
じつは、彼の個性こそが初期 KING CRIMSON に漂う繊細なリリシズムの源泉なのでは、と改めて思わせるところもある。
さて、本作で英国ジャズのアコースティックな響きに魅せられた方には、キース・ティペット主導の CENTIPEDE による「Septober Enegy」やジョン・サーマン(John Surman)の Deram 録音作「Tales Of The Algonquin」、さらにはマイク・ウエストブルックの名作「Metropolis」などをお薦めする。
「Formentera Lady」(10:16)
「Sailor's Tale」(7:34)
「The Letters」(4:32)
「Ladies Of The Road」(5:35)
「Prelude: Song Of The Gulls」(4:15)
「Islands」(11:54)LP にはなかったが、CD には最後にオーケストラの収録の様子の断片が入っている。
(ILPS 9175 / EGCD 5)
72 年 2、3 月に全米ツアーを敢行、そこでの演奏を収録したライヴ・アルバムを残していわゆる第二期 KING CRIMSON は終焉を迎える。
その鎮魂歌に相応しく、このライヴ・アルバム「Earthbound」(HELP 6 / PCCY-01615) ではガレージでのブルース・ジャム・セッションのような荒々しい演奏が取り上げられている。その結果、スタジオ盤のもつ緻密さが生む緊迫感とは別のエネルギーを放射する稀有の作品となった。
アナログ時代に日本では発売されなかったので、輸入盤を探し回ってようやく入手したのが懐かしい。
Robert Fripp | guitars, mellotron, devices |
Jamie Muir | percussion, allsorts |
John Wetton | bass, vocals |
Bill Bruford | drums |
David Cross | violin, viola, mellotron |
72 年発表のアルバム「Lark's Tongues In Aspic」。
ヴァイオリンとパーカッションの導入に加え、メンバーの刷新を図って到達した、音楽的実験の頂点となる作品である。
嵐のように猛威を奮うパーカッション、感情移入を拒絶する無機的なフレーズを繰り出すギター、狂気を迸らせるヴァイオリン、そしてヘヴィかつ変則的なリズムを叩き出すドラムスとベースが創出した音楽は、きわめて非人間的であり誰も耳にしたことのない、現代的なものだった。
本作こそは、インプロヴィゼーションを重視し、パーカッシヴでテンションの高い、いわば「フリー・ロック」とでもいうような新たな音楽へと進化した KING CRIMSON の生み出した最高傑作であり、YES から移籍したビル・ブルフォードに代表される先鋭的な音楽技術集団としての面目躍如たる作品といえる。
ミューアのパーカッションの呪文が衝撃的なインストゥルメンタルを呼び覚ます「Lark's Tongues In Aspic Part One」は、ヘヴィ・メタリックかつエキゾチックな響きを持った現代音楽調インプロヴィゼーション。
「21世紀」以来久々の強烈なインパクトを持つ作品である。
この作品を初めて聴いたときの衝撃は、忘れることができない。
続編である「Lark's Tongues In Aspic Part 2」は、うねる奇数拍子の上で攻撃的でメタリックなリフと虚空へ放たれんとするフレーズが絡みあい、破壊的ながらもドラマをもつ究極のヘヴィ・メタリック・チューン。
「Talking Drum」から「Part Two」への流れには音楽体験の原点といえるカタルシスがある。
またジョン・ウェットンの男性的なヴォーカルをフィーチュアし乾いた叙情を湛える「Book Of Saturday」や、前期 KING CRIMSON を彷彿させるアコースティック・アンサンブルが美しい「Exiles」も、この過激な作品の内にあって一層の輝きを放っている。
本作は、フリップのギター・サウンドと鉄壁のリズム・セクションを核とした、革新的なヘヴィ・メタリック・インプロヴィゼーションが新たな時代の始まりを宣言する、新生 KING CRIMSON のデビュー・アルバムといえるだろう。
無比のオリジナリティと、まったくといっていいほど古さを感じさせないサウンドは、いまだに驚愕の的だ。
クラシックをベースにしつつもスコアにとどまらず、あくまでフレット上でのインスピレーションを大事にするフリップの姿勢は、ギタリストとして尊敬すべきものであろう。
また、推測だが、本作のアイデアには WEATHER REPORT、MAHAVISHNU ORCHESTRA らの音楽が寄与していると思う。
なお、ジェイミー・ミューアは、本作以前デレク・ベイリーの THE MUSIC IMPROVISATION COMPANY で活動している。ブルフォードの師匠役含め起爆剤としてはあまりにハマった人選といえる。アフリカン・ロックの ASAGAI でも活動しており、「Part 1」冒頭の異国的なパーカッションはこの辺りから来ている可能性がある。
邦題は、「太陽と戦慄」。
「Lark's Tongues In Aspic, Part One」(13:37)ロック・インプロの完成形の一つ。冒頭はカリンバ?
