アメリカの鍵盤奏者「Herbie Hancock」。 70 年代中盤までの作品はプログレ。「Bitches Brew」に入れてもらえなかったので自ら同じようなのをやってみたようだ。SOFT MACHINE ファンはぜひ。
Mwandishi Herbie Hancock | piano, electric piano, Mellotron, percussion | Swahile Eddie Henderson | trumpet, flugelhorn, percussion |
Pepo Mtoto Julian Priester | bass & tenor & alto trombone, percussion | Jabari Billy Hart | drums, percussion |
Mchezaji Buster Williams | electric bass, bass, percussion | Mwile Bennie Maupin | soprano saxophone, alto flute, bass clarinet, piccolo, percussion |
guest: | |||
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Patrick Gleeson | Moog synthesizer | Victor Pontoja | conga |
Candy Love, Sandra Stevens, Della Horne, Victoria Domagalski, Scott Breach | voices |
72 年発表のアルバム「Crossings」。
前作「Mwandishi」とほぼ同じコンセプトによる前衛エレクトリック・ジャズロック。
シンセサイザーも使ったスペイシーでサイケデリックな音響による即興主体の演奏であり、「ジャズ」な瞬間もごく稀に訪れるが、基本は緩やかに自由に呼応しあう音響や反復が主体である。
「Bitches Brew」影響下の作品と思って間違いないだろう。
ただし、こちらの方が宇宙的、彼岸的な感覚と現代音楽的な性格をより強くもっていると思う。
その分、プログレッシヴ・ロックとしての背骨ができているのだ。
冒頭、アフリカンなパーカッションの乱れ打ちにエキゾティックなジャズ、黒人音楽といった展開を先読みしてしまうが、それはごく一部に過ぎない。
プログレ・ファンには、ややアフリカ風味が強調された初期 SOFT MACHINE、初期 WEATHER REPORT または、初期 NUCLEUS (3 曲目はモロ)と思ってほぼ O.K.
(もっと大胆にいうと「Moonchild」や「Lark's Tongues In Aspic」もあり)
こういう音楽的文脈でメロトロンがゴーっと鳴るとなんとも不思議な気持ちになります。
ハンコック自身はさらに先に進んでエレクトリックなファンクを極めてゆくが、英国のジャズロック・グループ(たとえば BRAND X など)は、この作品のインスピレーションを抱えたまま 70 年代を過ごしていたと思う。
個人的に、KING CRIMSON の新生に手を貸したような気がしている作品の一つです。
「Sleeping Giant」(24:50)
「Quasar」(7:27)いきなり現代音楽でスタート。この知的なクールネスは SOFT MACHINE そのもの。
「Water Torture」(14:04)最もプログレ的な作品。メロトロンもここ。
(WB 9362 47542-1 / WCPR-12753)
Mwandishi Herbie Hancock | piano, electric piano, Mellotron, clavinet, hand clap |
Mwile Bennie Maupin | soprano saxophone, alto flute, bass clarinet, piccolo |
Swahile Eddie Henderson | trumpet, flugelhorn |
Pepo Mtoto Julian Priester | bass & tenor & alto trombone, cowbell |
Mchezaji Buster Williams | electric bass, bass, |
Jabari Billy Hart | drums |
guest: | |
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Dr. Patrick Gleeson | ARP synthesizer |
Buck Clarke | congas, bongos |
73 年発表のアルバム「Sextant」。
内容は、エレクトリックな音とアコースティックな音をハイブリッドしたスペイシーでアブストラクトなクロスオーヴァー。
前作と同編成なるも音楽的にはスペイシーなフリー・ワールドにファンクな弾力が新たな要素として出現した。
メロトロンや反復、音響効果によって宇宙遊泳的なサイケデリック、プログレ・テイストは演出されているが、だらしないようで抑制のきいたアンサンブルがドラッギーな揺曳を振り払って軽妙なるノリを生み出している。
管楽器の即興やメロトロンの残響やシンセサイザーのひねくれた攻撃もこのグルーヴに押し上げられると別の表情を見せ始める。
新たに導入されたクラヴィネットによるファンキーで軽妙なリズム・ストロークも象徴的。
(余談だが、ブラック・ミュージックでエレクトリック・キーボードを最もよく使いこなし発展させたのは、ハンコックとスティーヴィ・ワンダーだと思う)
このクラヴィネットの使い方の変化がそのまま音楽の内容の変化につながったのではないだろうか。
アコースティック・ピアノも健闘するが、電気的なシグナルの生み出す特殊な音響がものすごいスピードでジャズに感染しつつある中、やや肩身が狭そうだ。
また、リズム・セクションがさほど強靭ではないために却ってふわふわと漂流するような効果が生まれているともいえそうだ。
ファンクな弾力に押し切られないのはそのためだろう。
次作の内容を考えても、本作品はサイケ/プログレからファンク・ジャズへの過渡期という位置付けになりそうだ。
もちろん、SOFT MACHINE ファンにはお薦め。
管楽器群やピアノが現れるシーンでは Keith Tippett のビッグ・バンドに通じる味わいもある。
全編インストゥルメンタル。プロデュースは、デヴィッド・ルービンソン。