このギターのフレーズのせいで、クラシックギターを練習する気になりました。
「Book Of Saturday」(2:56)ウェットンのメロディ・メイカーとしての感性をみごとに示した小品。
「Exiles」(7:42)叙情美。フルートはデヴィッド・クロスの演奏らしい。レイクが歌ったら二作目にあっても違和感なし。
「Easy Money」(7:54)間奏部の頭のアナーキーなギター・ソロ、中盤のブルージーなジャムのグルーヴなど聴きどころは多い。
「The Talking Drum」(7:26)元祖ドラムンベース。エンディングから次曲への渡しは、多くの人が語っている通り、これ以上はあり得ない完璧さ。
「Lark's Tongues In Aspic, Part Two」(7:08)ヌオーヴォ・メタルはここから。
異星の宗教儀式か、はたまた群れる重機の労働歌か。
ヤケクソになって投げ出そうとしてもそれすらうまくできない、どうしようもなく不器用でギクシャクした感じが好きです。
(ILPS 9230 / VJCP-2305)
Robert Fripp | guitars, mellotron, devices |
John Wetton | bass, vocals |
Bill Bruford | percussives |
David Cross | violin, viola, keyboards |
74 年発表のアルバム「Starless And Bible Black」。
ライヴでのインプロヴィゼーションとむしろ第一期に近い構成のスタジオ・テイクを混在させた作品である。
叙情的な作品はほぼ姿を消し、張り詰めた緊張と重く強烈なインパクトのある楽曲が並ぶ。
アルバム全体を通すとややばらつきを感じるものの、フリップのメタリックなギターを中心とした前衛即興アンサンブルがミューア脱退後も成長しているのは間違いない。
メロディアスな楽曲においてすらそのパフォーマンスには異常なまでに緊迫感がある。
発表時には「一部がライヴ録音である」という程度の説明であったと思うが、後のフリップのインタビューでほぼアルバム全体がアムステルダムでのライヴ録音への若干の手直しということが判明してファンを驚愕させた。
オープニングの「Great Deceiver」は、アナーキーなギター・リフと落差大きく律動するリズムでぎりぎりと迫るパンキッシュなヘヴィ・チューン。緩急など初期のオープニング曲を彷彿させる構成だ。
そして、ウェットンの巧みなヴォーカルとオリエンタルなエキゾチズムが香るアンサンブルによる「The Night Watch」は、メタリックな楽曲が群れなす中で一際メロディアスにロマンティックに響く。
とはいえ緊張感や苛立ちはそこからも隠すべくもなく見えてくる。
唯一心底から安らぎを与えてくれるのが、「Trio」と名付けられた小品。
ヴァイオリンとメロトロンそしてベースのアルペジオが織りなす、典雅にしてデリケートな世界である。
そして、アルバムのラストを飾るライヴ・テイクの大作「Fracture」は、後期の優れたインプロヴィゼーションとして、前期の「Moonchild」と双璧をなすと同時に、KING CRIMSON サウンドの最終到達点として圧倒的な迫力でそそり立つ象徴的な作品でもある。
この作品は言葉で云々できない。
ただ音を浴びるしかない。
一言添えるならば、本曲はギタリストとしてメカニックの限界に挑んだものでもあるということだ。
KING CRIMSON の前身である Giles Giles & Frip の唯一作に収録された「組曲第一番」のパターンの、高度な応用であることも分かるだろう。
ヘヴィ・メタリックなインプロヴィゼーションの表現力は飛躍的に向上し、多様な曲調を緊張感と厳粛さでもって描き切る。
パーカッシヴで巨大な即興演奏は比類無い緻密さと荒々しさでそそり立ち、桁外れのパフォーマンスの充実と裏腹にその未来に対しては絶望感が漂う。
アヴァンギャルドという観点では最も進んだ作品だ。
そして改めて、MAHAVISHNU ORCHESTRA や LIFETIME と同列に語るべきエレクトリック・ジャズの極北としての内容があると思う。邦題は「暗黒の世界」。
「The Great Deceiver」(4:03)狂気の果ての哄笑のように不気味なへヴィ・チューン。単語を並べた即物的な歌詞は十年後の作品にも表れる。
「Lament」(4:01)アナーキーな中にブルーズ・フィーリングも漂う歌もの。業界内幕風の歌詞が面白い。
「We'll Let You Know」(3:41)クロスによるエレクトリック・ピアノがよく聴こえるようにリミックスされると、今更ながらに、マイルス・デイヴィスの作品への意識が感じられる。即興。
「The Night Watch」(4:40)美しくはかない傑作。
「Trio」(5:38)メロトロン、ベース、ヴァイオリンによる三重奏。ブルフォードはスティックを握って祈るように立ち尽くしていたそうです。「Islands」の抒情性の残滓。
「The Mincer」(4:08)ギターが出てくるまでは、SOFT MACHINE によく似ている。
「Starless And Bible Black」(9:10)クロスはエンディングまではメロトロンに注力。
「Fracture」(11:14)高速アルペジオ練習曲。
(ILPS 9275 / VJCP-2306)
Robert Fripp | guitars, mellotron |
John Wetton | bass, voices |
Bill Bruford | percussives |
guest: | |
---|---|
David Cross | violin |
Mel Collins | soprano saxophone |
Ian Mcdonald | alt saxophone |
Robin Miller | oboe |
Mark Charig | cornet |
74 年発表のアルバム「Red」。
遂に編成はトリオへと縮退し、旧友イアン・マクドナルドやデヴィッド・クロスをゲストで迎えて製作された。
タイトル曲「Red」は、減音階の上をメタリックなギターが這いずり、うねり、爆発する、まさに臨界状態そのもののような緊張感をもつインストゥルメンタルの名品。
「Lark's Tongues In Aspic Part 2」と同じく、轟々たるリフが圧倒的なパワーで襲いかかり、ライド・シンバルのざわめきが異常なまでの緊張感を煽る。
ベースやギターの低音は獲物を屠る牙のように凶暴だ。
前曲の余韻のままに幕をあける「Fallen Angel」は、詩情豊かなヴォーカルを中心にアグレッシヴなアンサンブルがきわめて繊細な表現を見せる名バラード。
全体を貫くのは怒りに満ちたギターの轟音だが、その向うに哀しいまでに切実なメロディが響く。
ヴォーカルを彩るオーボエがどこまでも切なく美しい。
現代の KING CRIMSON クローンが依拠するのは、まさしくこのサウンドである。
エドガー・アラン・ポーを連想させるタイトルをもつ「One More Red Nightmare」は、かつてのオープニング曲のようにヘヴィなリフがリードする作品。
後期 KING CRIMSON のメタリック・サウンドで奏でる「21世紀」といったところか。
コリンズのソプラノ・サックスとギターが狂おしい交錯を見せる。
「Providence」は前作を思わせる即興曲。
当時は分からなかったが、こういった演奏こそが KING CRIMSON の生の姿なのだ。
タイトルからしてもおそらく米国でのライヴ録音ではないだろうか。
終曲「Starless」は、暗黒の世界にこだまする力強い歌と美しい詞が一つになった、バンドからの最後のメッセージである。
ヘヴィな反復が一気にジャズ色の強い即興演奏へと発展し、やがてテーマへと収束、ドラマチックにエンディングを迎える。
KING CRIMSON たるべきスタイルを意識的に再現しているような面もあるものの、感動しないといえば嘘になる。
全編を通して、見事なまでにアンサンブルは計算し尽されており、どの作品も隅々まで神経のゆき届いた緻密なタッチで仕上げられている。
各メンバーのプレイもすばらしく、特にブルフォードのドラミングは、荒々しさと緻密さという相反する要素をまとめ上げた好演奏になっている。
前二作が実験的/過渡的であったのに対して、このアルバムは個々の楽曲の完成度、分かりやすさという点で抜きんでているといっていい。
逆に既にバンドの前進は止まっており、動きを失ったことによって、静止画のようにすべてをさらけ出しているともいえるのではないか。
聴きようによっては、すでに解散が予定されていたからこその捨て身によるクオリティとも取れる作品だ。
いずれにせよ、アグレッシヴなサウンドとミステリアスなインプロヴィゼーション、そして荒れ果てた叙情を交錯させた独特の音楽を完成させて、頂点に達した第三期 KING CRIMSON も、このアルバムで終焉を告げることになる。
「Red」(6:16)
「Fallen Angel」(5:58)傑作。
「One More Red Nightmare」(7:07)
「Providence」(8:06)
「Starless」(12:18)
(ILPS 9308 / EGCD 15)
80 年代以降は「Discipline」のシーケンサーの如き変拍子ギター重奏にびっくりさせられたものの、初めて「21世紀」を聴いたときほどの衝撃には至らなかった。
とはいえ、時代の音楽を的確に捉え、エイドリアン・ブリューというギタリストの参画に象徴されるような新しい表現手法にチャレンジするフリップの姿勢には、逞しさを感じたし、なによりその複雑怪奇な音楽をちゃんとライヴで再現しているのに驚いた。
スティック、シモンズ・シンセサイザー・ドラムスそしてフリッパートロニクスと、新たなテクノロジーを積極的に取り入れるところにも、バンドのいやフリップの貪欲なまでに積極的な姿勢が感じられる。
但し、あっけらかんとしたブリューのヴォーカル・スタイルと、霊験あらたかなるタイトルを持ち出した「Lark's Tongues In Aspic Part 3」には少し失望させられた。
Adrian Brew | guitar, lead vocals |
Robert Fripp | guitars, devices |
Tony Levin | stick, bass, support vocals |
Bill Bruford | batterie |
81 年発表のアルバム「Discipline」。
「Drive To 1981」なるキーワードとともに現れたまさかの復活作は、アメリカ人ギタリスト、エイドリアン・ブリューとピーター・ゲイブリエルの作品にも参加したセッション・マン、トニー・レヴィンそしてビル・ブルフォードというフォーメーションによるテクニカル・エスニック・ロックともいうべき内容である。
ポリリズム、シーケンス、ギター・シンセサイザー(フリッパートロニクス)、エレクトリック・ドラムス、スティックなどの新奇な技巧とテクノロジーを操り、ニューウェーヴ、ワールド・ミュージック、無国籍、ディスコなど、時代のイコンとがっちりオーヴァーラップするサウンドが、旧来のファンの度肝を抜き賛否両論を巻き起こした。
A 面は、ブリューのギターがあまりにも有名な「Elephant Talk」から、超絶バッキングに加えて微妙なヒネリとキャッチーさが魅力のヴォーカル曲「Frame By Frame」、そして、旧来ファンをくすぐるヘヴィ・チューン「Indiscipline」らが並び、確かに衝撃的。
B 面は、ポリリズム、ギター・シンセサイザーなどを用いたエクスペリメンタルな音で迫り、終曲「Discipline」にて止めを刺す。
メタリックでありながらも奇妙なエキゾチズムによって丸みを帯びた音のイメージが、この終曲のぶつっと切れるエンディングを経ると、やおら剥きだしの金属のような、非人間的で凶暴な感触で甦る。
やはり KING CRIMSON の音なのだ。
プロデュースはグループと ROXY MUSIC や CAMEL で有名なレット・デイヴィズ。
同年初来日。
ところで、本作を特徴づけるフレーズ反復によるミニマル的なアプローチについて、スティーヴ・ライヒの「Counterpoint」シリーズや「18 人の音楽家のための音楽」との関わりがあったのかどうか、興味あるところです。
本アルバムからは 4 曲がシングル・カット(7 インチと 12 インチ)されている。
「Elephant Talk」(4:41)シングルカット。
「Frame By Frame」(5:07)人間シーケンサ。
「Matte Kudasai」(3:47)最初のシングルカット。
「Indiscipline」(4:32)シングルカット。
「Thela Hun Ginjeet」(6:25)シングルカット。タイトルは「Heat In The Jungle」のアナグラム。
「The Sheltering Sky」(8:21)
「Discipline」(5:01)テクニカル・ダンス・チューンの傑作。
(POLYDOR 28MM0064)
Robert Fripp | guitar |
Adrian Brew | guitar, drum, lead vocals |
Tony Levin | bass, stick, synth, vocals |
Bill Bruford | acoustic & electric drums, percussions |
98 年発表のアルバム「Absent Lovers - Live In Montreal 1984」。