「Rain Dance」(9:16)エレクトリック・ピアノとダブル・ベースのコンビネーションから、チック・コリアとロイ・バビングトンが共演しているようなスペース・ジャズロック。
後半はクラウト・ミュージック寄りの展開へ。
この辺りのシンセサイザー演奏はゲストのパトリック・グリーソン氏によるらしい。
エディ・ヘンダーソンのトランペットがもろにマイルスなのもおもしろい。
「Hidden Shadows」(10:11)クインシー・ジョーンズのようなブラコンに KING CRIMSON なメロトロン・ストリングスが刺さるという、想像できなかった世界。後半の現代音楽調のピアノ・アドリヴもカッコいい。酔いどれファンク・ジャズ。
「Hornets」(19:35)クラヴィネットのコード・ストロークを活かしたファンクな電化ジャズ。
タイトルは、クラヴィネットの多用からきていると思う。
管楽器やエレクトリック・ピアノらのギトギト感はマイルス-「Bitches Brew」-ディヴィス的。
終盤には、ファンキーなノリだけではない決然と正面を向いたジャズロックの味わいもある。
ベースはかなり MAGMA。
(CK64983)
Herbie Hancock | Fender Rhodes, Horner D6 clavinet, ARP Odyssey synthsizers, ARP Soloist synthesizer, pipes |
Bennie Maupin | soprano & tenor sax, saxello, bass clarinet, alto flute |
Paul Jackson | electric bass, marimbula |
Harvey Mason | drums |
Bill Summers | percussion |
73 年発表のアルバム「Head Hunters」。
内容は、スペイシーで技巧的なエレクトリック・ファンク・ジャズ。
ハンコックのエレクトリック・ピアノの即興を中心に、クラヴィネットのコード・カッティング、鋭くも弾力あるリズム・セクションが生むリズミカルなグルーヴを強調した演奏である。
反復によるサイケデリックな酩酊感や音が重なったり増えたりしてもヘヴィにならない「軽妙さ」も特色である。
スタイルを特徴つけるのは、パーカッション的な役割を果たしているクラヴィネット、メカニカルにしてコミカルなシンセサイザーのリフだろう。
この反復とリズム重視のスタイルがメロディアスなアンサンブルをより一層際立たせる。
ブラス・ロックやビッグ・バンドの太くパンチのあるグルーヴをコンパクトでスペイシーにデフォルメした感じもある。
アンダーグラウンドの FUNKADELIC、大メジャーのスティーヴィ・ワンダー辺りからの影響も色濃い。
思い切り R&B、ファンク寄りの SOFT MACHINE に聴こえるところも多い。(クラヴィネットがなかったら区別がつかないかもしれない!)
ただし、息も詰まりそうな性急さに理知や気負いが一切なく、ただただすなおな快楽追求のための動作になっているところが大きく異なる。
全編インストゥルメンタル。プロデュースは、ハンコックとデヴィッド・ルービンソン。
大ヒットしたようです。
「Chameleon」(15:40)
「Watermelon Man」(6:29)
「Sly」(10:19)
「Vein Melter」(9:10)
(KC 32731 / CK47478)
Herbie Hancock | Fender Rhodes, Horner D6 clavinet, ARP synthesizers |
Bennie Maupin | soprano & tenor sax, saxello, alto flute, bass clarinet |
Paul Jackson | electric bass |
Mike Clark | drums |
Bill Summers | percussion |
74 年発表のアルバム「Thrust」。
大傑作「Head Hunters」の続編。
内容は、無表情なまま凄まじいキレでグラインドするリズム・セクションとスペーシーなキーボード・サウンドによるリズミカルかつミステリアスなファンク・フュージョン。
ジャズ、R&B やファンクのセクシーで肉感的なグルーヴをエレクトリック・サウンドによる人工的なタッチから作り上げている。
ただし、前作の、コミカルな軽妙さはなく、パーカッションや小刻みなビートによる反復にも精緻で整ったイメージが先立つ。
現代のハウス・ミュージック的な抽象性、無機性が強まり、本来熱っぽいはずのファンク、ソウルとは対照的なクールさがある。
そのクールネスが再びジャズとの接点を見出して、音楽をルーズな毒気のあるサイケデリック・ロックではなく、タイトなジャズロック、フュージョン側へとシフトさせている。
これは、一つには、クラヴィネットではなくベースとドラムスがグルーヴの源として存在感を強めているせいである。(2 曲目のように一点集中したときのマイク・クラークのプレイが凄い!)
エレクトリック・ピアノのアドリヴも、エレクトリックなファンクの嵐の中でジャズ・スタイルを保っていた前作と比べると、ストレートなビートに煽られたようにファンク、ジャズロック側に寄ってきている、つまり、プレイがリズムをより重視している。
テンション高く一気に収束してゆくスリリングなアンサンブルは、本作品の醍醐味だろう。
ジャズロック。フュージョンの秀作としてみるべき作品である。
強靭で弾力あるリズムによる引き締まった演奏は、原色ファンクの海に沈みがちな、ストリングス・シンセサイザーやフルートらによるファンタジックな演出を効果的に引き立てる。
いったんジャズロックへと接近すると、そういったメローなシーンも「ソウル」ではなく「フュージョン」に思えてくるから面白い。
グルーヴィだがメカニカルなイメージが強い中、バーニー・モウピンのフルートが非常にいいアクセントになっている。
そして、とにかくジャクソンとクラークのリズム・セクションが一聴の価値あり。
グイグイうねるベースは、時として MAGMA 風ですらある。
全編インストゥルメンタル。プロデュースは、ハンコックとデヴィッド・ルービンソン。
「Palm Grease」(10:37)冒頭、スティーヴィ・ワンダーかと思いました。
「Actual Proof」(9:40)スリリングなジャズロック。
「Butterfly」(11:17)美しい名曲。
「Spank・A・Lee」(7:12)
(CK64984)