80 年代 KING CRIMSON の総括としての意味が大きいであろう 1984 年のラスト・ツアーのライヴ・アルバム。
ライヴ盤としてはおそらく最高作だろう。
ブリューの MC で「今日がツアー最終日です」と入っており、80 年代 KING CRIMSON の事実上の最後の活動を記録している。
内容は、「Larks' Tongues In Aspic」から「Three Of A Perfect Pair」まで 80 年代のレパートリーをほぼ網羅しており、どちらかといえば、ヘヴィな混沌よりもタイトな明快さを重視した演奏である。
オープニングから「Larks' Tongues In Aspic Part III」を経て、しばらくは、凶暴ながらもややライトなタッチの演奏(今思えば、確かに "ニューウェーヴな KING CRIMSON" なのである、「Red」ですら)が続くが、「Industry」から「Dig Me」辺りで最初のクライマックスが訪れ、CD 一枚目最後の「Indiscipline」では、火のついた、ほとばしるような演奏を聴くことができる。
この曲が、音楽的にアルバム「Islands」の流れにあることを今回初めて気がついた。
二枚目は、MC から始まり、1 曲目からフリップが大爆発。
きわめて 80 年代的なバックをしたがえた奔放なソロである。
「Frame By Frame」はもはや自家薬籠中、安定感と疾走感を備えた名演だ。
うっすらラテン風味を漂わせるヴォーカル曲に続き、「Sleepless」はダイナミックなリズム・セクションが突出する内容。
この二人の、この音が 80 年代 KING CRIMSON なのだともいえる。
メロトロンの轟音と刃物のようなギター。
「Lark's Tounges In Aspic(Part II)」も重さよりも凶暴なスピード感を突きつけてくる。
自ら葬り去るときの最後の輝きが、スタイリッシュな美しさをもつのは、今回も同じ。
CD 二枚組。
エンハンスド仕様。
「Entry Of The Crims」(6:27)
「Lark's Tounges In Aspic(Part III)」(5:05)
「Thela Hun Ginjeet」(7:07)
「Red」(5:49)
「Matte Kudasai」(3:46)
「Industry」(7:31)
「Dig Me」(4:00)
「Three Of A Perfect Pair」(4:31)
「Indiscipline」(8:14)
「Sartori In Tangier」(4:40)
「Frame By Frame」(3:58)
「Man With An Open Heart」(3:45)
「Waiting Man」(6:26)
「Sleepless」(6:08)
「Lark's Tounges In Aspic(Part II)」(7:55)
「Discipline」(5:04)
「Heartbeat」(5:15)
「Elephant Talk」(8:56)
(DGM9804)
Robert Fripp | guitars |
Adrian Brew | guitar, voice, words |
Trey Gunn | stick |
Tony Levin | basses, stick |
Pat Mastelotto | acoustic & electric percussions |
Bill Bruford | acoustic & electric percussions |
94 年発表のアルバム「Vrooom」。
91 年の「復活宣言」から三年、ようやく発表されたアルバム。6 曲で 30 分あまりのミニ・アルバムではあるが、ひさびさの新作である。
リズム・セクションを強化した六人編成は、グループによれば、「ダブル・カルテット」と呼ばれる。(そういえば、クラシックでも二つの弦楽アンサンブルを合わせたダブル・ストリングス編成がある)
作風は、80 年代よりも 70 年代の「Red」に近いメタリックでへヴィ、アナーキーなインストゥルメンタルにフリップらしい空間系の音処理を加えたもの。
ギターのモティーフは、あいかわらず個性的、いいかえると「超絶ワンパターン」である。
新鮮なのは、二つのドラムスが応答速度の速い即興風のインタープレイを見せるところ。
ブリューによる歌詞やタイトルにはいま一つセンスが感じられないが、陰鬱で鈍く光るサウンドには KING CRIMSON らしい魅力がある。
個人的には、次のフルレンス・アルバムよりも聴く機会が多い。
「Vrooom」(7:16)「Red」、「Discipline」からの展開というべきへヴィ・チューン。新たなファン獲得を狙ってか、HR/HM への迎合も若干感じられる。スペーシーな叙情性は微妙。
「Sex, Sleep, Eat, Drink, Dream」(4:42)
「Cage」(1:35)「太陽と戦慄」超絶ギターがバッキングするテクニカル・パンク。個人的にはたいへん好き。
「Thrak」(7:18)アナーキーでデンジャラスな力作。錯綜するビートをフィーチュアしたへヴィかつデジタルな感触のサウンド。
「When I Say Stop, Continue」(5:18)即興でしょう。
「One Time」(4:28)
(PCCY-00630)
Robert Fripp | guitars, soundscapes, mellotron |
Adrian Brew | guitar, voice, words |
Trey Gunn | stick, backing vocals |
Tony Levin | upright & electric basses, backing vocals |
Pat Mastelotto | acoustic & electric percussions |
Bill Bruford | acoustic & electric percussions |
95 年発表のアルバム「Thrak」。
91 年の再結成宣言以来、ベスト盤やボックス・セット等の発表はあるものの肝心の新譜が発表されず、ファンをやきもきさせたが、ミニアルバム「Vroom」を経て、遂に新新生 KING CRIMSON がヴェールを脱いだ。
「Vroom」からの作品を再アレンジした、強烈なインストゥルメンタルを中心にしたアルバムである。
ミューア/ブルフォード以来のツイン・ドラムスを含むダブル・トリオ(ジャズでは、オーネット・コールマンによるダブル・カルテットがあった)という変則的なフォーメーションは、メタリックな凶暴さと冷ややかに醒めた空気を生み出し、80 年代 KING CRIMSON に通じる感触をもちつつも、ヘヴィなリフを前面に押し出したインストゥルメンタルと飛躍的に質の上がったヴォーカルから、グループがそこよりもさらに成長を遂げていることが分かる。
荒々しくも個性的なギター・ワークとスティック、メロトロンの繰り出す淡い色彩のメロディのコントラストが、非常に印象的だ。
オープニングの「Vroom」は、本アルバムのサウンドの中核をなす、「Red」的な強烈なリフが激しく自己主張するヘヴィ・メタリック・チューン。
アルバムのラストにも「Vroom Vroom」として、さらに「Vroom Vroom Coda」としても、たたみかけるように変奏される。
3 曲それぞれに特徴のあるヘヴィなインストゥルメンタルだ。
オープニングとエンディングがループを成し、エンドレスな世界を描くというのは古来お約束の手法だが、ヴァリエーションに富んだ本作では、なかなか効果的ではないだろうか。
また、「Dinosaur」は、アグレッシヴなヴォーカルとヘヴィなギター、メロトロンの重々しい響きがすべて現れ、KING CRIMSON サウンドの一種総括である名作。
そして、ツイン・ドラムスをフィーチュアした「B'Boom」を序章にして突入するタイトル曲「Thrak」は、ダブル・カルテットが明確に機能するインダストリアル・ミュージック風の作品。
重なり合う幻惑的なドラム・ビートによる恐るべきインタープレイが繰り広げられる。
90 年代 KING CRIMSON の新生面を見せる作品だ。
6 分以上の曲が一つのみ、というのも時代を意識してのことなのかもしれないが、曲の配置と間のつなぎが巧みであることで、全体を通した大きな流れ/雰囲気が感じられる。
したがって、一気に聴くことができる。
難点は、後半のヴォーカル曲でのギター・プレイが、音響処理も含め、やや単調なことだ。
さらに興味深いのは、ヴォーカル曲に漂う 60 年代サイケデリックの空気感である。
これは一体どこからきたのだろう。
パーカッシヴで引き締まったリズム・セクションと、アナーキーでヘヴィなギターの生み出す強烈なアタック、ヴォーカルとスティック、メロトロンの漂わせる乾いた叙情が、やはり KING CRIMSON 以外の何者でもない音楽を創り上げている。
「Vrooom」(4:37)
「Coda: Marine 475」(2:41)
「Dinosar」(6:35)
「Walking On Air」(4:34)
「B'Boom」(4:11)
「Thrak」(3:58)
「Inner Garden I」(1:47)
「People」(5:53)
「Radio I」(00:43)
「One Time」(5:21)
「Radio II」(1:02)
「Inner Garden II」(1:15)
「Sex Sleep Eat Drink Dream」(4:48)
「Vrooom Vrooom」(5:37)
「Vrooom Vrooom: Coda」(3:00)
(PCCY-00700)
Robert Fripp | guitars, soundscapes |
Adrian Brew | guitar, voice |
Trey Gunn | touch guitar |
Tony Levin | basses, stick |
Pat Mastelotto | acoustic & electric drums & percussions |
Bill Bruford | acoustic & electric drums & percussions |
2001 年発表のアルバム「Vrooom Vrooom」。
「ダブル・トリオ」期の秀作ライヴ・アルバム。
95 年のニューヨーク公演、および 96 年のメキシコ・シティ公演を収めた CD 二枚組である。
メキシコ公演側では、ひさしぶりの「21 世紀の精神異常者」をはじめ、70 年代の作品の演奏が非常に充実している。(「21 世紀」が始まったときの、一瞬呆気に取られた後に湧きあがる歓声の凄まじいこと!)
「Part II」は「The Talking Drum」に続いて始まるし。
一方、ニューヨーク公演側では、80 年代の作品を大きく取り上げている。
しかし、ニューヨーク公演側で最もすばらしいのは、「Thrak」である。
なんというか UNIVERS ZERO を思わせる緊張感とアヴァンギャルドなセンスが際立ち、非常に新鮮なのだ。
ここから THE BEATLES の「Free As A Bird」への展開はなかなか感動的だ。
すべての演奏がパワフルであり、轟音がヴェニューを揺るがしている様が手に取るように分かる。
強化されたリズム・セクションが最大の効果を発揮したのは、やはりライヴであった。
特異な編成による演奏ではあるが、KING CRIMSON のガチのプレイの迫力を味わいたい向きにはお薦め。
Live In Mexico City
「VROOOM VROOOM」(5:01)
「Coda : Marine 475」(2:44)
「Dinosaur」(5:05)
「B'Boom」(4:51)
「THRAK」(6:39)
「The Talking Drum」(4:03)
「Larks' Tongues In Aspic (Part II)」(6:13)
「Neurotica」(3:40)
「Prism」(4:24)
「Red」(7:03)
「Improv : Biker Babes Of The Rio Grande」(2:27)
「21st Century Schizoid Man」(7:37)
Live In New York City
「Conundrum」(1:57)
「Thela Hun Ginjeet」(6:44)
「Frame By Frame」(5:12)
「People」(6:12)
「One Time」(5:52)
「Sex Sleep Eat Drink Dream」(4:55)
「Indiscipline」(7:16)
「Two Sticks」(1:50)
「Elephant Talk」(5:14)
「Three Of A Perfect Pair」(4:16)
「B'Boom」(3:47)
「THRAK」(6:43)
「Free As A Bird」(3:03)
「Walking On Air」(5:35)
(UICE9070/1)
Robert Fripp | guitar |
Adrian Brew | guitar, vocals |
Trey Gunn | touch guitar, baritone guitar |
Pat Mastelotto | drumming |
2000 年発表のアルバム「The ConstruKction Of Light」。
順列組み合わせ的な分派プロジェクトを経て、四人編成で録音された作品。
冒頭から 80 年代以降の KING CRIMSON に共通するヘヴィなまろやかさというべき独特の黒光りを放つテクニカル・サウンドが炸裂し、期待は裏切られない。
タイトル曲に代表される、二つのギターが地滑りのように巨大な断層を形成してゆく 80'CRIMSON を総括するような演奏や、ブリューのダルなヴォイスとヘヴィ・メタリックなギターが絡みあうデカダンスあふれるムードなど、もともとの芸風にモダンな要素を取り入れている。
剃刀のようにテクニカルな切れと不器用に叩きつけるような表現が同時に現れるところなど、この芸風は「オルタナ KING CRIMSON」と呼んで差し支えないだろう。
今回はメロトロンは使われておらず、キーボード風の音もすべてギター・シンセサイザーによると思われる。
リズムはシュアーでタイトであり、打ち込みに生々しく凶暴なニュアンスを持たせている。
ワイルドにして正確無比な打撃技は、「Lark's Tongues」でのブルフォードをグレード・アップしたような感じだ。
特に、タイトル曲におけるドラムンベースが新しく、カッコいい。
また、今回の呼びものである「FraKctured」と「Lark's Tongues In Aspic-part IV」は、それぞれ過去の名曲の大胆かつフィージブルな翻案だ。
前者は、かつての当意即妙かつ凶暴な即興演奏のインパクト以上に精密なフラクタル構造が強くイメージされる。
主役は完全にギター・アンサンブルであり、フリップの変則アルペジオ/リフの応酬である。
このフル・ピッキングによる変則アルペジオは、エレクトリック・ギターの技巧としてもはやスタンダード化しつつあるような気がする。
メカニカルで怜悧なタッチとともに不思議なリリシズムすらたたえているところがすごい。
後者は、インパクトとドラマチックな展開という意味では前者を凌ぐ名演。
迸るようなソロの応酬からコーダへの流れはかなり感動的だ。
そして最終曲はプロジェクト名義の作品。
アンビエントなサウンド・スケープを切り裂くようにヘヴィなアンサンブルが疾駆する。
全体に、デンジャラスにしてアブストラクトな音像の迫力は前作ほどではないものの、ギターのフィーチュア度合いとパンキッシュなスタンスには原点回帰のパワーを感じる。
唯一残念なのは、あっと驚くような新たな方向性があまり感じられないこと。
タイトル曲をはじめ、「81 年」周辺のイメージがつきまとう。
我ながらファンとは身勝手なものであると思う。
個人的には、81 年以降の音楽的集約、成果のようなタイトル曲がベスト。
この内容は、アメリカ人メンバーによる、ロバート・フリップをゲストに迎えた KING CRIMSON 変奏カバー集といえなくもない。
「ProzaKc Blues」(5:29)
「The ConstruKction Of Light」(8:39)"DISCIPLINE" CRIMSON の再構築。
「Into The Flying Pan」(6:54)
「FraKctured」(9:06)
「The World's My Oyster Soup Kitchen Floor Wax Museum」(6:22)
「Lark's Tongues In Aspic-part IV」(9:07)
「Coda: I Have A Dream」(3:56)
「Heaven And Earth」(7:46)ProjeKct X の演奏による作品とクレジットされている。
(Virgin Records America 7243 3 49261 2 0)
Adrian Brew | guitar, vocals |
Robert Fripp | guitar |
Trey Gunn | touch guitar, bass, talker |
Pat Mastelotto | electronic drumming |
2000 年発表のアルバム「Heavy ConstruKction」。
「The ConstruKction Of Light」プロモーションのためのヨーロッパ・ツアーのライヴ・アルバム。
約五週間でヨーロッパの二十都市を回るというかなりヘビーな日程のツアーだったようだ。
にもかかわらずインダストリアルで硬質なサウンドに基づいたパフォーマンスは充実している。
ただし、いくつか収録された即興演奏がアルバム収録曲よりもはるかにいい。(「Lark's Tongues In Aspic-part IV」も健闘はしているが)
特に CD 一枚目の「Improv: Munchen」は手に汗握る迫力ある名演。
個人的にはソロをフィーチュアした即興よりも音が一点に集中するような高密度のトウッティにより魅せられる。
オリジナル曲においても拡張されたインスト・パートの音が強く緊迫感も高いと思う。
日本公演のアンコールでも演奏された「Heroes」も入っている。
CD 三枚組。
(DGM0013)
Robert Fripp | guitar |
Adrian Brew | guitar, vocals |
Trey Gunn | warr guitar, fretless war guitar |
Pat Mastelotto | traps, buttons |
2003 年発表のアルバム「The Power To Believe」。
「Nuovo Metal」なるキー・コンセプトの下、2001 年末の北米 Level Five Tour および近年得意の先行ミニ CD で感触をつかみつつ、万を辞して発表された新作。
たゆまざる「訓練」の賜物である超絶技巧を駆使しつつも、前作で顕著だったセルフ・カヴァー的な面はなく、技巧を明快な曲想に活かした好アルバムとなっている。
アクセスしやすさは前作を凌ぐだろう。
「Red」CRIMSON と「1981」CRIMSON の融合形としても、満足のいくものだ。
本作品でも、メインの大作を複数のパートに分けて起承転結を明確にする、という手法がとられている。
エイドリアン・ブリューのヴォーカルには二十年のキャリアからだけではない存在感がある。
マステロットのドラミングは現代的であると同時にビル・ブルフォードの面影をしっかりと引き継ぎ、ガンのディストーション・ベースにもウェットンを思い出させるプレイがある。
アグレッシヴにしてシンプルなカッコよさにあふれる 2 曲目、「かもめの歌」のオーボエをを思わせるプロローグ/エピローグをもつ 4 曲目、KING CRIMSON 流オルタナティヴ・ギターロックともいうべき 6 曲目(「Sailor's Tale」や「Part.2」を思わせる凶暴なストロークが圧巻)、プログレな緊迫感あふれる 8 曲目など聴きどころは多い。
ワールド・ミュージック的な要素や、ギター・シンセサイザーによる透明感ある音など、フリップのソロに近い叙情的な表現もある。
安定したラインナップによる着実な作品作りの結実といえるだろう。
フリップ本人はどう思っているか知らないが、本作品はプログレッシヴ・ロックらしい作品だと思う。
「The Power To Believe: A Cappella」(0:44)砂塵にかき消されたような絶唱。
「Level Five」(7:18)複合変拍子、人力ループ・アンサンブル、Dim/Aug、トライトーンなど「のれん」を守りつつもアナーキーな牙も剥く佳作。ブルフォードがドラムス叩いたらどうなっていたことでしょう。
「Eyes Wide Open」(4:09)エロティックな趣ある 80 年代な歌もの。大人向け。
「Elektrik」(8:00)疾走感とほのかにファンクなノリがカッコいい名作。
「Facts Of Life:Intro」(1:39)
「Facts Of Life」(5:06)
「The Power To Believe II」(7:44)
「Dangerous Curve」(6:43)まあ古い曲となぞらえてばかりもアレですが、「Talking Drum 」の緊迫感なんですね。ブルフォードがドラムス叩いたらどうなっていたことでしょう。
「Happy With What You Have To Be Happy With」(3:18)
「The Power To Believe III」(4:09)
「The Power To Believe IV: Coda」(2:29)
(VIRGIN AMERICA 7243 8 49261 2 0)
Robert Fripp | guitars |
Ian McDonald | flute, sax, clarinet, keyboards |
Greg Lake | bass, lead vocals |
Michael Giles | drums, percussion |
Peter Sinfield | words, illumination |
97 年発表のアルバム「Epitaph Official Bootleg: Live In 1969」。
最初期メンバーによるライヴ録音の正式版。
BBC スタジオライヴとニューヨークのフィルモア・イースト、サン・フランシスコのフィルモア・ウエストの三種の音源から構成される。
アルバム・テイクとは微妙に異なるアレンジ、歌詞、そしてインプロヴィゼーション・パートを楽しめる。
バンドとしてのアンサンブル、マクドナルドの管楽器、ジャイルズのドラミング、レイクの高音部を多用する攻撃的なベースと美声の歌唱はとにかくみごと。
ギターはアドリヴこそ後のレベルに達していはいないが、バッキングやアンサンブル内でのバランスはすばらしい。
それにしてもライヴでもこれだけ均整の取れた緻密な演奏ができたとは、驚異としかいいようがない。
CD 二枚組。
プロデュースは、デヴィッド・シングルトン。
個人的に、メロトロン以上にファズ・ギターが独特の広がりある音を作っていると感じた。
BBC ラジオ・セッションより。
「21st Century Schizoid Man」(7:06)
「In The Court Of The Crimson King」(6:27)
「Get Thy Bearings」(5:59)ドノヴァンのカヴァー。(「The Hurdy Gurdy Man 」収録)
ブートではおなじみでした。ほぼ原曲のイメージであり、サックスのオブリガートは後にそのまま「Sailor's Tale」(「Pictures Of A City」もか?)に取り入れられる。
「Epitaph」(7:08)
フィルモア・イースト 1969 年 11 月 21 日録音より。
「A Man, A City」(11:41)スタジオ版では「Pictures Of A City」というタイトルになった。
「Epitaph」(7:42)
「21st Century Schizoid Man」(7:16)
フィルモア・ウエスト 1969 年 12 月 14 日録音より。
「Mantra」(3:47)編集の妙で前曲から違和感なくつながっている。この出来にライナーではフリップ氏が「一瞬で東海岸から西海岸に移動した」とご満悦。さんざめくライド・シンバルとフォーキーなギター・プレイ、ミスティックなフルートが印象的なインストゥルメンタル小品。
「Travel Weary Capricorn」(3:15)前曲の雰囲気をややジャジーにした小品。ヴォーカルはマイケル・ジャイルズ。
フルートはここでも鋭いインプロを披露。ギターはジャズのバッキング。
「Improv - Travel Weary Capricorn」(2:23)スパニッシュ・ギターで始まるラテン風の即興。ギターは 2 本入っているようなので、レイクかマクドナルドが演奏しているのだろう。奇妙なノイズはメロトロン?
「Mars」(8:53)スタジオ版では「The Devil's Triangle」というタイトルになった。モチーフはグスタフ・ホルストの「惑星」より「火星」。魔術めいたパワーのある怪曲。荒野を吹きすさぶ風のようなメロトロン。
フィルモア・ウエスト 1969 年 12 月 16 日録音より。
「In The Court Of The Crimson King」(7:13)
「Drop In」(5:14)スタジオ版では「The Letters」というタイトルになった。
ジャジーなブリッジがおもしろい。「And live to die another day」という歌詞があるが、慣用句なのだろうか。レイクがブルース・シンガーとして熱唱。
「A Man, A City」(11:19)フリー・ジャズっぽい尾篭なブロウと逸脱調のインタープレイが強烈。破格。
「Epitaph」(7:31)
「21st Century Schizoid Man」(7:37)「これはお前らのことだ」と聴衆のアメリカ人に言い放っての本曲。ギター・ソロはここでもスタジオ盤ほどの冴えを見せない。
「Mars」(9:42)
(PCCY-01087)
Robert Fripp | guitars |
Ian McDonald | flute, sax, clarinet, keyboards |
Greg Lake | bass, lead vocals |
Michael Giles | drums, percussion |
Peter Sinfield | words, illumination |
97 年発表のアルバム「Epitaph Volumes Three & Four」。
前作に続くライヴ・アーカイヴ発掘盤。
二箇所のライヴをそれぞれ CD 一枚に収めている。
レパートリーはほぼ同じなので、曲の成長、変化やアドリヴの調子を楽しむべき内容である。
CD 二枚組。
プロデュースは、デヴィッド・シングルトン。
彼が、複数のブートレッグから場所によっては小節単位で修復作業を重ねて、リスニングに耐えるレベルの楽曲の体裁を整えたらしい。
1969 年 8 月 9 日プランプトン フェスティバルでのライヴ録音
「21st Century Schizoid Man」(7:37)ノーブルなレイクのヴォーカルが際立つ。
「Get Thy Bearings」(10:48)ドノヴァンの作品のカヴァー。テーマ部のへヴィなトゥッティは「Pictures Of A City」のイントロそのもの。中間部にデレク・ベイリーを荒っぽくしたようなギター・アドリヴ。
「In The Court Of The Crimson King」(7:02)ほとばしるメロトロン。フルートからメロトロンへと移るマクドナルドが忙しそう。サビの力強さはベースに負うところ大。
後半のフルート・ソロも溌剌としている。
ミステリアスかつロマンティックな名曲、名演である。
「Mantra」(8:48)アシッド・フォーク・ロック。のししかかる不安と切なる想い。
「Travel Weary Capricorn」(3:58)ジャジーな歌もの。ヴォーカルはマイケル・ジャイルズ。フルートのアドリヴは圧巻。
「Improv Including By The Sleeping Lagoon」(8:53)マクドナルドはサックスに持ち替え。「Happy Family」の断片も出現。
「Mars」(8:48)ホルストの作品「火星」のカヴァー。不器用で凶暴なギターと巨大な鞴のようなメロトロンがこれだけ似合う曲もない。
1969 年 9 月 7 日チェスターフィールド・ジャズ・クラブでのライヴ録音
「21st Century Schizoid Man」(8:22)インプロ部のテンションが高い。
「Drop In 」(6:37)改めて「21世紀」路線のストック作品であると感じた。
「Epitaph」(7:39)サルベージに苦労したのがよく分かる。それにしてもレイクは歌がうまい。メロトロンとフルートを持ち替える。
「Get Thy Bearings」(18:33)ドラム・ソロあり。
「Mantra」(5:40)繊細なフォークを根っこにもちつつも、へヴィ・ロック化。インストゥルメンタル。フルートとメロトロンを往復。
ハーモニクス好きのフリップ氏。
「Travel Weary Capricorn」(4:37)前曲からの続き。フォークからフォーク・ジャズへ。フルートが走り、ベースが攻める。
「Improvization」(4:32)ギターは「太陽と戦慄」の原型か。またも「Happy Family」が出現。
「Mars」(5:52)
(PCCY-01180)
Robert Fripp | guitars, mellotron |
John Wetton | bass vocals |
Bill Bruford | drums |
David Cross | violin, viola, mellotron |
97 年発表のアルバム「The Nightwatch」。
一部の音源がスタジオ・アルバムでも採用されていた 1973 年 11 月 23 日オランダ、アムステルダム、コンセルト・ヘボウでのライヴ録音。
後期 KING CRIMSON の「決定版」ライヴ盤でしょう。
しかし、「パート1」がなぜ入っていないのか、入っているのが筋ではないか、とどうしても思ってしまいます。
CD 二枚組。
エンジニアは、デヴィッド・シングルトン。
ミックスは、シングルトンとフリップ。
「Easy Money」(6:15)「Lark's Tongues In Aspic」より。
「Lament」(4:14)「Starless And Bible Black」より。
「Book Of Saturday」(4:08)「Lark's Tongues In Aspic」より。
「Fracture」(11:28)ギターがエチュードのようなテーマに固執するので、ディストーション・ベース、ワウ・ヴァイオリンの役割大。
終盤のアンサンブルの強固さに圧倒される。
「The Night Watch」(5:27)「Starless And Bible Black」より。
「Improv: Starless And Bible Black」(9:13)「Starless And Bible Black」より。
「Improv: Trio」(6:09)「Starless And Bible Black」より。
「Exiles」(6:37)「Lark's Tongues In Aspic」より。後期を代表するメロトロン・バラード。
「Improv: The Fright Watch」(6:03)
「The Talking Drum」(6:34)「Lark's Tongues In Aspic」より。
「Larks' Tongues In Aspic (Part II)」(7:51)前曲からのこの流れは守られている。「Lark's Tongues In Aspic」より。
「21st Century Schizoid Man」(10:40)「In The Court Of The Crimson King」より。
サックスなしヴァイオリン入りのアレンジ。ギターのアドリヴ・パートはコード・ストローク中心のプレイで始まり、ベースに触発されて一気にテンションが上がる。
ベースもアドリヴ・スペースを確保し、かなりうまいがジャズっぽくはない。
(PCCY-01177)
お薦めということでは、60-70 年代は全アルバムがベストといわざるをえない。
おそらく、まず「In The Court Of The Crimson King」か「Lark's Tongues In Aspic」から入って、その次へと進むのがよいでしょう。
前者から四枚は、強烈な決めのフレーズを核にし前衛ジャズ風の展開を見せるハードな作品と叙情的なヴォーカル曲、そしてメロトロンが大活躍のシンフォニックな作品という基本構成を持つ。
また後者以降は、インプロヴィゼーション中心のメタリックで前衛的なインストゥルメンタル作品と男性的な力強さを持ったヴォーカル曲が多い。
そして、不思議なことに、90 年代の作品の方が 80 年代の作品よりも 70 年代の音に近い、と感じる。これは僕だけだろうか。
僕にしては長い間聴き続けているグループのせいか、いくつか思い出めいたものもある。
スピーカを自慢するオーディオ・マニアの家で、サンプルとして「太陽と戦慄」をフルヴォリュームでかけた時のこと、イントロのパーカッションの金属音をバックにステレオの説明をしていた彼が息を呑むと同時に音が爆発し、壁にかけてあったコートが落ち、サッシのガラスがビリビリと震えた。
そして一階にいた家人が、何か爆発したのかと血相変えて飛び込んできた。
2003 年二年ぶりの新譜「Power To Believe」が発表され、ワールド・ツアーが行われた。